≪横島≫
「さぁ、いよいよ準決勝第一試合が始まります。まずは【ヨーロッパの魔王】の名を存分に知らしめる活躍を見せておりますドクター・カオス選手。対しましてはバンパイア・ハーフにして神の力を振るうピエトロ・ド・ブラドー選手。大会屈指の好カードにして異色の決戦となりました。どう見ますか?厄珍さん」
「純粋に戦力比で見ればピートの方が有利ある。ピートはその能力を存分に発揮できるのに対し、カオスの方は使用できる道具が一つであることでかなり行動が制限されるあるし、マリアは強力あるがカオス自身は科学者あるからどうしても動きが見劣りしてしまうある。……でも、そんなことはカオス本人もわかってるだろうし、それに対してどんな解決策を示すか凡人には理解できないあるからな」
厄珍の見方は案外的確だな。
金さえ絡まなければ。
「横島さんはどう見ますか?」
「ん~。多分カオスだろうな」
「そうなのですか?」
「ピートのやつは最近まで自らの能力を忌みながらプライドも捨てきれずどっちつかずでこれまで暮らしてきた。対してカオスはここ200年ばかりは痴呆がひどくて空白の期間といってもいいが、それ以前は自らの頭脳と才能を信じ研鑽し続けてきた。言い方は悪いが自分の能力に胡坐をかいて無為に700年生きてきたピートよりも1000年間研鑽し続けたカオスの方がここ一番の勝負どころは掴んでくるだろうからな」
『いきます!』
『マリア、迎撃だ』
『イエス。ドクター・カオス』
先に突っかけたのはピートだった。マリア目掛けて一気に突進する。
その体が瞬時に霧と化してマリアをすり抜けた。そのままカオスに目掛けて強襲する。
『マリア!』
『イエス。ドクター・カオス』
マリアの指作から青の線が放たれる。
ピートはカオスへの攻撃をあきらめ今一度霧と化すと結界の天井付近に逃げた。
『ほう、いい勘をしているな。火器は使えないものでね、ウォーターカッターを搭載させてもらった。最も中身は水ではなく精霊石の溶液だがね』
ピートは使い魔の蝙蝠を呼び出して牽制をすると空中から神への言葉をささげる。
『主よ、聖霊よ! 我が敵を打ち破る力を我に与えたまえ! 願わくば悪を為す者に主の裁きを与えたまえ……! アーメン!!』
「凄い。神聖なエネルギーと吸血鬼としての能力を完全に使いこなしている」
「いえ、まだまだ。もっと強くなりますよ。吸血鬼としての能力も、神聖なエネルギーの使い方もまだ師には遠く及ばない」
『やれやれ、洗礼を受けた吸血鬼の血縁がこうも厄介とはね』
防御はしてたといえかなりのダメージはおったようだ。
魔の血をひくとはいえ十字架や聖水は単純には弱点足りえないからな。
暫くはロケットアームとウォーターカッターを駆使するマリアが邪魔でカオスにピートは攻撃できず、ピートとマリアが直接ぶつかり合えばピートの方が腕力、スピード共に有利でありながらカオスの的確なサポートに責めあぐねていた。それでも何発かの攻撃はカオスに当たり、ピート有利に試合は運んでいく。
……だがやはりカオスの勝利か。
ウォーターカッターの発射回数が六回を越えた時点でカオスの術中にピートは嵌ってしまった。
『イケッ! ダンピールフラッシュ!』
『精霊石よ!』
カオスが試合場の床に手をついた瞬間試合場全体が眩い光に包まれた。
その光に動きが止められたところにマリアのロケットアームが命中して試合は決まった。
『勝負あり。勝者、ドクター・カオス』
「今のは……籠目!」
「そうです。もしくは六芒星、ダビデの星。世界で最もポピュラーな魔方陣の一つですね」
「いつの間にあんなものを?」
「ウォーターカッターですよ。ピートを迎撃するように見せかけてカオスはマリアに六芒星を描かせていた。ばれないようにロケットアームを織り交ぜながらね。材質は精霊石の溶液ですから洗礼を受けているとはいえ魔の血を引くピートの動きを止めるには十分だ」
メドーサにニコリと微笑むと不機嫌そうな顔をしてフンと鼻を鳴らした。
「……もうすぐ準決勝だけど、あんたのお友達は私の手下がもぐりこんでいるって言う証拠を見つけられないようね。ま、もっともそんなの見つかる分けないと思うけど」
「……いいえ、私の友人たちは必ずあなたの不正を暴いて見せるわ!」
「鼻っ柱の強いこと。ありもしないものが見つかるはずはないのよ」
「どのみち、今日を逃せばG・S全体の信用は下がってしまうのでね。逃げられる可能性も高くなる。そんなことはこちらも百も承知だ。……人間を毛嫌いするのは勝手だが、侮ると痛い目を見るぞ?」
「人間風情に何ができるっていうのさ?」
「結構いろいろなことができるものだ。……お前らが切望している世界の破滅も可能かも知れんぞ?」
……洒落にならんな。
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≪冥子≫
「冥子殿、お待たせいたしました。」
ゼクウさんが医務室にきたわ~。
「もうあんまり時間がないですよ~?」
「なに、さほど時間はかかりませぬ。それよりも早く大会実行委員の方でも読んできていただけますかな?」
「は~い。」
六道の家の名と人脈があってこそ私が呼んできて説明した方がいいっていってたものね~。
私が知り合いの大会委員のおじさんを医務室に連れてくると起き上がって大きな声がわめいていたわ~。
「メ、メドーサ様、後生です許してください。か、勘九郎やめてくれ~! 陰念助け、……や、やめ、いっそのこと他のやつみたいに石にしてくれ!」
「ほら~、やっぱり白龍会は裏で魔族と取引をしているっていったでしょう~?」
「むぅ、半信半疑だったらここまで名前が出ては信じざるをえないな。すぐに大会を中止せねば。六道さんは蜘蛛丸選手と陰念選手の身柄の拘束をお願いします」
「は~い」
おじさんは走って会場に戻っていきました~。
「あの~、ゼクウさん~。どうやって自白させたんですか~?」
「なに、昔とった杵柄と申しますかな。気はとがめましたが少々夢に干渉して勘九郎殿に寝所で襲われる悪夢を見てもらっただけです。……ゴホン。失礼」
え~と、何でわざわざベッドルームなんでしょうか~?
……とにかくお兄ちゃんに頼まれたことは完了でいいんですよね~?
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≪雪之丞≫
「あら、雪之丞。試合前に何の相談?」
「……昔馴染みの忠告だ。メドーサのことは知っているだろう?」
「!……………………メ、メドーサ? 何の話かしら?」
この反応だけでも状況証拠は十分だな。
「とぼけても無駄だ。ネタは上がっているんだからな。素直に認めて自首しろ。今なら脅迫されたっつう言い訳もできる」
「……フ……それで脅しをかけているつもりなの?」
チッ!
「あなただってくだらない正義感なんか無縁だったじゃない。G・Sは金になるいい仕事だわ。でも、妖怪や魔物があってこそ成立するビジネスだと思わない?」
「……何が言いたい?」
「害虫がいなくなってしまえば製薬会社は商売上がったりなのよ。こうまで言えばあなたでも理解できるでしょう?」
「……同門だった最後の情けだ。多少手荒い真似をしてもてめーを止めてやる」
「そう、じゃあいい試合をしましょうね。試合中に死人が出てもそれは事故ですもの。私を陰念や蜘蛛丸と一緒に考えないことね」
クソったれが!
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『さぁ、いよいよ準決勝第二試合。ここまで無傷で勝ち上がってきた白龍会の鎌田勘九郎選手。対するは横島除霊事務所の伊達雪之丞選手です。どちらも同じような戦闘スタイルのこの二人、どのようなバトルが繰り広げられますでしょうか?』
……潰す!