≪メドーサ≫
クズどもが! 勘九郎以外はG・S資格すら取れないとはね。
それにしてもあの横島除霊事務所の連中、クズにしてはいい動きをする。小竜姫への嫌がらせに白龍寺を使ったがあっちを使うべきだったかもね。
ん、小竜姫のお出ましか。
「……試合は?」
「どうやら三回戦のようですな」
隣にいるのも人間に化けているが神族か。
隠してはいるがかなり強い力を感じる。恐らく小竜姫と同程度。
……こんなところに。
いや、あの甘ちゃんの性格と、この場所ならまだ私のほうが有利だ。
「遅かったわね、小竜姫」
「……あなたがメドーサね」
「ふふふ……そんなに怖がることなくてよ。私は試合の見物に来ただけなのだから」
「……大胆な……お前がG・Sに手下を送り込もうとしているのはわかっているのよ! 白龍会の会長を石に変えたわね!?」
「何のことかしら? G・Sが妖怪にやられるのは良くあること……何の証拠になるの?」
……おや、剣を抜かない。
「……今この場での勝ちはお前に譲ります。ですが私が手を下せずともお前の望みは打ち砕かれる。それを忘れないことね」
感情を制御できるようになってる。
ちっ、からかいがいのない。
「ふむ。それでは某は何か飲むものと食べるものを買ってまいりましょう。小竜姫殿、メドーサ殿、何がよろしいですかな?」
「ウーロン茶と冷凍みかんをお願いします」
「オレンジジュースとポップコーン」
……あの神族、つかめない。
下手すれば小竜姫よりも厄介か?
「……一つ質問させてもらいます。お前は人間をどう思っているのですか?」
「……人間? 決まっているじゃない。下等なゴミよ」
そうだ、人間など下等なゴミに過ぎない。
「……その認識、今日で変わるかもしれませんね」
何?
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≪ピート≫
「居合いを相手にするのは初めてだったが、師匠や小竜姫、ゼクウに比べりゃ剣筋が粗いしどうということはなかったな。」
「いや、普通の人間と神族を一緒に考えるのはどうかと思いますよ? 彼女、九能市氷雅さんでしたっけ? かなりの腕だと思いますけど」
「師匠だって人間だぜ?」
「普通の、ですか?」
「……違うな。」
誇らしげに笑った。
「次はタイガーとの試合ですね」
「応、ようやくやりあって楽しめそうな相手と当たれるぜ」
雪之丞さんは好戦的な笑みを浮かべる。
本当に雪之丞さんは戦うのが好きなんだな。
「でも俺はお前と戦うのも楽しみにしてるんだぜ? カオスの爺さんも楽しそうではあるんだがな」
……横島さんたちは最初から僕を差別しなかった。だから僕も彼らのことを気にせずに親友と呼ぶことができる。700年という人生の中でもそれがどれほどありがたかったことか。
「タイガーも友達だから両方を応援させてもらうよ」
「あぁ。ま、見てろ」
『さぁ、ついに同門対決となりました。伊達雪之丞選手とタイガー寅吉選手の一戦です』
『面白い一戦と思うあるね。技術とスピード、霊力では雪之丞がまさってるあるけど、タイガーが人間離れしたパワーとタフネスでどこまで食い下がれるか、見物ある』
「行きますケン」
いきなり雪之丞さんが膝を着いた。タイガーの精神感応攻撃だ。
『おーっと、いきなり雪之丞選手膝を着いた。いったいどうしたことか?』
『そういえば聞いたことがあるね。タイガーは元々強すぎる精神感応能力の持ち主だったのをエミちゃんが能力を封印して使いこなせるようにするために弟子にとったと。恐らく精神感応能力で心理攻撃をかけているか、感覚器官が狂わされるかしているある』
『タイガー選手、恐ろしい隠し技を持っていた。雪之丞選手いきなりのピンチです』
確かに一対一、限られた空間内で戦う場合はタイガーの精神感能力は厄介な能力だ。
神族や魔族、あとは横島さん並みに精神が強ければ問題ないのかもしれないが。
だが、それは雪之丞さんにも最初からわかっていたはず。
「雪之丞さんが見ている映像、聞いている音はそれぞれ微妙にずらしてありますジャー。そのせいで雪之丞さんの三半規管は麻痺して立つこともかなわないケンノー」
単純に姿を隠すのではなく頭を使ってきたか。
これでは気配を探るのも難しい。
タイガーが立ち位置を変化させながらヒット&アウェイを冷静に繰り返した。
体当たりだけは大きく跳んで回避し、拳は動き回らず防御をする。
タイガーは何発も何発も拳を浴びせ、雪之丞さんは魔装術を出さずに防御を固めて耐え凌ぐ。
いったい何発目かわからないがタイガーの拳が防御が僅かに開いた雪之丞さんの顔面に浅く入る。
「つかまえたへー、ハイガー!」
誘いだったのか?
雪之丞さんは自分を殴った拳をやり過ごし、その腕に噛み付いた。
こうなっては三半規管を狂わせようが映像をずらそうが関係ない。腕に沿って攻撃すれば当たる。
「っらぁ!」
雪之丞さんの放った霊波砲を喰らってタイガーは吹き飛ぶ。
「勝負あり。勝者、伊達雪之丞」
『雪之丞選手、華麗に逆転です!』
「イチチチ、タイガーの野郎馬鹿力で思いっきり殴りやがって」
「お疲れ様。随分と楽しめたようですね?」
「まぁな。思わず何度も魔装術を使いそうになっちまったぜ」
こういうときは本当にいい笑顔で笑うな。
「さて、次はお前の番だぜ?」
「えぇ、親子二代で負けたくはないですからね。特に今回みたいなドクターに不利な条件ではね」
錬金術師のドクターにとっては道具の使用制限があるこの試合では実力が出せないはず。
マリアは強いが刃物は使えたとしても火器までは流石に使えない。
この条件で負けるわけにはいかないな。
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≪ゼクウ≫
「ふむ。皆様なかなか良くやっておられますな」
「そうですね。タイガーさんも雪之丞さんに比べて見劣りするかと思いましたが良く戦っていました」
「クズが何しようとクズには変わりないだろうに」
ぴりぴりした空気が張り詰めておりますな。まぁお互いを監視するためとはいえ小竜姫殿とメドーサ殿が傍にいては仕方ないのかもしれませぬが。
ちなみに並び準は右からメドーサ殿、某、小竜姫殿でございます。
「メドーサ殿、飲み終えたようですな。缶はこちらでまとめてお預かりしておきましょう」
「あぁ、……おまえ、神族のわりに妙に馴れ馴れしいね」
「ふむ。……某は神族に生まれて魔族に堕ちて、再び神族に出戻った変り種でございますからな。悪行もそれなりに重ねておりますし今更神族、魔族の垣根などたいして気になるものではございませぬ」
それにマスターがあのようなお方ですし。
「そちらの勘九郎殿も中々の腕前のようでございますな?」
「……クズにしてはね」
「いや、なんと言うか親近感がわきますな。某も魔族に堕ちていた時はあのような言葉遣いでございましたから。……まぁ、男色の趣味はございませんでしたが」
「ゼ、ゼクウ殿がですか?」
おや、随分驚かれますな。
「左様です。某もなぜあのような言葉遣いになっておったのかいまだにわかりませんが」
ふむ。自分でも本当にわかりませんな。
「ゼクウ、変わろうか?」
「おや、マスター。もうよろしいのですかな?」
マスターがこちらにいらした。おそらくメドーサ殿を近くで観察するためですな。
「あぁ、後続も着いたからな。あ、小竜姫さま、隣失礼します」
ふむ。ワルキューレ殿とジーク殿も戻られましたか。ならば戦力は十分ですな。
「あ、どうぞ」
「然らばマスター。某はあちらの方にいくとしましょう小竜姫殿、前を失礼いたします」
「ちょっと待て、その人間はお前の何なんだい!?」
「マスターは某の主にございます」
メドーサ殿に笑って見せると驚いたような表情を見せる。
さて、この布石がどう響きますかな?