≪小竜姫≫
あそこですね。皆さんがこぞって怪しいという解答を出した白龍寺は。
……あそこは元々私を別尊とする闘龍寺の末寺、複雑な心境ですね。
「妖気を感じるのね~。気をつけたほうがいいのね~」
「……ここが当たりのようですね。ヒャクメは私の後ろに。ゼクウ殿、行きますよ」
「委細承知!」
来る!
寺の障子を破壊しながらビッグイーター、邪悪で下等な魔竜の群れがこちらに向かって襲い掛かってくる。
間違いない。ここがメドーサの手下となっているのだ。
「マスターへの連絡を済ませました。後はここにいるものどもを屠るのみ」
あちらは横島さんがいますしどうとでもしてくれるでしょう。
私はヒャクメを庇いながらだから大きな戦果を上げられないが、ゼクウ殿とユリンが存分に駆逐してくれている。
ですが数が多いですね。足止め工作なのでしょうがほうっておくわけにもいきません。
初戦は後手に回ってしまいメドーサに軍配が上がりましたが最後に勝たせてもらいます。
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やはりそれなりに時間がかかってしまいましたね。急ぎましょう。
中に入るとおかしなポーズをとった僧が石像と化していた。
露骨過ぎる。罠か、こちらをおちょくっているのか。
「ヒャクメ、お願い」
「……白龍会の会長に間違いないのね~。おかしな仕掛けもないしただ石像にされてるだけみたい」
……露骨な時間稼ぎとおちょくり、近くにはいない。多分会場に向かっているはず。
「私が妙神山まで運ぶから二人は会場に急ぐのね~」
敵がはっきりしている以上、戦闘力のないヒャクメはこの際戦力外とみなしてもかまわないか。
「わかったわ。ゼクウ殿、ユリンをヒャクメに預けてください。恐らく記憶を消された上で石にされていると思いますがヒャクメの眼なら何かつかめるかもしれませんから」
「何かわかったらユリンを通して横島さんに連絡をするのね~」
「わかり申した」
「二人とも気をつけるのね~」
「ヒャクメもね。ゼクウ殿、参りましょう」
「心得た」
メドーサ、貴女の好きにはさせませんからね。
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≪メドーサ≫
「クックック……、そろそろ私にからかわれたのに気がついた頃かしらね……」
あのエリート然とした偽善者面が屈辱に歪むのを想像するのはそれはそれで楽しい。
「……馬鹿な小竜姫…来たところでお前は何もできないのよ……」
そう、あんたみたいなアマちゃんにはいつだって誰も救えやしない。何もできやしないんだ。
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≪横島≫
さていよいよ二日目だ。
小竜姫さまとヒャクメさま、連絡役としてユリンを連れたゼクウが最も怪しい白龍寺に、ワルキューレとジーク、連絡役としてテレサがそれ以外に複数の受験者を受験させたG・S事務所なりを偵察に行っている。
会場には俺と令子ちゃん、冥子ちゃん(救護班)、エミ、五月、唐巣神父が警戒に当たっている。
さて、二回戦で注目すべきは2カードか。
まずは雪之丞対蜘蛛丸か。
『二回戦、雪之丞選手対蜘蛛丸選手』
「さて、こちらも注目の一戦です。どちらも複数の選手を送り込んできていまだ一人も脱落者を出していない横島除霊事務所と白龍会との一戦ですが」
「白龍はオーソドックスな霊的格闘スタイルが主流のはずね。それに対して横島所霊事務所の中でも雪之丞の坊主は前衛専門あるから実力がかみ合えば面白い試合になるはずね。……ま、無理だと思うあるが」
「どういうことでしょう?」
「新進気鋭とはいえ、いや、だからこそあそこの事務所の実力は本物ある。伝統も何もないからこそあそこが受ける評価は実力に見合った正当なものね」
「つまり厄珍さんは雪之丞選手有利という見方なのでしょうか? さぁ、いよいよ試合が始まります」
『へっへっへ、今まで散々馬鹿にしてくれたな。目に物見せてやる』
『阿呆。陰念如きの、その腰巾着が生意気言ってんじゃねえよ』
『これを見てもそういえるか!』
雪之丞の挑発に簡単に引っかかって蜘蛛丸は魔装術を展開した。
「な……霊波で体を覆って化け物に……」
「こ……これは魔装術ある。悪魔と契約したものだけが使うことができるという技ね。どうやって人間が使えるようになったあるか?」
その体は巨体と化し、八本の脚がしっかりと試合会場を掴む。
だが、あれは……。
『自らを一時的に魔物に変えて人間以上の力を発揮する術。これが俺様の切り札だ! これを見ても同じことが言えるか!』
『自らを一時的に魔物に……ね。……蜘蛛丸、お前に一つだけ言わせてもらいたいことがある』
『何だ? 命乞いか?』
『……てめぇ、納得いかねえよ。てめぇ何で蜘蛛じゃなくて蛸なんだ! まったく関係ないならいざ知らず、八本脚なら蜘蛛丸らしく蜘蛛の化け物に化けやがれ! 改名を要求するぞ蛸丸が!』
そう、蜘蛛丸が化けたのは蜘蛛ではなく蛸だった。確かにすっきりしない。
例えるなら白猫にクロと名前をつけるような。
『関係あるかぁ! ブチ殺す』
本当に簡単に挑発に乗るなぁ。
雪之丞は脚での攻撃をかわしてジャンプすると頭部めがけて連続霊波砲を放つ。
かなりの数だが数も威力もちゃんと制限しているようだしあいつもイロイロ考えているな。
頭に霊波砲の直撃を食らった蜘蛛丸はそのまま脳震盪を起こして魔装術も解け、会場に倒れ伏した。
『勝負あり。勝者、伊達雪之丞。雪之丞選手、G・S資格所得!』
ま、順当勝ちだな。
すぐに雪之丞は俺のところにやってきた。
令子ちゃんとエミから手荒い祝福を受けている。
「まずはおめでとう」
「あんがとよ。……でも、使いこなせねえと魔装術ってのはあそこまで使えない術なんだな」
「お前の場合相手が協力的だったから最初から使いこなせていたが、そうでなければ下級とはいえ魔族を従えなければならないからな。悪魔を召喚するものの実力が低ければ召喚した悪魔に弄ばれ殺される。魔装術にしても同じことだ。制御できなければ魔物に取って代わられる。言っておくが、お前は魔装術を使いこなせているが極めているわけではないからな」
「極めればまだ強くなれるってことだな?」
「……前向きだな。その通りだ。……さて、あの蜘蛛丸から言質が取れればいいんだがな」
「冥子姉がいるから大丈夫だろう?」
「まぁな。……さて、そろそろタイガーの試合が始まるぞ」
「さぁ、こちらの会場ではまたしても横島除霊事務所対白龍会の一戦です。」
「あのタイガーという坊主は横島の直弟子にはなれなかったようあるがその代わりA級G・Sの令子ちゃんとランクはB級ながら実力はA級以上と言われるエミちゃん、冥子ちゃんの教えを受けてるから侮れないと思うね。……うらやましいある! 今すぐ私と代わるあ……」
厄珍がアナウンサーに殴られて停止。
「さ、さぁそれでは試合の様子を見てみましょう」
『ちっ! 蜘蛛丸のやつがまさか魔装術を使ってまで破れるとはな。いけすかねえ。てめえ! 雪之丞と同じ事務所だって言うのをうらむんだな』
『わっしも、こんなところで一人だけ落ちるわけにはいかんのジャー』
まだ試合がはじめってないのにピートとカオスが合格しているのは決定済みか?
まぁ正当な評価ではあるが。
『はー!』
『フンガー!』
「陰念選手いきなり魔装術です。対してタイガー選手は名に偽らずに半分虎の姿へと変身いたしました」
『くらえ!』
『フンッ!』
陰念の攻撃をガードするとそのまま拳を開いたボディーにいれる。この辺は五月との訓練で培われたものでなかなかどうにいっている。だが浅いか。
しばらく同じような攻防が続く。
攻撃力、防御力ともに陰念の方が高そうだがまともに攻撃が決まらないのでは意味がない。
逆にタイガーは攻撃が浅くとも安全策をとっている。時間稼ぎだな。
「正に肉弾戦。ものすごい迫力の攻防です!」
一般から見るとそう見えるのか。確かに巨漢(タイガーは元から、陰念は魔装術で巨大化しているため)同士の一歩も引かない殴り合いは迫力あるな。
『てめえは殺す!』
『今ジャー!』
今までになく大振りの攻撃を掻い潜るとタイガーは陰念に突進。
そのままの勢いでアルゼンチンバックブリーカーのような形で陰念を担ぎ上げた。
体は霊力でコーティングされているからダメージは無いし、魔装術で形態変化をしたために手も足もタイガーには届かない。暴れたところでタイガーの馬鹿力は陰念を放さないし、俺の時に見せたからだから霊気の刃を出した技も魔装術の使用中は出せないようだ。
『ガァァァァ!』
時間切れだ。魔装術の制限時間が切れた。
タイガーは担ぎ上げた陰念を投げ飛ばす。
床に倒れた陰念は完全に理性を失い魔物と化した。
そのまま周囲かまわず暴れまわる。
「陰念選手自ら結界の外へ!? どうやら理性を失っている模様です」
『誰か……だれでもいい、彼を取り押さえろ!』
巻き込まれそうになった審判員が悲鳴を上げる。
今回も勘九郎が霊波砲を撃とうとするがその前に。
『グルルゥァアアアア!』
虎の咆哮が響き渡った。
……僅かだがチャクラが開きかけているな。
タイガーは陰念の背後からスピード、体重、霊力が全てが完璧に乗った体当たりを陰念にかます。
たまらず吹き飛んだ陰念は別の試合会場の結界に当たって地面に落ちた。
完全に気を失っている。
霊力を抑えて当てたようだから勘九郎にやられるよりは傷は浅かろう。
だが、全力でうてば威力だけはたいしたもんだ。
当たりづらく隙も大きい大味な技だが一発の威力だけは令子ちゃんを凌ぐ。
『ショウトラちゃん~。ヒーリングよ~。』
救護班の冥子ちゃんがショウトラに陰念の治療をさせる。
『勝負あり。勝者、タイガー寅吉選手。タイガー選手、G・S資格所得!』
『うおぉぉぉ!わっしもやる時はやるんジャー!』
いや、本当に良くやったよ。これでタイガー自身が望むならあいつの訓練も見ることができるようになったしな。
……冥子ちゃんに頭を撫でられている大男の図。異様だ。
ピートもカオスも順当に資格を所得しているし、……そろそろメドーサが出てくる頃だ。
これからが問題だな。