≪横島≫
ここ最近はタイムスケジュール(前回の記憶)どうりに事件が運んでいたので意表をつかれた。
いや、別にそれそのものは意表を突かれただけで致命的な問題でないのだが。
雪女は前回同様唐巣神父が凍らされたものの、令子ちゃんが液体窒素を持ち出して氷漬けにしたまま交渉をして、山の神として祀る祠を建てる代わりに反対に山の安全を護る側になってもらうことができた。
彼女は雪女としてもかなり高位の存在らしくこれでこの山での雪の事故はかなり減ることだろう。
韋駄天九兵衛の起こした高速道路荒らしも九兵衛が超加速の極意を学ぶ前に令子ちゃんの運転するカオスフライヤー3号(自動車型)で追いついた。カオスフライヤー2号と3号は理論上炎の狐以上のスピードを出すことができるので(超音速の領域)超加速を覚える前の九兵衛なら問題なく横づけできるのでそこから俺が霊波刀で絡み取って、縛り上げて後から来た八兵衛に引き渡した。
予想外だったのは天龍童子の事件より先にG・S資格試験の事件が起こったことだ。
今回は小竜姫さまや鬼門もカラーテレビを渡した影響か、最初の来訪でもちゃんと洋装で目立たないように来訪してくれた。
それに前もって電話をもらって以前老師から貰った札で作った通路を通って俺の自宅から来たのであまり変な格好だったら先に服を買いに行かせるつもりだったんだけど。
そんなこんなで今事務所に四人(小竜姫さま、ヒャクメさま、ワルキューレ、ジーク)そろって座っている。
鬼門は習性なのか事務所が入っている雑居ビルの入り口で待っていようとしたのだが、黒尽くめの大男が二人入り口の前にいられたら他のテナントの迷惑なので無理やり事務所の中に通した。
ワルキューレとジークは一応留学生という立場にあるので表立っては手伝えないらしいが、その場にいれば緊急回避の名目である程度のことはできるので一緒に来ている。
小竜姫さまの来訪を前もって知らされたのですでにカオスと唐巣神父、ピートにも事務所のほうに顔を出してくれるように頼んだ。
後はうちの事務所のメンバー全員とカオス達、五月がこの場にいる。
「実は厄介なことになりました。ワルキューレのツテの情報で一部の魔族が人間界のG・S業界をコントロールすることを目論んでいるというのです」
「私のほうから説明しよう。ターゲットはG・S資格試験に息のかかったG・Sを送り込み、資格を所得させようと考えている模様だ。主謀犯はわからないが実行犯は恐らくこの女だ」
ワルキューレの合図でジークが引き伸ばした写真のようなものをテーブルに出す。
「竜族危険人物ブラックリストはの5番。全国指名手配中の魔族で女蜴叉(メドーサ)なのね~」
「魔族の中でもテロリスト的な行動が多いのでどれほどの実力かはあまり知られていませんが、冷静な判断を下すなら姉上達と同等、つまり人間界においては斉天大聖老師のような例外を除けば最高に近い能力を持っていると思われます」
「一部とはいえG・Sと魔族が手を組む。これは予断を許さない状況だね」
「マフィアと警察がつるむようなもんか?」
「そうだな。で、小竜姫さま。俺たちに何をさせたいんです?」
「メドーサがどこのG・S候補生に息をかけたかはわからないんです。もちろん私とヒャクメで外側からも調べますが、皆さんには内側に入って調べて欲しいんです」
「ピート君は元から今回のG・S資格試験を受けるつもりだったからね。もちろん協力させてもらうよ」
こっちのピートは前回のピートと比べて脆くないからここで明かしても大丈夫だろう。
「雪之丞。お前はどうする? お前が誓いを立ててるのは知っているが」
「それなら大丈夫だぜ」
雪之丞が嬉しそうに言う。とすると?
「この間の日曜日に雪之丞さんがお一人で妙神山にいらっしゃってその時に一撃有効打を貰ってしまいました」
小竜姫さまが少し悔しそうに言う。まぁ、三人の中で一番最初に一発貰ったのでは悔しいのだろう。
「タイガー。おたくもG・S資格を取るだけなら十分よ。最も今回は事情が事情だから見送ってもかまわないけど」
「わっしも参加させてもらいますジャー。もう少しでチャクラも開けそうな手ごたえも感じ取りますし、わっしも早くこの事務所の一員になりたいですケン」
「ふむ。では私も参加するとしようかな。今更G・S資格なぞ必要ないといえば必要ないのだが、あって邪魔になるものでもないからな」
カオスが苦笑を浮かべている。前回じゃあ銃刀法違反でいきなり御用だったからな。
「俺はやめておいた方がいいだろうな。雑魚だらけだとうっかり手加減を間違えかねない」
確かに以前より短気でなくなったとはいえやめておいた方がいいだろうな。
「中に入り込むメンバーはこれで十分なんじゃないか?」
「そうですね。協力ありがとうございます。」
「そうだ。雪之丞、魔装術を使うのは極力控えろ。最低でも相手がはっきりするまではな」
「かまわねえけど何でだ?」
「魔族が人間を強くする手段として危険ではあるが魔装術は一番手っ取り早い方法だ。メドーサが覚えさせているかもしれないし、そうでなくともお前が使ってしまえば相手が警戒して見つけにくくなるかもしれないからな」
「あいよ」
さて、前回よりこちらの布陣は大分強力だぞ?
それにそちらには雪之丞もいない。どうするかね? メドーサ。
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≪メドーサ≫
「いよいよですね。私の愛弟子達が一人でも多く合格することを祈ってますよ」
「ご心配なく。行って参ります」
にわか仕込みとはいえこの私が直接手を下してやって魔装術をまともに使えるようになったのが一人、残る二人は覚えただけで使いこなせてなんかいない。所詮人間(クズ)は人間(クズ)ということか。
「……気が向いたら応援にいくかもしれません――昔馴染みに挨拶もしたいのでね」
……小竜姫が動いているのはわかっている。
……。
人間(クズ)どもめ……。
龍神(バカ)どもめ……。
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≪雪之丞≫
受験者数1082人、合格者32人の狭き門と言ったってなぁ。
辺りを見回すけど大して強い奴らはいねえ。
まぁ、ピートやカオスのおっさん、タイガーあたりと真剣勝負できると思えば憂さも晴れるか。
「あら、あんた雪之丞じゃないの」
この声は。
「勘九郎か?」
思ったとおりかつて白龍寺にいた頃の同僚、勘九郎だった。後ろにいるのは陰念と蜘蛛丸か。
「久しぶりねぇ。あなたが白龍寺を辞めてからだから3年ぶりかしら」
「そうだな。……あいかわらずそのお姉言葉はなおってないんだな」
「なおすわけないじゃないの。それより雪之丞は白龍寺を辞めてから少しは強くなったの?」
「まぁ、ボチボチな。あれからずっと横島除霊事務所で世話になっている」
あの面子の中じゃあ胸張って強くなったって言えないところが悔しいところだな。
「あら、それは楽しみね。それじゃあ試合会場で会いましょう」
とりあえずなげキスはかわす。
俺の前に陰念が進み出て俺にガンをつけてくる。
「へへへ……白龍寺にいた頃は散々俺を馬鹿にしてくれたなぁ。だがいー気になってんじゃねえぜ」
蜘蛛丸もニヤニヤと笑ってやがる。
陰念が左手に霊気を溜めて俺のすぐそばの花壇を破壊した。
「こいつでテメーを切り刻んだやるのが楽しみだぜ!」
蜘蛛丸も下卑た笑いをしている。大方俺が怖がって動けなかったとでも思ってやがんだろう。
……俺がいた頃からチンケなやつらだったがその度合いが増していて呆れてしまった。
これだけの人数の受験者の前でその一端とは言え自分の手の内をわざわざさらすのかよ。
「その辺にしときなさい陰念、蜘蛛丸。みっともないわよ」
「……いくらあんたでも俺にそんな指図…」
「あたしの言うことが聞けないって言うの?」
勘九郎が霊気を漏らしただけで……それなりに強い霊気ではあるが…二人ともビビリやがった。
「……あんたの態度にゃもうウンザリだぜ! いつもいつも俺たちを見下しやがって。俺たちだってメ…」
「陰念!!」
メ?
「ごめんなさいね雪之丞。見苦しいところを見せちゃって。またね」
勘九郎が二人を引きずるように受験会場に連れて行った。
……もしかしてあの時俺が白龍寺を辞めてなければ俺はあんなやつらの仲間内にいたのか?
恐ろしい想像に体が硬直する。
……師匠に弟子入りしてよかった。本当に。
……さっきの陰念と勘九郎の霊気に僅かだが魔力の残滓が残っていた。俺が魔装術の使い手じゃなければ気がつかねえような僅かな残滓。
そういえば勘九郎はこの受験メンバーの中ではかなり上位にあるようだし、陰念はバカだが力は弱くはなかった。
……予断はゆるさねえが一応報告しといたほうがいいだろうな。