≪冥子≫
こまったわね~。どうしましょう~。
「で、何でこういう事態に陥っているワケ?」
「めいこっ! えみ! すぐいくかや令子つえてくの! ここまた来たや危ないの!」
お仕事から帰ってきたら令子ちゃんが小さくなってたの~。
ジルちゃんや心見ちゃんやケイ君も可愛いけど~、令子ちゃんも可愛いわ~。
「美衣さん。オタク何かわかる?」
「それが私が事務所のほうに顔を出した時、私の姿を見て悲鳴をあげて道化師の姿の魔族が逃げていったんです。後には美神さんはこの通りの姿になって残されていました」
「魔族ね。……でもおかしいワケ。そりゃ美衣さんは妖怪として決して弱い方じゃないけど魔族が悲鳴を上げて逃げ出すはずなんてないのに」
「はい。私もそれが腑に落ちないんです」
「……確か忠にぃは出張中だったわよね? 冥子、とにかく今は場所を移しましょう。美衣さんはマンションの方に帰って、雪之丞とタイガーに今日は全員出張中だから事務所には来なくていいと連絡をつけて欲しいワケ」
「わかりました。どなたかにヘルパーを頼みましょうか?」
「私らもプロのG・Sなワケ。そりゃ手に余るって言うんなら救援を呼ぶのも仕方なしだけど最初からそんなんじゃプロとしてやっていけないわ。とにかくそういうわけだから気をつけて帰って欲しいワケ」
「わかりました。皆さんもお気をつけて」
え~っと~、お兄ちゃんが残してくれた文珠はここね~。
何も書いていない文珠に【戻】ってこめて~。
「……っと、冥子ありがとう。子供になると近視眼的になって駄目ね。文珠のことをすっかり忘れてたわ」
「おともだちじゃないの~」
「令子、いったい何があったの?」
「とにかくここをいったん離れて落ち着ける場所に行きましょう。あいつはこの場所を突き止めているわ」
エミちゃんのカオスフライヤーとシンダラちゃんでお出かけするの~。
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≪エミ≫
「それで、いったい何が起こったワケ?」
私たちはカオスフライヤーで東京湾に浮かぶ無人島の一つにとりあえず止まって話を聞く。
令子が人が少ないところを望み、知り合いの住居などでない場所。かつ空中はまずいというからだ。
「横島さんからまわしてもらった仕事の中にN県にある『バブルランド遊園地』の仕事が混ざっていたのよ。広大な敷地の中に莫大な予算をかけて建設中だったけどバブルがはじけて建設中止になったってやつ。知ってるでしょう? 別の業者が買い取るために社員を派遣したはいいけどみんな子供の姿になって発見された。で、うちの事務所に仕事が回ってきたわけよ」
うちの事務所は4人が事務所に回ってきた仕事を分担して引き受けているから各々が始めた仕事の内容を知っているのは本人と所長の忠にぃだけなワケ。……忠にぃが帰ってきたらシステムをつめなおす相談をしないとね。
「……もしかして~、【ハーメルンの笛吹き】悪魔パイパーが関係しているのかしら~?」
「ご名答よ。私もそう思って『金の針』を取り寄せたはいいんだけど、私が依頼を受けたことを知って私のことを見張っていたみたいね。あれはあいつの息の根を止める手段になるけど、同時にパイパーの魔力の源であれが戻ると数万人の人間を子供に変えることができるって言うもの。で、不意打ちを喰らってこのざまよ。運悪く文珠は洗浄している真っ最中で防ぐことができなかったわ」
令子は金の針を私に手渡す。
「うちの事務所は雑居ビルだから霊的防御甘いもんね。……こんなとこでも忠にぃに頼ってたワケか。私ら。ま、反省は後回しにしてさっさとケリをつけましょう。」
「く、そろそろ限界ね。私の記憶と経験は一部あいつに奪われているからパイパーも横島さんが帰ってくるまでにケリをつけようとなりふりかまってこないとおもうから気をつけて」
それだけ言うと令子は文珠の効果が切れてまた子供の姿に戻ってしまった。
冥子はよっぽどそれがお気に入りなのか令子を抱きしめている。
「冥子、とにかく公共手段はまずいわ。このままカオスフライヤーとシンダラでバブルランドに飛ぶわよ!」
「でも~、空中でパイパーに出会っちゃったらまずいんじゃないかしら~?シンダラちゃんはともかくカオスフライヤーは制御できなくなっちゃうんじゃないの~?」
いや、オタクの式神の制御の方がよっぽど問題あるワケ。
もしかして昔は暴走していたの忘れてる?
「一回は【防】で護られるからできるだけ距離を稼ぎましょう。クビラで常に周囲を警戒していれば不意打ちは喰らわないだろうし。公共機関を使って一般人に被害を出したくないワケ」
「わかったわ~」
さて、霊波を隠しながら飛行しないとね。
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襲撃は一度会ったもののマコラとアンチラが撃退してくれた。
突如目の前に現れたパイパーに対してマコラが大きな猫の姿に変身して相手の動揺を誘い、アンチラの耳が切り裂く。
相変わらず何にも考えてないようで良く周りを見ているワケ。
パイパーが美衣さんを怖がったわけは猫だからか。
あれが本体じゃないみたいだから急がないとね。
「……パイパーはあのアトラクションの中ね。冥子、令子、いくわよ。冥子はクビラで警戒を担当。令子はいつでも文珠で大きくなれる用意をしといてね。こんなかで一番攻撃的なのはオタクなんだから」
「わかったわ~」
「は~い」
アトラクションの乗り物は使わずにそのままカオスフライヤーと今度はインダラで中に入る。
向こうがこっちの乗り物を制御しないとも限らないしね。
途中、暴走したロボットの襲撃もあったけどこんなんじゃ足止めにもならないワケ。
程なくして私たちは無数の風船が浮かぶ地底湖の空間に出た。
「くそう…とうとうここまできやがった! しぶといやつらだ」
「ハン! うちの事務所に目ぇつけられた時点でオタクの敗北は決まってたワケ! 大人しく退治されなさい」
あの風船の一つ一つが子供にされた人間の記憶と経験みたいね。
「エミちゃん下~!」
咄嗟にカオスフライヤーを緊急回避させると下から巨大なネズミが襲い掛かってくる。
これが本体ってワケね。
「ちぃっ!」
「人間を子供にする次は不意打ちね。オタクやることがセコすぎるワケ」
「フン! セコくて悪かったね。だが人間社会の機能を麻痺させるには十分だよ。後はその金の針さえ戻ればオイラはこの国の人間を全部子供に変えることができるんだ! さっさとその針をよこせー!」
「霊体貫通波!」
「ビカラちゃ~ん。おねがい~」
私が霊体貫通波で分身を攻撃する間に冥子がビカラで本体を抑える。
だが、
「捕まえたぞ~!」
分身が私の背後にも現れた。
分身が殺された瞬間すぐに次の分身を生み出したのか。
令子が分身にさらわれて本体の方に連れて行かれる。
……でもね。
「このガキャァ人質だぁ! このガキぶっ殺されたくなかったら大人しく針を渡せぇ」
私は素直に金の針をパイパーに投げ渡した。
あ、こういう場合は素直に、とは言わないか。
パイパーの意識が針に全て注がれた瞬間。
「この! 好き勝手やってくれちゃってぇ!」
令子が文珠で一時的に元の姿に戻ると服の中に隠していた神通棍でパイパーの油断しきっている横腹にきつい攻撃をかました。
針はメキラに乗ってテレポートしたマコラが回収している。冥子だとトロいから針を落とすかもしれないし。
そしてそのまま令子にそれを渡す。
受け取った令子がもう一撃。
……令子の攻撃は致命傷だが浅い!
まだパイパーは動ける。
「くそぉ! こうなったら残っている全魔力を使って一人でも多く道連れにしてやる!」
パイパーがラッパを吹こうとする。
させるか!
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≪横島≫
「ご苦労だったね。ゼクウ。」
「まぁ確かに人間にとっては厄介な能力ではありましたが、音を媒介にする以上某がそれを邪魔するのは容易いことでございます。それに皆様方が防いだらしく不完全なものでございましたしな。あれなら某が散らさずとも影響はなかったかもしれませぬ」
「パイパーの使い魔のネズミもユリンがほとんど掃討し終わっている」
「此度は、人間界に被害者は少なかったようですな」
「あぁ。最初の被害者だけだとおもう。良くやってくれたよ」
「マスターも信じておられたからこそほとんど手出しもせず、出張と偽ってあの場にいなかったのでしょう?」
俺の力を頼らずに、令子ちゃんたちがどれだけ魔族と渡り合えるか観察するために小細工をしたんだが、予想以上に良くやってくれた。
「パイパーは能力こそ厄介だが魔族としては決して強くはないからな。三人もいたことだし倒せないはずはないとおもっていた。後はどれだけ周囲の被害を考えられるかってとこだったんだけど、これならこうしてここにいる必要はなかったな。本当に良くやってくれたよ」
「左様ですな」
「さて、みんなが帰る前に俺たちも帰ろうか。」
前回の死傷者はおよそ100名はいたはずだが、今回は0。
本当に良くやってくれたよ。