≪横島≫
「アッテンション!我が名はワルキューレ!魔界第二軍所属特殊部隊大尉である。諸君らはこれより私の指揮下に入る!」
ワルキューレ。それにジークフリードにヒャクメ。なんでこのタイミングで彼女達がここにいる?
歴史が変わったせいか?
元々この時期に来ていて俺たちの妙神山行きの日程がずれたせいか?
それとも神・魔の差し金か?
・・・いや、早い段階で彼女達と知り合えるのは悪いことではないな。
「カー!」
俺の影からユリンが飛び出した。
元々はオーディンの使い魔の子供だ。ワルキューレ達の気配を感じたのだろう。
「それは閣下の使い魔。なぜ貴様が連れている。」
ベレー帽をかぶったジークが俺に詰め寄った。
ワルキューレは銃を抜いて俺の額にポイントした。
「待たれよ。マスターに仇をなすならばこの緊那羅族が是空、お相手仕る。」
ゼクウが仕掛ける?おかしいな。これほど短気ではないはずだが・・・そうか。
「キンナラ?天界の楽師がなぜ人間につき従う。」
ゼクウの登場に僅かながらワルキューレが困惑の表情を浮かべる。
オーディンの使い魔たるはずの鴉が俺を守るように立ちはだかり威嚇をしているのがさらにそれに拍車をかけた。
「小竜姫殿。神界のテリトリーで魔族が人間に危害を加えることも、神族である某と刃を交わすこともいささか問題であると思いますが?」
「そうです。ワルキューレ!ジークフリード!およしなさい!どうしてもというならば妙神山の管理人として私が相手をします。」
「・・・さて、ワルキューレ殿。あなたがどのような理由で神族のテリトリーにいるのかはわかりませぬがこうして堂々とここにいるからには平和的な使者としてここにあると存じます。この場の管理人と一戦を交
えるのはそちらにとっても不都合ではありませぬかな?」
うまい。
ワルキューレは忌々しげに銃をしまった。
「説明を求める!それはオーディン様が使い魔としている鴉。なぜ人間の貴様がそれを従えている。」
「これはオーディンが使い魔、フギンとムニンが産んだ卵を譲り受けて俺が孵化させたものだ。」
「まちがいないのね~。その鴉は彼と霊力でつながっているのね~。」
今まで黙ってたヒャクメがとりなすようにそういった。
不承不承という感じありありだったがこの場は引き下がるしかないだろうな。
ユリンが済まなそうにこちらを覗き込むのでその頭を撫でてやった。
「ですが横島さん。なぜあなたが神族であるゼクウ殿を従えているのか説明していただけますか?それにゼクウ殿といえば緊那羅族有数の戦士でしたが数百年前に堕天したはず。」
「数年前のことですゆえまだ知られておられぬのも無理はないでしょうな。某は夢魔ナイトメアとして悪行を連ねているうちにマスターと相対し、この身を救われた縁で以後マスターに付き従っております。某とユ
リンの他にもリリム族が王女、リリシア殿とも召喚契約を結んでおります。」
ここで明かすか?
いや、明かすとしたら今しかないか。
武においては俺の剣の師、知においては堅実なる交渉人か。
まったく、頼りになる男が味方になってくれたものだ。
いずれにせよ、これでワルキューレたちは手出しはできなくなった。
後は俺が納得させればいい。
「・・・自己紹介が遅れたな。俺は横島忠夫。こっちは俺の教え子で美神令子、六道冥子、横島エミ、伊達雪之丞だ。それから俺の眷属のゼクウと使い魔のユリン。これから一ヶ月間よろしく頼む。」
俺は頭を下げた。
「わからないことも多いですがとりあえずはいいでしょう。彼女たちは魔界正規軍のワルキューレ大尉。情報仕官のジークフリード少尉。それから私の友人で神界の文官のヒャクメです。彼女たちは神界と魔界の人
材交流のためのテストケースとして妙神山に滞在しています。」
「神界と魔界の人材交流?それってどういうことよ?」
「人間界でも知られているとおり神族と魔族は現在冷戦対立中です。ですが、聖書級崩壊を阻止するために和平の道も模索しているのですよ。彼女たちはそのためのテストケースとして半中立地帯の、神族の領域で
あるこの妙神山に滞在してもらっています。将来的には双方からの交換留学生なんかをへて、本格的な人材交流にこぎつけるつもりです。ですのでこの場で戦うことはよしてくださいな。ワルキューレ、あなたたち
もいいわね?」
「あぁ、・・・すまなかった。」
「こちらこそ事情も知らず申し訳ございませんでした。」
ゼクウが恭しく頭を下げる。・・・誠実そうなふりして以外に役者だな、ゼクウ。
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≪ワルキューレ≫
忌々しい話だが魔界正規軍の使者として来ている以上ここで揉め事を起こすわけにはいかん。
それにリリシアの契約主となれば政治的な問題上対応はさらにデリケートな扱いを要する。
「・・・姉上。」
「わかっている。」
帽子を外したジークは魔族が持つ攻撃衝動が低い分こういうときは冷静に対処できる。
ジークは戦士であるより外交官なんかのほうがよかったのかもな。
「んじゃ、とっとと修行って奴を始めてくれ。」
「それではその方円を踏みなさい。」
「踏むとどうなるんだ?」
雪之丞が方円を踏んで影法師が抜き出される。
それは男の姿に梟の翼を生やした青い鎧を身に纏っていた。
「影法師にまで影響を及ぼしているのか。アモンの奴相当雪之丞に肩入れしてくれたんだな。」
「貴様。なぜそこでアモン大佐の名前が出てくる。」
アモン大佐。アシュタロスの側近から正規軍に編入されて間もないが流石に侯爵級。
戦士として尊敬に値する人物で僅かな間に頭角を現している。それをなぜ人間が?
たまらず横島という男に問いただす。
「アシュタロスの側近から魔界正規軍に入隊する条件がアモンが人間界に娘を迎えにいくことだったって聞いているか?」
確かにそのようなことを耳にしたことがある。
「アモンが人間界に来た時あいつがアモンの手助けをしてな。その礼としてアモンと魔装術の契約を交わしている。」
緊那羅、リリシア、挙句の果てにアモン大佐だと?こいつら本当に何者だ?
「おし、そうと決まればとっとと始めてくれ。」
横島と会話している間に説明が終わっていたらしい。
「剛練武!」
全身を固い甲羅に覆われた剛練武が現れる。
弱点である瞳を突かねば少々面倒な手合いか?
「っらぁ!」
影法師が突っ込んでいって剛練武を痛打。
「硬い。」
美神という女がこぼす。
「剛練武の甲羅はそう簡単に貫けませんよ。力も強いので注意してくださいな。」
・・・いや、僅かだが剛練武の胸部分が陥没している。
「ちっ!だったらこいつでどうだ。」
霊波砲。いや、霊力を集中して弾丸状にしている。器用な真似を。
数も多い。ちょっとしたマシンガンのようで剛練武の全身に襲い掛かる。
たまらず剛練武が腕で瞳をガードする。
「そこが弱点か!」
一気呵成に襲い掛かり片手で剛練武の頭をつかんだ。
その掌でそのまま零距離で霊波砲を放つ。
「やった~。」
「相当強くなってるワケ。」
「そうね。こっちもうかうかしてらんないわ。」
影法師の青い鎧が覆っていない部分に新たな鎧が現れた。
「相当お強いですね♪これであなたは今まで以上に霊の攻撃に対する防御力が上昇したはずです。」
確かに人間にしては相当やる。アモン大佐の助力があったとしてもだ。
「アレなら下級の魔族はひとたまりもないですね。」
「そうだな。・・・ヒャクメ。さっきからずっと黙っているがどうしたのだ?」
「・・・それがおかしいのね~。あの横島って人をさっきからずっと霊視しているんだけどほとんど何も見えないのね~。」
「え、そんな馬鹿な!」
慌ててジークフリードが鞄型霊波演算機をとりだす。
「・・・本当だ。」
情報仕官としては有能なジークにも、下級神族とはいえ百の感覚器官を持つヒャクメにも霊視ができないだと?
「わけありでな。俺の心の中はそう簡単に覗くことはできない。それに覗けたとしても壊れるぞ。」
小声だったのだが聞こえていたか。
「それでは次の試合を始めます。禍刀羅守でませい!」
禍刀羅守。攻撃力とスピードに優れている。
「ずいぶんと悪趣味ね。」
禍刀羅守がその刃で近くの石柱を切る。
・・・確かにな。
「あぁ~。」
禍刀羅守が不意をついて影法師に攻撃をした。
「汚い!」
「いや、不意打ちを食らうほうが間抜けなだけだ。」
美神たちが色めきたつが横島はそう言ってのけた。
まさにその通りだ。戦場には汚いもへったくれもない。
「禍刀羅守!私はまだ開始の合図をしていませんよ。」
「フン。グケケ。」
「私のいうことが聞けないって言うの!なら試合はやめです。こうなったら私が・・・」
その小竜姫の腕を横島が掴んだ。
「何で邪魔をするんです!あなたの教え子でしょう!」
「子猫が虎子にじゃれついたくらいでそう目くじらを立てるな。それにうちの虎子は少々大人気ない。」
「おい!もう始めていいんだろうな!」
虎子というより雰囲気は植えた虎そのものだな。
禍刀羅守が雰囲気に飲まれている。
・・・現代を生きる人間の中にもこんな連中がいたのか・・・
いや、それ以上にこの横島という男、不可解すぎる。
「しかしそれでは公平な戦いには。」
小竜姫・・・戦士としての技量は認めるが甘すぎる。
「いいから初めてやってください。早くしないとあいつの脆い堪忍袋が破裂する。」
「・・・わかりました。それでははじめ!」
影法師は大量の霊波砲を一気に放出。
剛練武ほどの耐久力のない禍刀羅守は避けきれない面の攻撃をくらって動きを止められた後、接近されて殴りつけられ、叩きつけられてそれで終わった。
「勝負ありですね。」
影法師の篭手と脚甲に鉤爪がはえる。
「最後の相手ですね。耶摩比古でませい!」
最後はコピー妖怪か。外見上も影法師とほとんど変わらないようコピーされている。
いや、元々の体が小柄な分若干体つきが小さいか。
相手の攻撃を受け同種、同質の攻撃をそっくり返す。
そうなれば人間と妖怪の地力の差からどうしても人間の不利になるはずだがどう返す?
・・・何を馬鹿な。
人間相手に私は何を期待しているというのだ。
「これは特別サービスです。それでは始めてください。」
小竜姫が傷を癒すと開始される。
耶摩比古の戦法は後の先。というよりそれしかできない。ケタケタ笑って挑発をする。
対して雪之丞は・・・すでに青筋を浮かべている。精神修養は甘いようだな。
「しゃらくせえ!」
霊力を収束させた霊波弾を撃つが耶摩比古も同種の霊波弾を放って相殺する。
「なに!」
「ケタケタケタケタ」
一瞬動揺するもそのまま突っ込んで耶摩比古に近接戦をを仕掛けるが拳をうてば拳で、蹴りを放てば蹴りがそっくりそのまま返される。
「おい!貴様の教え子はどうやって切り抜ける?」
「さぁ。何しろあいつは俺がいくら教えても最近まで戦術を学ぼうとしてこなかったからなぁ。・・・最近は多少覚えはじめたが所詮は付け焼刃だし。」
「最低だな。」
所詮は人間か。
「軍人としてはね。・・・だけどあいつは生粋の戦士だ。」
なに?
雪之丞は攻撃方法を拳ではなく掌に変えひたすら頭部をうつ。
掌の打ち合いが10発を越えたあたりで先に倒れたのは耶摩比古のほうだった。
「雪之丞は普段高速で飛びまわって戦闘をする訓練をしているから三半規管が鍛えられているし、リーチが若干雪之丞の方が長い分近接攻撃なら技のはいりが深い。・・・もっと戦術を学べば楽に勝てたんだろうが
な。」
「おみごと。霊力の総合的なパワーを上昇させます。これであらゆる意味であなた以上の力を持つ人間はごく僅かなはずです。」
喜んだのもつかの間雪之丞は美神達に捕まって3人からお説教をされていた。
要約すれば心配をかけるなということらしい。
「凄いですね。先ほどはああ言いましたが今の修行を始める前から彼の霊圧は人間界ではTOPクラスだったはずです。いえ、彼だけではなくあちらの3人も。あなたはうまく隠しているようで私の目からも確認は
できませんが。」
「令子ちゃんとエミは第4まで、冥子ちゃんと雪之丞は第3までチャクラを開いています。」
「凄いです。まさか今の人間でチャクラを開く修行をしている人がいるなんて。それならばあの霊力量も納得がいきますね。それにしてもあの若さで第4まで開けるなんて。」
「霊的成長期の間にその修行を重点的にさせましたから。・・・でも急成長はソロソロうちどめですね。この先第5を開こうとしたら10年単位の修行が必要でしょう。」
「普通でしたら第4まで開くのだって10年は修行が必要ですよ。こんなにできのいい修行者がきてくれるとは思いもしませんでした。」
・・・確かにな。小竜姫は単純に喜んでいるようだが解せない。
神族を従え、魔族と結び、・・・そういえばこいつら、私とジークに対して嫌な顔ひとつしなかったな。
ヒャクメの眼を誤魔化し指導者としても優秀。そしてこちらに実力を見せないか。
本当にこいつは人間なのか?