日曜日と水曜日の日中は冥子ちゃんのために使った。
俺がまず冥子ちゃんにやらせたのは以前俺が冥子ちゃんに見せた水を固めて動物を作らせることだった。
これには冥子ちゃんも意欲的に挑戦してくれる。
「冥子も~、可愛い動物さん作ってみたいの~」
とのことらしい。
これは案外高等な技術を要する。
まず、霊力を一定量だけ放出しなくてはいけない。
霊力が強すぎれば水が弾けてしまうし、弱ければ固まらない。
次に動物の姿を微に細にイメージをしてそれを水に伝達しなくてはいけない。
動かすつもりならその時の筋肉や骨格の動きまでイメージしないとぎこちない動きになってしまう。
最後に、集中と霊力をとぎらせないだけのスタミナが必要となる。
どちらかが途切れれば水の固まりははただの水となって地面に零れ落ちる。
この霊力の使い方は式神使いとしての霊力の放出と似かよっているし、動きを頭の中でイメージできれば式神への伝達もスムーズなものになり力のロスが少なくなるとふんだからだ。
当然すぐにできるようにはならない。
俺が冥子ちゃんの手を通して霊力を送り、イメージし、動かすことから始めた。
霊力の放出に関しては式神と物心つく前から一緒にいる冥子ちゃんならすぐに覚えるだろう。
そこから先は……1年半位かけて覚えればいい。
それだけではなく以前のように追いかけっこをしたり、連れ立って山へ遊びにいったりもした。
子供は外で遊んで体力をつける。物を覚える。心を育てる。
冥子ちゃんには足りないものだと思ったからだ。
もう少し式神を使えるようになったら人の多いところに連れて行こうと思う。
俺の来ない日でも冥子ちゃんは水を固めて遊んでいるらしい。
日々そうやって行けば冥子ちゃんが動物を作れるようになる日はそう遠くないかもしれない。
火曜日と金曜日は見習いG・Sとして依頼を受ける。
師匠を持たない俺は冥華さんを仲立ちに協会と協議した結果、最低ランクの仕事であるFランクの仕事を単独で、Eランクの仕事を他のG・Sと共同でまわしてもらうことになった。これらを100回達成することで見習いG・Sの期間を明けたものとしEランクのG・Sとして、見習い期間中の働きいかんによってはDランクのG・Sとして認定されることとなった。
協会のランク付けとしては見習い期間中であるFランクから、日本で数名、美神親子や唐巣神父、引退前の冥華さんのようなSランクまで存在する。アシュタロス事件当時のメンバーでいけば高い順からエミさん、西条がAランク。式をすぐ暴走させていた冥子ちゃん、協会の仕事をあまり率先して請けなかった魔鈴さん、雪之丞がCランク、俺やピートがFランクだ。タイガー、カオスはG・S試験に落ちているので、おきぬちゃんや弓さん、一文字さんはG・S試験を受けてないので除外。
そこから先は実力に応じて、解決した依頼や国連に懸賞金をかけられている魔族を倒したりすることで上昇するのでそこまで行けば一気に上昇することもある。
依頼の方は特に問題なく解決できた。たまに、Fランクの事件が実際にはEランク以上の事件であることもあったがそれだって問題はない。書類なんかの提出は面倒だったが依頼を受ける回数が週に2件だけなのでたいしたものではなかった。
依頼料金は一件につき10~50万程度、道具を使うG・Sにとっては大赤字ものだが俺は丸儲けなので月に200~250万程度の収入になる。
それでもあのボロアパートから出ていない。
あそこには寝に帰ってるだけ出し、あそこにいないと小鳩ちゃんやマリア、カオスと会えないかもしれないから。
月曜日、木曜日、土曜日と夜間、早朝は自分の修練に当てる。
超加速の空間で読む本はオカルト関係のものの中に戦術・戦略の教本、法律関係書、近代兵器の書物、各国言語の教本、ラテン語、ヘブライ語、古フランス語等のオカルト書の原書を読むのに必要な言語の勉強や、世界中の神話、風習にいたるまで将来役に立ちそうなもの、武器になりそうなものは手当たり次第学ぶようになった。
チャクラはマニプラ、アナハタ(胸)、ヴィシュダ(咽喉部)まで開くようになる。普段は今までどおりで通しているが、300以上の霊圧が出ている自信はある。
そして山に行っては体を虐める。記憶、かつて【荒神】として戦った神魔の強者や、師であったハヌマーン、小竜姫さまの動きを真似る。
明らかに人間の動きを超えたそれを真似ることで筋肉はボロボロになる。文珠を使って完全に動きに同調すれば筋肉はおろか骨格、内臓にまでダメージがい全身の毛細血管が破れ体中が青く変色して、血反吐を吐きながらのた打ち回ることになる。
時にはそれらと模擬戦闘を行った。
強力な自己暗示と精緻なイメージは脳をだまし実際にダメージが俺に及ぶ。ユリンに【醒】【癒】の文珠を渡していなければあるいはそのまま自分のイメージに殺されていたかもしれない。
そしてただ己の体を傷つけることもあった。
体を岩や巨木に打ちつけ、谷を転げ落ちる。
死の危険さえ感じなければ受身を取るだけで一切霊的防御は行わない。
そうしてひたすら壊し続けた体を今度はチャクラに霊力を輪廻して無理やり治した。
本来数日かけて行う超回復を一日で行う。
それを繰り返すことで体は戦闘向きなものに急速に鍛え上げられる。
全身の筋肉を白色筋肉でも、赤色筋肉でもない両方の特徴を兼ね備えたピンク色の筋肉に作り変えていった。
最も、流石に霊力で無理やり自己回復を早めたところで傷跡の多くは消えず、全身にそれが残った。無事なのはあまり戦いに使わず、攻撃を食らえば致命傷になる顔位のものだ。
流石に普段は霊力を体に満たせて傷が見えないようにカバーしている。体育の授業や水泳の授業、銭湯なんかで騒ぎになるのはいやだし。
そして夜遅く、12時過ぎにアパートに戻り、銭湯に出かけてから眠る。
ショートスリーパー(短眠者)の訓練を課していたので眠るとすぐに深い眠りに落ちる。
そして必ず悪夢とともに目を覚ます。ルシオラの死から始まって、惨劇の日の記憶。【荒神】と化してからの殺戮と度重なる自分の死、そして滅び行く世界。日替わりでそれらの夢を見て、絶叫とともに飛び起きる。
あらかじめ防音措置を部屋に施していなければ追い出されていたな。
目が覚めるのは4時ごろ。それから早朝のマラソンを始める。
俺の1年はこうして過ぎ去っていった。