「横島君すごいのね~。16歳で主席卒業は史上最年少記録よ~」
「お兄ちゃんすごい~~」
「おばさんも後見人になって、鼻が高いわ~」
G・S資格を取ったことを2人は自分のことのように喜んでくれた。こういった素直さ、無邪気さは六道家の人間の美徳だろう。
冥華さんの方はそれだけでもないようだが気になるほどじゃない。
与えられた情況を武器にするのは組織を束ねるものとして当然のことだから。
「そうだ。今度六道女学園の講師になってもらおうかしら」
「勘弁してくださいよ。俺は人にものを教えられるほど偉い人間じゃないし、それに六道女学園の霊能科って言ったらみんな俺と同い年か年上でしょう?それに、俺も高校に行かなきゃ行けないし」
「えぇ~。横島君はものを教える才能もあると思うんだけど、おばさんの思い違いかしら~?」
そんなものあるわけない。先生と慕ってくれたシロもまともに指導できなかったしな。
「でも確かに高校を休んで講師をしてもらうってのも問題かもね~。それじゃぁ、その件はいったん諦めるとして~、冥子の先生になってもらおうかしら~。冥子だったら年下だし~、時間の空いているときでいいからお願いできないかしら~。」
「六道ならなりたての俺なんかよりいい先生のあてがあるでしょう。それに俺は式神使いじゃないですし。」
「でも~、六道家の人間じゃあ冥子も甘えが出るし、冥子がやる気になってくれる人じゃないと意味が無いのよね~。それに今だって遊ぶついでに冥子のこと鍛えてくれてるじゃないの~。おばさん知ってるんだから~」
確かに今までも多少は体を鍛えさせてきたが。
「冥子はどうかしら~?横島君に先生になってもらいたくないかしら~?」
「おにいちゃ~ん~」
……そうなみだ目で見上げられると弱い。そんな捨てられる子犬のような瞳はやめて欲しい。
……確かに、将来冥子ちゃんがアシュタロス事件に巻き込まれるであろうことを考えれば今のうちから鍛えておくことは有効かもしれない。
今回、前回以上に冥子ちゃんが危険に巻き込まれることが無いという保証はないし、逆に12体それぞれが異なる特徴を持った12神将は万能に近い使い方ができるので戦力として計算できれば俺の選択肢が増えるだろう。
俺は決して万能でも無敵でもない。限りなくそれに近づかなくてはならないとしてもだ。
それに、冥子ちゃんの潜在能力は六道の血を引いてる分、美神さん以上のものがあるだろうから、G・Sとしてきちんとひとり立ちできるだろうし、何より式神の暴走さえなくならなければちゃんとした友達ができるかもしれない。
……。
【眠】の文珠を作ると冥子ちゃんに押し当てた。たちまち眠りこける冥子ちゃんが倒れないように抱きかかえると手近い椅子に座らせる。
これで今ここにいるのは俺と冥華さんだけになった。
「すいませんいきなり。ただ、先にどうしても聴いておきたいことがあったんで」
「冥子には聞かせたくないことなのね~」
「はい。なぜ、冥華さんは冥子ちゃんをそんなに慌てて鍛えようとするのです?だいたい、冥子ちゃんは争いごとに向く性格ではないと思いますが」
「当然でしょう~?冥子は伝統と名誉ある六道家の跡取り娘ですもの~。式神使いの名家、六道家にはその能力を世のため人のために使う義務があるのですもの~」
「そういった表側の事情が聞きたいわけではありません。なぜそんなに焦っているのです?」
「・・・横島君はこの先も冥子の味方でいてあげてくれるかしら~?」
「それは、・・・すすんで敵にまわるつもりはありませんが」
「お願い~、はっきりいってちょうだい~」
「わかりました。俺はこの先も冥子ちゃんの味方であります」
「横島君ありがとう~」
冥華さんが泣いている?
「・・・六道家は平安の世から続く陰陽の家、同時に今では日本有数の財閥でもあるわ~。その本分が霊能にあるとはいえ、財閥の本家に対する影響力も無視できないわ~。六道財閥は六道家だけで動かしているわけではないし~。そこまではいいかしら~?」
「はい」
「冥子の性格は戦いに向かない以上に経営や駆け引きに向かないからあの子に六道財閥を任せるわけにいかないのよ~。それでも本分である霊能の大家としてあることができれば経営は他の六道以外の人間に任せても名分は立つわ~。でもそれはあくまで冥子が霊能の大家として六道家を牽引できればの話よ~。もしそうでないうちに私と主人に何かあれば分家や財閥の連中が冥子をお飾りにして好き勝手にやってしまうわ~」
そこでいったん言葉を切った。何かに耐えるようにいったん目を伏せる。
「冥子の血をひいた女子さえ生まれれば式神達はその子に引き継がれるし~、その子の教育だって好きなようにされて六道家はのっとられてしまうわ~。それはまだ許せても、冥子がそんな扱いをさせられるのが許せないのよ~」
確かに。今冥華さんたちに何かあればそういう可能性もある。しかし。
「何か思い当たる節でも?」
「今はまだ何も無いわ~。でも、そういう可能性があるだけでおばさんいても立ってもいられないのよ~。幸い、六道家の派閥には美神家や唐巣君といった信頼が置けて強力な霊能力者がいるからよその派閥の牽制になっているわ~。横島君もね~」
「俺が?」
「横島君はわかっていないわ~。G・S試験最年少主席卒業という意味を~。それに横島君は大会でユリンちゃんしか使っていない、よそでは強力な式神使いと目されているわ~。それが私を後見としているってことは~この先長い間優秀なG・Sが六道の派閥にあるということですもの~」
そういうこともあるのか?確かに主席卒業者は優秀なG・Sになる可能性はあるだろうが。
「お願いできないかしら横島君~?」
「俺は俺の流儀でやらせてもらいますし、時間もそんなに取れません。それでいいなら」
「ありがとう横島君~。冥子をよろしくね~」
結局俺は冥子ちゃんの先生になってしまった……。
できることはしてあげよう。
冥子ちゃんも大切な仲間だったのだから。