想定外だったが六道家とコンタクトを取れたことはプラスに働いた。
金銭的な問題。六道家の派閥に所属するG・Sの助手と言う形で研修をかねたバイトをさせてもらってる。過去の時代のあのバイトとは違って月に3~4件も手伝えばその月を暮らしていけるだけの報酬は手に入ったし、ユリンに実戦をつませることができた。
知識の方の問題も一気に解決できた。竜神王にいただいた超加速の符を使って部屋にこもれば一週間読書に励むことができる。最初こそ辛かったが一月で大抵のオカルト本を読みこなすことができるようになった。
以後も超加速の符の利用の半分は知識を深めることに利用した。残念なのは中にいる間は文珠をストックすることができないことだ。
残りの半分は霊力の修行に使う。
超加速の空間は霊力に過負荷がかかってる状態なので霊力の修行にちょうど良かった。
チャクラを開きその中で霊力を輪廻す。
ムラダーラ(尾てい骨)、スワディスターナ(丹田)のチャクラは容易に開いたのだがマニプラ(鳩尾)の開放に手間取る。
マニプラは豊かな感情を表すチャクラ。
俺の心がチャクラの解放を阻害しているのかもしれない。
それでも数ヶ月の修行で霊圧は200に達した。最早単純な霊圧だけなら人類屈指。俺より高い可能性があるのは僅かにいる神族の血を引く一族の長や先祖がえりくらいだろう。
それ以外の時間の半分は高校生をすることに取られる。授業の内容はできる限り授業中に覚えることで時間のロスを少なくしなければならない。受験勉強などで時間をとられたくない。それでもどうしようもない時や課題が多く出たときは超加速の空間で片付けた。
それ以外の時間はひたすらに体を鍛えた。東京も郊外の山の中まで走り、深い山の奥で体をいじめ続ける。今ならシロの散歩にも耐えられるだろう体はできてきた。
修行は少しも辛くはなかった。
それより辛いことを知っていたから。
霊能力を隠す必要もなくなったのでユリンはあれから出しっぱなしのことが多くなった。
ユリンが活動すればそれだけ消費される霊力も多くなる。
それが良い負荷となり霊的スタミナを鍛える一助になっていた。
時には冥子ちゃんにつきあわされるときもある。
冥子ちゃんはあれからも俺なんかのことを慕ってくれている。
冥子ちゃんには人間の友達がいなかった。
六道家の誇る12神将は冥子ちゃんの大切な友達だ。
しかし、一般的にはやはり異質であるし、時に暴走するそれを周囲の人間は怖がる。
しょうがないのかもしれない。
それでも完全でないとはいえ孤独の中にいる冥子ちゃんはかわいそうだった。
孤独はいけない。
孤独は容易く心を蝕む。
そのことを誰よりも俺は知っている。
あるいは冥子ちゃんや六道家の人間が持つ『幼さ』はこうした孤独が原因なのかもしれない。
人格形成をする時期に孤独では満足にそれができないだろうから。
六道家の者や使用人たちは冥子ちゃんを愛している。
しかしそれは大人と子供の関係でしかない。
分家の人間や、六道財閥関係の人間の子供なら冥子ちゃんとつきあうことができるかもしれないが、それはあまりにも危険なので冥華さんがそういう人物を近づけない。
故に冥子ちゃんと歳が近い俺はなるべく彼女の要望に沿ってあげていた。
あの世界で冥子ちゃんが美神さんやエミさんになついていたのは初めてできた友達だったからだろう。
冥子ちゃんはとても嬉しそうに俺になついてくる。
……修行をし続けても俺の心が昔のように塗りつぶされないのは、冥子ちゃんが俺を癒してくれているのかもしれない。
だとすればなんとあさましい。
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「おにいちゃ~ん~~。今日は~、なにをするのかしら~~?」
あれ以降も冥子ちゃんは俺のことをお兄ちゃんと呼ぶ。少し照れくさいが好きにさせていた。
池のほとりに立つと黙って水の中に手を突っ込み、霊力を流し込む。
霊力を通しやすい水の中に霊力を流し込み、サイキック・ソーサの要領で水をまとめると水が粘土のようになる。今度はそれをイメージで変形させて小さな犬を作った。
「きゃぁぁ~かわいい~~」
「鬼ごっこをしよう。最初はその子犬が鬼だ」
キャ~と悲鳴を上げて楽しそうに冥子ちゃんが逃げ回る。
12神将達もめいめいに逃げ始め、ユリンがその周りを楽しそうに飛んでいた。
これなら俺もイメージングの修行になるし、冥子ちゃんに圧倒的に足りない肉体的スタミナも遊んでいるうちにつくだろう。
数分後、転んだ冥子ちゃんが式神を暴走させて文珠を使う羽目になったのは、まぁ、心温まるエピソードの一つだ。
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2ヵ月後、冥華さんに後見人を頼みその年のG・S試験を主席で合格した。ユリンだけで2次試験を合格したことで強力な使い魔を持つと認識されはしたが本来の能力は隠せただろう。1次試験も70マイトほどに(それでも十分以上に強いのだが)抑えたことだし。