≪サッちゃん≫
「「どういうおつもりですかな?」」
わしとキーやんの相談の席にオーディンと竜神王が怒鳴り込んできおった。
いや、まぁもう少しは穏便やな。
「どういうおつもりとは?」
キーやん。わかっとるくせに根性悪やなぁ。
「なぜ、リリシアとガブリエルが横島と接触を取ったかということです。我が娘や小竜姫ですらまだ会ってもいないというのに。」
「ちょっと待ちぃ。何でわしまでそないこといわれなあかんのや?ガブリエルと違ってリリシアが横島と接触をとったんはまったくの偶然やで?前回の歴史ではイギリス留学なんかしてへんからまったくの想定外やしなぁ。」
「む、・・・しかし何で淫魔を中心に人間界の家事のやり方なんぞを教え込んでいるのか、そこのところを説明していただきたい。」
「別におかしいことはないやろう?淫魔は例外的に人間界にいくことが比較的多い種族やからなぁ。下手に人間界を荒らさんように常識の範疇として教えただけや。」
以前にキーやんに突っ込まれたとこからなぁ。言い訳用意しといてよかったわ。
というかオーディン。わしは一応お前とこの王なんやけどなぁ。
「最高指導者殿。何か弁明はありますかな?」
竜神王はキーやんを吊るし上げるつもりか。
でもな、竜神王。キーやんはそういうん得意やで。
「前回の歴史で我々は横島忠夫に対して許しがたい罪を犯してしまいました。彼は無かったことにしてくれたようですが彼の中でそのわだかまりは消えはしないでしょう。当然でしょうね・・・。また、私たちも彼に対する償いの気持ちを忘れるわけにはいきません。そのことは良いですね?」
「確かにのう。」
「特に私の部下である天使たちは彼と最も激しく攻撃を仕掛けてしまいました。ですがこれから先アシュタロスとの戦いが起きる前に彼が私たちに対する不信の気持ちを棄てきれないのは明らかに拙いでしょう。かといって彼にこれ以上譲歩を引き出すわけにもいきません。もともとの非はこちらにあるわけですから。」
「うむ・・・。」
「少しずつこちらから彼の信頼を手繰り寄せなければならないのです。かつて横島忠夫と殺し合いをした名のある天使の中でガブリエルは最も人間と接する機会が多く人間よりの考え方をしていますし、穏やかな性格の持ち主です。天使の中でも指導者的立場にありますしね。ガブリエルを横島と接触させたのは彼の信頼を得るための第一歩と思ってもらいましょう。例えどれほどこちらが彼に対して援助をしようとしても彼の信頼を得ることができなければかえって危うい事態を起こしかねない。私はそれがこわいのです。」
「・・・天使たちに家事を教え込んでるのはどういうつもりじゃ?」
「かつてのアシュタロスの反乱の折、神魔界はチャンネルを閉じられてしまい人間界に対する干渉を行うことができなくなってしまいました。今回はそうならないようにするつもりですが、アシュタロスがどのような対応策を出してくるかわからない以上油断はできないでしょう?いざとなったら人間界にある程度事前に戦力を送り込む必要があるかもしれません。そのために人間界の常識を学ばせる予備訓練ですよ。現段階で天使たちにアシュタロスの反乱を教えるわけにいきませんから秘密裏に、ですがね。」
キーやん。どないしたらそんなにスラスラと尤もらしい理由が出てくるんや?
まったく嘘やないにしろ、わしとの話のときはそんな理由つけとらんかったくせに。
竜神王が理詰めで説得されてしもうた。
「むぅ・・・。竜神王、協力を願うぞ。」
オーディンが竜神王に提案してくる。
前回はなかったアクションやな。
・・・でもそれも面白いかもしれへん。
「そうですね、かまわないでしょう。竜神王、私からも頼みます。」
相手の要求を呑んで自分への追及をかわすか。
となると次の手立ては。
「ところでサッちゃん。アシュタロスの動向はどうなっていますか?」
ほら、話を逸らした。まぁ、今回の会合はそれが主目的なんやけどな。
「アモンをアシュタロス陣営から引き抜くことに成功したさかい、直接戦闘力っちゅう意味では大きくそぐことができたで。最も、前回の反乱でもアモンは積極的に動いとったわけでなかったから相手の戦力が大きくさがったっちゅう訳でもないんやけどな。まぁこっちの戦力が増強したことを考えればボチボチっちゅうとこやな。」
「フランスで神聖力を無効化する実験が行われていたそうですが?」
「アレか?アレは一種の失敗作を部下が勝手に持ち出しただけのようやな。アシュタロス自身はまだ大きな動きはみせとらん。第一、あの装備は確かに神聖力を無効化にするようやけど反面神聖力のこもらんかったらどんな攻撃でも効くようになっとるんや。せやから道に落ちてる棒切れなんかでも倒せるっちゅう訳やな。その辺が失敗作の所以や。もともとは究極の魔体に装備するバリア技術の試作段階のもんらしい。」
「ではまだアシュタロスが動く気配はないんですね?」
「遅延工作はあらかた回避されてもうたけど、これまでので数年単位の余裕ができとるはずや。これ以上気がつかれんように遅延工作をするんは難しいな。まぁもう少し頑張ってみるわ。キーやん。計算の方はどうなっとる?」
「いまだ試算中です。もう六百八十四万七千五百二十三回計算しているのですが、やはり難しいですね。もっと根本的に方法を変えるしかないのかもしれません。」
「はぁ、そないか。・・・オーディン。お前も何ぞ動いとるようやのう。」
「軍の装備品の強化を研究させている。最も、アシュタロスの陣営にばれんように秘密裏に、だがな。あいにく軍の研究者の中にはアシュタロスほどの天才はいない。ばれてはあっという間に対応されてしまうだろうからなかなか進まないがな。」
「竜神王、あなたの方はどうですか?」
「妙神山の結界を断末魔砲に耐えるくらいに強化することに成功したわい。恐らく最早天界最高の結界破りの符でも破ることはかなわぬじゃろう。・・・ただし、結界を強化状態にしてはこちらから外にうってでることもできん。妙神山を砦として戦うことはかなわぬな。いざというときの隠れ場所にするのがせいぜいじゃろう。」
「・・・各自いっそうの努力を期待しています。私たちにできることは微々たる物かもしれませんがその積み重ねで少しでも彼への負担を減らすために。」
神魔の最高指導者が雁首揃えてできることは微々たることか。・・・情けない話や。
「彼の存在は楔となっています。これ以上負担をかけるわけにはいきません。・・・いいえ、そうではありませんね。私は神界の最高指導者という肩書きでありながら横島忠夫という個人に肩入れをしたい、そう考えてのです。・・・軽蔑しますか?」
するわけない。わしかて同じやからなぁ。
オーディンや竜神王も同じようや。
「・・・口惜しいですね。あの世界で私たちが彼に出会っていれば、あんなことにはならなかったでしょうに。」
「まぁ、以前から人外に好かれるっちゅう特性の持ち主やったからなぁ。」
「私たちもすっかり誑かされましたか。」
キーやんは冗談めかして言うとるけどホンマ口惜しい話や。
歴史にifをいうても仕方ないんやけどな。
向こうの世界はどないなってしもたんやろなぁ。
「わしらは横島と密接に連絡を取り合って連携しているわけでもない。アシュタロスとの決着は横島がつけることをのぞんどるやろうし、わしらが動きすぎたせいでルシオラ達が生まれへんようになってしもうたら目ぇも当てられへんしな。そうそう動きすぎるわけにもいかへん。」
「そのとおりです。ですからお二方もその辺はお気をつけて。・・・ご自分の娘さんたちを売り込みすぎるのも駄目ですよ。」
ま、その辺はあまり干渉せぇへん方がええやろ。
それからいくつかのことを確認するとみなそれぞれの場所へ戻って言った。
キーやん。頼むで。今の横島を助けるんがわしの役目なら、先の横島を助けるんはキーやんの役目なんやから。
これ以上横島だけに何でもかんでもひっかぶせるんは流石に酷なんやから・・・。