≪令子≫
ローマ空港。
唐巣先生が助っ人を頼るほどの大物か。
E級G・Sになって早々こんな大きな事件にぶつかるなんてね。
いったい何なのかしら?
「シニョリータ美神!横島!六道!シニョールゼクウ!」
「ど~も。他の人はもう集まったの?」
「ええ。既にチャーター便でお待ちです。お疲れでしょうが時間もありませんので真っ直ぐチャーター機へ。」
「令子ちゃんたち以外のG・Sと組んで仕事するのって初めてだから楽しみだわ~。」
「オタクはね。私はあるけどはっきり言って最悪だったワケ。偉そうなことばっかり言ってこっちを馬鹿にしてたくせにいざとなったら真っ先にやられて、私が庇ってやったんだから。全部が全部そんな奴らじゃないと思うけど、一応覚悟はしといた方がいいワケ。」
チャーター機まで着く。
「島までこれで行くの?」
「いえ。途中からは船になります。なにしろ何もない島なもんですから。」
私たちが乗り込むと飛行機はすぐに飛び立った。
今はまだE級のG・Sでしかない私たちは、先に来ている先輩(であろう)G・Sに挨拶することにした。
下らないことでごねられるよりはいくらかましだからね。
そこにいたのは。
「久しぶり、4人とも。」
この半年間で一番会いたかった人。
会うのが怖かった人。
横島さんだった。(隣にいた雪之丞はその時は気がつかなかった。)
横島さんは以前と変わらない笑顔で。
「お兄ちゃん~。お兄ちゃん~。ごめんなさい~。ごめんなさい~。」
真っ先に動けたのは冥子だった。
冥子は横島さんに抱きついて泣きじゃくりながら謝っている。
いきなりの行動に横島さんもどうしたらいいのかわからないといった感じになっている。
・・・横島さんのこういう顔を見るのは初めてかもしれないわね。
なんだか可愛い。
「忠にぃ・・・。久しぶり。」
「エミ・・・。」
エミまで横島さんに抱きついた。
「皆に元・殺し屋だって告白しちゃった。それでも皆私と友達でいてくれるって。・・・私も、私も忠にぃが何者であっても離れないから。私も、皆も忠にいの傍にいるから。」
「私も横島さんと一緒に戦うからね。今度魔族が襲ってきたときは一人で戦わないで私にもちゃんと教えて。」
私も横島さんに抱きついた。男の人にこんなことするのは初めてだけどなんか安心する。
『横島君モテモテやなぁ。』
『いや、あれで本人は好意をもたれてることに気がついてねえんだ。気がついてたとしても親愛とか友愛程度にしか感じてないだろう。』
『あれでか?何ぼなんでも鈍すぎるんとちゃう?』
『俺に言うなよ。』
・・・だれかいる?(気がついてない)
「よ、ミカ姉。久しぶり。」
「雪之丞。あんたまで来てたの?」
「・・・師匠の隣に座ってんのにようやく気がついたのか?いくら師匠にあえて嬉しいからっていくらなんでもなぁ。」
・・・・・。
「そういうことを言う口はこの口かしらね~。」
雪之丞の口の両端を思い切り伸ばす。
「ひかねぇ。ギフギフ!」
とりあえず放してやる。
「いってえなぁ。」
「姉弟子相手に口の聞き方くらい気をつけなさい。」
そんなことをしているうちに冥子たちも落ち着いたようだ。
・・・今一瞬、横島さんが目元を拭いたように見えたのは目の錯覚?
「あ、紹介するよ。イギリスで出会ったG・Sで式神使いの鬼道政樹だ。」
「鬼道政樹です。よろしゅう。」
鬼道さんは席を立つと通路まで出てきて私たちに向かっていきなり土下座をしてきた。
「ボクの父さんが六道はんにはえらい迷惑をおかけして申し訳ありません。堪忍、この通りです。」
「ちょ、いきなり何を。」
「鬼道。とりあえず頭を上げろ。・・・鬼道の父親がこの間の将門事件の黒幕の一人なんだ。」
それで。
「え~と~、政樹君はあの事件と関係がなかったんでしょう~。だったらいいじゃないの~。」
「おおきに。」
ま、冥子ならね。
「皆さんお知り合いだったんですか?」
っと、依頼人のことを忘れてた。
「あぁ。・・・ピート、お前は令子ちゃんたちには話したのか?」
「いいえ。・・・ですが話しておいた方がよさそうですね。皆さんにお話していなかったことがあります。僕はバンパイア・ハーフで皆さんに相手をして欲しいのは僕の父親でブラドー伯爵という最強の吸血鬼の一人です。」
「吸血鬼の血をひいてるせいで人間に命を狙われることもあっただろうからな。黙っていたことは許してやってくれ。」
「ま、仕方ないわね。」
「は~い。」
「了解なワケ。」
「皆さんありがとうございます。」
ピートは私たちに深く頭を下げる。
「マスター。お久しぶりです。」
「ゼクウ。令子ちゃんたちのこと、ありがとう。」
「なに、襲撃はござりませんでしたからな。それより雪之丞殿の雰囲気が変わられたようですな?」
「あぁ。魔装術を覚えたんだ。」
「なるほど。」
魔装術。悪魔と契約したものだけが使用できる術を雪之丞が?
・・・変わった雰囲気もないし、横島さんが承知しているみたいだし問題ないか。
そうやってそれぞれの近況を話しているときにそれはやってきた。
飛行機を大量の蝙蝠が取り囲んでいた。
「蝙蝠か・・・!!しまった!!昼間と思って油断した!!」
『イタリアーノ。脱出シマース。チャーオ。』
・・・対策を練る前に2人の操縦士が自分達だけ脱出した。いくら想定外のこととはいえあんたらプロとしての意識無いのか!
「んにゃろ。」
「マスター。行って参ります。」
「あぁ。ユリン、ドラウプニール!」
「シンダラちゃんお願い!」
真っ先に雪之丞が背中から翼を生やして飛び立った。散弾のような霊波砲に炎をまとわせて蝙蝠を焼き尽くす。凄い。少し見ないうちに凄く強くなってる。
ゼクウさまやユリン。シンダラも快調に蝙蝠たちを落としている。
「凄い。これなら・・・。」
ピートが呟く。
確かに凄いわ。でも、こんなときに役に立てないのが辛いわね。せっかく久しぶりに会った横島さんに成長を見てもらいたいのに。
程なく蝙蝠は駆逐された。
「横島さん。大丈夫ですか?」
操縦室に真っ先に行った横島さんにピートが尋ねる。
「油圧がドンドン落ちていってる。これは燃料室に損傷がでたな。これが無ければダマシダマシ飛べるんだけど仕方ない。ユリン、フレスベルグ!」
外を飛ぶユリンの体長がこの飛行機よりも大きくなる。そのままユリンは飛行機と並んで飛んだ。
「雪之丞とゼクウとシンダラ、メキラで中にいる人間をユリンの背中へ。島までユリンで飛んでいく。」
ユリンもまた強くなってるのね・・・。
島まではその後何事もなく飛んでいく。
「最初からユリンで飛んでいった方がよかったんじゃない?」
「流石にイタリア空軍が不審な飛行物体ということで止めに来ることになると思うぞ?」
そりゃそうか。ちょっとした怪獣だものね。
ちなみに乗ってきた飛行機は海洋汚染しないようにと横島さんが消滅させた。
ブラドー島に着いたのは日も沈みかけてたときだった。
横島さんはなぜかその夕日をじっと見詰め続けていた。
何か思いつめたような、いや、悲しい表情なのか?
「唐巣先生がブラドーが外に出ないように結界を張っていたのですが奴の使い魔が外に出ていたところを見ると結界が弱まりつつあるようですね。・・・見てください。あの古城がブラドーの棲家です。先生はふもとの村でまっているはずです。」
「島中が邪悪な波動で包まれているわね。」
「これじゃあ隣に吸血鬼がいても霊能が働かないワケ。」
村についてもそこにはだれもいなかった。
「流石に吸血鬼の村やなぁ。教会があらへん。」
「ユリンに生き残りの捜索を頼もう。」
「・・・これが落ちていました。」
村を探索していたピートが壊れかけの眼鏡を持ってくる。
「唐巣先生の眼鏡。・・・!」
「まだやられたと決まったわけではありませんが。僕達だけで戦うつもりでいたほうがいいでしょう。・・・今日のところはどこかの家で休ませてもらいましょう。ブラドーは必ず攻めて来るでしょうが夜に吸血鬼の居城に行くよりはましなはずです。」
「応戦しつつ夜明けを待って反撃ってわけね。いいんじゃない?」
横島さんは特に反論しない。私たちの意見を採用ってとこ?・・・駄目ね。いつまでも頼りっぱなしにならないように気をつけないといけないわね。自分で考えなきゃ。
「・・・どこか霊的に安定した場所はない?結界を張っておきましょう。応戦するにしても少しはましなはずよ。それか、ブラドーの盲点になるような隠れ場所でもいいわ。」
「隠れ場所は難しいでしょうが、そうですね。あの家に防御結界を張っておきましょう。」
「・・・いや、隠れるというのはいいアイディアだ。ユリンに霊視させたところ地下に大規模な地下通路があるみたいだ。ピートはこの空洞についてなんか知ってるか?」
「いえ、700年この島で暮らしてきましたが、あいにく。」
「・・・なら、ブラドーも知らない可能性が高いな。隠れ場所はそこにしようと思うのだがどうかな?」
「そうですね。どこか入り口はわかりますか?」
「あの家の地下に入り口があるようだ。申し訳ないが食料と水も一緒にいただいておこう。」
そういうと横島さんは式神ケント紙を取り出すと人型に切り始めた。
「髪の毛を少しもらうぞ?」
「それはいいけど何をするつもりや?」
「ん?チャフっていうか、嫌がらせって言うか、時間稼ぎって言うか。」
私たちの髪の毛を埋め込まれた式神ケント紙は横島さんの合図と共に私たちの姿と霊波の質をした分身になった。無論、元が式神ケント紙だから強さは比べるべくもないだろうが。
「日が昇るまで侵入者に対して抵抗しろ。」
横島さんにそう命じられるとそれぞれが別の家に入っていった。
「それじゃあいこうか。」
私たちは横島さんの後ろについていく。
・
・
・
≪ピート≫
横島さんの言うとおりそこには大規模な地下通路があった。
「こんな大規模な地下通路があるなんて、700年もこの島に住んでてきがつきませんでした。」
「ま、往々にして自分の足元なんてそんなもんさ。それより、でていらしたらどうです?」
?
「やぁ、ばれてしまったか。」
「「唐巣先生!」」
「やぁ、しばらくぶりだね。」
「ご無沙汰でした。」
横島さんが唐巣神父に軽く頭を下げる。
「うん。話は聞いているよ。イギリスでも大活躍だったそうじゃないか。」
「何処から?・・・あぁ、西条からか。」
「その通りだよ。さて、少し状況を説明しておこうか。実を言うとこの島には純潔の人間というものが存在しない。皆吸血鬼かバンパイア・ハーフなんだよ。」
「その通りです。ブラドーの魔力が島を人目から隠してきたおかげで、僕達はこれまで人間と対立することなく生きてこれました。村人達も僕も血を吸うことなく普通に暮らしてきたし、これからもそうしていきたいのです。」
そうだ。それをあのボケ親父が。
「それをあのボケ親父のブラドーは・・・13世紀のノリで世界中を支配する気でいるんです。あぁ、もし人間が本気になったら・・・こんな島など一瞬で大蒜まみれに・・・。あぁっ地獄だ。」
「それはまぁ、地獄のような臭さでしょうね。」
「ここには村人の約半数がこの通路の奥に避難しているが残りはブラドーに操られている。」
「・・・それを助けることは異論はないが・・・神父、吸血鬼が嫌がるのは大蒜の花の匂いで大蒜の根の匂いじゃなかったような・・・。」
「吸血鬼にもイロイロあるんだよ。」
そういえば遠い親戚のストリゴイィは花の匂いが嫌いらしい。
そうこうしているうちに少し広い空間に出てそこには30人ほどの村人達が僕達を迎えてくれた。
「ピート様、お帰りなさいまし。」
「みんな、よく無事でいてくれた。」
「みての通り吸血鬼とはいえ平和を望む善良な人たちなんだ。力を貸してくれないか?」
「・・・ピート。この契約書にサインを頼む。」
そこに書かれていたのは対象、つまり親父への生殺与奪権の委譲に関する契約書だった。
「しかし親父はもう。」
「知ってるよ。ヨーロッパの人間を2回全滅させかけたんだろう?それでも数万、数十万だ、それに引き換えこっちは百億単位だからな。」
何のことだ?
「・・・いずれにせよ、その契約書がないと俺は依頼は引き受けられない。」
「ピート君。彼の言うとおりにするといい。きっと悪いようにはしないはずだ。」
「わかりました。」
サインを交わし契約をする。
「契約完了。それでは作戦会議をしようか。」
横島さんがなぜか安心できる微笑を浮かべてそう切り出した。