≪雪之丞≫
「これでどうだぁ!」
起死回生の回転蹴りを放つ。
が、
「阿呆!ここ一番で大技に頼るな。」
簡単にかわされて地面に叩きつけられた。
そのショックで魔装術が途切れてしまう。
こっちは魔装術使ってるのに何で文珠どころか霊波刀すら出してない師匠に勝てねえんだ?
「魔装術の制限時間は30分ってとこか。5ヶ月でそこまでできるようになったのはたいしたもんだが、霊的格闘でピンチになったら大技で形勢逆転を狙う癖はやめろ。」
「前はそんなこといわなかったじゃねえか。」
「前はお前の攻撃力が乏しかったから仕方ない面もあって目を瞑ってたんだ。でもお前にはもう魔装術っていう武器があるだろうが。それにアモンの能力も少しずつ使えるようになってるんだろう?今は火炎を出すことと翼で飛ぶことだけだがそれだけでもたいしたもんだし、はっきり言って霊的格闘でお前以上の攻撃力を出せる奴は人間の中じゃほとんどいない。でもまぁ、その攻撃力だって当たらなければ意味がないんだ。基本技を鍛えろ。基本技を鍛えて奥義ともいえるくらいに昇華させた方が絶対にいいぞ?見た目派手な大技は隙が多すぎるからなぁ。」
「何で師匠は俺の攻撃をそんなに受け流せる?ほとんど霊気なんてつかってなかったのによ。」
「ん?お前の霊気を利用した。武術で言えば合気道や柔術に近いか。本来人間が自分より遥かに霊的ポテンシャルの高い魔族や妖怪を相手にするならそういう技術も役に立つってことだ。封印術の中には相手の霊力を利用して封印する術も結構あるぞ。強力な妖魔を封印する技の多くは地脈を使うか相手の霊力を使うか、あるいはそれらを組み合わせるかだからな。」
簡単に言ってのけるが俺の攻撃を完全に見切らないとできないだろう。
あぁ、完全に見切られているのか。
「さっきも言ったとおりお前の攻撃力は霊能力者の中でも頭抜けている。それこそ魔族に近いくらいにな。だからまずは攻撃をあてることを考えろ。BB弾も劣化ウラン弾も当たらなければ変わらないぞ?それにお前の攻撃力ならあてただけでも並の以上のG・Sの攻撃力を上回る。例えばアポピス。あいつは自分の能力だけに頼って戦い方を知らなかった。それでもあいつがライオンならオカルトGメンの隊員は水鉄砲で戦う子供みたいなもんで、普通にやったら傷も負わせられない。水鉄砲の中にガソリンを込めて火を放つくらいのことをやらんとな。あの状況だってキッチリと戦術を練って準備を整える時間さえあれば倒せないまでも追い返すくらいはできたはずだ。・・・まぁ状況がそうさせてくれなかったが。その点お前は小さいながら拳銃を持ってるようなものだ。その銃でもしかしたら倒せるかもしれんし、牽制にだってなる。オカルトGメンの隊員達よりずっと戦術の幅が広がる。戦術って言うのは人間が持ってる最大の武器だ。使いこなせよ。」
「・・・師匠。今の俺はどれくらい強いんだ?」
「・・・天狗になられると困るんだが・・・。」
「師匠に簡単にあしらわれて天狗になれるわきゃないだろうが!」
「そうか?まぁ、単純に強さでいけば令子ちゃんたちは超えてると思う。令子ちゃんやエミは攻撃力に乏しいし、冥子ちゃんの式神とも正面から戦えれば早々遅れは取らないと思うしな。ただ、彼女達には重点的に戦術の方を教え込んでるから今戦えばお前が不利だ。」
「ってことは俺が戦術を覚えたらミカ姉達を守れるようになるんだな?」
「さぁどうかな?強い弱いならともかく守れるかそうでないかなんてのは実際の力量以上に気組みとか経験とか・・・いや、例え相手より弱かろうと守ることはできるわけだ。俺は令子ちゃんや、エミや、冥子ちゃんたちや、みんなには散々守られてるしな。」
「師匠が?」
「俺の中にあるものは知ってるだろう?俺が壊れずにすんでいるのは俺にとって守りたいものがあるからだ。俺はみんなのお陰で俺自身から守られている。みんながいなければ俺は・・・何を言ってるんだ俺は。忘れてくれ。」
忘れられるかよ!師匠が始めて弱音を漏らしてくれたんだぜ?それだけ俺のことを頼りにしてくれるって思っていいんだよな?
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・
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≪横島≫
来客があったのは俺と雪之丞とカオス、鬼道がマリアの淹れてくれたお茶を飲んでいたときだった。
「失礼します。横島忠夫さんですね?唐巣先生の使いで来ました。」
「唐巣神父の?とりあえず中へどうぞ。」
ピートだった。ここでも時間の前倒しが起きているのか。
「僕はピエトロ。今、先生の弟子をしています。ピートと呼んでください。」
互いに自己紹介を交わした。
「先生から貴方宛のメッセージを預かっています。」
差し出された手紙には唐巣神父の直筆のメッセージが残されていた。
『横島君へ。 少し厄介なことになった。留学中にすまないが少し手を貸して欲しい。詳しいことは現地で話します。 唐巣』
「場所も要件もかかれていないな。拘束期間も。」
「場所は地中海の小さな島、ブラドー島です。僕からはこれ以上お話できない。後は先生から窺ってください。」
「あぁ。神父には世話になってるし、それだけ重要なことなんだろう?了解した。」
「待て、横島。・・・おぬし、ブラドー島といったな?その面差し、似すぎておる。お主とブラドー伯爵の関係を話してもらおうか?」
「あなたは・・・。」
「これでも1000年以上生きておるのでな。西暦1242年にブラドー伯爵とやりあったこともあるぞ?最もその時はわしの第2の故郷の緊急事態のために止めを刺すには至らなかったんじゃが。」
「あなたが・・・礼を言います。僕の本名はピエトロ=ド=ブラドー。ブラドー伯爵の息子になります。誤解をもたれたくなかったので唐巣神父に会うまでは伏せてようと思ったのですが。」
「別に気にしなくてもいいよ。吸血鬼だって理由で命を狙われたことも一度や二度ではないだろう?」
「ありがとうございます。」
ピートが頭を下げる。
過去ではわからなかったがこいつもイロイロと苦労をしてるはずなんだよな。
「・・・わしはちょっと完成させねばならん発明品があるのでな。すまんが今回はパスじゃ。まぁ、横島がおればブラドーの10人や20人は大丈夫じゃろう。」
一応あいては吸血鬼最強の男なんだがな。
「じゃあ雪之丞と2人でいくよ。」
「横島君。ボクも連れてってもらえんやろか?」
「鬼道?」
「あれから、ボクも夜叉丸も修業してたんや。足手まといにはならんつもりや。」
「いや、足手まといとは思ってないが。」
「頼む。この通りや。」
「ピート。3人でいいか?」
「ええ。ありがとうございます。3日後にイタリアのローマ空港でお待ちしています。僕は他のG・Sをあたりに日本に飛びますので。」
ピートが帰ると俺はカオスに向き直る。
「カオス。ブラドー伯爵について知る限りの情報をよこしてくれ。」
「よかろう。にしてもお主もなかなか役者じゃのう?」
「ぬかせ!カオスほど老獪じゃねえよ。」
前もって知っているということはこういうときに問題だな。
・・・日本のG・S。恐らく彼女達だ。
審判の時か。
俺は・・・。