≪エミ≫
大人達の告白が終わった。次は私たちの番だろう。
私たちもまた答えを出さなくてはならない。
「次は私の番なワケ。令子、冥子、先にオタクたちに謝っておくわ。私にはオタク達にずっと隠してきたことがあるワケ。」
ちょうどいい機会だ。告白してしまおう。
「私の本当の名前は小笠原エミ。忠にぃとも、お父さんともお母さんとも血の繋がりがないワケ。そしてオタク達に隠していたこと、それは私が元々殺し屋だったということ。」
言ってしまった。
そのまま俯きながら告白を続ける。
「私は10歳のときに両親を亡くして、引き取ってくれた叔母とのそりが会わなくて家をでた。そしてその私を拾ってくれたのが呪殺屋だった元の師匠なワケ。多分、最初は生贄にでも使おうと近寄ってきたんだろうけど、私に高い霊能力の才能があったお陰で私はそいつの弟子として生き延びることができたワケ。ところがその師匠が私が14のときに使役していた悪魔に殺されて、私はその悪魔を引き継いで殺し屋を継いだワケ。」
怖くて上が向けない。
「私自身は法で裁けない悪党を殺すんだと自分をごまかしているつもりだったワケ。ところが最初の依頼から警察関係者だったことに騙されて罪のない人間を殺すとこだった。それを助けてくれたのが忠にぃだったワケ。」
あの時のことを思い出すと今でも体がこわばる。
「私は忠にぃを殺そうとして使役していた悪魔、ベリアルを差し向けたワケ。そして返り討ちにあった。私は令子や冥子とは違って忠にぃの暗い部分は知っていたワケ。私が自分の仕事を正当化しようとしたとき、忠にぃがあの暗い瞳で人を殺すということを教えてくれたワケ。お陰で私は一人も殺さないうちから殺し屋を廃業できた。・・・師匠の殺しの片棒を担いでいたことには変わりはないけどね。」
私の罪もまた消えない。それでも忠にぃは日の当たる道を作ってくれた。
「冥華さんと忠にぃが私の新しい戸籍と、家族を作ってくれたワケ。お父さんも、お母さんも私のことを承知で娘として受け入れてくれて、忠にぃのお陰で人生をやり直すことができたワケ。令子、冥子、オタク達を騙していてことについては本当に謝るわ。ゴメン。」
場合によっては、令子と冥子との関係はこれで終わる。生まれて初めてできた親友だけど、それもしょうがないワケ・・・。
頭をたれていた私を暖かいものが包んだ。冥子、それに令子。
二人が私を優しく抱きしめてくれた。
お父さんとお母さんが背中を擦ってくれている。
私は恥も外聞もなく泣き出してしまった。
本当の意味で、私は孤独でなくなったんだ。
忠にぃ。私ちゃんと泣けるから。
ちゃんと泣けているから。
だから忠にぃ、忠にぃも泣きたいときに泣いてよ。
辛かったら辛いって言ってよ。
私でよければ胸でも何でも貸すから。
胸を貸して泣かせてあげられるくらいに強くなるから。
いつでも泣かせてあげられるように傍にいるから。
私は忠にぃと一緒にいるから。
≪令子≫
エミと親友をやってきたというのに、私はエミがあんなに苦しんでいることにきがつかなかった。
ママがあんなことを考えていたことも知らなかった。
横島さんに護られていたなんて、知っていたはずなのにわからなかった。
悔しい。
悔しい。
悔しい。
エミが泣き止んで、
私も冥子も泣き止んで、
この場にいる全員が泣き止んで。
横島さんは辛い修業を自分に課している。
知ってるはずだった。
横島さんは私たちを護り育んでくれた。
知ってることだった。
横島さんが暗い闇を心の中に潜ませていた。
知らなかったこと、そして知ってしまったこと。
横島さんが私たちをいつも優しい、温かい瞳で見つめてくれていたこと。
知るまでもなく判っていた。
家族の絆を守ってくれた人。
いつでも自分の意見を押し付けず、私たちが答えを出すまで待ち続けてくれた人。
誰より強く、誰より優しく、誰より悲しい人。
正直私が憧れていた人。
そしてあの時、私が恐怖してしまった人。
悔しい。
悔しい。
悔しい。
私はあの人について何も知らず、何も知らされない程度の人間だった。
それが悔しい。
横島さんを恐怖してしまったこと。
それが悔しい。
そして情けない。
パーン!
両手で頬を思い切りひっぱたいた。
「美神の家の女は戦う前に負けを認めるようなことはしない。幾度負けようとも最後には勝ち、笑うのが私達の流儀。そうよね?ママ。」
「そうよ。それが美神の家訓よ。」
「だったらこんなことで諦めて、逃げ出すようなできないわ。ママ、私は横島さんと一緒に戦うからね!」
「それでこそ美神の娘よ。」
我ながら素直じゃない。
素直じゃないけど、
少しだけ誇らしかった。
≪冥子≫
令子ちゃんも~、エミちゃんも~、お兄ちゃんと一緒に行くことを決めたのね~。
でも私は~。
私は~。
お兄ちゃんは~生まれて初めてできたお友達だったわ~。
12神将達を怖がらずに話しかけてくれた初めての人~。
私の傍にいてくれた初めての人~。
私と遊んでくれた初めての人~。
私にお友達を作ってくれた人~。
私がお友達を作れるように強くしてくれた人~。
私を初めて信じてくれた人~。
私を、寂しい気持ちから救い出してくれた人~。
それなのに~。
それなのに私はおにいちゃんを怖がってしまったわ~。
お兄ちゃんを避けてしまったわ~。
お兄ちゃ~ん。
お兄ちゃ~ん。
会いたいよ~。
でも、会えないよ~。
知らず知らずのうちにまた涙が出てきたわ~。
「・・・冥子、貴女はどうしたいのかしら~?」
「会いたいよ~。お兄ちゃんに会いたいよ~。でも~、会えないわ~。」
「どうしてかしら~?」
「だって~、私~、お兄ちゃんを怖がってしまったんですもの~。お兄ちゃんを避けてしまったんですもの~。」
「・・・少しはしっかりしてきたと思っていたけど~。やっぱりまだまだ子供なのね~。悪いことをしたらいったい何をしなくちゃならないのかしら~。」
「・・・謝るの~。」
「そうね~。だから横島君に謝りましょう~。許してもらえるまでいっぱいいっぱい謝りましょう~。お母様もいっぱい横島君には謝らなくてはいけないことがあるんですもの~。だから一緒に謝りましょう~?」
「・・・はい、お母様~。」
お兄ちゃ~ん。ごめんなさい~。
今度あったときはいっぱいいっぱい謝るから~。
だから私も連れて行ってね、
お兄ちゃ~ん。
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≪ゼクウ≫
マスター。
やはりこの方々はあなたのお仲間です。
ですからマスター。
自分をあまり責めないで下さい。
「・・・皆様方の決意はわかり申した。・・・某はマスターの過去を知り、この中で最もマスターを知るものと自負しております。マスターの過去につきましては申し訳ありませんがお話しすることはかないません。ですが、それ以外についてマスターの意思に反しないうちのことであればご質問にお答えしようと思います。」
「それでは私から質問をさせてもらうわ。横島君は結局何者なのかしら?」
「そちらにおられる大樹様、百合子様の実のご子息で、皆様方の味方、皆様方の守護者、皆様方を心より愛しておられる方、そして唐巣神父がおっしゃるとおり、自らの断罪を望んでおられる方です。これが全てではございませんが、嘘偽りもございません。」
「横島君は私と同じ時間逆行能力を持ち合わせてるのではなくて?」
流石に美智恵殿は鋭いところをつく。
「確かに文珠を使えば理論上は可能ですが、恐ろしく制御の難しいものになります。ですのでマスターは自分の力でそれを行いません。」
これは嘘ではないだけの軽いペテンだ。
「最後に、この間横島君が見せたあれはいったい何なの?」
「狂気の顎のことですかな?」
「そうよ。あれはいったい何なの?力も、そして何よりあり方が尋常じゃあなかったわ。」
「マスターの心の内にある狂気を霊力の源として作り出した霊波刀でございます。・・・本来感情というものは霊力と密接な関係を持ち合わせます。霊能力を持たぬものでも恨みの念が高まれば化生したり呪いを生んだりいたします。とりわけ、負の感情というものは霊力の集中と相性がよろしい。負の感情はその性質上際限なく高まってしまい、その上、特定のものに集中いたしますれば。」
そこで言葉を区切る。
「某らのような神魔族は本来の意味で肉体を持ち合わせておりませんので感情によって容易に己のあり方が変わってしまいます。故にそこまで感情が高まるということはそれほどありませぬ。あまりに長き時を生きていればそもそも感情というものも希薄になってしまうものもおりますし。しかし人間は肉体を持ち合わせて生きていますれば感情によって己のあり方が変わるということは肉体の呪縛より解き放たれる死を待つより他にありませぬ。そしてそういった感情に慣れるという事態も起こりうるのです。あまりに負の感情を溜め込みすぎては早々に自滅してしまいますれば慣れるほどに感情を保ち続けるものなどそうは居りませぬが。が、そういった感情を抱きつつ長き時間の中を死ぬことができなければ、狂おしいまでの負の感情を抱きながら平静であるという矛盾が起こりうるのです。」
ゆっくりと言葉をつむぐ。
「マスターが正しくその状態にあります。理由は申し上げられませんが、マスターはその内に様々な負の感情を人間の、いえ、神魔の許容上限すら超えて秘めており、それは悪夢であった某を悪夢だいられなくさせ、霊波刀から僅かに漏れる霊気だけで皆様方の心を破壊しかけるほどに。その上で平静であり、皆様方を愛しておられるのです。」
また、傷つけてしまったな。
しかしそれでも教えておくべきなのだろう。
マスターと共に生きる覚悟があるというのなら。
「故に、マスターは己の本来持つ霊力で無限の狂気を源とする霊力を制御し、本来己がもつ霊力以上の力を発揮しておられたのです。」
某の言葉はそれ以上の質問をさせぬほどにショックを与えたようだ。
なれどマスター。
マスターが次に彼女達に会うときを楽しみに待っていてくだされ。
例え僅かなりとも、マスターの心を救ってくれるはずです。
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≪百合子≫
私は母親失格なのかもしれない。
私は忠夫が何でそこまで傷ついているのかも知らない。
そして教えてもらってもいない。
それでも、それでも私は忠夫の母親でありたい。
子育ての楽しみなんか感じさせてくれないような、昔っから男の瞳をする息子だったけど。
私にとっては可愛い息子なのだから。
だからね、忠夫。
こんなにいい娘さんたちを泣かせっぱなしでいるんじゃないよ。
母さんはそんな馬鹿に育てた覚えはないんだからね。
それで、それでもしお前が倒れるようなことがあったら母さんいつでも何処でも助けに行くから。
お前が傷ついたら守ってやるから。
だから忠夫、
少しは母さん達を頼ってちょうだい。
私たちは貴方の親なんだから。