≪横島≫
あのあと唐巣神父の推薦状を得て、晴れて3人ともG・S資格試験を受けられるようになった。
今日、明日と行われる試験に過去の俺のような横槍が入らないかと思っていたが特にそういった様子はない。
第2試験の1回戦、2回戦で3人がぶつかる様なことがなければ問題なく合格できるだろう。
六道女学園からは3人の他に3年生が3人登録しているが、そのうちの2人は今年の4月から俺の講義を受けていた子だった。
観戦席の最前列の一角には俺と唐巣神父の他に冥華さんと美智恵さん。雪之丞が来ていて無駄に豪華な一角を形成している。
美智恵さんは現在国連本部のオカルトGメンでその辣腕を振るい、日本支部設立を目指していた。
結局こちらでもオカルトGメン入りしたのだ。
しかし多忙なくせに月に3,4回は令子ちゃんの顔を見に来る辺りかなりの親馬鹿だ。
知ってたけど。
今回もわざわざ今日、明日の資格試験の視察という理由で出張してきてるのだからかなり公私混同なのだがキッチリ仕事もこなしているのでまぁいいだろうという気もする。
こちらの歴史では公彦さんと令子ちゃんの仲はさほど悪くはない。
前回の歴史では美智恵さんが死んで傷ついているときに急に出てきたのに対し、こちらでは美知恵さんの紹介で知り、理由を説明されたことで心の余裕があったことが主な理由だろう。
いまだぎこちないながら、少しづつ親子になっていっている。
俺も公彦さんに会ったのだが、公彦さんは俺の心を読むことはなかった。
ゼクウによればどれだけ強力なテレパスでも、ヒャクメの心眼でも俺の心を読むことは出来ないとのことだ。
受信側の許容量を超えるので受信側が見えていても認識できない。認識しようとすれば俺と半ば以上同化するしかないらしい。
これでヒャクメと出会い頭に彼女を壊してしまうことは避けられたので僥倖なのかもしれない。
正直公彦さんのことも壊してしまわないかかなり心配だったのだが。
雪之丞は正式に俺の弟子になった。
もっと時間がかかるかと思っていたんだが、白龍寺が第5までチャクラを開いていた闘龍寺開祖の流を汲んでいたために寺で行われる修行の中にチャクラを開くための修業に近い修業が盛り込まれていたのが幸いだったようだ。
無論、雪之丞自身の努力と才能にかかる部分も大きかったろう。
今は第2以降のチャクラを開放することと同時に俺が戦闘技術を、ゼクウが武術を教えている。
3人との仲もなんだかんだ良好で、弟分として可愛がられている。
・・・マザコンの上にシスコンにならねばいいのだが。
俺の前に6人の女の子。令子ちゃんたち以外にもなぜか六道女学園の他の生徒までやってきている。1学期から俺の教え子だった月宮真夜ちゃん、諏佐野七海ちゃん、それから3学年の主席の天神陽子ちゃん。
「第一試験は問題ないと思う。けど、君たちは冥子ちゃん達とはなれて登録した方がいいな。」
「どうしてですか?」
「第一試験は霊圧の高さを測るんだけど機械的な判定よりも審査員の感覚に頼ってる部分が大きいから近くに高い霊圧を放っている人間がいると相対評価で査定が厳しくなるからね。冥子ちゃんたちの霊圧は受験者の中どころか現役のG・Sの中で考えてもTOPクラスだから合格基準に達していても不合格にされてしまう可能性があるから。」
俺のときは手加減したけど3人にはまだそこまで器用な真似は出来ないしな。そうなると100マイトを超える霊圧が3人固まることになり、どうしたって周囲の人間への査点は厳しいものになる。
「それでは仕方ありませんわね。」
陽子ちゃんは元々エリート志向の塊のような子だったが臨海学校の一件以来、良い意味で柔らかくなっている。
「そろそろ時間だしいっといで。よほどのことがない限り大丈夫だから安心して。」
そういった6人を送り出した。
「すっかり先生ね。横島君。」
「そういうガラではないんですけどね。」
「あら~。横島君は良くやってくれてるのよ~。」
「私も六道女史から話は聞いているよ。君の教育方針はG・Sになったあとで非常に役に立つことだ。」
まぁこの段階では特に心配することもないから軽口も出るか。
実況席では解説の席に座る小柄でグラサンをかけた怪しい中国人が大声で宣伝をしているのを実況席のアナウンサーに殴られて止められていた。・・・あの2人はアレを毎年やってるのか?俺のときもそうだったが。
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≪美智恵≫
あの子達も強くなったわね。
単純に出力じゃあ私以上だわ。
3人とも第一次試験を終えて帰ってきた。
他の3人も問題なく合格してきたのでいよいよ本番の第2試験に入る。
「まずはおめでとう。いよいよこれから実技に入るわけで、ラプラスのダイスの目如何によってはお互いに潰しあう可能性もあるんだけどその点は悔いを残さないようにとしか言いようがないな。2回戦を勝ち上がればG・S資格は手に入るんだから1回戦では可能な限り自分の手札を隠すこと。隠しすぎて負けたら何にもなんないから適度にね。ええと、何かあります?」
横島君がこちらに振ってきた。
「みんな頑張ってね~。先生はここで応援してるから~。」
「来年以降もあるんだから無理はしないように。悔いを残さないように頑張ってきたまえ。」
もう少しフォローしとこうかしら。
「横島君が言った事は所謂情報戦ってやつよ。こちらが相手に与える情報を少なく、逆に対戦相手の試合を見てなるべく情報を集めなさい。ただし、試合を見て得た情報が全てと言うわけではないから油断をしないようにね。」
みんな真剣な顔で頷いてる。このくらいの歳の子は無駄に潔癖でこのての話は嫌うんだけど、横島君の教育が生きているようね。
横島君じゃないけどこの子達なら潰しあわなければ大丈夫だろう。
下手なG・Sよりよほど心構えが出来てるんじゃないかしら?
試合の第一回戦。
幸い身内同士で戦うのは3回戦以降なので上手くすれば全員資格試験合格もありえる。令子達は準決勝で令子とエミちゃんが。勝った方と冥子ちゃんがやるまでは当たらない。
令子は本来の先の先の戦法を後の先に変えても完勝。神通棍を持たずに素手で戦っていたが霊力差が大きいので問題にならなかった。
エミちゃんも素手。得意の呪術は使わずに霊的格闘だけでケリをつける。横島君は2人にあまり霊的格闘を教えてはいないらしいが中々どうして。かなり熟練している。そのことを褒めたら『あんな講義を受けてたら私達みたいなタイプは嫌でも霊的格闘能力が上がるわよ。』とのこと。後で六道先生に講義資料をいただこうかしら?
冥子ちゃんは流石に式神を使ったが怪力の猪の式、ビカラだけを用いて勝つ。以前だったら無駄に12鬼を出して戦っていたのにたいした成長だ。式神をこれだけ扱えるならこの試験で令子の最大のライバルになるのは冥子ちゃんだろう。試合形式では呪術は使いづらいからエミちゃんは楽に勝てないだろうが負ける可能性は低い。それに準決勝でエミちゃんと当たる令子より体力面で有利にたつ可能性が高いし。
他の3人も順調に勝ちあがっている。
「なぁ、師匠。やっぱ俺も出たかったぜ。」
「阿呆。確かにお前なら合格できたかもしれないがG・S資格取る前に教え込まなきゃならないことがいっぱいあるんだ。」
「そうはいってもよ。こうなんていうか見てるだけだと。」
「お前はもう少し防御を覚えてからな。知識だってまだ全然だし。G・Sは格闘家じゃないんだからもう少し霊的格闘以外のことも覚えろ!」
微笑ましい会話と言えば微笑ましいのだが、雪之丞君はまだ14歳のはず。そうか。合格できるかもしれないくらいの実力はあるのか。
・・・なんか急に老け込んだ気分だわ。
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≪雪之丞≫
今日が試験の本戦とも言える第2試合第2回戦の始まり。1勝すればG・S免許が発行される。ミカ姉、エミ姉、冥子姉なら問題ないだろう。
ミカ姉の最初の相手は白龍寺の俺の兄弟子だった奴だった。
『ふん!こんな小娘が相手とはな。』
「あいつ!」
「落ち着けって。よく見てみろ。」
師匠の声にいったんいきりたったのを落ち着ける。
そうしないと力づくで落ち着かされかねないし。
「どっちが格上に見える?」
ミカ姉とあいつ・・・
いや、あいつ。あんなに小さかったか?
俺が白龍寺を出たのはつい5ヶ月前でしかなかったが。
「弱い犬が吼えてるようにしかみえねぇ。」
「令子ちゃんには鼠かなんかに見えてるんじゃないかな?」
試合が始まって一瞬。
カウンターをもろに食らってあいつは自分より数段小柄なミカ姉にぶっ飛ばされた。
『勝者美神!美神選手G・S資格所得!』
身震いがしてきた。
ミカ姉の試合もそうだが俺自身のことだ。
たった5ヶ月前、俺より数段強いと思ってたあいつが今じゃ問題にならねえ位に弱いとしか思えねえ。
あの時師匠についていくことにしたのは間違いじゃなかった。
「アレでもG・Sになってもおかしくない実力はあった。ま、最低限のだけどな。お前は別に資格が欲しいだけじゃないんだろ?だったらもう少し我慢しておけ。今のお前は実戦をつむより体を作る方が先決だからな。」
「あぁ、わかったよ。これからもよろしく頼むぜ!師匠。」
そうだ。俺は強くなる。ママと約束したような強い男に!
そうこうしているうちにエミ姉の試合が始まった。
エミ姉の式神使いだった。
『芦谷家に伝わる64の猛禽をくらえい!』
「冥華さん。アレ、妙に弱い気がするんですけど?」
「あぁ、アレは別物よ~。あそこの家が何代か前に生み出した新しい式よ~。自分の名前が芦谷だからって言うハッタリなの~。」
「あぁ、やっぱり。」
「どういうこった?」
「安倍晴明は知ってるな?六道の家も元々は晴明を祖とする土御門流の式神使いだし。まぁ、平安時代最強のG・Sだな。その晴明と並び称されるのが法師陰陽師の蘆屋道満。64の猛禽ってのはそいつがつかってた式のことだ。」
「それって何か意味があるのか?」
「まぁ、少し前までのG・Sははったりも必要だったからな。」
『ええい、ちょこまかと!』
『そんな単調な動き、ユリンと比べたらキャッチボールしているようなもんなワケ!』
試合はエミ姉が式神の攻撃をひたすら避けているだけだった。
数は多いが連携が取れてない上に攻撃してくるのも数匹ずつといった具合だ。
5分もそんな攻防が続いたろうか?式神が制御しきれなくなって暴走し、自分の式神にそいつはぶっ飛ばされて気を失った。
「式神を扱いきれてないな。スタミナも低い。」
「ほんとね~。今まで数に任せての短期決戦以外したことないんじゃないかしら~。」
『勝者横島!横島選手G・S資格所得!』
「式神使いってアレでいいのか?」
「いいわけないでしょう~。式の力を活かしきれてない上に自爆なんて最低よ~。・・・でもうちの冥子は下手すればアレ以下になっていたのね~。ありがとうね~横島君。おばさん本当に感謝するわ~。」
「いや、アレ以下ってこともなかったと思いますけど・・・。ほら、冥子ちゃんの試合が始まりますよ。」
冥子姉の相手は神通棍を構えたオーソドックスなタイプの相手。
今までの相手よりはまともそうだ。
『いくぞ!』
神通棍でビカラに殴りかかる。
ビカラが不意に影に潜った。
そのために空振りたたらを踏んだ相手に影から蛇の式神サンチラが飛び出し体勢を崩した相手を絡めとった。
『ギ、ギブアップ。』
『勝者六道!六道選手G・S資格所得!』
「冥子~!」
『お母様~!』
大盛り上がりをする2人。
「式神を使うって言うのはああいうことだ。覚えておくといい。」
「俺とは相性最悪だな。」
「まぁな。霊的格闘で対処しようとしたら本体を狙うしかないだろう。大概の操作系術師は本人の戦闘能力が低いことが多いからな。冥子ちゃんもそうだ。だから冥子ちゃんにはイメージの訓練をつませて反射的に式神を使うことが出来るようにしている。」
「師匠ならどう戦う?」
「俺か?式神へのダメージは術者にフィードバックされるから適当な式神殴って気絶させるかな?」
さ、参考にならねぇ・・・。
他の3人もG・S資格を順調に獲得していく。
姉ちゃん達はずっとあの調子で実力を大して出さずに勝ち進んでいった。
「・・・師匠。さっきから何やってんだ?」
師匠はしかめ面を浮かべながらろくに試合も見ないでいる。
「ん、あぁ、ちょっとな。・・・いや。・・・なぁ、雪之丞。おまえ、令子ちゃんやエミ、冥子ちゃんのことを護りたいとかって思うか?」
「今の俺じゃあ姉ちゃん達よか弱いだろう?」
「ほう、自分が弱いって言えるようになったか。成長したな。」
「茶化すな師匠!」
「褒めてんだよ。自分の弱さを認められないうちは強くなるのは難しいからな。んで、どうなんだ?」
「そりゃあまぁ、姉ちゃん達には世話になってるし、ママに似てるし。」
「お前、それいい加減に直した方がいいぞ?誰かが他の誰かの代わりになんて絶対できっこないんだから。どっちに対しても失礼だ。」
「・・・わかってるよ。」
「ならいいけどな。・・・ちょいと頭貸せ。」
俺の頭の上にユリンが止まると映像と音が聞こえてきた。
この会場のどこかの部屋で数人のオッサンどもが話し合いをしていた。
『また六道のところか。』
『あぁ、唐巣、美神、横島だけじゃ飽き足りないらしい。』
『これ以上戦力を増強するきか。』
『女妖め!このままでは日本G・S界は六道に制圧されてしまうぞ。』
『いささか乱暴だが手は打ってある。』
『あぁ。日本G・S界を正しい者達の手で管理せねばな。』
映像はそこで切れた。
何だアレは!
「何処へ行く気だ?雪之丞。」
「決まってんだろ!あいつら見つけ出してぶっ飛ばしてくる。」
「落ち着け!お前が今行ってどうこうって問題じゃない。」
「そうよ~。雪之丞君も落ち着いて~。」
そっちに振り返って・・・めちゃくちゃ怖え!
冥華さんは笑ってるがめちゃくちゃ怖い!
「今行っても証拠なんかないさ。ユリンの偵察じゃあ証拠にはならないし。それよりきちんと証拠を固めてから潰す。」
「そうよ、雪之丞君。今行ってはこちらの立場悪化させるだけよ。」
美智恵さんにもとめられてとりあえず怒りを納める。当事者がこういってんのに俺が行って状況を悪くするわけにはいかない。
「神父もいいですか?」
「仕方がないね。穏便に済ませたいが向こうがそう思っていない以上どうすることも出来ないか。」
「どういうこった?」
「少し前から六道に対する裏工作が始まってたんでな。今日冥子ちゃんたちが活躍すればそいつらが何らかのアクションを取るだろうとふんで会場中にユリンを飛ばして情報を集めていた。まぁこれで相手はわかったし、しばらくは証拠固めをするさ。」
「横島君。雪之丞君にまで教える必要はなかったんじゃないか?彼はまだ14歳なんだぞ。」
「かもしれません。ただ、雪之丞には何かを護るためにはこういう手段をとることも必要だってことを教えときたかったんです。拳を振るうだけじゃあ解決できないことがあるって。」
「しかしねえ。」
「神父。俺は教えてもらってありがたいと思ってるぜ。んで、ただ教えたかったわけじゃないんだろ?」
「いや、ただ教えたかっただけだよ。知った上でお前がどういう行動をとるかはお前の自由だろ?拳を振るうことで護れるものだっていっぱいあるんだしな。有限な時間の中でお前がどんな道を選ぶかはお前が決めろ。」
師匠は俺を一人前の男と認めてくれてるってことか?
それでいいんだな?
ならおれは、それに恥じない答えを出さなきゃいけない。
試合は進んで準決勝。まずは冥子姉が決勝進出を決めた。対戦相手だった天神っていう姉ちゃんも善戦したが冥子姉が3体同時に式神を使うと捌ききれずに猿の式神マコラに当身を食らって気を失った。
次はミカ姉とエミ姉の戦いだ。
『お互い運が悪いわねえ。この次が冥子でしょう?』
『そうねえ。でも運が悪いのは私なワケ。オタクにはここで負けてもらうワケ。』
エミ姉が始めて呪具を使った。呪印を施した紙人形が試合場の結界の中を花嵐のように乱れ舞う。
『触れたところから力が抜ける?』
『その一体一体が【衰弱】の呪いなワケ!オタクは私に近寄れないまま倒れなさい!』
ミカ姉の体から徐々に力が抜けていく。前進しようとすると余計に紙人形が体に触れて。
『・・・エミ、やるじゃないの。こいつは冥子にとっとこうと思ったけどあんたにくれてやるわ!』
ミカ姉の神通棍が変形した。本来棍棒である部分が鞭状に伸びる。
そのまま伸びた鞭がエミ姉の胸元に当たりエミ姉は気を失った。
『勝者美神!美神選手決勝進出!』
「アレはいったいどうなったんだ?」
「神通棍が令子ちゃんの念の出力に負けて変形したんだよ。令子ちゃんは道具を使うタイプの霊能力者だからどうしても中、遠距離はお札に頼らざるえないが、これで中距離戦闘に関しては弱点を埋めた形になったわけだ。」
「令子、いつの間にあんな真似を?」
「令子ちゃん達だってもう自分の力で成長できますよ。俺だってエミのあの呪いははじめてみましたから。あいつなりに自分の弱点。直接戦闘の場合の攻撃力の低さを補おうとした結果でしょう。」
エミ姉は簡単なヒーリングを受け、3位決定戦に進出するとさっきの呪いであっさりと勝ち、俺たちの席にやってきた。
「あ~あ、令子なんかに負けちゃったワケ。」
「だが面白いものを思いついたな。ベースはイージス理論の非武装結界の応用だろうけどアレならこめる呪いによってはいろいろな使い方が出来るし、今回は使える道具は一種類だけだったが他の道具と組み合わせればもっと効果的だろう。単独で霊体撃滅波を撃つための時間稼ぎも出来る。」
「まぁね。」
師匠がエミ姉の頭をひょいと自分の方に抱き寄せた。
「ちょ、忠にぃ、いきなり何?」
「泣きたいときくらい素直に泣いとけ。そう教えたはずだろ?泣き顔くらいは隠してやるから。」
一瞬の後、エミ姉の体が小刻みに震え始めた。
数分後、目と顔を真っ赤にして、これだけの知り合いの前で泣いていたのだから無理もない。神父や冥華さんや美智恵さんの温かい瞳も居心地を悪くさせてるだけだろう。
「それで、私の敗因はなんだったワケ?」
「油断だな。あそこでお前が仕掛けをばらさなければ令子ちゃんが仕掛けに気がつく頃には試合が決まっていたかもしれないし、霊体撃滅波を撃っておけばそれで試合が決まっていただろうよ。非武装結界と違ってあの呪いならお前の霊波攻撃の妨げにはならないんだし。」
「接近戦しか出来ない令子があの呪いを破れるはずがないって思ったのが失敗だったワケ。」
「そうだな。そろそろ決勝が始まるみたいだな。」
『さぁ、今年のG・S資格試験は女子高生パワー炸裂!なんとベスト8中6人が現役女子高生と言う中、決勝も2人の女子高生で争われます。果たしてどちらの選手が主席合格となるのでしょうか?』
『どっちでもいいから早く始めるヨロシ!今年の大会は天国アルヨ。イケー!ヤレー!ヌゲー!』
興奮した怪しい中国人がいきなり机につっぷした。
黒い鳥の影はとりあえず見なかったことにする。
『始め!』
『先手必勝!』
突っ込もうとするミカ姉の眼前に牛の式、バサラが出現して視界をふさいだ。同時に鳥の式、シンダラが出現して舞い上がる。ミカ姉は軽いフットワークでそれを避けると冥子姉に向かって神通鞭を伸ばした。
「あぁ、まずいわね。」
美智恵さんの嘆く声が聞こえる。
冥子姉は鞭が届く瞬間に影の中にもぐった。
『えっ?』
一瞬硬直した隙に背後にビカラが現れミカ姉を影の中に連れ込んでいった。
結界内の天井に近い部分からシンダラの背中に乗った冥子姉が降りてきた。
『美神選手の戦闘続行を不可能と判断します。勝者六道選手!』
こうして今年の資格試験主席合格者は冥子姉、次席がミカ姉で、3位がエミ姉になった。影の中からビカラに抱えられた、あの場合影の異次元空間で迷わないように護られたと言うべきか。ミカ姉が出てくると2人してこちらの方にやってきた。
「冥子~!お母様は貴女のことを誇りに思うわ~。」
「お母様~!」
いつものようなやり取り。
「惜しかったわね。令子。」
「ううん。途中で何がどうなったかさっぱり。完敗よ。んで、冥子。どうやって私のことを倒したわけ?」
「え~と~、まずバサラちゃんとシンダラちゃんを呼んで~」
「・・・ごめん。横島さん。解説してくれる?」
「令子ちゃんひどい~。」
「ん?まず冥子ちゃんは令子ちゃんの視界をふさぐためにバサラを呼び出した。それは判るよね?」
「えぇ。その後よ。」
「シンダラをバサラと一緒に召喚して天井で待機、視界がふさがってる間に変身能力のあるマコラに自分の姿を真似させて、自分はメキラのワープ能力で天井で待機していたシンダラの背中にうつる。上空から光源に近づいた分広く、薄くなった影で令子ちゃんを補足して、ビカラで影の中の亜空間で令子ちゃんが帰ってこれなくならないようにして自分の影の亜空間の中に令子ちゃんを取り込んだんだ。」
「・・・あんた本当に冥子?」
「あ~、令子ちゃんひどい~。」
いや、俺もそう思った。
「なんにせよ、全員G・S資格おめでとう。」
そういって笑顔で皆をねぎらう師匠の顔に、決意のようなものが浮かんでいるのを俺は見逃さなかった。