未来のわしらの記憶というんはとんでもないもんやった。
キーやんなんぞ頭抱えてる。無理もないな。あない未来はわしかて真っ平や。
「・・・確かに未来の記憶は受け取りました。それであなたはこれからどうするつもりですか? 神としていきますか? 人としていきますか?それとも魔族として生きていきますか?」
「俺は神も、魔も嫌いだ。望むとすればもう1度、横島忠夫として生きていきたい」
まぁ、仕方ないんやろなぁ。あないなことされて好けるわけはないわ。
「わかりました。あなたが横島忠夫として今一度生きることを承認します」
「具体的にいつ頃の自分と同化するか希望はあるか?」
「その前に尋ねたい。未来の記憶を得たあんたらはアシュタロスの反乱をどうするつもりだ?」
「具体的な策を立てるつもりはありません。下手に私たちが動けばアシュタロスが反乱を早めてしまうかもしれませんし。すでに反乱の準備はほとんど整っていますからね」
「むろん、なにもせぇへんっちゅうわけやないけど。未来があの通りになるわけやないしその辺は流動的に対処するわ。・・・それに、できることならあいつの望みもかなえてやりたい思うしな」
「なら俺が生まれるのを少しはやめてもらえないか? あの反乱のときに未熟なままでいるのはいやなんだ」
「それくらいの変化やったらいいやろ。その程度やったら何ぼでもごまかしきくしな」
「そうですね。アシュタロスの事件の時に24歳程度になるように調整しましょう。ですがその場合、誕生からやり直してもらうことになりますが?」
「かまわない」
「それではその線で進めていきましょう。いくつか注意事項を伝えておきます。まず、あなたの霊圧は現在最上級神魔とほぼ同等にありますが、15マイトまで霊圧を下げます。これはあなたが横島百合子の体内から人間として普通に生まれることのできるギリギリの値だからです。それ以後も急激に霊圧が上がることはありませんが、あなたの魂は一度開拓された後ですから成長速度が異常であった前回から比べても成長は早いでしょう。それと、あなたの記憶は10歳程度まで戻らないと思います。戦えない体のうちから強い霊力を持つと悪霊や雑霊の餌食になりかねませんから。最後に、あなたの行動に関して世界のバランスを崩しかねない行動に出たり、世界を征服しようとでも考えない限り制限を加えません」
「少しよろしいかな?」
それまで沈黙を守ってきた竜神王が前にでてきよった。
「あちらの世界では正式に自己紹介できなかったようだな。わしは竜神王の白龍。正式な名前じゃないが人間にはこちらの方が通りがいいじゃろう。そして、小竜姫の大叔父にあたる」
その台詞を聞いて横島が頭を下げた。神魔が嫌いというても小竜姫は、あの惨劇の日、横島を守って死んでいった小竜姫は別物なんやろうな。
「そう頭を下げるでない。わしはお主に礼を言いたいんじゃ」
「しかし、小竜姫は」
「わしの記憶が知る小竜姫は幸せそうじゃったからな。故に、あの世界のわしは最後まで人を守る道を選んだんじゃ。その選択は決して間違ったものではないと確信しておる」
耳の痛い話やなぁ。わしらは結局全体のために個人を踏みつける選択をして、世界そのものを滅びに進めてもうたんやから。
「改めて礼を言おう。横島忠夫。わしの立場上、この先直接おぬしを手助けできぬ故に贈り物をしようと思う」
そういって一枚の符を取り出しよった。
「この符には簡単な超加速の力がある。かつてハヌマンがおぬし達にかけた術を簡単にしたものじゃ。大体文殊一個分の霊力で10畳位の広さの部屋の一瞬を一週間ほどに引き伸ばせる。最も、一度使うと1週間は充電が必要じゃがな。かまわぬな?神魔の最高指導者たちよ」
「その程度ならかまわないでしょう。」
「ならばこの符をおぬしの魂に刻んでおこう。文殊の生成ができるほどに霊力が育てば役に立つだろう」
「ありがとうございます」
「ならば私からも贈り物をさせてもらおうか」
今度はオーディンや。あいつは何を横島に贈るんやろうか?
「私も名乗っておこう。私はオーディン。元はアース神族の長で戦と知識の神としてゲルマン民族に信仰されていたものだ。今では魔界の軍の将軍の一人だがな。そして、ワルキューレは神話の時代より私の娘、つまり私はワルキューレとジークフリードの父に当たる」
今度も頭を下げるワルキューレもジークもあの日に戦って死んだからな。
「よい。私も竜神王と同じでそなたには感謝しているのだから。戦うことしか教えられず、戦うことしか知らなかった我が娘もまたそなたに出会えて幸せだったと思うからな」
オーディンが懐から出したんは小さな卵やった。
「これは我が使いたる鴉が産み落としたもの。この卵より生まれてくる鴉はそなたの霊気を吸って育ち、そなたの忠実なる使い魔となろう。そなたの成長とともにその鴉は育ち、強くなっていくはずだ」
こちらも許容範囲内やな。じっさい、忠夫が戦えるようになるまである程度霊気を吸って目立たんようにさせとく必要があるし。
「この卵はそなたの影に潜ませておこう。時が来れば孵り姿を現すだろう。かまわぬな?指導者よ」
「かまへん。そろそろ横島をあるべき時間におくろうや」
「そうですね。かまいませんか?横島忠夫」
「あぁ、頼む」
そういうと、わしらに向かって軽く頭を下げた。・・・まさか頭下げられるとはな。ここにいるわしらがあいつの知ってるわしらとちゃうって頭で整理できても、感情がゆるさへんもんやのに。・・・アカン涙が出てきそうや。
「それでは目を閉じて、次に目を開けたとき、あなたはあるべき時間についているはずです」
わしとキーやんの力で横島を送り出すと。その場に小さな沈黙がおちた。
「・・・記憶はしっとったけど、エエ奴やったな」
「・・・そうですね。頭を下げた時、彼は私たちを許してくれたのでしょうか?」
「そうではないと思うぞ。おそらく、横島はここにいるあなた方と、彼の知るあなた方を別物として考えるようにしたのだろうよ」
「心情的に許しがたいじゃろうしなぁ。関係のなかったことにした方が、心の整理がつきやすかったんじゃろう」
「・・・本当に優しい人間ですね。・・・彼の新しい人生に幸多からんことを」
「それはそうとして、例の計画を進めさせてもらうぞ」
「そうですね。あなたと竜神王には他の神魔に先んじる権利があります。ただし、あくまで選ぶのは横島ですし、あまり露骨な手段に出ないように」
例の計画。それはわしらが横島への罪滅ぼしのために考えたものやけど。まぁどちらかっちゅうとわしらの利益優先みたいなきがしてきたわ。でも、あくまで望むのは横島の幸せやっちゅうことをわすれんようにしとかなな。
「負けはせぬよ。龍神族の名に懸けてな」
「それはこちらとておなじこと」
「他の神魔は彼に気がついた頃から順次参戦していくでしょう。あまり露骨な手段をとるようでしたら私たちのほうで待ったをかけますから」
「うむ。よろしく頼むぞ」
「そうじゃな」
ホンマわかっとるんやろな?まぁ、この面子ならそう酷いことにはならへんと思うけど。・・・ならへんといいな。
「あくまで、この計画は横島のためにあるんや。その辺忘れたらアカンで」
いちおう釘さしとこうか。
まってろや、横島。前の人生の分もあわせてお前には幸せになってもらうさかいな。