【中書き】
これまで地の文は誰かの心象を1話1キャラで固定して進めてきましたが話が複雑化するにつれて複数の場面やキャラの心象を表記するためにシステムを変更します。(あんたの処理能力がないせいだ!と、いう突っ込みは勘弁してください。^^;)以降は地の文が誰の目線であるかの塊ごとに≪誰々≫と、いう表記を冒頭につけますので参考にしてください。あまりゴチャゴチャしないように入れ替えの回数を極力減らすように心がけますが読んでくださってる方もどうか寛大なお心で許してやってください。m( _ _ )m
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≪横島≫
「ごめんなさいね~。急な話なんだけど~。」
六道女学園には毎年夏の恒例行事がある。
全学年参加、夏の臨海学校。
六道家ゆかりの小間波海岸に溜まる雑霊、悪霊、妖怪を生徒達がいっせいに除霊をするというものだ。
ところが今年は7月に上陸した大型の台風が小間波海岸を直撃し、海岸の砂が大幅に消失。宿泊施設にも被害が及び大規模な工事のために臨海学校が開けなくなってしまった。
そのために急遽適当な雑霊の集合場所を探し出し、今年の臨海学校の舞台となるのが山口県下関市。しかし、強力な悪霊などは目撃されてないとは言え例年と違い相手の強さなどが想定しきれないために現役G・Sを雇う代わりに選択授業の講師陣に正規の依頼として同行を願うことになった。
つまるところの俺も参加することになったのだ。
ちなみに小間波海岸の除霊は正規のG・Sを六道家からの寄付と言う形で雇い入れ海上から除霊にあたる。
ちなみに責任者は唐巣神父。
これで当分神父も餓えずにすむだろう。
「そんなに気を使ってもらわなくてもいいですよ。」
「なんのことかしら~?」
「俺を六道の講師にしたのも、こうして臨海学校に連れて行くのも俺に人との縁を結ばせるためでしょう?」
「なんのことかしら~?おばさんは可愛い生徒達のために優秀な先生が欲しかっただけよ~。」
「生徒達からは嫌われましたけどね。」
「確かにあの自己紹介はまずかったかしらね~。でも本当にいけなかったのはG・Sの厳しさを教えきれてなかった私たちなのよね~。ごめんなさいね~、横島君に余計な泥を被せてしまって~。でも~、横島君の教え子達はそうじゃないみたいよ~。この前の中間試験の点もすっごく伸びてたんだから~。」
「あの子達が自分でやったことです。」
「そういう実力を引き出せるのがすごいんじゃないの~。」
一瞬落ちる沈黙。
お互い視線をそらさずに相手の出方を見る。
「はぁ~。おばさんの負けよ~。今言ったことは嘘じゃないけど~、おばさんは確かに横島君を表に引っ張り出そうとしてるわ~。」
「どうしてです?」
「冥子のことも令子ちゃんのこともおばさんすごく感謝してるわ~。エミちゃんのことだってとても感心してるのよ~。でもおばさん今の貴方を見ているのがとても怖いの~。貴方は自分のことないがしろにしすぎているのだもの~。横島君のお陰であの子達はG・Sの厳しさを知ることが出来た、でも、そのためにあなたが大怪我を負う必要はあったの?あなたのあの傷は何?どうしてあんなに簡単に自分を犠牲に出来るの?どうして他人にだけ優しく出来るのかしら~?」
何かに耐えるように俯いて言葉をとぎらせる冥華さん。
「あなたはまだ19歳なのよ~?楽しいことも、嬉しいこともまだまだこれからじゃないの~。だからおばさん知ってほしいのよ~。世界はとても綺麗なのよ~?人と人の縁はとても温かいのよ~?だから・・・」
「知ってますよ。この世界がどれほどかけがえのないものかも。人が孤独の中で生きられないことも。」
俺は、多分微笑んでいるだろう。
「・・・おばさんからのお願いよ~。あんまり自分を粗末にしないでちょうだい~。」
冥華さんは泣いていた。
・・・・・。
そう、俺はきっとこの世界に住む誰より知っている。
この世界はとても暖かく、
美しく、
かけがえのないものだということを。
そして、たった一人の絶望が世界を改変しうることを。
たった一人の憎悪が世界を滅ぼしうることを。
この美しい世界がそれほど脆く、儚いものだということを。
だから俺は、立ち止まらない。
どれほどの傷を被うとも、
どれほどの罪過を背負っているとしても、だ。
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≪令子≫
山口県下関市長府のホテル。
そこの大広間を借り切ってミーティングが行われた。
「いいですか~。今年は例年の小間波海岸ではないですので2,3年生もよ~く聞きいておいてくださいね~。今年は例年と違ってどこに霊が集まるかは判っていません~。そこで、海岸で極小規模な召霊を行いますのでそれに呼び寄せられてきた雑霊を皆さんに払ってもらいます~。召霊はホントに簡単なもので強力な悪霊などは集まらないようにしますが、それでも何があるかわかりませんのでその場合は教師や講師の先生に連絡をするように~。特に例年と違って霊の襲撃が散発的なものではなく一気に押し寄せてくる可能性がありますのでその点は十分に注意してください~。」
おばさまに促されて横島さんが前に出てきた。
「除霊中戦闘続行不能になった場合はユリンが最後尾まで運びますから除霊中にユリンの姿を見ても慌てないで下さい。ユリン。フレスベルグ!」
横島さんの掛け声でユリンが2mほどの姿になる。
「実際にはもう少し大きくして足と足の間に担架をくくりつけておきますから自力で担架に乗れない場合は周囲の人間が手伝ってあげてください。俺からの注意事項は以上です。」
大きくなったユリンの姿を見て生徒はおろか教師、講師まで動揺している。まさか本当に汚い手段だけでS級G・Sになったなんて思ってたのかしら。
呆れて怒る気も失せるわ。
ユリンは恐らく操作系術の対象としては国内で1,2を争う鴉だ。
単純な戦闘力だけでは分裂することが出来る分六道家が誇る12神将を凌ぐだろう。
授業中もそのために冥子は12神将の能力の多様性を使いこなすことを主眼に受け、コンビネーションについても考えなければならず今では5ヶ月前よりずっと効率的に式神を扱えている。
「それでは各選択授業ごとにミーティングを始めてくださいね~。」
おばさまがそう指示を出すがまだ動揺が収まらずにいる。動いているのは横島さんの担当だけだ。あんなんでミーティングできるのかしら?
・・・まぁ無理ないか。私も最初横島さんの力を目の当たりにしたときはカルチャーショックだったし。
「それじゃあミーティングを始めようか。最初に言っとくけど今回、俺は本部に詰めて救助と治療に当たるから直接指示が出せない。美神さんが代わりに状況を判断して指示を出してくれ。六道さんとエミは美神さんのフォロー。それと六道さんはショウトラを理事長先生に預けておいて。重傷者の治療をお願いするから。」
「は~い~。」
「さて、君達の担当は遊撃部隊。好きにやれってことだ。とどのつまりは員数外、戦力外とみなされているんだけど、アクシデントがあった場合最も迅速に対応が出来るのも君達だ。そのことを忘れないで頑張って欲しい。それじゃあ実習は今夜だから今からよく休んでいおくように。解散。」
横島さんの指示で部屋、私と冥子とエミの3人部屋に戻るんだけど、他のところはやっとミーティングが始まったところだ。
・・・本当に大丈夫かしら。
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≪令子≫
海岸線沿いに結界防御ラインを張り巡らし召霊が始まった。私達の班の武装は霊体ボウガンと神通棍、呪縛ネット、破魔札をを基本装備として各自得意な装備を身につけたもの。多少バラバラであるがいかにも遊撃部隊っぽい。最初の位置としては霊的格闘班と同じく最前線に位置をおいた。
「いい、皆。横島先生と私達を馬鹿にした連中に目に物を見せてやりましょう。」
いっせいに、(28人しかいないのだが。)了解の声が上がる。
当初自信のなかったほかの娘たちも今ではしっかりとした実力と過信にならない自信を持ち合わせている。士気も高い。そう、彼女達は幾多の試練を共に潜り抜けた立派な戦友なのだ。
・・・横島さんの授業きつかったもんなぁ。
「悪霊達が見えたら距離300までひきつけて霊体ボウガンで攻撃。冥子以外は距離30をきったら呪縛ネットで数を減らして格闘戦は距離10まで詰められるまで我慢して。破魔札の使用は各自の判断に任せる。冥子は距離50まで来たら式神たちで一斉攻撃。とにかく数を減らすこと。物量が相手のときは冥子が切り札なんだからしっかりね。そのまま10分間数を減らしたら消耗の激しい子から影で休ませて4:4:3のサイクルで休ませながら戦うこと。長期戦になったとき式神が使えるのと使えないのじゃ大違いだからね。」
「わかったわ~。それよりも格闘戦に入る前にエミちゃんの呪術で相手の出鼻を挫いた方がほうがいいんじゃないかしら~?」
「そうね。エミ、どれくらいで出来る?」
「今の私なら1分あれば霊体撃滅波の用意が整うワケ。」
「わかったわ。ならエミは冥子が式神をつかったら準備を始めて。他に何か意見はある?」
私が皆を見回すけど真剣な面持ちで、冥子の場合のほほんとした面持ちを崩すのは難しいのだがとにかくうなづいてくれる。
「状況が変化したら指示を変えるかもしれないからよく聞いておいてね。逆に何か気がついたことがあったらすぐに教えて。いいわね?」
「了解」×26
「りょうか~い~。」
ボケボケした声に気が抜けた。
まぁ、気を張り詰めすぎるよりずっといいか。
私も知らぬうちに緊張していたようだし。
みんなの顔にもゆとりが戻った。
ま、冥子に感謝ね。
そうこうしているうちに召霊の儀式が終わった。
海岸いっぱいに強力な結界が張ってあって、市街地側から悪霊が来ることは無い。そのため霊の進入経路は限られている。
海の奥にぼうっと光るものが現れる。
それはだんだん大きくなり近寄ってきた。
その数1000はくだらない。
数が多い!
およそ距離500まで近寄ってきたところで周囲から霊体ボウガンが飛び始めた。
「まだ遠いわ!矢玉にも数があるのよ!」
私が叫んでも数に動揺した連中は止まらない。
講師が押しとどめようと声を上げるがそれでもだ。
あんたら今までいったい何をやってきた!
歯軋りをしながらも距離300までひきつける。
「発射!」
私の掛け声と共に霊体ボウガンがうちの班から飛び始める。
およそ7割が命中。
しかしよその班の矢玉が尽き始め弾幕は散発的なものとなってしまっている。
横島さんが味方が必ずしも思ったとおりに動くとは限らないと言っていたのに。
私の予測ミスだ。
「令子!後悔してる暇は無いワケ!」
「そうね。各自両翼に展開。距離100になったら戻ってきて。」
私の指示でいっせいに動き出す。
「エミ!冥子!」
「わかってるワケ!3人でこのポイントの数を減らすわよ!」
「わたしも~がんばる~。」
エミは飛び道具の扱いが上手いし冥子はトロいけど狙いは正確だ。
十数回の射撃で矢玉がつきかけた頃皆が戻ってくる。
相手の数は300は減ったろうか?
半分は減らしたかったのに。
「冥子!エミ!」
「みんな~。おねが~い~!」
「アブド~ル、ダムラ~ル、オムニ~ス、ノムニ~ク・・・」
冥子の式神と霊体撃滅波で大分数は減らせるがそれでもどれだけ減るか。
「霊体撃滅波!」
エミの霊体撃滅波が決まると悪霊達が引き上げていく。まだ600ほど残ったそれを他の班と共に追撃。
「令子ちゃ~ん。何かおかしくな~い~?」
「そうね。知力の無い悪霊どもにしては引き際がよすぎる。まだ半分の戦力が残っているのに撤退・・・まずい。転進するわよ。」
嫌な予感と戦術的な判断が同時に警鐘を鳴らす。
予感的中。左側面、崖側に展開していた遠距離攻撃術班が崖の上から妖怪の奇襲を受けて打撃を受けていた。退いていた悪霊達も再び転進して再攻撃を始めている。
囮に引っかかってここが落とされていたら挟撃にかけられたところだ。
「あんた達何をしてるのよ!」
「それが、・・・先生が真っ先に襲撃を受けて怪我を・・・どうしよう、どうしよう、私達死んじゃう。」
そいつの頬を思いっきり張ってやった。
「諦めてんじゃないわよ!下らないことゴチャゴチャ言ってる暇があったら少しでも生き延びる努力をしなさい!」
呆けてるその子を放って自分の班に指示を出す。
「先生はそのうちユリンが来てくれるからそっちは任せてエミあんたはこの子達とうちの班から5人連れて戻って本隊の戦列を立て直してきて。」
「わかったワケ!ほら、オタクたち!生き延びたかったらついてらっしゃい。足ひっぱんじゃないわよ。」
特に反論も無くエミに従う。パニック状態に陥って明確な指示を出す人間にしたがっているのか、とにかくこの場を離れたいのかはわからないがエミに任せれば大丈夫。
「冥子。あなたも5人連れて右側面を警戒に行って。」
「わかったわ~。令子ちゃんも気をつけてね~。」
冥子の破壊力は惜しいがあっちを抜かれてもしゃれにならない。
妖怪どもを負傷者から引き離すと神通棍を構える。
彼我の戦力差は16人と下等妖怪20体。
空からユリンが負傷者を迎えに来たが手伝ってくれる様子は無い。
これくらいやって見せろってことね。
「あんた達みたいな雑魚に時間とられてあげる訳にはいかないのよ。この、ゴーストスイーパー見習い、美神令子とその仲間達が極楽へ逝かせてあげるから成仏しなさい!」
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≪エミ≫
「数は当初の半分に減ってるのよ。背後の敵は令子と冥子が何とかしてるから根性見せるワケ!負傷者は優先的に下がらせなさい。」
混乱してる連中に矢継ぎ早に指示を飛ばす。
背後の奇襲によって動揺した隙に一気にこっちの戦力も削られていたワケ。
講師のおっちゃんどもが奮戦してるけどそもそもあんたらの指導力が足んなくてこんな目にあってんだから褒められたものじゃないワケ。
「オタクら悪いけど一分稼いで。数を減らさなきゃ話にならないワケ。」
頼りになる身内にそうお願いすると踊り始める前に大声で叫ぶ。
「オタクら!10分耐えなさい。そうしたら応援が来るワケ!根性見せんのよ!」
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≪冥子≫
令子ちゃんの言ったとおりね~。
こちらに現れたのは雑霊が200体ほど~。
操作系術班が集まっているこちらも真っ先に先生がやられてるわ~。
相手は戦術を心得ているのね~。
でも~、操作系の術者なら私の言うことを聞いてくれそうね~。
「六道冥子がこの場を預かるわ~。私の援護をお願い~。」
六道の名を出せば少しは安心してくれるわよね~。
「あなた達は負傷者の援護と術者の護衛をお願いね~。」
ついて来てもらったお友達にそう指示を出すと式神を呼び出すの~。
みんな疲れてると思うけどもう少し頑張ってね~。
「バサラちゃんおねがい~。他のみんなもフォローをお願いね~。」
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≪冥華≫
「令子ちゃんたちのお陰でどうにかなりそうね~。」
「ええ、今のところよくやってくれてます。」
「でもこのままじゃよくないわね~。負傷者が多すぎるわ~。」
「何が出てくるかはわかりませんけどそん時は俺も相手しますよ。」
「御免なさいね~。あんなこといったのに結局横島君に頼りっぱなしで~。」
今年の臨海学校は予想以上に苦戦ね~。まさか霊達や妖怪が連携して戦略を使ってくるなんて~。
何かはわからないけど悪霊達に指示を出してるものがいるはずよ~。
令子ちゃんたちがいてくれて助かったわ~。
「かまいません。それよりまだまだ負傷者を運んできますからそっちをお願いします。」
「わかったわ~。」
結局、3時間後に多くの怪我人を出しつつも令子ちゃんたちの活躍で致命的な被害を出さずに第1幕は幕を下ろしたわ~。
横島く~ん~。無理はしないでね~。