注・この作品は番外編であり、G×S!本編とは関係ありません。
「忠夫さま。今日はお母様が昼食を作って下さるそうです」
「へえ、そうなんだ。そう言えばセージさんの食事を食べるのは“こっち“では初めてだな。で、フォっちゃんは?」
「お父様は何か本邸に用事があるらしく魔界に帰っています」
横島は今、魔王邸に居る。
シアや稟に楓達は其々に用事があるらしく此処に居るのは横島にネリネ、そしてネリネの母親のセージの三人だけである。
横島の言う『こっちでは』と言うのは実は横島・ネリネ・麻弓・樹の四人はネリネの家にあった鏡型の次元転移の魔法具の暴走によって過去の魔界へと飛ばされた事があったのである。
其処で過去のフォーベシイ達に接触した事により歴史に僅かな狂いが生じ、ネリネが生まれない歴史に書き換えられるかもしれないといった事態になった。
過去の魔界では色々な事があったが、何とか歴史通りにフォーベシイとセージは結ばれる事となり、横島達が無事に元の時間に戻って来てから数日が立っていた。
まあ、過去の魔界では横島的にも“色々”あったのだが……
「何はともあれ」
ヒョイッ
「ひゃっ!!た、忠夫さま///」
横島はそう言いながら横に座っていたネリネを横向きに抱え上げ、(いわゆるお姫様抱っこ)自分の膝に座らせる。
「ネリネが無事で良かったよ」
「は、はい。私もこうして忠夫さまと居られて幸せです」
ネリネもまた、そんな横島の胸に寄り添いながら赤く染まった顔を横島に向け、ゆっくりと目を閉じる。
「ネリネ……」
横島もそんなネリネに顔を近づけ、唇を重ねようと……
コンコン
「うわっ!!」
「きゃっ!!」
した所に部屋の扉をノックされる。
「ネリネちゃん、忠夫君。昼食の用意が出来ましたよ」
そう言いながら扉から顔を覗かせるのはセージ。
横島とセージは過去での出会いが最初だったが、今では家族同様に付き合っている。
あの時から本来の時間では20年経っているのだが髪が伸びた事以外は全く変化が無く、未だに十代と言っても違和感のない若々しさである。
そんなセージの視線の先には今まさにキスの寸前だった二人が固まっていた。
「あらあら~~。もしかしてお邪魔だった?」
「い、いえっ!!ちょうど行こうと思ってた所です///」
「そ、そうっスよ。わははははははは」
「…お姫様抱っこで?」
セージはニヤニヤしながら二人を見つめ、横島とネリネは何も言えずに赤くなるだけだった。
そして三人は食堂に移動する。
「さあ食べましょう」
「へえ、丼っスか」
「ええ、召し上がれ『親子丼』」
「ブフッ!!」
「ひうっ!!///」
「ななななな……?」
そのセージの言葉に動揺していた二人だったが、一瞬早く意識を覚醒させたネリネは横島の首根っこを掴んで部屋の隅に移動する
(た、忠夫さま、お母様の記憶は文珠で忘れさせたんですよね?)
(あ、ああ。ちゃんと帰り際に【忘】の文珠を渡してきたぞ)
(渡しただけなんですか?使わなかったんですか?)
(だって、ちゃんと自分で使うと思ったから…)
(はあ…何で忠夫さまは女の子の気持ちにそこまで鈍感なんですか?)
(い、いや、さすがに、結婚前には“あの記憶”は消すだろうと…)
そんな二人にセージは笑顔のまま話しかける。
「どうしたの、二人とも?」
「いえっ!何でもないっス!」
「そ、そうです。何でもありません」
「へえ、そお…」
セージは何やらニヤニヤしながらポケットからソレを取り出した。
「ひょっとしてこれの事かな?」
「なーーーーー!!///」
「ひゃわーーーー!!///」
セージの手の平の上には【忘】の文珠が光っていた。
「忠夫様からいただいたものですもの。お守り代わりに大事にしてましたよ」
「お、お母様…///」
「何ですか?ネリネ様♪」
セージの笑顔はあの時のままだった。
「そう言えば私の料理を食べていただくのは20年ぶりになる訳ですよね。忠夫さま、久しぶりの私の手料理は美味しいですか♪」
「は、はあ///」
「味なんかしません///」
そんな微妙な空気の中、横島は気になる事をセージに聞いてみた。
「し、しかし何で記憶を消さなかったんスか?」
「あら、女の子にとっての初めては大事なモノなんですよ。ましてやそれが、自分の意思で捧げたモノならなおさらです」
「まあ、否定はしませんが。というよりお母さま、文珠で記憶を消さなかったという事は忠夫さまとの事は最初から知ってたんですか?」
「ええ、知ってたわよ」
「ならおじさんも?」
「はい、わざわざ教えて歴史が変わるのを恐れて黙ってただけで、忠夫さまがネリネちゃんを救ってくれるのも知ってましたよ」
「そうっスか」
「ただ、その為に平行世界に飛んでしまう事を知っていながら何もしてあげる事が出来なかったと後悔してましたよ」
「それはいいんです。そのおかげといっては何ですが美神さんやおキヌちゃん、ルシオラにも会えたんですから…」
「そうですか、私も会いたかったな。ルシオラさんに」
セージは横島を優しい目で見つめながらそう言った。
そんな中、横島はふと頭に浮かんだ疑問を口にした。
「…ちょっと待て…ネリネ、一つ聞くがアイさんはあれからどうなったんだ?」
「はい?…そういえばアイさまはずっと独身を通されて…」
「呼んだ?」
其処に、笑顔と共に現れたのはあの頃と全く変わらないアイであった。
「うわっ!ア、ア、アイ…さん?…」
「ア、アイさま!?」
「ふむふむ」
アイは微笑みながら横島に近づき、
「は、はは」
「じろじろ」
横島の体を回りながら見回し、
「ぺたぺた」
横島に触れ、その感触を確かめ、
「くんくん」
横島の匂いを嗅ぎ取って行き、
「ア、アイさん///」
「ア、アイさま、何を?」
笑顔で指を花丸を描く様にくるくる回す。
「うん、花丸で合格。間違いなく忠夫くんだ♪」
「お、お久しぶりっス」
そしてアイはもう我慢が出来ないといった感じで、瞳を潤ませながら横島に抱きついた。
「やっと、やっと会えた。忠夫くん…20年は長かったよ…」
「アイさん、また会えて嬉しいっス」
そう言って横島も優しくアイの肩を抱いた。
そんな二人を優しげに見守っていたネリネだが、ふと頭に浮かんだ疑問を聞いてみた。
「アイさま、あのひょっとして忠夫さまに…」
「うん、愛してもらったよ。ね、セージさん♪」
「ア、アイさま!!///」
セージも、まさかネリネの前でばらすとは思って無かったのか顔を真っ赤に染め上げる。
「お、お母様!アイさまとも!?」
「ふ~ん、『お母さまとも』ねぇ。実の子供だったという事を知らなかったとはいえ。セージさん、親子丼なんて大胆ね」
「「~~~///」」
横島は横島でただ呆然と混乱していた。
「やあやあ、何やら賑やかだね」
其処にのほほんとした笑顔で現れたのはネリネの父親でセージの夫でもある魔界の王、フォーベシイである。
「お、お父様、魔界に用事があったのでは?」
「うん、あったよ。だからアイちゃんが此処にいるんじゃないか」
「じゃあ、パパの用事って」
「アイちゃんのお迎えだよ。いつまでもアイちゃんを仲間外れにしてる訳にもいかないだろ?」
「そういう事だからこれからは私もよろしくね♪」
「はははは……よ。よろしくっス」
「楓さん達への説明が大変ですね……」
そしてフォーベシイは横島の肩に手を回し、ハイペロン爆弾級の爆弾発言をかましてくれた。
「まあ、これからもよろしく頼むよ忠夫ちゃん。何しろ僕達は『ある意味兄弟』なんだからね♪」
「はい?……あんた、知っとったんかーーーーいっ!?」
「お、お母さま……」
「だって、さすがに隠したままには出来ないわよ」
三世界は今日も平和であった。
「ちゃんちゃん♪」
END