「こぉんのバカ野郎どもがぁぁああああああ!!」
堪忍袋の尾が切れたというかなんというか。
目が血走っていた。たぶん頭から湯気とかマジメに出てるのではないだろうか。可哀想に、テオとロイはその鬼すら可愛く思える形相に震え上がるハメになるわけだ。
鉄拳が飛んでこなかったのは単にそれぞれがキアとアッシュを抱きかかえていたからだ。もしこの勢いでぶん殴られていたら二人とも歯の2、3本くらい吹っ飛んでいたんではないだろうか。
「お、親父。これには訳が」
「黙れ!!」
「だ、団長。でもかなり大事な」
「喋るな!!」
しゃべらせて貰えなかった。
「お前たちを連れてきたのは間違いだった! ああ間違いだった!! 力量はともかく、分別くらいはつくだろうと思っていた俺がバカだったよ。ああバカだったよ。笑うがいいさ。ほら、笑えよ。嘲笑えよ!!」
団長団長、落ち着いてください。
第13話 「秘密の告白」
「団長、テオさんたちは悪くないんです」
このままだと話が全然進まない。いろんなものが吹っ切れた団長に声をかけるのはそれなり以上に勇気がいったが、意を決してキアは声をかけた。
「キア……? いや、いいんだ。別にこんな愚息共を庇う必要はないぞ。だからちょっとテオから降りてくれないかな?」
すげぇ優しい声だった。でも目がどうみても普通じゃなかった。なんかランランとしている。ギラギラしている。キアが離れたとたんブン殴る気マンマンだった。その後ロイも殴る気マンマンだった。
本能で察したのか、テオはキアを離すまいと抱き込む腕に力を込める。命綱を手放すなんてそんな怖いことできるはずもなかった。でもただ単に怖かっただけかもしれない。
キアの勇気もむなしく、現状は脱せ無かったようだ。ついでにテオの腕の中からも脱出不可能なようだった。
ああ、これ本当にどうしよう……団長、もういっそ2、3発シバけば冷静になってくれるかしらん。
「そうだよ団長。ちょっとおちついてよ」
「いやしかしなアッシュ。この迸る怒りを俺はどう静めたらいい……の…か……あああああアッシュ!?」
「「「「アッシュぅぅぅうううううううううう!?」」」」
なんか普通に元気そうなアッシュがロイの腕の中でやれやれとため息をついていた。
え、ちょっと待って。ちょっと待ってくれ。
「ちょっとアッシュ! あなた大丈夫なの!?」
「元気だよー。ぴんぴんしてるよー。さっきまで死に掛けてたけどねっ!」
そんな元気よく言うことじゃなかった。
「ちょっ、リュー! お前助かる見込みねぇって言ってたじゃねぇか!? ウソか? ありゃウソだったんか? お前がドSで鬼畜で腹黒ってことは知ってたけどこのジョークはねぇんじゃねぇ!?」
「嘘言ってません。ジョークでもありません。ヴァン、あなた私のことをそんな風に見てたんですか。ああ、弁明はいいです。後で二人っきりで心行くまで話し合おうじゃありませんか」
にこり、とやーらかく微笑を向けるリューだった。失言を悟ったヴァンは「いやその……」となんだか小さくてよく聞こえない言い訳をもごもご口ごもっている。
ヤバい。これはヤバい。過去の悪夢が脳内を吹き荒れたり突き破ったり。あの地獄の宴再びとか死んでも勘弁だった。
チラリとカイルに視線をやる。おい、助けてくれ。
カイルもヴァンの視線に気づいたのか頷きを一つ返し、フォローをすべくリューに話しかけるのだ。
「リュー。ヴァンは後で好きにしてもいいけど、これは本当にどういうことなんだ?」
「うおおぉぉぉおおおおい!!」
フォローのフの字もなかった。
リューもヴァンのことは綺麗サッパリ視界の外へ追いやり、首を横に振る。
「さぁ、私にもさっぱりです。そこの見習い二人なら説明できるんじゃないですか」
本当にサッパリだった。マジメに訳がわからなかった。
まぁアッシュが助かっているのならそれはそれでご都合だろうが奇跡だろうが気にはしないが。
「無視すんじゃねぇ!」
「おや、今話し合いたいのですか? せっかちな人ですね。いいですよ、ちょっとそこの木陰にでも」
「申し訳ありません」
ヴァンは深々と腰を折った。プライドで命は賄えないのだ。
「テオ、ロイ。説明しろ。これはどういうことだ」
驚愕を通り越してやっと冷静に戻ったらしい団長が、二人に命令する。
さっきからその説明をしようとしてたのだ。激昂して聞こうともしなかったくせに、何を澄ました顔でと思う二人は悪くないと思う。ぶすくれた表情になるくらいは仕方がないというものだった。
「何か文句でもあるのか?」
あぁん? と睨み付けられれば二人には逆らえないのだ。
「「いえ滅相も。説明させていただきます」」
そしてようやく話し合いの場がやってきた。
***
「解呪呪文ッ!」
結果を最初に言えば、これがビンゴだった。キアは確かな手ごたえを感じ、ようやく安堵の息を吐くことが出来た。
橙の光に包まれて、アッシュの顔色がみるみるうちに安らかなものになっていく。
「アッシュぅ……よ゛が゛った゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁ」
「むっぎゅ」
安堵のあまり手加減なしでアッシュを抱きこむロイ。や、さすがにその体格差でさっきまで死に掛けていた子供をマッチョメンが力の限り抱きしめたら逝くんじゃないか?
あ、アッシュの手が痙攣しだしてきた。
「おいロイ。お前トドメでも刺す気なのか?」
「はッ!? うわぁアッシュ! 死ぬな、死ぬんじゃねぇ!!」
「……ふぅ」
結局意識を失ってしまったアッシュをこんどは力の限り揺さぶり、本当にトドメを刺す前にテオが拳で持って鎮める羽目になったのだった。
「……余計な魔力使った」
結局その後、アッシュの減った体力(2割くらいはロイのせいだと思う)を回復させるためにベホイミをかけ、念のためホイミまでかけ、起こすのにザメハまで使う羽目になった。
少し離れたところで殺されそうになったアッシュがロイに制裁を加えている。
「イッテ、痛い痛いトテモ痛いですアッシュさん、そろそろ止め痛いすっげ痛いから!」
「痛くしてるの! 全然反省してないじゃないかー!」
正座させた兄を木の棒で容赦なく滅多打ちにする弟。子供の力でもアレはさすがに痛いようだった。というかなかなか過激なことをする兄弟だ。実に良く似ている。
ああでも、あの後ロイさんの怪我治すの私なんだろうなぁ。
少し遠い目に。
まぁなんにしろ、なんとかなって本当によかった。
「……キア」
来たコレ。
やっぱりこのまま何事もなかったかのように次へ進むとかいう選択肢はないようだった。チッ。
さっきまでアッシュのことでいっぱいいっぱいだったテオだったが、冷静になってやっぱり疑問に思ったらしい。
「キア、呪文使えたんだな。どうして隠していた?」
ここで寂しそうな表情だったり怒った表情だったりしたら、キアの罪悪感とかモロモロをグサグサして話がスローペースになっていたわけだが。
幸か不幸か全然気にしてなさそうだった。首を傾げてねぇなんで? と心底不思議そうな顔してやがるのだ。実際キアの心情についてまったく頓着していなかった。もっと正確に言うならそこまで考えられるほど頭が良くなかった。
これがリューとかなら察して「それも当然ですよ」とか言うだろうし、フラウとかなら「キアちゃん、私たちのこと信用できなかった……?」とか心底悲しそーな顔してキアの良心に痛恨の一撃を与えていたのだろう。
それを考えればテオというのは予行演習にちょうどいいのではなかろうか。絶対なんも考えてなさそうだし。
さて、ここでどう言うべきか。キアは首を傾げるロイに向かい合いながら脳みそをフル回転させる。
全てはしょって「貴方達が信用ならなかったからです、テヘ」とか言う。
却下すぎる。突き詰めればそういうことになるわけだが、いくらなんでもコレはない。
嘘ついて「土壇場に眠っていた力が覚醒したんです。私すげぇー」とかどうだ。
また却下。いや、テオとかロイに限ってはアリか? いやいや、やっぱない。いくら二人でもこれはない。……ないはずだ。
それにたとえココは誤魔化せたとしても、他の団員に今の言い訳が通じると? いや、通じたフリはするかもしれないが、絶対シコリが残る。そもそもまた嘘つくとか今度こそ自分の良心が死んでしまう。
結局キアがとった選択肢は、
「皆さんが揃った時にお話します」
後回しだった。
や、別に嫌なことを先延ばしにしたわけではない。実際ほら、アレだほら、2回も説明すんのメンドクサイじゃん? だからこれは決して先延ばしではないのだ。効率的なやり方をとっただけなのだ。
「そうか、わかった」
幸いというかなんというか、テオはそれで納得したようだ。
「それよりも」
キアは思う。今はもっとやらなければいけないことがあるのだ。
「それよりも、みんなと合流しましょう? 私の呪文なら、あの呪文を無効化できます」
今度こそ、皆の役に立つのだ。恩返しするのだ。やったことないから絶対とは言えないが、呪文自体を跳ね返すことが出来るハズ。出来なくとも治すことは出来るのだ。
……もうお荷物な自分はイヤだった。
「たしかにそうだな。急ごう、親父達なら無事だろうが、やはり心配だしな」
まだジャレあっている兄弟に事情を説明し、アッシュやロイからお礼を言われつつ、キアたちは来た道を戻る。
キアは途中まで自分で走ったが、結局速度に着いていけずにテオに抱っこされたのはまぁ仕方がないというか。
ちなみにアッシュは最初からロイの腕の中だった。ロイが問答無用で抱き上げたからだ。アッシュは大層不満そうだったが、ついていけないのは目に見えていたので何も言わなかった。代わりに拳骨一発入れていたが。
とにかく一刻も早く合流を。
テオとロイはほぼ全速で駆けていた。
***
「後は親父達に合流して今に至る」
以上、説明終わり。
そして当然のように沈黙が訪れる。全員の視線がキアに向くわけだ。
すげぇ居た堪れなかった。突き刺さる視線視線視線の嵐。視線で人を射抜けたら今頃キアは穴だらけだ。
「嘘……じゃないよな?」
やはり信じられないのか、カイルがどこか戸惑ったように言う。しかし同時に信じてもいた。だってアッシュがこんなにピンピンしているからだ。
「嘘じゃないよ! キアちゃん凄かったんだから!!」
なぜかアッシュが胸を張っていたが、それはいいとして。
「………ぇない」
聞こえないほど小さな声でリューは呟いた。普段何が起ころうとも冷静で表情を崩さないリューが呆然としていた。まるで何か信じられないものを見る目でキアを見ていた。
「リュー何か言ったか?」
辛うじて隣に居たカイルだけがその声を微かに聞き取れたらしい。
「ありえない、と言ったんです」
カイルの問いに、今度はしっかりとした声で言った。キアを見つめる目は呆然としたものから怒りすら感じるものに変わっている。
ビクリとキアは身を竦ませる。まさかここまで全否定で怒りを向けられるのは流石に予想外だったらしい。完全にリューの視線に怯えきってしまっていた。
「おい、リュー。どういうことだよ。俺たちは嘘なんざ吐いてないぞ」
「……」
テオとロイがキアを庇うように前にでて、リューの視線を遮る。テオは大丈夫だ、とでも言うようにキアの手を握ってやった。
キュ、と小さな力で握り返されるのを掌に感じる。
小さな手だ。幼い手だ。この手がアッシュを救ってくれたのだ。大事な恩人で、大切な妹だ。もう本当に家族同然なのだ。
なぜ同じ家族であるリューがキアにここまで苛烈な目を向けるのかは分からない。だがその視線は許せるものではなかった。
怒りを込めた視線が二対、リューに突き刺さる。
リューは一度目を瞑り、落ち着きを取り戻そうと深呼吸をする。自分が激昂しているのは分かっていたし、ソレをキアに向けるのが筋違いというのも分かっていたからだ。
「……申し訳ありません、キア。少し、熱くなってしまいました」
再び開かれた目にはもう先ほどの激情の色はなかった。
「あの……リューさん」
「あなたは何も悪くない。全て私の未熟さが原因です。本当に申し訳ありません」
視線でテオとロイに退いてもらい、リューは膝を突いてキアに視線を合わせる。そして深く深く謝罪するのだ。
「いえ、あの……すいませんでした」
「何を謝るのです。悪いのは私だと言ったでしょう?」
戸惑い、どうすればいいのか分からず謝るキアに、リューは微笑みながらそう答えた。
いきなり緊迫した空気に何事かと見守っていた団員達も、その様子にようやく息を吐いた。
「しかしリュー。お前があそこまで激昂した理由はなんだ? たしかに俺たちは呪文のことについては門外漢だが、そんなに不味いことなのか?」
団長の問いにリューが答えようとしたその時、
「おい、ヤツ等追いついてきやがったぜ!」
その卓越した目で見張りをしていたヴァンの声が。
事態は再び緊迫した空気を纏い始めた。
※解呪呪文<シャナク>※
魔力による汚染を解除する治癒系回復呪文。
淡い橙の光をしており、呪怨系の呪文はコレか聖水でないと治せない。
物品に染み付いた呪いをかき消す効果もある。
@@@
( Д) ゜゜ 『感想数29』
えぇぇぇえええぇぇええええええ!!
一話で感想数29!?
ともかく皆さんたくさんのご感想ありがとうございます! こんなにたくさんの感想をいただけて、私は幸せ者です。
さすがにこの数に一つ一つ返信するのは無理がありますので、今回のレスはこの一括で勘弁してくださいな……
でも全部全部読ませていただいています。これらの感想は全て糧へと変えて、更新という形で皆様にお返ししたいと思います。
さて、前回私が気づいた矛盾への対応策として、たくさんの書き込みがありました。
中でも多かったのが「ザキという呪文の性質上、声が聞こえる」というものと「キアは呪文をザキと見破ることができる」というものでしたね。
もっと細かく分類されていましたが、大きくまとめてしまうとこのようになるかな? そのほかにも色々なご意見がたくさんありました。
皆さん貴重なご意見ありがとうございました。
コレを参考に、矛盾なく物語を進められるようにやってみます!
今まで投稿した分のほうで改定が必要になるかもしれませんが、それをやるにしろ一段落着いてから行いたいと思います。
次回更新ですが、さすがに明日は無理そうです。時間的にどう考えても厳しすぎる。せめて明後日までには投稿できるようにしたいと思います。
奇跡が起きれば明日いけるかもしれませんが……起きないから奇跡と(ry