リアです。
まったく、あのイナカッペは無礼にも程があります。
きっと、あの男は美醜の感覚が普通の人と180度ずれているんですね。
だから平気で人前であんな格好ができるのですよ、きっと。
まぁ、あんな原始人の事は放っておきましょう。
考えているだけで腹が立ってきますし………。
わたしのこの青い髪と透き通る羽は、母さま譲りの自慢のものなのです。
だから、ユートに褒められたのは素直に嬉しかったです。
そうは言っても、本当に少しだけ、ですけどね。
そ、そんなことよりも。
今問題なのはこの人物です。
わたしはユートの肩に止まると、相手にもわかるように警戒の眼差しを向けます。
この人は一体何者なのでしょうか。
いきなり変なことをユートに頼んだかと思うと、ユートをわたしのご主人様だなどと!
確かに本来はそうなるはずでしたが…。
そして極めつけは先ほどの言葉。
何故ユートがこの世界の人間ではない事を知っているのでしょうか。
悪い人間ではなさそう……なのですが、その真意がわかるまで気を許してはいけません。
わたしの勘は、理由はわかりませんがこのキンパツは敵だと言っています。
対応を間違えてはいけません、慎重にいかなければ。
「な、ななな、なにを言ってるんでせうか」
………ユート、アナタには失望しました。
いきなり核心を突かれたからといったって、いくらなんでもうろたえ過ぎです。
それでは認めてるのも同然ではないですか。
頭が痛いです。
まったく…。
ユートにはわたしがついていないと駄目ですね。
俺はここで生きていく
~ 序章 第七話 ~
なんでだ!?
なんでいきなりバレてるんだ!?
まずいまずいまずいまずい!!
なんとか誤魔化さないと!
もしも俺がこの世界の人間じゃないってバレてしまったら……!
と、ここでふと気づく。
………バレてしまったら?
よく考えたら、別にバレてもよくないか?
バレても困ることなんて……うん、ないな。
もしも自分から、「俺、異世界の人間なんだ」なんてバラしたら、頭がおかしいんじゃないか、と思われるのがオチだ。
でも、相手の方が異世界の人間じゃないか、って聞いてくるなら黙っている必要なんて全くないんじゃ…。
リアにも異世界の人間だと話してはいけない、って言われてないし。
………あはは、なんだ、焦って損した。
気を取り直してセディに、その通りだと伝えようとしたが、それまで黙って俺たちを見ていたリアが間に突然割り込んできた。
「どうしてそう思うのですか?一体アナタは何を知っていると言うのです?」
そう言ってセディの顔を見つめるリアの横顔は険しく、警戒心をむき出しにしていた。
「お、おいおい、リア、よく考えたら別に隠すことでもないだろ」
「ユートは少し黙っていてください!」
俺の言葉をピシャリと切って捨てる。
「でも……」
「少しは頭を働かせてください。もしもグレゴリのジジィの様な頭のおかしい魔法使いとかに存在を知られたら解剖とかされるかもしれないのですよ?」
なんですと!?
「か、解剖って…」
俺の頭の中に、体のあちこちにメスを入れられてホルマリン漬けに保存されている自分の映像が浮かぶ。
うぁ、そりゃシャレになってないって…。
「わかったらもう少し警戒心を持ってください!」
「グレゴリ………ね。やはり君達はあの大賢者グレゴリの遺物なんだね。頭のおかしいっていう部分はよくわからないけど」
「っ!!……ああ、もう!ユートのせいで余計な情報を与えてしまったではないですか!!」
リアは綺麗な髪を振り乱して、全身で怒りを露わにする。
………いや、今のは俺のせいじゃないだろ。
怖いから口には出せないけど。
「リア、ちょっと落ち着けって。カルシウム足りてないんじゃないか?」
「カ…ル……なんですか?」
あぁ、カルシウムって言葉がないのか。
「いや、こっちの話。とにかく落ち着けって。そもそもさ、俺にはセディがそんな事するようなやつには思えないんだよな」
俺がセディを見ながらそう言うと、彼はニッコリ笑う。
「あぁ、信用して欲しい。僕は君達に危害を加えようなどと考えていない。むしろ、味方だよ」
「でも…」
リアはまだ納得がいかないという顔をしている。
「俺のことを心配してくれるのはわかるけど、さ」
ポンポン、と頭を撫でてやる。
「わ、わかりましたから、撫でるのをやめてください!」
ほのぼのしてると、隣からクスクスと笑い声が聞こえてきた
「仲がいいんだね」
「あ、あはは」
気まずい…。
ってか、その生暖かい視線はやめてくれ、セディ…。
リアはまたヘソを曲げてしまい、ソッポを向いている。
孤立無援、味方無し、と…。
仕方ない、話を無理やり進めてしまおう。
「えっと…どこから話したらいいんだかわからないから適当に省略するけど、俺はセディの言うようにここの世界の人間じゃない」
そして、俺は、自分が何かの間違いで召喚されてしまったらしい事、ついさっき来たばかりで右も左もわからないこと等を説明した。
リアとの契約に関しては話していない。
別に重要なことでもなさそうだったし。
「やっぱりか…」
セディは何か納得したようにつぶやく。
「一応確認しておきたいんだけど、魔王が復活したとか、そういう事は…」
「それはないらしいぞ。リアが言うには、地震かなにかで魔法陣が誤作動したんじゃないか、ってことらしい。俺にしたって、戦いに関してはド素人もいいとこだし、勇者なんて大層な者でもない」
俺がそういうと、セディは少し安心したような、残念なような表情をした。
安心はわかるけど、なんで残念がるんだ?
まぁ、いいや。
それよりも…。
「それじゃ、今度はこっちの番だ。なんで俺が異世界の人間だってわかったんだ?」
多少変な場所に変な格好の人間がいたからと言って、それをいきなり異世界の人間だ、などと思う人間は普通いないだろう。
リアの話していた昔話から想像するに、異世界の人間がこちらに来るなんて滅多にあることじゃないみたいだし、俺の他に異世界からの人間を知っているっていうのでもなさそうだし。
「確かに俺、向こうの格好だから、こっちの人からみたら違和感あるだろうけど、それだけじゃ普通異世界の服だなんて思わないだろ?」
俺が問いかけると、セディはそうだね、と頷く。
リアも話には興味あるのか、俺の肩の上に座って耳をすませている。
顔は反対側を向いているけど。
「世界に再び魔王現れるとき、異界より光と共に現れた勇者がこの世界を救うだろう」
厳かな調子で諳んじるセディ。
なんだよ、そのいかにもな言葉は。
「これは僕の家に数百年前から伝わっていた言い伝えなんだ。と言っても、口伝はすでに失われていて、この言い伝えを知っているのは偶々倉庫に眠ってた古文書を目にした僕だけだけどね」
「まさかその古文書を書いたのは……」
リアが少し驚いたように言う。
「うん、たぶんおチビさんの考えている通り。大賢者グレゴリの署名があったよ。何故僕の家に伝えられていたのかまではわからないけどね」
「なるほど………。これでユートが異世界から来たことを知っていたことや、ユートをわたしのご主人様だなどと呼んだことに納得いきました」
ああ、なるほど、契約の事も書いてあったわけか。
「半信半疑だったんだけどね。その古文書には、言い伝えとその事についての注意書きのような物が書いてあったんだけど、他に子供の落書きのような物も書いてあってね。偽物の可能性も否定できなかったんだ。ここ、グレゴリの塔に一番近いレヌール城の城下町の図書館や長老達に話を聞いて調べたけど、この言い伝えについては誰も知らなかったし」
大賢者グレゴリに関する古文書は貴重なだけに偽物も多いんだよ、と付け加える。
「それじゃ、あてずっぽだったわけか」
「ああ、昨日まで…はね」
セディは意味深に笑う。
それを受けてリアは何かに気づいたように言う。
「なるほど、さっき話していた“光”ですね」
「正解。今日の朝、大きな地震があったんだけど、その地震の直後、この塔の上のほうで、かなり強い光がひかったんだよ。グレゴリの塔、そして光。それで、もしかして……と思って、調査隊に混ぜてもらったんだ」
なるほど、その光は俺が召喚されてしまったときの光だったわけか。
「そしてもう一つ。実は、君が異世界の人だと確信できたのはついさっきなんだ」
「え、何か俺ヘマしてたか?」
リアにも聞いてみたがわからないようだ。
ってかリア。
お前もわからないなら、その、ユートは仕方ありませんねぇ、って顔はやめろって。
「それを説明するには実際に見てもらった方が早いだろうね。…っと!………ちょうどいい、お客さんだよ。二人とも下がってて」
そういうと、セディは表情を引き締めて兜を被りなおす。
セディが向ける視線をたどると…、いたっ!
モンスターだ。
オオアリクイ二匹と、その後ろに巨大なカエルが二匹見える。
確かフロッガー……だったかな。
強さはオオアリクイと大差なかったはずだから、さっきの戦闘を見る限りセディなら楽勝だろう。
一対一ならば。
数の上ではこちらが三、敵が四と、まだなんとかなりそうだが、こっちは俺が役に立たない状態だし、魔法力が切れているらしいリアにも戦闘は無理。
都合セディが一人で四匹を相手にしなければならない。
「だ、大丈夫なのか??」
「ふふふ。まぁ、見ててくれ」
心配そうな俺の声に軽く答えて、大剣を背中から下ろして右手に引きずる。
今回は睨み合い等はなかった。
「少し離れていてくれよ。僕のこの戦い方は結構危ないん…だっ!」
話しながら気合を吐くと、すごい勢いで走り出す。
大剣がセディに引きずられて地面と擦れ、ガリガリと耳障りな音を立てる。
セディは敵の1メートル程前で深く沈みこむ。
「はぁっ!!」
と、次の瞬間、体を思い切り捻って斜め上から一気に二匹のオオアリクイを袈裟切りにした。
オオアリクイは反撃する暇すらなく、地面に沈み込む。
しかし、大剣は切れ味が良すぎたのか、勢い余って地面に突き刺ささってしまった。
まずい、あれじゃ!
振りぬいた格好のまま隙ができてしまったセディの背中に片方のフロッガーが飛び掛かった。
「セディ!」
思わず俺は叫んでしまったが、セディは大剣から左手を離すと、右手と大剣の柄を支点にして回し蹴りを放った。
空中にいたフロッガーはそれをかわす術がなく、地面に叩きつけられる。
そして、残ったもう一匹のフロッガーが動き出す前に駆け寄り、いつの間にか地面から抜いていた大剣で上下に真っ二つにしてしまった。
「す、すげぇ……」
「………」
正に一瞬だった。
大剣を力でねじ伏せて使いこなすのではなく、大剣と一体となり、まるで舞を踊るかのような戦いに俺は魅せられてしまった。
戦う姿にこの形容はおかしいかもしれないが、俺はその戦いを美しいとすら感じてしまった。
リアも言葉がないようだ。
目を丸くしてセディの方を見ている。
すげぇ、すげぇよっ!
俺が興奮してセディに駆け寄ろうとすると、しかし、セディは鋭い目をしたまま俺を突き飛ばした。
「まだだ!離れててっ!」
「ユートッ!」
倒れこむ視界の端でフロッガーがセディに飛び掛るのが見えた。
回し蹴りで地面に叩きつけたフロッガーにはまだ息があったのだろう。
しかし、セディは落ち着いてフロッガーの攻撃を避け、切り伏せる。
倒れた込んだ位置が悪かったのか、フロッガーの血が俺の全身に降り注いだ。
「ぁ………っ!」
生々しい血の臭いが一角ウサギの燃え尽きる光景をフラッシュバックさせる。
「……っ!」
「ユート、大丈夫ですかっ!?」
「ユート君?」
再び思考の渦に巻き込まれそうになったが、二人の心配そうな声が俺の意識を正常に戻す。
「あ、あぁ、大丈夫、だ」
そう、大丈夫だ。
俺は自分に言い聞かせるように二人に話す。
「……ちょっと驚いただけだから、心配すんなって。それよりセディ、油断して悪かった」
「いや、僕も声を掛けなかったからね。ただ、次からは最後まで気を抜かないようにね。戦闘は一瞬の油断がそのまま死に繋がることも珍しくないんだ」
俺の取った迂闊な行動が、セディを危険な目にあわせるところだったのだ。
自分の安易な行動が他人にまで危険を及ぼしてしまう。
「あぁ、気をつけるよ」
上着に付いた血を眺める。
この血がセディやリアの物だった可能性だってあったんだ。
嫌な想像を振り払うように頭を振る。
俺はセディの忠告をしっかりと胸に刻み込んだ。
でも…。
少し落ち着いて、再び上着を眺める。
この上着は洗ってももう駄目だな…気に入ってたんだけどなぁ。
お気に入りの上着は血に濡れ、黒かった生地は赤く染まってしまっていた。
「それにしてもすごかったな!踊りでも見ているみたいだったよ。さっきまでは本気じゃなかったんだな」
今の戦いの光景を思い返すと興奮がよみがえってくる。
俺が褒めると、セディは少し照れて頬をかいた。
「あはは、ありがとう。でも、さっきまでだって別に手を抜いていたわけじゃないよ。今回は敵の目をこっちに向けさせるために少し派手に動いたけど、あれは冒険者としてはあまりいい戦い方でもないんだ」
わかるかい?といった表情でこちらを見るセディ。
そんな風に見られても、わかるわけがない。
こちとら武道はもちろん、ケンカですら小学校以来やってないんだ。
戦ったのはオオアリクイが初めてで、それすら頭に血が上っていたせいか良く覚えていない。
その戦いも戦闘と言うより、ケンカと言った方がいいような戦いだったし。
そんな俺の目から見ると、文句のつけようのない戦いに見えたんだけど…何が足りなかったんだろう。
考え込む俺の様子をセディは少しの間面白そうに見ていたが、懐に手を入れて何かカードの様な物を取り出した。
「ちょっと二人ともこっちに来てくれないか」
そう言って、最後に倒したフロッガーの傍にしゃがみ込む。
正直あまり気味のいい光景ではなかったが、俺たちはセディの言うとおりフロッガーの傍まで近寄る。
「よく見ていてくれ」
そう言ってセディが手にしていたカードをフロッガーの死体に近づけると、突然フロッガーの死体が黒く影のように色が変わり、次の瞬間には煙のように消えてしまっていた。
「なっ!?」
「えっ…」
そして、黒っぽいモヤのような何かがカードに吸い込まれると、さっきまでフロッガーの死体があった場所に残ったのは、見覚えのある銅貨が数枚きりだった。
「な、何が起こったんだ……?」
「わ、わたしにもわかりません」
わけがわからずリアの方を見るが、彼女も何が起きているかわかっていないようだ。
セディは俺たちの戸惑った視線を少し満足げに受けると微笑んだ。
「この状況がユート君が異世界から来たという事の証明になるんだ」
「一つづつ説明してあげよう」
そう言うとセディは俺に先ほどのカードを差し出した。
「これは冒険者の証、と呼ばれている。冒険者ならば誰でも持っている物だよ」
俺とリアは冒険者の証を受け取ってそれを覗き込んだ。
大きさは名刺大で厚さは5mm程。
何でできているのかはわからないが、硬くしっかりとした作りで、かなり丈夫そうだ。
手触りはツルツルしている。
表面は黒く、縁と裏面は銀色に鈍く輝いている。
鉄……に似ているが、錆や傷は全くないから恐らく違うのだろう。
表面の真ん中付近には、EXPとGという文字と、その隣に数字の羅列が白で書かれている。
いや、書かれている、というのは少し違うかもしれない。
書いてあったり掘り込んであるものではなく、浮かび上がっている、という表現が一番しっくりくる。
黒い画面に白い文字が浮かび上がっているようで、まるでゲームのウィンドウのようだ。
なんだ、コレ…。
冒険者の証???
そんなものドラクエにあったっけ?
「この証をモンスターに近づけて念じると、モンスターは消えてゴールドが残るんだ。僕たち冒険者は、これを浄化と呼んでいる」
俺が冒険者の証を返すと、説明しながら残りのモンスターで実演してくれた。
何度見てもわけがわからねぇ…。
セディがモンスターの死体にカードを近づけると、死体は黒い影になって消えてしまう。
そして、後にはゴールドだけが残るのだ。
「どういう理屈なんだ、これ……」
俺が問いかけると、セディは困った顔になった。
「理屈は僕にもわからないんだ。この冒険者の証は、精霊ルビス様の像に冒険者になりたい人が祈りを捧げると、祝福と共に頂けるものなんだ。だから、冒険者達の間では、このカードを使うとルビス様の御力を借りることができる、という見方が今は一番多いかな」
そう言うと、セディは俺たちに見えるように表面をこちらに向けて見せる。
「そして、この表に書いてある数字の羅列。下の方はゴールドの金額、上のほうは経験値を表している」
そう言って数字を指差す。
確かに、上のEXPの横の数字がさっきよりも若干増えている。
「よく見ててね」
そう言って拾い集めた銅貨を証に近づけると、今度は前触れも無く銅貨が消え、表示されていたGの横の数字が増えていた。
「はぁっ!?」
思わず叫んでしまったが、仕方ないだろう。
理解出来ない事が多すぎて、もう頭がパンクしそうだ。
「理屈はわからないけど、ゴールドに関しては自由にこの証に出し入れすることができるんだ」
そう言うと、セディは10ゴールドと呟いて手のひらに証から銅貨10枚を取り出して見せた。
目を丸くして驚いている俺とリアに、セディは手のひらの銅貨を弄びつつ言った。
「今見せた、この冒険者の証の力は、どんな村の子供ですら知らない者はいない、この世界で生きている人たちにとっては当たり前の事なんだ。だから、その力を知らない二人はこの世界の人間じゃない、ってわかったんだよ」
「なんというか……ファンタジー、だなぁ」
思わず呟いてしまう。
「人間界にはこんな物があったんですね…」
リアも少し放心状態で言う。
………って、ちょっと待て。
俺が知らないのは当然として、なんでリアまで知らないんだ?
俺がそう聞くと、リアは少しバツの悪そうな顔をして説明する。
「実はわたし、人間界に着てすぐにあの魔法陣の契約をさせられて眠りについていたので、知る機会なんてなかったんです。妖精界にはこんなものありませんし……」
あのジジィはまったく……、とぶつぶつ言っているが、まぁ放っておこう。
驚きが冷めてくると、今度は沸々と好奇心が湧き上がってきた。
特に、こういうのは個人的に好きなので、知りたくて仕方が無い。
「なぁなぁ!他にはどんな機能があるんだ?みんな手荷物少ないな~とは思ってたんだけど、まさか、荷物とかも収納できるのか!?」
「はは、さすがに荷物は無理だよ。塔を調査するのに邪魔になるから荷物は外に隠してあるんだ。この証で出し入れできるのは今のところゴールドだけらしい」
俺が身を乗り出して聞くと、セディは苦笑しつつ答える。
「…今のところ?らしい?どういうことだ?」
気になって問いかけると、一瞬面白そうな顔をして、話し出した。
「実は、この冒険者の証についてはわかっていないことがまだまだ多いんだ。他にもいろいろな力が隠されているようなんだけど、今確認されている力はこれくらいなんだ。冒険者達はみんな手探りで使い方を探している状態なんだよ」
「へぇ、面白いな!」
こういうファンタジーっぽい便利グッズってファンタジー好きの俺にはたまらない。
「……どうだい?僕がユート君を異世界の人間だと判断した理由、納得してくれたかな」
「ああ」
「そう…ですね」
ああそうだった、そういう話だったっけ。
反射的に答えはしたけど、証が興味深すぎて半分以上忘れていた。
「それじゃ、そろそろ下に降りようか。ここにずっといるとまたモンスターがやってきかねないからね」
そう言って歩き出すセディに俺とリアも続く。
「なんか気になることでもあるのか?」
大方納得したようだが、まだ少し浮かない顔をしているリアの様子が気になった俺は、セディに聞こえないように小声でささやく。
「いえ、大したことはないのですが…。なぜかあのキンパツが敵だという勘が消えないんです…。別に憎いというわけではないのですが…、変ですね。」
リアは不思議そうにひとりごちる。
ってかキンパツって…。
まぁいいや。
悩むリアをよそに考える。
1階に着くまでまだまだ長い。
その間にあの証についてもっと聞いてみよう。
俺は心躍らせながらセディに小走りに駆け寄った。