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No.3797の一覧
[0] 俺はここで生きていく (現実→オリジナルなドラクエっぽい世界) [ノンオイル](2009/03/29 23:44)
[1] 序章 第一話[ノンオイル](2008/12/19 22:25)
[2] 序章 第二話[ノンオイル](2009/02/24 02:50)
[3] 序章 第三話[ノンオイル](2009/02/24 02:50)
[4] 序章 第四話[ノンオイル](2008/12/19 22:26)
[5] 序章 第五話[ノンオイル](2009/02/24 02:49)
[6] 序章 第六話[ノンオイル](2009/02/24 02:49)
[7] 序章 第七話[ノンオイル](2009/02/24 02:51)
[8] 序章 第八話[ノンオイル](2008/12/19 22:27)
[9] 序章 第九話[ノンオイル](2008/12/19 22:28)
[10] 序章 第十話[ノンオイル](2008/12/19 22:29)
[11] 序章 第十一話[ノンオイル](2008/12/19 22:29)
[12] 序章 第十二話[ノンオイル](2008/12/19 22:30)
[13] 序章 第十三話[ノンオイル](2008/12/19 22:31)
[14] 第一章 第十四話[ノンオイル](2008/12/19 22:33)
[15] 第一章 第十五話[ノンオイル](2009/02/24 02:44)
[16] 第一章 第十六話[ノンオイル](2008/12/19 22:34)
[17] 第一章 第十七話[ノンオイル](2008/12/19 22:34)
[18] 第一章 第十八話[ノンオイル](2008/12/19 22:34)
[19] 第一章 第十九話[ノンオイル](2008/12/19 22:35)
[20] 第一章 第二十話[ノンオイル](2009/02/24 03:14)
[21] 第一章 第二十一話[ノンオイル](2009/02/24 03:14)
[22] 【オマケその一】 魔法について ―― とある魔法使いの手記 3/29  【それぞれの魔法について】 追加[ノンオイル](2009/03/29 23:42)
[23] 第一章 第二十二話[ノンオイル](2009/02/28 19:22)
[24] 第一章 第二十三話[ノンオイル](2009/03/17 21:41)
[25] 第一章 第二十四話[ノンオイル](2009/03/19 18:13)
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[3797] 第一章 第二十一話
Name: ノンオイル◆eaa5853a ID:aa12ef82 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/02/24 03:14
リアです……。

「……はぁ」

ため息をつくのはこれで何度目でしょうか……。
少なくとも両手の指で数えられる程度ではない事は確かです。

……別に一々自分のため息の数を数えていたわけではないですよ。
呼吸する度に、と言ってもいいほど頻繁にため息をついていたのだから、どう少なく見積もってもそれくらいになってしまってる、っていうだけのこと……です。

「……はぁ」

わたしはまた一つ息を吐いて、眼下の景色へと意識を向けます。
ここはこの街で一番高い所……お城の塔の天辺なので、見える景色は屋根ばかりですが、これ程大きな街を見るのは初めてだったので退屈はしませんでした。

これが人間たちの住む街……。

正直……汚いですね。
少し目を凝らしてみれば、街の通りにはゴミをいくらでも見つけることができます。
空気も汚れているような感じもしますし。
これは、妖精の街とは違って木や泉がないから……、というだけではなさそうですね。

視線を遠くへやると、昨日最後に案内された武器屋や防具屋のあった通りの方角に幾筋かの煙が立ち上っているのが見えました。
昨日初めて見た時は、火事かと勘違いしてしまいましたが、どうも武器や防具を作っている時に出る煙らしいです。
煙は空高くに昇るにつれて薄くなり消えていきます。
でも、それはただ見えなくなっただけで、決してなくなったわけではないのです。
きっと、わたしがここでこうしている今も、確実に空気を汚しているのでしょう。
……まぁ、我慢できないという程でもないのでいいですけど。

「……はぁ」

……な~んて、街を眺めてどうでもいい事に現実逃避していても仕方ないっていうのはわかってるのですが。
わたしは、気づくとため息をついている自分が無性に情けなくなって……。

仰ぎ見た空は、雲ひとつありませんでした。






           俺はここで生きていく 

          ~ 第一章 第二十一話 ~






「お酒はもうコリゴリです……」

こうして口に出して言えば、この憂鬱な気分の原因が本当にお酒の飲みすぎのせいになったりしないかと、リアは淡い期待を込めて呟く。
……そんな事は無理だってことは、他ならない自分が一番よくわかってはいるのだが。

ユートに貰ってきてもらった薬がやっと効いたのか、それともイレールに貰ったお茶が良かったのか。
先程までののガンガンするような頭痛はすでに治まっていた。

「魔法屋……」

名前からしてきっと魔法を教えている所なのだろう。
詳しい事はよくわからなかったが、なんとなく想像はついた。
そして、予想される話の流れから、そのうち自分の魔法の話になるだろうことも……。

その事に思い至った瞬間、リアは協会を飛び出していた。
今になって落ち着いて考えれば、たとえそのような状況になったとしてもいくらでも誤魔化しようはあったのだが……不意打ちだったせいもあって、あの時はそこまで考えが及ばなかったのだ。

何をやってるんでしょうか、わたしは……。

ため息をつこうと息を吸い込んむと、辺りが急に光り、次いで何かが頭上から落ちてきた。

「……イタッ! ……なんですか、いったい」

予期せぬ頭上からの衝撃に、落ち込んだ気分にさらに追い討ちをかけられた気がして、少し涙目になってその原因を睨みつける。
屋根の上に音をたてて落ちたそれは、この憂鬱な気分になった最大の原因とも言える物だった。

「……冒険者の証」

……そういえばイレールが言ってましたっけ。
証はある程度離れた状態で時間が過ぎると持ち主の下へと戻る、と。

「……っ!」

睨みつけてはみるが、そこには、嘘だと思いたかった、何かの見間違いだと思いたかった表示が、昨日と変わらぬままにあった。
みっともなくユートの前から逃げ出してしまった自分に、現実を突きつけるために、証自身が悪意を持って追いかけて来たのか。
そんな被害妄想じみた考えまでもが浮かぶ。

……当然、証にそんな意思があるはずもない。
しかし、リアには、まるで四方から追い立てられるような、脅迫観念にも良く似た焦燥感が感じられていた。

「わたしは……」

震える手を証に伸ばす ―― 否、伸ばしかけた所で、突然女性の悲鳴が辺りに響き渡った。
その声に驚いて手を引っ込めると、リアは塔から身を乗り出して、声の発生源を探す。

「……いた」

騒ぎの場所はすぐに見つかった。
リアのいる場所から下を見下ろすと、すぐに目に入る場所。

そこは、王宮の入り口の橋を渡り終えた先の小さな広場。
あのリアお気に入りのお饅頭の屋台を最初に見た場所のすぐ近くだった。

先ほどの声を聞きつけたのだろう。
すでに騒ぎの中心を囲むようにして人垣ができ始めている。

中心に見える人影は二つ。

一人は男性。
中腰で顔だけを横に傾けた、変な姿勢で佇んでいる。

そして、もう一人は、先程の悲鳴を上げたであろう女性。
肩を怒らせ、男に向かって捲くし立てている。

……何かあったのでしょうか。
様子からいって、今すぐ何がどうこう、といった危険は無さそうです……し、ちょっと見に行ってみましょうか。

興味を惹かれたリアは、落ちていた証を拾うと、騒ぎの場所へとゆっくり近づいていった。







目立たないようにそっと近づいていくと、女性の怒鳴り声が聞こえてきた。

『こ……んのっ!! 変態っ! 痴漢っ!! 変質者っっ!!!』

『…っ! ……つっ!! 乱暴な人ですね……僕が、何をしたっていうんですか』

堀の脇に立っていた木の陰からコッソリと騒ぎの場所を覗きこむと、少し癖のある長い茶髪を後頭部で纏めた少女が、怒りの声と共に這いつくばった男を蹴りつけていた。

その少女は鎧を着ており、リアは、おそらく冒険者なのだろう、とあたりをつける。
白い皮鎧にブラウスと短めのスカートを上手く合わせていて、このまま普通に道を歩いていても違和感のない、可愛い格好をしている。
見目が良いとはいえ、あくまで皮鎧なので、レベルはそう高くなさそうではあるが。

少女はこちらに背を向けているため、表情を見ることはできないが……見なくともその声や動作からどのような表情をしているかは想像に難くない。

『何をしたかですって!? よくも抜け抜けとっ!! 私の下着をあんっなに、ジロジロと覗き込んだくせにっ!!』

『覗いて、なんて、ない、です……っ』

『黙れっ! この変態っ!!』

少女は男の反論を聞く耳を持たずに蹴り捨てた。

どうやら、この騒ぎの原因は男が少女の下着を覗いた事にあるらしい。
怒声が聞こえてすぐに上から見下ろした時に見えた男は、確かに中腰の変な格好で首を横に傾けていた。
そう思って思い返してみれば、下着を覗いていたと見えなくもない。
しかし、こんな真昼間からあんなに堂々と覗くなんて……。

『……っ、だからっ、誤解だって! 僕はっ、あの、っ、木を……。像造りの、ために……』

男は少女の蹴りに耐えつつ、こちらを指差しながら途切れ途切れに弁明する。
男の言葉にある木とは、わたしが隠れているこの木の事のようだ。
木の下には三人程が座れそうな腰掛があるし、恐らく少女はそこに座っていたのだろう。

しかし、いくら言い逃れのためとは言え、覗き込む動作をしておいて木を見ていた、というのはないだろう。
少女も聞く耳を持つつもりはないのか、さらに容赦なく男を蹴りつけていく。

『像っ!? あんた、乙女の下着をタダで見ただけじゃ飽き足らず、像に残しておこうっていうのっ!? 気持ち悪いっ!! 何に使うつもりよっ、このド変態っ!! 乙女の繊細な心を傷付けた慰謝料、1000G払えっ!!!』





「………ふぅ」

どうやらただの変態さんのようです……ね。

リアは少し拍子抜けした気分でさらに言い合いを続ける二人を眺める。

……ユート以外にもあんな人いるんですねぇ。
一昨日、木の枝で目が覚ました時にユートに襲われかけていた事(一部誇張あり)を思い返す。

「……うぅ、やっぱり人間って怖いです」

リアは身を震わせてそうつぶやくが、口元には微かに笑みが浮かんでおり、本心からの言葉でない事はあきらかだった。



ふと後ろを振り返って見れば、城のほうから兵士が数人こちらへ駆けて来るのが見える。
恐らく、そう経たないうちにこの件は解決することになるだろう。

思ったよりつまらなかった内容に、興味を失ったのか、騒ぎの二人の周囲にいた野次馬は少しづつその数を減らしていく。



わたしもそろそろ協会に戻りましょうか……。
まだ時間はそんなに経ってないですけど……、もしユート達が戻ってなければイレールとお話でもして待っていればいいですし。

リアはノンビリとそんな事を思う。
…と、それまで少女の蹴りに耐えて蹲っていた男が、ちょうど顔を上げ、目が合ってしまった。
男は驚いた表情をすると、リアを食い入るようにジッと見つめる。
その変に熱のこもった視線に気おされて、思わず後ずさってしまう。

次の瞬間、男は少女に蹴られて蹲ってしまったので視線は離れたが、まだこちらに興味があるのか、チラチラと何度か目が合う。

なんなんでしょうか、一体。
……っ! ま、まさか次はわたしに何かするつもりなんですかっ!?
いくらわたしが可愛いからって……っ!
こ、これは、すぐにでもここを離れた方がいいかもしれませんね……。

未だに残っている野次馬が邪魔で、兵士達がここに辿り着くにはもうしばらく時間がかかりそうだ。
少女も遠目に兵士が駆けてくるのを見たのだろう。
男の頭を足で踏み、睨みつけると声を上げる。

『あの兵士達に引き渡されたくなかったら慰謝料払いなさいっ! 1000G分! びた一文まけてあげないんだから!』

『そ、それはいくらなんでも高すぎ……』

『あぁ゛んっ!? 文句あるっての!!?』

少女は男の胸元を掴み上げて凄む。
男の顔は、少女に蹴られたせいで、腫上がってしまっている。
この一場面だけを見ると、どちらが加害者で被害者なのか、わからない程だ。

……あそこまで酷い目にあわされてるのを見ると、少しだけあの変態に同情してしまいますね。
まぁ、自業自得ですけど。



――――ぁぁぁぁぁああああああああっっっ



ふと、協会の方角から何か聞き覚えのあるような声が聞こえてきた気がして、リアは意識と視線をそちらへ向ける。
遠目に砂煙がもうもうと上っているのが見えた。

最初は他人のそら似かとも思ったが、砂煙が段々とこちらに近づいてくるにつれ、聞き覚えのある耳障りな声がハッキリしていき、予想が確信へと変わっていく。
そして、数秒もたたずに建物の影から姿を現したのは、予想通り、あのイナカッペだった。
叫び声をあげつつ涙と鼻水を拭いながら走る姿は、正視に耐えない。

「……はぁ、何やってるんですか、あのバカは……」

さっきの二日酔い以上の頭痛を感じるのは、決して気のせいではないだろう。

「……もし目があったりしても、絶対に他人のフリですね。いえ、元々他人なんですけど」

リア同様にイナカッペに気づいた人間たちが、慌てて通路の両側へと避難をする。
異様な雰囲気を放ち、叫び声を上げながら猪のように走るイナカッペの進路を阻むものは誰もいなかった。

ただ一人、怒りのせいで周りが見えず、大声を張り続けているその少女を除いて。

『さぁ、時間ないわよ! 早く選びなさいっ! お城に行くか、慰謝『わあああああああああああんっっ!!』……? 何か煩いわね………って、えっ!!? きゃ、きゃあああああああああああっっ!??』

……あ~、ぶつかっちゃいましたね。

ギリギリでイナカッペに気づいたようだったが、突然の事に反応が間に合わず、少女は遠くまで弾き飛ばされてしまう。
どうやら、イナカッペに気づいて、下手に避けようと体勢を崩したのが裏目に出てしまったらしい。
もっと早く気づいていれば、あるいはもう少し気づくのが遅ければあそこまで遠くに飛ばされることもなかっただろう。
運が悪いとしか言いようがない。

弾き飛ばした当の本人といえば、ぶつかった事に全く気づかず、みっともなく泣き叫びながら南通りへと消えてしまっていた。
向かった道の先々から、イナカッペの泣き声と、それとは違う悲鳴や怒声が多く聞こえてくるが……、気にしてしまっては負けなのだろう。

飛ばされてしまった少女はどこに……と、飛んでいった方向を探すと……いた。
茂みからお尻だけが生えている。
スカートは捲れてしまい、白い純白のパンティが下着が丸見えになっている。
なんというか、気の毒としか言いようが無い。
時折足がピクピクと震えているのが酷くシュールだった。

茂みは緩衝材となっただろうし、例えレベルが低そうだとしても、そこは冒険者。
怪我だけは無さそうだが……、乙女としての尊厳は、かなりの重傷を負ったに違いない。
少女は茂みから抜け出すのに少し手間取っていたが、何とか抜け出すと、頭を振って髪についた葉を振り落とす。

『いたたた……っ、あ~~もうっ! なんなのよっ、いったいっ!!
しかも……、何よこれっ!! 何かべちゃってしたのついてるしっ!!?』

傍から見ていたリアには、そのベちゃっとした物の正体が嫌でも想像ついた。
少女には、同情せざるを得ない。

「痛そうです……色々な意味で」

「……そうだね。まぁ、自業自得だけど」

「……っ!?」

独り言に思わぬ返答があったことに驚いて、慌てて振り向きながら飛びずさる。
少し太くなった枝の上には、先ほど少女にたかられてた ―― ではなく、罪を言及されていた男が座っていた。

そんなっ!
いつの間にわたしの後ろに!?
さっきまであそこで蹲っていたはずなのに……っ。

『あああああっ!? 変態がいないっ、逃げられたっ!!? ……うぅっ、私の1000Gがぁ……。うぅ、服もべちょべちょだし、もういやぁぁ……』

少女の悲痛な声が耳に入ってくる。
どうやら正真正銘、さっき少女に蹴られていた男のようだ。

失敗した!
さっさとここを離れるべきだったのに、こんなに近くに寄られるまで気づかなかったなんてっ!!

「そ、そんなに警戒しなくても……。そ、そうだ、自己紹介しよう! 僕は「ヘンタイですっ!」そう、変態、って、違うって!」

「ヘンタイはみんなそう言うんですっ!!」

「い、いや、違うって、さっきのはあの娘の誤解なんだ! この木をこう、角度を変えて見ると、ユニ……って、ちょっ、待って、待ってくれったら! 君に話が……っ!」

こういう輩とは関わり合わないのが吉。
隙を見て踵を返すと一目散に協会へ向かって飛びたつ。
後ろの方で男の呼ぶ声が聞こえてくるが、もう会う事もないだろうし気にしない。
先ほどの場所から大分離れたところで一息ついて速度を落とす。

それにしても……、危ない所でしたね。
さっさと協会に帰るべきでした。
わたしは可愛いんですから、ああいうヘンタイには用心しないと。
もし捕まったら、きっとどこか遠くに売り飛ばされて、変な服着せられたりするんです……。
……うぅ~っ! 想像したら寒気がしてきました。
早く協会に戻って何かあったかい飲み物でも貰うとしましょう。

「待ってくれっ!!!」

「ひぅっ!?」

道を曲がり、西道路に差し掛かった所で、突然さっきの男が目の前に現れる。
男の予想だにしていなかった出現に頭が混乱して、思考がまとまらない。

な、なんでですか!?
あんなにスピード出して逃げたのに、なんで回り込まれてるんですかっ!?

慌てふためくリアに、男は顔を必死の形相に変えて近づいてくる。

「頼む、逃げないでくれっ! キミに頼みがっ! ……って、ちょ、だから待ってって!」

「だ、誰が待ちますかっ!! 着いてこないで下さいっ!!」

目的地である協会は目の前だったが、男に道を塞がれた形になったリアは、仕方なく城方向、後ろ側へと全速力で逃げ出す。

捕まったら何をされるかわかりません。
今は逃げの一手ですっ!
なんとか隙を見つけて協会に逃げ込んで、ユートとセディに助けを求めないとっ!

「おーーいっ! 逃げないでくれ、僕は怪しいものじゃないんだっ!」

「そんな事、誰が信じられますかっ!! こっち来ないで下さいいいいっっ!!」

なんでっ!?
なんでわたしが追いかけられてるんですかっ!?
撒いたと思っても、すぐにまた近くから沸いてくるし、ほんと、なんなんですか、あのヘンタイはっ!!

「まってくれええええええええええ!!」

「いやああああぁあぁぁぁぁっっっ!!」







―― 一方、その頃の魔法屋 ――



「熱つつつ……」

「んもぅ、大げさねぇ」

マリアさんは必死に手に息を吹きかけて冷やしている俺を呆れたように見る。

「大げさって言われても、手が燃えたんですよっ!? 下手したら手が使えなくなってたかもしれないってのに!!」

「もう証は持ってるんでしょ? なら、大丈夫よぉ」

大丈夫って、何を根拠に……。
うふふ、と笑うマリアさんをジト目で睨む。

「あれ、聞いてないんですか~? 証を持ってると、少しだけ魔法効きにくくなるんですよ~?」

「昨日司祭様が言ってたルビス様の加護の事だよ。落ち着いて手を良く見てごらん?」

加護……?
そういや、昨日そんな事を言ってた気がするな。
確か魔法の耐性があがるとかって話だっけ。
モモとセディの言葉を聞きながら、言われるままに右手へと視線を落とす。

「言われてみると……」

確かに、そんなに酷い火傷になってないな。
痛みはあるが、皮膚が爛れてるとか、そんな様子は全く無かった。
せいぜい熱いやかんに触ってしまった時に軽い水ぶくれができるのと同じ程度の火傷しかない。
一瞬とはいえ右手が火に包まれたという事を考えると、無傷もいい所だ。

「……加護ってこんなに効果あるのか?
モンスターからの魔法とか食らっても大したダメージがないってのは、嬉しいっちゃ嬉しいけど……」

「証の加護も原因の一つだけど、ユートちゃんがまだ魔法初心者っていう事の方が大きいかしらね。ユートちゃん、証を見てご覧なさいな」

言われて証を見てみる。
HPは…… 37/40 か。
メラを使って3しかダメージを受けない魔法防御の高さを喜ぶべきか、3しかダメージを与える事ができない非力さを嘆くべきか、判断に迷うな……。
MPの方は……って、えっ!!?
ありえない数値を見て、思わず顔をあげると、マリアさんはにっこりと笑う。

「どうだったかしら?」

「MPが15も減ってた……」

「そう、そんなものかしらね」

俺は呆然と告げるとが、マリアさんには予想がついていたのだろう。
納得したように頷いている……が、俺のほうはそう簡単に納得できるものではなかった。

証のMP欄に書かれている数値は 35/50 。
今朝確認した時は確かに 50/50 だった。
それから魔法っぽいものを使ったのはさっきだけなので、あのメラにMPを15使用した事は間違いない。

しかし、メラといえば、ドラクエをプレイした事がある人ならば誰でも知っていると言っても過言ではない程メジャーで、消費MPも少なく、最も低難易度の魔法のはずだ。
他の魔法の消費MPは覚えていなくても、コレが消費MP2だということは覚えている。
どう間違っても15も使うような魔法ではない。
しかも、使用したMPに対して威力が上がるならともかく、ダメージはたったの3を受けたのみ。
せっかく使えるようになったのに、これでは全く使い物にならないじゃないか……。
結局俺には魔法の才能がなかったっていう事なんだろうか……。

「あらあら、落ち込むのは早いわよぉ? 創造魔法はね、練習次第で使うMPを減るし、威力だってあがるのよ。
ユートちゃんはさっきのが初めてだったんだから、使ったMPが多くても仕方ないわよぉ。……うふふ、ユートちゃんのハ・ジ・メ・テ♪ よかったわよぉ~?」

マリアさんは何かを思い出すように恍惚な表情をすると、ぐふふと笑う。

「……はぁ~。こういう所がなければいい先生なんですけどね~……」

その意見、100%同意するわ……。

「……ってことは、俺のメラも頑張れば使いものになるって事?」

気を取り直して問いかけると、マリアさんはスルーされて寂しそうにしながらも答えてくれる。

「ええ、もちろんよ。それが創造魔法のいい所なんだから♪ いい? 契約魔法はね ――」



マリアさんの説明を要約すると。
契約魔法は、同じ魔法なら誰が使っても、発現する魔法の形態、使用MP、そして威力の全てが一緒になる。
これは努力しようが何をしようが一生変わることはないらしい。

一方、創造魔法は、習得が難しい代わりに、努力次第では契約魔法よりも少ないMPで唱える事ができるようになったり、高い威力を発揮する事ができるようにもなるとの事だ。
また、かなりの練習が必要ではあるが、魔法の形態(大きさや威力、メラならば炎の形など)も自分の想像で変えることができ、応用次第では様々な事ができるらしい。



その説明に少し希望が見えてきて、頬が緩む。
とはいえ、思わないことがないわけでもない。

「創造魔法にも色々利点があるのはわかったけどさ。それでも契約魔法の方が使いやすそうだよなぁ」

明らかに契約魔法の方が簡単で手軽だし。
金の問題はあるけど、逆を言えばそれさえクリアできればいいわけだ。
創造魔法の、色々な応用がきくっていう点はすごい利点だと思うけど、人間、簡単なものがあったらそっちに流れるのは道理だと思うんだ。

「そりゃそうよぉ! なんてったって、契約魔法は大賢者グレゴリ様がお作りになったんだからぁ♪」

マリアさんは夢見る乙女の瞳でうっとりと呟く。
……ってかグレゴリ!?

「グレゴリ……ってあのグレゴリの塔のグレゴリ?」

「他にどんなグレゴリ様がいるのか知らないけど、そのグレゴリ様であってるわよん」

「へぇ!」

グレゴリのじーさんって、ただのエロいじーさんじゃなかったのか……。
リアの話聞いてたら、ただの変なじーさんとしか思えなかったもんなぁ……。
リアのコスチュームの趣味はすごく俺と合いそうだし、そっちの意味ではある意味尊敬してたけど、こんなすごい事もやってたのな。

「グレゴリ様はね、ご自身にはそれ程魔法を使う才能がなかったんだけど、魔法を生み出す才能はすごいものを持っていらしてね」

ふむふむ。

「魔法を使う才能がなくても魔法を使える方法を生み出す研究を重ねて、ついに完成させられたのよ。それでね ――」

ふ、ふむふむ……。

だんだんとマリアさんの口調に熱がこもっていく。

「……で、…………でぇ、…………ってわけなのよぉ~」

―― ん?

そして、グレゴリのじーさんが契約魔法を作り出したという話から、次第に別の話へと変わっていく。

「………………でね、………………で、……………………になって」

え、ちょ、ちょっと?

最早魔法も何も関係のない話に変わっている。
いや、だからグレゴリのじーさんの趣味なんて知らなくていいからっ!

「………………………………で、…………………………………………ってわけなのよぉ、すごいわよねぇ~。……そうそう、」

「え、えっと、マリアさん?」

なんとかマリアさんの息継ぎの間を狙って口を挟む、と、すごい顔で睨まれた。

「……んもぅ、なによぉ、今いい所なのにぃ」

「い、いや、あの……「用がないなら続けるわよぉ?」……え、いや」

途中で口を挟もうとするも、すぐに話が再開される。
グレゴリについての話しは、全く終わる気配がない。
いや、だからマリアさん、俺、グレゴリのじーさんのスリーサイズなんて興味ないって!!

助けを求めてモモを見ると、彼女はあちゃ~、という顔をして小さい声で囁いてくる。

((マリア先生、グレゴリ様の大ファンでぇ~、一度話し始めると一時間は止まらないんですよぉ~))

((ちょっ、聞いてないって、んなことっ!))

「ちょっと! 聞いてるのぉ?」

「は、はい!」

気持ち良さそうに話を再開するマリアさんの目を盗んで、モモとセディに助けを頼む……ってセディはどこいった!?

((セディさんならさっき下に降りてっちゃいましたよぉ~。そうそう、『ボクはちょっと用事思い出したから先に下に行ってるね』だそうです~))

((み、見捨てられたっ!?))

((わたしもぉ~、お部屋の掃除があるので隣行ってますねぇ~。ごゆっくりぃ☆))

((ちょ、ちょっと待って! モモさんーーーっ!!))

「ユートちゃん!? ちょっと聞いてるのぉ!?」

「は、はいぃ!!」

な、なんなんだよ、これ!!








「あら、セドリックさん、用事はおわったんですか?」

セディは階段を降りると、イレールの笑顔に出迎えられた。

「あぁ、僕はね。ユートはまだマリアさんの話聞いてるよ。なかなか白熱してるみたいでね」

「白熱……ですか?」

イレールはセディの言う意味がわからず、頬に人差し指を当ててキョトンとしてる。

(どっちかって言うと、マリアさんだけが一方的に白熱してるんだけどね)

ユートの困って汗を垂らしている顔が目に浮かんで、思わずクスリと笑みがこぼれる。

実はセディも、以前ホイミの魔法の契約を結んで貰う際、契約魔法についてマリアに質問してしまい、今のユートと同じ目にあっていた。
今回はその経験を生かし、大賢者グレゴリについての話が始まりそうになったら逃げてきた、というわけだ。

「……? なんか楽しそうですね、セドリックさん。何かいい事ありました?」

「あはは、なんでもないよ。……そうだ、イレールさんに頼みたい事があったんだけど、いいかな?」

「……頼み事、ですか?」

セディはイレールの言葉に頷くと懐から袋を取り出してカウンターに置いた。





「……って事なんだけど、頼めるかな?」

「もちろんいいですよ。……でも、どうして直接渡してあげないんですか? そっちの方がユートさんも喜ぶと思うんですけど」

「友達……だから、ね」

イレールの言葉にセディは照れたように前髪を弄ると、かみ締めるように呟く。

「え?」

「ユートが言ってたんだ。友達だからこそ、金銭面では頼りたくない……って。だけど、やっぱり心配で……。だからさ、ユートには秘密で頼むよ」

嬉しそうに言うセディにイレールは心の中で思う。

(ユートさんがそれを言った場面見てないからなんともいえないけど、ちょっと違うんじゃないかなぁ、それ……)

……でも、とクスリと笑う。

(セドリックさんとユートさんって仲が良いのね、すごく。……男同士の友情かぁ~、なんかいいな、こういうのって)

「わかりました、任せてください!」

「ありがとう!」

イレールが了解を伝えると、セディは見る者を暖かくさせる笑みを浮かべた。






そんな会話の一時間程後。
疲れ果てた様子のユートが階段から降りてくる。

「あ、ユートさん、お帰りなさい。ずいぶんかかりましたね~」

「あぁ……メチャクチャ疲れた……」

あの後マリアさんのグレゴリ様談義を長々と聞かされた。
やれグレゴリの好きな食べ物だの好きな色だのと、ほとんどが役に立たない情報で、聞いてるだけで疲れた。
しかも、それが正確な情報ならばともかく、全てマリアさんの妄想内の設定というのだからどうしようもない。
まぁ、グレゴリのじーさんの話の後に、また魔法に関しての説明もしてもらえたから、全く時間の無駄ってわけでもなかっ……いや、グレゴリ様談義は無駄だったな。

「……はぁ」

「ふふっ、お疲れ様です」

イレールは微笑みながら俺を労うように紅茶のような物を差し出してくれた。
そんなイレールを眺めながら飲むお茶は……あぁ、癒されるなぁ……。

……なんて言うか、こういう女の子分って結構重要だよな。
ドラクエって言えばパーティだけど、俺も冒険者になってパーティ組むようになったら、メンバーに女の子が一人くらい欲しいなぁ。
こんな笑顔の優しい子が一人いてくれたら、冒険も楽しいだろうし。

リア?
アイツはアイツでいいんだけど……なんていうかマスコット的な感じだからなぁ。
主にサイズ的な意味で。
普通な女の子分が欲しいわけですよ、やっぱし。

「……? どうかしました?」

「い、いや、なんでもない」

考えていた内容が内容だけに、慌ててしまう。

「そ、そういや、リア……はまだどこかほっつき歩いてるっぽいな。セディは? 先に下りてきたはずだけど」

「セドリックさんなら、ついさっきルイーダさんに呼ばれて、酒場の方に行ってます。なんでも、急に強い人が必要になったらしくて……。
今この街は、ランクが高い人や強い人はみんな出払っちゃってて、街に残ってる人ってランクが低い人ばかりなんです……。でも、セドリックさんはランクは低いですけど、冒険者全体の中でも強い方ですからね」

やっぱりセディは冒険者の中でも強い方なんだな。
自分との差が大きい事を再確認して、少し寂しく感じたが、それでも自分の友人が周りから評価されていることに対する誇らしさの方が大きかった。
待ってろよ、セディ、俺もすぐにお前に追いついてやるからなっ。

決意を新たにしていると、イレールがニコニコとこっちを見つめているのが気になった。

「な、なに?」

「いえ、なんでも」

イレールはふふっ、と笑う。
なんか居心地が悪いのは気のせいだろうか。



「……そうだ、ユートさんはリアちゃんが戻ってきたらすぐ試しの洞窟に向かうつもりですか?」

「ん? あぁ、そのつもりだよ。いや、いきなり洞窟行くかはわからないな。とりあえず手頃なモンスターと戦ってみるつもり」

「そうですか。実は、さっき渡し忘れたものがあって……。試しの洞窟の方の課題をする方には薬草をいくつか配布するんです」

そう言うと、イレールはカウンターに袋を置く。
袋を受け取って中身を見ると、葉っぱがいくつか入ってる。
恐らくこれが薬草なのだろう。

「へぇ、これが薬草かぁ……」

袋から取り出してみると、葉の上に軟膏のような物が塗られていた。
そういや、これってどうやって使うんだ?
軟膏は塗るんだろうけど、葉っぱの方は……?

「これってどうやって使うの?」

「えっ、ユートさん、薬草使ったことないんですかっ?」

あ、ヤバッ!
やっちまった感が溢れ出すが、なんとか誤魔化しを試みる。

「い、いや~、俺、実は昔から身体頑丈でさ、怪我とか滅多にしなかったからさ、薬草使った事ってなかったんだよね」

ずいぶん苦しい言い訳で、イレールは微妙に納得いかない表情をしていたが、薬草の使い方を教えてくれる。

「軟膏の方は傷口に塗っても、飲んじゃっても大丈夫です。特に痛い場所があったらその場所に塗るのがいいですし、飲めば身体全体の痛みが同じくらい引きます。葉っぱの方はどっちの場合も食べちゃえばオッケーです」

これ、喰えるのか。
……どんな味なんだろうな、これ。
正直、軟膏を食べるのって気が進まないけど……、まぁ、背に腹は変えられないか。
どっちにしろ、金のない俺にとってはすごくありがたい。
袋を覗き込んでみると、葉っぱは8枚あった。

「こんなに沢山、ありがとうな。すごく助かるよ!」

「いえ、お礼なら……ううん、なんでもないです。
回復は早め早めにしてくださいね。特にリアちゃんは身体小さいですし、きっとHPもそんなにないでしょうから、気をつけてあげてください」

「あぁ、わかった。大丈夫、リアを死なせたりなんてしない、絶対に」

「ユートさんも、ですよ。しんじゃったら、下手したら本当に死んじゃうんですからね!! 本当に気をつけてください」

イレールの言い方に少し違和感を覚えたが、心配してくれるのは十分に伝わった。
俺も死にたくなんてないし、傷を負ったら無理せずに薬草を使わせてもらうことにしよう。



それから少しイレールと話をしていると、外から聞き覚えのある声が近づいてきた。

「………ィ……タ…ヘ…………ン…イ…」

「お、リアが帰ってきたかな?」

そのまま扉を見つめていると、バンッと大きな音を立てて扉が開いた。
あまりの勢いに、ドアベルが紐を千切りそうなほどに踊ってる。

「…………タイヘンタイヘンタイヘンタイヘンタイヘンタイですっ!!」

胸に飛び込んできたリアをユートはなんとか受け止めると、あまりの形相に少し引き気味になりながら落ち着かせるように頭を撫でる。

「お、落ち着けってリア。大変が変態になってるぞ。ってか、何かあったのか?」

「大変じゃなくて、ヘンタイなんですっ!! ユートよりもヘンタイなヤツが追いかけてくるんですっ!!」

「………」

「いたっ」

とりあえずリアに無言でデコピンを一発食らわしてから、協会の外に出る。
なぜかイレールも箒を手に出てきていたが……まぁ、彼女はリアを気に入ってたみたいだし、恐らく勢いで飛び出してきてしまったのだろう。
変態の魔の手から彼女も守らないと。
しかし、気合を入れなおして辺りを見回してもそれらしき人物は見えない。

「いない……よな?」

「いません……ねぇ……」

二人で確認してから協会に戻り、俺の背中にしがみついていたリアに話しかける。

「いなかったみたいだぞ。何があったんだ?」

落ち着かせてから話を聞いてみたが、要領を得ない。
実際、リアにもよくわからないらしい。
痴漢騒ぎを見ていたらなぜか追いかけられる事になり、いくらスピードを出しても先回りされて振り切れず、仕方なく撒くのを諦めて協会に逃げ込んだらしい。
逃げ込む直前まで追ってきていたらしいが、逃げ込んだら急に姿を見せなくなったようだ。

これはリアもさっき背中からコッソリ確認していたから間違いない。
なぜ諦めたのかはわからないが……ただ、俺にはどうしても納得がいかないことがあった。

「ってかさ、リア。なんでお前空に逃げなかったんだ?」

相手は変態とはいえ人間。
空高く飛んで逃げれば追って来れなかっただろうに、なぜかリアは人間の背より下の高さで飛んで逃げ回っていたらしい。
しかし、俺が問いかけると、リアは冷たい顔で睨む。

「なんで……って、決まってるじゃないですか。わたしの格好を見てください」

そう言ってクルリと回る。
今回のリアは、紺の落ち着いたシャツと、丈の短いスカートに身を包んでいた。
いやまぁ、似合ってるんだけど、それがどうか……っておい、まさか。

「もしかして、スカートだからか……?」

「もしかしなくても当然でしょう!?」

いや、そりゃ普通の時はそうかもしれないけど、相手は変質者だぞ?
捕まったら何されるかわからないってのに、んなこと言ってる場合か?
俺の顔を読んだのか、リアは全くデリカシーがないですね、といった感じに深くため息をつく。

「全く、デリカシーがない人ですね……」

否、口にしやがった、コイツ……。

「ユートさん、私もどうかと思いますよ、それ……」

イレールにまでそう言われてしまっては反論せざるを得ない。

「……え、いや、だってさ、身の危険がかかってるんだぞ? そんなときに、んなこと言ってる場合じゃないだろ!?」

「そんなことって……そんな風にいってるからユートは駄目なんですっ!」

「女の子にとっては、そんな事、なんて簡単に切り捨てられるものでもないんですよ」

……え、何、なんで俺が攻められてるわけ!?
何か納得いかねぇっ!!

「ん? 何かあったのかい?」

「おぉっ、セディ! ちょうどいい所にっ!!」

おやっさんの話が終わったのか、セディがひょっこり戻ってきた。
俺は予期せぬ援軍に嬉々として今の出来事の説明をする。
……と。

「それはユートが悪いよ」

ブルータス、お前もか……。
孤立無援、四面楚歌。
そんな言葉が頭の中で踊っていた。








「……さぁて。ここからは慎重にいかないとな」

「わたしのお饅頭のために頑張ってくださいっ!」

「饅頭って……おまえなぁ……」

「~~♪」

リアは俺の肩の上でノンビリと歌を口ずさむ。
コイツ、わかってんのかね……こっちはなけなしの神経すり減らしてるってのに。

俺達は今、街を出て、北に向かって歩いていた。
地図によると、試しの洞窟があるのは街のすぐ北にある切り立った山の麓。
最初は北の出口から行こうと思っていたのだが、セディによると、北側には出入り口がないらしい。

というわけで、回り道にはなるが、あのビッグス&ウェッジ、二人の門番のいた西側の出口から出て、北へ向かって歩いている、というわけだった。
話によると、門の傍にあったルビス像を越えて少し歩いた先、つまりこの付近からモンスターが出てくるらしい。
俺はあたりに気を配りながら歩いていた。

この場にいるのは俺とリアの二人で、セディはいない。
そのせいだろうか、緊張で喉はカラカラになっている。
塔からレヌールの街へ歩く途中、どれだけあの三人に守られ、依存していたのかがわかる。



セディはおやっさんに頼まれた依頼に行かなければならなくなったらしく、俺達と一緒にはこれなくなってしまったのだ。
その依頼は別の村で何かをするというものらしく、どう頑張っても数日単位でかかってしまうらしい。
セディも急な任務のせいとはいえ、俺達に悪いと思ったようだ。
あまりにも何度も謝るため、こちらまですまない気分になってしまった。
そういう理由なら仕方ないし、それに、一緒に行く約束をしていたわけではないのだから、そんなに謝らなくていいって何度も言ったんだけどな。



……まぁ、実際俺も、なんとなく一緒に行くんだろうな、って思ってたから残念だったが……でも、これは甘えだろう。
本当のところ、正直に言えば心細かったが、こんな最初から頼っていては自分も成長できないだろうし、逆に自分を成長させるチャンスだ、と前向きに考えることにする。

「ん~~♪」

こいつもいるし……な。
暢気に歌う相棒を見て肩の力を少し抜くと、俺はまた歩き出した。





「くっ、モンスターかっ!?」

「ユート、右ですっ!」

突然茂みがガサガサと揺れたかと思うと、目の前にスライムが3匹現れた。

「スライム……か。冒険者(仮)の初陣には相応しい相手、だな!!」

俺はひのきの棒を構え、相手の動きに対応できるように腰を落とす。
構えも何もあったものじゃないが、とりあえず動き易い格好を心がける。

そして、リアはそっと俺から離れると……。

「フレーフレー、ユート♪」

「お前も戦えっ!!」

「応援も立派な戦いです♪」

「リアああああっ!! おわっ! ……くそっ」

「ほら、前見てないと危ないですよっ」

リアに文句を言おうと向き直ろうとする隙をついてスライムが飛び掛ってくる。
塔で戦ったオオアリクイや一角ウサギよりも動きは鈍かったせいか、今回はなんとか避ける事に成功したが、注意散漫な状態で何度も避け続けられると思うほど俺もうぬぼれていない。
リアに構ってたらマジでやられる。
仕方なく俺はスライム達に集中する事にした。

……後でデコピンしてやる、絶対!!





「くっ……うわっ……くそっ!!」

「ユート、逃げてるだけじゃ倒せないです!」

「うるせぇ! お前が言うなっ!!」

リアの言うとおり、俺はあれからずっとスライム達の攻撃を避け続けていた。
思いの他すごいジャンプ力で頭を狙ってくる攻撃をしゃがんで避け、足元に飛び掛ってくる所を飛び越え、身体を狙う攻撃を半身になってかわす。

証を貰って祝福を受けたせいか、息が切れる気配はないが、このまま続けていたらいずれ攻撃を食らうのは目に見えている。
リアの言うとおり、避けてるだけじゃだめだという事はわかっているのだが……。

一匹のスライムを攻撃すれば必ず残りのスライムからの攻撃を無防備に受けてしまうのは想像に難くない。
もっと強く、戦い方が上手くなれば避けられるのだろうが、そんな事は冒険者の初心者である俺には無理な相談だ。

攻撃を受ける覚悟を決めて、一匹のスライムに突撃しようとしても、どうしても攻撃する直前、塔で食らったオオアリクイの攻撃の痛みが頭をよぎってしまう。
一撃で吹き飛ばされ、腕が使い物にならなくなったあの痛み。
ゲームで言えば、スライムはオオアリクイと比べればかなり弱いので、恐らくコイツ等の攻撃を食らってもあの時ほど痛くはないだろうが……それでも恐怖心はなくならない。
頭ではわかってはいるのだ。
それでも、あの痛みがちらついて……、攻撃する寸前に腕を引いて避けて……いや、逃げてしまう。

「くそっ……っ!」

自分の不甲斐なさに悪態が洩れる。
このままじゃいけないってのに……っ!!

「きゃぁっ!」

突然あがった悲鳴に思わず振り返るとリアに一匹のスライムが飛びかかっていた。
いつの間にか俺と対峙していたうちの一匹がリアの方へと目標を変えていたらしい。

「……っ、ビ、ビックリしました……」

何とか避けられたようだ。
俺はコッソリ安堵の息をつく。

さっきは勢いで手伝えと言ったが、実際リアに手伝わせる気は、ほとんどなかった。
身体の大きな俺でさえあれだけ痛いのだ。
リアのあの小さな身体では、それこそ一撃で危険な事になりかねない。

―― 俺ハ何ヲヤッテル?

リアは塔で俺の命を救ってくれた。
怖いからってその相手を危険に晒すのか?
あの夜に力になってやりたい、守ってやりたいって思ったのは嘘だったのか!?

……違う。
違う違う違うっ!!

リアに攻撃を避けられたスライムが再度リアに飛びかかろうとする所を見た瞬間、頭が真っ白になり、自然に身体が動いていた。

「リアに何しやがる、てめええええええええええええええええっ!!」

俺はひのきの棒でスライムを思い切り打ち据えて、地面に叩きつける。
そして、スライムは二、三度バウンドして転がり、ピクピクと一度弱々しく震えると、動かなくなった。
どうやら、火事場のバカ力的な何かで一撃で倒してしまったらしい。

あの一角ウサギが一瞬脳裏をよぎり、心の奥底でチクリと胸が痛んだが、何とかその痛みを飲み込み、次いで予想される体の痛みに備えて身を硬くする。

と、次の瞬間、ドンドンッ、っと予想通りに二回の衝撃が、そして予想とは全く異なる痛みを受けた。

……有り体に言えば、全く痛くなかったのだ。
いや、全くと言ってしまえば語弊があるか。
軽く叩かれた程度の、鈍い痛みはある。
しかし、この攻撃を何十回、いや、何百回受けようと絶対に死なない自信がある程度の痛みしか感じない。

―― もしかして

「コイツ等、めちゃくちゃ弱いのか?」

それとも、それ程にルビスの祝福がすごいのか?
あるいはその両方か。

とにかく、俺の中には余裕が生まれていた。
確かめるために、スライムの攻撃を避けずに受けてみる。

スライムが飛び掛ってくる瞬間、身体が恐怖で無意識に避けようとするのを意識して押さえつける。
すると、しっかり身構えて攻撃を受けたからだろうか、先程と同じ、いや、それ以下の痛みしか感じない。
心の底から笑いがこみ上げてくる。

「ふ……ふふっ……」

「ユート?」

リアが訝しげにこっちを見てるが、笑いは止められない。

「わはははははっ!! 弱い、弱いぞっ!!!」

突然笑い出した俺に、スライム共が何度もぶつかってくるが、もはや蚊ほどにも脅威に感じない。

「く……くくっ、こんな奴らに怯えてたなんてな」

「ユ、ユートが壊れましたっ!?」

「壊れてねぇっ!! 俺は至って正気だっ」

ただ、自分のさっきまでの精神状態を思い出すと、どうしても笑いがこみ上げてきてしまうだけだ。
俺は何を怖がってたんだろうな……、ってさ。

痛みはそれ程ないが、それでも少しは感じる。
そろそろウザったくなってきたな。

俺がスライム達をキッっと睨みつけると、スライム達はそれまで行ってた突撃をやめてこちらを見上げる。
そのつぶらな瞳は可愛かったが……そんな事考えてる場合でないのはわかっている。
瞳、よく見ると微妙に赤いし。
血走ってるのかね?

まぁいい。
俺は改めてひのきの棒を構えると、スライム達と対峙する。
作戦は至ってシンプルだ。
ひのきの棒で殴る、これだけ……いや、一匹それで倒したら……試してみるか。

反撃は気にせずに左のスライムに狙いを定め攻撃を加える。
相手の攻撃は痛くないし、避けられる場面でも攻撃を優先する。
三度目の攻撃を加えると、先程のスライムと同じ様に一度ビクリと震えた後、動かなくなった。

俺の今の攻撃力だと三発かかるようだな。
さっきのは火事場のバカ力、会心の一撃でも出たんだろう、きっと。

そして、残るは後一匹。

俺は最後の一匹の攻撃を気まぐれに一度避けると、唯一使える魔法、メラの詠唱に入る。

想像するものは魔法屋で使った魔法の構成。
創造するものは魔力で炎を生み出す存在。

「全てを構成する粒子よ…我が意に応え、熱く燃え盛れ!! メラァッ!!」

詠唱中にスライムが一度攻撃してくるが、構わず唱えきる。
呪文の言葉と共に俺の身体が光り、右手から炎が飛び出すとスライムを包み込んだ。
詠唱が効いたのか、それとも2回目という事で慣れがあったのか。
その炎は明らかに魔法屋でのそれより力強く、燃え盛っていた。


―― そして。


数秒間スライムの形に燃え続けた炎が消えた後に残ったのは黒く焦げた塊だけだった。








~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~



――― 冒険者の証 ユートのステータスその2 ―――


┏━━━━━━━━━━┓┏━━━━━━━━┓
┃      ユート     ┃┃     ちから :  5┃
┠──────────┨┃  すばやさ :  7┃
┃    宿無し迷子     .┃┃  たいりょく : 21┃
┃     と し ま     ┃┃   かしこさ : 12┃
┃    レベル : 1   .┃┃ うんのよさ :  2┃
┃   HP 13/40   ┃┃ こうげき力 :  7┃
┃   MP 25/50   .┃┃  しゅび力 : 10┃
┗━━━━━━━━━━┛┗━━━━━━━━┛
┏━ そうび ━━━━━━┓┏━ じゅもん ━━━┓
┃E:ひのきの棒       ┃┃メラ          .┃
┃E:黒いジャケット    . ┃┃            ┃
┃               ┃┃            ┃
┃               ┃┃            ┃
┗━━━━━━━━━━┛┗━━━━━━━━┛


(*ステータス中の文字で、このドラクエ世界の文字で書いてある部分は太字で、日本語で書かれている文字は通常の文字で記述してあります)





~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~


――― スライム ―――


このモンスターを知らん者はおらんじゃろ。
ぷるぷるとしたぼでぃに、つぶらな瞳。
数多くのモンスターの中で最も弱く、最も有名なモンスターじゃろう。
青い身体のものが一般的に知られておるが、他にも赤、ピンク、黄、緑等、様々な色のものがおる。
食べる物によって変わるようじゃが、何を食べればこのような色になるかはわかっておらん。

……なに、そんなスライムなど見たことないじゃと?
そりゃそうじゃろう。
普通に住んでる野性のスライムが食べる物ではほとんどが青くなりおるし、極稀に赤くなるのがいるだけじゃ。
他の色のスライムは、人間が無理やりその色になるための物を食べさせるしかないのじゃからな。

他には……そうじゃな、金属の身体を持つメタルスライム等もおるな。
これについてもわかっておる事は少ないのぅ。
ミスリルを食べたスライムという説もないわけではないが……眉唾ものじゃの~。

そうじゃ、こやつ等を忘れてはいかん。
スライムの中には、普通のスライムと全く見た目が変わらんのに、強いスライムがたまにおっての。
こやつ等はなんと合体して巨大なスライムへと姿を変えることがあるのじゃ。
ほっほ、どうせホラじゃろうと?
甘いのぅ……。
モンスターには解っておらん事が多いじゃろう?
それなのに、なんで嘘だと決め付けるのじゃ。
お主等が見たことのないモンスターなど、山ほどおるのじゃよ。
想像もつかないような不思議なモンスターものぅ。


*注 このページの執筆者は依然として不明である。また、このページの内容の真偽は確認が取れなかったので、冒険者諸氏は自身で判断をするように願いたい。


――― 冒険者の友 大地の章 地の項 1ページより抜粋





~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~


――― 冒険者の友 ―――


冒険者の友だって?
はははっ、お前さん、あんなホラ本信じてるのかっ?
こりゃぁお笑いだ!
あんな本を信じてるヤツがいるなんてなっ。
あれはな、適当なネタを面白おかしく書いて、冒険者達から金をせびり取ろうっていう協会の作戦なんだよ。
そんなモンの振り回されてるようじゃまだまだだな。

……なぁ、これはお前の先輩からの忠告だ。
悪い事はいわねぇ、あんな本信じるのはやめときな。
いっちばん最初にあるスライムのページ、見たことくらいあんだろ?
黄色だの緑だの、挙句の果てにはピンクのスライムがいるとか言ってるんだぜ?
考えなくても嘘だってわかるだろうが。
それらしい事書いちゃいるが、あんなん真っ赤なでたらめさ。

合体するスライムってのもあれ書いたヤツの妄想だしな。
確かに、キングスライムっつー、めちゃくちゃ大きなスライムはいる。
だがな、あれはああいうモンスターで、スライムが合体したもんじゃねぇ。
俺は顔が結構広くてな、冒険者にも沢山の知り合いがいるんだが、誰もんなとこ見たことねぇって言ってる。
もちろん、この俺もな。

俺は自分の目で見たものしか信じねぇ。
それがこの世界で生きていくための最大にして唯一のコツなんだ。
お前はまだ若い。
そういった夢のつまった本に気を取られるのもわからないでもないが、早く卒業するんだな。
でないと………死ぬぜ?


――― とある熟練冒険者の言葉 より






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