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No.3797の一覧
[0] 俺はここで生きていく (現実→オリジナルなドラクエっぽい世界) [ノンオイル](2009/03/29 23:44)
[1] 序章 第一話[ノンオイル](2008/12/19 22:25)
[2] 序章 第二話[ノンオイル](2009/02/24 02:50)
[3] 序章 第三話[ノンオイル](2009/02/24 02:50)
[4] 序章 第四話[ノンオイル](2008/12/19 22:26)
[5] 序章 第五話[ノンオイル](2009/02/24 02:49)
[6] 序章 第六話[ノンオイル](2009/02/24 02:49)
[7] 序章 第七話[ノンオイル](2009/02/24 02:51)
[8] 序章 第八話[ノンオイル](2008/12/19 22:27)
[9] 序章 第九話[ノンオイル](2008/12/19 22:28)
[10] 序章 第十話[ノンオイル](2008/12/19 22:29)
[11] 序章 第十一話[ノンオイル](2008/12/19 22:29)
[12] 序章 第十二話[ノンオイル](2008/12/19 22:30)
[13] 序章 第十三話[ノンオイル](2008/12/19 22:31)
[14] 第一章 第十四話[ノンオイル](2008/12/19 22:33)
[15] 第一章 第十五話[ノンオイル](2009/02/24 02:44)
[16] 第一章 第十六話[ノンオイル](2008/12/19 22:34)
[17] 第一章 第十七話[ノンオイル](2008/12/19 22:34)
[18] 第一章 第十八話[ノンオイル](2008/12/19 22:34)
[19] 第一章 第十九話[ノンオイル](2008/12/19 22:35)
[20] 第一章 第二十話[ノンオイル](2009/02/24 03:14)
[21] 第一章 第二十一話[ノンオイル](2009/02/24 03:14)
[22] 【オマケその一】 魔法について ―― とある魔法使いの手記 3/29  【それぞれの魔法について】 追加[ノンオイル](2009/03/29 23:42)
[23] 第一章 第二十二話[ノンオイル](2009/02/28 19:22)
[24] 第一章 第二十三話[ノンオイル](2009/03/17 21:41)
[25] 第一章 第二十四話[ノンオイル](2009/03/19 18:13)
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[3797] 第一章 第二十話
Name: ノンオイル◆eaa5853a ID:aa12ef82 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/02/24 03:14
ユートだ。
ん~~~~~~っ!!
今日も良い天気だな。
窓を開けて空気を入れ替えすると、僅かに残っていた眠気がスッっと消えていく。
残念ながら、こちら側は宿の裏手通りとなっているので、絶好の景色とはいかないが、相変わらず空気は美味かった。
やっぱし排気ガスとかないのは大きいよなぁ。
空はまだ明るくなりかけたばかりだが、すでに通りを行き交う人達もチラホラと見かける。
朝早いってのにご苦労なことだ。

「それに引き換え、こっちの姫様ときたら……くくくっ」

俺は笑いを堪えながら振り返る。
そこにはバスケットの中で真っ青な顔で呻いているリアがいた。

「ぅ~~~……あたま………ガンガン……です」

見ての通り、昨日飲みすぎたせいで二日酔いの真っ只中ってわけだ。
二日酔いの妖精なんて、想像もしなかったわ。

「はは、調子に乗ってエール一杯丸々飲むからだ。身体の大きさ考えろっての」

「こんなに……なるなんて、知らな……かったんです」

頭に手をやって『もう、絶対、二度と飲みません…』とブツブツ呟いている。
わはは、その気持ち、すっごくよくわかるぞ、リア。
俺も飲みすぎた次の日ってあんな感じだし。
バスケットの中でしおらしく寝返りをうつ様は同情を誘うが、可愛らしく、見てて飽きなかった。
……とはいえ、こうして放っておくのもかわいそうか。

「しゃーない、下で宿の人に何か良い薬がないか聞いてきてやるよ」

「うぅ……おねが……いたたたた…」

顔をあげて礼を言おうとするが、すぐにうずくまってしまう。
……駄目だな、こりゃ。

「……ふぅ。これに懲りたら、もう勝手にあんなに飲むなよ?」

返事をする気力もなしにうんうん唸るリアに苦笑をもらすと、俺は部屋を出た。






           俺はここで生きていく 

          ~ 第一章 第二十話 ~






協会の重たい扉を開いた俺達は、イレールの元気の良い声に出迎えられた。

「あ! セドリックさんにユートさんっ!! おはようございますっ。リアちゃんもおはようっ!」

朝がまだ早いせいか、受付には人はほとんどいなかった。
扉を開けた瞬間に挨拶が飛んできたし、イレールも暇だったのかもしれない。

「おー、おはよ~」

「おはよう、イレールさん」

「……………ます」

活力に満ちた彼女の笑顔は、見ているだけでこちらまで元気になってくる。
……顔を真っ青にして、どんよりとした背景を背負った若干一名を除いて、ではあるが。
あの後薬を貰う事はできたのだが、効き目はあまりなかったようだ。

「……? リアちゃん、どうかしたんですか? すっごく具合悪そうですけど……」

イレールが不思議そうな顔でリアの顔を覗きこむ。

「ちょっと大丈夫!? リアちゃん、顔真っ青だよ!?」

「み、耳元で叫ばないでください……がんがんします……」

顔色を見て血相を変えて心配するイレールに、リアが搾り出すように呻く。
その様子に更に心配になったのか、オロオロし始めるイレールに笑いながら教えてやる。

「あはは、大丈夫大丈夫。ソイツ、ただの二日酔いだから」

「なーんだ、二日酔いですかぁ……、病気じゃなくてよかったです……。
……うふふっ、調子の悪そうなリアちゃんもかわいいです……」

原因を知って安心したのだろう。
イレールはそう呟くと、軽く頬を染めてうっとりと見つめる。
……うん、気持ちはわからなくもない。

「………でも、ユートさんっ!?」

しかし、そんな表情から一転、イレールは俺を上目遣いでキッっと睨みつける。
普段は明るい笑顔を浮かべているその表情は、静かな怒りに燃えていた。
俺はその迫力に思わず気おされてしまう。

「リアちゃんはまだ小っちゃいんですから、お酒なんて飲ませちゃ駄目でしょう!? 倒れちゃったらどうするんですかっ!!」

人差し指を立てて、まるで子供に言い聞かせるかのように注意するイレール。
どうやら笑いながら話したせいで、俺が面白がって飲ませたとでも思われてしまったらしい。

ってか、イレールさん、小さいの意味がちょっと違わないか、それ。
リアは身体は小さいけど、年はそんなに……あれ、そういやコイツ、何歳なんだろ?
……って、今はそんな事よりも。

「ご、誤解だって、イレールさん。俺は飲ませないようにしてたんだけど、気づいたらいつの間にか勝手に飲んでたんだよ、コイツ」

「えっ?」

俺の言葉に、不思議そうな表情のイレール。
それを見てセディがさらに俺の言葉を補足する。

「お店の人が注文間違えちゃったみたいでね。ミルクのお代わりを頼んだはずがエールを運ばれてきちゃったみたいで……。
ちょうどその時は二人で話してて気づかなかったんだ」

「……っ!! ご、ごめんなさいっ! 私、早とちりしちゃって!」

セディの言葉で自分の勘違いに気づいたのか、途端に形のいい眉をハの字にすると、俺に向かって勢い良く頭を下げる。
もっとも、俺の方としても間違えられたからといっても、怒りの感情は当然全くない。
なのでここまで謝られてしまうと恐縮してしまう。

「いや、別にいいって。イレールさんはリアの事心配してくれたんだろ? 俺の言い方も誤解されるような部分があったのが悪いんだし、気にしないで」

それを聞くとイレールはホッとした笑顔を見せてくれる。
俺はその笑顔に癒されながら、コロコロと良く表情の変わる子だなぁ、と少し場違いな感想を抱いていた。

「……そうだっ! ちょっと待っててください」

イレールは突然、名案を思いついた、と手を打ち鳴らすと、止める間も無く受付の奥に行ってまう。
そして、少しすると、小さな湯のみを一つ持って戻ってきた。

「これ、前にルイーダさんに貰った酔い覚ましにいいお茶なんです。下手なお薬なんかよりも効くんですよ!」

そっと受付に湯のみを置く。
おやっさん謹製のお茶は深い緑色で、静かに湯気がたっていた。

「はい、どうぞ。リアちゃん、熱いから気をつけてね」

リアは小さな声で礼を言うと、二、三度ふーふーと冷ましてから湯飲みに口をつける。

「……熱っ!」

身体に見合った肺活量しかないためか、十分に冷えてなかったらしい。
軽く火傷してしまった舌を出してひーひーと呻いている。

「はぅ……リアちゃん、かわいい………」

何かがツボに入ったのか、イレールはそんなリアの様子をうっとりと見つめている。
その頬は軽く染まっており、目はトロンと惚けていた。
それまでの朗らかな明るい表情とうって変わった色気のある表情に、思わず目が吸い寄せられる。

「………お持ち帰りしたいなぁ……」

「…へっ?」

ボソッと呟かれた不穏な単語に思わず聞き返すと、イレールはハッと我に返り、『も、もちろん冗談ですよ、冗談っ!』と、わたわたと取り乱す。
その様子があまりに必死すぎて、思わずセディと見合わせて笑ってしまう。
『冗談なんですってばぁ~~』という情けない声にセディと笑い声を上げながら、しばらくイレールのかわいい慌てぶりを観賞させてもらった。







「……コホン。それで、本日はどのようなご用件でしょうか?」

気を取り直して営業モード(?)に移るイレール。
その様子は堂に入っていて、声には張りがあり、流石にプロだった。
だから、ほんの少しだけバツの悪そうな表情だったり、頬がほんのり染まっているのはご愛嬌だろう。

「ど・ん・な! ご用件でしょうかっ!」

俺の考えている事がわかったわけではないだろうが、視線や表情から想像がついたのだろう。
僅かに声を荒げるイレール。
そのツーンと拗ねている表情もなかなか……

「ぅ~~~~っ……」

あ、遊びすぎたか…。
イレールは目端に涙を溜めて俺を恨めしそうに見上げている。
両脇から感じる二人の責めるような視線が少し痛い。

「あ、あはは………その。ごめんなさい」

頭をキッチリと下げると、尖っていた雰囲気が和らぐのが感じられた。

「……もういいです」

コッソリ見上げると、苦笑したイレールの笑顔があった。

「ふふっ。それで、今日はどんなご用ですか?」

いつも通りのイレールの笑顔にホッとしながら、俺は整理しながら用件を伝える。

「昨日冒険者の証を貰ったんだけど、まだ詳しい説明聞いてないからこっちで教えてくれないかな。それと、冒険者の登録の方も合わせてお願い」

「わかりました! ……それじゃ、まず説明の方からですね。加護についての説明や維持については司祭様にお聞きしましたか? ……はい、そうです。大丈夫そうですね。
では、その辺は飛ばして、使い方の説明をしますね。まず ――」

ステータス画面、地図の画面、浄化の画面の、各画面を切り替える方法。
そして、地図の機能や浄化方法、そしてゴールドの収納及び取り出し方の説明を受ける。
すでにさわりの部分はセディに聞いてたために、わりとすんなり覚える事ができた。





「―― とりあえず現時点で知っおかなければならない機能は以上となります。何かご質問はありますか?」

「いや、大丈夫だよ」

いくつかの注意点を話した後、そう締めくくるイレールに答える。
気になった点はその都度確認していたので、特に聞きたい事は残っていなかった。

新しく説明された部分は驚く事ばかりだったが、その中でも特に驚いたのが、破損や紛失については考えなくても良い、という点だった。
というのも、証は物理的な攻撃や魔法による攻撃では傷一つつかないので、破損については大丈夫らしい。
硬いとは思っていたけど、まさかそれ程とは思わなかった。
ちなみに、この性質を利用して、急所を守る防具代わりに使う冒険者もいるらしい。
言われてみればなるほど、セディも証を胸元に入れていたのを思い出した。
そして、紛失について。
こちらはさらに不可思議で、証は持ち主の手をある程度離れて一定以上の時間が過ぎると消えてしまい、次の瞬間には再び持ち主の手元で現れるというのだ。
つまり、維持さえ忘れなければ、半永久的に手元に置いておけるというわけだ。
まさにファンタジー、ここに極まれり、といった所か。

「リアちゃんも、大丈夫……? もし辛かったらまた後で説明しなおしてあげるけど……」

営業モードから通常モードに戻ると、リアを心配そうに覗き込む。

「いえ、わたしもしっかり聞いてたから大丈夫です。体調も、もらったお茶を飲んだら大分調子よくなりました」

その言葉の通りに、幾分はっきりした声と表情をしている。
どうやらおやっさん謹製のお茶は、かなりの効果があったようだ。

「ふふ、よかった! それじゃ、次は登録の方ですね」

嬉しそうな笑顔を再度キリッと改めると、淀みなく話し出す。

「まず、冒険者として登録するためには二つの条件を満たしてもらう必要があります。言わばテストですね。
……ふふっ、二人ともそんなに硬くならなくて大丈夫ですよ。そう難しいことじゃないですから」

テスト、と言われて思わず身を硬くした俺達の緊張をほぐすかのように明るく笑う。

「まず一つ目が、何らかの職業につくことです」

「職業……ですか?」

不思議そうに聞くリアに頷くイレール。

「えっと……そうですね、実際に見てもらったほうが早いかな。セドリックさん、それにリアちゃんも。ちょっと証を貸してもらえますか?」

「うん、……はい、これ」

「えっ……! わ、わたしは、そ、その……」

「ほぃ、これでいい? イレールさん」

請われて一瞬身を硬くするリアの横から、自分の証を差し出す。

「え? あ、はい、いいですよ、お二人ともお借りしますね」

イレールは俺達から受け取った証を二枚並べると、受付の台の上に置く。
左肩にギュッとしがみつく柔らかな感触が伝わってきたが、気恥ずかしいので気づかないフリをしておいた。

「職業と言うのは、名前の二つ下に書いてある、この部分の事を言います。まだ職業についていないユートさんやリアちゃんのような、所謂『見習い』さん達の証は、このように記号と言うか文字と言うか、よくわからないものが書かれているんですが……」

俺の証の『と し ま』の部分をなぞり、そこで一息入れると、イレールは俺の証からセディの証へと指を移す。

「職業につくと、このように、ついた職業の名前が書かれるわけです。……セドリックさんの場合は『戦士』ですね。他にも、『武闘家』や『僧侶』、『商人』や『盗賊』等、色々あるんですよ」

職業につくと、レベルが上がった時に受ける祝福が、職業につく前よりも段違いにあがるらしい。
また、職業毎に特色もあるようだ。
『戦士』ならば力が、『武闘家』ならば素早さがあがりやすい、というように。
まぁ、この辺は、ゲームをやった事のある俺にとっては想像通りだったが、リアは興味深そうに一々頷いている。

「……職業についてはなんとなくですが解りました。それで、職業につくにはどうしたらいいんですか?」

お、それは俺も気になるな。
イレールはよくぞ聞いてくれました、という表情で指を二本立てる。

「まず、一つ目は、『見習い』の状態でレベルを3以上に上げること。と言っても、これはすっごく簡単です。スライムを10匹も倒せば達成できちゃいますし。
そして二つ目。レベルが3以上になったら、聖堂の司祭様の所 ―― 証を貰ったあそこですね ―― に行って、なりたい職業を司祭様に告げて祈りを捧げれば、その職業になる事ができます」

イレールは『簡単でしょ?』とニッコリ笑う。
確かに、スライム10匹で達成できるなら簡単な気がする。
俺にスライムを倒せるならば、だけど。
……ま、まぁ、多分なんとかなるだろう。

「なりたい職業って……なんでもいいんですか……?」

リアが恐る恐る、といった表情で問いかけると、イレールは少し難しい顔をする。

「うーん、実は何でも、っていうわけじゃないんですよね。たまにですけど、なりたい職業になれない人もいるみたいなんです。
ただ、今まで私が見てきた限りだと、そういう人達って、あまりにもその人に合っていない職業だったり、って事が多いんですよね。例えば、線が細くて、力が見るからにない人はやっぱり戦士になれなかったり……」

「そ、そうなんですか……」

「あ、で、でも、なりたい職業があるなら、それを目指して頑張るのは悪い事じゃないよ! リアちゃんがそのなりたい職業になれないって決まったわけじゃないんだし、元気出してっ、ね!」

肩を落とすリアをなんとか励まそうと明るく話しかける。

「そ、そうですよね……。……わたしに合った職業、ですか……」

「あはは、そうそう急ぐ物でもないし、ゆっくり考えればいいと思うよ。レベルが3になるまでだって、自分に向いているのがどんな職業なのか探すための時間のようなものだしね」

考え込むリアを穏やかに笑いながら励ますセディ。
自分に向いている職業か……。
そういや俺に向いてる職業ってなんだろうな。
……俺にもすぐに見つかるといいけど……。





……戦士なんてどうだろう?
なんと言っても冒険者の中で花形っちゃ花形だし、セディの強さを見ちゃうと憧れるよな。

いや、魔法使いってのもありだよなぁ。
豊富な魔法や知識でパーティのピンチを救う、っていうのは憧れる!
俺が好きだったドラクエの漫画の中でも、一番好きなキャラは弱虫だけど勇気ある魔法使いだったし。

後は……意表をついて商人とか?
いや、まぁ、これはセディやラマダに褒められて気分が良かった、っていう不純な動機なんだけどさ。
でも、商才を発揮して大金を手に入れて、この世界の裏側を支配するなんてのも楽しそうだよな……!
いや、俺に商才があるかなんて事はひとまずおいといて。

盗賊?
これは……イメージがなぁ。
もちろん、ドラクエの、職業上の盗賊は夜盗や山賊とかとは別物だとわかってるけど、どうしても…ね。
孤高の暗殺者、なんてのにはちょっと惹かれるけど、ちょっとドラクエっぽくないよな、そういうのは。

遊び人?
それはアリエナイ。
いや、ゲームならいいさ。
俺のやった事あるドラクエだったら、レベル20になりゃ賢者になれるんだからさ。
でも、ここじゃダーマの神殿があるかどうかすらわからないんだぞ?
そもそも転職ができるのかわからない状態でそんな冒険はできない。
下手したら一生遊び人……そんなんじゃみんなを守るなんて夢のまた夢になるし。





ふとリアの様子が気になって顔を上げると、やはり難しい表情で考え込んでいた。
やっぱ職業ってのは今後にかなり関わってくるし、慎重にもなるよな。

「ふふっ。二人とも、自分に向いている職業は追々考えていく事にして、説明を先に進めても構いませんか? あ、もちろん質問があったらお聞きしますよ」

その言葉に、ふと思い浮かんだ事があったので、早速聞いてみる。

「それじゃ一ついいかな。さっき、職業につくとレベルアップの時に受ける祝福の効果が段違いに上がるって言ってたよね。ってことは、レベル3になったらすぐに職業につかないともったいない、ってこと?」

「えっと……どういうことでしょうか?」

イレールはキョトンとした表情で首をかしげる。
どうやら上手く伝わらなかったようだ。

ようはレベル3で戦士になってレベル5まで上げるのと、見習いでレベル5まであげてから戦士になるのじゃ前者の方が強くなるのか? ってことだ。
ゲームをやった事ある人なら俺の言いたい事がよくわかるだろう。
いやまぁ、俺も細かいな、と思わないでもないけどさ。
自分の命が掛かってくるとなると、少しでも強くなりたいわけで。

噛み砕いて説明すると、イレールは納得した表情で頷く。

「あぁ、なるほど、そういうことですか。それなら心配要りませんよ。見習いから職業につくと、レベルはまた1からになっちゃいますので」

……ってことは、もしも見習いの間でも僅かにステータスがあがるなら、見習いのうちにレベルをできるだけ上げてから職業についたほうがいいって事だな。
それについて聞いてみた所、見習いの状態ではレベル5以上はあがらないらしい。
という事なので、とりあえずレベルは5まであげることは決定、と。

「他には大丈夫ですか?」

俺が頷くと、イレールは面白そうな表情で俺の顔を見つめてきた。
見ると、セディも同じ様な表情で俺を見ていた。

「それにしても、ユートさんって面白い事考えますね。そんな風に考える人、私初めて見ましたよ!」

そりゃそうだろう。
こういう考え方は、ゲームとしてやった事のある人間でないと考え付かないだろうし。
普通は特に考えずにさっさと職業についちゃうんだろうな。
早く強くなった方が死ぬ可能性も減るしさ。
俺もここで生まれてたら多分そうしているだろう。
長い目で見りゃ確実に俺のやり方の方がいいはずなんだけどな。

……ただ、こういう考え方をしてるって事は、俺が無意識にでもどこかこの世界をゲームと同じ様に捉えている部分が残ってるということだろう。
少し気を引き締めておいた方がいいかもしれない。
まぁ、モチベーションがあがるから、少しくらいなら構わないだろうけど。





「それじゃ、登録するために必要なもう一つの条件についてお話しますね」

……あぁ、そっか。
職業につくのはあくまで条件のうちの一つに過ぎなかったんだっけ。
ゴチャゴチャと考え事してたから、忘れてた。

「もう一つの条件は、次の課題のどちらか一つを選んでやってもらう事になります。まず一つ目が、協会に100G支払う事。そして、もう一つが、『試しの洞窟』に入って、一番奥に置いてあるハンコを紙に押してくる事です。このどちらかを満たして、なおかつ職業についていれば、すぐに冒険者になることができますよ」

むむむ……100Gってことは、もしこっちを選んだ場合、リアと二人分だから、200Gか……ちょっちきついな。
『試しの洞窟』次第だけど、洞窟に行く方が楽そうな気がするな。

「どちらの課題をする場合でも、手段は問いません。ただ、当然の事ですが、盗みや恐喝とかは駄目ですよ? 人殺しなんてもってのほかです。常識の範囲内でお願いしますね」

手段は問わない、ってことは100Gの方は必ずしも敵から手に入れる必要はないって事か。
あぁ、もちろん犯罪はナシだぞ?
そんな事しても気分悪いだけだし、たぶんこの世界にだって取り締まる組織はあるだろうからな。
ようは商売で手に入れたり、もし冒険者の血縁がいるならその人から貰うとか、そういう手段もありますよ、って事だろう。

ちなみに、洞窟に入ることが出来るのは『見習い』の人だけなで、セディについてきてもらう、という事はできないらしい。
まぁ、出来たとしても着いてきてもらうつもりはなかったが。
『試しの洞窟』なんていういかにも初心者用の洞窟すら自分だけで制覇できないようなヤツが、これから先冒険者としてやっていけるなんて到底思えないし。

という事で、俺達は『試しの洞窟』に挑戦する事を告げ、ハンコを押すための用紙と、洞窟の位置を示した地図を受け取る。
その地図よると洞窟はレヌール城下街のすぐ北の山の麓にあるらしい。
北には街の出口がないため、若干遠回りになるが、ものの数分でつく位置だった。

「さて、以上で説明は全て終わりです。お疲れ様でした!」

「いや、こちらこそ。丁寧な説明、ありがとな」

俺達が礼を言うと、イレールは相変わらずのいい笑顔で嬉しそうに笑う。

「ユートさんとリアちゃんはこれからすぐに洞窟に向かわれるんですか?」

俺はその問いには答えずに、セディの方を見る。
予定では協会に行った後に魔法屋に案内してくれる、って話だったけど……。

「これから魔法屋に案内するって約束しててね。ちょっと二階に行ってくるよ」

「なんだ、魔法屋って協会の中にあったのか」

「えっ、ま、魔法屋ですか……?」

リアが驚いた声を上げる。

「あれ、言ってなかったっけ? 魔法屋ってのがあるらしいんだけど、どんな物か見てみたいなって思ってさ」

「聞いてないですっ!……ぁ……ぅ……っ! 
そ、そうでした、わ、わたし、なんかまだ気分が悪いんで、外の空気吸ってきます!」

「え、あ、おいっ!?」

一気にまくし立てると、リアは止める間も無く外へと飛び出していってしまう。
急いで追いかけたが、外に出た時にはすでにリアの姿は見当たらなかった。
扉に吊るされていたベルの音が静かに響くのが物悲しい。

「……どうしたんだ、アイツ……?」

「さ、さぁ……?」

思わず、二人して途方に暮れてしまうが、こうしてても仕方ないか。

「……うーん、まぁ、仕方ないか。魔法屋は俺達だけで行くとしよう」

リアが途中で戻ってきた時のことをイレールに頼むと、俺達は階段を上った。







階段を上り二階へと降り立つと、目の前にポツンと扉が一つ現れる。
他に扉も見当たらないし、恐らくここが魔法屋なのだろう。
何の変哲も無い、普通の扉だった。
正直、魔法屋というのだから、年季の入った古木で出来ていたり、魔法陣が書いてあるのを創造していたのだが、そんな事はなく、いたって普通の扉だった。
セディは躊躇なく扉を開くとスタスタと中に入っていってしまう。
置いていかれそうになって、俺も慌ててセディを追って中へと入る。

中に入って最初に感じたのは臭いだった。
酸っぱい様な、甘ったるいような、あまり長く吸ってはいたくないような臭い。
何の心の準備もせずに入ったため、思い切り吸い込んでしまい、咽てしまう。
咳き込みすぎて目端に浮かんだ涙を拭って辺りを見渡すと、目に入ってきたのは所狭しと置かれた沢山の書物に、見るからに妖しげな器具の数々だった。
机に置かれているフラスコには形容しがたい色をした液体が並々と入っている。
ある意味、期待通りな、いかにも魔法のお店、と言った光景だった。

「マリアさん、いらっしゃいますか?」

セディがカーテンで仕切られた店の奥に向かって声を掛けると、俺のすぐ脇にあった机の隙間からゴソゴソと音を立てて、ひょっこりと髪の長い女性の頭が生える。

「いらっしゃいませ~、マリア先生なら今は奥で儀式してますよ~」

「おわっ!?」

あまりにも突然だったため、少し驚いてしまった。
まさか隠れていたというわけではないだろうが……、なぜか机と机の隙間で屈みこんでいる女性に目をやる。
その女性は、胸の強調されるデザインの服を着ていて、見るからに大きい胸が目立っている。
決してイヤらしい印象を受ける服装ではないのだが、屈んでいるという格好のせいでさらに強調されていて、正直目のやり場に困った。
……この人がセディの言ってたマリアさんだろうか?
いや、正直ルイーダのおやっさんの時のように期待を裏切られる可能性も考えてたんだけど、なかなかグーじゃないですかっ!
……鏡鏡っ……っと、いや、大丈夫、今日は宿屋で身だしなみ整えてあったし、抜かりは無い!

「あ、モモさん、おはようございます。……何やってたんですか、そんなとこで?」

ん、どうやら違ったようだ。
まぁ、別に名前がマリアさんじゃなくても、無問題です。

「えへへ、ちょっと本棚倒しちゃいまして~……」

その女性、モモさんは照れくさそうに笑う。
机の脇から覗き込むと、その女性、モモさんの言うとおり、10冊以上の本が散らばっている。
見ると俺の足元にも数冊あったので、拾って渡す。

「ありがとうございます~。えっと……新しい冒険者の方ですか?」

「あ、俺はユートっていいます。まだ見習いなんですけどね」

俺はできるだけ爽やかに見えるように心がける。
第一印象って重要なんですよ?

「そうなんですか~、頑張ってくださいね~。
あ、申し遅れました~、私、マリア先生の元で『契約師』の見習いをさせてもらってる、モモって言います。よろしくお願いしますね~」

モモさんはニッコリと微笑む。
少し間延びした話し方と穏やかな表情が柔らかな雰囲気を放っていて、すごく優しそうな印象を受ける。
こういう子が彼女になってくれるといいよなぁ……と、ほんわかしてしまう。
……ってあれ、なんかつい最近似た印象の子を見たような……?

「……あの、モモさんってお姉さんか妹さんがニコニコゴールドで働いてたりってしませんよね……?」

「? 私は一人っ子ですけど~?」

「あはは、ですよね~」

気のせいか。
確かに両方とも可愛いし、雰囲気や話し方は似てたけど、アッチは例えるなら『ショートケーキ』でモモさんは『大福餅』って感じだしなぁ。
いや、自分でもよく意味わからんけど。

マリアさんに魔法を教えて貰いに着た、とここに来た目的を告げると、モモさんは少し困った顔で申し訳なさそうに店の奥を見る。

「さっきも言ったように、先生、今魔法の儀式中なんですよね~。ユートさん達の来るほんの少し前に新しいお客さんも着たばかりですし。まだ時間かかっちゃうと思いますけど~……。
そうだ! 良かったら今やってるお客さんの儀式、見学させてもらいますか~?」

ぉ、そりゃ面白そうだ。
儀式ってのが何なのか良くわからないけど、ここで待ってるよりも遥かに楽しそうだ。

「面白そうだし、見学させてもらっていいかな」

「はい~、片付けちゃいますんで、ちょっと待ってくださいね~」

モモさんは拾い終わった本を棚にしまい終えると、仕切られているカーテンに手をかける。
―― と、突然内側から勢い良く捲られ、男が一人飛び出してきた。

「うわあああああああああぁぁぁぁぁんんんんっっっ!!
オラの純情を返せえええええええええええええぇぇぇぇぇぇっっっっ!!!!」

そして、呆気に取られる俺達の横を泣きながら叫び声を上げて去っていってしまった。

「「…………」」

思わず言葉をなくしてセディと見詰め合う。

「………今の、カッペ君…だよ…ね?」

セディの言うとおり、今の人影はカッペだった。
何やってんだ、アイツ、こんな所で……。
それに、あの格好……。
俺の見間違いじゃなけりゃ、上半身は裸で、脱いだ上着を胸に抱えていた。
……まるで……その、何かに襲われた後のように。
……あ、あはは、まさか、……なぁ?

あまりのインパクトに二人で声を失っていたが、モモさんは何かに気づいたように一人で納得すると、何事も無かったかのように奥へと歩き出す。

「って! ちょ、ちょっと待って!! い、今の一体なにっ!!?」

「あはは、ちょっとしたマリア先生の趣味といった所でしょうか~。私は前からやめて下さいっていってるんですけどねぇ~……」

なんでもない事のようにサラっとのたまうモモさん。
趣味って何!?
……すっごく怖いんですが!!

「特に危険は……そんなにないと思うので大丈夫ですよ~」

モモさんはそれだけ言ってニコニコ笑うと、カーテンの奥へと消えていってしまった。

「「…………」」

「……行こうか」

「……あぁ」

ここでこうしていても仕方が……いや、本当はこのままユーターンして帰りたいけど、仕方なしにモモさんの後を追う。
全く疲れていないはずなのに、足は鉛のように重かった……。





カーテンを捲ると、そこは仄かに暗く、かなり広い部屋が広がっていた。
窓はないようで太陽の明かりは入ってきていない。
そして、部屋の中央にはボンヤリと光る、……魔法陣、だろうか?
直径3メートルくらいの五亡星が描かれていた。
部屋の光源はその五亡星と、星の頂点に設置された蝋燭のみで、その明かりに照らされた影が壁に揺らめいていて、どこか幻想的な雰囲気を醸し出している。

五亡星の中心には、これまた上半身裸の長身の男がこちらに背を向けて座っており、その隣には男の背中を真剣な眼差しで見つめる ―――― ルイーダのおやっさんがいた。

「……おやっさん? ……なんでこんなとこに?」

その俺の呟きが聞こえたのだろう。
おやっさんはこちらを見ると不思議そうな顔をする。

「あらん? どうしたのかしら? モモ、お客様はそっちの部屋で待ってもらう約束でしょ?
……それにしてもクリスちゃんったら、まぁだおやっさんなんて呼ばせてるのね。せっかくお父様やお母様からいい名前貰ったのに……。アタシなんて……」

……あれ、おやっさん……だよな?
声は……低めのバリトンで同じだし、顔も……一緒…だし?
無理やり猫なで声を出したような茶色い声がすごく耳障りだけど……あれ、そういえばヒゲがない……。
髪も生えてる……なぜか弁髪だけど。

「すいませんマリア先生~。暇なので儀式見学させてあげてもいいですか~?」

「……………ま、まりあ、さん?」

ぎぎぎ……と、錆び付いた機械のように動きの悪い首を無理やりセディの方へ回して小声で問いかける。

「……うん。……それと、見れば解るだろうけど……、ルイーダさんの双子のおに……ううん、お姉さん」

…なるほど、おやっさんのおに……お姉さん?なら似てるのも当然か。
……やられた。
………いや、期待を裏切られるかも、って予想はしたけど、まさかこういう形で裏切られるとは思ってなかった……。
それにしても、あの喋り方……、まさかとは思うけど…。

カッペの格好と叫び声が思い起こされる。
……まずい、否定材料が見つからない。

「ふぅ~ん? あらん、セディちゃんじゃない、久しぶりね、元気にしてる?」

「あはは、お久しぶりです、マリアさん。おかげ様で元気にやってますよ。契約していただいたホイミも役に立ってますし」

「そ~ぉ、良かったわ。 ……あらん、そっちの子は見ない顔ね。新しく冒険者になった子かしら?
…………うふふ、結構カワイイ顔してるじゃないの」

つま先から頭のてっぺんまでジックリと舐めるように見られる。
間違いない、真性だ……。
思わず気おされて後ずさってしまう。

「うふっ、初々しいわねぇ~。大丈夫よぉ、取って喰ったりなんてしないから♪」

しゃ、洒落になってないって……。

「アタシは『契約師』のマリアよ。マリアちゃんでもマリアさんでも好きに呼んでくれていいわよ。よろしくねん。
…………それでボウヤ、アナタの名前、教えてもらえないのかしら?」

「あ、あぁ、俺は、いや僕は、ユートって言います」

あまりの事態に頭が回らないが、何とか言葉を返す。

「そんな硬くならなくていいわよぉ~。硬くするのはソコだけで十分、でしょ? うふふふっ」

「……マリア先生ぇ、それってセクハラですよ~」

マリアさんは、ジト目のモモさんに咎められると、肩をすくめて舌を出す。
なんだろうこの言いようのない嘔吐感に脱力感は。
字面だけ見ると心が躍るのに、さっきから吐き気がして仕方がない。

「あらあら、怒られちゃったわね。ふふふ、ごめんなさいねぇ。
……それで、見学だったかしら? アタシは別に構わないわよぉ」

その言葉を聞いて、それまで黙っていた最後の一人、五亡星の中心で座っていた長身の男がいきり立つ。

「ちょっと待てっ! 私は認めてないぞっ!! そんな下男共、そっちで待たせておけば……ひっ!」

……が、話の途中でマリアさんがその男に近寄り、ツツツ…っと背を撫でると真っ青になって身を硬くする。
なんかかなり失礼な事を言われた気がするが……、怒りよりも同情が感じられるな、アイツには。

「うふふ、そんなツレナイ事言わないのぉ~。アタシ達の愛の営み、見せてあげましょうよぉ」

「何が愛の営みっっ!? ……わ、わかった、わかったから、頼むから少し離れてくれ……っ!!」

「んもぅ、恥ずかしがり屋さんなんだからん♪」

男は必死にマリアさんから離れようと身をよじっている。
その気持ち、すごくよくわかるな。
変わってやろうなんてこれっぽっちも思わないが。

「うふふ、ベルちゃんの許可も下りたし、ユートちゃん、ジックリたっぷり見てっていいわよぉ~。あ、でも、アタシ達の邪魔しちゃ駄目よぉ?」

「わ、私ベルちゃんなどではないっ、ベルナールだっ!!」

ベルちゃんは再度いきり立つが、マリアさんは全く取り合わない。
必死で大声を出して威厳を保とうとしているベルちゃん ―― ベルナールが、哀れに見えてくる。

「ふふ、さぁベルちゃん、儀式をつづけましょ♪」

「くっ……何故、高貴な身分の私がこのような下賎な輩に! なんでこんな奴がこの国一番の『契約師』なんだ……納得が……。
……っ! す、すまない、取り消す! 取り消すから耳に息を吹きかけるなぁあああああああああっっ!!」





目の前で行われている絡みに圧倒されてしまう。

「……えっと、そういや、儀式って何の儀式なんだ?」

少し時間がたってショックが薄れようやく自分を取り戻すと、これから見学する事の内容を何も知らない事を思い出した。
ここは魔法屋で、マリアさんは自分の事を契約師と言ってたから、おそらく魔法の契約なんだろうな、という事くらいは想像がつくが。

「『契約』の儀式だよ。『契約魔法』を使うために必要な」

「『契約魔法』?」

「うん。『契約魔法』はその名前の通り、『契約』しないと使えないからね。僕のホイミやカッペ君のメラはマリアさんに契約してもらって使えるようになったものなんだ」

なるほど、魔法を使うには『契約』が必要なのか……。
あれ?
でもそれっておかしくないか?

「俺もまぐれとはいえメラ使えたけど、契約なんてした覚えはないぞ?」

リアとの契約?っぽい物は解除したけど、それは関係ないだろうし。

「うん、ユートが使ったのは『創造魔法』だからね。僕達の使ってる魔法とはまた別なんだよ」

「???」

「ユートさん、『創造魔法』使えるんですか~! すごいですね~!」

正直意味がわからず目を白黒させていると、モモさんは驚いた、とばかりに両の手のひらを目の前で合わせて、ニコニコ笑う。

「昨日、僕とは系統が違うから魔法を教えてあげられない、っていう話したよね。あれはそういう意味なんだ」

「『契約魔法』と『創造魔法』では覚え方が違いますからね~」

二人は自分たちだけで納得しているが、俺は置いてかれてる感が否めない。

「……あのさ、『契約魔法』ってのと『創造魔法』ってのの違いを教えてくれないか?」

「いいですよ~。まず、『契約魔法』っていうのは~……」





『契約魔法』。
現在のこの世界では最も一般的な魔法で、ただ『魔法』という場合、こちらの魔法を指す事が多い。
扱う者に才能や努力は必要がなく、お金を払って『契約師』と呼ばれる人達に『契約』の儀式をしてもらえば使う事ができるようになる。
しかし、利便性が高い『契約魔法』によって『魔法使い』や『僧侶』の数が増えたかといえばそういうわけでもない。
一番レベルの低い魔法はそうでもないらしいが、レベルが高くなるにつれて金額が急激にあがり、平民出身ではまず払えない額なんだそうだ。
そのため、『契約魔法』の『魔法使い』や『僧侶』は王族や貴族、一部の『富豪』達に限られてしまうためそう数は多くないらしい。

しかし、その欠点を補って余りある利点として、魔法の素養の全くないMPが0の者でも、『契約』をすればその魔法5回分のMPが手に入るため、お金さえあれば誰でも使えるようになっている事があげられる。(例:メラならMP10、ホイミならMP15増える)
『戦士』であるカッペやセディが魔法を行使する事ができるのはそのおかげらしい。
ただし、『魔法使い』や『僧侶』といった、魔法を専門に扱う職業以外は、一番低レベルの魔法を一つだけしか覚える事は出来ない、という制約がつくが。


対して『創造魔法』。
『契約魔法』が生み出され、主流となるまではこちらが主に使われていた。
現在は『契約魔法』の使い手と比べると圧倒的に少ない。
この魔法は、素養を持つものが、自身の才能と努力で魔法を文字通り『創造』することで使う事ができるようになる。
魔法の素養を持つものは10人いれば3、4人以上はいるので、そう大して珍しいわけではないのだが、『契約魔法』の利便性が広まるによってこの魔法を選ぶ人は少なくなり、年々使い手は減少しつつあるらしい。





「本当はもっと違いはいろいろとあるんですけど~、簡単に説明すればそんな感じですね~」

「なるほどな~……」

間延びした話し方とは違い説明は理路整然として解り易く、わりとすんなりと理解することができた。
今聞いた情報を自分の中で整理しながら考える。

『創造魔法』よりも『契約魔法』の方が簡単で良さそうだよな。
俺が一昨日使った魔法は『創造魔法』の方らしいけど、『契約魔法』をやってもらった方が手軽でいいんじゃないか?
……まぁ、お金掛かるらしいから、お財布の事情と相談して、だけど。



三人で話をしていると、儀式の準備が整ったのか、『それじゃ、始めるわよん。準備はいいかしらん?』という声と共に、部屋に凛とした心地よい緊張感が漂う。
マリアさんは赤い血のような液体を手に取ると、手に持った羽根ペンでベルナールの背中に何かを書き込んでいく。
その横顔は、さっきまでの会話がまるで嘘のように真剣だった。

「『契約魔法』は、ああやって使いたい魔法の魔法陣を肌に直接書き込んで儀式をすれば~、使えるようになるんです~。簡単でしょう~?」

モモさんに囁かれてマリアさんの手元をじっと見つめていると、五亡星と複雑な文様がすごい速さで書き込まれていく。
数分もたたないうちに魔法陣を書き込む作業は終わる。
そして、マリアさんは一息つくと羽ペンを置いて、目を閉じ、なにやらブツブツと唱え始めた。
早くもなく遅くもない、ゆったりとした詠唱は、不思議な響きを伴っていて、まるで歌のようにも聞こえる。
深く静かに詠唱が流れていくと、魔法陣の放つ光がだんだんと強くなり、詠唱する声も力強くなっていく。
光と音が最高潮に達した途端、五亡星の頂点から光が飛び出しベルナールの頭上で合流すると、背中に描かれた魔法陣と、いつの間にか床に置かれていた冒険者の証へと入っていった。
その後背中に描かれた魔法陣と冒険者の証はしばらく光を放っていたが、次第に弱くなり、消えてしまう。
赤かったはずのインクは光が消えると黒く色が変わり、肌に焼き付いていた。

「……ふぅ、儀式は無事成功よん。これでベルちゃんはギラを使えるようになったはずだわ」

額に僅かに滲んだ汗を拭いながら笑顔になるマリアさん。

ベルナールは冒険者の証に目を落とすと満足したように一つ頷く。

「……確かにMPは20増えているようだな。ご苦労だった。金はいつも通り振込みでいいか?」

「ええ、もちろんいいわよぉ~。ゴールドなら600G、ルビィなら375,000Rになるわん」

600G……、払えないわけじゃなさそうだけどかなり高いな……。
ギラでこの値段だと、ベギラマ、ベギラゴンにいくと一体いくらくらいになるんだ……?

「ルビィで頼む。後で振り込ませておこう。……そ、それでは、私はこれで失礼する」

「あぁん、もうちょっとゆっくりしてったらん? 美味しいお茶出すわよぉ~」

「け、結構だっ!!」

服を着る時間も惜しいと言わんばかりに胸に抱え込むと、そそくさと逃げていった。

ベルナールが俺の横を通り過ぎた時、描かれていた魔法陣が今回描かれたもの以外にもいくつかあったことに気づく。
パッと目についただけでも5個は描かれていた。
なるほどね、ああやって契約すればするほど魔法の選択肢は増えるし、MPも増えて強くなれる、……ってわけか。
……なんかちょっとずるいな。

「んもぅ、せっかちねぇ……」

残念そうに呟くが……至極当然の反応だと思うけどな、俺は。
マリアさんはしばらく揺れるカーテンを寂しそうに見つめていたが、俺達のほうへと向き直るとニッコリ笑う。

「それで、アナタ達はどんな御用なのかしら?」





「えっと……マリアさん、実は魔法を教えて貰いたかったんです」

俺は少し緊張しながら頼む。

「いいわよぉ~。メラなら300G、ヒャドなら400G。ホイミなら800Gで優しくジックリとユートちゃんの身体に教え込んであげるわぁ♪」

エサを狙う獣のような目で見つめられ、身体がゾワゾワする。
……ぅぅ、こ、これは辛い……。
今更ながらにベルナールの気持ちが痛いほどよくわかる。

「い、いえ、教えて欲しかったのは『創造魔法』……の方だったんですけど……」

「あらん?」

そう、そのはずだったんだけど……、正直今の儀式を見ていて『契約魔法』にしてもらってもいいかな、って思っちゃったんだよな。
メラなら300Gらしいし、それくらいなら今は無理でもそう遠くないうちに溜まるだろうし。
そんな迷いが表情に出ていたのだろう。
マリアさんは少しじれた様に俺の顔を覗きこむ。

「んもぅ、男の子ははっきりしなきゃだめよぉ? ほら、お姉さんに相談してごらんなさいな」

「えっと、実は……」

俺は一昨日からの出来事を話す。
まぐれでメラを使う事ができた事。
その後、リアに魔法の使い方を聞いて何度試しても煙しか出ずに悔しい思いをしたこと。
ついさっき『契約魔法』と『創造魔法』の事を知ってどっちを取るか悩んでいる事、など等。

マリアさんはその見た目からは想像も出来ない程の聞き上手で、絶妙なタイミングで合の手を入れてくれるので、すごく話しやすかった。
……どういう流れでそんな話になったのか覚えてないが、危うく経験人数(男)まで話させられる所だった。
いや、だから、そんな風に探られてもそんな経験なんてありませんからっ!!





「うふふ、なるほどね~。それならユートちゃんの好きな方で…って言いたいところだけど、アタシは『創造魔法』の方を薦めるわぁ」

最後まで話し終えると、マリアさんは少し考えを纏めてからアドバイスしてくれる。

「実は一度『契約魔法』を覚えてしまうと、二度と『創造魔法』を使えなくなっちゃうのよねぇ」

「え、そうなんですか~?」

「モモ、アナタが知らないのは問題あるわよ……」

「え、えへへ~…」

マリアさんはバツが悪そうに照れるモモさんを呆れたように眺める。

「……まだ『見習い』なんだし、詳しい話は、もしもユートちゃんが魔法使いや僧侶になったら、その時改めてしてあげるけど……。そういうわけだからアタシは『創造魔法』の方を薦めるわ。せっかくの自分の可能性を狭める事もないでしょ?」

理屈はわかる。
わかるけど……でも。

「でも、メラが使えたのって、さっきも言ったけど、たった一度だけなんです。あれから何度やっても煙しか出なくて……」

悔しさがこみ上げてくる。

「それが可笑しいのよねぇ。魔法は泳ぎ方を覚えるのと一緒。一度出来るようになったらそう簡単に忘れはしないのよぉ?」

そんな事言われてもなぁ……あの時は俺も何か変な状態だったし。

「試しにそこでやってみなさいな。見ててあげるから」

マリアさんは俺を優しげに見つめる。
その視線に力を貰って、試しにやってみる事にした。

目を閉じて精神を集中する。
すぐに自分の体内にある魔力を感じることができる。
リアに言われた事を思い出しながら、その魔力を練り上げて右手に集中させていく。
火の精霊を思い浮かべて、その存在に火の力を借りるイメージ。
もちろん詠唱も忘れない。
そして、タイミングを計って目を開くと、力を込めてメラ、と呟く。

……結果は想像通り。
身体は白く光り、右手に魔力の凝縮は感じられたのだが、手のひらから出るのは見るも哀れな煙が一筋……。
俺は情けなさで恥ずかしさを感じながらマリアさんを見上げるが、マリアさんの目には嘲りの色はなく、ただただ優しさだけが浮かんでいた。

「なるほどねぇ。ユートちゃん、アナタ、今どんな事を考えて魔法を使ってたの?」

「えっと……、火の精霊? を思い浮かべて、その火の精霊に力を借りるイメージで……」

「火の精霊?」

「さっき話した魔法の使い方を教えてくれたリアがそう言ってたんです。火の精霊を自分の中にはっきりとイメージして、その力を借りれば使えるようになる、って」

「へぇ、そのリアちゃんって面白い考え方するのねぇ。どこの生まれの人?」

「あぁ、リアは人じゃなくて妖精なんですよ」

「あぁ、それで、なのね。……それにしても、妖精さんなんて、珍しいわねぇ」

マリアさんは納得したように頷く。

「ユートちゃん、そのリアちゃんの話は一旦全部忘れちゃって、頭を空っぽにしちゃいなさいな」

「えっ……?」

「あぁ、別にそのリアちゃんの方法が違ってたり、悪いっていうわけじゃないのよぉ? その魔法の使い方も確かに『創造魔法』で間違いないし、妖精さん達は実際にその方法で魔法が使えるのよ」

間接的にリアが間違ってると言われたと思い、俺の表情に少し険が混じったのに気づいたのだろう。
慌てて手を振ると訳を説明してくれる。

「ただ、ユートちゃんとリアちゃんでは生きてきた環境や、土台。考え方から種族までの何から何まで違うでしょう? 『創造魔法』はそういう所がすごく重要なのよねぇ。
……ねっ、ユートちゃん、アタシを信じてやってみて」

プロが言うのだから間違いはないのだろう。
それに、俺は今までの会話や、仕草……は置いておいて、表情…も違うな。
えっと……そ、そう、雰囲気から、このマリアさんが信頼できる人だと思い始めていた。
俺はマリアさんの言葉に頷くと、目を閉じて、頭を空っぽにしてみる。

「……そうそう、頭を空っぽにして……。
ユートちゃん。アナタは火って、どうやったらできるか知ってる? その方法を思い浮かべてみて」

そりゃまぁ当然わからなくはないけど……。
言われて思い浮かべてみる。

火を作るのに一番最初に思い浮かぶのは……木とかを燃やしたり、ガスを燃やしたり……だな。
マッチの場合は摩擦熱で赤燐が発火して、それが火種になって木に燃え移る……っていう話を聞いた事もあるな。
原始的なものだと……、木を擦り合わせて摩擦熱で発火させるとか?
色々と考え、その中でも向こうの知識じゃない、当たり障りのなさそうな答えを口に出そうと目を開くと、手で押し留められる。

「あぁ、別に言わなくてもいいわよぉ。自分でわかってればそれでいいの。実際、それが、“正解か間違いか”なんて事に意味はないのよ。
例えそれが本当は“間違って”いたとしても、ユートちゃんがそれを“正しい”と信じていれば、それでいいの」

そしてマリアさんは俺を見て一度頷くと続ける。

「いいわ、しっかり思い浮かんだようね。それじゃ、次に、思い浮かんだ方法を魔力を使って再現してみて。ユートちゃんはもう一度魔法を成功させてるから、魔力の使い方は感覚的にわかっているわよね? だからもうできるはずよ!
固定観念を捨てなさいな。魔力は万能よ。万能と信じるの。信じれば必ずどんな事でもできるわ。
ユートちゃんが疑う事なく“信じて”あげれば、魔力はきっと答えてくれるはず。魔力を生かすも殺すも、ユートちゃん次第なのよ。
―― “想像”して、『創造』しなさいっ!」





固定観念は捨てろ、魔力は万能……か。
とは言っても、さすがに魔力がいきなり木になったりガスになったりするわけじゃないだろう。
って、あぁ、もしかして“これ”が固定観念、って事か?
……でも、駄目だ。
俺には“魔力がいきなり木になる”なんてことを考える事はもはやできそうにない。

……火をおこす方法……か。
木が無くっちゃできるわけ………いや、それは違うか。
ガスだって燃えるわけだし。
そう、燃える物は“木”じゃなくても……別に構わないんだよな。
“可燃物”でさえあれば……。

―― 魔力が“可燃物”の可能性。

これなら“信じられる”、“想像できる”!
……その方向で考えてみるか!

魔力は可燃物。
手のひらに魔力を凝縮。
体積はなく、質量も感じない。
だが、確かにそこには“存在”を感じ取れる。
魔力を手のひらに集め、それが燃えるイメージを考える。

燃える……マッチのように、摩擦熱がその可燃物の発火温度まで達すれば燃える。
摩擦熱……熱、か。
熱を分子の運動エネルギーと定義。
魔力の中に分子を想像し、創造する。

“魔力”なら自由に動かせる。
魔力内の分子の運動エネルギーを上昇させる。
分子を加速させ、回転させ、ぶつけ合わせ、反発させる……っ!
そして温度を上昇させ、加熱するっっ!!

いつの間にか頭の中は真っ白になっており、考えられることは炎を生み出す事だけ。
足りない理論はこじ付けてでも補足すればいい。

魔力を右手の中で操り、どんどん力を加えていく。
ほんのりと右手が温かくなっていくのが感じられる。
そして ―――



「成功のようね、おめでとう♪」

どのくらい時間がたったのだろう。
優しいマリアさんの声に目を開けると、白くボンヤリと光る右手の中には、小さいが確かな炎が生まれていた。

「こ……これ、俺…が……?」

手の中に生まれた炎が、なぜか愛おしい。
震えながらセディに確認すると、ニッコリ微笑んで祝ってくれる。

「うん、ユートが使ったんだよ、魔法。……おめでとう!!」

ジワジワと喜びが沸き起こってくる。
やった……、やったんだ、俺!!

「うっしゃぁぁぁぁっっ!!!!」

嬉しかった。
火は消えそうに小さく、敵と戦うには不足だろうが、そんなものは関係なかった。
確かな一歩を踏み出せた事が泣きたくなるほど嬉しかった。





「あ~っ!」

少しの間手の中の炎を見つめて喜びをかみ締めていると、嬉しそうに微笑んで俺を見ていたモモさんが、何かに気づいたように声をあげる。

「その~、そろそろ捨てた方がいいですよ~、それ」

何を言う、俺の成長の証をそう簡単に手放せるかっ!!
俺は火を抱え込むと無言で抗議する。

「いえ~、気持ちはわかりますが~……、そろそろ魔法切れますよ~」

その言葉と共に俺の右手の光が消える。
そして、右手が炎に包まれた。

「熱っちいいいいぃぃぃっっっっ!!??」

「だから言ったのに~」

……後で聞いた話では。
魔法を唱えてから少しの間だけは自分の身を守る魔法の保護膜が身体を覆うらしい。
だから自分の魔法で怪我をすることは普通はないらしいが……今のように時間が経って保護膜が消えたりすれば当然ダメージは受けるらしい。

……もっと早く教えて欲しかった…。
まぁ、威力が小さかったせいか軽い火傷で済んだのが不幸中の幸いといったところだろう。












~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~



――― 魔法屋 マリアの薔薇園 価格表・一部抜粋 ―――


メラ      : 300G   187,500R    ヒャド    : 400G   250,000R
メラミ     : 3000G   1,875,000R  .ヒャダルコ : 4000G   2,500,000R
メラゾーマ  : 45,000G  28,125,000R  マヒャド   : 60,000G .37,500,000R

他にも魅力的な魔法が多数用意されております。
ぜひお立ち寄りください。

*現在、“魔法屋 マリアの薔薇園”では新しい魔法を随時募集中です。
『創造魔法』の使い手の皆さん。
ご自慢の魔法を登録してみませんか?
登録される魔法の謝礼は様々な評価方法によって決定されます。

評価対象:難度・威力・希少度・利便性・構成・効率 等など。

*得られた収益は冒険者協会の運営資金となっております。







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