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No.3797の一覧
[0] 俺はここで生きていく (現実→オリジナルなドラクエっぽい世界) [ノンオイル](2009/03/29 23:44)
[1] 序章 第一話[ノンオイル](2008/12/19 22:25)
[2] 序章 第二話[ノンオイル](2009/02/24 02:50)
[3] 序章 第三話[ノンオイル](2009/02/24 02:50)
[4] 序章 第四話[ノンオイル](2008/12/19 22:26)
[5] 序章 第五話[ノンオイル](2009/02/24 02:49)
[6] 序章 第六話[ノンオイル](2009/02/24 02:49)
[7] 序章 第七話[ノンオイル](2009/02/24 02:51)
[8] 序章 第八話[ノンオイル](2008/12/19 22:27)
[9] 序章 第九話[ノンオイル](2008/12/19 22:28)
[10] 序章 第十話[ノンオイル](2008/12/19 22:29)
[11] 序章 第十一話[ノンオイル](2008/12/19 22:29)
[12] 序章 第十二話[ノンオイル](2008/12/19 22:30)
[13] 序章 第十三話[ノンオイル](2008/12/19 22:31)
[14] 第一章 第十四話[ノンオイル](2008/12/19 22:33)
[15] 第一章 第十五話[ノンオイル](2009/02/24 02:44)
[16] 第一章 第十六話[ノンオイル](2008/12/19 22:34)
[17] 第一章 第十七話[ノンオイル](2008/12/19 22:34)
[18] 第一章 第十八話[ノンオイル](2008/12/19 22:34)
[19] 第一章 第十九話[ノンオイル](2008/12/19 22:35)
[20] 第一章 第二十話[ノンオイル](2009/02/24 03:14)
[21] 第一章 第二十一話[ノンオイル](2009/02/24 03:14)
[22] 【オマケその一】 魔法について ―― とある魔法使いの手記 3/29  【それぞれの魔法について】 追加[ノンオイル](2009/03/29 23:42)
[23] 第一章 第二十二話[ノンオイル](2009/02/28 19:22)
[24] 第一章 第二十三話[ノンオイル](2009/03/17 21:41)
[25] 第一章 第二十四話[ノンオイル](2009/03/19 18:13)
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[3797] 第一章 第十七話
Name: ノンオイル◆eaa5853a ID:aa12ef82 前を表示する / 次を表示する
Date: 2008/12/19 22:34
リアです。
わたしの場所の傍にはポケットがありません。
では、諦めて遠くのポケットを使うべきでしょうか?
……いいえ、違います。
近くにポケットがなければ作ってしまえばいいんですよ!

わたしはさっそく、セディに借りた針と糸、そして布を使ってポケットの作成に取り掛かっていました。
セディなら持ってるかも、と思いはしましたが、まさか本当に持っているとは……。
ちょっと驚きました。
なんでも、『冒険者には必須だよ』らしいのですが、いくら冒険者でも、あのイナカッペが持ってるとは思えませんよね……。

それは置いておいて。
左肩にポケットを作れば、わざわざ遠いズボンのポケットを使わなくてもすみますし、それに証を入れておけば、椅子代わりにもなります♪
今のままでも、座り心地に特に文句はないですが、少しだけバランスが悪かったんですよね。
ユートが歩くたびに、前後に揺れますし。
最近はユートもわたしを乗せるのに慣れたせいか、揺れは小さくなってきましたけど、やっぱり座る場所は平らの方が安定しますよね。
そういう意味では鎧を着ている時のセディの肩も悪くはなかったですが……あっちはあくまで予備で、言うなれば別荘ですからね。
本宅も過ごしやすくしないといけません。

……くっ、ここ、なかなか針が通りませんね……。
あぁ、こう見えてもわたし、裁縫は得意なんですよ?
母さまが裁縫とか苦手だったので、代わりに母さまの服を繕ってあげたりもしてたんですから。
……でも、やっぱりなかなか針が通りません。
ユートの服の生地、外側は結構硬いみたいですね。
中は柔らかくて温かかったんですが…………。
とにかく、ユートに気づかれる前にポケットを作ってしまわないと……。
ちょっと手荒いですが……、硬いんだからしかたありませんよね。

わたしは一度針を抜くと、勢いをつけて突き刺してみる。
すると、何とか針の先が生地を突き抜けるが、固いのは服の外側だけだったようで、勢い余って何か弾力のある柔らかい物まで刺してしまう。

「あ"…………」

こ、これはもしかしなくても、お肉までいっちゃいましたか……!?

ユートの怒鳴り声に備えて、身をすくめる。
……が、予想に反して少し経っても反応が全くない。
ゆっくり片目だけ開けてユートの様子を見ると、全く微動だにしていない。

もしかして、刺さったのは勘違い……? それとも、痛みを感じていないのでしょうか。

そっとユートの首元から覗くと、淡い願いも空しく針が少し肩に突き刺さっていた。
わたしは冷や汗を流しながら、傷口を広げないようにそっと針を抜く。
傷口には血が玉のように膨らんでいる。

思ったより深くなかったようで安心しましたが、少し血が出ちゃってます……。
どうやら気づいてないみたいですけど……、これ、このまま服を下ろしたら血が滲んじゃってバレちゃいますよね。
それに、消毒しないとまずいですし……。

わたしはなんとなく辺りを見渡します。
セディと司祭は話をしていて、こちらに背を向けている。

…………(キョロキョロ)。


………ぴちゃ……ちゅっ…ぺろっ。

……ん。

鉄の味…………ぴちゅ。






           俺はここで生きていく 

          ~ 第一章 第十七話 ~






………ここは?

ぬるま湯に揺られているような夢現な感覚でぼんやりと思う。
俺はいつの間にか、森の中に立っていた。
たった今ここに来たばかりの気もするし、もう何年もここで立ち尽くしていたような気もする。
辺りは樹齢が数百年に達しそうな木々に囲まれていて、頭上には枝葉が生い茂り空が見えない。
空気は澄んでいて、小鳥の囀りが ―― いや、おかしい。
息を大きく吸いこんでも呼吸している実感を得られず、草木の匂いもしない。
小鳥の囀りはもちろん、木々に吹く風の音も、いや、その他一切の音が聞こえない。
確かに目の前の枝葉は揺れているのに。
木々の間から見える遠くの景色は白く霞み、どこか現実感が希薄だった。

ここは一体どこなんだ……、なんで俺はこんなとこに……?

無性に心細くなり、目の前の枝に手を伸ば ―― そうとして、腕はおろか、指先すら自分の意思で動かす事ができない事に気づく。
自由になるのは息を吸うことくらいか? ……いや、試しに息を止めようとしても止まらない。
どうやら、全く体が自由にならないらしい。

なんなんだよ、一体!!?

思考を走らせる事だけは許されているらしく、俺は頭の中で叫び声をあげる。

なんで体が動かないんだ!? ……誰かっ、誰かいないのか! くそっ、声もでねーのかっ!! なんでこんなことに……。……ってか、俺は何をしてたんだっけ……、いや、そもそも……俺はだれだ?

そんな乱れ続ける思考をよそに、視界に写る景色は全くぶれることなく、ただただ穏やかな森を写し続ける。
と、視界が突然後ろに向かって流れていく。
……違う、俺が動いているのか。
俺の体はいつの間にか前の方向に向かって動き出していた。
不思議な事に、足は全く動いておらず、先程と同様に立ち尽くしたまま。
歩いているのではなく、まるで浮いているように、すべるように進んでいく。
向かう先の木々の切れ目からは、暖かな光が差し込んでいた。
俺の身体はその光に導かれるように、音も立てずに進んでいった。


進むごとに周囲の景色が少しづつ変化する。
深い森の中から、森の外に広がる草原へ。
草原から、突然現れた山の麓へ。
山の麓から、険しい山の中腹へ。
山の中腹から、暖かな光を放つその場所へ。
眼下に森を見下ろし、滝を目前にする細い細い崖の先へと……。


どのくらいたったのだろうか。
頭の中で喚くのも飽き、ただただ移り変わる景色だけを見つめていると、時間の感覚はなくなり、そして次第に意識は朦朧としていった。

なん……だっけ……? えっ…と……なに……も…かんが……え…られ……ない……。

頭には靄がかかり、その揺れているような感覚に身を委ねているとどこからともなく不思議な声が聞こえてきた。

―― ユート……、ユート……。私の声が聞こえますね…。

………ユート?
…………そう、俺の名前は……ユート。
なんで……忘れてい……たんだろう。

―― 私は、全てを司る者。願いを聞き届け、あなたに、僅かながらの力を授けましょう。

全てを司る物…………願い………力……。
かみ……さま…………ル…ビ…ス?

―― しかし、その前に、この私に教えて欲しいのです。あなたがどういう人なのかを……。

……は……い…、…わか……り……

「っっ!?!!?」

突然左肩に鋭い痛みが走り、声にならない悲鳴をあげる。
まるで針で刺されたかのようで、痛みに目を白黒させてしまったが、おかげで意識がはっきりとする。
それと同時に、急にうるさいくらいの滝の音が聞こえ始めた。
水しぶきが身体にかかり少し寒い。

……っ、俺なにしてたんだっけ?
俺は……そう、ユート…。
他は……ダメだ、思い出せない。
この声の主なら教えてくれるのか?

―― さあ、私の質問に、正直に答えるのです。用意はいいですか?

「……いいえ」

いや、別に答えるのはいいけど、その前にまず教えてくれ! ―― と、言おうとしたが、口から出たのは、なぜか思いもしなかった否定の言葉だけだった。
慌てて訂正するために声を出そうとしても、出てくるのは『……ぁ』とか、『ぅ…っ』といううめき声だけ。

―― 貴方はなかなか用心深いようですね。

違うって! ……っ、……っ! くそっ、声は出ないままなのかっ!!

―― それとも、ただの捻くれ者なのか…。

んだとっ!? ……っと、いけないいけない。
落ち着け、俺……。
声を出せないストレスから、思わず噛み付きそうになってしまった。

―― そういえば、ここに至るまでの時間もかなり長かったですね。こんなことは初めてです。あるいは、貴方は何処か特殊なのかもしれません…。

「……はい」

……うん、別の世界から来たし、特殊って言えば特殊だな。
捻くれ者とか言われるよりはずいぶんマシ……ってか、勝手に返事すんなっ!
キサマは『ハイ』、『イイエ』しかしゃべれんのかっ!!
自分にあたって、ふと、もしかしたらと思い、小声でしゃべってみる。

「……はい、いいえ」

今まで苦労して声を出そうとしたのが嘘のようにすらすらと口から出る。
……そうですか、これしか喋れないんですね。

―― それも、いずれわかるでしょう。

……いずれ?
なんだか嫌な予感がする。

―― ともかく、私は待つことにしましょう。

いや、だから、ちょっと待てって、おい!
……って、あれ!? おい、何が!? 視界が白く…………!!? 







「…………」

俺はいつの間にか、森の中に立っていた。
……さっきと全く同じ場所だな、たぶん。
さっきの声の主 ― ルビス? ― に最初の場所に飛ばされたのか……。
深呼吸すると爽やかな空気が肺を満たし、辺りからは鳥の囀りや、木に吹く風の音が聞こえてくる。
どうやら、感覚は戻っているし、身体も自由に動くようだ。

「………っ」

とはいえ、声は出ないままなようだが……。
なんでここにいるのか、さっぱりわからないけど ――

(―― ともかく、私は待つことにしましょう)

……やっぱり、さっきの場所に戻ってこい、ってことだよな。
他にあてもないし…………はぁ。
俺は記憶を頼りに、光へと歩きだした。







「………ぜぇ、……っ……ぜぇ! ……ごほごほっ!」

つかれた。
……めちゃくちゃ、疲れた。
さっきは全く疲れなかったのに、今回は感覚が戻って歩いていたせいか普通に疲れた……。
途中で何度か山から落ちそうになるし……。
俺は力尽きて、崖の先で座り込む。
もう一歩も歩きたくない……。
なかなかおさまらない息を必死で整えていると、さっきと同じ声が聞こえてきた。

―― ユート……、ユート……。私の声が…………どうしました? すごく疲れているようですが。

言いたい事は山ほどあるが、どうせ『ハイ』と『イイエ』しか言えないんだから、と、なんとか自分を抑える。
もっとも、疲れすぎていたので、もし喋れたとしても何も言えなかっただろうが。

―― それにしても、遅かったですね…。……!! まさかとは思いますが…、あの山を“歩いて”来たのですか?

「……ぜぇ、ぜぇ……は…い」

あぁ、おかげでメチャクチャ疲れたよ……ったく。

―― ……驚きました。まさかここで意識を保てる者があの者以外にも現れるとは。……そうですね、褒美というわけではありませんが、僅かですが体力に多めに祝福を授けましょう。きっと貴方の助けになるはずです。

(……山を歩いて超えてくる者は、あの者以来ですね。そういえば、雰囲気もどことなく似ている気がします…。懐かしいですね……)

おぉっ、マジか!? ニコニコゴールドでの事といい、もしかして、俺って結構ついてるのかも!
振って沸いた幸運に、さっきまでの不満はすべて消え、疲れもいつの間にか吹き飛んでいた。
我ながら現金な身体だな。

―― それでは、今一度問いましょう。……さあ、私の質問に、正直に答えるのです。用意はいいですか?







ふと気づくと、白い部屋にいた。
突然目が覚めたような感覚が少し気持ち悪い。
……ここは……そっか、俺、確か証を……。
意識がはっきりすると共に、だんだん意識を失う前後の記憶が戻ってくる。
頭を振る俺に気づいて、リアが少し怒った様子で腰に手をやる。

「ようやくユートも戻ってきましたね。……遅すぎです、いつまでまたせるんですかっ!!」

「ずいぶん時間かかってたね。リアも心配してオロオ「してませんっ!!」……ふふっ」

「いや、んなこと言われてもなぁ……」

第一、遅くなったのはルビスのせいだし。
アイツが早とちりしてやり直しさせなきゃもっと早く終わったはずなんだ。
……まぁ、でも、そのおかげで体力に多めに祝福してくれるって言ってたし、文句言ったら怒られるか?

「そういえば、ユートはどうですか? 証貰う間の事覚えてます?」

「ん?」

やり直しさせられてなんとか山を登りきって…、体力にボーナスもらって…、もう一度質問に答えろ、って言われて……。

「……あれ?」

『それでは私の問いに答えてください』の後の記憶が全くない。
今度は間違えずに『ハイ』って言ったはずだから、たぶんあの後色々と聞かれたんだろうけど……何を聞かれたんだ?
リアは俺の様子を見て、納得したように頷いている。

「やっぱりあの間の記憶はみんな消えてるんですね……」

皆って事はリアもそうだったのか。
リアの言い方だと他の奴もそうみたいだし、不思議な事もあるもんだな。
頭を掻こうと手を上げかけた時、手の中の硬い感触に気づいて右手に視線を落とす。

「お? おぉっ!? おおおおっっ!!!??」

そこにあったのは夢にまで見た冒険者の証だった。
セディに見せてもらった物と全く同じ。
ついについについについに!
俺も冒険者の仲間入りだっ!

「うっしゃあああああああああああああ!!」

「ふふ、おめでとう、ユート」

「あぁ…っ! サンキューな!」

「ふふっ、まったく、本当子供みたいですね。……まぁ、わからなくもないですけど」

セディとリアがまるで自分の事のように嬉しそうに俺を見ている。
その視線に気恥ずかしくなって証に目をやった。
改めて証をじっくりと眺める。



……あれ、これって?
そこに書かれていたのは、昨日今日で見せてもらった浄化の画面とも地図の画面とも違っていた。
しかし、元の世界の出身でドラクエのゲームをやってた事のある俺には馴染みのもの。
なぜか枠や文字、全てが赤で書かれているのが気になるが……『ちから』『すばやさ』『HP』といった言葉と、横にその能力値であろう数値。
それはドラクエのゲームでステータス、と呼ばれていた画面だった。



なぁ、セディ……、と聞こうとしたところで、少し不機嫌そうな咳払いが響いた。
見ると、司祭がニッコリと、しかしまるで笑っていない笑顔を浮かべていた。
額に井桁まで見える気がする。

「……コホン。お待ちになってる方達がいるので、先に説明だけすませてしまってよろしいでしょうか?」

その言葉に部屋の入り口を見ると、数人の人が並んで待っていた。
一様に不機嫌そうな顔をしている。
俺たちは冷や汗を垂らしながら頷く。

「それでは時間もありませんし、手短に説明しますね。…その前に確認なんですが、ユートさん、リアさん共に冒険者になるのでしょうか?」

「はい、そのつもりです」

リアも俺の横で頷く。

「それでは、証の詳しい説明は冒険者協会でお聞きください。ここでは重要な事だけ……そうですね、二点ばかり説明するとしましょう。
まず一つ目が、ルビス様による『祝福』についてです。お二人は浄化についてご存知ですか?」

塔や街に来る途中でさんざん見た光景を思い浮かべる。
原理とかは知らないけど、あんな不思議な光景はそう簡単には忘れないよな。

「ご存知のようですね。モンスターを倒して浄化をすることで経験値となり、これを溜める事で、レベルが上がります。この際、ルビス様の祝福により、強くなる事ができるのです。
もちろん筋力トレーニングなどで自分自身を鍛える事でも強くなりますが、その成長度は比べ物になりません。
また、証を身に着けておくと、ルビス様の加護により、敵の魔法から少しですが身を守ってくださいます」

「す、すごいですね……さすがルビス様ですっ」

リアは興奮して司祭の言葉に聞き入っている。
俺はそれを眺めると、証に目をやる。
経験値を溜めると、レベルアップして強くなるのか。
この辺はゲームと同じみたいだな。
まだレベルアップを経験してないから、祝福で強くなると言われても正直ピンとこないけど、もしかしたら、セディがあの細腕で大剣を振り回せるのってこれのおかげなのかも。
レベルが上がるごとにステータスがあがって強くなるのなら、無理に筋肉を鍛えなくても、そのうち大剣を簡単に振り回せるようになるってことだし。
そういや、体力に多めに祝福くれるって言ってたよな。
……なんか変わってるか?
腕を回したり飛び跳ねてみたが、実感できなかった。

……突然奇行とも取れる行動を取ったせいで、三人からの冷たい視線は実感できたが。

「……コホン。次のレベルに必要な経験値は、街の教会で神のおつげを聞いてもらう事で知る事ができます。もちろんここでもお教えできますが……、ここはこの時間しか開いてませんし、街の教会で聞く方がよろしいでしょうね」

そこで司祭は話を切って俺とリアの顔を見る。
俺たちが理解していることを確認すると続ける。

「それでは、次に証の維持についてですね。証を維持するためには一月ごと、正確に言えば30日ごとですが、この間にモンスターを5匹以上浄化するか、50G以上を証に収納しておく必要があります。」

へ、維持? そんなのが必要なのか?
まぁ、確かに色々な特典があるんだから、それくらいの条件はあってもおかしくないか。

「ただし、維持に必要なモンスターの数やお金はレベルが上がるにつれて増えるようですので、余裕を持って浄化しておいたほうがよろしいでしょう。維持に必要な分に達しているかどうかは、その証の文字の色で判断する事ができます」

赤ならば両方満たしていない。
黄色ならば浄化とゴールド、両方あわせて基準を満たしている。
白ならば浄化で満たしている、となるらしい。

満たしているかどうかが確認できるのは嬉しいけど……、正確に何匹必要なのかわからないのはやりにくいな。
そんな俺を見て司祭は、『詳しく調べたければ、書物などをご覧になるとよろしいでしょう』と、何冊か参考になる本の名前を教えてくれた。
忘れずに覚えておいて、機会があったら読んでみよう。

「……もしこのどちらの条件も満たされない場合は、証は消えてなくなってしまいます。もちろん、ここにくればまた証を再発行することはできますが、一度失ってしまった経験値は二度と戻る事はありません。当然レベルも祝福も初めからとなります。気をつけてくださいね」

うわ、それはきついな。
たとえ大量のモンスターを倒して、最高レベルまで上げたとしても、維持の条件を満たしていないと、次の日からレベル1ってことだろ?
そんな事になったら悔やんでも悔やみきれないよな……。

でも、たった5匹だろ?
一月もあるんだから、そんなに難しい事じゃないと思うんだけどな。
と、そこでそれまで黙っていたセディが口を開く。

「実際、僕も知り合いに、怪我で一月寝込んでしまって証を失った人がいるからね。あまり神経質に溜めるのもどうかと思うけど、お金は使い切らずにある程度残しておいた方がいいよ」

なるほど、そういや怪我とか病気で戦えない、って場合も考えられるんだよな。
むぅ……実際に見たって話を聞くと現実味があるな。

「俺たちも気をつけないとな……」

「そうですね……」

顔を見合わせて頷きあう。
リアは少し緊張して顔がこわばっていた。
俺も多分そんな顔をしているだろう。

「あはは。普通に冒険者をやってれば消えるなんて事は滅多にないから、そんなに硬くなることはないよ」

セディの柔らかい声に緊張がほぐれる。
そうだよな、今からそんな事心配しててもしゃーないか。

「……証についての説明は以上となります。ですが、あくまで最低限の説明しかしていないので、冒険者協会で詳しい話を聞く事をお勧めします。……それでは、もしご質問がなければ、次の方がお待ちになってますので……」

司祭は並んでいる人の方へと目をやる。
列はさっきの倍近くになっていた。
俺たちは司祭に礼を言うと、慌てて聖堂を後にした。

……列の横を通る時の並んでいる人達の視線がかなり痛かった。







俺はベンチに座ってステータスを改めて見ていた。
ここは、南通りの入り口でもある城前の広場。
街の案内を続ける前にひといきつこうというセディの提案で、ここで少し休む事にしたのだ。
セディは今飲み物を買いに行っている。
リアもそれに着いていってしまった。
俺も着いていこうとしたら、なぜか断られた。
少し焦ってたようだけど、なんだったんだ……?
……まぁいいか。

ずれた思考を戻してステータスを眺める。
そこに書かれているのは、右半分に『ちから』『すばやさ』『たいりょく』『かしこさ』『うんのよさ』『こうげきりょく』『ぼうぎょりょく』。
それぞれの横に恐らくその能力値である数値が書かれている。
……やっぱレベル1だからか、低いなぁ、どれも……。
ってか、『うんのよさ』低すぎっ!
最近ついてる、ってさっき思ったばかりなのに……。
後は『ちから』が低くて、『かしこさ』がそこそこで『たいりょく』が高め……ってとこか。
特に体力は他の能力と比べて断トツで高いな。
これがボーナスの効果か?
なかなかいいプレゼントを貰ったもんだ。
とはいえ、レベル1の平均なんて知らないから、もしかしたらどの能力値もメチャクチャ低いのかもしれないけど……。
……なんか自分の能力が数字でわかる、っていうのも変な気分だな……。

次に左半分へと目を移す。
まず目につくのは『レベル』『HP』『MP』。
レベルは1。
これは当然だろう。
HPがなぜか減っているのが気になったが、これも体力ボーナスの効果かも、と納得した。
それよりも、思った以上にMPが高いことに驚いた。
これって俺、もしかして魔法使いの才能あったりするのかっ!?
賢さもそこそこあるし、これは魔法使いになれってことだよな、な、なっ!!?
そこまで考えて、メラを唱えて煙が出た事を思い出す。

「…………はぁ」

いくらMPがあっても、煙じゃ訳にたたねーよな……。
誰かに魔法の使い方習いたいよな……。
冒険者協会で教えてくれねーかなぁ……。
証について協会で説明聞けって言われてるし、その時にでも聞いてみるか。

視線をさらに上へと向ける。
……何の嫌がらせだ、これは。
そこには『宿無し迷子』と『としま』と書かれていた。
百歩譲って宿無し迷子はいいとしよう。
宿決まってないし、迷子と言えなくもない。
世界は超えてるけどさ。
でも、年増はないんじゃないか?
まだ俺はそんな年じゃないし、そもそも男に年増っておかしくないか?
……山登りの間待たせた分の仕返しか、これは。
実はルビスって性格悪いのかも。

「何見てるんですか?」

顔を上げるとリアが覗き込んでいた。
セディも横からこちらを見ている。
俺はセディから差し出された飲み物を受け取って礼を言うと、早速口を湿らす。
大分喉が渇いていたようだ。
ほのかに甘い水は染み渡って美味かった。

「ん、あぁ、証を……って、そういえばリアの証はどうしたんだ、持ってないみたいだけど。……もしかして、もらえなかったのか?」

俺は少し心配になったが、当のリアはそ知らぬ顔で微笑んでいる。

「いえ、もちろんありますよ。今はわたしのポケットにしまってあるんです」

「なるほど、ポケットか。ナース服にポケットあるんだな……ってまてまて! そもそも大きさ的に無理だろ!!」

思わず突っ込むと、リアは笑って俺の左肩に座ると、ぺんぺんと座っている場所を叩く。

「ここがわたしのポケットです♪」

「って、まてや、ゴラ!」

俺の一張羅がっ!!!??
今気づいた。
いや、むしろなんで今まで気づかなかった、俺。
左肩の部分にはいつの間にかポケットが出来ていて、そこには一枚の証が収まっている。
ポケットにはウィンクしたリアの似顔絵が刺繍されて、悔しい事に無駄に上手い。
しかし……これは恥ずかしい……。
耐え切れずに、ポケットを外そうと手を伸ばすと、指に噛み付かれる。

「わたしのポケットを勝手に外さないで下さいっ!!」

「勝手にお前のにすんなっ!!」

「ここはわたしの場所なんですから、このポケットはわたしの物なんですっ!」

そう言うとリアは俺の左肩にしがみ付く。
……ん? 左肩……?
ルビスとの会話の時に突然走った痛みを思い出す。

「……ヲイ、リア。まさかと思うが、ポケット縫ってる時、針突き刺したりしなかったか…?」

「なんのことです?」

しれっと、しがみ付いたまま、悪びれもせずにのたまうリア。

「……俺を騙せると思うなよ?」

お前、焦ると羽ばたき増えるんだよ。

「~~♪」

一筋の冷や汗を垂らしつつ、口笛を吹いて誤魔化そうとするリア。

「……ふぅ」

その様子を見てたら毒気が抜かれてしまった。
……まぁ、あそこで痛みが走ったから意識が戻って、結果的に体力のボーナスを貰えたわけだしな。
それでいいとしておいてやるか。
俺の顔から読み取ったのか、リアは少しホッとした表情になり、もう離さないと言わんばかりにしがみ付く手の力を強める。

……ちっ、ジャケットの上からじゃ感触がわからん。





「……あ、そうだ、セディ! 機能は他にはもうないって言ってたのに、面白いもんあるじゃねーか! ……それともセディのにはなかったりするのか?」

俺はセディにステータス画面を突きつける。

「あぁ、これね。僕もあるよ、見る?」

セディは証を取り出して二、三回証をつつくとこちらに見せる。
俺はそれを受け取って能力値を見ていく。
うわ、三桁の能力多いな、さすがだな……。
素早さ高すぎ、なんだよこの数字。
力も高いのだが、素早さはその二倍近くある。
やっぱり重装備よりも素早さ重視の方が合ってる気がするなぁ。

「これ、なんて書いてあるんですか?」

リアが横から覗き込んでセディに聞く。
俺は二人の会話をよそにセディの証をじっと見ていた。
ふむふむ……うわ、レベル26!?
そりゃすごいわけだわ。
HPも高いし……。

「さぁ……。僕にも読めるのは名前と職業の部分だけだしね。あぁ、もちろん数字は全部読めるけど」

……へ?

「これが名前で、セディって書いてある。で、こっちが職業。戦士、って書いてあるんだ。
二人ともまだ冒険者の証を手に入れたばかりだから職業についてないけど、そのうちどの職業になるか決めないとね。」

「へぇ、そうなんですか……」

セディは左半分の、俺の読めない部分を指差す。
ちょっと待てよ、どういうことだ、読めないって……。
しっかり書いてあるじゃないか。
『ちから』だの『たいりょく』だの、“日本語”で……………って、“日本語”っ!!!???

「後分るのは……これは多分レベルを表していて……。で、この『HP』って書いてあるのは、たぶん体力とか、生命力とかだと思う。敵から攻撃を受けたりすると減るからね」

読めないから、勘なんだけどね、と苦笑するセディ。

「なるほど……これがレベルで、こっちが生命力ですね……」

……なんで気づかなかった?
そう、この世界の文字が今セディの指差した、ニコニコゴールドでも見た“俺の読めない文字”なのならば、この証に俺の読める文字が書いてあるのはおかしいのだ、ということに。

「それで、こっちの『MP』。これは精神力とか、魔力、かな。魔法を唱えるたびに減っていって、ゼロになると使えなくなるから、あってると思う」

「…………っ!!?」

リアは突然血相を変えてポケットを覗き込むと、青ざめる。

「どうかしたの、リア? 顔色悪いよ」

「…………な、なんでも……ない、です」

……どういう理由かはわからないが、証にはこの世界の文字と日本語の二種類が書かれているようだ。
これは純然たる事実で、それ以上でも以下でもなく、実際、そこまで気にする事でもない。
セディが読めないのならば、俺が読める事を教えてやればいい。
本当は、読めてラッキー、くらいに軽く考えていい物なはずだった……こんな文字を見なければ。
……俺はセディの証の、自分の証でいえば『宿無し迷子』に当たる位置に書かれている“その言葉”から目が離せなかった。

「……ユートもどうかした? 少し調子悪そうだけど」

「いっ! ……いや、な、なんでもない」

突然話を振られて驚いて声が上ずる。

くそ、なんでこんな事が書いてあんだよっ!
筋違いと分ってはいるが、ルビスを恨めしく思う。
この言葉は日本語で書かれている。
つまり、セディは何が書かれているか知らずに証を俺に見せたわけだ。
こんな事は俺はセディから聞いていない。
大事な友人の、たぶん秘密にしておきたかった過去。
狙ったわけではないとはいえ、それを勝手に盗み見てしまった罪悪感に心が痛い。
俺の視線の先、セディと書かれているらしい名前の下には。

『亡国の元副騎士団長』

と、書かれていた。
亡国ってなんだよ……、元副騎士団長ってどういうことなんだ。
……勘弁してくれ、本人に教えてもらうならともかく、こんな事知りたくなかった……。












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――― 冒険者の証 ユートのステータスその① ―――


┏━━━━━━━━━━┓┏━━━━━━━━┓
┃      ユート     ┃┃     ちから :  5┃
┠──────────┨┃  すばやさ :  7┃
┃    宿無し迷子     .┃┃  たいりょく : 21┃
┃     と し ま     ┃┃   かしこさ : 12┃
┃    レベル : 1   .┃┃ うんのよさ :  2┃
┃   HP 10/40   ┃┃ こうげき力 :  7┃
┃   MP 50/50   .┃┃  しゅび力 : 10┃
┗━━━━━━━━━━┛┗━━━━━━━━┛
┏━ そうび ━━━━━━┓┏━ じゅもん ━━━┓
┃E:ひのきの棒       ┃┃            ┃
┃E:黒いジャケット     .┃┃            ┃
┃               ┃┃            ┃
┃               ┃┃            ┃
┗━━━━━━━━━━┛┗━━━━━━━━┛


(*ステータス中の文字で、このドラクエ世界の文字で書いてある部分は太字で、日本語で書かれている文字は通常の文字で記述してあります)



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――― 冒険者の証 ~その① ルビスの祝福~ ―――


ここでは『冒険者の証』について議論していく。

我々冒険者が『冒険者の証』と呼んでいる物は、他に『証』や『騎士の証』とも呼ばれており、その名前からわかるとおり冒険者だけでなく、騎士や兵士といった身体を張る職業に広く使われている。
この『証』にはまだまだわかっていない事も含め、様々な効果がある事が確認されているが、その中でも一番の目玉は『ルビスの祝福』であるだろう。
モンスターを倒し、証を使ってその肉体を『浄化』する事で黒いモヤ(*これをここでは便宜上『魔気』と定義しておく)が出て、ゴールドが残る(→『浄化とゴールド』参照)。
浄化により魔気を証に吸い込むと、証の『EXP』と表示された数値(経験値と思われる)が増加し、この数値が一定まで増えることで、レベルがあがりルビスの祝福を受ける事ができる。

ルビスの祝福とは、レベルが上がった者に様々な力を与えてくれる奇跡を指す。
大勢の冒険者に調査したところ、『力が上がった』、『素早さが上がった』、『敵からのダメージが減った気がする』、『魔法を使える回数が増えた』、『頭が良くなった気がする』………等、様々な効果が報告されている。
また、祝福によって上がる能力は、その者の職業によって特徴があるようだ。
例えば『戦士』ならば力と体力が、『武闘家』ならば力と素早さがあがりやすい、といったようにである。
(詳しくは『職業と転職』の項で確認して欲しい)
祝福の効果は、数レベルでは大して実感することができないが、大体10レベルを超えてくるとその違いが顕著になってくる。
証を持つ者と持たない者で腕相撲でもしてみるといい。
その効果の程がよくわかるだろう。

また、ルビスの祝福は、身体そのものの能力を強くしているわけではないと考えられている。
というのも、明らかに非力で力のなさそうな者が、ルビスの祝福を受ける事で大岩を持ち上げる事が出来るほどの力を得たり、その体型から鈍重そうな者が目にも留まらない程素早く動いたり、という事例が多々あるからだ。
この事から、ルビスの祝福は、身体を強くしているわけではなく、何か不思議な力を証の持ち主に授けていると考えられる。



――― 冒険者の証 ~その② 証の維持~ ―――


次に、冒険者の証を維持するのに必要な事を述べるとしよう。
維持に失敗すると、冒険者の証は消えてしまう。
レベルは1からとなり当然ルビスの祝福の効果もゼロとなる。
冒険者諸氏は、しっかりとそのことを心に留めておいて欲しい。

冒険者の証を維持するには、モンスターを浄化した際に出る『魔気』が必要となる。
(この理由は未だ明らかになっていない)
必要な魔気の量は正確にはわかっていないが、大体一月ごとに『自分と同レベルのモンスター5匹分』必要というのが通説なようだ。
つまり自分のレベルが上がるにつれて、必要な魔気の量もあがっていく。
高レベルの冒険者の場合、スライムのような低レベルのモンスターでは数百匹倒さないと基準に達しないらしい。
(ちなみに、この魔気は、毎月手に入れる必要があり、今月は10匹分の魔気を証に吸い込んだから来月は戦わなくても大丈夫、というわけではない)

また、維持に足りない分の魔気を、ゴールドで補う方法もある。
証にゴールドを収納しておけば、魔気のかわりになるのだ。
浄化するとゴールドが現れるのだが、この際にゴールドにいくらか魔気の絞りカスが残っていて、それが自動的に使われるのではないか、と考えられている。
当然、浄化して吸い込んだ魔気が多いほど、必要なゴールドは少なくなる。

もちろん、浄化を一切せず、全てをゴールドで維持することも可能である。
しかし、こちらの方法はあまりお勧めしない。
なぜならば、維持に使われたゴールドは消えてしまうからだ。
レベル1の証で実験した結果、50G必要であるということがわかった。
こちらもレベルがあがるごとに必要なゴールドは増えていくので、高レベルになってくるとかなり厳しくなってくる。
全てをゴールドで維持するのは、どうしてもモンスターと戦う事ができない時の最終手段として留めておくべきだろう。



――― 冒険者の証 ~その② 余談~ ―――


どの国や街でも、冒険者の証を持つものは、そこに住む人口の半分にも満たない。
ルビスの祝福だけを取ってもこれだけの恩恵があるというのに、なぜ広まらないのか。
それは上記したように、維持の困難さが挙げられるだろう。
一般の人々にとってモンスターはやはり脅威的であり、5匹も倒すのは困難な事なのである。
仮に倒すことが可能だとしても、彼等には彼等の生活があり、冒険者のようにモンスターを倒すための時間が取れるわけではない。
維持のために必要な分のモンスターのみを倒していても、いずれレベルがあがり、維持に必要なモンスターは増えていく。
そのため、当然の帰結として、維持に必要な浄化が間に合わなくなる。
現在でも稀に冒険者の証を取る一般人が現れるが、大抵レベル10になる前にその証を失ってしまうのだ。


著者 ヒサカ・ホセバンク
参考文献 『冒険者の証について(冒険者協会)』、『ルビスの祝福』、『魔気とゴールドとモンスターの関連性』、多数の冒険者達からの報告より


――― 冒険者の友 天空の章 道具の項 特別編より抜粋 ―――



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