今日こそは!
決意を胸に秘め、宿を出る。
今日こそ魔物と戦い強くなるんだ…。とその前にルイーダの酒場に寄っておこう。
もしかしたらパーティ募集してるかもしれないし、多人数でいけるならそれに越したことはない。
…死んだら終わりなのだ。
酒場の中に入る、ここの雰囲気にもすっかり慣れたなぁ。
こちらに気付き手を振るルイーダさんに手を振り替えしつつ掲示板に向かう。新規の募集を貼る位置も覚えたのでさほど手間取らない。
「今日も無し…か」
つくづく初心者に優しくない世界だよなぁ…、仲間を加えるのに初っ端からハードルがあるとかゲームでは考えられない。
ある意味勇者様強制一人旅状態だ。
でも俺は勇者でも何でもないから無理にも程があるだろう。
先行きを不安に思いつつ南門をくぐる、今日は風が強い。
…よし、いくか!
最初に見つけた魔物は人面蝶が三匹。
どでかい蝶ですら嫌なのに人の面をしてる時点でとても近寄りがたい、そしてとにかくキモい。ファンタジー世界が台無しである。
幸いこちらに気付いてはないようなので一気に駆け寄り切り込む。胴の剣の切れ味は思ったより良く、一撃で仕留めることが出来た。
こちらに噛み付こうとしてくる一体を横目に一体が距離を置こうとしてるのが見える。
あれは…マズイ。確か人面蝶はマヌーサを唱えてきた筈。
慌てて接近してくる一体を無視し、距離を取ろうとした一体を切り伏せる。周囲にモヤがかかったような状態になったがすぐに視界が戻る。
――なんとか間に合ったようだ、そう息を吐いた瞬間、腕に激痛が走る。最後の一体に噛み付かれたようだ。
「張り付くな気持ち悪い!」
そういいながら叩き落し、剣で突き刺す。
…どうやら片付いたようだ。
「ふぅ…」
噛み付かれた場所に薬草を塗りこめながら一息つく。
倒した魔物の輪郭が徐々に薄くなり、最後には消える。後にはゴールドが落ちているのみ。
「どういう仕掛けなんだろうなぁ」
ゴールドを拾いながらつぶやく。
こんなところは原作の世界に忠実だ。魔物はゴールドを落とす、これがこの世界では常識なのだ。
そもそも魔物はどこから生まれてくるんだろう?この世界にも魔王的存在はいるのだろうか?
とりとめもなそんなことを考える。
ゲームのドラクエの世界では魔物は無限に出てくる。この世界もそうなのではないか?自分は無意味なことをしてるのではないか?
そんな怖い想像をして頭を振る。
それから日が暮れるまで魔物を探し倒して歩いた。
薬草が尽きかけるまで、戦い。
そして尽きかけたら森に行く、そんな毎日を繰り返して一週間ほど。
いつものようにルイーダの酒場に行き掲示板を眺めていると、
--経験問わず、戦士さん急募!
詳細はルイーダまで--
という紙を見つけた。
おおお?
慌ててルイーダさんの方を振り向くとこちらを見て微笑んでいる。
「ルイーダさん 、これ…」
そのままその張り紙をルイーダさんの所に持っていく。
あ、いかん興奮しすぎて剥がしてきてしまった。
「西のルカ村までの護衛依頼で一人戦士の欠員でちゃってね…どう?やってみる??」
ルイーダさんが笑いながら聞いてくる。
「もちろんです!」
…出発は今日の昼からとのことなので慌てて宿に向かい、荷物をまとめて西門に向かう。
ゾルムさんに軽く挨拶していこうかと思ったがあいにく未だにあの人がどこに宿を取っているか知らない。
きっとルイーダさんが伝えてくれるだろう…そう思いながら緊張しながら西門を目指す。
なんといっても初パーティである!
聞いた話だと自分を入れて6人のパーティになるらしい。
まず何て自己紹介をしよう・・・自分は役に立てるのだろうか、そう思いながら歩いていると西門の脇に馬車が止まっており、周りに人が居るのが見えた。恐らくアレだろう。
近づくにつれ周りの人達の姿がハッキリと見えてくる。
…見覚えある集団だな、アレ。
金髪ロンゲの美形の男、真面目そうな短髪の青年、
痩せていて目をぎょろぎょろさせている子男、ボーっと突っ立っている赤髪長髪の女の子。
自分でも顔が歪むのが分かる。
金髪ロンゲもこちらに気付いたらしく、すごく嫌そうな顔をする。
…急に帰りたくなってきた。