きょろきょろと周りを見渡しながら色んな露店を冷やかす。こんな感覚子供の頃のお祭りの夜店以来だな。
目に映るもの全てが新鮮に見える。
色んな店を覗いて回って分かったことだが、俺の所持金1300ゴールドは思ったよりも大金らしい。宿代が一泊お一人様10ゴールド、薬草が一つ6ゴールド、その辺のリンゴのような果物が三つで2ゴールドなど、おおよそ小遣いにしては過剰な額をじいさんからもらっていた様だ。
…これならしばらくの宿代を別に置いておいても装備を買えそうだな。そう思い武器、防具を扱っている店を探し、露店の中に武器や鎧を置いてあるのを見つけた。
「さぁさぁ、そこの兄さんみてらっしゃい!どれも確かな業物ばかりだよ!」
行商のターバンを巻いたおっさんがこちらに気づいて声をかけてくる。
どれどれ。
銅の剣が300ゴールド、皮の鎧が350ゴールド、こんぼうが100ゴールド…高い。
銅の剣が宿屋三十泊分かよ。
「剣とか鎧って高いんですねー」
「そりゃそうですよ!武器や防具は貴重品ですからね」
と行商人が愛想良く笑う。
うーん、どうしたものか…せめて胴の剣くらいは買っておくか。いつまでもこんぼう振り回してるのも何だし。
「じゃあ、銅のつる…」
と行商人に言いかけたところで肩を叩かれた。
後ろを見ると見覚えのある小男が居る。
確か、この街に来る直前に助けてくれたパーティに居たサイ…だっけ。そんな感じの名前の人だ。
「坊主ちょっとこっちきな」
とそのまま引っ張られる。
「??」
行商人から離れ、曲がり角を曲がったとこでサイさんがこちらに向き直る。
「坊主、危ないところだったな。お前さんボッタクられるところだったぜ」
そういってニヤっと笑う。
「あ、そうなんですか。道理で高い訳だ…」
「お前、私は田舎者ですって雰囲気全開できょろきょろしてるからな。商人から見たらいいカモだ」
外国に旅行に来た日本人観光客みたいなもんか。もう少し用心しよう。
「坊主名前何て言うんだ?」
「シュウイチっていいます」
そう言うとサイさんがこちらの肩を腕を回しながら
「そうかそうか、シュウイチ。俺がもっといい店紹介してやるよ!」
と笑いかけてくる。
…あれ、この人思ってたよりいい人じゃないか。
「すいません、助かります。」
「いいってことよ」
うん、いい人だ。感じ悪い人だと思っててすいませんでした。
そう心の中で思いながらサイさんの後を着いて行った。
サイさんの紹介してくれた店は先程の露店商とはえらい違いで、銅の剣など120ゴールドで買えた。ここなら…と、ついでに皮の鎧や皮の盾も買い。少し自分が冒険者っぽくなったことを実感できた。
少し浮かれながらサイさんにお礼を言う。
「いやー、助かりました。ありがとうございます!」
いいからいいからと言いながら、サイさんが肩をにまた手を回してくる。
「一杯でいいよ」
「は?」
「一杯くらい奢れよって意味だよ」
とサイさんが笑う。
それくらいなら…。
「いい酒場知ってんだ、着いて来な」
そう言ってサイさんが歩き出したので、その後ろを着いていく。どんどん人気が無くなり、気のせいか周りの建物も薄汚れたものが目に付いてくる。
そしてサイさんが一軒の建物の前で立ち止まった。
地下へ階段が伸びており、その先に扉がある。どう見てもまっとうな雰囲気ではない。
「どうしたシュウイチ?」
「いえ…この店大丈夫なんですか?」
そう言って入るのをためらう。
俺はまた騙されてるんじゃないのか。
「そうびくびくすんな、あぶねぇ奴なんかいやしねぇよ。ここは安く酒が飲めるいい店なんだ」
そういってそのまま店に押し込まれる。
薄暗い店だった、静かな雰囲気で店内にあまり客はおらず、二人ほど居る他の客も隅の方で黙って飲んでいる。
「おいオヤジ、ビールだ!」
「あいよ」
サイがカウンターの中の中年に怒鳴るように注文する。
「お前は何にするんだ?」
何があるんだろう、そもそもメニューは無いのかこの店は。
そう思いつつ、
「じゃあ同じもので」
と無難な注文をしておく。
大丈夫かな…いざ精算をって段階になって法外な料金請求されたりとかしないだろうか。とか色々考えながらで正直酒の味が分からない。
サイさんに故郷の話を聞かれ色々話したり、逆にサイさんの冒険での話を聞いたりしたのだが、サイさんは語り上手らしく話につい引き込まれてしまい、気付くと結構な時間が経っていた。
「それじゃそろそろ帰るか、シュウイチ大丈夫か?」
「はい、平気です」
少しふらつくが問題ないだろう。
「オヤジ、いくらだ?」
「20」
と、店のオヤジさんがぶっきらぼうに手を出してくる。
良かった、まともな料金の店だったようだ。
支払いを終えて店を出る。
「ありがとよ、シュウイチ。何か困ったことがあったら俺に相談しな」
そういってサイさんは肩に手を回してきた。
この人やたらくっ付いてくるな…まさかそっち系の人なのか?
そう一瞬考えて少し背筋が寒くなり震える。
「いえいえ、こちらこそ。ありがとうございました」
そういってサイと別れる。
良かった、このまま、
「実は、部屋を取ってあるんだ…」
とか言い出されたらどうしようかと思った。
「…考えすぎだな」
と苦笑した。
そうして薄暗くなってきた街中を涼みながら宿に戻った。
宿に戻り、一息つき、買ったばかりの装備を眺め、今日はいい買い物をしたなぁと一人悦に入りながらベッドに横になりランプを消す。
有意義な一日だったな今日は…。明日は…またルイーダの酒場に行って……、と眠りに落ちかけたのだが、いつもテーブルに寝るときに置いておく荷物の中にあるものが無かったことに今更気付いてガバっと跳ね起きる。
「…まさか」
今日買った装備がある、他のこまごまとした荷物もある。
ゴールドの詰まった巾着袋だけない。
いつだ、酔っ払ったときに落としたか?酒場を出るときは支払った訳だし、あったはず。
そう思いながら慌てて部屋を出、宿から飛び出す。
----結局巾着袋は見つからなかった。