訓練は最低でも半日かかると言われていたが、予定より少し早く終わった。
様々な武器の扱いと防具の着け方を習ったのだが思いのほか筋が良かった様だ、教官も褒めてくれた。
俺、インドア派だったのになぁ…。
そう思いながら今、ルイーダの酒場にある巨大な掲示板スペースの様な所を眺めている。ここに様々な依頼やパーティのメンバー募集などの紙が貼られている、貼られている紙を全部読むと結構な時間が経ちそうだ。
ベテラン以上の戦士募集、一緒にゴールド稼ぎませんか?とか、べホイミを使える僧侶さん熱望!とか色々書いてあるが、見習いの戦士募集!なんて張り紙は一つも見当たらない。
戦士の訓練の後、ルイーダさんの元に行くと冒険者登録をしてもらったのだが、俺は戦士の「見習い」だ、そうだ。
ちなみにゾルムさんは三つ程上の段階の「ベテラン」らしい。
これから依頼をこなしたりと功績を重ねていくとこのランクが上がっていくらしい。
パーティ募集の紙を見る限り、護衛や村などに被害を及ぼしている魔物討伐、ただ目的もなく外に出て魔物を倒し、ゴールドを稼ごう…などなど、様々な目的のパーティがある様だ。
俺は何からすればいいのかな。
ただ漠然と魔物から人を守れるような人になりたいと思ってここまできたけど、こうして実際冒険者になってみるとまず何をするべきか迷ってしまう。俺一人ではすぐ外の魔物にも満足に勝てない、それはここに来るまでに嫌というほど実感した。
「まずはパーティを組んで経験を積まないとどうしようもないか…」
だが、肝心のパーティ募集の中で自分はお呼びではないようだ。
こりゃ前途多難だ。
ため息をつきながら酒場を出る、すっかり辺りは暗くなっていた。
宿に戻ると宿屋の主人が
「あぁ、お客さんお帰りなさい」
と声をかけてきた。
はい、ただいまと言いながら自分の部屋のある二階の階段を昇りながらふと立ち止まる。
「あ、すいません、今日の宿代まだ払ってませんでしたよね?」
いけない、どうも肝心な生活の方の心配をしていなかった。
「いえいえ、お連れ様から今日と明日を含めて三日分のお代をいただいております」
と、ニコニコと主人が笑っている。
「そうですか…分かりました」
そういって軽く頭を下げてから部屋に戻った。
ベッドに腰をかけ考える。
後でゾルムさんにお礼を言わないと…この宿代もいつか返さないとな。
ゴールドは俺も持っている、じいさんがたまに小遣いとしてくれていたからだ。サクソン村はそもそも店が一軒もない、物々交換で成り立っている村だから、
「お金なんていいよ、お世話になってるし…そもそも使う場所もない」
と返そうとした、
「若いもんが遠慮するな、そのうち隣街のカナンに連れて行ってやるつもりじゃからな、そのときに小遣いが無ければ辛かろうて」
と強引に押し返された。
結局じいさんと一緒にここに来ることは無かったな…。そうしみじみ思いながらゴールドの入った袋を開ける。巾着袋いっぱいに詰まった金貨がジャラっと音を立てた。中の金貨には1,10,100といった感じで数字が書かれている。これがそのまんま1ゴールド、10ゴールド、100ゴールドなのだろう。
そういえばこの街に来てもまだ一回もお金を使っていない。…とりあえず自分がいくら持ってるか把握しないとな。そう考えてせっせとお金を数える。
「全部で1300ゴールドか」
これが多いのか少ないのかが分からない。明日は街を出歩いて物価を確認しよう…後、宿代も。
そう思いながらベッドに横になり、眠りに就いた。