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No.3226の一覧
[0] 目が覚めるとドラクエ (現実→オリジナルドラクエ世界) 改訂中[北辰](2009/06/22 20:26)
[1] その1[北辰](2009/06/22 20:27)
[2] その2[北辰](2009/06/27 20:18)
[3] その3[北辰](2009/06/27 20:19)
[4] その4[北辰](2009/06/22 20:29)
[5] その5[北辰](2009/06/27 20:19)
[6] その6[北辰](2009/06/22 20:31)
[7] その7[北辰](2009/06/22 20:31)
[8] その8[北辰](2009/06/22 20:32)
[9] その9[北辰](2009/06/22 20:32)
[10] その10[北辰](2009/06/22 20:33)
[11] その11[北辰](2009/06/22 20:34)
[12] その12[北辰](2009/06/22 20:34)
[13] その13[北辰](2009/06/22 20:35)
[14] その14[北辰](2009/06/22 20:36)
[15] その15[北辰](2009/06/22 20:36)
[16] その16[北辰](2009/06/22 20:37)
[17] その17[北辰](2009/06/22 20:37)
[18] その18[北辰](2009/06/22 20:38)
[19] その19[北辰](2009/06/22 20:39)
[20] その20[北辰](2009/06/22 20:39)
[21] その21[北辰](2009/06/23 19:35)
[22] その22[北辰](2009/06/23 19:36)
[23] その23[北辰](2009/06/23 19:37)
[24] その24[北辰](2009/06/23 19:38)
[25] その25[北辰](2009/06/23 19:38)
[26] その26[北辰](2009/06/23 19:39)
[27] その27[北辰](2009/06/23 19:40)
[28] その28[北辰](2009/06/23 19:41)
[29] その29[北辰](2009/06/23 19:42)
[30] その30[北辰](2009/06/23 19:43)
[31] その31[北辰](2009/06/23 19:44)
[32] その32[北辰](2009/06/23 19:44)
[33] その33[北辰](2009/06/23 19:45)
[34] その34[北辰](2009/06/23 19:45)
[35] その35[北辰](2009/06/23 19:46)
[36] その36[北辰](2009/06/30 16:50)
[37] その37[北辰](2009/06/30 17:07)
[38] その38 『覚悟』[北辰](2009/06/30 16:48)
[39] その39 『大嘘つき』[北辰](2009/07/02 22:21)
[40] その40 『ゾルムの物語』[北辰](2009/07/09 00:27)
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[3226] その32
Name: 北辰◆a98775b9 ID:2f3048ba 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/06/23 19:44

 キールに化けてた魔物を退治したことによって場が少しは収まるかと思ったが、むしろ結果はその逆、ますます場は混乱の様相を見せていた。
 高位の冒険者のキールに魔物が成り代わっていたということは、もはや出自等を根拠に魔物かの判断をするのはほぼ無意味に等しいということだ。
 結果が良い方向に向かったのは結局聖水を飲んだ俺とルイの立場だけ、ということになる。
「こんだけ混乱しちまっててどうやって収拾すんのかねぇ」
 ゾルムさんがうんざりとした声を上げる。
「ゾルムさんは割りと落ち着いてますね」
 俺の言葉にゾルムさんは頷く。
「まぁな、じたばたしても仕様がねーだろ。それより嬢ちゃん、さっきの聖水はもう無いのか?あれさえありゃ、この場の全員を確かめることができんだろ」
 ゾルムさんがルイに呼びかける。
「えーっと、私も何分急な話でして…無いこともないんですが、今この場にはなかったり…」
「…?」
 何故かルイの返事の歯切れが悪い。
 どうしたのだろうか。
「そうか…後は教会の連中に頑張ってもらうしかねぇかな」
 残念そうにゾルムさんが嘆息する。 
「どうやらそうするしかなさそうだな」
 振り向くとアレスがこちらに来ていた。
 アレスが辺りを見渡す。
「…とりあえずこの場の収拾が先だな。放っておくと仲間割れが起こりかねない」
 確かに場の雰囲気はかなりピリピリとしている。このまま何かが切っ掛けで乱闘になりかねない。
 アレスはリハルトさんの方に歩いて行き、リハルトさんと何かを話し始めた。話がまとまったのか、リハルトさんがカウンターの前に歩いて行く。
「皆、静かにしてくれ!!」
 リハルトさんの声で場が一瞬静まった。
 だが所々でまだ小声で話しているのが聞こえてくる。その様子に構わず、リハルトが言葉を続けた。
「先程…キールが魔物だったことで、ここに居る全員が魔物の疑いのある者になってしまった…。だが、まずは落ち着いてほしい。こんなときだからこそ冷静になるべきだ」
 一瞬キールの名前を口にするときにリハルトが躊躇ったのが分かった。
 まだ自分の仲間が魔物だったことへのショックを隠しきれないのだろう。
「おいおい!んなこと言ってるけどよぉ、キールの野郎と組んでたあんた達がこの中じゃ一番怪しいんだぞ!分かってんのか!?」
 冒険者の中の一人の男から声が上がる。
 周囲からも、
「そうだそうだ!」
「一番怪しいのはあんた達のパーティだろうが!!」
 といった同調の声が上がる。
 その言葉にリハルトの顔が辛そうに歪む。
「…ルイ」
「なんですシュウイチさん?」
 俺の言葉にルイがこちらに視線を向けてきた。
「さっきの話だと、まだ聖水がないわけじゃないんだろ?それなら、あるだけ今から取りに行かないか?」
 ルイが考え込む仕草をみせる。
「そうですね…、他にこの場を収める方法が見つかりそうにないですし」
「あといくつ予備の聖水はあるんだ?」
「その気になれば、ここに居る全員を判別するくらいはなんとか…」
「決まりだな」
 ルイの返事を聞き終わると同時にリハルトの前に歩いていく。

 俺に冒険者達の視線が集まった。
 まだこの視線には慣れない。意を決して口を開く。
「皆さん、聞いてください。先程のことで聖水の有用性は分かってもらえた筈です。そこで先程聖水を飲んで見せた俺とルイで予備の聖水を取りに行きます。それまでは全員ここから動かないで待っていてください」
 周囲がざわめく。
「──予備があるのかよ」
「──ならそれでなんとかなりそうだな…」
 色々な話し声が聞こえてくる。
 少し場が落ち着いてきた様に見えた。
 …皆も異存なさそうだ。
 後ろのカウンター内に居るルイーダさんに声をかける。
「それじゃあ、今からルイと聖水を取ってきます」
「…あなた達には頭が上がらないわね、今度ここで好きなだけ食べさせてあげるわ」
 ルイーダさんの言葉に笑顔を返す。
「シュウイチさん、行きましょうか」
 ルイがいつの間にか傍まで来ていた。
「そうだな、行くか」
 二人で冒険者の間を通り、店を出る。



「シュウイチさん、さっきのって何だか焦ってたようでしたけど…、リハルトさんを庇いたかったんですか?」
 酒場を出て少し歩いたところでルイが口を開いた。
「ん…そうだな。さっきまで俺達も似た様な立場だったからさ、正直見てられなかったってのが本音かな」
 リハルトが演技であんな表情をしているとは思えないし、思いたくもない。
「…そうですか」
 ルイが少し笑っている。
 なんだか気恥ずかしくなって歩く速度を上げ、話を逸らす。
「置いてあるのはルイの実家なんだろ?」
 歩きながら後ろを着いてくるルイに声をかける。
「えーと、実はですね…」
 どこか困った様子のルイの声に振り向く。
「さっきの聖水、アレはただの水だったりしたんですけど…」
「えっ?」
 ルイが申し訳なさそうにこちらを見上げている。
「ごめんなさい、シュウイチさんまで騙しちゃって…。でもシュウイチさんは知らない方が、自然な反応してくれるかなーと思いまして、黙ってました」
 つまりあのときキールが飲もうとしたのはただの水。
 あのまま飲んでいたら何も起こらなかったことになる。
「…キールを引っ掛けたのか」
「えぇ、あのまま飲もうとされたときは少し焦りましたが、直前の脅しが効いたみたですね」
 …大したものだ。
 自分達が疑われている状況で逆に相手に罠を仕掛けるなんて…。俺はそこまで気が回らなかった。
「それはまぁいいとして、じゃあ予備の聖水ってのも嘘なのか?」
「そうなんですよ、あの場で無いって答えると手詰まりになっちゃいますからね。とりあえず、今から水を瓶に汲んできて、それを皆に飲ませれば少しは篩(ふる)いをかけられるとは思います。…気付かれてたらアウトですが」
 つまりは脅しのみで判別することになるわけだ。
「本物の聖水を用意することは出来ないのか?」
 そう、本物を用意できればそれに越したことはないのだが、この世界では聖水がその辺の道具屋では売っていないようだ。見かけた覚えも無い。教会なら用意できるのではないか。
「うーん、どうなんでしょうね。聖水が魔物に効くっていうのは実は本で読んだんじゃなくて、エルフでは普通に言い伝えで残ってたのですが、ただの水ならともかく、祝福した水をあの場の全員分教会の人に用意してもらうことになると、夜が明けちゃったりしませんか?魔物に有効なのに聖水が出回ってないのは作るのが非情に困難、とか何か理由があると思うんですけど…」
 ルイは俺の提案に難色を示している。
「それでも聞いてみるだけ聞いてみないと何も分からないだろ」
「…そうですね、聞くだけ聞いてみましょうか」
 ルイの言葉に頷く。
「それじゃ教会に行こうか」
 確か教会は北東エリアにあった筈だ。
 北東エリアに向かって歩き出す。
 ルイも隣に並んで歩き出した。
「ところでシュウイチさん気付いてました?」
「ん、何が?」
「マリィさん、私達を擁護したとき以来、ひとっことも口利いてませんでしたよ」
「…あ」
 すっかり忘れていた。
 彼女に黙っていたことに関するフォローを一切していない。
「私達が揃って隠し事してたせいで多分、すっごい怒ってるか、落ち込んでますよ…。あとで二人で全力で謝るしかないんですから、上手い言い訳考えておいてくださいね」
「しまったな…なんて言って謝ろう」
 マリィさんが怒ってる顔か、悲しみで曇っている顔を想像する。
 …とても申し訳ない気分になる。
 先のことを考えると頭が痛くなってきた。






「出来ない、ですか?」
「えぇ」
 神父の言葉にルイと顔を見合わせる。
 教会はいつでも怪我人が訪れてもいいように、二十四時間神父が居ることになっている。
 俺達の来訪にも神父は嫌な顔も一切せず迎え入れてくれた。その神父に事情を話し協力を求めたところで、先程の返事が返ってきたわけだ。
「事情は分かりました。ですが…あなた達のご希望に応えることはできません」
「理由を聞かせていただいても?」
 神父が俺の目を見て黙っている。神父の目をじっと見返す。
 出来ない、では納得できない。
 少し間を置いて神父が溜息をつき、目をそらした。
「あなた方がどこで聖水の話を聞いたのかは知りませんが、その話は教会でも一部の者と、一握りの貴族や王族の間だけの重要な機密だった筈です」
「機密?」
 俺の言葉に神父が頷いてみせる。
 何故わざわざそんなことを機密にする必要があるのだろうか。魔物に聖水が有効ならすぐにでも広めるべきことだと思うのだが…。
「何故わざわざ隠してるのか?と疑問に思われているようですね。…理由は単純です。需要に供給がまったく追いつかないのですよ」
 供給が追いつかない。
 つまりは作り手が少ないということだ。
「祝福された水を作ることができるのはかなり高位の僧侶のみ、ですが聖水を作れるほどの僧侶は昔はともかく現在ではそう多くないのです。現在私も含め、この街にいる僧侶に聖水を作れるものは居りません」
「他の街には居るってことですか?」
 ルイの言葉に神父が頷く。
「私は以前ガーブルの教会に仕えていました。そこの大神官様は王族や貴族に聖水を売りつけて私腹を肥やしてましたよ…。聖水の話が広まれば他の人間も教会に殺到してそれどころでは無くなる…だから決して教会の外の人間には漏らしてはならない。 そんなガーブルの教会の在り方に嫌気が差して私はカナンにやってきました」
 ガーブル。俺が家出してきたことになっている王都だ。
 …神に仕える人間が私腹を肥やしている。
 そんな人間が数少ない聖水の作れる人間だというのだから皮肉なものだ。この世界の神の加護とはそんな人間にも与えられるものなのか。考え込んでる俺の様子を見て神父が苦笑した。
「…申し訳ない、愚痴を聞かせてしまいましたね。ですが先程話した通り、聖水をここで作ることはできません」
「そうですか…分かりました。シュウイチさん、行きましょう。」
 ルイに促され教会の入り口に歩いていく。
「お待ちなさい」
 神父の言葉に立ち止まる。
「少々お時間をいただけますかな」
 そう言って神父は奥の部屋に引っ込んでいった。
「なんだろ?」
「なんでしょね?」
 ルイと一緒に首を傾げた。
 少しして神父が戻ってきた。
 その手には一つの小瓶が握られている。
「これをお持ちください」
 渡された小瓶には無色透明の液体が入っている。
「これは…?」
「私がガーブルより持ち出した聖水です。それ一つしかありませんが、お役に立つでしょう」
 つまりこれは本物ということだ。
「…いいんですか?」
「何かあったときの為に…と、取って置いたものですが、今がそのときなのでしょう」
 神父が微笑んでみせる。
「ありがとうございます…!」
 神父に頭を下げ、教会を出る。
「あなた達の行く末に神のご加護があらんことを─」
 そんな神父の祈りが聞こえた。





 外に出てルイーダの酒場への道を歩く。
「うーん、やっぱり出回ってないのには理由がありましたねぇ」
 ルイが落胆した声をだす。
「でも一瓶だけでも手に入ったじゃないか」
 あの神父に感謝しなければならない。
「その一瓶、どう使うかが問題ですね」
 ルイが真剣な表情で考え込んでいる。
「限界ギリギリまで一人当たりの量を減らして飲んでもらうってのは?」
 これは割りといい案だと思う。
 少量だろうと、飲んで苦しんだり何か反応を見せれば魔物だ。
「そうですね、小瓶一つだから全員に…とはさすがにいきませんが、十人くらいはそれで確かめられると思います」
「となると、その十人以外はただ水ってことになるのか」
 俺の言葉にルイが頷く。
「ですからその十人は特に確かめる必要のある人間を選ぶ必要があります。まずはリハルトさんのパーティの方々、それとルイーダさん。…あとは残った分で私達の周囲の人達を念のために確かめてみたいです」
「俺達の周囲の人って?」
「一番優先したいのが私達の秘密を知っているエルさん。それからマリィさんゾルムさん、アレスさんにトーマスさん、サイさんですね。…そんな顔をしないでください、私だってあの人達が魔物だなんて思ってません。ですが今言った方たちには、聖水の件に関しても話してしまうつもりです。だから、万が一にも紛れがあって欲しくないんです」
 ルイが悲しそうな表情をする。
 自分では自覚が無かったが、ついルイを責める様な目で見てしまっていたようだ。ルイの頭に手を置き、そのまま撫でる。髪の感触は心地よいが、やはりカツラではなくルイの銀髪の方が触り心地は良かった。
「…すまなかった。お前を責めるつもりじゃなかったんだ」
「いいんです、シュウイチさんの気持ちも分かりますから」
 ルイが軽く笑ってみせた。
 良かった、機嫌を直してくれた様だ。
「でも、ルイが言ってた魔物の可能性がある奴って、可能性濃厚なのがルイーダの酒場か訓練所で働いてるやつだったよな。そっちは確かめなくていいのか?」
 それこそ最優先はそちらではないのか。
「そっちの方はルイーダさんさえ確かめることが出来れば、なんとかなりそうです。ルイーダさんが白だと判れば、魔物に騙されてる可能性を考えずに、名簿を見る可能性の有る人をルイーダさんから直接聞いて確かめることが出来ますし。──だからなるべく最初の方にルイーダさんを確かめますので、彼女が黒だったら少し聖水を残しておいてください」
「なるほど、分かった」
 確かにルイーダさん以外がカウンターに立ってる姿を見たことがない。
 流石に開店から閉店までずっと居るわけではないだろうが、カウンターを任せる人間もあまり居ないのだろう。
 彼女が魔物では無かったら直ぐに確認が取れそうだ。
「とりあえず他の人達にも同じ分量を配らないと怪しまれちゃうので、あと小瓶五つ分くらいの水を用意すれば十分ですね。急がないと皆待ちくたびれちゃいますよ」
 確かにあまり待たせていると冒険者達がしびれを切らしそうだ。
 ──お世辞にも忍耐力の強いと言い難い連中が多かったしな。
 急いで水と小瓶を用意することにした。





「と、いうことで、分量的にも皆さんに少しずつ飲んでもらうことになりますので、飲み終わった方はカウンター側に、それ以外の人はカウンター側に来ない様にしてください」
 ルイの説明が酒場に響き渡る。
 カウンターには大量のコップが並べられている。ルイの説明を他所に、俺はそのコップの中に先程神父からいただいた本物の聖水を分けて入れている。
 量を調整しながら十個のコップに分け終わる。
 ほんの少しだけ残ってしまったが、何かのときに役に立つかもしれない。
 その瓶をポケットに仕舞った。
「ルイ、出来たぞ」
 俺の言葉にルイが頷いてみせる。
「それでは、先程疑われていたリハルトさんのパーティの方たちから来てください」
 ルイの言葉にリハルトと二人の男が前に出てくる。
「口を開けてください。すり替えの可能性を排除するためにも、シュウイチさんが飲ませます。一切グラスには触らず、手も上げないで下さい」
 まずリハルトが迷わず口を開いてみせる。
 開いた口の中に聖水を注ぎこむ。注ぎ込む、といっても微々たる量だが、リハルトの表情に変化は見られない。
「リハルトさんは大丈夫ですね。それではリハルトさん、貴方はこれからもし魔物が正体を現した際に直ぐに斬りかかれるように、ここで警戒をお願いします」
「分かった」
 リハルトが剣を抜き、直ぐ近くに控える。
 リハルトのパーティの残り二人にも聖水を飲ませたが、特に反応は無かった。
「それでは次は…そうだ、先に一応ルイーダさんもお願いします」
「え、私?」
「はい、ルイーダさんも先に証明して自由になってもらってた方が良さそうですので」
「それもそうね、それじゃシュウイチ君、飲ませて頂戴」
 ルイーダさんがあーんと口を開いてみせる。
 彼女も状況的に魔物と入れ替わっていてもおかしくない人物だ。
 少し緊張しながらルイーダさんの口に聖水を注ぎ込む。喉が動くのが見え、飲み干してみせた。
「これでルイーダさんも大丈夫ですね。…それでは次はまことに勝手ながら、手伝いを頼み易そうな知り合いから先にやらせていただきます。エルさん、マリィさん、ゾルムさん、アレスさん、トーマスさん、サイさん、前に出てきてください」
 ルイの言葉に見知った面々が前に出てくる。
 マリィさんが最初に俺の前に立った。半眼で俺のことをじっと見ている。
 これは悲しいんでいるというよりは怒っている顔だ。
「シュウイチくん、なんで教えてくれなかったの?」
 声が少し低い。
 思わずルイの方に視線を送ったが、ルイはそ知らぬ顔で別の場所を見ている。
「…私じゃ信用できなかった?」
 声色が変わり、はっとしてマリィさんの方を見るとマリィさんの目が少し潤んでいる。
 …いかん!
「あ、いや、全然、そんな訳じゃないんです!」
 慌てて釈明に入る。
「色々と事情がありまして…、マリィさんを信用してないとかじゃ絶対ないですから!」
「…ほんとに?」
「本当です!」
 力強く応える。
「おーい、にいちゃん。痴話喧嘩なら後でやってくれや!」
 どこかから上がった声に、笑い声があがる。
 確かに注目されてる状況でこんな会話を続けるのも恥ずかしい。
 マリィさんも顔を真っ赤にしていた。
「…話は後でしましょうか。とりあえず飲ませますね」
 こうして次々と仲間に聖水を飲ませていった。
 なんだか自分が雛鳥に餌を与える親鳥の気分の様になってくる。仲間に飲ませ終わると、他の仲間達も飲ませる役目や聖水…とは言っても残りは全て水だが、それをコップに注いでいく役目を分担して手伝ってくれた。
 ルイはその様子をじっと観察している。
 みるみるうちにカウンター側の人間が増えていき、逆に確かめて居ない人間が減っていく。
 俺やルイの証人として来ていたカーンとアネットにも一応飲んでもらった。
「これで…終わりっと」
 最後の一人に飲ませ終わり、一息つく。
 周囲にも安堵の空気が流れた。
「この中には魔物はもう居なかったってことか」
 ゾルムさんの言葉に頷いてみせる。


「これでここに居る冒険者に魔物が居ないのは分かったわね。…今日はもう遅いし、ここまでね。明日の同じ時間から、改めて住民に対してどう調べるか話し合いましょ。ということで今日は解散。皆お疲れ様!」
 ルイーダさんの言葉に冒険者達が、
「──お前が魔物だと思ってたぜ」
「──お前こそ」
 等、軽口を叩き合いながら店を出て行く。


 一通りの冒険者が出て行った後、酒場にはリハルトのパーティとアレスのパーティ、
 そして俺のパーティとゾルムさん、そしてカウンター内のルイーダさんが残っていた。丁度聖水を飲んだ面子だ。
「それで話っていうのは何だい?」
 リハルトがルイに問いかける。
 どうやらいつの間にかルイが残るように呼びかけていたようだ。
「えーっと先にネタ明かししますね。今ここに残ってるあなた達が飲んだのは本物の聖水。ここに居ない他の冒険者達に飲ませたものはただの水です」
 ルイの言葉に全員の顔に驚愕が浮かぶ。エルだけ表情に変わりが見られない。
「…聖水が足りなかったの?」
 エルの質問にルイが頷く。
「足りませんでしたし、現状ではこれからも用意するのが難しいようです。先程シュウイチさんと教会に行ったのですが─」
 




 ルイの説明が終わり、トーマス君が口を開いた。
「そんなこと知りませんでした…。神のご加護を秘匿して自分達の為だけに利用する人が居るだなんて…」
 トーマス君の口調が呆然としている。
 彼のような心優しき敬虔な信者からすると、信じられないことなのだろう。
「なによりも目下の問題は、結局判別する術がこの場に無いことだな」
 リハルトが呟く。
 ルイーダさんが溜息をついた。
「そうよねぇ、遥か遠くガーブルまで住民全員の分の聖水を買いに行くなんて現実的じゃないし、一度聖水を飲んで見せた人間もそれから一生魔物と入れ替わられる可能性が無いって訳じゃないものね…」
「そうなんですよね…最終的にはどうしようもなかったりするんですよね」
 ルイも頷いて見せた。
 人間に化けた魔物に苦しめられる人々。この構図は何度も見た覚えがある。
「…ラーの鏡」
 エルの呟きに皆の視線がエルに集まった。
「なんだそりゃ?」
 サイが首を捻っている。
「古来から魔物の正体を暴く、と言われている鏡だな」
 リハルトのパーティの魔法使いの格好をした男が口を開いた。
 そのまま言葉を続ける。
「確かにアレは作り話の物語、というよりは史実に近い伝えられ方をしていたが、実在するものなのか?」
「実在する…と思います」
 エルの代わりに答えた俺の言葉に、魔法使いの男がこちらを不思議そうに見てくる。
「君は何故そんなことを言える?何か根拠といえるものでもあるのか??」
 答えに詰まる。
 ドラクエシリーズでは定番です。とは言えない。
「…それも『シュウイチさんの本』の話ですか?」
 ルイの言葉に頷いてみせる。
「シュウイチくんの本って何かな?」
 マリィさんが疑問をはさんでくる。
「前にこいつが新種の魔物のことを知ってたことがあっただろ。そのときにこいつが本で見たって口にしてた筈だ。サクソン村になんでそんな怪しい本があるんだか…」
「あ、そういえばそんな話もしてたね」
 アレスとマリィさんの会話を聞きながら考える。
 ルイの言った『シュウイチさんの本』と、アレスの言ってる本では少し意味合いが違う。
 ルイの方は俺の世界でみた話か?と聞いているのに対して、アレスの方は以前サクソン村で見たという話を鵜呑みにしたものだ。
「そんな鏡があるのでしたら、今抱えてる問題もほとんど解決しますね」
 トーマス君の言葉に頷く。
「ただ、どこにあるかが分からないんだよな…。確か前読んだ本に書いてあったのが、なんとか城にまだ眠ってるかも知れないとか書いてあったけど」
「なんとか城じゃわからねーぞ」
ゾルムさんからツッコミが入る。
「うーん、思い出せないな。何城だっけ…」
「ルネージュ城」
 エルの言葉が記憶と合致する。
 そういえばエルも同じ本を読んだ筈だった。
「あ、それだ。そのルネージュ城にあるかもしれないって書いてたな」
 俺の言葉にルイーダさんが首を傾げる。
「ルネージュ城?そんな名前聞いたこともないわね」
「…ルネージュ城はガーブル城の旧名だ。百年ほど前に名前がルネージュからガーブルへ変わっている」
 魔法使いの男が再び口を開いた。
「結局ガーブル、か」
 ゾルムさんが呟く。
「では私達のパーティでガーブルに行ってみて、ラーの鏡を探してこよう」
 リハルトが皆を見渡しそう言った。
「…それはお勧めできません」
「それは何故かな?」
 ルイの言葉にリハルトが聞き返す。
「あなた方はこの街で本当の事情を知ってる、数少ない高位冒険者の一人です。あなた達でないと、いざという時にここの冒険者達をまとめることは出来ないでしょうし、色々と今後のことにも不都合が出るでしょう」
「…そうか」
 リハルトが残念そうな声をだす。
「──かといって何も知らない人達を探しに行かせるわけにもいきません。そうとなると…」
 ルイがこちらをちらりと見る。
「俺達が──か?」
 視線の意味を理解し、俺が言葉を引き継ぐ。
 確かにそれが一番良さそうだが…。
「ルイは良いのか?」
 俺の質問にルイは頷いて見せた。
「私は構いませんよ。それにほら…私の冒険者になった理由話したじゃないですか」
「あぁ、そういうことか」
 ルイはラーの鏡探索の旅のついでに父親を探してみたいのだろう。
「…マリィさんは?」
 恐る恐るマリィさんの顔を伺う。
「私も別に構わないよ。パーティを結成からいきなりの大冒険だね!」
 笑いながら実にあっさりと承諾してくれた。
「お前らだけじゃ頼りねーから俺もついてってやるよ!」
 ゾルムさんがガッハッハと声を上げる。
 この人はパーティを組みたがらない人だと聞いたのだが、勘違いなのだろうか。
「私も…」
 エルが袖を引っ張ってくる。
「え、いや、エルは…そっちのパーティはいいのか?」
 アレス達に視線を送る。
「あー…どうする?」
 アレスが面倒なことになった、といった表情でトーマス君とサイを見る。
「いーんじゃねえの?ウチのお姫様のご要望ならよ」
サイがニヤニヤ笑いながら答える。
「ここまで聞いてしまったら、手伝わない訳にもいかないでしょう」
 トーマス君も頷いてみせた。
 アレスが溜息をつきながら、
「…俺達も行くことにする。こんだけ人数居たんじゃ馬車が居るだろ。兄貴、家の馬車持って行くぞ」
 と口にした。
「む、いいだろう。…父上には私から話しておこう」
 リハルトが渋った顔をしている。
 馬車を持っていかれると困るのか、
 もしくはよほどその父上が怖い人物なのだろうか。
「一気に大所帯になりましたね…。なんにせよ、出発は明後日にしますか」
「ん、明日でも良くないか?」
 ルイの言葉にゾルムさんが口を挟む。
「明日は居るかもしれない、もう一体の魔物を探す必要があります」

 ──そう、後もう一体残っているかもしれないのだ。


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