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No.3226の一覧
[0] 目が覚めるとドラクエ (現実→オリジナルドラクエ世界) 改訂中[北辰](2009/06/22 20:26)
[1] その1[北辰](2009/06/22 20:27)
[2] その2[北辰](2009/06/27 20:18)
[3] その3[北辰](2009/06/27 20:19)
[4] その4[北辰](2009/06/22 20:29)
[5] その5[北辰](2009/06/27 20:19)
[6] その6[北辰](2009/06/22 20:31)
[7] その7[北辰](2009/06/22 20:31)
[8] その8[北辰](2009/06/22 20:32)
[9] その9[北辰](2009/06/22 20:32)
[10] その10[北辰](2009/06/22 20:33)
[11] その11[北辰](2009/06/22 20:34)
[12] その12[北辰](2009/06/22 20:34)
[13] その13[北辰](2009/06/22 20:35)
[14] その14[北辰](2009/06/22 20:36)
[15] その15[北辰](2009/06/22 20:36)
[16] その16[北辰](2009/06/22 20:37)
[17] その17[北辰](2009/06/22 20:37)
[18] その18[北辰](2009/06/22 20:38)
[19] その19[北辰](2009/06/22 20:39)
[20] その20[北辰](2009/06/22 20:39)
[21] その21[北辰](2009/06/23 19:35)
[22] その22[北辰](2009/06/23 19:36)
[23] その23[北辰](2009/06/23 19:37)
[24] その24[北辰](2009/06/23 19:38)
[25] その25[北辰](2009/06/23 19:38)
[26] その26[北辰](2009/06/23 19:39)
[27] その27[北辰](2009/06/23 19:40)
[28] その28[北辰](2009/06/23 19:41)
[29] その29[北辰](2009/06/23 19:42)
[30] その30[北辰](2009/06/23 19:43)
[31] その31[北辰](2009/06/23 19:44)
[32] その32[北辰](2009/06/23 19:44)
[33] その33[北辰](2009/06/23 19:45)
[34] その34[北辰](2009/06/23 19:45)
[35] その35[北辰](2009/06/23 19:46)
[36] その36[北辰](2009/06/30 16:50)
[37] その37[北辰](2009/06/30 17:07)
[38] その38 『覚悟』[北辰](2009/06/30 16:48)
[39] その39 『大嘘つき』[北辰](2009/07/02 22:21)
[40] その40 『ゾルムの物語』[北辰](2009/07/09 00:27)
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[3226] その31
Name: 北辰◆a98775b9 ID:2f3048ba 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/06/23 19:44
 ルイーダの酒場の中は冒険者で溢れ返っていた。テーブル席は勿論のこと、床に直に腰を下ろしている人達でひしめき合っている。
 …この街にはこんなにも冒険者が居たのか。
 何故かカウンター席とその周辺だけ人が居ない。そこで司会進行をする為に人払いをしているのかもしれない。アレスパーティと一緒に入場した俺たちに無数の視線が送られてくる。
 だが大半の人達は、興味を失って視線を戻した。この中に俺とルイが魔物だと思ってる人間も居る筈だ。
 …そして恐らくは人間に化けてる魔物も。


 見渡した中に見知った顔がいくつかある。
 一人で壁にもたれかかっているトム、二階への階段近くで立っているゾルムさんとその横に居るマリィさん。イワンの姿が見当たらない。
 …冒険者を辞めてしまったのだろうか。
 以前組んだときの様子を考えると、それもおかしくは無いかな…と思う。

 こちらに気付いたマリィさんが笑顔でこちらに手を振っている。
 ゾルムさんもこちらを見て軽く片手をあげてみせた。
 …あの二人には今回の話し合いがどんなものになるか話していない。少し罪悪感を感じてしまう。
 後で事情は説明するつもりだが、特にマリィさんは俺たちのパーティで一人除け者にされたと、落ち込んでしまわないか。
 …後で思いっきり頭を下げよう。

 アレスは俺たちと離れた位置に一人で立ち、サイは入り口付近に立っている。
 残りのメンバーは俺に続き、マリィさんとゾルムさんのいる場所に着いてきた。
「ども」
 ゾルムさんとマリィさんに軽く手を上げてフランクに挨拶する。
「よお」
「こんばんは! トーマス君とエルちゃんは久しぶりだね」
 ゾルムさんはこちらを見て口の端を吊り上げてニヤリと笑ってみせ、マリィさんはそのままトーマス君とエルに話しかけている。とは言っても答えているのは主にトーマス君で、エルは頷く位しかしてないが。
 俺はゾルムさんの横に立つことにした。ルイも隣に歩いてくる。
「しかし、何の話し合いだろうなぁ。こんだけ大掛かりなことするからにゃ、よっぽどのことだろうが」
「依頼禁止令を全冒険者に出すくらいですしねぇ」
 ゾルムさんの言葉に、知っているとも、知らないとも答えずに無難な返事をしておく。
 ここで知ってる素振りを見せるわけにもいかないし、知らない素振りも後々登場してもらう俺の証人のことを考えると嘘をついたことがバレバレである。


 俺の親友カーン役の男と、ルイの叔母のアネット役のおばさんは外で待機してもらっている。
 今夜は冒険者のみの集まりであり、今入ろうとしても入り口で店員に追い返されてしまうのだ。
 必要なタイミングになったらサイが連れてくる手筈になっている。


 場が少し静かになったのを感じ、カウンターの方へ視線を送ると、ルイーダさんが裏口からカウンター内に入ってきてるところだった。
 流石に今日はバニー姿ではなく、普段着を着ている。
 ルイーダさんは辺りをぐるっと見渡し、口を開く。
「…そろそろ始めようかしら、皆静かにして頂戴ね」
 ルイーダさんの声で場が一気に静かになる。
 …大したものだ。
 気の荒そうな人間も多く見受けられる冒険者達を一言で静めることができるとは。どうやら皆、彼女に頭が上がらないらしい。
 アレスに聞いた話によると、高ランクの人達の話し合いはここではなく別の宿で行われたらしいので、ルイーダさんは他の人に話はしたが、俺達の魔物疑惑には関与してないだろう、とのことだった。
「ここに集まってもらったのは、ちょっと大変なことが起こっちゃったから。発端は…、直接本人達に説明してもらった方がいいわね。シュウイチ君、ルイちゃん、出てきて説明してあげて頂戴」
 ルイーダさんがこちらに視線を送ってくる。
 ルイと頷き合って、カウンターの方へ歩いて行き、皆の方へ向き直った。
 様々な顔、顔、顔、全てがこちらに注目している。少し緊張してきた。
「初めまして、戦士見習いのシュウイチと言います。事の起こりは一枚の冒険者募集の張り紙からでした──」








 
「──以上が俺達の見てきたことの全てです」
 俺の話が終わると共にざわめきが増す。
 話の途中でざわめきが次第に増えてゆき、
 今では多くの冒険者が困惑した様な顔つきで周りの人間と話したりしている。
「魔物が人間に化ける?嘘じゃねぇのか?」
「本当だったら大事だな…」
「その魔物に食われた冒険者たちってのは分からねぇのかよ!?」
 色んな囁きや怒鳴り声が聞こえる。
「シュウイチ君、ルイちゃん、もういいわ。ありがと」
 ルイーダさんの言葉に頷いて、再び仲間の元に戻る。
「おいおい、何時の間にそんなことになってたんだよ!?」
「シュウイチくんもルイちゃんも、教えてくれれば良かったのに…」
 ゾルムさんとマリィさんも驚いた顔をしていた。

「静かにして頂戴!」

 ルイーダさんの一喝で場が静かになる。
「この話を疑う人達も居るみたいだけど、実際にシュウイチ君が帰りに居合わせた冒険者に現場も確認してもらってる。それに確認したけど、ここ一ヶ月で行方不明の冒険者が10名ほどいるわ…。職業柄、行方不明者は出てもおかしくないけど、数が多すぎる。…多分、その魔物の犠牲者よ」
 ルイーダさんが悲痛な顔をする。
「だから今日集まってもらったのはこれからどうするか、よ。魔物が人間に化けることが出来る以上、何か対策を考えないといけないわ」
 ルイーダさんが辺りを見渡す。
「見分ける方法なんてあるのか?」
 どこからか声が上がる。
 ルイーダさんが首を振った。
「…分からない。でも人に化けてたとしても、一人一人を調べていけば必ずどこかで尻尾を出すと思うの。だから一般の人にはいきなり告知しないで、少しずつ調べていこうと思うんだけど…」
 やはりそういう結論に至るのか。
「それで調べるのを俺達冒険者にってことか?」
 またどこかから声が上がる。
「私はあなた達にお願いしたいと思う。一般の人達じゃ調べるときに正体を現した魔物に殺されてしまう。この役目はあなた達冒険者にしか出来ないと思う」
 ルイーダさんの言葉に更に別の場所から声が上がる。
「そのボッコて奴に化けてた魔物も冒険者だったんだろ?だったら魔物が冒険者に化けてたら、意味ねーじゃねぇか!」
「それは…」
「それに関しては私達から話がある」
 何かを言いかけたルイーダさんを遮るように、一人の男がカウンターの前に歩いてきた。それに続いて10人程別の冒険者達がその男の後ろに並ぶ。
「シュウイチさんあの人…!」
「…あの男、冒険者だったのか」
「なんだシュウイチ、あいつの知り合いだったのか?」
「ゾルムさんはあの人誰だか判りますか?」
 俺の言葉にゾルムさんは頷いて見せた。
「あの先頭に立ってるのが、この街で二人しか居ないランク6の戦士のリハルト。その後ろの奴らも全員ランク5か6の連中だな」
 最初にカウンターの前に歩いてきたリハルトという男、彼は昼間に会った金髪の男性だった。
 リハルトは周囲を見渡し、俺とルイに目が合うと少し笑ってみせた。
 そしてリハルトが口を開く。
「先程の誰かの発言の通り、冒険者の中に魔物が混ざっていては意味が無い。…だからまず我々ランク5と6の人間だけで調査させてもらったよ。高ランクの人間なら、素性も確かな人間ばかりだからね」
 先程まで騒いでいた冒険者達も黙って話を聞いている。
「それで…だ。我々はまずここ最近冒険者になった人間から絞って探し始めた訳だが、あっさりと素性が怪しい者が見つかってね。…それがそこに居るシュウイチさんとルイさんだ」
 場がどよめく。
 一気に視線がこちらに集まった。
「シュウイチが…!?」
 ゾルムさんが驚いた顔でこちらを見ている。
 …やはりこういう展開になるのか。
 ちらりとルイの方を見る。ルイは特に表情を変えずにリハルトの方を見ている。
「実は今日彼らとは朝方偶然に出会ったんだが…、正直、彼らが魔物の様には見えなかったよ」
 リハルトが首を振ってみせる。
「…だが、彼らの素性が不確かなのは事実だ。それについては…キール、頼む」
 リハルトが後方にいる一人に視線を送ってから、下がった。
 代わりに一人の男が前に出てくる。
「ゾルムさん、あの男は?」
「あれが二人しか居ないランク6の戦士の残りの片割れだよ。リハルトと固定パーティを組んでたな」
 キールという男は体が大きく、とても筋肉質だ。
 リハルトよりどちらかというと彼の方が熟練の戦士…といった感がある。
「ようみんな、そっちの新人二人に関しては俺が調べたからな。俺がしゃべらせてもらうぜ」
 低い声がよく通る声だ。
「まずそこのシュウイチ、出身はサクソンってことだが、村の奴の話だと、ある日ふらりと村に現れて住み着いたって話だ。要するにサクソン出身ってのは嘘だな」
 キールが俺の方を見てニヤリと笑ってみせた。
「─―次はそこのルイって娘、カナン出身って割りには、ここ最近以外でこいつを見たことのある奴が居やしねぇ。こいつの行きつけの宿ってのもたまに姿を現す程度で、普段どこに居るかもわからねぇそうだ」
 キールがどうだ?と言わんばかりに辺りを見渡す。
 周囲は再びざわめき始めた。
 冒険者達の中には疑いと恐怖、そして敵意の視線を持ってこちらを見ている者もいる。
「どうだいお二人さん?何か言い訳することはあるかい??」
 キールが両手を広げ、こちらをあざ笑うような顔をしてみせる。
 …いちいち芝居がかった奴だな。怒りよりも先に呆れがでてくる。
 とりあえず反論はさせてもらおう。 
「あるさ、俺が出身を誤魔化してたのは、実家から逃げ出したことを知られたくなかっただけだ。本当の実家はガーブルにある」
「へぇ、遥か遠くのガーブル城のお膝元から、わざわざこんなとこまで家出でいらっしゃったってか?」
 キールは俺の言葉を聞きニヤニヤと笑っている。欠片も信じてないって顔だ。
 …まぁ、嘘なんだけど。
 ルイが一歩前に出た。
「私も反論させていただきます。私は普段北西の貧民エリアにある叔母の家に篭ってますので、単に人に出会わなかっただけです。…最近は冒険者になったので、頻繁に人の目に付くことが増えただけでしょう」
 キールの表情が少し険しくなった。
「貧民エリアで暮らしてるやつがわざわざたまに宿を取ってるってか?嘘くせぇにも程があるぜ!」
 この疑問も事前の打ち合わせで予測していたことだ。
「貧民エリア出身ということを、パーティのメンバーに知られたくなかったから偽装に使ってただけですよ。特に、そちらのシュウイチさんには知られたくありませんでしたので…分かります?この乙女心が」
 ルイが微笑んでみせる。
 そう、これはルイが俺だけにこっそり教えてくれたことだが、偽装に使っていたというのは本当のことらしい。実家がカナンではないことを知られたくない為、冒険のある日の前後等は宿を取る様にしていた様だ。
 キールの顔がますます険しくなる。顔に若干怒りも見える。
 そんなキールを手で制して見せて、リハルトが一歩前に出てきた。
「…君達の言い分は分かった。だがそれは君達自身がそうだと言い張ってるだけだろう?悪いがそんなものを信用する訳にもいかない」
「いえ、そうでもないですよ」
 ルイの言葉にリハルトが怪訝そうな顔をする。
「私達が疑われてるという噂を聞きまして、証人を呼んでおいたんですよ。──どうぞ、入ってきて下さい」
 酒場の入り口側にかけられた呼びかけに、その場の視線が一気に集まる。
 カーンとアネットの登場である。
 その後ろにはサイが立っているのが見えた。
 …絶妙なタイミングで二人を呼んでくれた様だ。
「…どうして話し合いの内容を知ってやがる。誰が話した!?」
 キールが後方に控えてる冒険者達を睨みつける。
 だが睨みつけられた冒険者達は一様に首を振ってみせるだけだ。
 カーンとアネットは冒険者達の間を通り、リハルト達の前に立った。
「やぁどうも、初めまして。シュウイチと古い付き合いになります、カーンと申します」
 カーン…もといカーン役の男が好青年、といった感じの笑みを見せる。
「こんばんは、ルイの叔母のアネットです」
 アネット役のおばさん…実は男だが、彼女はお辞儀をして見せた。
 リハルトは意外そうな、キールは忌々しそうな顔をしている。
 カーンが冒険者達の顔を見渡し口を開く。
「さて、あぁ見えてそこのシュウイチは貴族の大事な一人息子でね、僕はシュウイチの両親に頼まれて彼を追ってこの街まで来たのですが…、正直驚きましたよ。まさか魔物として疑われてるなんてね」
 やれやれといった感じでカーンが首を振る。
「彼とは十年来の付き合いです。魔物じゃないことは勿論知ってるし、試しに色々と昔の話もしてみましたが、彼はハッキリと覚えており、私の質問にも答えてくれました。そんな彼が魔物であるなんて有り得ない」
 カーンが再び微笑んでみせ、辺りを見渡す。
 俺への敵意の視線はすっかり消えてしまっていた。
 まだ疑惑の眼差しで見てくる者も居るが、先程までに比べると、とても少ない。
「分かっていただけた様ですね」
 満足そうにカーンが微笑んで一歩下がる。
 代わりにアネットが一歩前に出てきた。
「改めて皆さんこんばんは、ルイの叔母のアネットです。今日はルイの無実を証明する為にここに来ました。カナンの出身の方なら、北西エリアのことはご存知かと思いますが、あそこは貧しいもの達や脛に傷を持つ者達が多く集まります。私もそこに住む住人の一人です」
「北西エリアか…嬢ちゃんがあそこの出身だったとはな」
 ゾルムさんがぽつりと呟く。
「私達のエリアに住むもの同士には、暗黙の了解としての不文律がいくつかあります。その内の一つが、『このエリアの住人に余計な干渉するな』…です。脛に傷を持つ者が多いこのエリアで、争いを少なくする為のルールなのですが、このルールのお陰で、北西エリアの住民同士はあまりお互いの顔を知りません。…そして北西エリアの人間はあまり他のエリアへは出ようとはしない。これがルイの人目に付かなかった理由です」
 アネットが話し終わり、一歩下がった。
 ──北西エリアの特性を利用しようと言い出したのはサイだ。
 北西エリア出身のサイは、あそこなら恐らく誰も厳しく追及できない、と言った。
 実際、傍から俺が聞く限りでは少し強引ではないか?と思うのだが誰も追及しようとはしない。
 触れてはいけない…ということだろう。
「どっちもお前ら自身が連れてきた証人だろうがっ!こんなんいくらでもでっちあげれるじゃねーか!!」
 キールが怒鳴りつける。
「キール、落ち着け」
 リハルトがキールを宥める。
「私もキールと同じ意見だよ。疑われてる君達自身が証人を連れてきても、その証人の出自を誰が証明する?」
 キールの言葉にルイが口を開く。
「証人の証人ですか?それこそナンセンスでしょう。そんなことを言ってると、ここに居る人の大半が私達と同じ、魔物の疑いがあり、になってしまうと思います」
「──俺からも証言させてもらおうか」
 突如冒険者達の集団の中から上がった声に視線が集まる。
「アレス…やはりお前が話したのか」
 リハルトの呟きが聞こえる。
 アレスは肩を竦めて笑ってみせた。
 …どうやらアレスの言っていた兄とはリハルトのことの様だ。
 アレスは俺と共に居ると、結託しているのが即バレてしまうと言って、ひとり離れた位置を選んでいた。
 ここが畳み掛けるタイミングだと判断した様だ。
「俺のパーティの連中は、そこのシュウイチとゾルムの死にかけてたのを助けたことがある。魔物が魔物に殺されかかってる…なんて締まらない話あるわきゃないよな。そのしばらく後に、先程の話に出た洞窟の戦いで大怪我をしてるシュウイチと、昏倒してるルイを拾ったのも俺達のパーティだ。両方とも俺達が通りかかったのは偶然…演技とかの可能性もありえない。こいつらが魔物だとはとても思えないな、そうだろトーマス?」
 アレスが俺達の後方に居るトーマス君に視線を送る。
「えぇ、彼らとは幾度か共に行動しましたが、神に誓って魔物ではないと言い切れます」
 トーマス君が自信に溢れた顔で言い切った。
「あ、あの、私もシュウイチくんとルイちゃんは魔物じゃないと思います!」
 マリィさんが緊張した顔で声を上げる。
「俺も同感だ。一緒に死に掛けたってのもあるが、こいつは魔物なんかじゃねーよ」
 隣のゾルムさんが俺の肩に手をぽんっと置く。
 リハルトが俺達を見て、頷く。
「確かにアレスの言い分ももっともだな。彼らが魔物なら魔物に殺されかけてたのはおかしな話だ。…それに彼らは魔物とは思えぬ人望もあるようだしね」
 …実はそうでもない。
 以前ボッコがパーティで同じ魔物を殺しているのを俺は見ている。俺達を騙す為だろうが、その辺の非情さをリハルトは知らないだけだ。
「そのことなんですが──」
 ルイが声を上げる。
 顔つきは時折見せる鋭い表情のままだ。
「魔物が人間に化けることが出来るって話を持ってきたのが私達、その私達が調べられて真っ先に怪しい人物として挙がってるなんて、私達が魔物だったとしたら抜けてると思いませんか?そんな話持ち込めばそれぞれの経歴を調べるのなんて、誰でも予測できることなんです。誰でもすぐに思いつきそうな矛盾ですよね?…なのに貴方達は何故かあっさりと私達を魔物と見なした」
 リハルトが戸惑った表情を見せる。
「…確かに、あのときは思いつかなかったがもっともな話だな」
 その後ろに控えている連中にも、「そういえば…」といった感じの顔をしている者がちらほらと見える。 
「それって、多分誰かが話を早々にまとめちゃったんじゃないですか?『そいつらが魔物に間違いない』とか、『早めにそいつらを殺さないと俺達が殺されるぞ!』とか、誰かが話をそういう方向に誘導しませんでしたか?…そう、例えばその話し合いで、そういう風に話を仕切ってもおかしくない人物。私はその人こそが魔物だと思います」
 ルイの言葉に周囲が静まる。
 高ランクの集団の視線がキールへ集まった。
 …あの男か。
 確かに、執拗にこちらを追求していた奴が魔物だというのは納得できる。
「ふざけんなっ!俺が魔物だってのか!?そっちこそ魔物だろうが!!」
 キールのが顔が怒りで真っ赤に染まる。
「…へぇ、貴方だったんですか。道理で妙に私達を追及する訳ですよね」
 ルイがキールを冷めた目で見ている。
 リハルトが二人の間に割って入った。
「双方とも落ち着け、君の言ってることも推測に過ぎないのだろう?こちらが君達に不当な疑いをかけてしまったのは詫びよう。一度冷静になって、落ち着いて話をするべきだ」
 リハルトはどうなのだろうか、彼が魔物かそうではないかの見分けがまだ付かない。
「おっしゃることはもっともなのですが、実は私、この場の皆さんの疑問を解消できる、取っておきの道具を今日用意しちゃってるんです」
 ルイの言葉にリハルトが訝しげな顔をする。
 …どういうことだ。
 これは打ち合わせにはない。完全にルイの独断だ。そんな道具の話をルイは一切しなかった。 
 ルイが脇に置いてあった袋からごそごそと何かを取り出す。
 あれは…瓶だ。
 三つの瓶をルイが取り出す。
「これ、教会で清められた聖水です。伝承によると、魔物にとって聖水は猛毒みたいなものらしいです。ですので、これをキールさんに飲んでもらいたいと思います。残り二つの瓶は同じく疑われている私とシュウイチさんが飲んでみせます。いかがでしょう、試してみませんか?」
 その手があったか!
 確かに聖水でダメージを受けるのは魔物だけの筈だ。ルイが自宅でごそごそとやってたのはこれを用意する為か。
「おいおい、そんなこといって毒がしこんであったらどうするんだよ」
 キールがうさんくさそうに言う。
「そうですね、確かにその可能性を考えてませんでした。でしたら、どの瓶を飲むのかを最初にキールさんが選んでください。私とシュウイチさんで残ったのを先に飲んでみせます」
 ルイがキールの前に歩いていく。
「さぁ、この三つの中からお好きなのをどーぞ」
「…馬鹿らしい、こんなお遊びに付き合ってられるかよ」
 やってられないとばかりにキールが顔を逸らしてみせる。
「キール、これを飲むことでお前の疑いが少しでも晴れるなら飲むべきだ」
 リハルトがキールに選ぶように促す。
「…ちっ」
 ルイの抱えてる瓶の内の一つをキールは奪い取る様に掴み取った。
「じゃあ、残りの二つを私達が飲んでみせますね」
 そう言ってルイがおれの目の前に歩いてくる。
「はい、シュウイチさんはどっちがいいですか?」
 瓶を片手に一本ずつ持ち差し出してくる。
「ん、どっちでもいいけどな」
 何気なく右手の方の瓶を取る。
 ルイが皆を見渡し、自分の持ってる瓶を掲げてみせた。
「では、飲みます」
 ルイが瓶に口を付ける。
 ルイの喉が動いているのが見え、瓶の中身がどんどん無くなってゆく。
 瓶の中身全てをルイが飲み干した。
「はい、ごらんの通りです」
 飲み干した瓶を皆に見せている。
「そんなんでお前の疑いが晴れると思うなよ…!」
 キールの低い声が聞こえてくる。
「えぇ、もちろんこんなもので、私達の無実を証明しようってつもりはありません。もし皆飲んで何も起こらなくても、それで全員疑いが晴れるわけじゃないですよね。でもこれでもし魔物が見つかるなら、それに越したことはないんじゃないですか?」
 ルイの問いかけにキールは不機嫌そうに黙り込んだ。
「それじゃ、俺も飲みます」
 躊躇無く瓶の中身を飲む。
 やはりただの水の味しかしない。
 飲み干し終わり、皆に見えるように瓶を掲げてみせた。
「さぁ、これで残りはキールさんだけですね」
 皆の視線がキールに集まる。

 キールが瓶の蓋を抜き、口の方へゆっくり瓶を持ち上げていく。
 
「──そうそう、私の知ってる話だと聖水を振り掛けるだけで、魔物の体は溶けてしまうらしいです」

 ルイの言葉にキールの動きが止まる。

「体にかかっただけで溶けてしまうものを、魔物が口にしたら…どうなるんでしょうね?」

 キールは動かない。
 時間だけが過ぎていく。その反応の意味することは一つだ。
「ルイ、そいつから離れろ!」
 俺の叫びと共にキールの体が膨れ上がり、着ている服が千切れていく。
 赤い、見覚えのある姿。
 …またレッサーデーモンか!
 そこからのことはスローモーションの様に見えた。そのままその膨れ上がったレッサーデーモンはルイに素早く飛び掛っていく。
 ルイとレッサーデーモンの間に何者かが割り込むのが見えた。
 レッサーデーモンはルイより少しずれた方向の床に落ち、倒れ伏せたまま動かない。
 少し遅れてレッサーデーモンの下から血が滲み出てきた。
 徐々にその姿が薄く消えていく。

「怪我はないか?」
 リハルトが剣を収めながらルイに話しかけている。
「すごいな…」
 思わず感嘆の言葉がもれた。
 あの一瞬でルイとレッサーデーモンの間に割って入り、一撃で切り伏せる。
 熟練の冒険者はあれだけの動きができるのだ。いずれ自分もあの様な動きが出来るようになるのだろうか?
 …出来る気がしない。
 自分の想像に首を振りながらルイの元に行く。
「大丈夫か、ルイ?」
 ルイが顔をこちらに向け、見上げてきた。鋭い表情から徐々に緊張が抜けていく。
「…少し、びっくりしました」
 口調が呆然としている。
「あんな無茶するつもりなら最初から相談しとけよ。…心臓止まるかと思ったぞ」
 あんな無茶は二度として欲しくない。
「キール、いつの間に…」

 ──リハルトがレッサーデーモンの消えた場所を見つめたまま、呆然と呟いているのが聞こえた。


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