ゾルムさんに続いて宿の外に出る。
「おーー」
多くの人が行きかってて活気がある、ところどころに露店もあるようだ。
サクソン村とはえらい差だな。知らない果物とかもいっぱいある…お、あれはなんだ?
怪しげな物を並べてる露店に興味がそそられ見に行こうとすると、ゾルムさんに肩を掴まれた。
「どこいってんだお前は…」
「え、いや。あの店が気になって」
「いいから行くぞ、んなもん後でも見れるだろうが」
とそのまま引きずられていった。
「ここだ」
ゾルムさんが一軒の建物の前で立ち止まった。
「ここがあの…」
同じように立ち止まり建物を見渡す、結構デカイ。
そういえばルイーダの酒場ってドラクエの中で何件もあったりしたな。まさか店長が全員ルイーダって名前って訳じゃないだろうし、チェーン店なのか。
酒場に入ると、広い広場にいくつもテーブルが置かれており、さまざまな人達が談笑していた。テーブルの間をバニーガールの格好をしたセクシーな女性が料理を忙しそうに運んでいる。
あぁ、そっか仲間入れる場所ってイメージ強かったけどそもそも酒場だしなぁ。
いかにもワタクシ冒険者でございって感じの筋骨隆々の男から、ここ病院じゃないですよ?って声をかけそうになるほど顔色の悪い男まで色々居る。
ゾルムさんは真っ直ぐ奥のカウンター席に歩いていった、俺も後ろを着いていく。カウンター内に居た金髪の20代後半くらいの美人が(この人もバニーの格好をしている)ゾルムさんに気づいて微笑みかけている。カウンターに座りながらゾルムさんが、
「ルイーダ、紹介したい奴がいるんだ」
と俺に目配せする。
「あら、冒険者希望?」
ルイーダさんが目を丸くして聞いてくる。何でそんな意外そうな顔をするんだろう。
「おう、こいつは…戦士?だっけお前??…名前そういえば聞いてなかったな」
そういえば一度もこの人に名乗ってない、よく紹介する気になったなこの人。
「職業も名前も分からないのに紹介って…」
ルイーダさんもあきれている。
「シュウイチです、よろしくお願いします。職業はなんでしょう…農夫とかダメですよね?」
ルイーダさんが半眼になってゾルムさんを見ている。
「お、お前職業もついてなかったのか。そこそこ戦えてたからてっきりついてるものかと…」
ゾルムさんが慌てて弁解している。
「君はまだここは早いわね、そこの奥の階段を昇った先で職業訓練をまず受けなさい」
と、奥の階段を指された。訓練かぁ。
「分かりました、行って来ます」
スタスタと階段を昇って行く青年を横目にルイーダはゾルムに話しかけた。
「ゾルム、いくらなんでもあの子が冒険者っていうのは無理があるでしょ」
「そうか?」
ゾルムの様子にため息をつき
「あの子他の冒険者達と比べて何の気迫もやる気も感じられないわよ、あの子自分が何になろうとしてるか理解してるの?」
少し怒ったようにルイーダは言う。
「そうだな、あいつ思ったよりマイペースで何考えてるかわからねぇときはあるけど、魔物と対峙したときは動きも度胸も悪くなかった…ありゃいい冒険者になると思うぜ」
「へぇー、ずいぶんご執心なのね?」
「まぁな、新人の面倒を見るのも先人の義務さ」
ゾルムは照れを隠すように頭をかいた。
階段を昇るとまたカウンターがあった、ただし1階のような活気はないし狭い。どうやら奥にある扉の先の空間が二回の大部分をしめてるようだ。カウンターの中に居るのもバニーではなく眠そうな顔をした青年がいるだけで付近には誰も居ない。
「あー君、訓練希望かい?」
受付の青年が見た目どおり眠そうな声で話しかけてくる。
「はい、こちらで訓練を受けてこい…と」
「ハイハイ、それじゃこの紙に必要なこと書いてねー」
そういって紙を渡される。
何々…希望する訓練の職種、できる特技、呪文等、戦闘経験の有無、有る場合はどの程度の魔物を退治できるか…ね。
勇者はダメだよなぁ、自分で俺は勇者だって名乗るのも恥ずかしいし柄でもない。ていうか希望してなれるものでもないだろう。となるとオーソドックスに戦士か武闘家、魔法使いか僧 侶ってとこかな。あ、でも俺魔法の才能ないんだよな、未だにメラのみだし…。才能ないってじいさんのお墨付きだもんな。となると戦士か武闘家…俺、素の喧嘩自信無いし、戦士かな。 戦士…と。
次は出来る特技か。この世界で誇れる特技なんかあったっけなぁ。危険物取り扱いとかダメだよな。あ、あれがあった。・・・・薬草の採取っと。
出来る呪文はメラ…と。
戦闘経験有りで、一角ウサギとバブルスライムを同時にやれる程度…と。
「出来ました」
眠そうな係員に渡す。
「はいはい…へぇーなかなか優秀だね兄さん、この調子なら訓練もすぐ終わるよ」
渡した紙を読みながら係員の人が言う。
「あ、そうですか?」
良かった、職業訓練とか何やらされるか少し不安だったけど楽にパスできそうだ。
「それじゃこの紙持って奥の部屋行って、戦士担当のヨアヒムさんにこの紙を渡して指示を仰いでね」
と、言いながら何か書き込んだ紙を渡してくる。
少し緊張しながら奥の扉に向かおうとしてふと気づく、
「あの、訓練って時間かかります?」
ゾルムさん忘れてた、あの人良い人っぽいからずっと待ってそうだ。
「兄さんは後は装備の扱いについての訓練だけからそんなにかからないだろうけど、最低でも半日かな」
あーそれは無理だ。ずっとぽつんと一人カウンターで酒を飲んでるスキンヘッドのおっさんを想像する、なんだか想像しただけで可哀想に思えて切なくなった。
「ちょっと連れがいるので行ってきていいですか?」
「どーぞどーぞ」
階段を下りながらさっきまでゾルムさんが居たカウンターを見るが、…あれ、居ない。
ルイーダさんがこちらに気づいたようだ。
「すいません、ゾルムさんは??」
「彼?彼なら…」
といってルイーダさんがため息をつく、
「すぐに酔いつぶれちゃって邪魔だから店の若い子に宿まで運ばせたわ」
わーお…思ってたよりも駄目な人なのかもしれない。俺が上に昇って降りてくるまでに30分もかかってないだろうに。
「分かりました、ありがとうございます」
と引き返そうとすると、
「シュウイチ君」
「はい?」
ルイーダさんに呼び止められた。
「頑張りなさいよ、期待されてるんだから」
そういってウインクしてくる、
「…はい」
笑いながら答える。
さぁこれから訓練だ、頑張ろう。
俺にはまだ支えてくれる人達が居る…なら頑張れる筈だ。