サクソン村からだいぶ離れ隣街へ行く道中。
この調子なら無事にその隣街までいけそうだな…。
「これなら無事に着けそうですねー」
馬車の手綱を握ってる商人に呼びかけた。
「そうですなー、魔物もでないし。今回はツいてますよ」
商人のおっさんも気楽そうに返事をよこす。
「まぁ魔物が出ても俺が片付けてやるよ兄ちゃん」
と、後ろから正規の護衛役の戦士のスキンヘッドおっさん (ゾルムとかいう名前だったっけ) が話しかけてくる。
商人の馬車には他に商人の小間使いの青年も乗っている。
「頼りにしています」
そう笑いかけると、
「任せときな、兄ちゃんも冒険者になりたいんだって?俺が先輩として冒険者がどんなものか見せてやるよ」
ガッハッハと豪快に笑っている。
それを見ながらこの人はドラクエでいうと何レベルかなー、10くらい?とか失礼なことを考えていた。
そういえば俺は今何レベルくらいなんだろう・・・。フロッガー四体もくるときっついし・・・いくつだろう4?5??どっちにしろお世辞にも強いとはいえないよなー。と、こっそりため息をついた。
そして2日後、ようやく隣街のカナンが見え始めた頃に魔物の群れに襲われた。
バブルスライム、一角ウサギ、あれは…色からしてさそりバチじゃなくてキラービーが五体か。
まずいな、確かあれって今の俺じゃ歯が立たない。
そう思いながら後ろのゾルムさんに、
「ゾルムさんあれ、勝てそうですか?」
と聞いてみる。
「ちと厳しいかもな…兄ちゃん、お前はどの程度やれる?」
「俺もそこの一角ウサギとバブルスライム二体に勝てるかどうか…ってとこです。」
「そうか、ダンナ!もうカナンは見えてるんだ街まで突っ走れ!こいつらは俺たちで引き受ける、街についたら応援を呼んでくれ!!」
ゾルムさんが魔物に切りかかりながら商人に向かって叫ぶ。
「今だ、行け!!」
俺もそれを見て一角ウサギにこんぼうで殴りかかる。
「は、はいぃぃ」
商人は慌てて馬車を走らせていった。
ゾルムさんがキラービーの一体を切り捨てる、続けざまにもう一体、体勢が崩れたところを他の二体に刺される。
「チョロチョロ飛び回ってんじゃねぇっ!」
怯まずに更に一体切り伏せる。こちらも一角ウサギを倒し、バブルスラムを相手にしているところだった。
これならいけるかもしれない!
しかし急にゾルムさんの動き鈍くなった。
あれは…そうか、しまった。確かあいつは麻痺が!
「くそっ、体が…」
「ゾルムさん!」
バブルスライムをメラで倒し、慌てて助けに行こうとするといきなり膝がガクっと崩れる。
「!?」
しまった、こっちは毒か…。
意識が朦朧としてくる、向こうで動けないゾルムさんに二体のキラービーが近づいていくのが見える。
万事休すか…。そう思ったとき、
「――ギラ」
と、涼やかな声が聞こえ、キラービーが吹っ飛ぶところで俺の意識は途絶えた。
「目が覚めたようですよ」
若い男の声がし、目を開くとそこにはおそらく僧侶であろう真面目そうな青年が居た。
どうやら宿の一室のようだ。
「お、兄ちゃん大丈夫か!」
「ゾルムさん…」
「いやー、お互いに大変だったな。兄ちゃんもそこの人達に礼を言っとけよ!」
そういって親指で後ろを指す。
後ろの方で鎧を着込んだ若い長髪の美形っぽい男、先程の真面目そうな青年と、痩せた背の小さい男、杖を持った静かに佇んでいる赤髪長髪の女の子が居た。
なるほど、さっきはこの人達に助けられたのか。
「ありがとうございます、危ないところ助けていただいて…」
そういって頭を下げる。
「実力も無いのに護衛なんてやってるからそうなるんだぜ、少しは身の程を弁えたらどうだい坊主」
痩せた背の小さい男が鼻で笑う。
確かに言われた通りだけどキツイな。
よく見るとゾルムさんも真っ赤になって震えている。
「まぁまぁ、誰しも失敗はありますし、サイもその辺で…」
と真面目そうな青年が小男をいさめる。
「でも実際迷惑な話なんだよ、あんた達のせいでこの街の冒険者全員の質が問われるかもしれないんだぜ?ここの冒険者は護衛もまともにこなせないのか、ってな」
それまで腕を組んで黙ってた美形がこちらを見て見下すように笑う。
うっわー…今までいい人ばかり出会ってたけど、やっぱりこの世界にもこういう人達って居るんだな。
後、ゾルムさんがすっごい顔してる。きっと命の恩人だから我慢してるんだろうな…怖え。
「じゃあな、せいぜい頑張りな」
そういって小男と美形が笑いながら部屋を出て行く。
「すいません、私からよく言って聞かせておきますので!」
そういいながら真面目そうな青年が慌てて着いていく。
最後に杖を持った女の子が、
「…お大事に」
とちらっとこちらを見て出て行った。
急に静かになり部屋がしーんとなる。
ゾルムさんが、
「まぁ、まぁ気にすんなって男は細かいことは気にしないもんだ!」
と言って背中をバシバシ叩いてくる。
額に青筋浮かべながら言われても説得力が無い、後、背中がすごい痛いので止めて欲しい。
「とりあえず今日は寝ときな、宿代は奢ってやるよ」
そういいながらゾルムさんは出て行った。
「ふぅ…まいったなぁ」
ベッドに横になりため息をつく。
どうにもうまくいかない、やはりどこかでゲームのドラクエのことを考えて甘く見てるのだろうか。実際にはゲームのようにうまくいかない、簡単に成長しない。痛みで怯みもするし、毒で動くことさえままならなくなることなんて考えもしなかった。
さっきのパーティの人達が言ってることも言い方はキツイが正論だろう。彼らも冒険者としての生活がある。生半可な気持ちでやられては困るのだ。
「帰りたいなぁ」
ここではない世界の父や母、祖母や祖父、兄弟が脳裏に浮ぶ。
そしてこの世界にきて初めて知り合った優しいもう一人の祖父とも呼べる人が浮ぶ。
「でも、自分でこの道でやっていくと決めたしな…」
色々と考えてるうちにウトウトとして意識が落ちていった。