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No.29793の一覧
[0] そして魔王様へ【DQ3】(5/8新話投稿)[NIY](2014/05/08 23:40)
[1] 新米魔王誕生[NIY](2014/03/05 22:16)
[2] 新米魔王研修中[NIY](2014/04/25 20:06)
[3] 続・新米魔王研修中[NIY](2012/09/28 10:35)
[4] 新米魔王転職中[NIY](2014/03/05 22:30)
[5] 新米魔王初配下[NIY](2014/03/05 22:41)
[6] 新米魔王船旅中[NIY](2012/10/14 18:38)
[7] 新米魔王偵察中[NIY](2012/01/12 19:57)
[8] 新米魔王出立中[NIY](2012/01/12 19:57)
[9] 駆け出し魔王誘拐中[NIY](2014/03/05 22:52)
[10] 駆け出し魔王賭博中[NIY](2014/03/19 20:18)
[11] 駆け出し魔王勝負中[NIY](2014/03/05 22:59)
[12] 駆け出し魔王買い物中[NIY](2014/03/05 23:20)
[13] 駆け出し魔王会議中[NIY](2014/03/06 00:13)
[14] 駆け出し魔王我慢中[NIY](2014/03/19 20:17)
[15] 駆け出し魔王演説中[NIY](2014/04/25 20:04)
[16] 駆け出し魔王準備中[NIY](2014/05/08 23:39)
[17] 記録[NIY](2014/05/08 23:37)
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[29793] 新米魔王出立中
Name: NIY◆f1114a98 ID:9f67d39b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/01/12 19:57
一章 八話 新米魔王出立中


「【我らが魂を繋ぐもの。ここに契約を結ばん】」


 明かりを全て消した小部屋の中。ハルの言葉と共に足下に書かれた魔法陣が青い光を放ち始める。
 ハルは右手を地面へ翳し、左手を下へ垂らしているが、左手からはポタリポタリと血が滴り落ちていた。その血が落ちるのに呼応するように、魔法陣から放たれる光が強くなる。
 魔法陣の上にいるのは、ハルと連れ帰った三人の魔物達。彼らはハルが呪文を読み上げるのをじっと待っていた。

「【我を主と認めし者よ。互いに深き絆を欲すれば、その心が真なることを誓え】」
「クウ!」「誓うよー」「誓うわ」

 三人が答えると同時、魔法陣の光が最大に達する。光はハル達を包み込むように広がり、ゆっくりと消えていった。

「…………これで成功したのか?」
「うむ、問題はなさそうだのう。お主の配下に聞いてみれば直ぐ分かるじゃろう?」

 ゴウルに言われ目をやると、三人は固まって何やら騒いでいた。

「クウウ!? クウックウ!」
「おおおおお!? 何これ!? 何これ!? 凄い凄い!」
「うっわー……凄い不思議な感覚ねぇこれ……。でも、確かに呪いの圧迫感が殆ど来なくなってるわ……」
「……成功みたいだな」

 上手くいくかどうか不安だっただけに、ホッとハルは安堵のため息を吐いた。

「ハル様! 終わったのでしたら治療を!」

 と、心配げに言うのは今までソワソワと儀式の様子を見ていたイヨである。魔法陣を起動させるのに自身の血を用いる必要があったため、ハルは手にそこそこ深い傷をつけていた。思い出させられると、ジクジクと痛みが来る。

「あーやべ、痺れてきた。頼むイヨ」
「はい!」

 答えると同時に手にホイミをかけ始めるイヨ。こうして会うのは半年ぶりぐらいだが、やはり過保護であるのに変わりはない。

「しかし……突然帰ってきたと思えば主従の儀を教えろとは……本当に、ジワジワと魔王への道を歩んでおるな」
「ようやくスタートライン手前ってとこだけどな。ん、もう大丈夫だ。ありがとう、イヨ」

 手から完全に痛みが引き、確認するように軽く手を握ったり開いたりしながら、ハルはイヨに礼を言う。言われたイヨは、何でもないことだと首を振った。

「いえ、私にできることなんてこんな事ぐらいしかありませんし……。傷は治っても失った血は戻りませんので、どうかお気をつけを」
「ああ、分かってる。散々世話になってるからな」

 肩を竦めながら言うハルに、イヨは本当に分かっているのかと眉を顰める。彼女としては、あまり回復呪文の世話になって欲しくはないのだろう。もっとも、そんな状況じゃないのは重々理解しているだろうが。

「んで、じっさい契約ってどんな感じなんだ? 俺にはさっぱり分からんのだが……」
「なんかねーなんかねー。ハル様のことがわかるっていうか、繋がってる!って感じ?」
「抽象的すぎて言いにくいんだけど……ハル様がより近くになったような感覚ね」
「クウ! クウウー♪」

 三人の解答に(クウは何を言ってるのか分からなかったが)ハルは目を細めて頭を掻いた。聞いてもやはりさっぱりだったが、もはやそれはそういうものなのだと納得するしかないのかもしれない。

「分かりにくいじゃろうが、これでお主らはハルに危害を加えることができなくなった筈じゃ。後は魔王様の力……お主らが呪いと呼んでおるそれの影響もある一定以上は出んじゃろう」
「やっぱ完全に防げるってわけじゃないのか?」
「んー、みたい。すっごい楽になったけど、まだ何か来てるのわかるもん」
「どこまで大丈夫か分からないけど、霊樹の雫も定期的に飲んだ方がいいとは思うわ」

 ハルの問いに答えるのはスライム二人だ。種族的に弱いからこそ、自分に影響を与えてくるものに敏感だというが、この二人が言うなら間違いはないのだろう。

「契約した以上は主以外の影響が強くでることはあまりなかろうが……相手が人間であるし魔王様の力は強いからのう。念には念を押しておく必要はあるか。しかし……そのスライムの長とは一度話してみたいものじゃの。儂の知らんことも知っておりそうじゃ」
「ま、そのうちな。んで、少しばかり相談があるんだが……」
「……………………珍しく神妙じゃの。何じゃ?」

 いつもならばずけずけとものを言うハルが、前置きを述べることにゴウルは眉を顰めた。どうやら、また何かよからぬ事を考えているらしい。
 果たして、ゴウルの予感は当たっていた。しかしそれは、想像していたものを遙かに超えていた言葉であったが。




「ゴウル、ヒミコを裏切るつもりはないか?」




***




 スライムの霊樹からアリアハンへと戻ったハルは、まずロドリーらにある程度の調査の完了と、大陸へ帰る旨を告げた。エベットは非常に残念そうであったが、元よりハルが滞在するのはアリアハンでの調査が終了するまでの予定であったため、仕方がない。別れの朝は、クウも名残惜しそうにエベットに頭を擦りつけていた。
 ルーラで大陸の波止場まで帰ってきたハルは、漁師達にジパングまで乗せていってもらえないかどうか頼んで回った。さすがに、そこまで遠方に漁に出るような船は殆ど無く、なかなか足を得ることはできなかったが、三日目にして近場まで行くという船があったのでなんとか乗せて貰うことができた。クウやボウ達は大きめの荷物袋の中で窮屈な思いをさせてしまったが、こればかりはどうしようもない。
 ようやくジパングに帰ってきたハルは、半年ぶりにオロチの洞窟へ入り、ゴウルに契約の儀について教えを請うたのである。


 そして、ハルの言いはなった言葉にゴウルは無言で杖に手を掛けた。


「…………貴様、どういう所存でそれを儂に問うておるのじゃ?」
「は、ハル様! ゴウル様!」
「ク、クウ!?」「え? 何々? どういう状況?」「ちょ、ちょっとハル様! 何言ってるのよ!?」

 突如として二人の間に走った緊張に、周りの面々が慌てる。イヨは二人を止めようとしているが、渦中の二人はただ静かに目を合わせていた。
 やがて、ハルがフッと笑って両手を挙げる。それを見て、ゴウルも肩を竦めため息を吐きながら杖を降ろす。周りはそんな二人の行動に、ただ首を傾げるばかりだった。

「それで、儂には皆目見当もつかんのじゃが、何をさせたいのじゃ?」
「何をさせたいというかな、これから相談して考える訳なんだが」
「何とも行き当たりばったりじゃのう……それで先のようなことを問うでないわまったく」
「えっと……ハル様? ゴウル様? さっきまでの空気はどこへ……」

 普通に会話をし始めた二人に、やはりついて行けなかった面々。その中からイヨが代表して質問した。やれやれとばかりにゴウルがため息を吐く。

「そもイヨ。こ奴の先ほどの問いかけにどのような意味があるか分かっておるか?」
「意味……ですか? その……すいません。言葉通りにハル様がヒミコ様を裏切ろうとしているとしか……そんなことはありえないとは思ってるんですが……」
「そう思っておるのなら分かるであろうに。こ奴がヒミコ様を裏切るのはありえない。そしてそれ以上に、儂がヒミコ様の利に適わぬことをするはずがない。それを重々承知の上ならば、先ほど問うておったのが儂の覚悟の程であるというのは理解できるじゃろう」
「覚悟?」

 オウム返しにリンが問う。

「うむ。ヒミコ様を裏切ってでも、たとえヒミコ様に見捨てられようとも、ヒミコ様を救おうという覚悟じゃ。儂を怒らせたのもそこじゃのう。確かに儂にとって、この身よりも大切な忠誠じゃが、ヒミコ様を救えるのなら安いものじゃろうて」
「結局、聞いた俺が野暮だったって話だよ」
「…………ねね、クウ分かった? 僕よく分からなかったんだけど……」「クゥ……」

 ぼそぼそと未だに頭の上に疑問符を浮かべている二人を脇に、ハルは軽く肩を竦めた。

「んじゃま、まずは状況の確認だな。とりあえず、さっきの主従の儀に関してだが……」


 儀式を行う前に、ハルが確認したのは以下の二つである。


 一つは主から従者に対してどれほどの強制力があるか。
 主従と言うだけあって、主には従者に対して命令権が存在する。それを行使には、主の口から直接命令を言われることが必要であり、従者が命令を受け入れなければならない。例えば、主が従者に『死ね』と命じても、従者がそれを拒否すればその命令は無効となる。
 しかし、一度命令を受け入れた場合、従者は絶対にそれを果たさねばならない。敵陣に突撃し命の限り戦い続けろという命を受けた場合、結果として同じく『死ね』と言われているのに違いはないが、従者は命令を果たすために邪魔な恐怖などを抑えることができる。死を前にして、恐怖で体が鈍るなどということがなくなるのだ。文字通り、命の限り。手が千切れようが、腹を割かれようが、少しでも動けるならば戦い続ける死兵と化す。相手からすればこれ程恐ろしい敵もそうそういないだろう。
 そして、従者は主に害のある行動は取れない。この制約には色々と条件があるようだ。


 1,主に敵意を持って害を与えることはできない。ただし、主を守るために突き飛ばしたり、じゃれ合い程度のことは容認される。

 2,主が直接的に不利になる行動を行うことはできない。例えば、直接害を与えるようなものでなくとも、ゴウルがヒミコの事を魔王側に密告したり等の行動は取ることができない。ただし、主が望まぬ行動や一見不利に見えるような行動でも、主を守るための行動であるならば容認される。

 3,主の為に動いている、他の従者の行動を阻害する事はできない。これは従者が命令を下した者にも有効である。


 以上のことから言えるのは、従者は主に対して絶対に敵対行動を取れないということだ。しかし、ヒミコがハルのことを容認しているように、グレーゾーンが存在しているようである。


 そしてもう一つは、契約を解除する方法。これは非常に単純で、主か従者のどちらかの死亡。それだけのようだ。

「一応聞いておくが、バラモスとヒミコの間に契約は……」
「無論、バラモス様の直下の方々……所謂幹部クラスの方々は皆バラモス様と契約を交わしておる。主に誓いさえ立てれば、心でどう思っておっても契約はなされるからの。裏切り者が出ぬように、もし裏切ろうと思えど何も出来ぬように、魔王軍においては臣従ではなく隷従の為の儀式という認識じゃからの」
「なら、ヒミコを真に自由にするには、どうあってもバラモスを倒さないとならんわけだ」

 どう足掻いても、ハルの目的とバラモスの存在は相反する。
 ハルのとるべき道は、魔王バラモスの打倒。可能性なら様々に有った筈だが、もはやどの道もハルはとることができない。ハルの目的はヒミコの完全なる解放。ヒミコの意志が奪われる可能性が残るのなら、それは目的を達したことにならない。バラモスの死こそが、ハルの目的に唯一辿り着く手段なのだ。
 元々ハルは魔王を打倒するつもりではあったが、まだ他の選択肢が存在してはいた。しかし、ハルには幾つも選択肢を残しておく余裕などない。だからこそ確認したのである。自身の目的地を定めるために。
 後は、どのようにしてそこに辿り着くかだ。

「アリアハンで勇者の存在は確認した。旅立ちまで後半年と少し。勇者の辿る筋道は俺の記憶でもいくつかあるが、最短でも二年以上……ヒミコの驚異になるほどだったら三年から四年は必要だと思っている。予想を外れない範囲での話だがな」
「ほう……それは有用な情報ではあるの。お主の言葉を信じるなら、勇者はいずれゾーマ様をも討つ程の存在……警戒するに超したことはあるまい」
「今のところ若いなりにはそこそこの実力が有るみたいだが……一般的な人間の範囲を大きく超すほどじゃない。だが、才能ってのはどこで開花するか分からんからな」

 閉鎖された領域内での訓練よりも、旅をする中での生きた経験の方が遙かに人を成長させる。ほぼ間違いなく、人間の中でも最高クラスの才能の持ち主の筈なのだ。ハルの予想を超える可能性は多分にある。

「……爺さん、ヒミコは後どれぐらいこうしていられる?」
「…………どういう意味じゃ?」
「どれだけの時間、ヒミコは無事でいられるのかって言ってるんだ。こうして生贄を匿っていることは、確実にバラモスの意志に反している行為だろう? 直接的にバラモスの不利になるようなことじゃないから、制約も働かないんだろうが……それが知られたときヒミコはどうなる?」
「…………裏切り行為と思われる可能性は高いじゃろうな。殺されることはないじゃろうが……自由意志を奪われることはあり得る」

 それは、ヒミコの誇りを汚す行為。ただ死ぬよりも、遙かに、ヒミコの存在を冒涜する所行。
 ヒミコが意志を奪われ、元に戻せないのなら、それはハルの負けと同義である。

「ここが限界を迎えるまでたぶん長くても後三年ってとこだろう? そうなったとき、ヒミコはここの娘達をどうする?」
「やむなく殺す……ことはなかろうな。過去に魔王軍で行われた侵攻の際ですら、あの方は戦いの意志を持つ者以外を殺そうとはしなかった。さすがに他の者が殺しているのを止めるほどではなかったがの……ましてや、匿った者達を殺すことなどありえんじゃろう。どうしても限界が来たときは、ここから逃がそうとするかもしれんな」
「今ですらやっとこ隠している状態でどうやって逃がす? どうするにせよ、バラモスの配下に気付かれぬようにっていうのは殆ど無理だろ?」
「最悪……我が身を犠牲にされるやもしれんな……」
「そんな!?」

 ゴウルの言葉に、イヨが声を上げる。ヒミコの腹心であるゴウルの言葉であれば、限りなく真実に近い話だ。ハルもゴウルも、可能性があるどころかこのままではいつか必ず訪れるであろう未来であるとすら考えている。

「…………結論から言えば、三年でバラモスを倒さないとヒミコは救えないってことだな」
「………………お主に成せるのか?」
「無理だ」

 きっぱりとはっきりと、ハルは即答した。

「この一年限界まで鍛えた状態で、ようやく中級クラスの魔物と一対一ならなんとかって程度だ。なまじ、俺が至れる強さは頂点が見えてるからな。何か……劇的な変化がない限り、どれだけ時間が有ってもバラモスどころかボストロールとまともに戦う事すらできんだろう」
「え? じゃ、じゃあどうするのよ? ハル様の目的が達成できないってことでしょ?」

 あくまでも冷静に分析するハルに、リンが不安そうに体を揺らす。口には出していないが、イヨやクウもリンと同じような視線をハルに向けていた。ボウは話の流れについて行けてないのか、惚けたように疑問符を浮かべている。
 ハル以外ではただ一人、ゴウルだけが言葉の真意を読み取ろうと目を細めていた。

「……して、どうするつもりじゃ? 諦めるつもりなど毛頭ないのであろう?」
「当然。まあアレだ。結局、道はこれしかなかったんだろうがな」

 自嘲するようにハルは肩を竦める。回り道をしたつもりなどないが、ハルの目的を考えれば絶対必要な事柄だったのだ。


「国を作る。人と魔物が共に暮らす、そんな国を」
「建国なされるのですか!?」「クウ?」「ほ、本気!? できるの!?」「……ふむ」


 ざわりと、ハルの宣言に皆がそれぞれに反応を示す。ただ、ボウだけは理解するまでに時間が掛かったか、反応が遅れていた。

「え~っと……あれ? ハル様って魔王様なんだから当たり前なんじゃないの?」
「当たり前ってあんた…………私達が人間と暮らせると思うの? あんただって、人間の怖さをよく知ってるでしょ?」
「そうだけどさ、ハル様も人間じゃん。僕、ハル様は怖くないもん。リンだってそうでしょ?」
「いやそりゃ……まぁ……」

 どこがおかしいのかといった様子のボウに、珍しくリンが押し負けている。二人の様子に苦笑しつつ、ハルは一つ頷いた。

「ま、ボウの言うとおり不可能なことじゃないと思う。人間にだって俺やイヨ、ロドリーのおっさんやエベットがいる。魔物にはクウや爺さんやボウ達、それにヒミコがいる。要するに、双方が敵対しない空間を作って、理解を深めていけばいい。時間は掛かるだろうがな」

 ヒミコは人間と魔物の双方に情を抱いている。彼女が望むのは、どちらもが幸せに暮らせるような世界だ。ならば、それを叶えるのがハルの役目である。

「双方が敵対しない空間を作るには、魔王の呪いが邪魔だ。だから、対抗策を見つけなきゃならん。霊樹の雫や霊樹自体も手段の一つではあるが、もっと根本的なものが必要だろう。例えば、呪いを排除する結界とかな」
「…………それでヒミコ様を裏切る覚悟か」

 長年ヒミコの側近をしているだけあって、やはりゴウルは頭が回る。ハルがこの先言いたいことを完全に予見しているようだ。

「ヒミコは俺のことを黙認しているが、はっきりバラモスと敵対している訳じゃない。目に見えて俺に協力することはできんし、するつもりもないだろう。下手に刺激して、ジパングの人間が危険に晒されるのは一番避けたいだろうしな」

 しかし、ハルがもし対抗策を見つけたとしても、仕掛けることができなければいざというときに役に立たない。普段使っている魔法のように、自身の魔力だけで即時発動できるのならばいいのだが、何か物を設置したり魔法陣を使ったりと、準備が必要であるならハルよりもゴウルの方が仕込みやすいだろう。

「できるなら、対抗策を見つけて人間やバラモスに簡単に負けない力を付けた上でヒミコを説得したいところなんだが、どこまでやれるか分からん。どうしても間に合わなかったときに、ヒミコを助けられるようにしておきたい」
「うむ……ヒミコ様を助けることに異存はない。じゃが、まだ肝心の対抗策が見つかっておらぬのが痛いのう」
「手がかりが全くないわけじゃない。幾つか思いつく方法もあるし、それは三年以内に必ず見つけるさ」

 王都や町々に存在する結界や主従の儀のように、この世界にはハルですら知らない魔法が幾つか存在している。ハルの知識内に存在する闇に対抗する呪法だってあるかもしれない。決して、不可能ではない筈だ。ただ一つハルには不安要素があったが……そうならないように願うことしか今はできない。
 そして、国を作り、ヒミコを助けることさえできれば、後は力を蓄えバラモスに軍勢をもって挑む。個の力が足りないのであれば、数で補おうというのがハルの考えだ。
 もちろん、ただ数を揃えただけでは話にならないだろう。最低でも、今のハルクラスの能力が無ければバラモス相手に通用しない。
 また、ハルは魔物達に魔王として認められなければならない。魔物にも、人間にも多くの味方を作る必要がある。



 さぁ、ここから全てを始めよう。



「やってやる。必ず……俺は魔王になる」




***




 空が若干白み始めた、まだ誰もが寝静まっている早朝。ハルは両手を胸の前で構え、静かに魔力を錬っていた。
 そこに魔法式を入れると、圧縮され球体に固定された魔力が発光を始める。後は唱えれば直ぐに魔法が発動するが、そのまま暫く発動させずに保つ。すると、球体の中心部から炎が徐々に姿を見せ始めた。
 ハルは戦闘中以外は常に一定の魔力を操作している。魔力を操作するのは魔法使いの基本中の基本であるが、ハルのように一日中それをしている人間はいないだろう。だからこそ、他の人間では考えられない程の進歩を見せている。
 そのハルがごくごく最近気付いたのが、入式以後も魔力を弄ることが可能だという事である。入式した時点で魔法の性質自体は確定しているので、さすがにメラをヒャドに切り替えたりはできないようであるが、例えば今のようにじっと保っていたりすると、発動させずとも魔法が表れ出したりするようだ。下手に弄ると直ぐに魔法が崩れ始めるので、よほど魔力操作に長けていなければできない技術なのだが、実のところ意味自体はあまりない。ひょっとしたら無詠唱発動がこの先にあるのかもしれないが、今はハルも訓練の一環でやってる程度だ。
 完全に姿を見せた炎に、ハルはさらに魔力を込めていく。赤い火は徐々に色を変えていき、白から薄い青へと到達する。


「『メラミ』」


 発射された青い火球は、着弾した場所の草を灰すら出さずに燃やし尽くした。普通の魔法使いなら驚いて目を見張る光景だろうが、ハルは確認するように頷くだけである。

「ん、そこそこ。もうちょいで実戦でも使えそうだな」
「クウ!」

 普段よりも早い朝の訓練が終わったのを見て、クウがハルの元へと寄ってくる。その頭の上にはボウとリンが乗っていた。

「ほんと、こんな日にまで訓練するとか、ハル様って変なとこ真面目よね」
「にゅー……ハル様……おなかすいた……すぴー……」

 感心半分、呆れ半分といった様子のリンと、朝早く起こされて八割方寝ているボウ。二人を見て苦笑を浮かべながら、ハルは軽く肩を回した。
 ハルがジパングに帰ってから二月。着々と準備を進め、今日ようやく出発の日だ。

「しかし、見違えるもんじゃな。最初は儂が軽く叩いた程度で気を失っていた者が、今やごうけつ熊も一蹴とはの」
「欲を言えばもうちょっと上のランクでも一蹴できたらいいんだけどな。ま、こっから先はまた転職してからだな」
「向かう先はとりあえずダーマかの?」
「ああ、あそこは人材豊富だし知り合いもいる。協力者を探すのに丁度いいだろ」

 できることなら、フォーテやランドに協力して貰いたいところだが、教会のトップクラスの立場である彼らではまず無理だろう。暫くは人材の見極めと、再びLv1に戻る自身の強化に努めなくてはならない。
 まぁ、今回は能力に左右されることのない攻撃魔法があるので、前回ほど苦労することはないだろうが。

「ハル様、どうかお気を付けて」
「ん、今度は少しばかり長くなるからな。お前も息災で。あいつのことを頼む」
「はい!」
「クウ~。クックウ~」

 最初に比べれば、随分と大きくなったクウがイヨに頭を擦りつけている。元より人懐っこい性格であるが、イヨのことは特別気に入っているようだ。
 イヨはクウと、その上に乗っているスライム二人を優しく撫でる。

「クウも、ボウもリンも、ハル様のお手伝い頑張ってね?」
「クウ!」
「まぁ……私にできることはやるわよ」
「うにぃ? うんうん……だいじょーぶー……」
「……あんたはいい加減起きなさい!!」

 楽しそうにしているメンツに軽く頭を掻きながら、ハルは視線をさらに奥へと向ける。普段よりも幾分簡素な白い着物に身を包み、楽しそうな笑みを口元へ浮かべて、彼女はゆっくりと歩いていた。手に何か白い包みを携えている。

「もう行くかえ?」
「ああ」

 簡潔な問いに、一言で答える。

「まぁ、まだまだなのは確かであるが、少しばかりは見られるようになったのう」
「そりゃ何よりだ。次に逢うときには完全に認められるようにはなるかね?」
「そなたの頑張り次第ではないかえ?」
「もっともだ」

 打てば響くというのはこういうことか。彼女との掛け合いもこれで長い間お預けとなる。

「精々やれるだけやるがよい。妾を退屈させるでないぞ?」
「当然。楽しませてやるから覚悟してろ」

 顔を見合わせてニッと笑う。ああ、本当に会話をするだけで心が躍る。
 スッと、彼女は手に持っていた包みをハルへと差し出した。

「餞別じゃ。使うがよい」
「ん……おいおいこれは……」

 中から現れたのは、鞘に収められた一本の剣。
 シンプルな柄に、純白の鞘。

「くさなぎの剣。ジパングで最も優れていた鍛冶屋が打った剣じゃ。本人は随分前に生贄の娘と逃げ出したがのう」
「いいのか? こいつは国宝クラスだろ? それにバラモスの敵対者に対する支援になるんじゃないのか?」
「何、倉の中に放ってあった物を何の気無しに取り出して、それが不注意で盗られたというだけの話じゃ。まぁ、飾っておくのが剣の役目ではあるまい? 使われてこそ初めて剣は生きる。剣にとってはその方がいいかもしれんな。まあ、盗人程度では少々役者不足じゃろうが」
「…………なら、早く見合うようにならなきゃいかんな」

 一度少しだけ刀身を出し、すぐに収める。この世界じゃ指折りの武器だ。実力さえ伴えば、この剣でバラモスとも十分戦えるだろう。
 今まで使っていた鋼の剣を腰から外し、くさなぎの剣へと替えた。本当に、役者不足も甚だしい。重さはむしろ軽い位なのに、そこにある重みが違う。

「…………よし、行くか」

 一つ頷いて、ハルは仲間達を呼び寄せた。ちっぽけな魔王軍の旅立ちである。

「しっかりせいよ?」「ハル様頑張って下さい!」

 ゴウルとイヨが言葉を綴る。
 それに軽く笑みを返して、ハルは彼女の顔を見た。

「じゃあ、行ってくるわ。またな、ヒミコ」
「うむ。行ってこい」

 最後まで簡潔な会話だ。しかし、この二人にとってはそれが一番だった。

「『ルーラ』!」

 魔法の発動と共に、ハル達は光に包まれて空を飛んだ。残された三人が、その軌跡を追う。一瞬で彼らが消えた空を見て、ヒミコはまた一つ笑みを漏らした。

「さて、では帰ろうかのう。あまり留守にしては皆に怪しまれる」
「ですな。イヨ、裏へ回るぞ」
「はい!」

 生贄の部屋へとこっそり戻る二人と、屋敷へ静かに帰るヒミコとでは最初から向かう方向が違う。
 二人と別れた直後に、今一度だけヒミコはハル達が消えた方を仰ぎ見た。




「またな……か……。本当にそうなればいいのう……本当に……」




***




 時はしばし戻って、ハル達がジパングへ帰る直前。
 アリアハンの王都へ向けて、二千人程度の軍勢が移動していた。掲げられているのは、アリアハンの国旗である。
 行軍速度からいえば、後数時間程度で王都に辿り着くだろう。レーベの南西にある山岳地帯での訓練だ。三ヶ月もの間帰宅していない兵士達が、どことなく浮ついた様子であってもそれは仕方ないことだろう。
 隊は男性の割合が多いが、決して女性がいない訳でもない。男性顔負けの実力を持った女性もいるし、随伴している魔法隊には女魔法使いの姿も多い。男性と同じように訓練してきた彼女たちも、久しぶりの帰還である。その口に蓋をするのはなかなか難しい。

「こんな長い訓練アリスちゃんもよく頑張ったわねぇ」
「もう私と同じぐらいのLvだし、魔力を使うセンスもいいものね。ほんと、自信なくしちゃうわよ……」
「いやそんな! まだまだですよ! ヒャドなんかまだ余分に魔力使っちゃいますし、ギラも全然無駄が多くて……」
「その年なら十分過ぎるわよ。日に日に上達してるし、きっとふとした拍子に一気に伸びるんじゃない?」

 そう周りから称賛を受けているのは、中でも一際若い少女だった。おそらくは十代の半ば頃、長く赤い髪をポニーテールにしており、明るく可愛らしい笑顔が彼女の性質を現している。

「ダメですようそんなに褒めちゃ、調子に乗っちゃいますから」
「あら、じゃあもっと訓練厳しくしようかしら? 後数ヶ月もしたら旅に出るんだし、少しオーバーワーク気味でもいいくらいかも」
「いやそれは……その……お手柔らかにしてくださると嬉しかったり……」

 しょぼんと言うアリスの姿に、周りにいた魔法使い達が楽しそうに笑う。からかわれたのが分かって少し恥ずかしそうにするも、可愛がられていることは理解しているので文句も言えず、アリスは視線を少し前の方へと向けた。
 そこを歩いているのは、アリスと同い年ぐらいの少女である。肩口のセミロングで整えられた濃紺の髪に、優しさを印象付かせる目を中心に整えられた顔立ち。初めて彼女を見た人間は、そんな美少女がベテラン兵とも渡り合う実力を持っているなど、到底思えないだろう。
 アリスの幼なじみであり親友である彼女は、何故か空を仰ぎながら進んでいた。
 からかってくる魔法使い達の囲いから逃げるように、その近くへと駆け寄る。

「どうしたのリルム? 何か見えるの?」
「…………いえ、今空を何かが通った気がしたんですが……」

 目を細めて空を見上げているリルムと同じように、アリスも空を仰ぐが、何も見えない。

「んー……私は何も見えなかったけど……もしルーラの軌跡だったら向かう先はレーベかなぁ。でも、皆気付いてないみたいだし、レーベぐらいだったら気付かない程高い位置まで上がらないよね? 気のせいじゃない?」

 基本的に外の人間が入ってこないアリアハンで、他の大陸に向かうルーラをするような者は存在しない筈である。この何十年もの間、外にいったことのある人間なんて、それこそ巡礼の神官達ぐらいだ。そして、他の大陸にはいるらしいが、アリアハンには魔法使いの教会所属者は存在しない。どう考えても、リルムの気のせいだとしか思えなかった。

「気のせい……ですかね?」
「そうだよ。訓練で疲れてるしさ、そんなこともあるって。ほら、もうすぐ王都だよ? 早く終わらせて帰りたいね」

 明るいアリスの言葉に、リルムは「そうですね」と微笑み返す。帰れば、母と祖父がリルムのことを待ってるだろう。女手一つで自分のことを育ててくれた母は、きっと心配しているだろうから早く帰って安心してもらいたい。

 アリスに手を引かれながら、それでもリルムはもう一度だけ空を見上げた。



「気のせい……ですか……」





 徐々に、確かに、勇者の胎動は世界に響き始めていた。





******************

 や、やっとできた……。くそう……落ち着かないんだよ仕事場。急に人来るし忙しくなるし……orz。普段通りだったらできてた筈なのになぁ。時間まで予告して失敗したよちくせう。
 お待ちいただいてた方には申し訳ない。後は記録の方で。



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