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No.20619の一覧
[0] 星は夢を見る必要はない(クロノトリガー)【完結】[かんたろー](2012/04/28 03:00)
[1] 星は夢を見る必要はない第二話[かんたろー](2010/12/22 00:21)
[2] 星は夢を見る必要はない第三話[かんたろー](2010/12/22 00:30)
[3] 星は夢を見る必要はない第四話[かんたろー](2010/12/22 00:35)
[4] 星は夢を見る必要はない第五話[かんたろー](2010/12/22 00:39)
[5] 星は夢を見る必要はない第六話[かんたろー](2010/12/22 00:45)
[6] 星は夢を見る必要はない第七話[かんたろー](2010/12/22 00:51)
[7] 星は夢を見る必要はない第八話[かんたろー](2010/12/22 01:01)
[8] 星は夢を見る必要はない第九話[かんたろー](2010/12/22 01:11)
[9] 星は夢を見る必要はない第十話[かんたろー](2011/08/02 16:03)
[10] 星は夢を見る必要はない第十一話[かんたろー](2011/01/13 06:26)
[11] 星は夢を見る必要はない第十二話[かんたろー](2011/01/13 06:34)
[12] 星は夢を見る必要はない第十三話[かんたろー](2011/01/13 06:46)
[13] 星は夢を見る必要はない第十四話[かんたろー](2010/08/12 03:25)
[14] 星は夢を見る必要はない第十五話[かんたろー](2010/09/04 04:26)
[15] 星は夢を見る必要はない第十六話[かんたろー](2010/09/28 02:41)
[16] 星は夢を見る必要はない第十七話[かんたろー](2010/10/21 15:56)
[17] 星は夢を見る必要はない第十八話[かんたろー](2011/08/02 16:03)
[18] 星は夢を見る必要はない第十九話[かんたろー](2011/08/02 16:04)
[19] 星は夢を見る必要はない第二十話[かんたろー](2011/08/02 16:04)
[20] 星は夢を見る必要はない第二十一話[かんたろー](2011/08/02 16:04)
[21] 星は夢を見る必要はない第二十二話[かんたろー](2011/08/02 16:05)
[22] 星は夢を見る必要はない第二十三話[かんたろー](2011/08/02 16:05)
[23] 星は夢を見る必要はない第二十四話[かんたろー](2011/08/02 16:05)
[24] 星は夢を見る必要はない第二十五話[かんたろー](2012/03/23 16:53)
[25] 星は夢を見る必要はない第二十六話[かんたろー](2012/03/23 17:18)
[26] 星は夢を見る必要はない第二十七話[かんたろー](2011/08/02 16:06)
[27] 星は夢を見る必要はない第二十八話[かんたろー](2011/08/02 16:06)
[28] 星は夢を見る必要はない第二十九話[かんたろー](2011/08/02 16:06)
[29] 星は夢を見る必要はない第三十話[かんたろー](2011/08/02 16:07)
[30] 星は夢を見る必要はない第三十一話[かんたろー](2011/08/02 16:07)
[31] 星は夢を見る必要はない第三十二話[かんたろー](2011/08/02 16:08)
[32] 星は夢を見る必要はない第三十三話[かんたろー](2011/03/15 02:07)
[33] 星は夢を見る必要はない第三十四話[かんたろー](2011/08/02 16:08)
[34] 星は夢を見る必要はない第三十五話[かんたろー](2011/08/02 16:08)
[35] 星は夢を見る必要はない第三十六話[かんたろー](2011/08/02 16:07)
[36] 星は夢を見る必要はない第三十七話[かんたろー](2011/08/02 16:08)
[37] 星は夢を見る必要はない第三十八話[かんたろー](2011/08/02 16:07)
[38] 星は夢を見る必要はない第三十九話[かんたろー](2011/08/02 16:06)
[39] 星は夢を見る必要はない第四十話[かんたろー](2011/05/21 01:00)
[40] 星は夢を見る必要はない第四十一話[かんたろー](2011/05/21 01:02)
[41] 星は夢を見る必要はない第四十二話[かんたろー](2011/06/05 00:55)
[42] 星は夢を見る必要はない第四十三話[かんたろー](2011/06/05 01:49)
[43] 星は夢を見る必要はない第四十四話[かんたろー](2011/06/16 23:53)
[44] 星は夢を見る必要はない第四十五話[かんたろー](2011/06/17 00:55)
[45] 星は夢を見る必要はない第四十六話[かんたろー](2011/07/04 14:24)
[46] 星は夢を見る必要はない第四十七話[かんたろー](2012/04/24 23:17)
[47] 星は夢を見る必要はない第四十八話[かんたろー](2012/01/11 01:33)
[48] 星は夢を見る必要はない第四十九話[かんたろー](2012/03/20 14:08)
[49] 星は夢を見る必要はない最終話[かんたろー](2012/04/18 02:09)
[50] あとがき[かんたろー](2012/04/28 03:03)
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[20619] 星は夢を見る必要はない第八話
Name: かんたろー◆a51f9671 ID:423dceb7 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/12/22 01:01
 牢屋を出た俺は右往左往しながら迷路のような刑務所を歩き回る。所々に突っ立っている衛兵は暗闇に紛れて近づき後ろからクロノ式ブレイバーを叩き込むとあっさりと昏倒していく。気分は伝説の傭兵。大佐! 現在の状況は!?
 倒れた衛兵が必ず一つは持っているミドルポーション(ポーションの高級品)を懐に入れてホクホク顔で歩く。悪くないかもね、獄門生活。
 ちょっと探検気分で楽しくなっていると明るい部屋に出て、奥に刺付きの棍棒を誰もいないのに振り回している変態を見つけた。萎えた。早く出たいこんな所。
 Uターンしてまたカビ臭い通路を歩いていると今度はギロチン台に首を乗せて縛られている青年を見つけた。足掻こうとしているのは分かるのだがケツをふりふりするのはやめろ、妙な想像をしてしまう。
 無視して先に進もうとすると俺を見つけた青年が大声で「ヘルプ! 助けて! ボーノボーノ!」とやかましく、このままでは衛兵がやって来てやらなくていい戦闘をしなければならなくなりそうなので縄を解きギロチン台から開放してやった。


「もっと早く助けてくれればいいじゃないか」


 信じられないがこれが助けてやった後の第一声である。唇を尖らしてぶーぶー、と聞こえてきそうな顔は肘鉄をめり込ませても許されそうだった。というか、めり込ませた。


「本当は言いたくないけど、これ以上前歯を不安定にしたくないから言うよ。助けてくれてどうも。ケッ!」


 これ以上ないくらい癪に障る謝られ方だったが、これ以上こいつをどついていると衛兵に気づかれそうだったので抑えることとした。だってこいつ殴られたときの声でかいんだもん。
 女の子座りになって「殴ったね!? 父さんにも殴られたこと無いのに! いやあるけど!」
 と叫んだときは反射的に刀を抜いていた。衛兵は殺しちゃ駄目だけどこいつなら許されるのではないか?


 あっかんべー! と舌を出しながら去っていく青年を見てあいつまた捕まるんじゃないいか? むしろそうあれと願う今日この頃。俺は間違ってない。
 気を取り直してまた刑務所内を探索していく。牢屋の中の骨が動いたりした気がしたが、俺は非科学的なことは信じないリアリストなのだ。これから俺のことをバンコランと呼んでも構わない。


 階段を見つけたので登ろうとすると、上から黒い泥団子みたいなものを投げられた。ぺっ! ぺっ! 口の中に入った!
 何があったのかと階段を駆け上がると俺の身長と同じくらいの大きさの盾が二つ置いてあった。
 随分でかいな、暴徒鎮圧用かな? としずしず見ていると、その盾が動き出し裏から人間が顔を出した。俺より頭一つ分小さいその人間は俺の顔を見るなり「ひっ!」と悲鳴を上げて盾の後ろに隠れてしまった。失礼にも程がある。俺の顔を見て悲鳴を上げるなんて二日前以来だ。その時悲鳴を上げたのは俺と同年齢のカヨちゃんである。母さんを通して理由を聞くと、「クロノ君に近づくと、ルッカちゃんにお仕置きされるの……」だそうだ。何故ルッカは俺を孤立させようとする。女子は皆俺を避けるし、男子は男子で半端に人気のあるルッカとよく一緒にいるという理由から俺を毛嫌いしている。ルッカという存在はどこまでも俺の人生を捻じ曲げていくのだ。悪魔め。


「……ああ、また明かりだ」


 階段を上がってすぐの扉から人工的な明かりが漏れている。電球のある生活がどれほど贅沢か骨身に染みるよ。
 しかし、油断は出来ない。中を見ればまた変態が我が物顔で棍棒の素振りをしているかもしれない。ああいう輩がいる所を見ると、もしかしたらここは元々アルコール中毒者の隔離施設だったのかもしれないな。酒は飲んでも飲まれてはいけない。


 恐る恐る扉に張り付き、中を覗いてみる……おや?なにやら靴の裏がこちらに近づいて、


「クロノーッ!!」


 蹴り開けられた扉で鼻を強打した俺は、その反動で階段から転げ落ちて気を失った。

















 初めは、偶然私にぶつかり、ペンダントを拾ってくれたから。ただそれだけだった。あとまあ、同い年の男の子と遊ぶという、女の子らしい遊びがしたかったからというのもある。
 お祭りを巡って、初めて見るお菓子や食べ物を奢ってくれた。いくら世間知らずに育てられた私でも、そういう商品を買うにはお金がいるということくらい分かっていた。会ってから全然たってないのにお金を出してくれるなんて、良い人なんだなあと思ったことを覚えている。
 一緒にはしゃいでみて、気を使わないで良いことも分かった。クロノは女の子の私に気を使って楽しんでいるのではなく、心の底から夢中になったり興奮しているのが手に取るように分かったから。
 だって、私が凄いよ凄いよと興奮しているのに、クロノはそうかあ?どこにでもあるトリックだよ、と全然乗り気になってくれなかったり、逆に私が怖いからやめようというサーカスのテントに聞く耳持たず入ったりした。
 でも、それは稀なケースで、大概私もクロノも周りの人の迷惑も気にせず(これはちょっと反省)二人して騒いでいた。
 本当に楽しかった。こんなに興奮したのも、笑ったのも、また同じ人に笑顔を見せ続けていたのも初めてだった。
 そうして、今度は私がルッカの実験に挑戦して、ゲートに入った時。迎えに来るのは遅かったけど、ちゃんとクロノは私を助けに来てくれた。
 ……なんだろう?私がクロノに抱いている……抱いていた感情は。
 男女間の愛?クロノのことは素敵な男の子だと思うけれど、それは違う気がする。だって、時々訳の分からないことを言うし、私が本で読んだような恋愛ができそうには思えない。……ちょっぴり情けないし、ね。
 けれど、私はクロノと一緒にまたお祭りを巡りたいと思った。
 出来ることなら、クロノと一緒に色んなところを巡りたいとも思った。
 ……もしかしなくても、私は、クロノと……


「友達に、なりたかったんだ」


 私は自室の天蓋付きベッドに仰向けで寝転がりながら、一人でぼうっと呟いた。




 マールがクロノに抱いていた感情。
 それは恋慕といった甘酸っぱいものではなく、また興味があるという程度の軽いものではない。
 マールと同じ年齢ならば誰もが持つであろう、友愛であった。




「……なら、私がすべきことは……」


 私は壁に立て掛けたボーガンを手に取り、比較的丈夫なロープのようなものを探して部屋を飛び出した。








 星は夢を見る必要は無い
 第八話 プリズンブレイクをそのまま訳したら牢獄破壊って、なんかアクション映画っぽいよね







「まあまあ俺も男の子だし、あんまりネチネチ言いたくないけどさ、俺を助けに来てくれたのは嬉しいよ? 純粋に。でもね、その結果俺の頭を割ってたら目的がおかしいよね? 手段と目的が入れ替わってるなんてのは良く聞くけどさ。ルッカのやったことはあれだよ、電車の中で若者が騒いでるのを止めようとして大声で歌いだす蛮行と同じだからね? なんで被害拡大に一役買うのかが俺には理解できないなあ、最先端過ぎて俺がついていけないよ。これは俺が時代に取り残されてるのかルッカが時代をぶっちぎってるのか、その辺を重点的に説明してほしい」


「もういいじゃない。幸い怪我もたいしたことなかったんだし、さらっと流しなさいよ」


 ルッカが言う流すのは水的なものなのかもしれないけれど、俺の中ではその液体重油的な何かだからさ、どろっとしてからみつくぜ?


「……まあ俺の手助けをしようと善意に行動したんだから忘れてあげないでもないけどさ。一体どうやってここまで来たんだ?兵士達だってわんさかいただろうに」


 俺が抱いたごく当たり前の疑問にルッカは得意気な顔をして肩から下げている鞄から茶色いダンボールを取り出した。ルッカの鞄って何でも入ってるのね、魔法の鞄みたい。


「これぞ伝説のスニーキングアイテム、ダンボールよ」


「あ、そのネタもう俺やった」


 ちきしょう……とおよそ一般的な女の子の悔しがり方ではない反応を示すと、ルッカはその場で体育座りになり指で床を弄りだした。爆砕点穴の練習ですか? ルッカがそういう可愛らしいと見られがちな行動をするとどうも破壊に繋がるのではないかと邪推してしまう。


「でもこれはそう馬鹿にできるアイテムじゃないわよ? 私だってこれで何回あんたのお風呂を覗いたか……私は何も言ってないわ」


「……そうか」


 分かる。どうせここで俺が追求すればルッカがハンマーを振り下ろすんだろう? さながら大海賊時代のバイキングの持つ戦斧のように。
 俺の名前はクロノ、テンプレートを回避する男。……でもきっちり言い切ってから誤魔化せると思えるルッカには良い病院を紹介すべきだろうか?俺の家から二件隣に住んでいるバイアン・ジャーニーさんが経営する病院なんか良いんじゃないか?略称BJとしてトルース町の皆さんに好評の。顔に縫い後があるのと料金が割高なのが玉に傷ではあるが。


 とりあえず階段で休憩してても始まらない。俺が突き飛ばされた扉をくぐり、中に入る。そこは俺が衛兵に気絶させられた所長室だった。最初はマールのだいっきらい宣言とこれからの俺の将来を考えてどん底に落ち込んでいたからよく見てなかったけど、中々良い部屋じゃないか。適当に罪人を牢屋まで案内しているだけでこんな良い部屋を割り当てられるのか。これだから公務員は。
 ここにいない所長に毒づきながら軽く部屋を見て回ると、机の下に青い服を着た、所長殿が倒れていた。


「おううううわああぁぁ!!! 人が……人が死んでる!?」


 ごめんなさい! よく知りもしないで楽そうだとか簡単に金を稼げるとか言っちゃって! きっと俺たち国民の与り知らぬ所で膨大なストレスを溜め込んでたんですね! まさか死んでしまうほどの心労だったとは! ……もしくは俺と同じ想像に達した人間による犯行なのか!?
 ガルディア刑務所殺人事件~夜風が目に染みやがる。
 じっちゃんはこの中にいる!


「色々混ざってるけど、犯人は私よ。動機はあんたを助ける為で、ついでに殺してないわ。この使い捨て人体破壊専用ドッカンばくはつピストルを使ったから。勿論のこと非殺傷設定よ」


 ついでにで命の有無を扱うのかという突っ込みの前に、何かえらく禍々しい単語が聞こえたのだが。
 流石巷では『黄昏よりも暗き者』または『血の流れより赤き者』と呼ばれるだけのことはある。名付け親は俺だ。


「お前が犯罪を犯して俺が涙を流しながら『あんなことする子じゃなかったんです……』と言う光景が目に浮かぶよ。少女人体実験による精神破壊とかの罪状で」


「今罪人なのはあんたよ。ほら、いいからさっさとここからオサラバしましょ、ここ臭いのよ。ついでにあんたも臭いのよ」


「お前は女子が男子に言う臭いはどれだけ鋭利な刃物になって胸に突き刺さるか分かってないんだ」


 刑務所に風呂なんてなかったんだから仕方ないじゃないか。俺だって頭が痒くてしょうがないんだ。後、頭を掻く度に毛が抜けるんだけど俺この年にして若はげ確定なんだろうか? 消費税アップとかより衝撃の事実なんだけど。


 俺の結構マジな注意を無視して部屋を出た。あいつとは何処かで真剣に決着をつけないと、俺は先に進めないのかもしれないな。例えばしゃべり場とかで。


「……あれ、なんだこれ」


 ルッカの自称非殺傷兵器で気絶している男(顔面が識別できないほど潰れているのは置いといて)の近くに数枚の紙が綴じてあるファイルが落ちていた。
 中を見ると達筆な字で


 『ガルディア王国刑務所所長殿へ ドラゴン戦車の設計図 ドラゴン戦車の頭には、本体が』


 ここまで読んだ時に、ファイルから一枚の写真が落ちた。
 拾って見ると、そこにはバニースーツを着た女の子がこちらにピースサインを送っている写真だった。裏側を見ると、
『今日のわしのお気に 大臣』
 と書かれていた。仕事しろよとは言わんがこういう形で性癖を暴露するのは大臣からしてもどうなんだろうか?
 ファイルをもっと調べてみると他にも大量に写真が綴じられていた。むしろちゃんとした書類よりも量が多かった。この国は一度滅びなければならない。


 とはいえ、何か脱獄の手がかりが書いてあるとも知れないので全てチェックすることにする。ほら、万が一ってあるじゃない? 変な意味は別にないんだよ? 青い好奇心みたいな感情は全然。俺ってば解脱するかしないかみたいな領域に来てる聖人君子だからね。


 俺の精一杯の自己弁護をさらりと無視して戻ってきたルッカが写真ごと火炎放射器で俺を焼き払った。お前躊躇いなく人の事燃やすけど、全身の三分の一を火傷したら死ぬんだからね? その辺のこと分かってやってんの?
 俺が衛兵達から回収したミドルポーションはここで使い切ってしまった。
 ……あのチャイナ服の女の子、名前はユイちゃんか。今度お店に行って指名しよう。


 部屋を出ると手すりもついていない渡り通路。下を見れば地面まで数十メートルはありそうだ。ここから飛び降りて逃げる、というのは無理そうだな。
 激しい風に晒されて、年中半袖の俺には辛い、ルッカを見ると寒そうに身を縮めている。一番重要なのは後ろから見ればルッカの上の服が風で持ち上がり腰の上部分が見えていることだ。フッ、とはいえ、悪いが俺はその程度で興奮する時期なぞとうに越えている。俺を興奮させたければその六倍のエロさを見せてみろというのだ。


 いやあ、にしてもびゅんびゅかびゅんびゅかと風の音がやかましい。
 おかげで前でルッカが持ち上がっていく服を抑えながら顔を赤くして何事か叫んでいるが聞こえやしない。いやあもう全く。
 ……しかし、何故ルッカはスカートの下にズボンを履いているのだ、見られるかもしれないという緊張感から女の子は気を使い安定した姿勢を得られるというのに、ズボンとは全くけしからん、最悪スパッツならば色々妄想もできように。
 ここは一つ、一家言物申さなくてはならない。


「おいルッカ、パンツ見せろ」


「こっち見るなって言葉を無視してる挙句何言ってんのよおぉぉ!!!」


 西部劇のガンマンみたいにパカスカ俺を撃つルッカ。甘い、現在進行形で賢者の域に片足を突っ込んでいる俺に銃弾の軌道を読むことなど造作もないのだ。さっさと全部脱げ。……あ、妄想してたら足に当たった。
 こうして俺は中世で拾ったポーションを全て使い切ることになった。
 ただいまの持ち物、鋼鉄の刀、青銅の刀鞘なし(青銅の刀の鞘は鋼鉄の刀を納めるために使っている)のみ。


 この後上の服をズボンにインするという暴挙を犯したルッカと俺の壮絶なバトルが展開されたのだが、ここは端折ることにしよう。
 ただ、痴漢と言われようが何をされようが……それでも俺は、見たかった。


「はあ、はあ、はあ……何であんたはいつどんな時でもエロいことしか考えられないのよ!」


「知らなかったのか? 男の性の欲望からは逃げられない……」


「完全に性犯罪者の台詞よね、それ……時と場所を考えれば私はいつでも……なのに」


「? おいルッカ今度はマジで聞こえない。何て言ったん……おい、ルッカ」


「分かってる。何この音? まるで大きな歯車が回るような……それが近づいてくるような……」


 渡り通路の先から聞こえてくる奇怪な音に、俺とルッカは軽口を止めてその正体を探るべく目を凝らす。
 ……何だ? あの不細工な乗り物は?


「ハーッハッハッハー!!! 脱獄犯めが! このガルディア王国刑務所から逃げ出そうなど、そうは問屋がおろさぬわ!! ゆけいドラゴン戦車! ……寒い、この場所服がバタバタ揺れて凄い風が入り込む」


 愉快な笑い声をBGMに大臣がドラゴンを模倣したというよりは妊娠中のコモドオオトカゲに似せましたというような戦車に乗りながら登場してきた。
 顔の部分はラグビーボールを半分に切ってまたくっ付けたような造詣で、胴体部分はなすび型。今時おもちゃでももう少し精巧に作れそうな尻尾。動くたびに不穏な音が鳴る車輪。……まさか、こいつを俺たちに戦わせる気じゃないだろうな? 適当に作った機械に過度な期待はやめてください。成長に著しい悪影響を及ぼします。


「ルッカ、俺、お前の作る機械って大概駄作だと思ってたけど、お前やっぱり天才なんだな」


「認めてくれるのは嬉しいけど、今この状況で言われるのは物凄く不快だわ」


 俺もルッカも武器を取り出しさえせずに大臣御自慢のドラゴン戦車を眺める。ああ、背中の鉄板が一枚外れましたよ?


「さあ! お前達にこのドラゴン戦車を倒せるかな? さっさとかかってこい! できるだけ早く掛かって来い! 長期の稼動は想定しておらんのでいつ止まるとも知れんのじゃ!」


 知ってるか? あんたみたいな奴がいっぱいいる病院の名前。そこで友達百人目指せばいいじゃない。


「な、何をしておる! さっさと来んか腰抜けめ! さてはこのドラゴン戦車に圧倒されて足が竦んでおるな? ……ああもう本当寒い。鼻水出てきた。今夜はトルース町のガールズバーで豪遊する予定なのに困った」


 あんたみたいな奴ばかりだと、きっと戦争なんて起こらないに違いない。十中八九滅びるけど。


「いかんぞ、鼻水を垂らしたままじゃとユイちゃんに嫌われる。今日こそわしはあの子とアフターを決めるんじゃから」


「貴様ァァ!! そこに直れ、今すぐこの場で切って捨ててくれるわぁぁぁ!!」


「ちょっと!」


 ルッカの制止を振り切り俺は走りながら刀に手をかける。
 ごめん、ルッカ。でも俺は男だから、命を賭けなきゃいけない時がある。倒さなきゃいけない敵がいる。……例え、それがどんなに強大な敵だとしても!


「ユイちゃんとのアフターは譲れねええぇぇぇ!!」


 前方のみを直視していた俺は、後ろから飛来するハンマーの存在に気づかず頭をドヤされる。アイテー。
 足幅大きく俺に近づき、ルッカは俺の首元を掴んでがくがく揺らす。少し前のことなのに懐かしいこの感覚。



「ユイちゃんって誰?」


「え……いや、別に」


「ユイちゃんって誰?」


「だからね、ルッカさんちょっと聞いて?」


「ユイちゃんって誰?」


「……」


「ユイチャンッテダレ?」


 いよいよ言葉の発音すらおかしくなってしまった。
 前方の竜後門の悪鬼状態だ。竜ははりぼてだし悪鬼はすでに俺の命を握っているけれど。


「あっ! わしの服が! ああっ、下も!?」


 なにやら一人芝居を続ける大臣を目だけ動かして窺うと、大臣の服が全部飛ばされ、風から大臣を守るものがふんどしだけとなっていた。
 誰がお前のお色気シーンを期待したのか。乳首を隠すなゲテモノ。
 ……しかし良い事を知った。


「ルッカ。お怒りのところ申し訳ないが、さっきの大臣の服と同じ服を着てまたここに来てくれないか? ああ、下着は着けなくてもいい。むしろ着けるな」


「本当に申し訳ないわねそのお願い!」


 俺の首を絞める強さが増した。ふむ、あと数秒で俺の頚動脈が破裂すると知っての行動なのだろうね?


 溜息をついたルッカは俺を解放し、瀬戸際で俺の頭が破裂する事態にはならなかった。
 敵前で味方の首を絞めるとは、ルッカの頭の中を見てみたいものだ。そしてそれ以上に服の中身を見てみたいものだ。


「もういいわよ……クロノの浮気性。今度ユイとかいうあばずれ、実験と称してこの世から消し去ってやるわ……」


 ルッカが怖い顔をしているので俺はそっぽを向く。情けなくない。こういう時のルッカの顔は下手なホラーゲームよりよっぽど怖いのだから。


「いにゃああぁぁぁぁ!!」


 叫び声が聞こえて、ドラゴン戦車を見ると背中に乗っていた大臣の姿が見えない。……そうか、大臣は星になったのか。汚いものを見せてくれたが、今後の楽しみとして大臣ルックという引き出しを増やしてくれた恩義は忘れない。来世で幸せになってくれ。そして末期の時の言葉すら萌え声なんだな。


 運転する者がいなくなったので、俺たちはドラゴン戦車を素通りしようとする。……が。
 そもそも、戦車を運転するのに背中に乗っているわけは無い。
 中に誰かが乗って操縦するか、もしくは……


「る、ルッカ! 動いてるぞこのぽんこつ!」


「……そうか、外見の構造上、中に誰かが乗るスペースは無い……つまりこのドラゴン戦車、へっぽこな見た目の癖に……」


 無人で作動する、自動型かのどちらかだった。



「ドラゴンセンシャ、ミサイルハッシャイタシマス」


「「ミサイル?」」


 俺たちが同時にハテナマークを頭の上に浮かべると、ドラゴン戦車の背中が開き、中から八発のミサイルが……俺たちに向かってくる!?


「ううう撃ち落せルッカ! お前なら出来る! 君に決めた!」


「無茶言わないでよ! こんな改造エアガンなんかでなんとかなる訳……キャアアアアア!!」


 俺たちは二人して全力で後方に走る。……背中からボカンボカンと聞こえる音は爆発音だろうか? くそ、なんであんな間抜けな見た目なのにミサイルなんて高性能なもんを打ち出せるんだ! テロリスト対策ったって限度があるだろ! あああ耳元を破片が掠めたぁぁ! 助けておばあちゃーん!


「こ、こうなったら仕方ない、奥の手ルッカスペシャル三号、テロ行動時専用反逆丸を使うときが来たようね……」


「何か秘密兵器的な物があるのか!? テロ行動時専用ってそういうことしようと考えてたのかとか無粋なことは言わん! 早く使ってくれ!」


 含み笑いをしながら取り寄せバッグに手を入れるルッカ。その手に握られていたのは拳大程の大きさで、形状はピンの付いたパイナップルのような形だった。……うーん、ジェド○士?


「これは万が一クロノが死刑になり殺されていた時に王族諸共吹き飛ばそうと考えて作った最終兵器よ。まさかこういう形で使うとは夢にも思わなかったけどね」


 なんでお前は南米の傭兵達みたいな方法を取ろうとするのかが不思議で仕方が無い。


「さあ! 火薬を入れすぎて広めの空き地で使っても周りに被害が及ぶであろうこの反逆丸の爆発を受けてなお原型を留めることができるかしら!?」


「ねえルッカ。俺凄い嫌な予感がする。外れないんだ俺の嫌な予感。良い予感は当たった試しがないんだけどさ」


 スルー上等、ピンを抜きドラゴン戦車の足元に反逆丸を投げつける…………何も起こらないぞ?


 床に伏せて耳を塞いでいるルッカに不発か? と聞こうとした矢先に、脳天を突き抜ける轟音が辺りを支配する。こっ、鼓膜が! 鼓膜がああぁぁ!!


「ふう、予想通りの威力ね」


「時間差で爆発するならそう言えよ! 耳の中でアラ○ちゃんが走り回ってるじゃねえか!」


 キーン、キーンとね。


 火薬の煙と、爆発で舞い上がった砂埃が晴れると、そこにドラゴン戦車の姿は無かった。なるほど、ルッカが納得するだけのことはある。素晴らしい破壊力だ。うん。本当に凄い破壊力でしたよ。


「で、どうするんだ」


「何よ? 謝れば許してくれるのかしら?」


 渡り通路の三分の一が吹き飛び、助走をつけて飛んだところで消えた通路の半分にも届かない距離で地面に叩きつけられるだろう。悪いと思ってるならその尊大な態度を改めて申し訳なさそうな顔をするのが筋だと思うよ。僕の人生経験からすれば、さ。言っても無駄なのは分かってるけど。後額からどばどば出てる汗は拭いとけ、唇が真っ青になって震えてるのは寒さのせいだけじゃないよな?


 どうするべきか、この刑務所を出るルートが他にあると期待して引き返すか? ……いや、出口がいくつもある刑務所なんて存在するのか? 俺はこの刑務所の中をかなり歩き回ったが、他に出口らしきところは無かったぞ?
 いっそ運よく生き残れることを信じてここから飛び降りるか……? いや、自殺行為でしかない。奇跡的に生き残っても大怪我をしたままじゃまた兵士達に捕まってしまう。……どうする?


 光明の見えない状況で、俺は女の子の声が聞こえた気がした。
 気のせいかと思ったが、ルッカも辺りを見回していることから聞き間違いや幻聴の類ではないと確信する。
 今この場に現れる可能性がある女の子といえば……まさか。


 カツンという音がして、足元を見ると向こう側の通路からロープが括り付けられたボーガンの矢が落ちていた。
 ボーガンの矢……もうこれは間違いないな。あのお人好しの王女様め……


 ロープを近くの柱に縛り、何度か引っ張ってみる。これなら途中で縄が切れることも無いだろう、限界突破に怖いが、俺たちは縄を伝って向こう側に辿り着くことが出来た。


「おかえり、クロノ」


「ああ……ただいま、マール」


 きらきらと輝く金髪をポニーテールにした、純白の服を着る少女、マールが俺たちを見てニッコリと微笑む。
 牢獄に入れられた時の虚無感も、衛兵の為すがままに気絶させられ、物のように扱われた屈辱。一生外には出られないのかという絶望、それら全てを消し去ってくれるその笑顔を俺は忘れないだろう。
 そうだな、もしも彼女を何かに例えるなら……それは決まっている。
 俺は、念願の日の光を見つけることが出来たのだ。


 俺とルッカだけでは脱出不可能な状況から脱して、その場に座り込みほっと一息つく。


「ほらクロノ、こんな所で座り込んでないでさっさと逃げるわよ。ここはまだガルディア城の中なんだから」


 ルッカが俺の背中を膝で押してくる。
 確かにそうなんだけどさ、気が抜けたんだよ。
 そう言いかけた時、俺は声を出せなかった。
 その時のルッカの顔は、一瞬だけど憎憎しげにマールを睨んでいたから。


 俺とマールを置いて走り出したルッカを見て、俺に手を差し伸べるマール。
 その手を取って勢いをつけ立ち上がる。「行こう、クロノ!」と笑いかけてくれるマールに分かった、と返す。
 ……ルッカ、お前はマールに対して何を思ってる?
 足が前に動かない俺を、扉から吹く風が背中を押してくれた。




「だ、脱獄だー!!」


 階段を降りて城の玄関まで辿り着くと、外に出るまで後少し、という所で兵士達に見つかった。
 一度餌をあげた鳩みたくわらわらと俺たちに掴みかかる兵士達。……心なしか俺の体を掴む奴が少ないのは気のせいか?


「や、やめなさーい!!」


「ま、マールディア様でしたか!」


 さっきまで二の腕やら足やらを触っていた癖にマールが声を張り上げた途端わざとらしく「気づきませんでしたなー」とか「やっちゃったぜ!」とか「超ふわふわ。極すべすべ」とか抜かし出す。特に三番目、俺の前にその首を出せ。


「この方たちは私がお世話になったのよ! 客人として、もてなしなさい!」


「し、しかし……」


 それは正に中世でマールと出会った時の再現だった。
 マールの言葉に納得のいかない兵士はなおも抵抗しようとするが……きっとこの先の展開もあの時と同じ。


「私の言うことが聞けないの?」


「いえ! 滅相もございません!」


 兵士達からは見えない角度で俺にチロ、と舌を出すマール。即興の悪戯心で作った演出にしては洒落が利いてるじゃないか。


「そこまでじゃー!」


 このまま城から逃げられるかと思いきや、城の奥からちゃんと服を着た現代のストリーキング、大臣が走って姿を現した。あれだけの高さから落ちて、俺たちより早く城に戻り服を着替え、なおかつ走れるのかよ、お前人間じゃないなオイ。


 アメーバ並みの再生力を持つ大臣が控えい控えい、控えおろーうと時代劇みたいな口調で兵士の頭を下げさせる。本当やりたい放題だな、聞きたくないけどあのドラゴン戦車とかどれだけ予算を使って作ったんだよ、国民の血税をほとばしるほど無駄にしやがる。


「ガルディアーーーー、三世のぉーーー、あ! おーーーなぁああーーー!」


「父上……」


「いい加減にしろマールディア。お前は一人の個人である前に、一国の王女なのだぞ」


 大臣が時代劇から歌舞伎にシフトチェンジすると痺れを切らした王が大臣を後ろから蹴り倒して前に出る。大臣は階段から落ちて頭から床に叩きつけられた。死んだかな? と期待していると「いったー、絶対赤くなってるぞいこれ。後でムヒ塗っとこう」だそうだ。頭蓋を完全に粉砕しないと死なない類の生き物なんだな、多分。


「違うもん! 私は王女である前に一人の女の子なの!」


「城下などに出るから悪い影響を受けおって!」


「おいそこの犯罪者兼脱獄者と、貧乳眼鏡女。どうじゃったわしの登場の仕方? 自分で言うのもなんじゃがイケとったじゃろ?」


「影響じゃない! 私が決めたことだもん!」


「マールディア!」


「痛いぞ娘、何故わしの頭を撃ち抜くのじゃ……ああ、そういえば胸の大きさと度量の広さは比例するという。然りじゃな」


「こんな所もうい居たくない! 私城出するわ!」


「待たんかマールディア!」


「何? 私はCカップよだと? ふむ、確かにCカップじゃな、そのカップを着けたままならば、の。ほっほっほっ」


 ああ、大臣がでかい声でアホな会話するからマールと王様の大切な話が逆に浮いてしまう。お前の登場シーンなんぞどうでも……ええっ! ルッカ胸のサイズ誤魔化してたの!? え? じゃあ本当は何カップなの? B? まさかAは無いよね? 俺巨乳好きなんだけど! ところで大臣なんで見抜けるの? その技術俺にも教えてくれない? 経験の差とかならぶち殺す。


「早く行こう二人とも! もう一秒だってこんな所に居たくないの!」


「ほら、マールもそう言ってるから行くぞルッカ。俺だって大臣に聞きたいことは沢山あるけど我慢するんだから、耳の穴にハンマーの柄をねじ込むのはやめなさい。若干その大臣喜んでるから」


 親の仇いや世界の仇といわんような顔で大臣に拷問をかましているルッカ。鼻をすんすん鳴らしながら涙を流している姿に兵士達数人が「俺も踏まれたい……」とか寝ぼけてる。嫌だもうこの城。碌な奴がいない。今さっきまで喧嘩してたマールには悪いけどまともな奴王様だけだ。この中で一緒に酒を飲むなら誰と問われれば断ットツで王様だわ。


 ルッカを羽交い絞めにしながら扉から外に出る。
 逃亡する側の俺だけど、今なら簡単に俺たちを捕まえられますけど、いいんですか、見送って。


「待てー!」


「マールディア様がいなくなれば誰がこの城の萌えを担当してくれるのだ!」


「せめて、せめて何色だったか教えてくれー!」


「豚と、豚と呼んでください! 出来たら踏んでください! 器具や衣装その他諸々は僕の家に揃ってますから!」


 ルッカが涙を拭い自分の足で走るようになると急に兵士達が走って追いかけてきた。つまりあれだね、こいつらルッカの泣き顔を堪能したかっただけなんだね。
 中世も酷かったけど、現代は輪をかけて酷いな、そこで生きてる人間の頭。
 俺たちのようなまともな人間が住みやすいユートピアはないものか。


 町に出る道は兵士達で封鎖されており、仕方なく今まで通ったことの無い道をひた走る。マールのボーガンやルッカの威嚇射撃のおかげで距離はひらいていく。
 このままなんとか森を抜け、リーネ広場に着けばほとぼりが冷める迄中世に潜んでいる、これが最良の選択だと思う。本当は船で違う大陸に行くのが一番なんだろうけど、そこまで本格的な高飛びはちょっと決心がつかないし、無事逃げ切れるとも思えない。港はガルディア領なのだ、俺たちが森を出るとすぐさま封鎖するに違いない。
 そうだな、まず中世に着くと城に行こう。仮にも王妃を救い出した国の恩人なんだ、何年住もうが追い出したりはしないだろう。魔王討伐やらに力を貸してくれとか言われたらまた逃げれば良い。俺たちは放浪者になるのさ!


「行き止まり!?」


 俺がある程度逃亡計画を練っていると、ルッカが絶望したような声で絶望的な事を言う。ほらね、地に足をつけて生きていこうとしない人間はこうして天罰をくらう羽目になるのさ。


「……いや、待って。ゲートがあるわ!」


 ゲート? こんな所になんとまあ都合よく。
 ……が、これは安易に飛び込んでいいのか? ゲートの先が魑魅魍魎がそこら辺を歩いてないとも言い切れない。


「行こう! どんな所でも、私の為にクロノが捕まっちゃう世界よりはよっぽどいいもん!」


 俺の迷いを断ち切るように、マールがそうしよう! と体を動かし全身でアピールする。
 なんとまあ、思い切りがいいというか、考えなしというか……でもまあしかし。


 後ろを見るとすぐそこまで追ってきている兵士の群れ。その中に大臣も混じっているが、背の低い大臣は兵士の足にぶつかりよろよろになっている。やはり位が高かろうと無能な人間には敬意を払わないらしい。


「行くしかなさそうだな、ルッカ!」


「……ああもう、こうなりゃどうにでもなれね。行くわよ!」


 ルッカがゲートホルダーを掲げると、ゲートが俺たちを包み、その場所からワープするのと走りこんできた兵士達とはタッチの差だった。
 最後に大臣の呆然とした声が聞こえた気がした。










 ……長い。
 ゲートの移動も三回目になり慣れたのか、体は動かずとも意識だけは残るようになった。
 この場合の長いは、現代から遠く離れた過去、もしくは未来に繋がっているという解釈でいいのだろうか? 中世との行き来では意識が無かったのでその度合いは分からないが……
 無意味に考察していると、少しづつ目の前が明るくなってきた気がする。
 そうか……着いたのか。
 俺は薄ぼんやりと目蓋を開いた。




 ゲートは心持ち高い場所から俺たちを吐き出した。
 まずは俺。思い切り背中から落ちた俺は肺の中の空気を吐き出し、新たに酸素を補給しようとすると腹の上にマールが落ちてきた。それだけでは飽き足らず、ルッカは俺の顔面に膝を叩きつけていく。こういうのラブコメ漫画とかで見たことある。見てるときは羨ましかったけど、いざ体験してみるとかなりの悶絶物なんですね。この鼻からでる血液はやったぜ! エロハプニングゲットォ! 風味な血液なのだろうか? 必死になって否定するのも馬鹿らしいので一言言っておくが、俺は痛みで興奮するようなマゾじゃない。どちらかとSっ子である。


「いったー……ちょっとクロノ、もうすこし柔らかい顔になりなさいよ、痛いじゃない」


「俺の顔の惨状を見てそういうことを言いますか貴様」


 手で押さえようと指の隙間から絶え間なく血が溢れ出る。気の弱い子なら卒倒するレベルだぜこれ。


 どれだけ顔が痛かろうとまずは周囲の確認をする。周りを見ると、壁の所々に穴が空いており、その隙間から精密機械らしき物が埋め込まれ、隙間を覗き込んでみれば底の方になにやら酸えた臭いのする液体が充溢している。空気は視認出来るほどの塵?が浮遊しており息を吸うだけで咳き込みそうになる。床、壁、天井全てが鉄製という、現代ではごく稀な建物のようだ。もしかしたら今回は未来に来たのかもしれない。ゲートの後ろには顔のような模様のついた扉があり、蹴ってみたがビクともしなかった。
 ……現状確認短いが終了。とにかく紙かなんか無いか?この勢いで鼻血が出続けたら貧血で意識を失うかもしれない。


「ほらクロノ、こっち向いて」


 マールが俺の肩を叩き自分の方に向かせる。何ですか? 顔面血だらけの人の顔なんて珍しいからしっかり見ておきたいんですか? ……マール、君だけは綺麗なままでいてほしかった。


 被害妄想に囚われていると、マールが俺の鼻に手をかざし、優しく触れた。すると、信じられないことに俺の鼻血が急速に止まっていく。
 十秒もしないうちに血液は凝固して、固まった血がポロポロと落ちていく。


 驚いている俺をマールは心配そうな顔で見つめてくる。ちょっと、瞳を揺らすのは駄目だよ、おいちゃん彼女いない暦イコール年齢なんだから、勘違いしちゃうよ。


「もう痛くない? 私の力はお母様みたいに強くないから、ちゃんと治らなかったらごめんね」


「い、いや、大丈夫だよ。もう全然痛くないから……す、凄いなマール。こんな力を持ってたのか!」


 どもりながら必死に言葉を探してマールと会話する。うわ、絶対今の俺顔真っ赤だわ。ところでなんでルッカも顔真っ赤なんですか? マールに見惚れて、とかなら俺嫌だな、幼馴染がレズビアンとか。


「ガルディア王家の人間は、時々私みたいに軽い治癒能力を持つ人間が生まれるらしいの。昔はそれで次代の王を決めたとかって話もあるんだよ、まあ今は廃れた因習だけどね」


 顔が赤いことをバレないようにする為の話題だったのだが、上手く隠せて良かった。俺はクールがウリなんだから、そんな無様な姿は見せられない。今年の夏はクールな男がモテるっ! て何かの週刊誌で書いてあったから、俺はそれを日々実践している努力の男。


「私が乗っちゃったお腹は痛くないよね、私は軽いから」


「……ちょっと、それはどういうことなのかしらマールディア王女」


「気づいてないと思ったの? お城であったときからルッカ、ずっと私のこと睨んでるよね、これ位の意趣返しはあって然るべきだよ」


 ……あれ? さっきまでの青春空間は何処? なんかギスギスしてる。何だろ、売れ込みの仕方が似通ってるアイドルが二人で会ってるときみたいなこの空気。


 ルッカはチッ、と舌打ちをして壁際のマールに近づき、顔のすぐ右側の壁を力強く叩いた。バン! という音がこの小さな空間を支配する。もう怖いよやめようよ折角三人で違う時代に来たんだからもっと楽しくしようよ、遠足気分でさ。ほら、ウノやろうウノ! 俺強いんだぜウノ。来る手札によっては。


「じゃあ言わせて貰いますけどねマールディア王女。貴方は何でクロノが刑務所に入れられたのを止めなかったの? 貴方ならできたはずよね、なんせ王女なんですから」


「それは……最初、クロノのことを信じ切れなかったから……でも、今は違う。だってクロノは私の友達だもん! だから私はクロノを助ける、そう決めた。だから私はここにいるの! 違う!?」


 うん、マールが俺を信じられなかったのも無理は無い。俺はペンダントの件を話してないんだから。……正直、今となってはうやむやにしといたまま終わりたいのだが。あれだけシリアスやっといて原因はゲロとか。俺どういう顔で話せばいいんだよ。


「だからクロノ。今はまだ、貴方が何でペンダントを持って行こうとしたのかは聞かない……でも、いつか、いつか話してもいいと思えたら私に話して……約束」


 そんなはかない願いですら叶うことはない。
 それを教えてくれたのは、笑顔の可愛い女の子でした。
 小指を俺に差し出すマール。俺も小指を突き出し指きりをした。ああ、ちゃんと歌も歌うの? ……ごめん、俺それは歌えないわ。


「まだ話は終わってないの! 勝手にイチャイチャしないでよ! 鬱陶しいのよ!」


 壁を蹴ってマールの指切りを中断させるルッカ。そうかな、俺はほっこりできたけどな、恥ずかしかったのは否めんが。
 マールは最後まで歌いきりたかったのか、むっとした顔でルッカに向き直る。口挟んでいいのかどうか分からないけど、顔近くない? マジでキスする五秒前みたいな距離なんだけど。ここで百合展開とかもう……してもいいけど俺、覗くよ?


「まだ不満があるの? しつこいよルッカ」


「しつっ!?」


 ありゃあ、ルッカさんこめかみに青筋が浮かんでますね、これは非常に危険な兆候です。私はこの状態のルッカに昔背中にゲジゲジを入れられたことがあります。絶叫なんてものでは優しすぎるものでした。凄い腫れたしね、背中。


「……二日、二日よ」


「?」


 急に何を言い出したのか、と困惑するマール。それがあんたの残りの命よ! とか言い出したらちょっと面白いけどこれから俺はルッカの行動を逐一チェックしないといけなくなる。単純に言えば外れろ、この予想。


 ルッカは何を言ってるのか分からないという様子のマールをせせら笑い、そんなことも分からないのかという顔をする。結果、面白いはずが無いマールの機嫌も直滑降。富士急のジェットコースターの如く。


「クロノが捕まってた日数よ……貴方はその間何をしてたの? ねえ、貴方のために危険を顧みずゲートに飛び込んでくれたクロノが牢屋で苦しんでいる時! 貴方は何をしてたのよマールディア王女!」


「そ、それは……」


「クロノを信じられるようになるまでの準備期間? 随分ゆったりしてたのね、その間クロノはずっと辛かった! 貴方が豪華な朝食を食べている時クロノはおよそ人が食べるようなものではないものを口に入れてた! 貴方が優雅に読書を楽しんでる時もクロノは衛兵の苛めに歯を食いしばって耐えてた! 貴方が当たり前のように浴びていたシャワーにも入れず虫が蠢く汚い牢屋で苦しんでたのよ!」


「そんな……私は、私だって沢山悩んで、沢山苦しんで……」


「私はね、そういう精神的な曖昧なものの話をしてるんじゃないのよ、貴方が苦しんだ? それは誰が証明できるの? 貴方しかいないでしょう? ……ああ、貴方の大好きなお父さんに相談してたかしら? だったらここに呼んでみなさいよそしたら少しは信じてあげるから!」


「もうやめてよぅ!!」


 えええもう怖いよもう女子の喧嘩って本当怖い。なまじ喧嘩の理由が俺なものだから肩身が狭いし耳を塞ぐわけにもいかないし。あとさ、ルッカ俺のこと凄い良いように言ってくれてるけど、俺は助けに行く前に爆睡したり、牢屋の生活もルッカが思ってるより苦しいものでもなかったよ? 確かに食事は酷かったけど水は言えばくれたし汚いベッドも慣れたら気にならなくなるし、衛兵の苛めってどっちかというと苛めたの俺っぽいし、最後にシャワー云々って言ってるけどお前俺のこと普通に臭いって言ったじゃん。いや、今口挟んだら絶対ややこしくなるから黙ってるけどさ。


「私はクロノが捕まったのを知ったのは二日後のことだった。それから私は二時間で全ての準備を整えてすぐに助けに向かった。……この差が分かる? 私はただの平民、貴方は王族。貴方なら比較的容易にクロノを助け出せれた貴方はクロノを救えるのに最後の最後でしか助けに来なかった! 私が貴方ならすぐに助けた! どうして!? 何故クロノを助けてあげなかったの!?」


 気のせいだろうか? ひぐらしの鳴き声が聞こえる……そして何故か一人っ子のルッカが双子の妹に見える……それも実は姉みたいなややこしい設定で。


「貴方には分からない! 王族である苦しみは! どれだけ重いものを背負わされているかも! 私だって……私だって貴方の立場ならすぐに助けに向かったもん! それも最後の最後でポカなんてしない! ルッカはクロノを助けたっていうけど、結局出口を壊しただけじゃない!」


 それを言っちゃあお終いだよマールさん。まあ、ドラゴン戦車が本当に放っておいたら勝てる代物だったなら、牢屋からは脱出してたルッカのやったことはマイナスでしかないけども、そういうのはやっぱり心意気じゃない?


「……よくも言ったわね! もう王女だからって遠慮なんかしないんだから!」


「よく言うよ! 最初だけじゃない遠慮なんかしてたの!」


 そうしてここに始まるキャットファイト……あかんあかん! 手は出したらあかんでえ! 昔から喧嘩は手え出した方の負けと言うでなぁ! ここ、ここはおっちゃんの顔に免じてええぇぇぇ!!!


 二人のガチバトルは互いのクロスカウンターが俺の顔に爆誕して一先ずの終結を迎えた。燃え尽きたぜ……真っ白にな……








「ごめんねクロノ……ごめん」


 鼻を鳴らしながら俺の顔を治療してくれるマール。いや、凄い有難いし痛みも消えていくんだけど、顔近くね? 君のATフィールド狭いね、もしくは無いよね。
 ……いや、正確には今さっき築かれたんだよな、心の壁。
 ルッカはもうマールの存在を完璧に無視している。一方マールもルッカを無視しようとしているのだが、やっぱり自分を無視するルッカに苛立ってしまう。第一回戦はルッカに軍配が上がりそうだ。勝負の決め手はあれか、ルッカの性格の悪さ……もとい…………うん、ルッカの性格の悪さが功を奏す結果となったようだ。
 しかし、これは俺も意図してのことではない……つもりなのだが、やられっ放しのマールに心持ち優しくしてしまうのがルッカの機嫌を損ねている。このように両者互いに拮抗して、そのせいで二人の仲はグングン悪くなっていく。かといって俺がマールの味方をせずにいるとマールがやられっ放しで壊れてしまうかもしれない。……まあ、心情的にルッカの言うことも俺のことを思ってのことだし、理解したく無い訳ではないのだが、やはり俺はマールの言い分で良いと思う。結果的に俺たちを助けてくれたんだし、マールのことだから俺が牢屋の中にいた二日間、本当に悩んでくれたのだろう。多分俺自身よりも辛かっただろうし。
が、だ。ここで俺がマールの言い分を完全無欠に認めてルッカに謝れ! と言えばどうなる? 本心から自分のことを助けようと発言した友達の頭をしばいてごめんなさいしろ! と言うのと同義じゃないか。優柔不断と言われようが、俺にはどうすることもできない。


 ……まあ長々と心境を綴ったが、本音を言えば勘弁してくれ、だ。
 あれからゲートのあった建物を出た俺たちは当ても無く歩き続けた。
 それだけならば良い。しかしルッカは完全にマールを無視しているから俺にだけ話しかける。変に対抗心を燃やすマールは負けじと俺に話しかける。二人が二人とも相手の声に負けないような声量で話しかけるので最後には言葉なのかどうかも分からない叫び声を響かせる。もう俺頭痛いよ泣きたいよ。
 それで息切れするまで叫んだ二人は深く息を吸いげほげほ咳き込むのだ。先述した通り、この未来(ルッカが俺にだけ向かって文明が発達した世界だと話してくれたので、確たる証拠が見つかるまでそう呼称する)は非常に空気が悪い。その上外は風が強く、赤茶けたサビが混ざった砂が舞っているのでそりゃあ咳き込むさ。
 すると二人は咳き込みながらどちらの心配をするのかと俺を睨む。最初は二人とも近くにいたので右手でルッカの背中を、左手でマールの背中を擦ってやったのだが、どうしても勝負をしたい二人は咳き込むと互いに離れるようになった。どちらかの背中しか擦れない距離に。
 俺が出した答えはどっちの背中も擦らないだった。こういう時になんで選ぶ側がどちらかを見捨てるというリスクを背負わなくてはならないんだ。だったら俺はどっちも見捨てる。外道じゃない、これが正解なんだ。


 未来に着いてまだ三十分と経っていない。
 俺たちは、いやさ俺はこの時代を無事に生き抜けるのだろうか?


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