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No.20619の一覧
[0] 星は夢を見る必要はない(クロノトリガー)【完結】[かんたろー](2012/04/28 03:00)
[1] 星は夢を見る必要はない第二話[かんたろー](2010/12/22 00:21)
[2] 星は夢を見る必要はない第三話[かんたろー](2010/12/22 00:30)
[3] 星は夢を見る必要はない第四話[かんたろー](2010/12/22 00:35)
[4] 星は夢を見る必要はない第五話[かんたろー](2010/12/22 00:39)
[5] 星は夢を見る必要はない第六話[かんたろー](2010/12/22 00:45)
[6] 星は夢を見る必要はない第七話[かんたろー](2010/12/22 00:51)
[7] 星は夢を見る必要はない第八話[かんたろー](2010/12/22 01:01)
[8] 星は夢を見る必要はない第九話[かんたろー](2010/12/22 01:11)
[9] 星は夢を見る必要はない第十話[かんたろー](2011/08/02 16:03)
[10] 星は夢を見る必要はない第十一話[かんたろー](2011/01/13 06:26)
[11] 星は夢を見る必要はない第十二話[かんたろー](2011/01/13 06:34)
[12] 星は夢を見る必要はない第十三話[かんたろー](2011/01/13 06:46)
[13] 星は夢を見る必要はない第十四話[かんたろー](2010/08/12 03:25)
[14] 星は夢を見る必要はない第十五話[かんたろー](2010/09/04 04:26)
[15] 星は夢を見る必要はない第十六話[かんたろー](2010/09/28 02:41)
[16] 星は夢を見る必要はない第十七話[かんたろー](2010/10/21 15:56)
[17] 星は夢を見る必要はない第十八話[かんたろー](2011/08/02 16:03)
[18] 星は夢を見る必要はない第十九話[かんたろー](2011/08/02 16:04)
[19] 星は夢を見る必要はない第二十話[かんたろー](2011/08/02 16:04)
[20] 星は夢を見る必要はない第二十一話[かんたろー](2011/08/02 16:04)
[21] 星は夢を見る必要はない第二十二話[かんたろー](2011/08/02 16:05)
[22] 星は夢を見る必要はない第二十三話[かんたろー](2011/08/02 16:05)
[23] 星は夢を見る必要はない第二十四話[かんたろー](2011/08/02 16:05)
[24] 星は夢を見る必要はない第二十五話[かんたろー](2012/03/23 16:53)
[25] 星は夢を見る必要はない第二十六話[かんたろー](2012/03/23 17:18)
[26] 星は夢を見る必要はない第二十七話[かんたろー](2011/08/02 16:06)
[27] 星は夢を見る必要はない第二十八話[かんたろー](2011/08/02 16:06)
[28] 星は夢を見る必要はない第二十九話[かんたろー](2011/08/02 16:06)
[29] 星は夢を見る必要はない第三十話[かんたろー](2011/08/02 16:07)
[30] 星は夢を見る必要はない第三十一話[かんたろー](2011/08/02 16:07)
[31] 星は夢を見る必要はない第三十二話[かんたろー](2011/08/02 16:08)
[32] 星は夢を見る必要はない第三十三話[かんたろー](2011/03/15 02:07)
[33] 星は夢を見る必要はない第三十四話[かんたろー](2011/08/02 16:08)
[34] 星は夢を見る必要はない第三十五話[かんたろー](2011/08/02 16:08)
[35] 星は夢を見る必要はない第三十六話[かんたろー](2011/08/02 16:07)
[36] 星は夢を見る必要はない第三十七話[かんたろー](2011/08/02 16:08)
[37] 星は夢を見る必要はない第三十八話[かんたろー](2011/08/02 16:07)
[38] 星は夢を見る必要はない第三十九話[かんたろー](2011/08/02 16:06)
[39] 星は夢を見る必要はない第四十話[かんたろー](2011/05/21 01:00)
[40] 星は夢を見る必要はない第四十一話[かんたろー](2011/05/21 01:02)
[41] 星は夢を見る必要はない第四十二話[かんたろー](2011/06/05 00:55)
[42] 星は夢を見る必要はない第四十三話[かんたろー](2011/06/05 01:49)
[43] 星は夢を見る必要はない第四十四話[かんたろー](2011/06/16 23:53)
[44] 星は夢を見る必要はない第四十五話[かんたろー](2011/06/17 00:55)
[45] 星は夢を見る必要はない第四十六話[かんたろー](2011/07/04 14:24)
[46] 星は夢を見る必要はない第四十七話[かんたろー](2012/04/24 23:17)
[47] 星は夢を見る必要はない第四十八話[かんたろー](2012/01/11 01:33)
[48] 星は夢を見る必要はない第四十九話[かんたろー](2012/03/20 14:08)
[49] 星は夢を見る必要はない最終話[かんたろー](2012/04/18 02:09)
[50] あとがき[かんたろー](2012/04/28 03:03)
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[20619] 星は夢を見る必要はない第七話
Name: かんたろー◆a51f9671 ID:423dceb7 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/12/22 00:51
 事の成り行きはこうだ。
 現代(俺たちの住んでいた時代)に帰ってきた俺たちは、各々行動を開始した。
 ルッカはゲートの発生した原因を調べるべく自宅に帰り、研究。
 俺はマールを城までエスコートをすることになり(そう決まった時何故かルッカは清水の舞台どころか、エッフェル塔から飛び降りようとしているような、断腸の思いで決意する、という顔だった)、俺としてもそう反対する理由もないので了承した。
 中世(カエルと出会った時代)の時から微妙に続くギクシャクした空気を背負いながら、俺はマールをガルディア城に連れて行った。途中の森に生息するモンスター達は俺が戦うまでも無く、どこかボンヤリとした表情のマールが次々に打ち抜いていった。だから、男の俺に花を持たせてみようという気概はないのか。最近、男よりも女の方が活動的で頼りがいがあるという風潮があるが、それは決して間違いじゃないのかもしれない。火の無い所に煙は立たぬのだ。


「マ、マール様! ご無事でしたか? 一体今まで何処に!?」


 城に入るなり大臣らしき男が(過去も現代も大臣の服は同じのようだ)俺の存在を無視して、口から唾を飛ばしながら走ってくる。言葉にする気はないけど、馬糞の次に嫌いな匂いが老人の口臭である俺なのでそういう嫌がらせは止めて頂きたい。


「何者かに攫われたという情報もあり、兵士達に国中を探させていたですぞ! ……ん? そこのムサイ奴! そうかお前だなっ!? マールディア様を攫ったのは!」


 誰がムサイんじゃシティボーイクロノに向かって。


「違うよ! クロノは……」


「えーい! ひっ捕らえろ! マールディア様をかどわかせ王家転覆を企てるテロリストめっ!!」


 マールが誤解を解こうとすると、意図的に無視したかのように大臣が大声を被せる。王家転覆を企てるだって? 困るなあ、こんな日の高いうちからお酒なんて飲んじゃあ。そんな奴が大臣になんてなるから内閣支持率が低下するんだ。何だよ非実在少年って。俺は断固としてジャン○を応援するぞ、購読してないけど。


「や、やめてー!」


 マールが悲鳴を上げて、俺に近づく兵士を押し留める。事ここに至っても俺は自分の身に起きてる危機に現実感を抱けずにいた。あれでしょ? ヤラセでしょ?


「やめなさーい!」


 分かってますよ、俺は騙されませんよとニヒルな笑顔で口端を持ち上げているとマールが城中に響き渡るのではないかという声で一喝した。
 ……ドッキリなんですよね? マールは演技派だなぁ……ドッキリですよね? ね?
 マールの声に驚いた兵士達は膝を床に付けて跪いた。演技指導が行き届いてる、素晴らしい。


「な、何をしておる!」


「しかしマールディア様が……」


 俺を捕まえようとしない兵士達に動揺した大臣は額から汗を流しながら兵士に詰め寄った。兵士も大臣と王女の命令、どちらを優先すべきかと悩んでいる。俺としては王女優先に一票。はらたいらさんに三千点。


「かまわーん! ひっ捕らえーい!」


 大臣の言葉のごり押しに負けた兵士達は俺を取り押さえた。いつだって勢いのある人間が場を動かすのだ。勢いのある奴が間違ったことを言っているケースの方が高いのだけれども。
 俺を床に押し付けながら兵士達が小声で


「貴様、マールディア様と何をしていた!」

「どこまでいった? どこまでいったんだ!」

「あの陶器のような白い柔肌に貴様の穢れた手が触れたというのか? どうなんだハリネズミ頭ぁぁぁ!!」

「何色? 何色だった?」


 と語りかけてくるのはたまらなかった。


「クロノーッ!!」


 マールの叫び声を聞いて、あ、これマジなんだ。ガチンコなんだ、と気づいた。









 星は夢を見る必要は無い
 第七話 彼の犯した唯一の罪とは











「この男をどうしましょう……火あぶり? くすぐりの刑? 逆さ吊り? ……それとも、ギロチンで首を……」


「オーディエンスを使います」


「駄目じゃ、潔く死ね」


 そしてここに戻る。


 大臣は俺に死ねとこの場においては冗談になっていない言葉を残して俺から離れていく。


 そう、今俺がいるのは裁判場。そして俺が立たされている場所は証言台。俺のポジションは被告。俺はレフトしか任された事はないのに、こんな奇抜な位置に置かれるとは中々ヨーロピアンじゃないか。


「さて、私が検事の大臣じゃ!」


「私が弁護士のピエールです」


 傍聴席の人間に聞こえるよう、裁判場に響き渡る声を出す大臣。それに比べてのほほんとした雰囲気の弁護士。あんた言う時は言うんだろうな? ちゃんと相手を指差して意義有り! って言うんだろうな?


「それでは被告人クロノ! 証言台につきなさい」


 髭をもふぁもふぁ生やした裁判長の言われるまま証言台に近づく。
 ……なんだこれ? 現実なのか? 俺の理解を遥かに超えた現状にもう漏らしそうです。頭が熱暴走を起こしてますよ、医者を呼んでくれ。
 俺の右脳が真っ赤に燃える! 理解が出来ぬと轟き叫ぶ!


「まず私からいきましょう。クロノに本当に誘拐の意思があったのか? ……いや無い。検事側は被告が計画的に王女を攫ったと言いますがそうでしょうか? ……いや違う。二人は偶然出会ったのであって決して故意ではありません」


 何度も何度も弁護士に話したことを繰り返させられる。計画的に犯行しといて祭りを一緒に回るってどういう思考回路なんだよそれ。


「果たしてそうでしょうか? どっちがきっかけを作りましたか?」


 大臣が俺の隣まで偉そうに足音を鳴らしながら歩いてきて問いかけてくる。


「……いや、どっちって言われても。説明すると酔ってふらついた俺にマールが跳び膝蹴りを」


「よろしい! 聞いての通り偶然を装って被告は王女に近づきました!」


「どの通りだよ! 人の話し聞けよ! このファシストが!」


「被告人、許可無く喋らないこと」


 裁判長が俺を睨んで注意する。碌に生徒の言うことを聞かず一方的に悪者にする教師みたいな奴だ。時代遅れなんだよ、モンスターペアレンツ舐めんな、給食費出さねえぞコノヤロー。


「そして王女は誘われるままルッカ親子のショーへ足を運びます。その姿は何人もの人が目撃しています。そして二人は姿を消した……これが誘拐じゃなくして一体何でしょう?」


 待て待て俺が誘ったんじゃねえぞ、俺は嫌だと何度も言ったんだ!
 そう叫ぼうとすると裁判長がギヌロ、と俺を見る。くそっ! 何処が目か分からねえ顔の癖に!


「被告の人間性が疑われる事実も私はいくつか掴んでいます」


 大臣はそんな俺をみて薄笑いを浮かべながら饒舌に話を続ける。弁護士、お前さっきから何にも役に立ってねえぞ? お前もカエルと同じがっかり属性持ちか?


「意義有り!」


 怨念の篭った眼差しを送っていると弁護士が真上に顔を向けながら勢い良く右手の人差し指と左手の人差し指をそれぞれ上下に向けてポーズを決めた。何それカッコいい。今度俺も使っていい?


「それは今回の検証に関係あるのでしょうか? ……いや無い」


 弁護士の話を聞いて裁判長がゆったりと顔を動かして大臣を見る。


「関係あるのかね? 大臣」



「はい。証言の正しさを示す為にも被告の人間性を知らせておく必要があります」


「……いいでしょう」


 弁護士は両手で三角を作り喉の奥鳴らし、悪そうな顔になった。何そのポーズ、あんたネタの宝庫だね。
 コツコツと裁判場の中央まで歩き、おもむろに体を回転させながら裁判場の扉を指差した。カッコいい! もしあんたが戦隊物のヒーローに抜擢されたら毎週欠かさず見るようにするよ!


「では証人を連れて来ましょう。被告の誠実さを証明する実に私好みの可愛い証人を!」


 体を曲げた状態でキープしながら宣言する弁護士。あんたがホテルを取るなら、俺、構わないぜ……


 扉を開いて裁判場に入ってきたのは俺が祭りの時に猫を探してあげた四、五歳の女の子だった。
 あ、弁護士さん定位置に戻るときに僕の近くを通らないでくださいますか? ペドフィリアがうつるので。このアリスコンプレックスが。


 あの時は助けてくれてありがとうね、お兄ちゃんとお礼を言いながら女の子は帰っていった。


「どうです? この若者の行動は? 勲章物ですよ」


 両腕をばたつかせながら周りを見渡す弁護士。……くっ! 悔しいが、今はお前の方がカッコいい!
 宙に浮けると信じて疑わないきらきらした顔で俺に近づいてくる弁護士。近いよ近い。あと抹香臭い。



「くくっ。きいてるみたいよんっ」


 よんっ!? ええ年しててよんっ!?



「弁護士、よんっ。は気持ち悪い、やめたまえ。裁判長昨日鼻風邪が治ったばかりなのに寒気がした」


 コンコン、と木槌を叩いて注意する裁判長。ここのシステム良く分からないけどさ、そういう事の為に使うものなのその木槌。
 弁護士は一言すいません。ちょけましたと謝罪し、また傍聴席を向く。


「問題は動機です。この一市民にマールディア王女を誘拐する動機が何処にありましょう?……いや無い」



「お言葉を返すようで悪いが、財産目当てというのはどうかなクロノ君? 王女の財産に目が眩んだのだね?」


「違います」


「ほうら! 裁判長聞きましたか? この者は」


「違うっつってんだろーがあああぁぁ!!!」


「はみゅううぅぅぅ!!」


 人の話を曲解し過ぎる大臣に俺は思わず後ろ回し蹴りをみぞおちに叩き込んだ。妙に萌えな声を出すなこの大臣。


 またコンコン、と木槌を叩く裁判長。まずい、やり過ぎたか……?


「被告、裁判長は暴力が嫌いだ。何故なら怖いからだ。やめて下さい」


 えらく低姿勢な裁判長だ。こいつのポジション、別にその辺を歩いてるおっさんでも十分できるんじゃね?


 ともあれ、裁判の雰囲気は無罪に持っていけそうな空気になっている。弁護士も俺にサムズアップしているし、俺は胃のキリキリ感が収まっていくのが分かった。


「げほげほ……待ってくれたまえ、被告人。最後に聞きたいことがある」


 腹を押さえながら俺を恨みがましそうに見ながら話しかけてくる大臣。ぼとぼと唾を落とすなよ、ボケが始まったのか?


「……君はマールディア王女のペンダントを奪って逃げたね?」


「はあ? 俺はマールにちゃんとペンダントを……!!」


 しまった、やられた。
 こいつは……あの時の俺の行動を言っているのか!?


「思い出したようじゃな……お前はマールディア様の落としたペンダントを先に拾い、すぐさま何処かに走り出した! マールディア王女が探しているのを見たくせに! これはつまりマールディア王女のペンダントを狙ったと解釈するしかない! どうです皆さん!? こんな男の言うことを信じられますか? 間違いなくこいつは王家転覆を狙うテロリストなのです!」


 やばいやばいやばい! 確かにこいつの言っていることは真実! 祭りの中だ、証人も大勢いるだろう! なにより、俺はコイツの言うことを否定できない! もし否定してその根拠を問われれば、俺はマールのペンダントをゲロ塗れにしたことを暴露しなくてはならない!
 背中から嫌な汗がブワッと溢れ出る。その様子を見て弁護士のピエールもどういうことだとこちらを見る。
 ……誤魔化せ……られない!!
 ……いや、いっそ正直に言ってしまおう。このまま王女誘拐を目論んだ男として罰せられるよりも、王女の持ち物を嘔吐物の海に叩き込んだ男として罰せられる方が幾分減刑できるだろう。


「違う! 俺があのペンダントを持って逃げ出したのは……」



「待って!」


 え? この声は……


「お、王女様……」


 まままマールさああぁぁぁん!! 一番来てほしくない時にいいいぃぃぃぃ!!
 俺は言いかけたことを言葉に出来ず、放心してしまった。


「いい加減にしなさい! マールディア!」


「父上! 聞いて下さい!」


 赤いマントを纏い、金色の冠を頭に載せて、威風堂々たる佇まいで裁判場に現れたのはマールの父、つまり国王ガルディア33世だった。
 そのオーラは見る者を圧倒し、王たる風格を見せつけていた。


「私はお前に王女らしく城でおとなしくしていてほしいだけだ。国のルールには例え王や王女でも従わなくてはな……後のことは大臣に任せておきなさい。マールディアも町での事は忘れるのだな」


 いつのまにか両隣に立っていた兵士が俺の腕を掴み、歩き出す。
 俺は抵抗する気力は無く、だらりと体を動かした。


「待って! クロノを、クロノをどうする気なの!?」


 必死に王に取りすがり俺の安否を気にするマール。……止めてくれ、俺のことをマールが気にする必要は無い。そう思う理由がまた酷い。


「決まっておるだろう、王女誘拐の罪ともなれば、終身刑以外にはあるまい」


「そんな!?」


 国王を説得するのは無理と判断したマールは兵士の腕に掴まれだらしなく崩れている俺に話しかける。


「ねえクロノ? 一度私のペンダントを持っていったのには理由があるんだよね? だからそれを言って! そうすればクロノは無罪になるかも……だから!」


 駄目なんだよマール……それは、それだけは君の前で言うことはできない。
 マールの声に反応しないマールは、少しずつ顔色が冷めていき、一歩ずつ俺から離れていく。
 きっとこの距離は、肉体的だけの意味じゃない。


「そんな、そんな、なんで答えてくれないの? ……本当にクロノは、私を誘拐しようとしたの? ねえ、何とか言ってよ!!」


 最後の叫びは涙交じりで、怒りよりも悲しみが強くて。彼女の笑顔がどんなものだったかまで忘れてしまいそうな、悲しい顔だった。


 何を言っても無反応である俺を見ているのも辛かったのか、マールは走って裁判場から出て行ってしまった。
 バタバタと走る足音と、泣きながらの言葉だったので、大半の人間には去り際の言葉は聞き取れなかったに違いない。けれど、俺には分かる。だって、マールがこれ以上俺にかける言葉なんて一つしかないのだから。





「だいっきらい」





 これほど腹に重たく響く鈍痛は、生まれて初めてだった。















 俺は城から直接繋がっている刑務所まで長い渡り通路を後ろから兵士に押されて歩かされ、刑務所の管理人に会い、衛兵に気絶させられて、目が覚めるとそこは牢屋の中だった。
 牢屋の中は正方形型で、部屋の隅から隅まで三メートル弱という広さだった。
 微かに開いた穴から外の光が洩れて、そこから吹く風が体を縛る。床にコケが生えていない場所は珍しいくらいで、ベッドの布団から見たこともない虫がチロチロと生息していた。天井にはくもの巣が張り巡らされており、壁は黒ずんで、血のような染みが点々とついていた。俺の為のご飯はカビの生えたパンが一欠けら。用意されている水はコップの中に泥が入っていた。衛生面なんてまるで考えられていない環境。……こんなところに一週間もいれば発狂するか、病気になって死んでしまうだろうな。


 鉄格子の向こうに衛兵が二人立っている。衛兵たちが立っている先に俺の武器とポーション等の道具が無造作に置かれている。恐らく後で正式な場所に保管するのだろう。


 ……当然、俺はここで生涯を終えるつもりは無い。
 若い間に遊んでおけと町の老人に言われたが、青春の途中で人生を退場するなんて有り得ない。
 俺は、必ずここから出る。そして自由を手にする。こんな汚ねえ牢屋で一生を終えてたまるか。


 体の痺れが取れた俺はすぐに行動を開始した。
 まず窓。老朽化しているので頑張って壊せば外に出れるんじゃないかと空のコップで叩いてみた。結論、壊せるわけが無い。あほか。
 次に床。何かの本で床下に穴を掘り脱獄するという話があった気がする。空のコップで試してみた。結論、掘れるわけが無い。ばかか。
 残るは……


「ねえねえ衛兵さん。背中がかゆいんだけど、手が届かないの、かいて下さる?」


「気持ち悪いの時空を超えてお前が魔の眷族に見える。やめろ」


 衛兵さんを誘惑しよう作戦失敗。


「お、お腹が! お腹が痛い! 医者を呼んでくれぇ!」


「そこで漏らせ」


 仮病で衛兵さんを騙そう作戦失敗。


「神が、神の声が聞こえる! 貴方はまさか! ヴィシュヌ様ではありませんか!?」


「おーい、後で麻雀やろうぜー」


「おー、三時間後に交代だからその時になー」


 神の声が聞こえる御子を牢屋に入れておくなんてとんでもない作戦はよその担当の衛兵に俺の見張り担当の衛兵が声をかけられて失敗に終わる。
 ……万策尽きたか。
 一日目終了。明日こそはきっと、お天道様が俺の味方をしてくれるはずだ。





「ハッハッ! こいつは驚きだ! 俺はなんてご機嫌な踊りを編み出しちまったんだ! おいあんたもどうだい!? こいつは神父の説教を聴くより何倍もノリノリになれるぜ!」


「ふぁっきん」


 フレンドリィにダンスに誘う作戦失敗。後から考えれば成功したとしてどうする。


「……そうして彼の名前が決まりました。それはとてもとても長い名前で、全部話すと……」


「じゅげむじゅげむごこうのすりきれかいじゃりすいぎょのすいぎょまつうんらいまつふうらいまつくうねるところにすむところぱいぽぱいぽぱいぽのしゅーりんがんしゅーりんがんのぐーりんだいぐーりんだいのぽんぽこぴーのぽんぽこなーのちょうきゅうめいのちょうすけだ。寝ろ」


 お腹の底から笑わせてみよう作戦も衛兵が落ちを知っていたので断念。もうなんでも良くなってきた。


「見てくださいこの輝き。落として傷ついたコップもまるで新品のようです。勿論コップにしか効果が無い訳ではありません。布に多めに付けてサッと一拭きするだけで壁の汚れもほら、簡単に落ちちゃうんです。今ならこのクロノ印の唾液を一リットル二十ゴールドで提供させて頂きます。おっ得ー! ほらほら先着順ですよ? そこのカッコいい衛兵さん! 貴方もお一つお求めになっては?」


「カッコいい衛兵さん以外は妄言として扱うことにする」


 俺の唾を服に付けてその洗浄力を売り込む作戦も水泡と帰したか……こうしてみるとここの生活も様々なアイディアが溢れてきて悪くないかもしれない。
 二日目終了。明日はどうしようかな、口笛でクロノソロライブを決行してみようか。今の内に作詞作曲しておかないと。





「あーけーてー! あけてー! あけてよー! あければあけるし開かざる時!」


「ああもううるせえ! 黙ってろ馬鹿!」


 段々頭が弱ってきていると自覚した俺は散々牢の中で騒いで衛兵のストレスを溜めることにした。上手くいけばこれで脱出が可能かもしれない。


「馬鹿? 馬鹿って言った? 腹立つなーその言い方。はらたつのり。なんちゃって」


 自分で言ったギャグで爆笑していると衛兵の一人が「おい牢を開けろ! 黙らせてやる!」と鼻息荒く命令した。カルシウムが足りてないね、君。


 ゴゴゴゴ……と鉄格子が上がり衛兵が俺に近づいてくる。俺の間近に来た衛兵は剣を抜き、峰で俺の頭をぶん殴った。痛い、痛いがルッカのハンマーには遠く及ばない。


 倒れた俺を見て気を失ったと勘違いした衛兵が牢から出ようと俺に背を向けた。……さあて、脱獄劇の始まりだ。


 飛び起きて衛兵の剣を後ろから奪った俺は剣を鞘に入れたまま衛兵の喉に突きを入れる。悶絶して倒れた衛兵は無視して牢の中から出てもう一人の衛兵に剣を振りかぶる。初撃で兜を落とし、相手の攻撃をいなしてから相手の側面に飛び込む。王妃を倒したときの要領だ。その時に比べて迫力、難易度ともに比べるべくもないほど低いものだったが。
 後は回転切りできっちり膝裏、背中、後頭部に一撃を入れて昏倒させる。
 人間を殺すわけにはいかないので二人とも牢屋の中にあった鉄鎖で縛り、牢の中に入れて鉄格子を降ろした。これで俺が脱獄したことはしばらくバレないだろう。






「……これで俺の装備は全部か」


 鋼鉄の刀を腰に差してから、廊下を走り出す。
 牢屋の中ほどではないにしろ決して清潔ではない廊下は下を向く度に黒い虫が這いずり回っている。……俺ゴキブリが出ただけで悲鳴を上げるのに、昆虫図鑑でしか見たことが無い虫がうじゃうじゃいる所を走り回るなんて拷問だ。


 すぐにでも日の光を浴びたい、その一心で俺は脚に力を入れて前へと進んでいった。


















 おまけ





 ヤクラと王妃




「大臣、チョコレートです。私はチョコレートが食べたいのです。チョコレートがあれば私は城に帰らず修道院の中にいますから、急ぎチョコレートを持ってきて下さい」


「いや王妃、わしはお前を殺すために連れてきて……ああ、分かった! チョコレートだな! 待っておれ今すぐこのわしが作ってやろう! だから泣くのはやめて? お前の泣き声でわしの部下の鼓膜が破れて三人戦闘不能に陥ったのじゃから」


 大臣は優しい。
 この大臣が本当は本物ではなくモンスターだと分かっているが、それでも私にとっての大臣は目の前で私の我侭に四苦八苦している大臣なのだ。
 この前はクッキーが食べたいという私の要望に応えようとお菓子の作り方という本を読んでいたのを覚えている。きっと今回も本を見ながら美味しいチョコレートを作ってくれるに違いない。
 私はそれを想像するだけで、はしたなくも唾が溢れてくるのだ。


「大臣、それが終われば遊びましょう。前みたいにモンスターに変身して私を乗せて下さい。修道院内を走り回るのです」


「いやいや王妃、わしはここのモンスターを取り仕切っておるのだぞ? そんなわしが情けない姿を部下達に見せては示しが……うぬ! 全てこのヤクラに任せるがいいぞ!」


 チョコレートを作りに部屋を出る大臣は少し落ち込んでいたが、私はワクワクしていた。大臣の背中に乗って走ってもらうと建物の中なのに風を感じてとても気持ちが良いからだ。


 こんなに遊んだり好きなものを食べたりという生活は今までにしたことがない。城の中の生活は別段苦しくはないし、むしろ快適であったが、こんなに毎日が楽しくて、高揚感溢れる日々は無かった。


 それに、こんな風に年上の男の人に甘えることなんて今まで一度も無かった。
 私の父上は厳しくて、娘の私よりも国の方が大事という御方だった。
 それは為政者としては立派だし、私自身そんな父上を誇りに思っている。……けれど、私も誰かに甘えてみたいと思うのは傲慢だろうか?
 私はいつも誰かに思いっきり我侭を言って、誰かに思いっきり甘えたいと常々思っていた。それは、決して叶わぬ夢だと諦めていたのだけれど……


 だから私はあの本物ではないけれど、私にとっては本物以上の大臣は私の夢を叶えてくれる為に私に会いに来てくれたのではないかと思う。
 都合の良い想像だとしても、私がそう思うなら、私にとってそれは真実なのだ。


 出来るならば、少しでも長くこの生活が続くよう、それが今の私の願いである。
 ソファーの上に置いてある、この前大臣が私の為に作ってくれたぬいぐるみを抱きしめながら、私の未来を想像した。


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