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No.20619の一覧
[0] 星は夢を見る必要はない(クロノトリガー)【完結】[かんたろー](2012/04/28 03:00)
[1] 星は夢を見る必要はない第二話[かんたろー](2010/12/22 00:21)
[2] 星は夢を見る必要はない第三話[かんたろー](2010/12/22 00:30)
[3] 星は夢を見る必要はない第四話[かんたろー](2010/12/22 00:35)
[4] 星は夢を見る必要はない第五話[かんたろー](2010/12/22 00:39)
[5] 星は夢を見る必要はない第六話[かんたろー](2010/12/22 00:45)
[6] 星は夢を見る必要はない第七話[かんたろー](2010/12/22 00:51)
[7] 星は夢を見る必要はない第八話[かんたろー](2010/12/22 01:01)
[8] 星は夢を見る必要はない第九話[かんたろー](2010/12/22 01:11)
[9] 星は夢を見る必要はない第十話[かんたろー](2011/08/02 16:03)
[10] 星は夢を見る必要はない第十一話[かんたろー](2011/01/13 06:26)
[11] 星は夢を見る必要はない第十二話[かんたろー](2011/01/13 06:34)
[12] 星は夢を見る必要はない第十三話[かんたろー](2011/01/13 06:46)
[13] 星は夢を見る必要はない第十四話[かんたろー](2010/08/12 03:25)
[14] 星は夢を見る必要はない第十五話[かんたろー](2010/09/04 04:26)
[15] 星は夢を見る必要はない第十六話[かんたろー](2010/09/28 02:41)
[16] 星は夢を見る必要はない第十七話[かんたろー](2010/10/21 15:56)
[17] 星は夢を見る必要はない第十八話[かんたろー](2011/08/02 16:03)
[18] 星は夢を見る必要はない第十九話[かんたろー](2011/08/02 16:04)
[19] 星は夢を見る必要はない第二十話[かんたろー](2011/08/02 16:04)
[20] 星は夢を見る必要はない第二十一話[かんたろー](2011/08/02 16:04)
[21] 星は夢を見る必要はない第二十二話[かんたろー](2011/08/02 16:05)
[22] 星は夢を見る必要はない第二十三話[かんたろー](2011/08/02 16:05)
[23] 星は夢を見る必要はない第二十四話[かんたろー](2011/08/02 16:05)
[24] 星は夢を見る必要はない第二十五話[かんたろー](2012/03/23 16:53)
[25] 星は夢を見る必要はない第二十六話[かんたろー](2012/03/23 17:18)
[26] 星は夢を見る必要はない第二十七話[かんたろー](2011/08/02 16:06)
[27] 星は夢を見る必要はない第二十八話[かんたろー](2011/08/02 16:06)
[28] 星は夢を見る必要はない第二十九話[かんたろー](2011/08/02 16:06)
[29] 星は夢を見る必要はない第三十話[かんたろー](2011/08/02 16:07)
[30] 星は夢を見る必要はない第三十一話[かんたろー](2011/08/02 16:07)
[31] 星は夢を見る必要はない第三十二話[かんたろー](2011/08/02 16:08)
[32] 星は夢を見る必要はない第三十三話[かんたろー](2011/03/15 02:07)
[33] 星は夢を見る必要はない第三十四話[かんたろー](2011/08/02 16:08)
[34] 星は夢を見る必要はない第三十五話[かんたろー](2011/08/02 16:08)
[35] 星は夢を見る必要はない第三十六話[かんたろー](2011/08/02 16:07)
[36] 星は夢を見る必要はない第三十七話[かんたろー](2011/08/02 16:08)
[37] 星は夢を見る必要はない第三十八話[かんたろー](2011/08/02 16:07)
[38] 星は夢を見る必要はない第三十九話[かんたろー](2011/08/02 16:06)
[39] 星は夢を見る必要はない第四十話[かんたろー](2011/05/21 01:00)
[40] 星は夢を見る必要はない第四十一話[かんたろー](2011/05/21 01:02)
[41] 星は夢を見る必要はない第四十二話[かんたろー](2011/06/05 00:55)
[42] 星は夢を見る必要はない第四十三話[かんたろー](2011/06/05 01:49)
[43] 星は夢を見る必要はない第四十四話[かんたろー](2011/06/16 23:53)
[44] 星は夢を見る必要はない第四十五話[かんたろー](2011/06/17 00:55)
[45] 星は夢を見る必要はない第四十六話[かんたろー](2011/07/04 14:24)
[46] 星は夢を見る必要はない第四十七話[かんたろー](2012/04/24 23:17)
[47] 星は夢を見る必要はない第四十八話[かんたろー](2012/01/11 01:33)
[48] 星は夢を見る必要はない第四十九話[かんたろー](2012/03/20 14:08)
[49] 星は夢を見る必要はない最終話[かんたろー](2012/04/18 02:09)
[50] あとがき[かんたろー](2012/04/28 03:03)
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[20619] 星は夢を見る必要はない第四十話
Name: かんたろー◆a51f9671 ID:9726749e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/05/21 01:00
「エイラ、それはそのままそこに置いといて。それとそこの導火線……そうその細い紐はこっちに持ってきてくれる?」


 自分が監督責任者になった気分で、エイラに指示をする。彼女は原始の人間であって、やはり見知らぬものが多く最初は手間取っていたが、彼女は覚えが良くなにより真面目だ。体力も並ではない事もあり、一度も作業を止めず、今ではテキパキと働いてくれた。その甲斐あって、ようやく準備が整った。後は手元にあるスイッチを深く押し込むだけだ。掌におさまるスイッチカバーを親指で外し、タイミングを図る。


「さて……爆破!!」


 夜の暗闇を閃光が切り裂いて、砂の下から爆音が響き、砂柱がそこらじゅうに立ち昇った。エイラがたどたどしく、「たまやー」と叫ぶ。私が教えたのだ、そうするのが現代の常識なのよ、と。これでいいか? と目で問うてくる彼女に私は笑顔を見せた。


「これで、フィアナ、悩み解決?」
「そうね、多分これで魔物は爆発で死んだか、生き埋めになったでしょ。一応しばらく様子を見るつもりだけど……」
「あれで生きてたら、奇跡、奇跡」


 確かに、メガトンボム級の爆薬をふんだんに流砂の中に放り込んだのだ、生きていられるはずは無いと思うけど……念のためにね。
 バッグパックに道具を詰め込み、肩に掛ける。エイラが持とうか? と片手を出してくれるがやんわりと断っておく。いつも持っているのだから問題無いし、彼女を色々と動かしてしまい少し申し訳ないとも思っているのだ。無尽蔵に体力を持つエイラとて少し辛いものがあるだろう。元気そうにしていても、何処か覇気が無いのを私は知っている。
 エイラに口を覆う布を手渡し、私も口元に濡れたハンカチを当てる。舞い上がった砂に喉をやられないように、だ。眼鏡がある分私は目を守らなくても良いが(それでも痛い)、エイラはそうはいかない。なにぶん、彼女は目が大きいので私よりも……これ以上考えるのはよしましょう。うん。


「悪いわね、疲れたでしょ?」三十分外を見張り、大丈夫だと確信した私がそう言葉にすると、エイラは力こぶを作り平気だとアピールする。私は苦笑してフィオナさんの家に向った。
 今回、私たちは中世に来ている。ゼナン橋を防衛した後私たちを親切にも泊めてくれたフィオナが鍵だと睨んだのだ。ハッシュの言った中世の女性の心で蘇る森。それは単身広大な砂漠を緑に変えようと奮闘する彼女の事について他ならない。
 今では、フィオナさんも夫の、確かマルコといったか? が帰ってきて彼女も気持ち的には余裕が出来ていた。しかし……その時には、辛うじて林といえなくも無い樹林の数が激減し、一、二本の木がぽつんと立っているだけの状況になっていた。砂漠化は着実に、いや急激に広がったのだ。自然的にありえないと考えたフィオナさんは自身で調査し、砂漠の下に魔物がいる事が判明した。
 そういうことなら私たちに任せて! と胸を叩いたのはマール。そう、今ここにいないマールである。彼女は今ロボとクロノを迎えに未来へシルバードで飛んでいるところ。
 仕方ないのは分かってるわ。だって私よりもマールの方が運転上手いし、魔物退治の作戦立案なら私の方が得意だもの。適材適所よ、だから特別思うところがあるわけじゃない。ないけど……


「最近、クロノと話してないなあ」私が空を見ながら呟くと、エイラが顔を覗き込んで「寂しいか?」と目尻を下げながら聞いてくる。貴方がいるから大丈夫よ、と笑って返すと、彼女は嬉しそうに頬を緩ませた。
 話を戻そう。フィオナさんの願い、砂漠の魔物を退治する方法は至って単純だった。流砂の場所はすでにフィオナさんが突き止めていたのでそれは加速する。単に、流砂の中に爆弾を山ほど投げ入れて爆発させればいいのだ。遠隔操作など私の手にかかればお茶のこである。
 そして作戦は成功。前述したとおり、並ではない爆弾を投下した。魔物の陰も形も残っているわけが無い。あれで原型が残っているなら、それは魔物ではない、魔王級の魔力を持ってしても防ぎきる事はできないと自負出来る。
 私とエイラは喜ぶフィオナさんの笑顔を思い浮かべつつ、足取り軽く砂を蹴っていった。


「やり過ぎちゃいました」
「……ました」


 喜面満開ならぬ、鬼面満開で出迎えてくれたフィオナさんに私とエイラは平謝りするしかなかったという。隣のマルコさんが汗を流しながら私たちの弁護をしてくれるのはありがたい。が、フィオナさんに聞き耳はもてなかったようで。こう言ったらあれだけど、ちょっと狭量よね、たかだか木の一本二本爆風で薙ぎ倒されたからって、そこまで怒らなくてもいいと思うわ。魔物を退治した分、プラスマイナスゼロ、いいえどちらかといえばプラスの筈だもの。


「その一、二本で全部だったんですよ! もう、私たちの最後の希望だったのに……」泣き出してしまった。マルコさんは同じように沈痛な面持ちで天井を見上げるし、エイラはオロオロしながら頭を下げまわっている。居づらくなった私たちはその場を離れ、一度外に出た。逃げるように、と前置しても良い。内心そのままなのだから。
 私たちは膝を抱え倒れている樹木を眺める。確かに、豪快に倒れたわよね。根元からどしん、と嵐にやられたみたいだわ。小気味良い音だったとさえ思った。エイラだってそう思ったに違いない。だって、私たち途中から現実逃避してたもの。正直、マールが帰ってたらそのままフィオナさんたちに会わずシルバードで違う時代に行ったわね、間違いないわ。
 このままここにいる訳にもいかない。だって、後ろの家の窓からずっと怨念の視線が飛んでくるんだもの。背中を捩って交わしても、やはり消えはしない。粘着な人よね。
 腰を上げて、エイラを立たせる。結構歩くけれど、トルースの裏山に行ってゲートで帰りましょうか。マールが着くのを待ってたら気まずさで胃腸炎になりそうだわ。


「エイラってば、どうしてあんな強引な方法を選んだのー?」わざと大き目の声、とりあえずフィオナさんたちに聞こえるよう伸ばしながらエイラに色々と擦り付けてみる。
「!? エイラ、違う、考えた違う!」
「そうね、まあ過ぎたことは仕方ないわねー」目を丸くして、私の意図を理解したのか一度フィオナさんの家に目をやってからエイラは恨めしい顔で睨んでくる。これがマールなら鉄拳の一つも飛んできたのかもしれないわね。
 足を高く上げ、気分良く行進していた私の背中に聞き捨てなら無い、深く重い言葉がぶつかる。


「……そんな女、クロ、好きならない……」
「私がやったわ! そうよ全部私が仕組んだのよ! エイラには何の罪も無い、彼女はただ操られていただけなのよ!」まるで場末のバーで暗いショーを行う化粧の濃い、脚線美だけは人並み以上のホステスにでもなった気分だった。特に、この例えに歴としたものはない。ただ昔、クロノと歩いた夜の街居酒屋でこのような台詞を言って自分に酔っていた商売女がいたというだけだ。悔いるような事を言いながら、酒の臭いを撒き散らしていた。酒を飲みながら反省もなにもあったものではないだろうに。
 急に豹変した私に驚いたのか、エイラは拳を開いて、これ以上無い“そのまま”の驚きを表現していた。私は調子の乗って、演劇をしている気分になり、悲壮な言葉を流し続けた。エイラもまた、これが遊びの一種で、中々彼女のツボを突いていたようだ。一度立ったというのにまたその場で座り、私を見上げながらわくわくと目を輝かせ、今にも手拍子をしそうだった。悲壮な芝居というのに手拍子は合わないし、彼女もしていないが、まあ、雰囲気だ。


「ああ、貴方がワインを飲むのなら、私は一つのコルクで良い。私の中で、時が来るまで眠りなさ……」即興の酷い詩を歌いながらくるくるとその場で回っていたのだが、限りなく摂氏零度以下の瞳を向けられている事に気付き、私は体についた砂埃を払った。エイラがもう終わり? と言いたげに首をかしげている。駄目ね、この子は人をその気にさせてしまう。本人に悪気は無いのがさらに危ない。男ならこういう子が好きなのかもね。そういえばクロノも最初エイラの事が好きっぽい感じだったし……でも私には似合わないわ、誰かを立てて、大人しく後ろを歩くのは。エイラもやるときはやるって分かってるんだけどね。
 さあて、今晩の食事は何かしら? 今のところ、中世ならパレポリの中央広場西にある井戸近くの鍋物が美味しかったわね。季節の野菜鍋とハニートーストアイスクリーム添えがとびきりだったわ。まさか鍋物屋で鍋とデザートが一番人気を争っているなんて思わなかったわね。小食のエイラでもあのデザートだけはお代わりしたし……決めた。私今日は思い切ってトッピングを三つ重ねてみるわ。適度な糖分と乳製品は胸が大きくなるって言うし。そうなれば早速パレポリへ……


「何やってるんですか? マスター」肩を落とし、模範的な軽蔑を見せながらロボが私を見ていた。見ていてほしくなかったのに。
「パレポリの、ハニートーストを食べようかなって思ってたのよ……」尻つぼみになるのは仕方ないと思う。あんな醜態を見せておいて恥ずかしくないわけがないのだから、例え私でも。
「まったく、少しは奥ゆかしくなったかと思えば、色々と解放しただけでしたね」
「なんだか、失礼な決め付けをされている気がするのだけど?」
「気のせいです、マスター。ところで、あの」少し言いにくそうに指を捏ねて、ロボが声を詰まらせる。トイレに行きたいのか、はたまたお腹が空いたのか。後者ならもう、夕食の場所は決まっている。ロボならあの美味しさも理解できるはず。クロノだったら、あいつは甘物を好きじゃないからお勧めしないけれど。
 もじもじしながら、彼はただ凡庸な挨拶を放った。


「ただいま、マスター」
「ええ、おかえりロボ」


 彼の顔は、前に見た時よりもなんだか男らしくなっていた。クロノじゃないけど、頭を撫でてやりたいくらいに。


「エイラさん、ただいま。大変だったでしょう」
「大丈夫、ルッカ、指示する、ウマイ」
「やっぱり悪意を感じるのよねえ」確定するようなロボの言い方に私は口を尖らせた。「他意はないですよ」と笑う彼の笑顔が無邪気で許してしまうのは彼が生まれ持った特質的なもののせいか、私が損な性分なだけなのか。
「それで? クロノやマールがいないけど、何かあったの?」


 彼は思い出すように頭を捻らせて、指を立てた。


「クロノさんは時の最果てに帰ってた魔王さんと話があるそうで。マールさんは自分の家に帰ったみたいです。といっても様子を見るだけで姿は見せないそうですが」


 クロノが魔王と話すことがあるとは思わなかった、がそれ以上にマールの心情が気になる。まさかホームシック? あの子に限ってそんな感情を抱くとは思いがたい。
 腕を組み、考えているとエイラに「マール、まだ子供」と諭されてしまう。まだ若いとはいえエイラは大人ということだろうか。もうすぐ成人を迎える私としてはほのかに悔しかった。何より、親友と思っているマールのことを私よりも分かっているような彼女に嫉妬も生まれる。クロノ以外にヤキモチを妬くとは思わなかったわ。


「で、マスターたちは何をしてるんですか? ああ、僕はお二人の様子を見に来たんです」
「あれ? マールから聞いてないの?」意外に思って、逆に問い返す。
「砂漠の魔物を倒すという事は聞いていました。でも僕のセンサーでも魔物の気配は感じられません。もしかして、もう退治しちゃったとかですか?」出番を取られたと言いたいのか、ロボは少しだけ気落ちしていた。
 エイラと顔を見合わせて、私はロボに事の経緯を説明する。とはいえ、そう長々としたものにはならなかった。単純に、魔物を倒すために爆弾を大量に使用したらその影響でフィオナさんの植えた木がものの見事に倒れ、酷く居心地が悪かったので出て行きました、それ以外に付け加える事などない。あるとして、やはりパレポリの鍋は美味しいとしか言えない。言えば彼が怒り出すのは分かっているのであえて口にはしなかったが。そもそもそんな事を今話してどうする。疲れてるかもしれないわね、私も。
 私の話を聞き終えたロボは呆れながら怒るという一風変わった表情の変化を見せてくれた。「何の解決にもなってないじゃないですか!」と肩を怒らせ前傾になる彼は、正しく怒っていた。エイラは女性にしては大きい背丈を小さくして、瞳をくゆらせる。私? 退かないし媚びないし省みる気も無いので謝る事はしないわ。だって間違っていないのだから。


「……大雑把で乱暴な人。クロノさんに良い土産話ができましたね」
「分かったわ、つまり泣けば良いのね?」


 夜空の下、私のしくしくと泣く声が響いていた。












 星は夢を見る必要はない
 第四十話 等価交換












 私の喉が嗄れるまでもうしばらく、という時にロボが溜息をつき「もういいです」と許しをくれた。女の涙は武器であるとはよく言ったものだと思う。
 あぐらをかいて座り、ロボが打開策を考えていた。植林の方法を編み出そうとしているのだ。私としても、科学の力でなんとかならないか頭を捻りはした、だがいくら私の技術を使おうとも砂漠に花ならぬ森を作るなど不可能なのだ。大体そんな方法があれば、現代でも問題視されている森林伐採を私がとっくに解決している。一瞬とは言わなくとも、短い期間、数年から数十年単位で森を作るなんて荒業は到底無理だ。こればかりは根性論や精神論なんてなんの解決にも繋がらない。
 ……いや、方法はあるにはある。でもそれは認められないし、私は賛成できない。というか、許さないわ。


「マスター、提案なんですけど」
「駄目よ。帰るわよエイラ、悪いけどその荷物持ってくれない? 残りは私が持つから」ばっさりとロボの話を切る。どうせ、私と同じ考えに至ったのでしょうけど、そんな自己犠牲は御免だわ。私がフィオナさんの木を倒したからって、それは別問題。
 不満があるのか、ロボは「ちゃんと聞いて下さいよ!」と周りを駆けて纏わりつくけれど相手にはしない。


「アンドロイドの僕なら、いつまでも植林作業をする事ができます! それこそ、何百年だって! 僕がフィオナさんたちの手伝いをすれば、この地に森を作る事も可能なはずです! 森が出来た後、そうですね、ちょうど現代頃に皆さんが僕を回収してくれれば良いじゃないですか!」
「? ルッカ、どういうことか、分かるか? エイラ難しいこと分からない」エイラが小難しい顔となり私に説明を求める。
「無視していいわよエイラ。ロボはつまり、何百年も働いてここに森を作るって言ってるの。馬鹿じゃないの?」


 実に馬鹿だ。延々と樹林を植えては耕して、この広い広い砂漠をフィオナさんたちが亡くなった後は一人で森に変えるなんて出来る訳が、いや出来たとしても気が狂う。狂わなかったとしても関係無い、それがどれ程孤独でどれほど心が壊れるか、想像するに容易い。それが人一倍寂しがりのロボなら尚更だ。拷問ということすら手ぬるい。地獄じゃないか、太古の時代、原始と中世の間くらいの時代で言う奴隷じゃないか。仲間でありマスターである私がロボにそんなことをさせる気はない。
 断固としてロボの言うことに耳を貸さずにいると、切り札だぞ、と悪そうな顔つきになったロボが言う。


「クロノさんに、マスターは人の提案に耳を貸さない、自分勝手で酷い人だって言いつけますよ?」
「言えばいいじゃない」
「……え? 良いんですか?」困惑した様子のロボに頭が痛くなる。そうね、昔の私……といってもそれほど前の話ではないのだけれど、クロノが死ぬ前の私ならもしかしたらロボの脅し染みた言葉に折れたかもしれない。あの頃の私は自分を賢いと信じ込んでいた馬鹿だったから。今の私が賢いかと言われれば頭から否定するけれど。


「ロボに長い間寂しい想いさせるのが正しいって言うようなら、クロノなんて好きにならなかったもの。自分勝手でも私はあんたに苦痛を強いたくない。あんたがそれで良いって思っててもね」


 むしろ、能天気に「ロボに数百年ただ働きさせてきたわ」なんて言えば、あいつは私を軽蔑するだろう、二度口もきかないに違いない。私だってクロノが同じ事を言えばそうするのだから。もしくは頭でも撃ち抜いてやる。そうすれば目が覚めるでしょうしね。
 話すこともなくなったのか、ロボは下を向いてぼう、としていた。良かった、これ以上駄々を捏ねるようなら一度引っ叩いてやろうと思っていたから。


「良かった。やっぱり、マスターは似てる」離れていく私にロボが心底安堵した声を出すから、思わず振り返ってしまう。内容は分からなくとも、ロボは嬉しがっていると分かったから。
「マスターお願いです。やらせてください、マスターだから頼めるんです。クロノさんやマールさんなら絶対許してくれないだろうから」ロボは言う。
 確かに、クロノやマールにこんな事を言えば殴られるか泣かれるかするだろう。エイラ、カエルには何を言っているのか理解すらされないだろうし、魔王なら論外だ。有無を言わさず連れ帰り、その事に不満を洩らしても無視されるのがオチだ。
 ただロボは勘違いしている。私だって許すわけ無いだろうに。


「あのねえ、いくら頼まれても駄目よ、これは決定なの。クロノを引き合いに出しても駄目なものは駄目」
「お願いします!」
「駄目だってば。大体あんた森を育てる方法なんて知らないでしょうに」
「データにはあります! 細かいところはフィオナさんに聞きます!」
「だからね、」
「お願いします!」いよいよ私の説得を聞くこともしなくなった。エイラに頼んで気絶させようかとさえ思い、冗談のように浮かんだ案が効果的と気付いて彼女に「一発殴ってやって」と頼む。しかし……
 快音を鳴らし、頬が痛むのは私だった。エイラは厳しい顔つきで、私を叩いたのだ。一瞬呆気に取られたが、すぐに気を取り直し怒鳴ろうとするも、その眼光に気圧され何も喋れなくなる。
 何故、彼女は私を睨んでいるのか、理由も意図も分からなかった。


「ロボ、一生懸命頼んでる。聞いてあげる」いつもながらに、たどたどしく言葉を作る彼女だが、いつもと違い、声には怒りが滲んでいた。聞き分けの無いのはロボの方なのに、何故私が責められるのか理解できない。
「エイラ、ロボの言ってることも理解できてないのに口出ししないでくれる?」熱をもちだした頬に手を当てて冷やしながら、私も負けじと睨み返す。喧嘩上等よ、譲る気は無い。
腰に手を当ててふんぞり返るように背中を逸らす。威嚇のつもりであった。あまりに効果が得られないと感じたのですぐに正したが。


「ロボ、男。ルッカ、ええと……『カホゴ』だ」
「誰に聞いたのよ、そんな言葉」半端な知識をひけらかされた気がして頭が痛くなった。「あのね、男とか女とか、そういう問題じゃないでしょ? 何百年よ何百年。この中世から現代まで四百年、その間ずっと一人で森を作るって? エイラ、あんた何歳よ? 少なくともあんたが生きてた年数の十倍を優に超えるくらいの時間なのよ」吐き捨てるように言った。私の言葉に喉を詰まらせて、なおもエイラは噛み付くことをやめない。ハイエナのようと言えば語弊があるだろうか。それでも私は是が比にも餌を離さない執念深さに似た何かを感じ取った。
「ロボ、頑張る言ってる! それ決めるの、ロボ!」
「間違いを正す事は必要だって言ってるのよ!」


 私は激昂する。大人しいはずのエイラにここまで反対される事を予期していなかったからか、押さえが利かない。私の中の冷静な部分が、もしやすれば手を出し合うこともあるだろうな、と考えていた。そうすれば私は不利だなとも。


「マスター、お願いします!」
「……分かったわ。そこまで言うなら、良いわよ」
「本当ですか!?」ねだることに成功した子供、正しくそのままなのだが、ロボは顔を輝かせた。


 エイラとロボ、二人と口喧嘩をして、片や大人しくも頑固な怪力の女性、もう一人は子供ゆえに妥協を知らない男の子。到底説得は出来ないだろうと感じ、自分の冷静な部分を極端に肥大化させて譲ってあげる。だが、このまま終わらせる気は毛頭無い。私は人差し指を立てて条件を出した。


「あんたがここでフィオナさんの手伝いをするのは、まあ良いわよ。でもね、私はあんたの様子を見に行くわ。一年ごとにね」中指を立てて、もう一つの条件を話す。「あんたが限界そうに見えたらそこで終わり。無理やりにでも連れて帰るわ。勿論ロボからギブアップしても良いわよ」それで良いわね、と確認するつもりでエイラを見遣ると、さっきまでとは打って変わりいつもの柔和な、それでいて不安そうに見える表情に変わっていた。それを了承と取り、今度はロボに視線を流す。
「はい、それで良いです。あ、その前にお願いがあるんですけど」
「何よ、これ以上譲らないわよ」
「いえ、違うんです。流石に僕もこのまま働き続けるのは耐えられそうにないですし」彼は自身ありげに情けないことを言う。いきなり挫折宣言とは、なんとも男らしくない。いや私としては諦めてくれるのは喜ばしいことなんだけれども。
「あの、時の最果てにある僕のボディを取ってきて欲しいんです」
「……ボディ?」


 私は鸚鵡返しに言葉を返し、なんともつまらない驚きを見せた。






 正直、侮っていた事を告白しよう。なんだかんだ言いつつも、私はロボが五年……いいや一年で泣きついてくるだろうと予想していた。仮に意地で中世に残り続けるというならば、難癖をつけて連れて変える心積もりでもいた。その考えは、そうね、二十年目を超えたあたりで(ロボの体感時間として、だ)消える。彼は自分の口にした通り、どれだけ長い間土を耕し苗木を埋めてボディが錆び付いても弱音を吐かなかった。
 それだけ長い間植林作業を続けていれば、不器用なロボとて手際が良くなっていく。見る間に(一年ごとに訪れているのだからそう感じるのは当たり前かもしれないが)緑が蘇り、二十年の月日でこれだけ世界が変わるものか、と見当違いながら感嘆の溜息を洩らしたものだ。
 フィオナさんに会うと、その度彼女は酷く驚いていた。当然か、いつまでたっても見た目の変わらない私に驚かないはずはない。とはいえ、何度も繰り返すが二十年経った今ではその疑問を気にする事もなく、私が来るたびに彼女は手を叩いて歓迎してくれた。
 その頃のフィオナさんは、昔のやせ細った姿ではなく、顎辺りに贅肉がついている、けれど決して動かないでいるからではない、健康的な中年の姿へと変わっていた。夫のマルコさんとも仲は良好で、月日が過ぎた今も新婚みたく、仲睦まじい様子を見せてくれた。


「本当に、ありがとうございますルッカさん。あの時はその、酷い事を言ってしまい申し訳ありませんでした」あの時とは、つまり砂漠の魔物を退治した時の事を言っているのだろうと理解した。
「いえ、私もちょっと乱暴な手段だったかなって思ってましたし、別に気にしないで下さい」


 どうも、昔のそう年の変わらぬ時代だったフィオナさんと違い、私は彼女に砕けた言葉遣いをすることが出来なくなった。溝が出来たという訳では決して無いのだが。むしろ、一年過ぎた度にという短い期間とはいえ一緒にお茶なんかを飲むようになった今の方が仲は良い。五年前、つまりロボが働き出してから十五年経った時か。に「ルッカさんが、なんだか娘のように思える」と言われた時はシルバードの中で一人泣いてしまった。


「ロボさんがいてくれたお陰で、ここに森が出来そうです」
「やっぱり、頑張ってますか、あの子」
「ええ。最初はやっぱり戸惑ってしまいましたが、今では彼も私たちの家族です」


 彼女が戸惑ったのも無理は無いわね。だって、今のロボはいつもの小奇麗な、一見女の子にも見える姿ではなく、私がプロメテドームで見つけたときの、無骨なボディを付けているのだから。
 ロボが言うには、あのボディは本来戦闘用ではなく、作業用のボディパーツなんだそうな。都合の良い事に、それも畑や花を植える為の。同じようなと括るべきではないが無関係とも思えない。何故そんなパーツを持っていたのか聞いてみると、自分の幼馴染に付き合ってよく花を植えていたんだとか。可愛らしい趣味の幼馴染なのね。ていうか幼馴染なんていたんだと思い、今度紹介してね、と指きりをすると彼は困ったように笑って頷いていた。


「ロボさんが私たちの夢を継いでくれる……こんなに嬉しいことは無いわ」
「え? 何ですか?」言っている意味が正確に分かりかねて、聞き返す。フィオナさんはすぐに首を振り「何でもないわ」と笑った。


 それから、五年目。二十五年の歳月が流れた頃だ。フィオナさんとマルコさんが亡くなられた。フィオナさんは元々体の強い人ではなかったようで、ちょっとした風邪をこじらせてしまったのだ。それが原因となり息を引き取った。それを追いかけるように夫のマルコさんも亡くなった。
 私は泣かなかった。ロボが泣いていないのに私が泣くべきではない、その程度の事が分かるくらいに私は賢く、フィオナさんたちと友好があったのだから。
 それから、ロボは憑り依かれたように黙々と作業を続けた。元来、ロボにはエネルギー以外には食事も休息も必要ないのだが、いくらロボットとはいえそこまで体を酷使すればなんらかの不具合が発生するのでは? と心配になった。
 その旨を伝えるべく、脇目も振らず苗木を植え水を振り撒く彼に近づく。私が口を開く前に、それを制するような形でロボが声を出した。


「マスター、申し訳アリマセンガ、しばらくココには来ないでくれマセンカ?」決別のようなそれに、体の内側から冷や水が湧き出るような冷たいショックを覚える。
「な、何でよ。約束が違うじゃない」呂律が回らないのは、それだけの衝撃だっただろうか、と分析する。
「このままマスターに頼っていては、いつまでもワタシは変われません。それでは駄目なのデス」
「変わる? 変わるって、何?」
「……イエ。それはイイデス。でもこの森はワタシがフィオナさんたちに頼まれたものです。マスターの力無しにガンバッテみたいのデス」キーボードを打つようなカタカタという音を鳴らしながらロボが言う。
「別に、私は何も手助けしてないわよ? あんたの様子を見に来るだけじゃない」
「それでは駄目なのデス。それでは、いつかワタシはマスターに甘えてしまう。帰りたいと願ってシマウ。フィオナさんたちがいなくなったからと、納得させてしまう」


 それでいいじゃないか、と告げることがどうしても出来なかった。
 私もまた、ロボには及ばずともフィオナさんたちが好きだった。なんとしてもここに森を作りたいと渇望するほどに。ロボがもし心折れて時の最果てに帰りたいと願ってしまえば、それで夢は終わる。微かに命が芽生え出したといってもまだまだ芽生えたばかり。生まれたての赤子のような命しか生まれていないのだ。そんな中、ロボが緑を生き返らせることを止めれば森はまた砂漠か、良くても平原にしかならないだろう。それは、酷く心苦しい事だ。笑ってしまう、ロボを大切にしたいと口では言っておきながら、結局こうして彼に孤独を強いなければならないとは。
 元々、やめておけば良かったのだ。やはりあの時彼の提案を切り捨て、エイラやロボに嫌われても無理やり連れて帰れば良かった。そうすれば、彼は誰かを失う痛みを知らずに済んだのに。


「……帰る気は、無いの?」縋るように、私は彼に甘言とも言うべき言葉を放つ。
「胸を張って帰るタメ、今は帰りマセン」私は「そう」とだけ言って踵を返した。もう無理だ、彼は誰も望まない。四百年の歳月の間は、私の助けを必要としない。仮に、その間に必要とした時はもうロボはロボでなくなっている、そう思えた。
 多少なりとも緑が芽吹く兆しがある地帯にはシルバードを停めていない。故に幾分か離れた、パレポリ付近まで歩かねばならないのだが、私は度々後ろを振り返った。どこかでロボが舌を出しながら、「やっぱり様子は見に来てくれませんか?」と言ってくれる事を期待して。
 望みは外れ、ロボは駆け寄っては来ない。ただ、私が何処まで離れても彼は私を見送ってくれた。例え、姿が見えなくなってたとしても、そうしていたに違いない。






 時は過ぎ、A.D千年。ロボが作業を始めてから四百年の歳月が過ぎた頃。私はフィオナさんたちの家があった、パレポリとデナトロ山のちょうど中間に位置する場所を眺めて目を見開いた。見渡す限りの緑、天まで届けといわんばかりの木々の群れ。例えようもなく、そこは森だった。
 一体誰が信じようか? つい四百年前までとても生物が生きてはいけなさそうな荒廃した砂漠だったと。四百年を短いと取ってしまうのは私が時を行き来出来るからに他ならないのだが、それを度外視しても異常だということは、少し考えれば分かるはずだ。生命は、そう簡単に作られはしない。
 私はパレポリ付近までも森で覆われている事を見て、ゼナン橋付近にシルバードを置くこととする。ハッチを開き、その地に降り立つ。吸い込む空気はやはり中世の少し澱んだものではなく、森の恩恵か、清々しいものだった。森の息吹がここまで届いているようだ。
 いざ、森に入るとその感覚はさらに強まる。森と同じように息をしているような一体感が胸の中に生まれる。私は木の一本に手を当ててみた。これら一つ一つがロボの力で育ったのだと思うと愛おしくもなり、頭を下げたくなるような尊敬の念を感じざるを得ない。血の通わぬ植物なのに、私は体温に似た暖かみを感じ取れた。
 森の奥深くに入り込むと、小さな神殿が見え始めた。近づくと、小さく見えたのは大きさの問題ではなく、その神殿を訪れる人数に比例すれば、ということだと知る。列にして長大な人の数。参拝客だろうか? 見れば、所々にシスターらしき女性が誇らしげにこの神殿の由来を語っている。


「ここはフィオナ神殿。四百年前に、魔王との戦いにより砂漠と化した森を蘇らせたフィオナ様と、ロボ様を祀った神殿です。奥には御神体であるロボ様が安置されていますよ」


 自分の仲間が祀られるとは妙な気分だな、と背中をむずむずさせながら私も列に並ぶ。先行く人々の数を見て、これは長くなりそうだと直感した。感じるまでもなく、一目瞭然だけどね。
 結局その日は神殿に入る事すらなく終わった。整列券だかなんだかという紙切れを手渡されて、後日またいらして下さいと微笑むシスターに文句を言おうとするも、その前に後ろの男が怒り出したのでやめておいた。男は神官風の屈強そうな男に両腕を取られて何処かに連れられていく。随分物騒な神殿もあったものね。
 とはいえ、こんな調子ではロボにいつまでたっても会えそうに無い。深夜未明、進入する事を決意する。もし見つかれば催眠装置の出番ね、久方ぶりに使うから使い方を思い出しておかないと。
 仮にも聖職者たる人々に銃をぶっ放すわけにもいかない、魔法で焦がしても駄目。穏便にロボ強奪を決める。
 深夜。フィオナ神殿を訪れる人の為に建てられた、通常よりも割高な、商売上手である宿屋を出る。宿屋の主人には「森の外から夜のフィオナ神殿を見ておきたくて」と言い訳しておいた。主人は、「夜は夜で、神秘的な所ですよ」と朗らかに笑っていた。
 森に入り、身を隠しながら先に進む。見張りの数は想像以上に少ない。泥棒の類など今まで現れた事はないのだろうか。よくよく考えれば、神殿内に入るに辺り、見学料等は取っていないようだった。完全にボランティア意識で働いているのだろうか、ここの神官やシスターは。その意識は素晴らしいと思うし、フィオナさんの精神を受け継いでいると思う。だが、ロボは返してもらう。彼はクロノたちと一緒に笑ってるほうが、崇められるよりも、“らしい”からだ。
 神殿の窓を、消音の為布を当てて割り、腕を突っ込み鍵を開けて中に入る。身を縮めながら中に滑り込んだ。流石私ね、並みの体格の女性じゃあこうはいかないわ。ビバスレンダー。胸なんかかざりなのよ。涙とは違うのよ。
 廊下をスタッカート刻みに素早く走り、神殿の奥を目指す。地理を理解しておらず、せめて中の様子を下調べしたほうが良かったかと早くも脳裏に後悔が過ぎるが、心配は無用だったようだ。小さくはないものの決して大きくもない神殿内の大部分は、そのロボが安置されてある巨大な礼拝堂のような部屋だったからだ。部屋の数など、見るからにシスターや神官の部屋以外に無かったのだから。
 ロボは、天窓の下にある、花々が添えられた、石製の椅子に座って俯いていた。恐らく、人々が参拝する昼頃には天窓から光を浴びてそれは神々しいものに見えたのだろう。実際、無骨な作業用ボディの中にいるのは銀髪の美少年なのだが。それはそれで天使のような、という意味で神々しいのかもしれないわね。むしろ人気が出るかも。


「ロボ? ……ロボ聞こえる? ルッカよ」


 私の声に反応した様子は無い。壊れてしまったのか? と不安になり、彼の体、いやボディパーツに手を当ててみる。反応は、無い。
 深刻な故障かもしれないと考えて、とにかく急ぎ修理を施さねばと時の最果てにいるエイラに連絡を取り、ハッシュにここまで転送してもらう。数秒と置かず現れたエイラはロボのくたびれた様子を見て篭った悲鳴を上げ、すぐさま私の指示に従いロボの体を持ち上げてくれた。腕力なら随一を誇る彼女だけあり、持ち上げる際に苦悶の表情は浮かばなかった。幼馴染との違いを思い、少しだけ溜息を吐き、神殿を出て行く。見回りの人間などいなかった事を思い出し、私たちは素直に玄関の鍵を開け堂々と脱出した。窓を割った事は申し訳ないが、今は馬鹿正直に謝罪する時ではない。逸早くロボを直さねば、と焦っていた。






 神殿から離れた森の中で、私たちは腰を下ろし、エイラに手伝ってもらいながらロボの修理を始めた。深刻な故障はあくまで作業用のボディパーツだけであり、肝心なロボ本体は特にこれといった故障は見当たらなかった。あえていうとすれば、電力不足が原因と判明。手持ちのバッテリーをいくつか消費する事で、ロボは会話する事も可能となった。
 とまあ、言うだけならば簡単だったが、ロボの不調の原因を探るだけでも結構な時間となり、ロボが話し出す頃にはエイラは体を丸めてすやすやと寝息を立てていたのだが。太陽が顔を出すまでそう間は無いだろうと思った。


「……マスター、すいません。お手数かけますね」
「いいわよ、むしろよく今まで動けたわね。いくら高性能だからって、エネルギーは無尽蔵じゃないのに」
「あはは、途中までは度々本体を外に出して太陽光を浴びてたんです。それで充電は可能だったのですが……しばらくして、森が出来るとボディを脱ぐ事も出来なくて……人が沢山集まり始めましたから」ロボは頭を掻きたかったのだろうが、まだ腕が動くほどエネルギーは回復しておらず、困った顔のままだった。
「まああんたの姿を見たら熱狂的なファンが出来たでしょうね。役に立つか立たないかは半信半疑だけど」
「人が集まるのは好都合でしたし。その点で言えば、作業用パーツの人間らしからぬ姿の方が手伝ってくれる人は多かったんですよ」


 彼なりに考えていたという事だろうか。確かに、祀られるなら少年よりも機械らしい方が崇められるだろうが。人間は人間を尊敬するよりも、そうでない種族の方が尊敬し易い。劣等感を煽られないからとか、そういう事を考えるのは無粋かしらね。


「あの、マスター」ロボが窺うように目を上向かせ語りかけてくる。「何よ? 何処か痛い?」私の問いにロボはかろうじて動くようになった首を振る。
「ゲートって、ラヴォスのせいで生まれてるんでしょうか?」
「……多分ね。そうじゃないと、辻褄が合わないじゃない。強大な力のひずみによって、と考えるしか無いもの」
「僕、なんとなく思うんです。この世界にいる誰か……いやこの世界じゃないかもしれない。とにかく、“誰か”が僕たちに見せたかったとしたら? 色んな時代の風景や生き物、そこに住む人々の暮らしや在りかた、戦いも別れも全部ひっくるめて……もしかしたら、僕たちの目を通してその誰かも見たかったのかもしれません。これはきっと、誰かの見ている夢なんですよ」
「だとしたら、随分な野次馬根性ね」からかうように、私は言う。
「と、いうよりは、その誰かが生きてきた姿を思い出す為、そうですね。走馬灯のようなもの、と言えば分かり易いでしょうか?」


 ロボの言う憶測が正しいのだとしたら、その誰かは既に死んでいることになる。もしくは、その手前。さらに言えば、もう戻れない所にいる、という事かもしれない。
 しかし、そんな誰かがいるとすれば、それはラヴォスと同等、もしかすればそれ以上の力を持っていることになる。敵なのか仲間なのかは分からないけれど、傍観者という立ち位置が一番正しいかもしれない。とにかく、考える事に疲れそうな存在ね。


「走馬灯……ね。なんだか、あまり好きじゃないのよ、そういうの」
「何故ですか?」ロボが不思議そうな顔で私を見つめる。「だって、それって結局“あの時ああしていれば”、とかその逆に“ああしていなければ”、って考えの集合体、凝縮されたものから生まれるものでしょう? 私は好きじゃないの、そういう過去を振り返ること」
「……マスターには、無いのですか? あの時の戻りたいという時間が」
「ないわ。あってもそれは……変えたくないもののはずよ、もうこの話は止めましょう」


 パチパチと爆ぜる焚き火の音が、暗い森の中に響く。向かいで横になるエイラの寝息も吸い込んで、森はさわさわと葉を擦りあわせて清涼な音を奏でた。まるで、私の嘘を暴く為に野次を飛ばしているみたいだった。
 ロボのバッテリー充電準備が完了した。後は時間が経つのを待つばかり。近くの大樹に背中を預け、膝を抱えるようにして眠る事とする。その前に、横目でロボを覗き見ると、彼は綺麗な丸い瞳を空に向けていた。


「……誰なんでしょうね。その“誰か”は。ラヴォスに縁のある誰かなのは確かでしょうけど。ありとあらゆる時代で、ラヴォスは関係していますから」
「そりゃあね。ラヴォスは古代から存在しているんだもの。関係無いはずないじゃない」疲れている私としては、早急に眠りたいのだが、彼の言う言葉の内容が気にかかるのも否定できない。顔は合わせず、会話を交わす。
「そう……ですね。あはは、そう考えればラヴォスがいなければ、僕たち出会ってないんですよね。何だか不思議です」けらけらと笑う彼の姿から、幼さが薄くなっている事に寂しくなった。見た目はどうあれ、既に彼は四百歳以上ということなのだから、当然だろうけど。
「ねえ、それって誰だと思うの?」
「そうですね。きっと、それが分かる時が来れば、その時は……いえ、もう寝ましょうマスター。疲れてるでしょう、こんな遅くまで僕の修理をしてくれて」誤魔化すように彼は話題を変えて、今日を終わらせようと提案する。
「良いのよそんなの。あんたの修理は私の仕事なの、気を使う必要は無いわ」


 手を払って、大丈夫と主張するも、当人である彼がこっくりと船をこぎ始めたので、なんだか力が抜けた。芯は変わっていないじゃないか、と安心した。
 妙な緊張感も薄れ、私もようやく目蓋が落ち始める。これは、良い夢が見れそうだ。





 良い夢が見れそうだと私は言った。では良い夢とはなんだろう。一般的な悪い夢とは、例えば怖いものに追いかけられたり、誰かが死ぬ夢であったり死ぬのが自分であったり、とかく現実でも起きれば嫌な事。それが夢として現れたら、それは悪夢なんだと思う。
 では良い夢とは? 同じように現実で起きれば喜ぶであろうことが夢の中で起きる事。それが良い夢。本当にそうだろうか?
 悪夢を見た後目を覚ませば、何だ夢だったのかと安堵する。逆に良い夢を見た後目を覚ませば落胆する。結果だけを見れば、悪夢と良い夢では、精神的に悪夢の方が良いということになる。悪夢と良い夢の定義が曖昧になる。
 では完全なる悪夢とは何か? それはきっと、過去に現実として起きた嫌な出来事を再確認するように現れた夢のことではないか?
 夢の最中は当然うなされる。起きてもまた過去の嫌な出来事を思い出さされてうなされる。完全なる悪夢となる。






 ──ふと夜中に目が覚めた。誰かの声が聞こえるのだ。泣いているのか笑っているのかも分からない、久しく聞くような、暖かい声。それに混じってまた幼い子供の声も聞こえる。
 行かなくては。誰かが命令している。私の足は何故か、その声のするほうへと歩いていた。
 森の中を右往左往。こんなにこの森は入り組んでいたかしら? 視界がぐねぐねと回る。上下がどちらにあるのかも分からない。私が今地面を踏んでいるのかどうかも定かではない。まるで夢の中にいるみたいだった。覚束無い足取りのまま森の奥へと。行かなくては。行かなくては。
 頭の中に響く声が、外に漏れだした。ふと隣に視線をやれば、樹液にしゃぶりつく甲殻虫が私に目をやり「行かなくては」と促してくる。とくに疑問も持たず私は足を前にやる。
 ふと地面に視線をやれば、丸い、半ば以上土に埋もれている石が私に目をやり「行かなくては」と促してくる。とくに疑問をもたず石を踏みつけ前に出る。
 ふと空に視線をやれば、人が笑っているみたいな、杯状の月が私に目をやり「行かなくては」と促してくる。とくに疑問を持たず月の光を振り払い前に出る。
 ふと前に視線をやれば、今までに何度も目にしてきたゲートがぽっくりと口を開けて私を待っていた。「行かなくちゃ」とくに疑問を持たず私は口を開いて、ゲートの中に飛び込んだ。
 何故こんな所にゲートがあるのか? 思考に靄がかかっている頭で考えた。ロボの言葉を思い出す。『これはきっと、誰かの見ている夢なんですよ』
 私は否定する。いいわ。今まではそれでも良い。けれど、これはきっと私の夢だ。誰にも触らせない、これだけはきっと私の夢なんだろう。
 どうして自分が意地になっているのか、それすら分からず私は唸るように声を洩らし彼の言葉を打ち消した。


 ゲートから顔を出す。今だ頭は上手く回らない。ただ、ぼんやりと見知った場所だなあと考えた。床に散らばる様々な本と工具品。机の上にはプレパラードや顕微鏡にビーカーガラスの詰め物ピンセットに玩具みたいな発明品の数々。ああ、確かこれはお父さんが昔私の為に作ってくれた物だ。あの頃の私は父の努力も知らず「ぽんこつ」と呼んでいた。元来玩具製作などしたことがない父からすれば渾身の作品群だったろうが、科学を必要としていなかった頃の子供の私からしてもそれはポンコツだった。


「私の、家だ」


 本の臭いと鉄と油の臭いがほのかに香る。机の上に置いてあるレンチを取ってみると、そこには確かに“タバン”と彫ってあった。父の工具だろう。部屋を出て、そのまま二階の私の部屋に入る。壁にはクレヨンで塗ったのだろう絵が貼り付けられており、机の上には子供らしい落書き帳や絵本で埋め尽くされていた。私は壁の絵に近づいた。肌色と黒が混ざり、花のつもりか黄色い何かが絵の中に散乱している。良く見ずともそれは、家族の絵だった。私を真ん中に、母と父が両隣に立って私と手を繋いでいる。三人とも線で書いたような曲線が目の部分に描かれていた。つまりは、笑顔だった。


「……昔の私が描いたって事?」


 徐々に頭が覚醒し始める。またロボの言葉が思い出される。


『マスターには、無いのですか? あの時の戻りたいという時間が』



 唾が溢れてくる。喉が渇いているような幻覚を覚えて、私は誰かに聞かせるように出来るだけ力強く「嘘よ」と呟く。それはもはや呟くではなく囁くといった程度の声量だったが。
 机の上に置いてある絵本の束を床に落とし、一冊の本を手にした。題名には平仮名で『にっきちょう』と書かれていた。引きちぎる勢いでページをめくる。最も新しい日時を探し、そこには確かにこう書かれていた。『AD990/6/24』と。


「……十年前の、六月二十四日……って……」


 もういい。過去に戻ったの? とか、何故どうしてとか、そんなことは考えなくても良い。
 この日記の日時は昨日のことだろう。これが一番新しいページに書かれているのだから。この頃の私は毎日かかさず日記を書いていた。一日とて書き忘れた日は無い。あの時までは。


「もう、タバンったらこんなに汚して!」


 階下から、懐かしい声が聞こえる。きっと世界中の誰より好きで、尊敬していて、安心する声。怒ったような口振りでもそこには常に優しさが込められている、嬉しい声。


「はあ、掃除するのは私なのに、ねえルッカ」
「おとうさん、だめだね!」


 思わず私が「そうだね」と声を出してしまったが、それと同時に子供の声が同意する。奪われたような、悔しさと切なさを感じた。もう間違いない、今の声は私のお母さんと、幼い頃の私の声。
 そしてこの会話はあの日の会話。今日、六月二十五日はあの日だ。全てが終わって、変わった日。そう、私が初めて人を殺した日。
 事態が理解できず、私は朦朧とした気分で頭を押さえた。私に見せるの? この日のこの光景を!? どうして、何でよ、もう充分反省したでしょ、辛かったのも耐えたし、それに……


「……あ」


 戻りたいという時間。それは何も楽しかった時や嬉しかった瞬間だけじゃなくて、あの時こうしていればという時間も含まれる。であるならそれは、確かに。
 階下から悲鳴が聞こえる。それに、何かを噛み砕くような盛大な稼動音。きっとあの時の焼き回し。このままでいれば、お母さんは頭からあの機械に飲み込まれて、潰される。あの時の私の目の前で母だったものをぶちまけて、すり潰されて。
 ──十年前の六月二十五日。なんという事もない日だった。いつものように母は片づけを嫌うお父さんの代わりに、家中を掃除していたんだ。
 いつもと違うのは、触るなよと言われていた機械を母が雑巾で拭いていた事。拭き終わってから、機械のネジだかなんだかにスカートの裾が引っかかった事。母の責任は触るなと言ったものを触ったこと。父の責任は危ないものを玄関に置いていた事。その責任感もあってか、父はあの頃私に殊更強く当たったのだと思う。自分は悪くないと誰かに言って欲しくて。
 そこからは私の責任。母が、私に「取ってくれない?」と引っかかっていたスカートを指差したのだ。私は勿論従ったが、どうも悪い具合に引っかかっていたので、妙案のように愚かな考えを実行した。
 それは、機械を作動させる事。そうすれば機械自体も動き出し、スカートの引っかかりも取れるだろうと思ったのだ。機械自体、そう危ないものではないと勝手に考えていたのだろう。だって、お父さんが好きなものが危ないわけが無いと、信じ込んでいたのだ。
 ……だからこそ、裏切られた気持ちになった。信頼していた科学と言う隣人に掌を返されて母を殺されたと、自分の責任を横に逸らし科学自体を恨んできた。それはきっと、今でもそうだ。
 つまり、私が機械を作動させて、母はそのせいで機械に巻き込まれ、死んだ。それが十年前の六月二十五日という日。私が私でなくなった日のこと。


「ルッカ! パスコードを入力して機械を止めて!」
「えう、わたし分からないよ! おかあさん!」


 溜水地の門を開けた時の水流の如く意識が流れ込み、頭が元の世界に戻る。母は『わたし』に言ったのではない。きっと『私』に言ったのだ。
 頭の中の靄は全て消えた。そして、戸惑っている自分の臆病もとうに無い。むしろ使命感や躍動感すら感じる。私が今まで科学に生きてきたのは今日この日の為だとも。
 そうだ、私は母を助ける為に生きてきたのだ。もうすでにこれは夢ではない。間違う事無き確かな過去。階段を落ちるように駆け抜け一階に戻り、家の中にある機械を操作する制御室に飛び込んだ。扉の鍵の存在なんて無い、銃弾一つで吹っ飛ぶ程度の障害に考えを傾けるな私。


「パスコードパスコード……」


 キーボードを叩きながら検索する。動作に掛かる僅かな時間がまどろっこしい、この時のコンピューターは私が改造していないから妙に動作が遅い。今はここにいない父の顔を殴り倒したかった。
 パスコードの正確な内容は見つからなかった。それでも、ヒントが一つ。我が最愛なる者の名前とある。私は状況が状況なのに苦笑する、お父さんったら、無駄にキザなのね。
 答えは決まっている。私は四文字のアルファベットを打ち、エンターを押そうとする。これで良い、これでお母さんは助かる。お父さんが荒れることもなく、私が家で怯える事も外で苛められる事もない……そうしたら。


「……そうしたら?」


 最愛なる者とは誰か、私は今一度考えてみた。それは二人いる。一人は疑うまでもなく私の母。小さい頃に亡くなったとはいえ、母はいつまでも素晴らしい母親だったはずだと確信している。私の存在を誰よりも認めてくれていたのは母だったのだから。
 ではもう一人は? 次に私を認めてくれた人。血縁があるわけでもないのに、一緒に暮らしていた訳でもないのに。いつまでも私の側にいてくれるだろうと、私の妄想かもしれないけれど、そんな人。


「そんな、そんなの、ないわよね?」


 母を助けたとして、それは今まで生きてきた私を否定する事。だって今の私は母を救えなかったルッカで、もしそこに手を加えたら、それはもう。


「だれか、おかあさんを助けて!!」


 過去の私の声が、今の私にまで届く。もう時間は無いのだろう、迷っている時間は、もう。
 私の震える指は、何処に向けば良いのか、分からないまま行動に移した。それが正しいのかどうかも分からず、ただ流されるままに。






 ──気がつけば、目の前には散らかった本も工具類も見えず、むしむしとした空気と虫の鳴き声響く森の中に私はいた。茶色と緑が散らばる中、ロボの銀髪が異様に目立っている。


「……心配して、見に来てくれたの?」
「ええ。ふと目を覚ませば、ルッカさんの姿が見えなかったものですから。センサーを頼りに探してみました」こめかみの部分を指で叩きながら、ロボは言った。
「そう。ごめんね、心配かけて」私の謝罪にロボはちょっと驚いたように口を震わせて、次に慌てて「良いですよ、そんなの」と言う。なんだかその慌て振りが可愛くて、笑みを洩らしてしまった。


 立ち上がろうとして、気付く。面白い事に、膝が崩れて立ち上がることさえできない。膝の皿に手を当てるも、その手さえ震えていてなんだか滑稽だった。おかしくて、笑い出してしまう。奇異に映るだろうか、今の私は。映るのだろう、ロボがぽかんと口を開けているのだから。何を言うべきか分からない、そんな様子だった。
 手探りに背後にある木に手を当てて、気合を込めながら立ち上がる。太ももが浮いたかと思えば、やはりそこまで。崩れ落ちるのは一瞬だった。ロボが駆けてきて私の体を支えてくれる。両手が私の肩に当たった事で転倒せずにすんだ。「ありがとう」首をかくん、と倒して簡易的な礼をする。


「大丈夫ですか? なんだか、顔色が悪いですよ」私の額に手を当てながら、ロボが言う。
「う、ん。ちょっとね」
「早めに休んだほうがいいですよ。というか、何してたんですかこんな時間に」
「……ちょっとね」


 私が話す気が無いと思ったのか、ロボは呆れ顔になり私の前でしゃがんだ。小さな背中を見ながら、私はどういうことなのか分からず彼の言葉を待つ。しばらくそうしていると、ロボが焦れたように背中を揺らした。大体意図は掴めたのだが、少し意地悪な気持ちが生まれ、そのまま見ている。彼はぐるりと首を回転させて、見せた顔は眉をしかませていた。


「早く乗ってくださいよ。動けないんでしょう?」


 顔を紅潮させた彼は、恥ずかしさを押し殺す子供そのままだった。なんだか、反抗期ながらに根は優しい弟を見ている気分になり、頬が緩む。お言葉に甘えてその背中に体重を掛けると、難無く私の体を持ち上げる。力を込めている様子も無く、それは私が軽いのだ、と優越感を得るよりも彼が案外に力強いと感心する気持ちが強くなった。男の子だものね。
 アンドロイドなのだから、当然かもしれない。けれどそういうことじゃない、要は気持ちなのだから。嬉しいことに変わりは無いのだ。ロボの首に腕を絡ませて、もう一度ありがとうと声を出すと、彼は明らかに照れた様子で「耳元で話さないで下さい、くすぐったいじゃないですか」と唇を前に出した。


「あのね、ロボは好きな子とかいるの?」他意も無く、唐突に聞いてみる。ロボは「僕、マスターにそういう気、無いですよ」とおっかなびっくりに返す。別にムードに流されたつもりは無いのにこの言いよう、むか、ときたので強く首を締めると「タオル! タオル!」と騒いだ。
「なんだ、僕の魅力にまいったのかと思いましたよ」
「そういうのは、マセガキって言うのよ。で? 好きな子いないの? 未来とかにさ」
「恋愛かどうかまだ分かりませんけど、いますよ。幼馴染です。マスターと同じですね」肩越しに振り返って、彼は見ている私を元気付けるような、嬉しそうな笑顔を向けた。彼が好むような女性なら、きっと彼と同じように無邪気で、それでいて引っ張ってくれるような力強い女性なのだろうな、と勝手に推論した。あながち当たっている気がしないでもないわね。これも勝手な考えだけど。
「意外と言えば意外かしら。あんたはクロノが好きと思ってた。道徳観抜きに」気のせいだったみたいね、と安心して胸を撫で下ろすと、その事についてロボからの反応は無い。不安になり、「ねえ?」と確認しても返事は無い。そわそわとした焦燥感が昇ってきたのでこれ以上突っ込む事はやめにする。藪をつついたら、蛇と言う名の背徳が出そうで怖かった。


 転がっていた木の枝を踏み折りながら、少しづつエイラの眠る場所に近づいていく。万一彼女が起きていたらこの姿を見られたくないのでロボに言って降ろしてもらう。彼はまだ心配顔だったが、私の考えも分かってくれたのだろう、素直に私の体を離してくれる。こういってはなんだが、彼の小さな体に背負われている間ずっと私の足が地面を擦りそうで気を遣っていた。わざわざそれを指摘するほど私は心無いつもりはないので、彼の頭に手を置き撫でながら「助かったわ」と言っておく。実際、ありがたいと思っているのは嘘ではないし。
 まだ正確に歩けているか自信は無いが、誤魔化すくらいは出来るだろう。ぐっ、と足を前に出し体重を右足に乗せる。いける、きっと大丈夫。


「ロボの好きな子って、どういう子なの?」他に話す話題もなし、私は先ほどの話を続ける。
「そうですね、どこかしら、マスターに似てますよ。強引な所とか、案外乱暴な所とか。変な所で意地っ張りだとか」
「全部褒め言葉に聞こえないのは何故かしら?」ふっ、と鞄の中にある金槌に手が伸びるのは習性というか、その類だろう。彼は顔色を青くしながら両手を前に出し左右に振った。「いえいえ、良いところも沢山似てますよ!」
「例えば?」
「例えば、そうですね。一途な所とか、分かりにくいけど、いやらしくない優しさだったり、簡単に言葉にしたくないような深い部分が似てます」


 私は、逃げ口上っぽいな、と邪推しつつも、彼の表情が真剣だったので掘り返さないことにする。さっきまで助けてくれてたから、目を瞑ってあげるわ。
 そのまま会話が途切れる。私は別に良いのだけれど、先行くロボがチラチラとこちらを窺うので気になる。さっき冗談で怒ったように見せたから、私が不機嫌だと勘違いしているのだろうか? 私もそこまで我侭では……あるけれど。


「クロノはね」
「え? 何ですか?」急すぎたか、ロボはうろたえながら疑問符を上げた。安心しなさい、という意味と怒ってないわ、という意味を込めて彼の小さな左手を握り手を繋いだ。
「クロノの好きな女の子のタイプよ。小さい頃は、自分の手を引いてくれるような女の子だったの」……何故かロボはメモをするように自分の手に何かを書くようなジェスチャーをするが、あえて無視しておく。気にしたら負けよ、負けなのよ。
「まあ、基本は変わらないんだけどね。好きなタイプ。ほら女の子ってさ良くも悪くも媚びるじゃない? 異性の前ではさ」
「そうなんですか?」訝しげに言われて、まだロボには早かったか、と舌を出した。あからさまに、これが媚びた行為よ、と手本を見せるように。彼はこれ以上無い程怯えたような目線を送ってきた。ちょっと、傷ついたわ。
「これって別に悪意があるとかぶりっ子とかじゃなくて、そういうものなの。男だってさ、女の前じゃちょっと態度変わるでしょ? 動作に隙が無いようにするとか。それと同じなの」
「はあ、まあ言いたいことは分かります。それがクロノさんの好きな人と何か関係が? そういう人が好きって事ですか?」両手を上下に分けて、反転させる。
「逆よ。そういう女の子が嫌いって事じゃないけど、出来るならそのままの自分を見せて欲しいってさ。まあある意味贅沢なのかも、違う意味での亭主関白って言うのかしら?」
「そういう歌ありましたね。名前は忘れましたけど。データに残ってるだけですし……あ、A.D千年には無かったか」自分で言って自分で訂正し、忘れてくださいと促してくる。私は特に気にせず話を続ける。
「そういう、女の子になりたかったのよ。私。だから他の女の子たちと違って自分をそのままに出そうと思ってた。町の女の子が趣味の話でキャッキャ言ってて、私もそれに乗ってワイワイ会話してもクロノにはそんなことしなかったし、スカートなんか履いたこともない。化粧も知らないし、まあそれはそんな暇無かったっていうのも本当だけど。そりゃあ本当は可愛らしい服とか、綺麗な化粧とか、やってみたかった。でもクロノはそういうの好きじゃなかったから、そう思ってたから、ずっと我慢してた」
「……マスター?」


 そうだ、ずっとクロノの隣にいようと努力してた。小さい頃から、怖い事でも何でもないように、迷ったりしないように、本当は怖いし迷ってるけどそんな素振りはしないように自分を騙してた。今も騙してる。頑張れば頑張るほどクロノに近づけると信じて疑わなかった。だって頑張ってるんだもの。他のどんな女の子より頑張ってる自信がある。もしそれより頑張ってる子がいればさらにその上に行く覚悟もある。私の人生は、クロノへの恋心が勘違いだったとしてもクロノの隣にいる為にあった。科学の隣に彼がいた。どちらも、命を賭けるくらいに必死だったの。嘘じゃないの。
 どれだけ油塗れになったって、スライサーの整備で指が飛びかけたって、火花ばかり見て視力が極端に落ちても科学に打ち込んだ。実験や研究で寝てなくたって、高熱にうなされたってクロノとの約束を破った事はない。必ずその場所に向って、クロノと別れてから玄関で倒れた事も片手じゃ足りないくらいある。妥協してるなんて言わせない、どっちも私の人生において全力だった。


「ロボ、ロボ。聞いてよ、ねえ」ああ、もしかしたらって希望を持ってたけど、もう無理だって分かる。沢山消えていく、私が消えていく。「私、お母さんを助けたの。ゲートで十年前に戻って、過去に戻ったのよ。そこでお母さんを助けた。きっと今、私の家に行けばお母さんがいる」
「え? え? よく分からないですけど、それって良い事ですよ、ね? 何でマスター、泣きそうなんですか?」おかしなもの見る目つきでロボが所在なさげに聞いてくる。私の気分が移ったのかしら? だとしたら、申し訳ないけど、ごめん気にしてられない。
 当たり前だけど、きっと彼には分からないだろう。私の母が生きているという事が私にとってどういう事か。それは素晴らしい事。私は、自分で言うのもなんだけど、子供ながらにお母さんが大好きだった。子供なら誰だってそうだと思うかもしれないけど、本当に好きだった。だから、助けられて本当に良かったと思う。それは間違いないの、間違いないけれど。


「でもね、でも、お母さんがいなかったからなの。だから始まったのよ。お母さんが死んじゃったから私がいるのよ」
「あの、マスター! 大丈夫ですか!? 凄い汗ですよ!」
 腕を体に回して、自分で自分を抱きしめる。何処かに行こうとする己をその場に留める様に、離れたりしないよう、縋るみたく。あはは、クロノに縋るだけじゃなく、とうとう私、自分にまで縋るんだ。
「お母さんが死んじゃったから、私はクロノに会えた! クロノを好きになったのよ!!」


 不規則に体が揺れる。何度も側の木にぶつかったり草むらに足を突っ込んだりしながら、体が揺れる。もう自分では私が揺れているのか他の全てが揺れているのかも分からない。誰かに繋ぎとめてくれないと私は私でいられないのだ。その誰かは、今ここにいないあいつに他ならない。
 隣にいてくれるって、言ったのに。でも無理か、そんなの無理よね。ずっと隣にいるのは比喩で、本当にずっと自分の近くにいるのは自分以外に無い。
 でも私は、これからなるだろう自分が嫌い。どうしろというのだろう。
 お母さんが死んで、クロノに出会って仲良くした。勿論、お母さんがいなくても私とクロノは仲が良かったと思う。どちらも行動的と言えば行動的だし、お互いの親も仲が良い。いつかは会っただろう、多分友達にもなっただろう。でも好きになった? あれほど、壊れるほど彼を愛しただろうか? きっと……無理だ。奇跡でもない限り。
 きっと彼と私は仲の良い幼馴染であるだろう。でもそこに愛は無い。常日頃彼を考える事はないだろう。その分科学に打ち込んだり、または友達とのごく普通の遊びに興じたりしただろう。変わってるけど『女の子』している私になるのだ。
 ……そんなの、私じゃないよ。私じゃないの。
 呼吸が出来ない、これから訪れる作られた記憶の波に溺れてしまう。今私に目はありますか? 耳はありますか? あるなら何で見えませんか? 聞こえませんか?


「消えていく、私がクロノを好きである理由も、好きになった原因も、好きだった記憶も!! 助けてロボ、お願い、助けてよ! クロノーッッ!!」
「落ち着いて下さいマスター! マスターはここにいます! 何にも変わったりしませんから!! だから!!」


 寄生虫みたいだ、と妙な考えが浮かぶ。今まで私に寄生していた『私の記憶』が、私に飽きてもう一人の新しい私に移っていく。古い私は用済みだと言わんばかりに。必要ない記憶は切り落として新しい私になっていく。私にとって必要な記憶は、大分すれば二つ。さっきも言ったとおり、科学とクロノ。多分命より大事な宝物。前者はともかく、後者は記憶があってこそなのに。辛い記憶もあるけど、全部自分の手で拾い集めたものなのに。膨大すぎる記憶は両手の隙間からぽろぽろとすり抜けて消えていく。床に落ちた『それ』はまた再構成して、新しい私へと……私へと。
 そして、思考は停止する。ほんの、短い時間だけれど。


 これもある意味、死なんだろうか? さよなら今までの私。上手くやってね、新しい私。
 それと……誰に言うべきなのか分からないけど、ごめんなさい。












「どうしたのロボ? そんなに顔近づけて、草むらの中に蛇でもいたの? 私も苦手だから、あんまり頼りにしないでよ?」


 やっぱり、彼はいつまで経っても子供だと思う。切なそうに目を細めて私に抱きつく姿は少年どころか、幼児にまで逆行していそうな姿だ。マールが喜びそうと言えば、そうかも。ある意味ここにいなくて良かったかもね。ロボにとっては災難以外のなにものでも無い事になりそうだし。


「マスター? あの……」もじもじと指を絡めて、何か言いたげに私を見上げてくる。本当に何かあったのだろうかと心配になってきた。肩に手を置いて目を見つめる。数秒そうしていると、彼から視線を外してきた。何が何だか分からない。
「どうしたのよロボ、お腹でも痛いの? ……って、アンドロイドにそれはないかしら」自分で言って、自分の言葉のありえなさに苦笑する。アンドロイドに感染する病原菌なんてありはしないだろう。ウイルスとか? 未来ならもしかしたらそんなものもあるかもしれないけれど、ここは現代。まだそんなサイバーなものは存在しないだろう。意思や痛覚を持つ自立機械の個体数自体少ないのに。
「……なんでも、無いです」


 妙なロボね、と肩を竦めながら立ち上がる。こんな夜中に起きているのに、妙に体の調子が良い。このまま起きて冒険に出れそうなくらい。でもまあ、エイラをあのまま寝かせておくわけにもいかないし、とりあえず仮眠だけでも取りましょうか。必要ないと思うけど。
 たき火の火を目印に、火の光源目指し歩くけれど、ロボが一向に追いかけてくる気配が無い。ずっと俯きながらその場を動かない様子はどう見ても異常だった。やっぱり調子が悪いのかと不安になる。見るべき所は全て見たつもりで、何処か見落としがあったのだろうか。


「……マスター、マールさんとクロノさん。なんだか良い感じですよね。あの二人くっつくんじゃないですか? それともカエルさんとクロノさんかもしれませんね」


 ……まさか、それが気になってぼう、としていたのだろうか? 子供とはいえ、恋愛事に好奇心を抱くなんて、見た目と違い何百年も生きている証明かもしれないわね。いや案外子供ってそういうものなのかも。私がロボと同じくらい(見た目は)の時には恋愛なんて考えた事も無かったけど。なんとなく、小さい頃の夢はお嫁さんだったけど、少し生きてみれば興味がなくなるものね。


「あの馬鹿にマールは勿体無い気もするけど、まあそうよね。カエルも悪い人じゃないし、どっちになってもクロノからすれば僥倖じゃないかしら」腰に手を当てて、何だか説明するような自分に笑ってしまう。
 何故だか、ロボが悲痛そうな表情を浮かべていた。ああ、まあクロノを慕ってるロボからすれば聞きたくない言葉かもしれなかった。ちょっと、反省しなきゃね。
「あの! ま、マスターとクロノさんは!? 結構、お似合いだと思うんですけど!」ロボは突拍子も無いことを真剣に言ってくる。私とクロノ? そんなの……
「無いわよ。ただの幼馴染なのよ? ロボの場合とは違うの。大体、クロノってどうも子供っぽいしね。まあ頑張りやだし嫌いじゃないけど、なんだか弟みたいで、恋愛感情なんて覚えた事もないわ」


 長い間一緒にいたせいでもあるんだろうけど、あいつと彼氏彼女なんて冗談にもならない。そもそも私の好みは大人っぽい、ストイックな男だし。クロノは到底そんな男じゃないし、なり得ない。それはそれで良いって子もいるんでしょうけど。結構あいつモテるしね。何回紹介してって言われたことか。あいつも私に男紹介してきたし、お互い迷惑かも、なんて遠慮は無かったけど。


「あいつも私に恋愛する気はないでしょ、姉弟の関係が一番しっくりくるわ」


 これ以上言い飽きたことを話すのは御免だったので話を終わらせて、体を反転させる。幼馴染と言うだけで色んな人に「付き合わないの?」と言われてきたのだ。特に女性に。町に若い男がいないせいでもあるんだろうけど、クロノばかり目当てにされて他の男の子が可哀想でもあった。立場を変えて、クロノに「お前ばっかりもてて他の女の子が可哀想だ」と言われた時は頬を叩いてやったけど。女の子の気持ちが分からないなんて、やっぱりあいつは男としてなってない。マールも苦労するでしょうね。
 それっきり、ロボが黙りこくり、ぶるぶると体を揺らしていたので、私は何事かと思い彼に歩み寄った。


「……ああ、これがマスターの言ってた、自分が消えるってやつですか」『消える』という物騒にも聞こえる事をロボが呟いていたので、また振り返る。もう、ある意味この子も弟みたいなものよね。目が離せないという点では、クロノよりも手が掛かるわ。
「今度は何?」ちょっと疲れ気味に聞いてみると、ロボはなんでもないですと前置いて、意味の分からない事をつらつらと並べ始めた。
「ただ、僕の知ってる人間関係が書き換えられていく、そんな気分になっただけです。辛いというのとは違うけど、何だか寂しい」側頭部に掌を当てながら、ロボが感情の分からない顔で言った。
「それ、何かの詩? ちょっとよく分からないし、感動も出来ないわ」
「……はは、僕もですよ。気分の良いものじゃない。でも、これだけは言わせてください」
「な、何よ?」ロボは息を大きく吸い込んで、吐き出しながら悔しそうに呟いた。
「さよなら、前のマスター。それと、マスターを知る僕」
 どういう事なのか、問い詰める暇も無く、彼はそそくさと去って行った。


 それっきり、会話も無く私たちはエイラの所へと向った。ロボはそのまま座り込み顔を隠すように両手で頭を抱えて、腕枕で寝る。私も気に寄りかかり目を閉じた。木々のざわめきが心地良い。今日は良い夢を見れそうだ。


「あれ? 何で……」


 目を閉じたと同時に、涙が溢れてくる。別に悲しくもないのに、悔しくもないのに嗄れることない勢いで涙がぼろぼろと、ぼろぼろと。
 悲しくない。悔しくもないし怒りも、また嬉しくもないのにこんな事ってあるんだろうか? ロボの体調を心配しておいて、自分の体調が心配になるなんて、どういうことよ、全く。
 何度も言うけど、涙が出るであろう一般的な理由は何一つ浮かびはしない。だって、何も変わったことなんてないのだから。
 ──ただ、強いてあげるとすれば。胸の中がスウ、と空白になったような、何か大切な『もの』を失くした時に似た、そんな物足りないような、寂寞とした気持ちがある。
 そんな気がした。きっと気のせいだろうし、仮に原因があったとして、それを知る事も、無いのだろうけど。


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