<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

スクエニSS投稿掲示板


[広告]


No.20619の一覧
[0] 星は夢を見る必要はない(クロノトリガー)【完結】[かんたろー](2012/04/28 03:00)
[1] 星は夢を見る必要はない第二話[かんたろー](2010/12/22 00:21)
[2] 星は夢を見る必要はない第三話[かんたろー](2010/12/22 00:30)
[3] 星は夢を見る必要はない第四話[かんたろー](2010/12/22 00:35)
[4] 星は夢を見る必要はない第五話[かんたろー](2010/12/22 00:39)
[5] 星は夢を見る必要はない第六話[かんたろー](2010/12/22 00:45)
[6] 星は夢を見る必要はない第七話[かんたろー](2010/12/22 00:51)
[7] 星は夢を見る必要はない第八話[かんたろー](2010/12/22 01:01)
[8] 星は夢を見る必要はない第九話[かんたろー](2010/12/22 01:11)
[9] 星は夢を見る必要はない第十話[かんたろー](2011/08/02 16:03)
[10] 星は夢を見る必要はない第十一話[かんたろー](2011/01/13 06:26)
[11] 星は夢を見る必要はない第十二話[かんたろー](2011/01/13 06:34)
[12] 星は夢を見る必要はない第十三話[かんたろー](2011/01/13 06:46)
[13] 星は夢を見る必要はない第十四話[かんたろー](2010/08/12 03:25)
[14] 星は夢を見る必要はない第十五話[かんたろー](2010/09/04 04:26)
[15] 星は夢を見る必要はない第十六話[かんたろー](2010/09/28 02:41)
[16] 星は夢を見る必要はない第十七話[かんたろー](2010/10/21 15:56)
[17] 星は夢を見る必要はない第十八話[かんたろー](2011/08/02 16:03)
[18] 星は夢を見る必要はない第十九話[かんたろー](2011/08/02 16:04)
[19] 星は夢を見る必要はない第二十話[かんたろー](2011/08/02 16:04)
[20] 星は夢を見る必要はない第二十一話[かんたろー](2011/08/02 16:04)
[21] 星は夢を見る必要はない第二十二話[かんたろー](2011/08/02 16:05)
[22] 星は夢を見る必要はない第二十三話[かんたろー](2011/08/02 16:05)
[23] 星は夢を見る必要はない第二十四話[かんたろー](2011/08/02 16:05)
[24] 星は夢を見る必要はない第二十五話[かんたろー](2012/03/23 16:53)
[25] 星は夢を見る必要はない第二十六話[かんたろー](2012/03/23 17:18)
[26] 星は夢を見る必要はない第二十七話[かんたろー](2011/08/02 16:06)
[27] 星は夢を見る必要はない第二十八話[かんたろー](2011/08/02 16:06)
[28] 星は夢を見る必要はない第二十九話[かんたろー](2011/08/02 16:06)
[29] 星は夢を見る必要はない第三十話[かんたろー](2011/08/02 16:07)
[30] 星は夢を見る必要はない第三十一話[かんたろー](2011/08/02 16:07)
[31] 星は夢を見る必要はない第三十二話[かんたろー](2011/08/02 16:08)
[32] 星は夢を見る必要はない第三十三話[かんたろー](2011/03/15 02:07)
[33] 星は夢を見る必要はない第三十四話[かんたろー](2011/08/02 16:08)
[34] 星は夢を見る必要はない第三十五話[かんたろー](2011/08/02 16:08)
[35] 星は夢を見る必要はない第三十六話[かんたろー](2011/08/02 16:07)
[36] 星は夢を見る必要はない第三十七話[かんたろー](2011/08/02 16:08)
[37] 星は夢を見る必要はない第三十八話[かんたろー](2011/08/02 16:07)
[38] 星は夢を見る必要はない第三十九話[かんたろー](2011/08/02 16:06)
[39] 星は夢を見る必要はない第四十話[かんたろー](2011/05/21 01:00)
[40] 星は夢を見る必要はない第四十一話[かんたろー](2011/05/21 01:02)
[41] 星は夢を見る必要はない第四十二話[かんたろー](2011/06/05 00:55)
[42] 星は夢を見る必要はない第四十三話[かんたろー](2011/06/05 01:49)
[43] 星は夢を見る必要はない第四十四話[かんたろー](2011/06/16 23:53)
[44] 星は夢を見る必要はない第四十五話[かんたろー](2011/06/17 00:55)
[45] 星は夢を見る必要はない第四十六話[かんたろー](2011/07/04 14:24)
[46] 星は夢を見る必要はない第四十七話[かんたろー](2012/04/24 23:17)
[47] 星は夢を見る必要はない第四十八話[かんたろー](2012/01/11 01:33)
[48] 星は夢を見る必要はない第四十九話[かんたろー](2012/03/20 14:08)
[49] 星は夢を見る必要はない最終話[かんたろー](2012/04/18 02:09)
[50] あとがき[かんたろー](2012/04/28 03:03)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[20619] 星は夢を見る必要はない第二十一話
Name: かんたろー◆a51f9671 ID:9726749e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/08/02 16:04
「汚いな、実に汚い。お前は卑劣だ、愚劣とすら言える。偽善者、卑怯者、外道、これらの罵詈雑言を並べたとて貴様には届かぬ。お前は何だ? 何の理由があってそのような情け容赦の無いことが出来る? 答えろクロノ」


「これはこれは、自分の浅はかさを棚に上げて他人を貶めようとは稀有な存在だな、恐竜人の主というのは」


「人間、あまり分を越えると後に後悔しようぞ? 貴様の首には俺の爪が引っかかっているのだ、俺が腕を引けば貴様の喉を容易く散らせよう」


「分だと? ニズベール、その言葉は的外れだ。戦いとは分を競うものではないし、そもそも定義が無い。そんな抽象的な言葉を脅迫に使ってる時点でテメエの底は知れたな」


 スッ、と硬質な物体が擦れる摩擦音と共に、アザーラが文字の彫られた指先分の大きさの石を取る。石の裏を見た後、苦渋に満ちた顔を浮かべ、きっ、と睨みつけながら床を踏み無機質な床が悲鳴を上げた。
 そんなアザーラを見て俺は愉快に過ぎる気分を出さないように頬の内側を噛んで無理やり笑みを押さえ込む。耐え難い、真に耐え難い。何故他人を踊らせるのはこうも面白いのか? もし神という存在があったとして、その役職は甘美なものだろうと推測される。地上で蠢く生き物達を高みから見下ろし操り興を得る。尚且つ見下ろされている生物は自分を崇拝しているのだ、これほど痛快な事はあるだろうか? いや、無い。


「……クロノ、今ならまだ私も許そう。分かるか、慈悲をくれてやると言っているのだ。寛大にも恐竜人たる私が猿如きに優しさを振りまいてやると、そう言っている……貴様は何を待っている? 教えよ」


「寝ぼけたか? これは勝負だ。自分の仕掛けた地雷の位置を敵方に教えろと? それは出来の悪いコメディになりそうだ。題名の前に『本格』という枕詞があれば最上の映画になりそうだが」


「……アザーラ様、これはもう我々自身の手で奴を沈めねばなりません。臆されるな、貴方の豪運、ここで尽きるものではない……!!」


 ニズベールの言葉が後押しして、覚悟を決めたアザーラが机の上に自分の手に握られたものを叩き付けた。……ここまでだ。俺の顔の筋肉が限界を訴えている。厳重な鎖つきの鍵がじゃらじゃらと音を鳴らし落ちていく、そんな例えを思いつきながら、徐々に俺の顔がにやけ、それに反してアザーラの顔が絶望に染まっていく。嘘だ、これは違う……理屈に反している……! と誰に聞かせるでもない言葉を洩らしながらアザーラは席を立ち後ろによろめいていく。
 錠は全て消えた。さあ宣言しよう、これで終わりだ、お前に後は無い。そもそも、この勝負を俺が提案した時点でテメェの負けは確定している。地に落ちるがいい、恐竜人……!


「ロン! 翻一ドラドラ満貫。アザーラは飛んだな。これで俺の持ち点が56000。俺の勝ちだ」


「嫌じゃー!! もうこれ以上一発芸を披露するのは嫌じゃああああ!!! ニズベール助けろ!」


「あああおいたわしいアザーラ様ぁぁぁ!!! ……しかしながらアザーラ様の一発芸は大変微笑ましいので、止めさせるわけにはいきません。さっきのドジョウの真似なんかもう、乱心する勢いで愛らしゅうございました」


 俺がティラン城に誘拐されて早五日。鬼ごっこもかくれんぼもおままごともお医者さんごっこもやりあきたので俺が新しい遊びを提案したのが二日前。麻雀という遊びを恐竜人たちに教えてからまさかのフィーバー、大流行となってしまった。
 石を彫ったり色を塗ったりで牌を作るだけでかなりの時間を要するかと思っていたのだが、彼らの作業力というか技術力というか、それを総結集させたところ半日足らずで麻雀の道具を作り終えてしまったのだから面白い。『恐竜人は手先が器用である』という論文を提出すべきだろうか、すべきだろう。


 麻雀の道具を作ってから二日、今では城に住む恐竜人の約四割が麻雀に興じているという事実はいかんともしがたい。ついでにあほくさい。
 まあ、アザーラに連れまわされて筋肉痛が体の節々を痛めつけるので、テーブルゲームを所望していた俺としてはありがたい展開ではある。
 ちなみに、今さっき麻雀をしていたメンバーは俺、アザーラ、ニズベール、一般兵の恐竜人である。一般と言っても聞いた話ではニズベールの補佐的な位置にいるそうな。つまり今現在ティラン城は一切稼動していない、ということだ。トップスリーまでの恐竜人が娯楽に勤しんでいるのだから。


 ああ、蛇足に重ねた蛇足だが、俺たちの麻雀では暗黙の了解として一番負けた奴はトップの言うことを何でも聞かなければならないというルールが確立している。俺を含めたアザーラ以外のマンバーがアザーラを集中攻撃しているので、アザーラは今日の朝から延々物真似、ギャグ、給仕、赤ちゃん言葉で話す、といった罰ゲームを食らっている、というのはどうでもいい話。
 長くなったが、わたくしクロノは予想に反して恐竜人たちとティラン城での生活をエンジョイしているという酷く禍々しい話。この場合の禍々しいの使い方は間違ってない。それでも、最近では今の生活も悪いものではないと思い直している。


「アザーラ、次は一発芸じゃない。今度は生魚を咥えて『うぐぅ』と言え」


「そこはたいやきじゃないのか!?」


 何故原始で生きているお前が元ネタを知っている。


「おい! カツオ……いやマグロ持って来い! カジキでもかまわん!」


「ニズベール! 私はカジキなんか口で咥えられん! おまえらも持ってくるなぁ!!」


 ニズベールの命令に光ファイ○ーもびっくりな速さでカジキを持ってくる恐竜人に、全力の否定と自分の限界を力説するアザーラ。一週間弱共に生活して気づいたんだが、アザーラってあんまり尊敬されてないよな。可愛がられてるというか、おもちゃにされてる感が強い。後、ニズベールが何故かカエルに見えてくる不思議。仲間が恋しいとかそういったホームシック的な感情で生まれる幻覚では断じてない。あ、アザーラの口に無理やりカジキを押し込まれた。ちょっとちょっと、幼い容姿の子相手にそういう無理やりっぽいアレは規制されてるから止めて。


「けほ、けほ……うううぉまえらぁぁ!! 息ができなくて死ぬかと思ったじゃないか!」


「すいませんアザーラ様。しかし、これも偏にアザーラ様の雄姿を見たい一心で!」


「うぬ……そうか、私はかっこいいか?」


 アザーラの問いに満場一致で「サー、イエッサー!!」な恐竜人たちが最近可愛い。角砂糖でもあげればついてくるんじゃないかとさえ思えてきた。
 恐竜人萌えという新ジャンルを開拓している俺にとてとてと小さな足音を立ててアザーラが近寄ってきた。「私はカッコイイそうだ!」と嬉しそうに言うのでほっこりした俺は膝の上に手招きしてアザーラを乗せる。小さな重みが安心感を与えてくれることに、俺は小さな幸福を感じていた。


「なあなあクロノ、カッコイイ叫び声ってどんなんだろうな! 私はガオオオ! だと思うんだが」


「もしかしたらキシャア! かもしれん。何事も考えることは悪くない。色々考えて叫んでみれば答えが見つかるだろうぜ」


「そうか、分かった!」


 良く分かってなさそうな顔だけれど、指摘するのは無粋。膝の上のアザーラを持ち上げて肩に乗せた。肩車だー! と喜ぶアザーラを見て恐竜人達の顔が綻んでいくのは、悪くなかった。家族って、こんな感じなんだろうか?


「ちょっと散歩でもするかアザーラ。昼飯までまだあるしな」


「うむ。クロノ丸発信じゃ!!」


「おいおい、俺は乗り物か? しゃあねえな、走るから落ちないようにしっかりしがみついてろよ!」


 そのままブーン! と言いながら部屋を出て長い廊下を走り回る。時々すれ違う恐竜人たちに「ゲギャギャギャ!」と言われるので俺も「おお! 今日の夕食は期待できそうだな!」と返しておく。岩塩が取れるとは、肉料理が待ちきれないな。続いて現れた大猿が「ウホッホッホッ、ウホホー!」とひやかしてきたので「馬鹿、アザーラは娘みたいなもんさ!」と少し顔が赤くなっていることを自覚しつつ怒鳴っておく。くそ、なんだよあの『分かってるって』みたいな顔。頭上のアザーラももじもじしながら俺の髪の毛をいじっている。ぐぐぐ、お前まで照れたら俺も恥ずかしいじゃねえか!
 次に現れたのは給仕のハリー。恐竜人ながら、女であるハリーは最近俺とよく話す。「ゲギャ、ゲギャガギギ!」とアザーラを肩に乗せている俺を責め立ててきたので「いや、そういうことじゃなくて……分かった、今度お前と一緒に海にでも行くから、今日は勘弁してくれ!」と逃げ出した。「クロノ、お前まだあいつと仲良くしてたのか! この前も私との遊びを放棄してあいつと食事してただろう!」と髪の毛を引っ張り出したからたまらない。ああもう! こんなラブコメ展開は望んでないぞ!


 そんな、心温まる皆とのやり取りを経て、俺たちは城の最上階まで辿り着いた。最上階には二つ部屋があり、一つはアザーラの私室。もう一つは私室から長い橋を渡った先にあるブラックティラノの部屋。俺は彼の事をティラノ爺さんと呼んでいる。老獪な知恵と知識を持ち若者を毛嫌いせず、むしろ優しく気安い口調で話しかけてくれる気の良い爺さんだ。最近寝ている時に火を噴いてしまうのが悩みらしい。俺には良く分からないが、人間で言う所の入れ歯が取れるみたいなもんだろうか?


 ティラノ爺さんに挨拶していこうぜ、と言う俺にアザーラが頷いたのでもう一度駆け出す。とはいってもそう大きくない橋を渡るのだから、少々スピードは落としたが。


「グルルララアアァ!!!」


 俺たちの姿を見た途端ティラノ爺さんは嬉しそうに鳴いた。若い者と話すのは楽しいと言ってくれていたが、本当のようだ。歓迎されて、俺も嬉しい。思わず俺も元気良く挨拶をしてしまう。


「お早う! ティラノ爺さん!」


「お早うだティラノ! そうだ、相談があるんだが、カッコイイ叫び声ってどんなのだろう? 教えてくれんか?」


「グルルルル、グガガアアア!!」


 三人(内一人恐竜人、一人恐竜)で談笑して、しばらく笑い声が止まらない空間が続いたが、昼食の時間に近づいた頃ティラノ爺さんが「ゴガッ! グルルルル……」と言うのでようやく時間がかなり過ぎている事に気づいた。俺とワザーラは慌てて礼を言って、食堂に走り出す。ハリー含め、食堂勤めの恐竜人たちは時間を守らないとおかわりをさせてくれないのだ。「早く早く! 今日はデザートにババロアが出るぞ!」と急かして来る。彼女を肩に乗せて行きよりも数段スピードを上げて食堂に向かった。


「ってアホかぁぁぁぁぁ!!!!」


「ふびゃああああ!!」


 我に返った俺はアザーラの足を掴んで宙吊りにさせる。視界が急反転したアザーラは驚きすぎてカッコイイとは程遠い叫び声を出して目をぱちくりさせていた。


「なんでやねん! おかしいやん! なんで俺がこの恐竜人の巣窟でほのぼのせにゃあならんねん!」


「お、おお。関西弁が堂に入ってるな、クロノ」


「どうでもいい! あまつさえどうでもいい!」


 誰だよハリーって!? ティラノ爺さんって何だよその故郷の気の良い隣近所のじいさんみたいな感じ!? なんでグギャアとかグルルとかウホホで意味が分かるんだよ俺は! 月日って怖い! 一週間足らずで馴染んできた自分がことさらに怖い!!


「落ち着けクロノ! まつやまけんいちの最初の『ま』と『け』をひっくり返してみろ」


「けつやままんいち。それがどうしたのか!!」


 どうでもいい! あまつさえどうでもいいうえに激しくどうでもいいこと請け合いな事を抜かすアザーラを上下に揺らす。「吐くー!」とギブアップ宣言をしたので地面に降ろすとぼんやりした顔でアザーラは瞬きを繰り返し何故俺が怒っているのか分からないと言う顔をしている。分からんだろうな、俺にも良く分かってないんだから。


「とりあえずあれだ、今すぐ俺をイオカ村に帰せ! この際まよいの森でも良い! これ以上ティラン城にはいられねえ!」


 俺の帰還したい! という要望を聞いてアザーラがはっと焦り顔になって口を開いた。


「なんでだ!? あそこは人間しかおらんぞ! 恐竜人が行っても迫害される!」


「俺は恐竜人じゃねえ! 人間だ!」


「え……? ああ、そういえば……そうだったか?」


「何でちょっと不満顔の疑惑目線なんだ!?」


 そもそも、俺の不注意で攫われたといっても仲間たちも薄情だ。もう五日だぞ! 何故俺を助けに来ない? ルッカはともかくマールとカエルとロボは来てもいいだろう!? いやいやそういえば忘れてたけどキーノもここに捕まってるんだよな……? あれ、キーノって今何してるんだっけ? まさかもう処刑……?


「ああ、あの男は地下牢で牢屋番と漫才の打ち合わせをしとったぞ。今度の宴会で披露するそうだ」


「そうか……やはり原始にまともな人間はいないか……」


 前回の大怪我はどうしたのか。あんな奴助けなくても良い。勝手にM○目指せばいいさ。今年でもう終わったけど。
 俺が頭を抱えてる最中、アザーラは笑いながら俺の肩を叩いてきた。その手首を取って窓から放り出したい衝動がどんちゃん騒ぎしているけれどあえて耳を貸してみる。


「あの男がおかしくなったと言うが……原因はクロノじゃぞ?」


「……何?」


「お前が私たち恐竜人と仲良くなり、その結果人間も悪くないと恐竜人たちが考え、そうした上でそのキーノという人間と恐竜人が会話をするようになった。でなければ、我々恐竜人が人間の男と漫才などするものか」


 その漫才の部分が無ければまともな話に聞こえなくも無かったかもしれない。たった一言が全てを台無しにしてしまう。信頼と同じだ。仲良くなった理由の最たるものが麻雀というのもしまらない。


「……架け橋になった、とかそういうことか?」


「うむ。あくまでティラン城限定のことだがな。捕虜として捕まえた者をどうしようが私たちの勝手じゃ。つまり、怪我を治療しようがある程度仲良くしようが漫才ユニットを組んで世界を目指そうが自由じゃろう?」


 やっぱり漫才の下りが邪魔してあほくさい話に聞こえてしまう。よりによってなんで漫才なのか、酒を酌み交わすとかそれくらいなら許容できようが。


「……それなら、さ。人間とある程度仲良く出来るなら、共存もできるだろ? 村の人間を殺したのは……確かに、許されることじゃないけど、でも今からだってきっと」


「待てクロノ。それはつまり人間たちとの戦いを止めろ、と言ってるのか?」


「ええと、まあそういうことだ。俺みたいな奴でも仲良くなれたんなら、恐竜人と人間は一緒に暮らせるんじゃ……」


「それは、無理じゃよクロノ」


 少しだけ眉を歪ませて、まるで年上の大人が我侭を言う子供をあやすような仕草でアザーラは首を振り、俺の言葉を遮った。


「……それは、どうしてなんだ?」


 アザーラは淡々とした口調で、はっきりと告げた。


「私たちと人間は戦っている。戦いが終わるのはどちらかが負けた時……そして、負けたものは死ぬ。そう決まってるのだ」


 教科書の例文を読み上げるようにすらすらと答えるアザーラ。単純にして簡潔な理由は、現代で生きていた俺には全く理解の出来ないものだった。戦いはやめればいいし、負けても死ぬ必要性が理解出来ない。甘いと言われようが、それが常識だと疑えない。


「……分からぬか? でもな、何度も言うがこれは決まっていることなのじゃ」


 俺から離れて、窓枠に手を当てて、煙に遮られ景観を損ねている曇り空を見上げながら、アザーラは覚えやすい単語を二つ並べた。


「大地の掟、じゃからな」









 星は夢を見る必要は無い
 第二十一話 閑話休題的なアレ









「もう五日になるんだね……」


 王国暦千年より原始に降り立った王女、マールは中世より現れた勇者、カエルにぼんやりと言葉を投げかけた。「ああ……そうだったな」と返す者はカエル。少し離れて膝を抱えているのは太陽の申し子という渾名を持つ原始の野生児、エイラである。
 彼女らがラルバ村の焼け跡にて長老からプテランを使いティラン城に乗り込めと言われてから、マールの言葉通り五日が経過している。
 あらかじめ言っておこう。彼女達は決してのらりくらりと時間を浪費していたわけではない。キーノという気心知れた友、エイラにとってはそれ以上の存在である人間が恐竜人たちに連れ去られ、仲間であるクロノまでもがアザーラの手によって攫われたと村人に聞かされたときにはプテランのいる山を全力で駆け上がり、僅か二時間足らずで頂上まで辿り着いたのだ。途中、人間に戻ったカエルは戦力としてアーマーを付けたロボよりはマシ、という役立たずであったという新事実が発覚し進行に影響が出た上でのハイスコア。これはマールの闘志とカエルの役立たずながらも懸命に剣を振った結果である。(途中、ルッカとの交代を余儀なくされたが)
 二人がエイラと合流した時、エイラがティラン城の恐ろしさを説き二人は待っていろと気弱な彼女が怒鳴りだした時はマールも怯んだ。とはいえ、その言葉通りにする彼女ではなく、後に口論になったが、仲間のクロノが攫われたこと、次にキーノやエイラは自分にとって大切な友達であるというマールの言葉に胸打たれたことでエイラは三人でティラン城に行くことを同意した。若干以上、カエルが仲間外れだったことは言うまでもない。


 そう、彼らは必死だった。一分一秒でも早く己が仲間を救い出さんと尽力したのだ。ただ、誤算が一つ。


「まさか、プテランが近くに来ないなんてね……」


「キーノ、キーノ、キーノ、キーノ……」


「落ち着けエイラとやら。きっと方法はあるはずだ。多分恐らくもしかして」


 プテランの世話をしている者がいればすんなりプテランを呼び寄せてティラン城に行けたらしいのだが、その世話係がヘルニアの為プテランを操れないというどこまでも愚かしい事態となっているのが彼らの停滞の原因である。
 最初は彼らも「大丈夫! 私たちだけでもプテランを乗りこなせるよ!」とマールは意気込み、「俺の乗馬技量は半端ではないぞ?」と調子付いたり(そも、馬ではないのだが)「キーノ……エイラ行くまで、待ってる!」と決意したり、全員やる気というボルテージは上がりきっていた。それも三日を過ぎたあたりから下火となり、今ではプテランを呼ぶ動作すら行っていない。


「ていうか、プテランってあんな大きな鳥だったんだね」


「そうだな、まあマグマで囲まれているというティラン城に乗り込むのなら空を飛ぶしかあるまいし、大鳥というのは予想できたが」


 彼らのいる場所こそ山をネズミ返しのように切り取った崖だが、話しているテンションは喫茶店でだべる学生のそれであった。適当に話題を投げてまた適当に返す。
 最初は姿の戻ったカエルに戸惑うようにしていたマールも三日間(五日の内二日ほどはカエルとルッカが入れ替わっていた)カエルと過ごしていれば仲良くなるを越えて話す話題も尽き、だれた友情関係が結ばれていた。だれた、を強調すべきだろうか。


「……思うんだが、打つ手無しじゃないか? これだけ頭を捻っても何の案も思いつかん。クロノは尊い犠牲になったという方向で美しい思い出にするのはどうだ?」


 カエルの案に一度頷きかけたマールだが、まだクロノに魔王城での恩を返していないし、なによりカエルの後ろで『この緑女谷底に叩っ込んだろかい』という念をエイラが送っていることから「それは駄目だよー」と投げやりに否定した。エイラがいなければ肯定したのか? それは永遠に謎の中……


「見えてはいるんだけどね、プテラン……」


「ああ、見えてはいるな、プテラン」


 崖の先端から前方二百メートル付近を優雅に旋回するプテランを見ながらマールとカエルはため息をついた。なまじ目に見える距離にいるのでプテラン以外の突入法を考えるのも口惜しい、というのが彼らの言である。
 さて、彼らがこうして埒のいかぬ打開策を思案している間、ルッカとロボは何をしているのか?
 ルッカはマールの言った「腕が伸びるような機械とか作れないのルッカ? ゴムゴムー、みたいな感じに」という発言を聞いて閃き、時の最果てではなく実家に帰り腕伸縮機という世にも奇妙な発明をすべく頭を回転させている。
 本来ならば、ルッカがそのような馬鹿げたアイデアに乗るわけも無いのだが、クロノがアザーラに攫われたと聞き「幼な妻気取りかちきしょー!!」と壊れて正常な判断ができなかったことが痛恨。ロボはいまだに体の不具合が直らずルッカの父、タバンに修理してもらっている。ルッカは前述したとおり奇奇怪怪なマシン製作に精を出しているので修理には手が回らない。


「遠いものだな、プテラン」


「近いのに遠いね、プテラン」


「キーノキーノキーノキーノキーノキーノ……」


 ゆらゆらと上半身を左右に揺らしてのったりした会話を続ける二人。エイラは魂の崩壊が始まっているかのように同じ言葉を繰り返し呟いている。二人もエイラの異常に気づいてはいるのだが、怖い気持ちが先行して落ち着かせる、宥めるといった選択肢が出ない。強制的に無視するコマンドをクリックされてしまうのだ。すいませーん! マウスバー壊れてます! な状態と言えよう。


 しばらく会話しりとりなる業の深い遊びをしていると、突然カエルが思いついたように「そうだマール。お前の得意技に挑発なるものがあっただろう。一度プテランを挑発してみてはどうだ? 案外近寄ってくるやもしれん」と期待値三パーセント程の提案を出した。マールは「獣に挑発して効く訳がないじゃない。義務教育受けてるの?」と言い返したくなったが、心の中でターセル様々やわ! と連呼して辛い突っ込みを犯さずに留めることを成功した。


「ええと……とりあえずやるけどさ。何言えばいいの? グワア! とかゲギャア、とか言えばいいの?」


「別に普通の言葉で挑発すればいいだろう。お前はちゃんと義務教育を受けているのか? 五年間」


 思わず取り乱しながらマッハキック(上段からの捻りを加えた蹴り)を連発してしまいそうな怒りが芽生えたマールだが、ナカムラノリ選手の行く末を思うと自然に怒りは霧散していった。人間、取り乱さず自分のポジションを埋めていかねばならないと考えたのだ。
 彼女の名前はマール。夢見る乙女の顔と現実的に将来設計を立てるのが趣味と言う側面を持つ現代の王女である。


「分かった。それじゃあええと……」


 すう、と大きく息を吸い込みマールは口から有らん限りの声でありとあらゆる罵倒を投げかけた。それは横で聞いていたカエルが「うわあドン引き……」と顔をしかめエイラが懐から取り出した『いつか言いたい罵倒手帳』に新しい文を書き込むほどの情報量とバリエーションがあった。結果として、カエルに「そもそも獣の類に挑発が効くわけがなかったな」と言われる結果になったのは、後のマール曰く「解せぬ」とのこと。


「じゃあさじゃあさ、カエルが誘惑してよ。一回クロノにやったんでしょ、見事に自爆したらしいけど」


「あれは俺の意思でやったわけではない! そもそも、クロノを誘惑しようとしてやったわけでもない!」


 どれだけ嫌がろうとも、マールはカエルにごり押しした。先程の恥辱の借り、ただでは返さぬといわんばかりの気迫に押され、押しに弱いカエルは結局『カエルの悩殺ふにふにダンスで魅了作戦』byマール命名。を行うことになった。


「くそう……俺は騎士で戦士なんだぞ? 何故このような……ええい!」


 自分の迷いを振り切り思い切った踊りと掛け声を発しながらカエルは自分が思いつく限りに可愛らしく、艶かしい動作を心がけ、掛け声はまるで大きなお兄さんを接するような萌え声で。(あれですよ、ライブ会場で「○○○○! 十八歳です!」「おいおい!」みたいなほらアレですよ)リアルに恥じているのはプラスととるのかマイナスと取るのかで玄人かどうかが分かる。
 マールはカエルのメイド姿に爆笑したルッカとは対照的に「うわあ最低……」と男子と話すときだけ声の音程が高い女子を見る目つきで、そう、絶・対・零・度! の目線を送り続けた。エイラは心なしか一緒に踊りたそうにしている。ガンガンいこうぜ。
 全てを出し切ったカエルを待っていたのはマールの「そういえば私カエルが人間の姿で戦ってるところ見たこと無いし、本当は戦士でもなんでもなくて、ランパブとかの店員なんじゃないの?」というおよそ世界を守ろうとした勇士に向けるべきではない言葉だった。


「あれだ、俺の心が男であることを奴らは見抜いたに違いない。エイラがやればきっとプテランたちも近寄ってくるだろう。誰かさんと違って心清らかであるしな」


「あー、いけないんだカエルったら。今度ルッカに告げ口してやろっと」


「驚いたな、そこまで頭が悪いとは。お前が王妃様の子孫などと未来永劫信じはせんぞ」


 最後に槍玉として挙げられたのはエイラである。「ええ! え、エイラそんな踊り、出来ない……恥ずかしい……」という拒否を何ら気にせず二人はどうぞどうぞと崖の先端に押し進めていく。口では「キーノとクロノを助ける為に!」と言っているが、その目は「何でわしらだけ恥をかかにゃあならんのじゃ。一蓮托生が常識だろうに」という汚らしい本音が現れていた。


「あ……うう……ええと……」


 たどたどしくも、腰を捻ったり手を叩いたりしてプテランを呼び寄せようとして頑張る姿は、誘惑と呼べるのか、むしろ同情に近い何かすら感じる出来だったが誰かの為に頑張りたいという願いを背負った舞は先二人の恥を晒すものより随分と輝いて見えた。
 ところが、それを見ていた二人は「私の爆裂悪口包囲網で来なかったんだからそんな地味な呼び込みじゃ来ないよ」と高を括り、「俺のラブリーフレーバー~戦士のひととき~が通用せんのにあの程度の稚拙な踊りでは……まず思い切りが足りん」と評論家気取りのコメントを残すなどの、応援とは程遠い姿勢でエイラを眺めていた。


 その後どうなったのか、深く記すことは無いが、五日のタイムロスがあったものの三人はティラン城に向かうことが出来たことは報告しておこう。
 『彼らを近くで見ていたラルバ村の住人、デルリバァトの日記より抜粋』








「いーやーじゃー!! クロノはここで私と一生遊ぶんじゃあ!!」


「落ち着け! 腕を振り回すな物を投げるな服を噛むな!」


「じゃあクロノは帰らずにここにいるか!?」


「……いやそれは」


「いーーやーーじゃーーー!!!」


「終わらねーじゃねえか!!」


 俺がティラン城を出ると言い出して、それが本気だと分かった時からアザーラは泣く事をやめない。せつせつと泣くだけならまだしも、物に当たるわ部下に当たるわ大半俺に当たるわでもう疲れてしまう。勘弁してくれ、と俺が空を仰いだのは数回ではすまない。
 ただ、ある意味アザーラよりやっかいなのが他の恐竜人たちやニズベール。彼らは俺を止めることはないのだが、どこか、俺が家出しようとしてる思春期の青年、または自分探しの旅をしようとしている青春謳歌野郎として見ている節がある。それが証拠に、ニズベールが「なあなあどこに行くんだ? やっぱり旅先で老婆とかに水を分けてもらったりするのか? 若い恐竜人たちに『お兄ちゃんは遠くから来たんだよ』とか言っちゃったりするのか?」としつこい。若い恐竜人て。俺は人間なんだから恐竜人と接することは無えよ。


「アザーラ様、クロノはここを出て、また一回り大きくなって帰ってきますよ。だから今は見送ってやりましょう、ね?」


「嫌じゃ! クロノは私と一緒に虫を捕まえたり、粘土で遊んだり、お散歩したりするのだ!」


 ニズベール含め他の恐竜人たちも「ゲギャアガガガ!」と説得してくれている。全員生暖かい目で俺を見て「大丈夫、辛くなったらいつでも帰って来い……」な目をしているのが大層むかつく。字牌単騎で上がった運だけの奴がするドヤ顔くらいむかつく。


「あの……じゃあ俺行って来ますわ。アザーラのことよろしくお願いします」


「よいよい、クロノよ。土産話を期待しているぞ」


 アザーラを羽交い絞めにしつつニズベールはほがらかに言う。どうだろうか、その海外留学する時の親戚のおじさんみたいなノリは。
 ともあれ、これで俺も自由だ、と城の外を目指す。外には怪鳥が用意されて、恐竜人がまよいの森まで送ってくれるそうだ。破格過ぎる扱いなのだが、何故か納得がいかないのは俺が人間である所以か。


「嫌じゃあ……クロノ、クロノーー!!」


 悲壮に俺の名前を呼ぶアザーラの声が後ろ髪を引く。たまらないくらい悲しげに泣く彼女の顔は目から流れる水分でぐちゃぐちゃになっていた。鉛を飲み込んだ感覚に襲われながら一歩ずつ俺は歩いていく、それは、アザーラから見れば一歩ずつ離れていく、ということで、彼女はしゃくりあげながら、俺を呼ぶ声が小さくなっていった。


「……ちゃん」


「……!!」


 かすかにアザーラからこぼれた声に、俺は思わず立ち止まってしまった。頭の中で馬鹿! 振り返るな! 別れが辛くなるだろうが! と声が聞こえるのに、アザーラのその言葉は俺の脳内命令を全て無視して肉体を無許可に動かしてしまった。
 動きを止めた俺をアザーラは腫れぼって小さくなった瞳を向け、聞き取りにくい言葉を流す。


「お……にい、ちゃん、に、なってほし……かったのに……」


 今この時この時間、間違いなくこの世界で動くのは俺とアザーラのみとなった。そう感じた。彼女の一言は、遠い昔の、俺の……


──お兄ちゃんに、なって欲しかったのに──
 確かに、彼女はそう言った、そうだろう? アザーラは俺にそう言ったのだ。あれだけ我侭に、好き勝手に生きているアザーラが、涙ながらに、俺に願い事を言った。


「…………おああ、あああ!」


 理性ではなく、本能が俺を動かし、一歩だけアザーラに近づいてしまった。石の床を靴が鳴らすと、過去の思い出が湧き水のように溢れ出していった。


 ──俺は母さんにお願い事をしたことが無い。だって、どうせ叶えてはくれないから。
 おもちゃとか、小遣いとか、旅行に行きたい船に乗りたい、その他諸々の願いは口にされる事無く俺の中にしまいこまれていった。
 そんな俺でも、たった一つ、母さんにねだったものがある。それは子供なら大半が思いつく純粋な願いで、無垢な感情。
 それは……


──おかあさん、おれ、いもうとがほしい!


──あら、あんたなんでそんな物が欲しいんだい?


──だって、かわいいじゃん! ねえ、おれいもうとがほしいよおー


──だめだめ、子供なんかあんた一人で手一杯よ


──ちぇ、けちくそばばあ。ちがういいかたならびんぼうしょうのうんころうば


 ここで、想い出は消える。それから先の出来事を思い出せないからだ。次に思い出せる記憶は病院で砕けた顎を治療している記憶。
 ……そんなことはどうでもいい。そう、俺は一つ、どうしても、それこそ命に代えても欲しいものがあった。それはそれこそが!


──おれいもうとがほしいよおー
──俺いもうとがほしいよお
──俺、妹が欲しい
──俺は! 妹が!!!! 欲しいんだああああああああ!!!!!!!!


「クロノ、おにいちゃぁん……」


 それが決め手。母さんとか仲間とか緑色のあれとか原始人と恐竜人の確執とかその他諸々の事情因縁全てがまるで油汚れに洗剤をつけて水に浸し洗い流したようにさらさらと消えていき、やがて……ゼロになった。
 ……思えばあれだよな。俺が必死こいて世界を救うとか未来を明るい世界に、とかそれこそ蛙男女を元に戻すとかさ、別にどうでもいいというか……うん。どうでもいい。つまるところ、今の俺の心情、本音、決意を言葉にするなら……


「俺は人間を捨てたぞルッカァァァァァァァ!!!!!!!」


 記念すべき妹誕生に、俺はとりあえず幼馴染の名前を出しておいた。これが人間との関わり、その終焉であると理解して。







「ほら、言ってごらん? 俺はお前の何だって?」


「おに……ううう」


「おいおいそれじゃあ俺が鬼になってしまうじゃないかアザーラ。ほら、もう一回頑張って」


「もう、もういいではないか! 私はクロノを兄として思っている! これで充分だろうに!」


 全く、デレたかと思えばすぐにツン。血の繋がっていない妹の必要要素はばっちり兼ね備えてやがる。ソフトクリームでも買ってやろうか? いや冷たいものを食べてお腹を壊してはマイシスターが泣いてしまうかもしれない、ここは一つチョコレートでも……いやいやその前にこれだけはやっておかねばなるまい。


「アザーラ、一度でいいから俺をにーにーと呼んでくれないか?」


「嫌じゃというのに!」


 ふむ、最愛の妹の拒否を無視するのは心苦しいが、あまり兄の頼みを嫌がるようでは反抗期になってしまうやもしれん。ここは心を鬼にしてにーにーと言わさざるを得まい。ちゅうか呼んでくれ、俺をにーにーと呼んでくれ。発音はにぃにぃがよろしい。


「アザーラ、猫だ、猫の物真似をするんだ」


 俺の妹はいぶかしむ目で俺を見つめ、少々の間を挟み、「にゃあ?」と呟く。天変地異が起きてミサイル発射、大洪水で海が地上を満たしインドラの矢が降り注ぎかとおもえば宇宙からオリンポスの尖兵隊が攻め込んできた時の衝撃と同じくらい可愛いが、それでは俺が妹に妙な語尾を強要させる犯罪予備軍になってしまう。
 ……これ以上猫の真似をさせるのは怪しまれるので不可、ただでさえ疑っているのにごり押ししては頭の弱いアザーラとて気づくだろう。


「くっ……仕方ないか。まあいい、アザーラよ、兄に何か頼み事は無いか? 例えば一緒にお風呂に入りたいとか」


「……なんか、今のお前と風呂に入るのは、嫌じゃ。何故かは分からんが」


 おっと、この年になると裸のお付き合いも恥ずかしいか。兄として発育具合が気になったのだが……
 勘違いして欲しくないのだが、異性としてアザーラの裸なんかまるっきり興味は無い。見た目はちみっこい幼児のアザーラに性的興奮なんぞさらっさら感じない。でもさ、妹とお風呂に入るってなんかそれだけで夢のようじゃないか!? 妹のいる奴は決まって「妹なんかいたらウザいだけだぜ」とか言うけどさ、いない奴からすれば「彼女なんかいたってめんどいだけだぜ」発言と同じように聞こえるんだ! いいじゃないか! 「お兄ちゃんと結婚する!」とか言い出す妹を夢見たってさ! 実際は「兄貴の部屋臭い。二度とドア開けないで。もしくは二度と家に帰ってこないで」とか言うに決まってるけど!


 それから、今までとは打って変わってアザーラに付きまとい「遊ぼーぜ!」と誘ったのだが、気恥ずかしいのかアザーラは「もういい! 部屋で寝る!」と部屋を出て行ってしまった。
 まさか反抗期なのか!? ……遅かったのか……このままアザーラもけいたいしょうせつとか読み出して性の知識を得たり、貞操観念が薄くなったりしちゃうのだろうか? 嫌だ、アザーラはいつまでも本屋で並べられている週刊誌の表紙を見ただけで赤面するような子でいてほしいんだ!
 膝を突き愛する家族が非行に走っていく将来を思って嘆いていると、ニズベールがぽんと肩を叩いてきた。


「落ち着くのだクロノ、アザーラ様は貴様を兄として慕っている。アザーラ様自身がそう言っただろう? 今は照れてどう接していいのか分からんだけだ。今に、また快活とした様子を見せてくれるだろう」


 その言葉に胸を撫で下ろし、俺は感謝を告げる。俺の何百倍もアザーラを見てきたニズベールがそう言うのだ、疑う訳が無い。


「そうか……心配は心配だけど、今はアザーラが落ち着くのを待つか。ただ……」


「どうしたクロノ、まだ何か心配が?」


 今は距離を置いて接するべき、と学んだのだが、どうしても気になることがある。アザーラは十六だと本人から聞いた、ならば、もう碌々成長はしないということ。身長や顔つきが幼いのは仕方ないとしても、これだけは確認しておきたい事柄がある。


「ニズベール、アザーラは何カップだ?」


 俺の言葉にニズベールは笑顔をぴたりとやめて癌を宣告する医者のような顔つきになった。
 重々しい口を開き、ニズベールは幾度か躊躇いながら、その答えを提示する。


「……A、と言えるのかすら、定かではない」


「──そうか。そうだな、期待はしていなかった。ありがとうニズベール、よく言ってくれた」


 辛かっただろう、苦しかっただろう。己が主の恥部を晒し、その過酷な現実と向き合うのは。なおかつそれを共に生活を始め然程立っていない人間の俺に教えるのは、身を裂かれるほどの痛みだっただろう。
 だからこそ、俺は気にしない。少なくとも落胆を表に出すことだけはしない。いいじゃないか、確かに妹が巨乳という夢の設定は無くなったけれど、それで全てが終わったわけじゃない。小さなおっぱい略してちっぱい。悪くない、そうさ悪くないよ。例え谷間という夢の楽園や揺れると言う至福の光景が見れずとも……俺は、貧乳を差別しない!
 振り返ると、今まで俺がアザーラに振り払われ外に出て行くのを見ていた恐竜人たちが、アザーラのカップを聞き沈痛な面持ちで下を向いていた。俺の主の胸が小さいわけが無いと思っていたのか? 見た目には胸は無くても着痩せと言う一縷の希望にかけていたのだろうか?
 駄目だ、そんなことでこいつらが落ち込んでいては俺の妹が悲しんでしまう。


「ニズベール、そして今この場にいる全ての恐竜人たち。今ここで叫ぼうじゃないか! 貧乳は悪ではない! ステータスでなくとも、センス×に限りなく近いマイナススキルだったとしても! 小さなおっぱいは敵ではない! 愛でるべきだ! みかんもりんごもメロンもカカオ豆もきのこも栗も小さい方が美味いという。例え……例えアザーラが貧相で哀れで同情を買いそうな無乳でも俺たちがアザーラを侮蔑するわけがない! そうだろ!?」


「無論。そのようなこと、あまりに些事!」


 ニズベールは即座に同意。むしろ、そのような事は聞くまでも無かろうという顔で俺を見つめていた。その反応の速さにはっ、と顔を上げた恐竜人たちも遅れながら同意の声を上げていく。


「ゲギャギャギャギャ!!」


「ありがとう、恐竜人の諸君! さあ共に叫ぼう! 貧乳万歳! ちっぱいには価値がある! 乳は無くとも愛はある!」


「「「貧乳万歳! ちっぱいには価値がある! 乳は無くとも愛はある!!」」」


 ここティラン城大広間で俺たちは大号令を始めた。それは魂の叫びであり、心からの誓い。そして我々『小は大を兼ね得るの会』結成の証。
 俺は断然巨乳派である。だが……だが、それがどうした? 俺の業をアザーラにぶつけるのはあまりにお門違い。愛とは無償、愛とは至高、愛とは見た目やスタイルだけで決めるものではない。心こそ全てなのだ!


「貧乳万歳! ちっぱいには価値がある! 乳は無くとも」


「無くて悪かったなああぁぁ!!!!」


「あぼがどっ!!!」


 俺たちの叫びを聞いて戻ってきたアザーラが俺の即頭部に膝蹴りを当てたのは、恐らく何十年と経っても納得がいかないだろう。何故アザーラを称えていた俺が首を百二十度ほど回転させられねばならんのか? 思春期って本当怖い。








 場面は変わり、ティラン城内部側入り口。門番の恐竜人たちは談笑し、猛獣の恐竜たちに餌をやって城という空間にはあるまじき、ほのぼのとした空間が作られていた。
 正方形の石を床に貼り付け硬質な雰囲気を出し、同じく石製の柱は冷たい印象と力強さを見せている。窓の無い造りの為入り口からのみ自然の光が入る空間は、薄暗いながらもぽつぽつと置かれた松明のお陰で場所の把握は可能となっている。侵入者など現れるわけが無いと気を抜いている恐竜人たちと違い、人の三倍はある大猿が不自然を逃さぬよう目を光らせているのは空気には合わないもののその場所本来の在りかたとしては正しかった。
 エイラの野生の勘を信用し、彼女の先導の元、柱の影で彼ら恐竜人たちの目を逃れ隠れているのはキーノとクロノを助けるべく進入したマール、カエル、エイラの三人である。エイラは拳を鳴らし、マールとカエルは各々の武器に手を掛け奇襲のタイミングを窺っている。魔術の詠唱をしていないのは、まだ敵の牙先にも届かない場所で魔力を消費するべきではないと判断した為であった。


「それで、奴らを倒した後はどうする? 見たところ、道は二つに分かれているようだが?」


 カエルが指差す方向には恐竜の頭を模した扉が二つ、それらの奥には通路があり、奥の見えない構成となっていた。左側の扉は閉じられ、右側は先ほど恐竜人の団体が出てきた為開かれている。


「右側から、キーノの匂い、する。まずキーノ助ける!」


「まあ、右側の扉? の開け方も分からないし、それが一番正しいかも。クロノなら一人でも戦えるけど、キーノは両腕が使えないから不安だもんね」


「よし……飛び出すタイミングはエイラに任せるぞ。俺よりも直感的センスはお前の方が高そうだ」


 頷くエイラをよそ目に、マールは指示を下しているカエルをまじまじと疑わしい目つきを向けていた。それを意図的に無視しながらカエルは目を細め少しだけ剣を鞘から抜く。微かな音すら洩らさぬよう、ゆっくりと。


(本当は、ロボかルッカを呼んでカエルと代わって欲しいんだけどなあ)


 マールの考えは何も意地悪や感情的なものではない。人間の姿に戻ってからカエルの剣捌きや身のこなしは見るも無残なものと化していたからだ。
 グランドリオンはまともに振り回せず、蛙独特の跳躍力は平均女性のそれと変わらぬものに。魔術だけは蛙時のものと変わらないが、そもそも魔力量自体前衛のクロノと変わらない上、魔王戦で新技を編み出したクロノと違い決め技という技を魔術では扱えないカエルは戦力外の名を欲しいままにしていた。


「……いや、多分、見つからない、進む出来る」


「そうね、なるべく戦わないで行った方がよさそう。お願いするね、エイラ」


「マール、エイラに任せる!」


 カエルが役に立たないから、とはどちらも口にせず方針を決めていく。カエルも序盤で体力を消耗するのは得策ではないと考え、その上自分が何も出来ないとは薄々分かっているので(あくまでも薄々)消極的な戦法を取るのに不満は無かった。カエルは恐竜人を相手取ったことは無いが、マールやエイラの話から決して油断できる相手ではないと知っているのも、納得した理由となる。


「……今! 二人、ついてくる!」


 僅かな死角を突き、三人はキーノがいる地下牢の入り口に潜り込んだ。まだティラン城の入り口、この段階でここまで神経を使うことに、先行きの不安を感じるマールは今はいない仲間を思い「クロノ……」と悲しげに呟いた。


 ──彼女達が地下牢にて、非常に熱の入った漫才を繰り広げているのを見たとき、エイラがどれだけ拳を振るったのか、後ろ二人には数えることは出来なかった。キーノが助けを求めたのは自分を殴るエイラでも、友達のマールでも、見知らぬ緑髪のカエルでもなく、相方の恐竜人だったのは奇妙と言うかなんというか。
 後日談となるが、キーノがとち狂った要因として、ルッカの催眠機械の後遺症の可能性があると示唆されたが、今この場では一切関係の無い、無駄な話。


 彼らのティラン城攻略は、まだまだ続く。気がする。














 おまけ





 時は二十二世紀、舞台は日本。過去例に無い世界恐慌から、治安が消失した無法都市。太平洋に面し、港には海外からの銃器が流れ込む『横濱』は、二つの爆弾を抱えていた。
 一つは特定の人物による網膜認証が必要な使用済み核燃料搭載爆弾。今の日本にいる爆弾解体技術師では到底解体できない、自転による円運動爆弾『ラヴォス』
 もう一つは、その爆弾を解体させることも、また網膜認証で起爆させることも出来る謎の少女、『マール』。


「私は、世の中を知らない。だから、私にはどうするべきなのか、その判断が出来ない」


 二丁の拳銃をぶら下げる寡黙な賞金首、魔王。


「私だからこそ、生まれる成果も存在する。それだけが全てだ」


 物事に関心を持てない元奴隷の女、ルッカ。


「私には良く分からない。分からないでいることが、幸せなことってのは案外多いのよ?」


 戦いを好まず、自分の職業に嫌気が差している武器商人の美女、エイラ。


「エイラ……人が死ぬ、辛い。でも、生きる為、仕方ない……」


 路地裏で夢を語る半身機械の少年、ロボ。


「僕はね……いつか、空を飛ぶんだ。鉄の乗り物なんかじゃなく、誰かの手も借りず、僕だけの力で」


 下水道に居を構える両生類の主、カエル。


「見下してるんだろう? それもいいさ、それが正しい判断だ」


 町外れの廃屋に住み、一人の老人を愛する男、クロノ。


「俺には大臣だけだ。大臣だけが俺をここに留めてくれる。後は……全部消えちまえ」


 横濱を牛耳り、裏で武器を流し奴隷を世界中に販売するマフィアの帝王、ジナ。


「愛とか、自由とかさ。そんなもんは強者だけが口に出来るもんさ。あんたらじゃ触れることもできやしないよ」


 アジアを破滅させず、また人間を滅ぼさせない為に必要なのは、荒れ切った人々の、小さな良心。
 生きる為には、少女に世界はまだ必要だと思わせること。それだけのことが、それ故に難しい。
 貴方は、真の奇跡を見ることになる……


 現代の悪習、覆せぬ常識、当然のような道徳。それらを一蹴し生まれたハードボイルドアクションムービー。来春日本上陸!




 ※この映画は著作権侵害のため訴えられています。(敗訴が九割方確定しています)その為、大量のキャンセルが予想されますので、前売り券の返金は出来ません。あらかじめ御納得下さいませ。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.030441999435425