両手を地に着け獣のように走り去るエイラの後を懸命に追うが、道を二、三曲がるとその姿はとうに消え、見えるのは頭部の発達した恐竜と呼ばれる化け物が群れをなして砂煙を立てているもの、または体の大きな動物を異様に牙の発達した虎のような獣が捕食しているといった弱肉強食の原点だった。
ルッカは太古の歴史を肉眼で見ることが出来ると鼻息を荒くして、マールは原始の生き物達の生存競争におっかなびっくり足を進めていた。
俺はルッカのように興奮するでもなく、マールのように怖がるでもない、ちょうど中間の気持ち。つまりは太古の時代ってこんななのか、という歴史博物館にいるようなどこか現実味を感じていない状態だった。
そもそも物珍しいとか、怖いとか云々の前に、最初は崖から落ちたり、自然を感じてほんわかしたり、化け物と戦ったりで気にしなかったが……ここ、原始は暑いのだ。
エイラが露出の高い服を着ているのは何もサービスの為ではなく、長袖なんかで外出するのはこの時代において間違っているのだろう。体感温度では四十度を越えている。多分ね。
「ルッカ……水は持ってないか? 浄水器的な科学アイテムでもいいぜ」
「無いわよ、今忙しいから黙って」
結構辛そうな顔をしている俺にこの言い分。女性は男性よりも慈悲の心を持っているとかマジ幻想。草食系とか引くよねー、って会話してんだよ女の子って奴はさ。
だらだらと肩を落としながら歩を進めて山を降りる。それから真っ直ぐ歩くと竪穴式住居が二、三十程密集している集落を見つけ小走りで近づく。
恐らくエイラの仲間達の家であろうものは近目で見ると造りは粗く、藁に似た葉をしばりそれを屋根代わりに。その為小さな穴が点々と空いて風が吹く度にぱらぱらと飛んでいく。
「昔の家ってこういう感じなんだね……レンガとか使われてないんだ」
「そりゃそうよ、レンガなんて中世の時代でようやく普及されてきたんだから。と言っても、中世でも庶民では手が出ない代物だったけど」
「どうでもいいよ、俺は水が飲みたくて仕方が無い。ちょっと分けて貰おうぜ」
村の中心から少し離れた一つの家の中に入ると半裸の男性が「ふんっ、ふんっ!」と荒く息を吐きながら腕立てを繰り返している光景が見えた。汗が気化して多少靄がかっているように見えるのは幻覚なのか。
恐る恐る俺が話しかけると「うぇいあー!」と返し、「水を分けてほしいのですが……」という俺の問いに「をうえー!」
歯軋りしながらくたばれ! と罵ると「だいたいやい!」との事。原始の人間には意思疎通の可能な人間と不可能な人間がいるようだ。エイラは奇異なパターンだったのかもしれない。
これからの原始の旅に一抹の不安を感じて外に出る。それから何件かの家を巡るが会話が出来ても水は貴重品なのでまだ正式な仲間ではない俺達に分けることは出来ないとのこと。
俺が地獄の餓鬼のように「水ー、水ー……」と呟いているとマールが「私の魔法で氷を出してそれを溶かせば水になるよ」とあっけらかんに言う。これで俺の問題は氷解したのだが(あ、上手いこと言った)だったら最初から言ってくれよ。道理でマールとルッカは涼しい顔してたわけだ。俺の見てないところで氷を食べてたのだろう。最近気づいたけど、こいつら俺が嫌いなんじゃない、無関心なんだ。好きの反対は嫌悪ではない。
喉の渇きが癒えたところで、落ち着いた目で村を見回ることが出来た。人の数こそトルースに劣るがここに住む人々の活気はその比ではない。女達は土器を焼きながら木の実を割り、男は獣の皮を身に付けて鍛えられた筋肉をさらけ出し先端に尖った石を付けた槍を片手に自分を奮い立たせる歌のようなものを大勢で叫んでいる。勿論定められた歌詞など無いので各々好き勝手に歌っているがその顔は充実しているように見える。
度々好奇の目で見られたが、しばらくすると慣れたようで片手に持ったぶどうのような果物をマールやルッカに手渡すということが幾度かあった。真に有難いのだが、俺に水を分けることは渋るのにその扱いの差はなんだと思ったのはやぶさかではない。
「あの、エイラって人の家が何処にあるか分かりますか?」
マールに掌くらいの綺麗な石を渡して去ろうとする腰蓑の男を呼び止める。少々時間が掛かりすぎたので待ちくたびれているかもしれない。
「エイラ、酋長。大きな家いる、お前ら来たから、今日お祭り!」
「お祭り? もしかして私達への歓迎の意としてかしら」
「歓迎! 歓迎!」
野生らしい動きを見せた後男は軽い足取りで何処かに去っていった。
マールが「あの赤い旗が立ってる家じゃない?」と言うのでそちらを見るとなるほど、周りの家よりも一際目立つテントがそこにあった。聞けばエイラは酋長という身分らしいので、確信はなお深まる。
「エイラはこの村のリーダーだったのか。通りで強いわけだ。原始の人間の平均基準があれだとは流石に思ってなかったけどさ」
「まあ、狩りで生計を立ててたらしい原始人が現代の人間よりも強い、ってのは分かってたけどね。いくらなんでもあんな人間離れした動きをこの世界の住人すべてが可能なら色々面白すぎるわよ」
「お祭り……楽しみだねクロノ!」
三者全員噛み合っているようで噛み合ってない会話をしながらエイラのいるテントに着く。
暖簾の様な布を開き中に入ると広い部屋の中央に床に敷かれた絨毯を腕に引き寄せながらエイラが横になっていた。
「うわっ、可愛いなあの構図」
「えっ、可愛いって何が? ただ寝てるだけじゃない。床で寝るなんてむしろ行儀が悪いことだと思うわよ。それとも何絨毯を引き寄せてるのが可愛いの? だったら私だって布団を引き寄せて寝るけど? ていうか大多数の人間がそうして寝てるけど? ねえねえどこが可愛いの教えなさいよ参考にするから」
「お前が参考にしてどうする。あれはエイラという人間がやるから可愛いんだ。お前がやってもそりゃ行儀悪いなあしか思わん」
俺の至極最もな意見にルッカは歯に物が詰まったようななんとも言えない顔をした後、寝入っているエイラに近づき顔の近くにハンマーを落とす。確かそれ八キロくらいあるんじゃなかったっけ?
「……!? 地震! 危ない、逃げる! ボボンガ!」
「地震なんか起きてないしボボンガもいないわ。ごめんねえ私の不注意でハンマーを当て損なっちゃって」
「ルッカ、当てるつもりだったんだ……」
マールの顔が引きつるのも無理は無い。もし当たってたらこの村の人間全員に追い回される覚悟はあったのだろうか。
「あれ、お前ら……山にいた……」
「ルッカにマールにクロノよ。何で忘れるの? ちょっと寝たからって忘れるようなもの? すいませんね印象に残らない顔で!」
「落ちつけルッカ。エイラがひきつけを起こしかけてるから。怖がってるから」
剣幕に押されて、エイラが握っている絨毯が破れだしている。怖かったのは仕方ないけれどえらく馬鹿力だな。だが……嫌いじゃない、そのギャップ。
震えているエイラの目を見て笑顔を作る。敵じゃないよー、というアピールだ。昔から俺は泣いている子供にはこうしてなだめてやったものだった。
エイラの目に涙が浮かび始めた。逆効果だったかもしれない。そういえばこの方法で泣き止んだ子供はいなかったな、しくしく泣いている子供を何人号泣させたものか。一度衛兵を呼ばれた事もある。
「エイラ、安心していいよ。ルッカはちょっと虫の居所が悪いだけだから。あの時は助けてくれてありがとう。ほら立って、もうすぐお祭りが始まるんでしょ?」
マジで泣き出す五秒前状態のエイラにマールが頭を撫でて、ね? と笑えばようやくエイラの震え(痙攣といっても差し支えない)が収まった。女の子を宥めるのは男の役目だって言ってたんだけどな、フラグ建築士の人が。
「も、もうすぐ夜来る! 宴の用意出来た、こっち、マール!」
赤い目を拭い、エイラが比較的明るい声で喋りマールの手を取って外に連れ出していった。
「……現時点ではマール、友達。俺、気持ち悪い男。ルッカ、恐怖の権化ってなところか。好感度が低い状態のスタートとは燃えるじゃねえか」
「恐怖の権化って何よ、私は当然のことを言っただけじゃない」
「いいか? お前にとっての常識は他全人類にとっては危険以外の何者でもないんだ。いかに自分が外れすぎた人間か理解してから物を言え」
「あんたに言われたくないのよ大変な変態」
「そう褒めるなよ。男相手に性欲が強いなあと示唆するのは究極の褒め言葉になる」
ちみちみと嫌味を言い合って俺達はテントを出る。日が沈み始め、灼熱のような気温が下がり赤すぎる太陽が遠く果てで沈下を始めていた。
星は夢を見る必要は無い
第十六話 酔いつぶれた女の子を介抱した後楽しいイベントが待っているかと思えばそうでもない
「みんな聞け! 新しい仲間出来た! 強い女マール! その仲間クロ! なか……仲間? ルッカ!」
「「「ウホホー!!」」」
「さ! ボボンガ踊る! お前らも踊る!」
ステージの上からの号令で人々は一斉に陽気なダンスを始める。単調ながらも耳に残る音楽が始まり太鼓の音が腹の奥に染み込んでいく。果物を熟成して作り上げた果実酒が脳を揺らし、豪快に焼いた肉の匂いが辺りを漂い否応無く気分を高めてくれる。
マナー等無く手づかみで肉を果実を齧り床を汚す。現代や中世なら目をしかめるその光景も今この場では威勢の良い、気持ちの良い食べ方。何処までも解放感のある宴。
さっきまではルッカとの小競り合いで節くれ立っていた俺だが、今は人の声や太鼓の音の波に流されて自由という宴を楽しんでいた。
――ボボンガ コインガ
ノインガ ホインガ
歌えや踊れ 風達と
ボボンガ コインガ
ノインガ ホインガ
歌えや踊れ 山達と
ボボンガ コインガ
ノインガ ホインガ
歌えや踊れ この一夜――
「ねえクロノ、この歌って……」
「ああ、リーネ千年祭でも歌われてたな」
「凄いね……ずーっとずーっと未来まで受け継がれてきたんだね、この歌は……」
「感傷に浸っちゃうわね……時の流れに風化されないものって、やっぱりあるものなのよ」
酒を片手に地面に座り、俺たち三人は宴の喧騒を眺めていた。
……良いものだよな、誰かが楽しんでるってことは。
「楽しんでるか、お前ら?」
先ほどまで壇上で俺達の紹介をしてくれていた男……キーノが話しかけてきた。
本来はエイラが仕切るべきなのだが、大勢の前に立つのは恥ずかしいと彼女は辞退したそうな。毎度のことだ、と頭をかいていたキーノは見た目のひ弱そうな外見と違い実に頼もしそうに見えた。
「うん! こんなに楽しそうなお祭り初めてかも! あっ、でも王国祭も負けてないかな……」
「王国祭? キーノ分からない。でも楽しんでるなら良い! マール達も飲み食い歌い踊れ!」
「あっ、ちょっと!」
マールの手を引いてキーノは皆が踊る場所まで連れて行きダンスを始めた。
最初は戸惑っていたマールも雰囲気に呑まれたか好き勝手に踊りだす。順応性が高いのはマールの凄いところだよな。
「……私の紹介に不満があったから文句言ってやろうと思ってたのに、強引だけど、気持ちの良い男じゃない」
叱るに叱れなかったわよ、と口を尖らせて俺に愚痴るルッカを小さく笑い、俺もその場を離れ宴を楽しむことにした。いやはや、この時代の女性は露出度が高くて良いね、たまらん。
「……うう……」
「え、誰かいるのか?」
ぐひひと笑っていたことを誰かに聞かれたと思った俺は声の聞こえた方を見た。
「キーノ、楽しそう……マール、可愛いから……うう……」
「……エイラ、さん?」
暗がりで座り込んだエイラは酷く悲しそうにキーノとマールが踊る光景を見ていた。何度も何度も目を擦っているので目蓋付近が赤く腫れ上がってしまっていた。
「ク、クロ!?」
声を掛けられたことに驚いたエイラは俊敏な動きで草むらの中に入り遠くまで走り出す足音が聞こえた。
「……ああ、つまりあれか」
俺のほのかな恋が終わったということか。へえー……
「……キーノ、許すまじ」
エイラの思い人であるキーノがマールと楽しそうに踊っているのが辛かった、と。可愛いねえ、可愛いねえ。俺にヤキモチ焼いてくれる女の子なんざ生まれてから一切いねえよチクショー。
「ようやく……ここ原始で普通に可愛い女の子が見つかったと思ったら……そうだよな、エイラだって女だもんな、好きな男の一人や二人いたっていいよな……」
さっきまでエイラが座り込んでいた場所で俺は体育座りになり腕の中に顔を埋めて嗚咽を漏らし始めた。
良かったんだって、まだ思いっきり本気だったわけじゃないんだし、これで良かったんだって! 傷が浅いうちに終わって良かったんだって!
自己暗示完成まで三十分ほどかかったが、なんとか立ち直ることができた(そう思い込むほどまで回復した)俺は立ち上がり宴の様相を再度眺めだした。
マールは酒が回り始めたのか踊りがハイテンションかつエキゾチックになっている。後で近づいてじっくりと見ることにしよう。
ルッカは酒ダルの中の酒を飲み干さんばかりにピッチを早く、がぶがぶと飲み狂っている。見物人がいるところを見ると中々面白い余興のようだ。ここで選択肢を出してみようか。
1、マールの艶かしいのかアホ臭いのか分からないダンスを見に行く。
2、ルッカの黒歴史になるっぽい場面を間近で見て後でからかう。
3、ロボを迎えにいってまさかのプロポーズ。俺にはお前しかいないんだ! と叫ぶ。(好感度90以上が条件)
「もしかしたらルート分岐かもしれない。ここは慎重に行こう」
精神の弱っている俺はカーソルを三番に合わせて……
「……クロ?」
脳内の決定ボタンを押す前に後ろから森の中に消えたエイラの声が聞こえたので踏みとどまることにした。
「どどどどうしたんだエイラ!? お、俺は決してベーコンレタスな選択をしようとなんてしてないぞ!」
「クロ……泣いてた……何で?」
「え? ……いやあ、その、まあ……失恋、かな。いやそんな大層なもんじゃないけど!」
本当は誤魔化そうと思ったのだが、エイラの目があまりに綺麗で、澄んでいたから、思わず本音を晒してしまった。
すると、エイラは驚いたように目を開いて俺の両手を握り締めてきた。……おやあ?
「クロも!? ……エイラも、その……」
「……言わないでも分かるさ。……キーノ、だろ?」
「!」
何処と無く刺々しい声音になってしまったのはご愛嬌。いや、まだ好きになってたとは言わないけれど気になってた子の好きな奴を嫌いになるのは許して頂きたい。
エイラと俺はどちらも話す言葉が見つからず、そのまま黙り込んでしまった。耳に入る盛り上がっている宴の音が今は腹立たしい。
そのまましばらく時が過ぎると、エイラの手の力が強まり驚いた。……まさか、これは……
4、エイラと楽しい一夜を過ごす。という選択肢が浮上してきたのか? 時間がたつと生まれる隠しルートなのか!?
決定ボタン連打! 間違いねえよ決定ボタン連打ぁぁぁ!! セーブの準備しといて! 後十八歳未満はご購入できませんってタイトルに書いてといてぇぇぇ!!
「クロ! キーノと勝負する!」
「回想モードは充実させておけよ……ってえ? 勝負?」
そのとおり! とエイラは元気良く頭を振った。分かりやすいボディーランゲージありがとう。
「クロ、マール好き! エイラ、キーノ好き! だからクロとエイラでキーノ達と勝負する! 奪い取る!」
「それ、何て名前の青春漫画? それと流れがさっぱり分からない」
「決まった! すぐ行くクロ! クロマール好き! だから行く!」
「引っ張るな! そんで俺はマールのことがそんなに好きじゃねえ!」
俺の言葉にエイラは分かってる分かってると微妙に優しい表情を見せる。俺のことを理解してくれる奴なんていねえのさ、それこそマトリックスの向こう側でも無い限りな……
しかし……俺の失恋の相手をマールと間違えるとは。自分がキーノを取られたと思ったからって、俺の好きな相手をキーノに取られたと決め付けるのはなんでだ? 変な四角関係を形成するなよ。女の子は自己完結する生き物だという定説があるが……当たってるものなんだな。
「ああ、おとなしい子に限ってこういう時強いんだよな、お約束ってやつだ……」
背中をごりごろ削られながら引っ張られる俺を、村の人間は楽しげに見つめていた。
「勝負? キーノとか?」
「そ、そう! クロとエイラ、キーノとマールで勝負、勝負!」
「ええと、どうなってるのクロノ?」
「分からん、分からんほうが良い」
きっぱりと不思議そうな顔で見ているキーノとマール。そりゃそうだ、踊っている最中に勝負! 勝負! と怒鳴り込んでくる人間を見たら誰だってそーなる。片手にへばった人間を捕まえてるなら尚更だ。
「岩石クラッシュ、飲み比べ! キーノ、逃げるか?」
「キーノ、別に構わない。でも、マールどうする? 酒、飲めるか?」
いつも大人しいエイラがここまで堂々としているのは珍しいのだろう。キーノは探り探りという感じで会話を返す。その中でマールを気遣う台詞が出たことでエイラのボルテージが更に上がり、マールの言葉を遮り大きな声で勝負! 勝負! とおたけぶ。
「分かった、でも飲み比べは一対一でやる。キーノ、クロと。エイラ、マールと勝負する!」
正直あんたらだけでやってくれないかなあと思うのは俺だけではないだろうとマールを見れば俄然乗り気なようでちょっと面白い。この子はどんなトラブルも楽しめるんだね。羨ましいやらアホみたいだわ。
「それでそれで? 勝ったら何が貰えるの?」
「う……それは……」
何も考えず勢いで勝負を仕掛けたエイラは口ごもり、チラチラと俺のほうを見る。助け舟がほしいということだろうか? 何が悲しくて気になっていた子が自分以外の他人に焼くヤキモチに手を貸さなくてはいけないのか。いや、助けるけども。
「あーっと……エイラが勝てばキーノをエイラにプレゼント、ちゅーか告白させてや」
「クロ!!」
エイラの八卦掌! みたいな突きをどてっぱらに当てられて俺はきりもみしながら料理の並んだ机に突っ込む。照れ隠しか、流石の俺のポジティブシンキングでも可愛いとは言えねえなあ、だって今俺吐血してるからね。
口から流れる血を拭いながら一言エイラに文句を言おうとするが、彼女は血色の良い顔を真っ赤に染めて俺を睨む。拳が震えてるのはまだ殴り足りないということか? 俺が泣くまで殴るのを止めないつもりか? すぐさま泣いてやるぜ。
「クロ勝てば、マールはクロの物、なる!」
「「……え?」」
エイラは暫し迷った後、摩訶不思議な事を宣言した。あれか? 俺がマールのことを好きだと勘違いしてるからの発言か? 自分の恋心を暴露するよりも他人の恋心を暴露するほうがましだからって……そりゃあないぜエイラさん。
「ええと……何で私がクロノの物になるの? ていうか、物って……何か過激だね」
少し照れながら言うマールにそこ突っ込むところなんだ? とは言えない。だって喋るだけで激痛が走るんだもの。これ現代なら訴訟物だからね、エイラさんはもう少し抑えるって事を知らないと俺の幼馴染みたいになっちゃうよ。
「そ、それは……クロ、マールのこと好き! だからマール、キーノに取られる、嫌! だから勝負する!」
マールが反応する前に遠くで「今何と言ったああぁぁぁ!!!」という怒声が聞こえたがまずは無視。そもそもさっきも言ったが勝負までの流れがさっぱりだ。エイラのテンパリは加速を続けている。いるいる、こういう何か思い立ったらそこまでのプロセスを無視して暴走する奴。
「ええ? クロノ、私の事好きなの?」
「そんなあからさまに嫌そうな顔をするな。いくらなんでも傷つく。お前は俺の心をダイヤモンドか何かと勘違いしてないか?」
「クロ、マール好き!」
「エイラ、ごめんちょっとうるさい。収集つかないから黙ってて」
少し前まで好意を持っていた女性に申し訳ないが、ここまで適当な扱われ方をされては不満も募る。正直、うざい。
「面白そう! キーノ、この勝負受ける! 賞品はマールでいいか?」
「そんなもんいらん。さっきのやり取り見てなかったのか? それよりも……」
今自分たちがドリストーンという赤い石を探していることを伝え、できればそれを貰えないかと頼むとキーノは赤い石たくさんある! それならやる! と快く了承してくれた。良かった、キーノはちゃんと俺の話を聞いて理解してくれる。俺の味方は男しかいないのかもしれない。ロボ然りドン然りキーノ然り。ああ、カエルは除外だ。あんなもん性別という概念が存在するのかどうかもあやふやなんだから。
「それで? エイラ勝てば、何貰う?」
「エ、エイラは……か、勝ってから言う! だから、今、言わない!」
事情を知る第三者から見れば甘酸っぱい光景だが、応援したいとはびた一文思わないのは何故だろう? 不思議だ。いや、そうでもねえか。
俺たちは壇上に上がり、腰を据えて準備が出来るのを待つ。
「じゃあ始める! 皆、岩石クラッシュ、どんどん持ってくる!」
今まで成り行きを見守っていた人々がキーノの言葉に「ウホホー!」と叫ぶと石製の大きな杯の形をした物をいくつも持ってきた。中にはなみなみと注がれた黄色い液体。嗅いでみるときついアルコールの匂いがする。これを飲めってことだよな? ……度数いくつだよ、ウォッカだってこうは匂わねえぞ……? 五十前後ありそうだ……
「どうしたクロ? 酒は苦手か?」
少し心配そうにキーノが聞いてくる。相手を気遣えるってことは、キーノはこの酒を余裕で飲める自信があるわけだ。……今までほとんど飲まずにいてよかった。酔いきった状態で勝てる相手じゃなさそうだ。
心配するなとジェスチャーして、杯を自分の前に持ってくる。
エイラとマールは俺たちの後で勝負するようで、観客席から見守っている。マールはどっちも頑張れーと気の抜ける応援を寄越し、エイラは心配そうに胸に手を置いて勝負の開始を待つ。
「この勝負、飲めば勝ち! 相手よりもたくさんたくさん飲めば勝ち! 単純! 用意は良いか?」
「ああ、俺もざるのクロノと言われた男だ、そう簡単に勝てると思うなよ!」
景気良く返すものの内心俺なにやってんだ? という声が止まない。が、勝負は勝負、やると決めたらとことんが信条の俺に油断は無い!多分!
「それじゃあ……始め!」
キーノの言葉が終わると同時に一気に杯を傾けて岩石クラッシュを飲みだす……が。
「おぶへぇっ!!?」
喉を通した瞬間の熱に驚き口に入った酒を噴出してしまう。
ごほごほと咳き込む俺にキーノは一杯目を飲み終えた後、心持余裕のある顔で話しかけて来る。……なんかむかつくな。
「この酒キツイ。無理、やめる」
「ばっ……げほっ! 馬鹿言え、おぶへぇが口に入っただけだ。一瞬水かと思ったぜ」
気を取り直してもういちど口に運ぶ。強い酸味が焼けた喉を刺激する。こんなもん嗜好品じゃねえよ、なんかしらの毒物だと言われても納得するわ!
悪態をつきながらも時間を掛けて一杯目を飲み干す。既に明日に響きそうだな、程度に酔っている自分が不甲斐ない。キーノは俺が飲み干したのを見ると頷いて二杯目を傾ける。マラソンで次の電信柱まで先に行って待ってるね? みたいな偽善行為しやがって……
水が欲しいところだが、そんなペースではキーノには勝てないと踏んで俺も二杯目を攻略する。くそ、喉がヒリヒリして感覚が無くなってきた……まだ二杯目だぞ!?
キーノに少し遅れて二杯目終わり、早速三杯目……というところで俺の手が滑り杯を落としてしまった。おいおい……もうベロベロじゃねえか俺の体。八岐大蛇だってこうはならなかっただろうに。
「もう降参するか? クロ、顔色悪い」
「………」
キーノの降伏勧告を無視して次の杯を貰い喉に運ぶ。幾らなんだって、そうも簡単に負けられるか、相手のキーノは素面同然じゃねえか!
それからキーノの制止やマール、エイラの応援を背に意地だけでアルコールを摂取し続けた……
二十分も経っただろうか? 現在、俺が飲んだ杯の数十一、キーノ十六と逆転不可能とは言わないが、明らかな劣勢であることは一目瞭然だった。
俺のグロッキー状態に比べてキーノも辛そうではあるがまだ余力があるように見える。ポーカーフェイスである可能性も否めないが……楽天的な思考は止めよう。
何より……仮にキーノが限界だとしても俺は後五杯以上飲まなければ勝ちにならない。今俺は喉まで熱い濁流が迫っている現状、一滴も酒なんか飲みたくないのだ、いや、飲めないのだ。
「おぶっ……」
「クロ、よく頑張った。キーノ、ここまで酒、強い奴初めて見た。恥じる、無い」
「ふざけんな……トルース町のクロノっていやあ……ルッカと母親以外には負けねえって……逸話、が…あるくらい………」
そこで俺の意識が薄れ目の前に積まれていた空の杯を倒しながら前のめりに横たわった。
観客のキーノの勝ちだ! という声とマールとエイラの大丈夫!? という声がステレオに聞こえる。もう、どちらの言葉が誰の声なのか、その判別すらつかない。
もういいだろ、俺は頑張ったよ。ぶっちゃけこんな勝負どうでも良いことこの上ないんだし、キーノだってマールの事が好きなわけでもない。だったらこのまま俺が倒れてても……
「キーノ、勝った! これでお前、キーノの物!」
「え! そんなの聞いてないよ!?」
「負けた人間、勝った人間に奪われる! これ、大地の掟! お前、それ破る、ダメ! ダメ!」
観客の一人がトンデモ理論を弾き出すと周りの人間もそれに呼応してソウダソウダと騒ぎ出す。エイラやキーノがそれを止めようとしているのは救いだが、程よく酒の入った集団はその程度では止められない。熱気は増して、どこか不穏なものさえ感じられるようになった。
……そうか、この勝負はマールを賭けたものだったのか……そういえば、そんな気もするな。
ぶつりぶつりと途絶えていく考えを一度全て外に追い出して俺はぐにゃぐにゃになったみたいに言うことを聞かない体を無理やり起こして、立ち上がる。
観客も、キーノも、エイラも、マールも驚いて俺を見る。何だよ、俺がこの程度でくたばるもんか。
「……マール、は……」
ああヤバイ、これ絶対ヤバイ。言ったら駄目なことを口走りそうな気がする。凄い勘違いされそうな気がする。
でも、これ以外に上手い言葉が見つからない、それに自分を奮い立たせる為には仕方が無い。そう、仕方が無いんだ。
「さ、ねえ……」
そうだな、はっきり言って最初は素敵な女の子だな、と思ったよ。元気一杯で、屈託が無くて、見るもの全部珍しそうにみて、そして……笑うんだ。皆を包み込むような暖かい声を鐘のように鳴らして、大きく口を開けてさ。
「渡さねえ……」
でもしばらく一緒にいればそりゃあ酷い女の子で、俺のこと嫌いなのかな、と思ったし、その前向き加減がイラついたこともあったよ。世の中信じれば乗り切れると思ってる辺りがさ、わずらわしいっていうか。
俺のこと見捨てて逃げようとすることも度々あったし……だけど……
いつだって、マールは笑うんだ。俺の近くで、笑ってくれるんだ。
勝負自体はしょうもないものだし、観客も煽ってはいるが、所詮酒の勢い、実の所面白半分で騒いでるに過ぎない。分かってるよ、そんなこと馬鹿でも理解できる。
だからって……それでもやっぱり負けたくない。
恋愛感情じゃない。父性精神とか、独占欲とか、嫉妬とかの類でもない。……もしかしたら、その中のどれかかもしれないけれど、そんなの認めない。大体そんな付加理由は必要ない、ただ、マールは、この王女様は……
「マールは、俺の物だ! ぜってえ、誰にも渡さねえぇぇぇ!!」
他の誰にだって、渡すわけにはいかないんだ。友達なんだから。
ここにいる全員のリアクションを見る前に近くの酒を持って一気に飲み始める。頭痛はするし手も震えるし目の前が赤くなってきてるし寒気もしてきた。今自分が立ってるかどうかもあやふやで息を吸っても吸っても酸素が足りない、心臓が爆発しそうなくらい暴れてる、それら全てが自分にとって有利に働くと考えろ、思い込め! 勘違いでも充分で、勝てさえすりゃあ良い!
「次ぃ!!」
空いた杯を後ろに投げて酒を受け取る。慣れたものだ、一杯目は溶岩を口に入れてるみたいだったが、今じゃ最初に言ったみたいに水のように感じる! これもランナーズハイに似たものなのかもしれない。十杯でも百杯でも飲み干してやるさ! ……百杯は無理か。
「次の杯持って来い! 村中の酒飲み干してやらぁ!」
この時からほとんど記憶は無い。ただ、村人達の歓声だけが耳に残っている。後、誰かが残してくれた温もりと、感謝の言葉が。
その誰かは金髪だった。だから、きっとエイラが俺を抱きしめてくれてるんだろうと思ったから、名前を呼ぼうとしたけれど……何故だろう、俺は違う名前を口にした気がする。
目を開けると、視界に青すぎる空。白い雲は太陽を遮らず、ただあるがままの姿を目に焼き付けさせた。余りの眩しさに目を背けると、そこには頭から酒をかぶって寝こけているルッカが大いびきをたてて爆睡していた。あー寝起きから見たくねえもん見ちまったぜ、慰謝料を請求して良いくらいだ。
体を起こしてみると強烈な頭痛に頭を抱えてもう一度地面に横たわる。誰か! 誰か優しさの半分を俺にくれ! もしくはキャベジ○!
動かずにいると頭痛が収まってきた代わりに体の節々に痛みを感じる。胃は心臓の鼓動の度に「動かすんじゃねえ! タリイんだよ!」と説教かましてくるし、顔全体がこけているのを理解できる。やべえ、有給三日は貰わないと死ぬ、これ。
「……まあ、あれだけ飲めばこうなるか……いてて、喋るだけで辛い……誰か殺してくれ……」
「嫌だよ、介錯役より観客側が良いもん」
俺の体に影が降り、日光を少しだけ和らげてくれる。他人の声は聞くだけで悶絶するほど痛む筈の頭も、この声だけは鼓膜内の進入を許してくれる。むしろ、頭痛が軽くなる錯覚まで。
「……趣味悪いな、せめて他人にやらせるよりは……みたいな悲痛な決心とかはそこに無いのか?」
「決心してほしいの?」
「いや……それはそれでぞっとしないな。てか、それ俺の質問に答えて無くないか?」
「へへ、女の子はズルイの! ……って、何かの本に書いてあったよ」
「……当たってるよ、それ。真理だわ」
俺の言葉を聞いて喜ぶマールは、遥か遠くで輝く太陽なんかよりもよっぽど眩しく見えた。
お早う、王女様。
マールのケアルで体が動くようになり、感謝を告げる。二日酔いも治せるなんて万能過ぎるだろ、食中毒とかも治せそうだな。
酒臭さ満載の女の子らしさ皆無であるルッカにもケアルをかけてやり体を揺さぶって起こす。うわ、近づけば近づくほど酒くせえ、水被せて起こしたほうが一石二鳥で良いかもしれない。
目を覚ましたルッカはしょぼしょぼとする目を開き「クロノ、酒臭い」とのたまう。良いか? うん○がう○こに臭いと言った所で不毛なんだぜ。
結局三人で水浴び場に向かい(期待したのだが男と女は別の場所だった。何故原始の時代にこんなシステムがあるのだ、口惜しい)酒臭を消して再集合。これからどうするか相談して、キーノの持っている赤い石がドリストーンなのかどうか確認しようという結果に。
「なあマール、結局昨日の飲み比べ、俺が勝ったのか?」
「覚えてないの? キーノの飲んだ分、十六杯を越えて十七杯目を飲み干した後クロノ、倒れちゃったんだよ? 心配したんだから」
「そうなのか……いや、正直昨日のことはほとんど忘れちまっててさ」
そう言うと、マールは何故か少し落ち込んだ後「まあ、いいか」と開き直ったかのように呟き「ありがとうね!」と笑ってくれた。何の感謝だか知らんが、礼を言われて何も言わないのは不実なので、「おう!」とだけ返しておくことにする。
「私もさ、昨日の記憶ほとんど無いんだけど、確か誰かを殺そうとしてたのよね……誰だったかしら?」
「ええか? 人の命はかけがえの無いものなんだから突発的に誰かを殺そうとしてはいかん。誰か思い出すな、ノリで殺人を犯すな」
「いや、なんだか信じてた友達に裏切られたっていうか、大切にしてた油揚げを掠め取られたっていうか……うーん」
「何だその例え? とにかく忘れとけ。それからマール、汗凄いぞ? あんまり近づかないでくれるか」
辛辣にマールを遠ざけると肩が震えているのが分かる。ああ、何か知らんがやっちゃったんだなマール。あんまり動揺してると横のクリーチャーに気づかれるぞ? そいつやると決めたら絶対やる奴だから。悪い意味で。
俺が何がしかに気づいたと感づいたマールは俺に何度もアイコンタクトを送りお願い黙ってて! と懇願している表情を見せる。俺がどうしようかなー? と少し意地悪そうに唇を舐めるといいから黙ってろって言ってんだろがコラァな目にシフトしたのでちょっとばかり勘に触った。
「ルッカ、マールの奴がさ何か隠して」
「わーわーわー!! ぼぼぼボブサッ○のハンマーパンチは尊敬できるものだと私は思うようん!」
「? ごめん私あんまり格闘技明るくないから分からないわマール」
まあ、概ね平和な感じの朝である。あくまでもここまでは。
変なマール、とルッカが笑い伸びをした所で、彼女の顔色が見て取れるほど変わる。最初は赤色、次に青色、少しづつ血色が戻ったかと思えば白色に。信号もかくや、という次第である。……信号ってなんだ?
「どうしたルッカ、便秘か? それともあれか? 月の」
後ろにいたマールから両肩に手刀、流れてドロップキックのコンボで俺の体力ゲージを五分の一減らしていく。アーケードなら咥えていた煙草を消して本腰を入れるレベルだ。……アーケードって何だ?
「……ヤバイかも」
「? ヤバイって何が? クロノのデリカシーの無さ? そんなの生まれる前から分かってたことじゃない。あんなんだからモテないんだよねクロノは」
すぐ脇に倒れていた俺はマールに足払いを行い後ろ足に砂をかける。肉体的ダメージは薄くとも屈辱感は中々のものだ。現にマールは両手を地面につきながら「恨まぬ道理は無し……」と口惜しそうにしている。何て気分が良いんだ! これが勝者の優越というものか!
「……ゲートホルダーが……無い……」
「「…………」」
公衆トイレの便器に財布と携帯と車の鍵を落としたみたいな顔でぽつぽつと語るルッカに俺とマールは固まってしまった。心なしか鳥の声も遠くから響く猛獣の雄たけびも途絶えた気がする。
こうした沈黙の時間もルッカの顔色は七変化していきちょっとしたエンターテインメントにすらなりつつある。実際今ルッカの顔見てて面白いし。
……が、こうしてルッカの顔を見て楽しんでいるわけにもいかず、意を決してルッカに話しかけてみることにする。
「なあ、ルッカ……」
俺の声に反応してルッカは絶望的状況といった顔で俺を見る。
「どうしようクロノ……私達、私達……」
「多分、俺もマールも思ってたことだと思うけど……ゲートホルダーって何だ?」
「うん、私も分かんない。何だっけルッカ」
「あんたらを愛しく思うべきか憎むべきか半々だわ」
もしくは切なさと心強さか。
重い重いため息を吐いてからルッカは頭痛をこらえるように目蓋の上から眼球を押さえて口を開いた。
「あのね……ゲートホルダーが無いとね……原始から帰れないの。元の時代に戻れないのよ!」
「……ええー! どうするの!?」
「ロボの貞操が危ういな。あいつの精神および肉体的権利はあの変態爺いボッシュの手に堕ちるのか……」
「気楽に言うけど、これマジなのよ? あんた原始の生活に対応して生きていけるの?」
「なんかその方が平和に終わりそうな気がしないでもないんだなー」
なんていうか、トゥルーエンドには辿り着かないけどグッドエンドには到達できそうというか……作品によってはグッドエンドの方が幸せなこととか一杯あるし。U○Wとか。あくまで主観だけど。
それからルッカとマールが頭を抱えてどうしよう、どうしよう! と転がりまわっていたのがちょっと面白かった。腹を抱えて笑っていたら殴られたけれども。何かあったら俺を殴っとけばいいや的な考えは止めようって。とりあえずマック集合、みたいな。
その場は俺達が寝ていた場所付近に人間外の足跡が多数見受けられたことを俺が指摘してエイラ、もしくはキーノに話しを聞いてみようという結論になった。手がかりを見つけた俺に感謝の言葉は無し。クックックッ、あー触手モンスターとか出ねえかなぁマジで。もし出たら鬼畜ルート一択だぜ! 『冷静に見捨てる』とかさ。
酋長のテントに入り中を見ればエイラの姿は見当たらないが、キーノが中でせっせと粘土をこねくり回している。どうやら土器製作に精を出しているようだ。昨日あれだけ酒を飲んで魔法無しに立ち直りなおかつ仕事を出来るとは……原始最強の人間はエイラではなくキーノなのかもしれない。
俺達が来た事に気づくとキーノは木で出来た歪なコップに水を入れてもてなしてくれた。朝の挨拶を交わし本題に入る。寝ている間に大事な物が盗まれたこと、近くに人間ではない足跡が多数あった事を説明すると、キーノは血相を変えてそれは恐竜人の仕業に違いないと断定した。
「恐竜人、緑色! あいつらとキーノ達、戦ってる! 恐竜人、リーダー、アザーラ言う。アザーラとても頭良い……きっと、アザーラ命令した!」
恐竜人とイオカ村との戦いや、その戦いを避けた人間達の村、ラルバ等様々な事を鼻息荒く教えてくれた。ぶっちゃけ、んなことはええからその恐竜人は何処におるんじゃいと言いたかったが、一通りの話は聞いておくことにした。
キーノは村の中に恐竜人を見た人間がいるはず、まずは聞き込みを開始しようと提案し俺たちは頷いた。
「俺見た、恐竜人。南のまよいの森、入った。お前ら、まよいの森行くか? モンスターたくさんいる。気をつける」
村の人間に聞いて回るとすぐにドンピシャ、頭に動物の牙で出来た飾りを乗せた男が忠告も載せて情報を提供してくれた。キーノに聞くとまよいの森の場所は知っているそうなのでそこまでの案内を頼むことにする。キーノは勿論! と日に焼けた笑顔を見せて先頭を歩き始めた。頼りがいのある男はモテる……実に理解が出来るな。その点俺はバーベキューの時もドンジャラで遊んでいるというインドア具合。そりゃあモテねえさ。
「キーノ、そういえば、エイラどこ、行った? 朝から姿見ない」
「エイラ? キーノも見てない。多分狩り、違うか?」
遠ざかる俺たちに男がエイラの所在を聞く。俺たちは当然、キーノも知らないようでかぶりを振って予想を男に渡してまよいの森を目指す。
そういえば、エイラの名前を聞いて思い出したのだが、昨日のエイラとマールの勝負はどうなったのだろう?
「なあマール、お前とエイラの飲み比べはどっちが勝ったんだ?」
「飲み比べ? 私が勝ったよ。エイラったら一杯目の半分も飲まずにダウンしちゃったから。ちょっと可愛かったよ」
マールは二十杯飲んでこれ以上は明日に響きそうだから止めたそうな。マールは良く分からないところでとんでもなくハイスペックということか。……何故か悔しいのは男のプライドが原因だろう。
にしてもエイラ、そんな簡単に負けたのか。落ち込んでなければいいのだが……
彼女の泣き顔を思い出して胸が痛む。彼女の泣き声は誰かに聞こえないように低く抑えられていて、赤子のように心底悲しそうに泣くのだから。
そういえば、俺は彼女の笑い声を聞いていないんだなあ、と寂しい現実を思った。
おまけ
余りにもどうでもいいキャラ紹介
クロノ。
好きな上がり方は誰かが大きそうな役のリーチを掛けた後の喰い断。アリアリはデフォルト。
マール。
愛読書はテニプリ。次いで復活。最近は真田が熱いとのこと。得意な上がり方は天性の引きから生まれるツモ。
ルッカ。
表の好きな漫画はハチクロ、君に○け、荒○アンダーザブリッジ等。真山君とかいいよねー? 深くまで関わってこないってゆーかー? みたいな会話が好き。
裏の好きな漫画はフリー○ア、闇○ウシジマくん、古谷○全般等。っちゃけんなでかい事出来なくなってるけどね、警察の介入半端無いから。みたいな会話をしてクロノを引かせている。
得意な上がり方は一色オンリー。我が道を遮る者無し!
ロボ。
BLEA○Hで基盤は出来た。最○記で仏教を斜に見るようになる。Fa○eで全ての準備が整った。中二とは恥に非ず、称えよ我が人道を!
エイラ。
喫茶店で大きな声で話しているグループがいたら店を出る。コンビニに入ろうとして店前で煙草を吸っている学生がいたら通り過ぎる。注文と違った品物が来ても文句を言わない、言ったこともない。現代に生まれたらこういう女の子になる。大学生になっても合コンは都市伝説。
王妃。
尊敬する人。範馬勇次○。少し離れて倉田○南。これがいわゆるギャップ萌え。
ヤクラ。
エックス斬り練習ポケ○ン。
カエル。
SでありM。これをP(ピュアー)と呼ぶ。救済措置的な名称。後、蛙。