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No.20619の一覧
[0] 星は夢を見る必要はない(クロノトリガー)【完結】[かんたろー](2012/04/28 03:00)
[1] 星は夢を見る必要はない第二話[かんたろー](2010/12/22 00:21)
[2] 星は夢を見る必要はない第三話[かんたろー](2010/12/22 00:30)
[3] 星は夢を見る必要はない第四話[かんたろー](2010/12/22 00:35)
[4] 星は夢を見る必要はない第五話[かんたろー](2010/12/22 00:39)
[5] 星は夢を見る必要はない第六話[かんたろー](2010/12/22 00:45)
[6] 星は夢を見る必要はない第七話[かんたろー](2010/12/22 00:51)
[7] 星は夢を見る必要はない第八話[かんたろー](2010/12/22 01:01)
[8] 星は夢を見る必要はない第九話[かんたろー](2010/12/22 01:11)
[9] 星は夢を見る必要はない第十話[かんたろー](2011/08/02 16:03)
[10] 星は夢を見る必要はない第十一話[かんたろー](2011/01/13 06:26)
[11] 星は夢を見る必要はない第十二話[かんたろー](2011/01/13 06:34)
[12] 星は夢を見る必要はない第十三話[かんたろー](2011/01/13 06:46)
[13] 星は夢を見る必要はない第十四話[かんたろー](2010/08/12 03:25)
[14] 星は夢を見る必要はない第十五話[かんたろー](2010/09/04 04:26)
[15] 星は夢を見る必要はない第十六話[かんたろー](2010/09/28 02:41)
[16] 星は夢を見る必要はない第十七話[かんたろー](2010/10/21 15:56)
[17] 星は夢を見る必要はない第十八話[かんたろー](2011/08/02 16:03)
[18] 星は夢を見る必要はない第十九話[かんたろー](2011/08/02 16:04)
[19] 星は夢を見る必要はない第二十話[かんたろー](2011/08/02 16:04)
[20] 星は夢を見る必要はない第二十一話[かんたろー](2011/08/02 16:04)
[21] 星は夢を見る必要はない第二十二話[かんたろー](2011/08/02 16:05)
[22] 星は夢を見る必要はない第二十三話[かんたろー](2011/08/02 16:05)
[23] 星は夢を見る必要はない第二十四話[かんたろー](2011/08/02 16:05)
[24] 星は夢を見る必要はない第二十五話[かんたろー](2012/03/23 16:53)
[25] 星は夢を見る必要はない第二十六話[かんたろー](2012/03/23 17:18)
[26] 星は夢を見る必要はない第二十七話[かんたろー](2011/08/02 16:06)
[27] 星は夢を見る必要はない第二十八話[かんたろー](2011/08/02 16:06)
[28] 星は夢を見る必要はない第二十九話[かんたろー](2011/08/02 16:06)
[29] 星は夢を見る必要はない第三十話[かんたろー](2011/08/02 16:07)
[30] 星は夢を見る必要はない第三十一話[かんたろー](2011/08/02 16:07)
[31] 星は夢を見る必要はない第三十二話[かんたろー](2011/08/02 16:08)
[32] 星は夢を見る必要はない第三十三話[かんたろー](2011/03/15 02:07)
[33] 星は夢を見る必要はない第三十四話[かんたろー](2011/08/02 16:08)
[34] 星は夢を見る必要はない第三十五話[かんたろー](2011/08/02 16:08)
[35] 星は夢を見る必要はない第三十六話[かんたろー](2011/08/02 16:07)
[36] 星は夢を見る必要はない第三十七話[かんたろー](2011/08/02 16:08)
[37] 星は夢を見る必要はない第三十八話[かんたろー](2011/08/02 16:07)
[38] 星は夢を見る必要はない第三十九話[かんたろー](2011/08/02 16:06)
[39] 星は夢を見る必要はない第四十話[かんたろー](2011/05/21 01:00)
[40] 星は夢を見る必要はない第四十一話[かんたろー](2011/05/21 01:02)
[41] 星は夢を見る必要はない第四十二話[かんたろー](2011/06/05 00:55)
[42] 星は夢を見る必要はない第四十三話[かんたろー](2011/06/05 01:49)
[43] 星は夢を見る必要はない第四十四話[かんたろー](2011/06/16 23:53)
[44] 星は夢を見る必要はない第四十五話[かんたろー](2011/06/17 00:55)
[45] 星は夢を見る必要はない第四十六話[かんたろー](2011/07/04 14:24)
[46] 星は夢を見る必要はない第四十七話[かんたろー](2012/04/24 23:17)
[47] 星は夢を見る必要はない第四十八話[かんたろー](2012/01/11 01:33)
[48] 星は夢を見る必要はない第四十九話[かんたろー](2012/03/20 14:08)
[49] 星は夢を見る必要はない最終話[かんたろー](2012/04/18 02:09)
[50] あとがき[かんたろー](2012/04/28 03:03)
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[20619] 星は夢を見る必要はない第十二話
Name: かんたろー◆a51f9671 ID:423dceb7 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/01/13 06:34
 トルース町に帰ってきた俺たちはリーネ広場に行く前にルッカの家に寄り、ロボのボディを修理することにした。家に入った途端タバンさんがタバコを咥えながら豪快に笑い迎えてくれた。研究者とは思えない太い腕で何度も背中を叩かれて咳き込んでしまったのは笑える話だ。
 俺が刑務所に入れられたことについては何も聞かずにいてくれたのは有難い。兵士を呼ばないだけでも嬉しいことなのに、歓迎してくれるとは……思わず涙腺がゆるんでしまった。俺もタバンさんみたいな父親が欲しかった、外道な母親はもういらないから。
 タバンさんにロボの壊れたボディを見せると「むはっ!」と妙な声を出した。奪い取るように家の奥に持っていき、俺たちのところに戻ってきた後「安心しな! 俺が責任を持って直してやるぜ!」と答えてくれる。本当はルッカが直す予定だったのだが、タバンさんが俺たちが旅をしている間一人で直してくれるならそれは喜ばしい。ボディの修理中ルッカの戦力は失くすのは惜しいものがある。
 タバンさんは純粋に研究欲に火がついたようだ、未来の技術は見る人が見れば垂涎ものらしい。こういう変わったところがないと何かを作り出すなんて出来ないのかもな。
 ロボが人間でなくアンドロイドであると教えれば服を剥ぎ取りにかかって診察しようとしたのでルッカがハンマーで撃沈させる。父親が幼い少年を襲っている姿なんぞ見たかないんだろう。禁忌過ぎるわな、そんな場面。


 ルッカとタバンさんで積もる話もあるだろうが、俺たちはこの国の兵士に追われている、見つからないうちに広場に行こうと話を切り上げて外に出る。しかし、家を出て数分としないうちにタバンさんが追いかけてきて装飾の激しい赤い派手なベストを持って来た。曰く、これはルッカ専用の装備で並大抵のことじゃ傷もつかない防具なのだそうだ。
 ルッカは趣味の悪い赤一色のベストを喜んで貰っていた。まあ趣味云々は良い。ただ、ここで言う気は無いが、なんでタバンさんは娘の服のサイズを知ってるんだ? 物陰に隠れて着替えたルッカが私にピッタリと話していた事であっちゃいけない犯罪の臭いが漂ってきた。うん、俺父親はいらないや。
 すこしぎこちない別れの言葉を交わして再度広場に向かうと、タバンさんが俺の肩を掴み耳元に口を寄せて内緒話を俺に持ちかけてきた。
 内容は「クロノ……避妊はしてるんだろうな? ほら、コレをやるから娘の体にも気を使ってくれよ?」との事。その真意を尋ねる前に地獄耳のルッカがプラズマガンでタバンさんを痙攣させてしまった。タバンさんが握っていたカップルのお供をポケットにねじ込みながら。なんで貰うんだよそんなもん。年頃の女の子が持ってると印象悪いぞ。


 ようやく中世に行けるはずだったのだが、途中で運の悪いことに母さんが買い物に出かけていて、ばったりと出くわしてしまった。母さんは驚いた顔で「クロノ……あんた、刑務所にいるはずじゃ……良かった、出てこれたのね」と笑っていうものだから、「母さーん!」と泣きながらその胸に飛び込もうとしてしまった。まあ、「あんた臭い、海中で死んでいった生き物たちの臭いがする。有り体に言って潮臭い、近づかないで」の言葉に冷めたが。いや、ここは覚めたというべきか。
 この母親、雷を落としてくれようかと殺気を放てば感づいた母さんが躊躇なく長渕キックを連発、俺の抱いた反抗心などでは何も成し遂げられぬのだと教えてくれた。確か家族間での暴力ってこんなに簡単に起こるものじゃないと思うんだけどな、良いけどさ別に。


 ゲートについてようやく現代から出ることになる。もしかして俺現代にいるときが一番辛い境遇なんじゃないか? 詮無いことを思いつつ、二度目の中世来訪となったのだ。……中世でも良い事無かったし、どうせ今回も無いんだろうな。人生苦もありゃ死もあるさ。楽なんか一回だって訪れやしねえ。
 ゲートに入る前に楽しそうな祭りの喧騒を耳にして、頭を掻きながらゲートに足を入れる。今回の旅は長くなりそうだ、と覚悟を決めて。









 星は夢を見る必要は無い
 第十二話 ゼナン橋防衛戦(前)










 中世に着き、時の最果ての爺さんにメンバーチェンジを頼むことにした。まずは城の王妃様たちに挨拶をしようと考え、中世時のメンバーで会いに行こうと思ったからだ。ロボは育児放棄したくなるほど駄々をこねたが、こういう時の我侭を聞いてしまっては、我侭を言えば何でもしてもらえると認識するのが子供の原理だ、断固として譲らん。
 時の最果てに行くことを嫌がっているロボを見たルッカが「なら父さんの所でボディの修復を手伝ってくれない? ロボが装着するボディなんだから、ロボが近くにいた方が色々都合がいいでしょ?」と妥協案を出した。
 まあそれにも嫌がったが、とりあえずどついて大人しくさせた後ロボをゲートに放り込んだ。後は勝手にルッカの家に行くだろう。修理が終わるまではロボとメンバーチェンジが出来ないのは痛いが、ボディは早急に修理してほしい。俺の精神安静のため。





「ふわー、ようやくあそこから出られた。これからは私も頑張るね!」


 伸びをして体を解すマールに癒された後、ルッカの提案で山に生息するモンスターたち相手にマールの修行をすることにした。魔法を持ってからの実践はマールはまだ体験していないので、本格的な戦闘を迎える前にある程度慣れておくべきだというのだ。
 マールの魔法は氷寄りの水。アイスというシンプルな魔法で、効果は敵対象を氷付けにして、砕けさせる、彼女の性格に似つかわしくない凶悪な魔法だった。アイスは山の雑魚モンスターたちを悉く氷塊に変えて砕け散らせた。……こうして見ると、俺の魔法の力が一番弱いんじゃないかと思う。天なんてご大層な名前の属性だから凄いのかな、とか思っていた時が懐かしい。
 攻撃としても優秀なマールの力だが、その真価は治療にこそあった。山の中腹にある釣り橋の板が外れて崖から落ちた俺をマールは魔法の力を用いた回復呪文で、瞬きするほどの間に完治させたのだ。今までマールが使っていた治癒やロボのケアルビームと比較してもその回復速度には驚かされた。恐らく折れていた右腕までも直っていたのだから。
 これなら充分に、むしろ俺よりも魔物たちと戦えるとルッカのお墨付きが貰えた時のマールの顔ときたら嬉しそうだったな……で、ルッカさん、俺はいつ貴方に認めてもらえますかね。あんたは雷鳴剣が無ければ役立たず同然じゃない? なるほど素晴らしい評価ですね、よく俺を見ていらっしゃる。


 山を降りると、どうも村の様子がおかしい。てんやわんやと慌てている村人に事情を聞いてみることにした。すると、


「魔王軍が攻めてきたんだ! ゼナン橋まで攻め込まれてるらしい!」

「なあに、心配することはないさ! なんせ勇者バッチを持った勇者様が現れたんだからな!」

「勇者様なら魔王軍何ざ一捻りにしてくれるぜ!」

「ちょっちゅね!」


「勇者? なんだか分からないけど、絵本なんかでよく見る救世主様みたいな人のこと?」


 マールが村人の話を聞いて出した感想はまあ間違いではないだろう。おおよそ似たようなものだから。


「うーん……ゼナン橋って言えばトルースの西、ガルディア城の南にあって、パレポリ村がある大陸に繋がる大きな橋のことよね? ……国王軍の踏ん張り所ね……もしここを魔王軍に取られれば相手は何処からでも攻め放題になるわ」


「……嫌だぜ俺、そんな激戦地を潜り抜けるなんて……」


 戦々恐々としながらもう少し村人達から情報を集めているとどうやら勇者とやらは今城に向かっているようだ。勇者なんてものがいるなら俺たちはもう帰ろうぜ、魔王はそいつが倒してくれるさと進言してゲートのある山に足を向けるとマールとルッカが俺の腕を片方ずつ掴んで城に向かう。俺この星の人間だからさ、グレイみたいな扱い止めてくれる?


 森を抜けて、ガルディア城の中に入ると中は不安と期待に溢れた火薬庫の雰囲気に満ち満ちていた。なにかきっかけがあれば爆発し、霧散する、そんな緊張感に包まれながら、兵士は武器を磨き、次々と城の扉から出て行く。給仕の人間はそんな戦場に向かう兵士達を心配そうに、辛そうに見送り何か出来ることは無いかとしきりに声を掛けている。出て行った人間と比例して俺たちの後ろから怪我人が運ばれて、騎士団の部屋に運ばれていく。血の臭いが大広間を覆い、その場にいる人間の鼓動が早鐘を打つように早く強く鳴っている。……これが戦争ってやつなのか?


「クロノ、私……」


「ああ、王妃様たちには俺たち二人だけで会ってくる。マールはやりたいことをやれ。ここを出る前に声を掛けるから」


 俺が許可すると、マールは走って騎士団の部屋に向かった。回復魔法が使えるマールなら幾人かの人たちを救えるはずだ。頑張りすぎて倒れないかが心配だが、マールの性格を考えると止める事は出来ないし、俺も何もせず見捨てろなんてわざわざ口に出しては言いたくない。
 ……放っておいても文句は言われないんだぞ、という言葉は飲み込んでおこうか。


「……行きましょうクロノ。早く王妃様たちに話を聞いて勇者様とやらに会わなきゃ」


 新たに運ばれてきた腕を失った兵士から顔を背けてルッカは階段を上がる。……この魔王軍との戦いで何人死んだんだろう、いや、考えたくも無いな……


「おお、クロノたちか、もしや、勇者の話を聞いて来たのか?」


 玉座に座る王様が疲れた顔をして立ち上がり俺たちを迎えた。歓迎してやりたいが、今は切羽詰った状況でな、あまり構うことができぬ。と前置きして王様は言葉を並べていく。


「勇者は今ゼナン橋に向かい魔王軍と戦おうとしておる……行き違いじゃったな」


 王様の話を聞いて、残念ではあるがここでモタモタされていても腹が立つだろうし、仕方ないかと自分を説得してルッカにどうするか目で訊ねる。ルッカは「勿論後を追いかけるわよ!」と気合を入れて王の間を飛び出して行った。熱血だなぁ……兵士たちが死んでいく今に焦燥感を感じているのだろうか? 俺だって思うところが無いではないが、それよりも恐怖が勝り関わりたくないというのが本音である。
 鈍く前に歩き出す足で俺も退室しようとすれば、王妃様が俺に「クロノ!」と場にそぐわない陽気な声を出した。


「もうすぐヤクラが城に帰りチョコレートを作ってくれるのです。一緒に食べませんか?」


「や、流石にデザートを頬張るほど明るい気分でもないですし」


 残念です……と言いながら項垂れるリーネ王妃。あんた凄いよ、戦争の最中でもヤクラの作るお菓子優先とは、いつかクーデターが起きると俺は睨むね。そもそも魔物との戦いが激戦化してい今この時にモンスターのヤクラを城に招くって……なんつーか、天然って怖い。
 王様は了承したのかな、と視線を送ると首が思いっきり左を向いていた。ふむ、中世の王様は根性無しで妻に逆らえない、と。おおかた王妃様に泣いて頼まれて(ついでに暴れられて)押し通されたんだろうな……まあ、ヤクラなら心配は要らないか。


 王の間から出る扉に手を掛けると王様が「ゼナンの橋に行くのなら、兵士達の補給が遅れておるので、料理長から食料を貰って持って行ってはくれないか?」と頼まれた。そういう結構重要な仕事を部外者に頼むなよと正直に言えればどれだけ人生楽しいか。


 ルッカもマールも怪我人の治療を手伝っているようで、料理長の所には俺一人で行くことにした。まあ、俺は初対面じゃないから良いけどさ、一対一で会うのも。
 大広間から騎士団の部屋とは反対に歩き、階段を下りるとそこが大食堂。大きな机が並べられて、主に兵士たちが食事を取るところなのだが、今は机に誰も向かっておらず、最初に俺が訪れた時に聞こえた兵士たちの楽しい笑い声は静寂に移り変わっていた。
 料理長に会うため、厨房に向かうとようやく声が聞こえてきた。あの料理長、根は悪い奴でもないんだが、テンションが気持ち悪いのが難点だ。



「うえっさああぁっぁ!! 餃・子! 干し・肉! に、ぎ、り、め、しいいぃぃぃい!! お待ちいいいぃいぃ!!」


 誰に話しかけているのか分からんが常に血管を浮かび上がらせて料理を作る料理長。この人料理が出来なかったらバーサーカーとして人間社会に溶け込めなかったんじゃないかと思ったのはそう遠くない過去のこと。


「あの、前線の兵士達に食料をですねー」


「おい! しい! パン!! おい! しい! パンを作るぜぇぇぇ!! そう! 俺はあの光り輝く十字星に誓いを立てた! 俺はこの両腕が動く限り食事を作る作り続けるとおおおぉぉ!!」


「いやですから王様に頼まれてですねー?」


「今俺の右手には神が宿っている! 左手が俺に叫んでいる! 俺の包丁は! 肉を切る刃物だああぁぁぁぁ!!」


 ミッション失敗。魂のステージが低いと相手にしてくれないようだ、もっとコミュ力を上げてから出直すことにしよう。
 厨房に背を向けて食堂から出て行こうとすると、後ろから雄たけびと石の床を踏みしめる荒々しい足音。「へあ?」と間抜けに声を上げて振り向けば俺よりも大きな布の包みが飛んで来た。……え? 何コレどういう事?
 包みに押しつぶされるというより押し倒された俺は腰に手を当てて目から火を出している料理長を見た。


「これを! 持ってきなっ! それから、こいつはお前にだ。持ってけ! ……それから、俺の兄貴の騎士団長、あのバカに伝えといてくれ。生きて帰って来ねえと承知しねえってな! べらんめぇ!!」


 このでかい包みを俺に向けて投合したらしい料理長が俺の顔に以前ルッカが俺に飲ませたパワーカプセルをへち当てて、何やら言いたいことを言い切った後、がに股で厨房に引っ込んでいった。


 ……現代ではルッカに苛められて裁判にかけられておまけに母親は俺に愛情を全く注いでなくて、未来では女の子の喧嘩の原因にされて妙ちきりんなロボットに頭をどやされるわ肋骨折られるわ懐かれるわ、あげく中世では両生類と魔物退治をして助けに来た王妃にボコボコにされて、今は王様の頼みを聞けば会話の出来ない料理長に数十キロの荷物を投げられて下敷きにされる。俺は前世で何かとんでもない悪事をしでかしたのだろうか? 出て来いよ前世の俺、他の誰でもない俺がその罪を罰してやる。


「……もう嫌だ、限界だ……」


 中世について早々、俺の精神は崩壊しようとしています。助けてゴッド。


 城を出るときにマールとルッカを呼びに行くと、魔力切れを起こしたマールを背負ってルッカが騎士団の部屋から出てきた。二人に感謝した兵士たちがエーテルをくれたのでそれを飲ませて少しだけ休憩する。まだ体がふらつくが時間がたてば治るというマールの言葉を信じてゼナン橋に向かった。あんまり行きたくないなあ、今俺過去に類を見ないくらいナーバスだからさ。


「戦場に行く、か。はあ……なんでこんな事になってるんだろ、今すぐ帰ってまたお祭りでも楽しみたいよな」


 俺の愚痴は二人には届かず、ふと俺だけがなあなあでこの旅を続けてるんだなあと自分を省みた。






 ゼナン橋に着くと、まさにそこは戦場だった。
 橋の中央で骸骨の魔物たちと兵士が切り結び、鎧が砕けさびた鉄の槍が肉体を貫き、動きを止めれば四方から迫る槍に串刺しにされる。死体はそのまま槍に突き刺された状態で魔物たちが楽しげに振り回している。その異常な行動を目にした兵士の一人が喉から悲鳴を吐き出し逃げ惑う。悲鳴を上げて走り回る兵士にかたかたと骨ごと剥き出しの歯を鳴らし骸骨の群れが飛び掛る。命乞いなど、耳の無い奴らには無意味だと分かっていても、自分の体が少しづつ喰われていく様を見て行わない者等いるだろうか? そんな状況は橋のそこかしこで起こっている。……が、それを助ける者などいない。一人それを見た近くで戦っていた兵士が助けようとして骸骨の群れを追い払おうと剣を振り回し近づくが、そこを後ろから貫かれて絶命する。これが一度や二度でなく確実に繰り返されたなら、誰が他人を助けようとするだろう? 優しさや人間性の問題ではない、ただただ無駄なのだ、この魔物たちとの戦いで他人を気遣うというその行為が。
 さらに気づいたこと、それはこの戦場を少しでも見ていれば分かる。魔物たちの攻撃は正確に兵士の命を奪い取ることに対し、兵士達の攻撃はほとんど役に立っていない。力を溜めて、剣の大振りを当てれば骸骨の魔物を砕くことは出来る、だが小さな隙を突いた攻撃程度では傷を与えることしか出来ない。加えて骸骨のモンスターに痛覚などあるわけが無いし、その体力は無限。これは戦いではなくもはや虐殺へとその容貌を変えていた。


「うう、血の臭いが凄い……」


 ルッカが座って、手を口元に当てその臭気に耐えていた。この光景を見て気を失ったり吐かないだけ凄い精神力だよ、俺なんか足が震えて動けそうも無い。
 マールは目を大きく開いて戦場を眺めていた。唇からは強く噛み過ぎて血が流れ、ふー、ふー、と息を荒くしていた。……怒り、なのか?


「! もしや王妃様を救ったクロノ殿ですか?」


「あ、ああ、そうです。あの、これ食料の補給を頼まれて持ってきました……」


 金色の甲冑を纏った兵士……その風貌から恐らく騎士を束ねる階級、騎士団長だろう、に声を掛けられて俺の竦んだ体が動き始めた。
 俺のまだ震えている手で渡した食料の入った包みを見て、騎士団長が「こ、これは!?」と驚きの声を上げた。


「そうですか、あいつが……クロノ殿、もし私がここで死んだならば、弟に……何事だ!!」


 俺に何かを伝えようとした騎士団長が、息を乱しながら走りこんできた兵士に大声を出した。血相を変えたその兵士は呼吸を整えることも忘れて現在の戦況を報告し始める。


「はあ、はあ、ま、魔王軍が、と、突撃を始めました! もう支えきれません!」


「弱音を吐くな! ガルディア王国騎士団の名誉にかけ、魔王軍を撃退するのだ!」


 騎士団長の激励にも兵士の士気は上がらず、涙と鼻水でまみれた顔で首を振る。


「し、しかし、もう兵の数が……騎士団長! もう、もう終わりです! 第一騎士団も第二騎士団も皆死んでしまいました! 残っているのは第三騎士団が半分以下、第四騎士団も瓦解するのは目に見えています!」


 兵士は逃げさせてくれ、もうこんな狂った場所から解放してくれと叫んでいるように見えた。
 騎士団長も戦列の立て直しは不可能だと悟り、苦々しい表情で歯軋りを鳴らす。


「ここが最後の防衛線なのだ。もう一頑張りしてくれ!」


 騎士団長はきっと分かっている。自分は兵士たちに死ねと命じているということに。
 兵士もまた分かっている。自分は死ねと言われていることに。
 枯らした声で、足も震えて、鎧も兜も剣もボロボロで、戦いに耐え切れそうも無い装備で、ぐしゃぐしゃになった顔を振り、兵士は「分かりました」と応えた。
 ……何でだ? 逃げればいいじゃねえか、今戦いに行っても勝てるわけねえのに……


 よたよたと死地に向かう兵士を見送り、騎士団長は俺たちを見回して、兜を脱いだ。……なんだ? まさかあんた……


「クロノ殿、そして御仲間の皆様。どうか、どうか我々に力を貸してくださいませんか? どうか私の部下を助けてくださらんか?」


「言われなくてもそのつもりよ! クロノ行こう!」


「武器の類は効かなくても、私達には魔法があるしね。それでも油断はしちゃ駄目よ二人とも!」


 騎士団長の頼みに二人は自分を鼓舞させて戦いに挑もうとする。
 ……お前ら、本気なのか? それ、冗談とかじゃないんだよな?
 俺がいつまでたっても動かないことに二人が不思議そうな顔をする。不思議なのはお前らだよ、ふざけるな。


「クロノ殿……? あの、どうか」


「……冗談じゃねえ」


「……? あの、今なんと?」


「冗談じゃねえって言ってるんだよ!」


 俺の出した大声に騎士団長はたじろぎ、ルッカとマールはどうしたのかと驚いて俺を見る。だから、俺からすればお前らの行動に驚いてるんだよ。


「俺たちにはここの橋がどうなろうと関係ない! そりゃあ可哀想だと思うし同情もするけどさ、騎士団長さんの部下がどうなろうと俺たちには関係ないんだよ! それに、ここに食料を持ってくる時も思ったけど、俺たちは一般人なんだよ! 本当、いい加減にしろよな、俺たちを巻き込むなよ! 俺たちはこんな戦争なんかで死にたくないんだよ!」


 そりゃあ、今までだって死ぬ危険がある時はいくらでもあった。王妃捜索の時だって、刑務所内での戦いでも、未来で巨大マシンと戦ったときも死ぬかもしれないと思ったさ。でも……今回は間近で見せられた。死ねばどうなるのかをじっくりと見てしまった。こんなの戦えるわけがない、俺たちに魔法の力があるからって他は普通の人間なんだ、まだ子供なんだ、あいつらの槍に刺されたら死んじまうんだ! だから……


 パァン! と音が響き、俺の頭が強制的に捻られる。頬が火傷したみたいに熱い。思わず掌を当ててみれば、痛みが顔中に広がり、そこでようやく俺は叩かれたのだと気づいた。


「俺たち俺たちって、勝手に私を入れないでよクロノ。少なくとも私は関係ないとは思わないし、巻き込まれて迷惑とも思わない。私たちだってこの橋が魔王軍に占領されたら、この旅が終わっちゃうんだよ?」


 マールが俺を睨んでいる。その顔は、現代で城を飛び出したときに国王に向けていた敵意の顔。今までマールには色んな顔を見せられた。笑顔にむくれた顔、悲しい顔に裁判のとき見せた泣き顔。でも、こんな風に敵意を見せたことがあったっけ?


「クロノはこの戦いを見て何とも思わないの? 私たちに力が無いなら、それでいいかもしれない。でも私たちには時の最果てで得た力がある! 私たちなら戦えるの、ううん、私たちだからこそ戦えるの! あの人たちを殺させないですむんだよ!? クロノは……クロノはそんな自分勝手なことを言って、恥ずかしいとは思わない!?」


 ……段々腹が立ってきた。何でそんなに責められなきゃいけないんだ、俺は間違ったことなんて一つも言ってない。別に俺は力なんて欲しいと思っちゃいなかった。そもそも、この旅の目的にだって俺は納得してないんだ、それを……!


「この旅が終わる? 清々するね、最初から未来を救うなんて大言壮語には嫌気が差してたんだ。元々マールの我侭で始まった旅なんだ、この辺で止めてもいいんじゃないか? どうせ王女様の遠足感覚で切り出しただけなんだろうが!」


 マールの顔が蒼白になり息を呑む。ルッカもおどおどと俺とマールを見比べてどうしようと悩んでいる。マールに叩かれて口が切れたので、口内の血を地面に吐き出す。その唾液交じりの血液が地面にへばりついた途端、マールが突然目を怒らせて俺の襟首を掴んだ。


「遠い未来のことだから自分には関係ない? 未来のことは未来? 賢いんだねクロノ、保身第一な考えって楽だもんね! 遠足感覚? 馬鹿にしないでよ、私はちゃんと考えてる! 頭が悪いからあんまり意味無いって思うかもしれないし、関係ない人たちも助けようとする馬鹿って言われてもいいよ! だったらクロノは助けられる力を持っていても使わない、場の雰囲気に怖がっちゃったただの臆病者じゃない!」


「……! お前なんか……」


 場の雰囲気に怖がった? ああ確かにそうだよ、そこらに死体が転がってる今のこの状況が怖くて仕方ないよ、だからってわざわざ指摘するか普通? ふざけるなふざけるなよこの女!!


 ──どこかで冷静な自分が止めろと叫んでいる。


 マールに襟首を掴まれたまま俺は右手の拳を握り持ち上げる。


 ──俺は何をしようとしている? 俺は何を口にしようとしている? それは駄目だ、それは決定的になってしまう。たとえどちらを彼女に放っても。


 俺が何を言おうとしたか分かったルッカが俺の言葉を遮ろうと言うな、と大声で叫ぶ。
 俺が何をしようとしたか分かった騎士団長が俺の右腕を抑えようと両手を伸ばす。
 でも、それらは全て間に合わなかった。


「助けるんじゃなかった!!」


 俺が振りぬいた拳はマールの綺麗な顔に当たり、彼女はその大きすぎる心とは正反対の軽い体を地面に横たえた。


 ──もう、戻れないや。


「マール!」


 絹を裂くようなルッカの悲鳴で、俺は我に返った。マールは信じられないような顔で俺を見上げて、騎士団長がその体を起こして立たせる。……違う、俺は、こうなりたくて今まで戦ってた訳じゃない。だからそんな目で見るな。


「クロノ殿、貴方の助けはもう必要ありません。勿論恨みもしませんので、どうぞお引取り下さい」


 言葉は礼儀を形作っていたが、俺を見る視線には軽蔑という悪意しか見られなかった。騎士団長の言葉に何も言えないでいると、今度は立ち上がったマールが俺を通り過ぎて橋の入り口に立つ。走り出す直前、聞かせるつもりはなかったのかもしれない小さな声が、風に乗って俺に届いた。


「……もう、クロノの友達になんか、なりたくないよ」


 走り去るマールの背中はもう震えていない。足もしっかりと前に動き出せているし、手を大きく振って少しでも早く兵士達の下に向かおうとしている。
 ……ただ、彼女が俺に聞かせた最後の声は、震えていて、聞く者の胸を締め付けるものだった。
 続いて立ったまま動き出さない俺を一瞥して騎士団長がマールの後を追う。
 最後に、両腕を胸の真ん中に置いたままルッカが俺に歩を進める。どうせ呆れてるんだろ? 罵声の一つも浴びせればいいじゃないか。
 俺の考える、いや、望む反応をルッカはせず、俺と同じようにただ俺の前で立っているだけだった。
 何をやってるんだよ、と怒鳴ろうと顔を上げれば、ルッカは泣くでもなく、怒るでもなく、ただ微笑んでいた。それは……いつ頃以来だっけ? そんなに優しい顔をしたのは。
 俺が何か喋ろうと口を動かせば、ルッカはいつも通り、いやそれ以上に感情の見えない顔で俺を見据えていた。


「もしかしたら、これがあんたに見せる最後の笑顔になるかもしれないから……でも本当は……待ってる」


 それはこれから先俺に笑顔を見せるつもりなど無いという意味か、この戦いで死ぬかもしれないという暗喩なのか……両方なのか。最後の言葉の意味は? 俺が聞きだす前に、ルッカもまた俺が逃げた戦場の中に走っていった。


「……俺は……間違ってない、はずだ」


 誰だって死ぬのは怖い。歴戦の戦士だとか、何かの悟りの境地に至ったとかなら分かるさ。でも俺はつい最近まで命のやり取りなんかしたことなかったんだぜ? 今まで潰れなかっただけ俺は凄いじゃないか、偉いじゃないか。マールもルッカも褒めろよ、俺を褒めてくれよ。
 ……あれ、俺ってマールとルッカを褒めたことあったっけ?
 助かったとか、サンキューとか、凄いなお前とか、戦闘で活躍したときとかに感謝したり褒めたりしたことは何回かあったと思う。でも、命を賭けて戦うなんて凄いなあなんて言ったか? 言うわけないよな、俺だってそうだったんだから。でもそれなら逆説的に言って、


「……あいつらが俺を褒めてくれるわけ、ないよな」


 一人思考に没頭していると、いつも曇り空だった中世の空が泣き出して、俺の体を責め立てる。いいぞ、そうして俺を責めてくれるなら俺は俺の罪悪感を薄れさせることができるんだから。
 ああ、でもこの雨はあいつらの体にも降り注いでいるはず。なら結局あいつらは俺を褒めてくれない、慰めてくれない。どうすればあいつらは俺を認めてくれるだろうか?


「……もうマールは、俺と友達になってくれないのかな?」


 あんなに明るく楽しそうに笑う子なんて、俺の周りにはいなかったなあ……
 雨が降ってぐずぐずになった地面に寝転がる。気持ち悪い感覚だけど、これはこれでいい。
 俺は目を閉じて、マールが俺に笑いかけてくれた記憶を思い返すことにした……








「騎士団長! ボスクが、俺の部下が!」


「落ち着け! 冷静さを失うことが戦場では命取りだと教えただろう!」


 騎士団長さんが恐慌状態の兵士の皆に声を掛けるけど、効果は薄い。多分だけど、今回みたいに本格的に魔王軍と戦うのは初めてなんだと思う。小競り合いは頻繁に、けれど総力戦は極力避けていたのかな。
 私は息のある人たちに回復魔法、ケアルをかけて戦場に復帰させる。本当は後方に待機させたいんだけど、皆自分からまた剣を取り戦おうとする。ルッカは先頭に立って炎で骸骨達を焼き払う。あいつらは魔法の力に極端に弱く、裏山のモンスターたちと変わらないくらいにあっさりと倒していった。
 私も治療の合間に攻撃魔法アイスを骸骨の群れに叩き込むけれど、ルッカ程の威力が無い私の魔力を攻撃に回すよりも回復に専念しなさいとルッカが炎を撒き散らしながら言う。あいつらに手を下せないのは悔しいけれど、私は私の出来ることをする!
 ……ただ、何でだろうか? 兵士の皆が前衛として戦ってくれてるのに、今までに無い数の仲間がいるのに、どうしても前衛の壁が薄く感じてしまう。
 その疑問の答えを私は捨てた。その度また心許なさを全身で感じてしまう。
 口ではなんと言おうと、彼は強かった。彼自身は「俺ってこのメンバーに必要?」と皆に聞いてしまうくらいだから強いとは思ってなかったんだろうけど、彼がいればどんな敵にも勝てる気がした。
 未来では途中で抜けた私だけど、大きなミュータントや暴走した機械たちが私たちを狙って大勢現れても、視線の先に彼がいるだけで、彼が刀を抜くだけで負けるわけがないと無意識に感じていたのだ。
 巨大マシンとの戦いでもそう、彼一人を残してルッカの治療に専念したのは、彼ならどんな相手でも勝ってしまうと思っていたからだ。
 ……私自身が気づかないうちに、私は彼のことを……


「ヒーローみたいに……思ってたのかなぁ……」


 治療中の私を守る声が辺り一帯に聞こえる。でも、どれだけ声が重なろうと、私の背中の寂しさを消すことはできない。








 モンスターたちが兵士をターゲットから外し、私に狙いを集中して襲い掛かってくる。骸骨たちの持つその槍が私やマール、兵士達全員に届く前に燃やしてればまあ、当然かしらね。
 結構な数の魔物を焼いたとはいえ、まだまだ敵の戦力は残っている。私はメンバーの中でも一番魔力量が多いため、まだ戦っていられるが、このペースでは尽きるのも時間の問題。しかし、怪我人は増える一方の状況でマールに回復と攻撃を両立して行えというのは酷過ぎる。


「ちっ! ロボがいれば一発で消せたかもね!」


 ──本当に? 本当に私が望むのはロボなの?
 ……一々うるさい、分かってるわよ自分の考えなんだから。
 ふと浮かんだ思考に一人で噛み付く。ああ、疲れが溜まっておかしくなったのかしら? そう思いながらも私は手を休めず詠唱を続けてファイアを唱える。急いで唱えた呪文に、私の魔法の威力じゃ一度に四匹くらいが限度か……それ以上は巻き込んでもダメージはそれほど与えられずにまた襲い掛かってくる。
 ……あいつがいれば、単身敵陣に切り込んで場を引っ掻き回したりするんでしょうね。
 そうすれば私は落ち着いて練った魔法を唱えられるし、兵士達に攻撃も行き辛いでしょうからマールも攻撃に参加できる。なんならあいつの武器に電撃を纏わせる技を兵士達の武器にかければかなり戦局は動くはず……


「……いない人間を当てにするとは、ルッカ様も落ちたわね!」


 炎を走らせている内に、目に見えて力が弱まっているのが分かる。短い間隔での連続魔法詠唱、精神集中だってモンスターたちの攻撃を避けながらじゃ落ち着いて出来るわけがない。
 ……だから? それがどうした、私はルッカだ。相手がモンスターの軍勢であろうが魔王であろうがロボ風に言えばそれこそ運命をつかさどる神様だったって私を負かすことは出来ない、私が負けるのはこの数ある時代の数ある世界の中で唯一人。


「さっさと立ち上がれってのよ……あの鈍感ツンツン頭が……!」


 戦局は劣勢、攻撃も回復も追いつかないこのゼナン橋防衛戦。人間達は思い思いの感情を抱くが、統括すればそれは絶望と呼べるものだった。


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