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No.17259の一覧
[0] 【FFT】The Zodiac Brave Story【長編】[湿婆](2012/09/07 19:24)
[1] 序章[湿婆](2012/10/10 10:28)
[2] 第一章 持たざる者~1.骸の騎士[湿婆](2012/09/07 18:45)
[3] 第一章 持たざる者〜2.遺志を継ぐ者[湿婆](2012/09/12 02:41)
[4] 第一章 持たざる者~3.牧人の村[湿婆](2012/09/07 18:46)
[5] 第一章 持たざる者~4.獅子と狼・上[湿婆](2012/09/07 18:48)
[6] 第一章 持たざる者~5.獅子と狼・下[湿婆](2012/09/07 18:50)
[7] 第一章 持たざる者~6.蛇の口にて[湿婆](2014/09/17 09:45)
[8] 第一章 持たざる者~7.急使[湿婆](2012/09/07 18:53)
[9] 第一章 持たざる者~8.さすらい人・上[湿婆](2012/09/07 18:54)
[10] 第一章 持たざる者~9.さすらい人・下[湿婆](2012/09/12 02:41)
[11] 第一章 持たざる者~10.隠れ家[湿婆](2012/09/07 18:55)
[12] 第一章 持たざる者~11.疑心の剣[湿婆](2012/09/11 18:57)
[13] 第一章 持たざる者~12.忠心[湿婆](2012/09/07 18:56)
[14] 第一章 持たざる者~13.将軍直命[湿婆](2012/09/07 18:57)
[15] 第一章 持たざる者~14.形見[湿婆](2012/09/07 18:57)
[16] 第一章 持たざる者~15.家の名[湿婆](2012/09/07 18:58)
[17] 第一章 持たざる者~16.革命の火[湿婆](2012/09/07 18:59)
[18] 第一章 持たざる者~17.白雪・上[湿婆](2012/09/07 19:00)
[19] 第一章 持たざる者~18.白雪・下[湿婆](2012/09/07 19:00)
[20] 第一章 持たざる者~19.花売り[湿婆](2012/09/07 19:01)
[21] 第一章 持たざる者~20.記憶の糸[湿婆](2013/01/14 19:07)
[22] 第一章 持たざる者~21.関門[湿婆](2012/09/17 21:38)
[23] 第一章 持たざる者~22.闘技場[湿婆](2012/09/07 19:04)
[24] 第一章 持たざる者~23.ドーターの乱[湿婆](2012/09/07 19:06)
[25] 第一章 持たざる者~24.取引[湿婆](2012/09/18 20:10)
[26] 第一章 持たざる者~25.指令書[湿婆](2012/09/19 21:39)
[27] 第一章 持たざる者~26.来客・上[湿婆](2012/09/07 19:08)
[28] 第一章 持たざる者~27.来客・下[湿婆](2012/09/19 23:22)
[29] 第一章 持たざる者~28.三枚の羽[湿婆](2012/09/07 19:10)
[30] 第一章 持たざる者~29.正邪の道[湿婆](2012/09/07 19:13)
[31] 第一章 持たざる者~30.再─獅子と狼・上[湿婆](2012/09/07 19:14)
[32] 第一章 持たざる者~31.再─獅子と狼・下[湿婆](2012/09/09 07:30)
[33] 第一章 持たざる者~32.勘[湿婆](2012/09/23 13:11)
[34] 第一章 持たざる者~33.自惚れ[湿婆](2012/10/10 16:11)
[35] 第一章 持たざる者~34.兄弟と兄妹[湿婆](2013/06/08 04:54)
[36] 第一章 持たざる者~35.噂[湿婆](2014/06/22 22:42)
[37] 第一章 持たざる者~36.死の街[湿婆](2014/06/22 22:41)
[38] 第一章 持たざる者~37.ベオルブ来る[湿婆](2015/05/16 07:24)
[39] 第一章 持たざる者~38.再─骸の騎士・上[湿婆](2016/06/02 14:07)
[40] 第一章 持たざる者~39.再─骸の騎士・下[湿婆](2016/06/02 14:07)
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[17259] 第一章 持たざる者~6.蛇の口にて
Name: 湿婆◆3752c452 ID:470354c8 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/09/17 09:45
 ギュスタヴ一派の動きは、なかなかに迅速であった。
 ガリランドに駐屯していた北天騎士団治安維持部隊の陽動に成功すると、ゴラグロス率いる実働部隊は直ちに計画を実行に移した。
 彼らの目標は、すなわち、ガリランド都督マットパス・バラフォム卿その人の身柄であった。
 市街区の建物に次々と火を放ち、警邏の兵の目をそちらに引き付けながら、ゴラグロス以下十名ほどの工作員は、目に付きにくい裏路地を縫うようにして、都督府の建物を目指し、最短の距離を駆けていった。事前に、ガリランド市街区の地図は、完璧に彼らの頭の中に入っていたのである。
 そして、目標の都督府の門前までは難なくたどり着いた。衛兵をすばやく黙らせると、工作員は次々と塀を乗り越え、都督府の内部に踏み込んだ。
 突然の来客に慌てふためく政務官や雑用係には目もくれず、ゴラグロスは、最上階にある執務室前に来ると、その両開きの扉を勢いよく蹴破った。
 ──が、正面の執務机には誰もおらず、広い室内を見回しても、都督らしい姿は無かった。
「ちっ、勘づかれたか?」
 室内の箪笥や調度品の影を調べても、抜け道や隠れ場所は見出せない。間もなく、都督府内の他の部屋を捜索していた部下たちも戻ってきて、
「目標は見当たりませんでした」
 と、報告してきた。
 執務室の長窓の外を見やると、北天騎士団の兵舎あたりから、すでに緊急を知らせる赤い狼煙が立ち昇っていた。誘き出した北天騎士団の部隊が戻ってくるのも、はや時間の問題かと知れた。
 ゴラグロスは踵を返すと、
「退くぞ!」
 と一言、駆け足で執務室を出て行った。階段を降りながら、ゴラグロスは考えていた。
 事前に計画が知られていたとは考えにくい。そうであれば、北天騎士団が総出で失踪したキャラバン隊の捜索に向かうことはなかったはずだ。
 ギュスタヴの誘き出しは、完璧だった。
 朝のうちに、街道付近に骸旅団が出没しているとの噂を流布し、工作部隊の手によって、コロナス河に掛かる橋を落とす。これにより、キャラバンの大隊を足止めし、本当に大勢の骸旅団が現れ、キャラバンを襲撃したかのように見せかける。
 ガリランドに駐屯する北天騎士団の頭数もあらかじめ調べてあり、ギュスタヴは、おそらく外の騒ぎの鎮圧に兵員のほぼ全てを差し向けるだろうと予測し、結果、見事にガリランドは手薄となった。
 そして、都督誘拐というもっとも肝心なところは、ゴラグロスら腹心の同志に任せたのである。
「北天騎士団は、我らの殲滅に必死になっている。陽動は上手くいくとは思うが、それでも作戦実行に多くの時間は割けない。ぬかるなよ」
 そういって別れたギュスタヴ本人はといういと、彼は陽動部隊の方の指揮に当たっていた。こちらの数を合わせても、作戦実行に関わったのは、せいぜい三十名ほどであった。
「やはり、そう上手くはいかないか」
 ゴラグロスは、口惜しげに都督府の建物を見上げながら独りごちた。
「すまないな。ギュスタヴ」
 ギュスタヴの紡ぎ出す作戦は、いつも一糸の綻びもないものであった。それを自分の不手際によって破綻させてしまった。ゴラグロスの自責の念は、相当なものであったに違いない。
 しかし、今回の件については、完全に彼の運がなかったというほかない。
 骸旅団の進退を賭けた「要人誘拐作戦」であったが、今回彼らの標的の一人となったマットパス・バラフォム卿はというと、彼はこの日に限って、たまたまガリランド王立魔法学院で開かれた魔法学会の最中にあり、難を逃れえたのは、まさに不幸中の幸いといえた。
 都督がようやく事態を把握した頃には、すでにガリランド市内の騒ぎは鎮静に向かいつつあった。
 北天騎士団治安維持部隊も戻ってきて、アルマルク指揮のもと下手人の捜索が行われたが、この時にはもう後の祭りであった。


 この顛末を見ても、失敗に終わったとはいえ、骸旅団の少数精鋭による疾風迅雷ぶりに比べて、ガリランドの軍事行政の鈍は、目に余るものがあった。
 ──が、この騒ぎの中で、ささやかな活躍を見せた者もあった。
 ガリランド王立士官学校の、士官候補生たちである。
 事件当時、彼らは訓練の真最中であったが、アロー戦線還りの鬼教官として知られるボーアダム・ダーラボンの指示で、警邏部隊が対応に移るよりも早く、すでに独自の行動をみせていた。
 まずは混乱する市民を屋内に非難させ、次に市内の要所要所に即席のバリケードを築き、襲撃に備えた。あちこちに上がっていた火の手に対しては、黒魔道士見習いたちが水魔法で消火にあたり、被害の拡大を防いだ。
 さらには、計画が失敗に終わり、撤退に移った骸旅団の工作員数名を、彼らの手によって捕らえていた。
 ようやく厳戒態勢が解除されたのち、その捕虜を連れて、ダーラボン教官と数名の士官候補生は、北天騎士団治安維持部隊の兵舎を訪れていた。
「本当に、よくやってくれた」
 骸旅団の捕虜を牢に入れ終えると、アルマルクはダーラボンに向かって慇懃に礼をいった。彼なりに、負い目に感ずるところもあったのだろう。
 キャラバン隊捜索時、彼がコロナス河方面へ偵察に遣った騎士が「街道途中の橋が落とされており、キャラバン隊は、北へ大きく迂回するを余儀なくされている」と報告してきたのは、ガリランド襲撃が知れた後だった。彼らは、まんまと敵の陽動に引っかかったことになる。
「なんのなんの、我らはガリランド市民として当然の行動をしたまでです」
 ダーラボンは、アルマルクの姿勢に対し、あえて謙遜して言った。
「しかし、このひよっこどもは本当によく働いてくれました。特に、ここにいる二人は、勇敢に戦い、みごと賊を捕らえてご覧にいれました」
 そういうと、ダーラボンは、彼の後ろに控えていた二人の若者を差し招いた。二人は、ぴんと背を伸ばしたままアルマルクの前まで来ると、握り拳を胸にあて、北天騎士団の作法に習って敬礼を施した。
 アルマルクはそれに応え、改めて二人の若者の顔を見た。
「ガリランド王立士官学校騎兵科所属、ディリータ・ハイラル」
 まず名乗った方は、名門貴族の子らの集う王立アカデミーには似つかわしくない、野性味みたいなものを感じさせる風貌の持ち主であった。美男ではあるが、膚は浅黒く、眼(まなこ)には、なにか容易に人を寄せ付けぬものがある。
「同じく、ラムザ・ベオルブ」
 対してこちらは、一見して貴族の子息と分かる気品を漂わせている。名門ベオルブ家の名を聞かずとも、それなりの家に生まれついた身であろうことは、その容姿から想像できる。長いブロンドを結い、武家の子にしては柔和な面立ちをしている。しかし、その碧眼に緩みはなく、確固たる意思を感じさせるものがある。
「ほう、君は、あのベオルブ家の」
 アルマルクは、ラムザの顔を見ていった。彼の胸には、つい先日の悲報があった。
「亡きバルバネス公は、世に二つとなき英雄であらせられた。謹んでお悔やみを申しあげる」
「……は」
 アルマルクの弔辞を受けて、ラムザの眸が、心なしか揺れた。
「父は星に召されましたが、その遺志は、私とともにあります」
 が、ラムザは気丈にも、そう答えた。
「それに、私には、優秀な兄たちと、愛する妹、そして──ディリータという頼もしい友があります」
 ラムザがそういうと、その言葉の端に何を思ったか、傍らにいたディリータは、ふと、その表情を綻ばせた。
「これは、なんとも頼もしい。さすがは白獅子の子よ」
 アルマルクはそういって頷くと、再び敬礼を施した。
「異国の将来は、君たち若者の肩に掛かっている。これからも励んでくれよ」
 二人は無言でそれに応えると、ダーラボンの後ろに下がった。
「では、我らはこれにて」
 他にもいくつかの報告を終えたあと、ダーラボンと士官候補生は、兵舎を去っていった。
 ──これで、ひとまず一難は去った。
 しかし、捕虜の尋問から分かった今回のガリランド襲撃の目的は、アルマルクの肝を冷やすのに十分であった。
 彼は、早速、イグーロスの総司令部に遣いを送って、事件のあらましを報告した。
 この時すでに、ガリランドの北天騎士団治安維持部隊には、イグーロスのザルバッグ将軍から、新たな指令が下っていた。
 その内容はというと、
「近日、ガリオンヌ領主ラーグ公爵と、ランベリー領主エルムドア侯爵が、会談のため、非公式にガリランドを訪問する由。万一の事態に備え、至急ガリランド、及びその周辺の警戒を厳にせよ」
 とのことであった。
 非公式会談とはいえ、この機を骸旅団が逃すはずがない。
 そう懸念し、アルマルクは、骸旅団が"要人誘拐"という暴挙に打って出たこと、首謀者は今だ逃走中であることを踏まえ、イグーロスに対し、増援の急派を求めたのである。
 イグーロスからの返答は、一日を待たずして届いた。
 すなわち、
「警備の補強要員として、さらに百騎を増派する。また、捕虜に関しては、全員をイグーロスに護送せよ」
 との追命であった。
 捕虜とは、今回の事件で捕らえた工作員数名と、コロヌル村に潜伏していた二十数名のことである。皆、同様に北天騎士団の兵舎の獄に繋がれ、処断を待っているところであった。
 直ちに処刑せよとの厳命ではなかったことに、アルマルクは、ひとまず安心した。
「が、おそらくは……」
 彼は、コロヌルで捕縛したレッドという騎士と、彼らを匿った牧人たちのことを、ふと、思い出していた。
「私としたことが……情が移ったとでもいうのか?」
 そう独りごちて、アルマルクは自嘲した。もはや、彼らに情けを掛ける余地はない。彼らは、追い詰められたあげく、ついに"人攫い"という人の道に外れた行為に及んだのである。この罪に対しては、極刑を以って臨まなければ、民への示しがつかない。彼自らの手を汚さずに済んだだけでも、幸いとせねばなるまい。
 その捕虜の護送であるが、新たに百騎の増援があるとはいえ、警戒に当たる兵をそちらに割くわけにもいかなかった。
(どうしたものか)
 と、思案しているうちに、彼は先日の士官候補生に思い至った。実戦訓練として、彼らを護送任務に就かせてはどうか、と考えたのである。非常時に士官候補生を駆り出したという前例も、戦時には無くはない。
 早速、アルマルクはダーラボン教官に、この案を持ちかけた。
 ダーラボンは、
「うむ、学長に掛け合ってみよう」
 と承諾し、間もなく許可は下りた。そして、ラムザ・ベオルブが護送部隊長に任命され、以下、十数名の有能な士官候補生が、任務に当たることとなった。その中には、ディリータ・ハイラルの名もあった。
「なにせ皆若いからな。捕虜に舐められはせんかの」
 ダーラボンは、鬼教官らしからぬ心配な目で教え子たちを見ていたが、
「ご心配なく。家に帰るつもりで行って参ります」
 と、ラムザは頼もしげな笑顔を見せ付けていった。


 出発日の早朝、ラムザとディリータ、以下士官候補生の十数名は、北天騎士団治安維持部隊の兵舎に来ていた。
 兵舎の前には、すでに数名の捕虜が数珠繋ぎにされて、護送車の到着を待っていた。
 彼らの扱いは、さほど酷いものではなかったらしく、皆、それなりに血色の良い顔をしていた。
 ──が、最後に引っ立てられてきた男だけは、なにか、様子が違っていた。
「おい、しっかり歩かんか!」
 ふらつく歩みに手こずって、長身の男を引き連れる騎士は、そう言って、強引に手枷の紐を引っ張った。騎士になされるがまま、男はへたり込むようにして、数珠に加わった。
 男は、他の捕虜たちと同じく、黙然と座していたが、ふと、その顔を上げて、ラムザの方を見た。
「……?」
 ラムザも、その男の視線に気づき、目をそちらに向けた。
 垢で黒ずんだ顔はやつれ、髭も髪も伸び放題になっていたが、ラムザには、その男の顔に見覚えがあった。
 二人はしばらく無言で視線を交わしていたが、男は口元を少し歪めて、面を伏せてしまった。
「護送車が来たようだな」
 ディリータが、そういったのを聞いて、ラムザは視線を戻した。
 護送車は、二頭のチョコボに牽かれて来た。
 護送車といっても、荷車の荷台に日差し避けの屋根が取り付けられたような簡素なもので、捕虜の二十名あまりは、その狭い空間に無理矢理詰め込まれる形となった。
「牛乳瓶以下の扱いだな」
 すし詰めにされた捕虜たちの様を見て、ディリータが皮肉めいたことを口ずさんだ。ラムザは、ディリータが、どういうつもりで、そういう言葉を口にしたのかは分からなかったが、あまりいい気分はしなかった。
「彼らも人間だ」
 ラムザがそう言うと、
「当然だ」
 と、ディリータは無表情で答えた。
「が、これが敗者の姿だ」
「…………」
 ラムザは、初の実戦訓練に意気込む反面、この任務の内容に、どこか受け入れがたいものを感じてはいた。
 自分に与えられた責務であることは理解していても、それが、はたして正義を為すことなのかどうかは、割り切れずにいた。
「気負うことはないさ」
 ディリータは、ラムザの肩に手を置いていった。
「僕らの任務は、捕虜を無傷でイグーロスまで護送すること。それだけだろう?」
「わかってるさ」
「君は優しすぎるんだ。敵は情けなんてかけてくれないぜ?」
 ──知った風なことを
 と、言いたい気持ちを微笑みのうちに押し込めて、ラムザは、「ああ」と、一言だけを返した。
 ディリータの、こういう現実的なものの見方は、学ぶべきところなのかもしれない。
 ラムザは、護送部隊の先頭に立つと、出発の号令を発した。
 護送車がガラゴロと動き出し、それを取り囲むようにして、士官候補生たちが歩みを進める。
 ラムザを含め、皆、正式に騎士に叙任される前の、「見習い騎士」という身分であった。
 が、その装備を見ると、剣に弓、杖、さらには、武器らしいものは何も身につけていない者など、さまざまである。
 ──イヴァリースの軍隊の戦術概念には、"専門職(ジョブ)" というものがある。
 各々に、剣術、射術、魔術、工術など、自分のもっとも得意とする戦術を持っており、「騎士」に叙されて初めて、それぞれの専門職(ジョブ)として、さらに上級の技術を身につけていくというのが、この国の戦士の、一般的なキャリアの積み方である。
 この護送部隊をざっと見ても。

 ──剣術(主に剣による近接戦闘術)を得意とする、ラムザ、ディリータ、ラッド、アレックス
 ──工術(アイテムによる後方支援術)を得意とする、リリアン、ジョセフ、ニール
 ──射術(弓、弩による遠距離戦闘術)を得意とする、イザーク、カマール、イアン
 ──魔術(魔法による遠距離戦闘・支援術)を得意とする、フィリップ、ローラ
 ──闘術(体術による中近距離戦闘術)を得意とする、ポポ

 といった具合に、実に多岐に渡っている。これらのジョブをバランス良く組み込むのが、必然、良い部隊編成の条件となってくる。
 これらのジョブの多くは、近代以降の武器の進化によって、ほとんど失われてしまうのであるが、当時の戦士たちにとって、己のジョブを極めることは、その者の生き甲斐といっても差し支えないものであった。
 ──さて、話を元に戻して。
 一行は、ガリランドの北門を出て、フォングラード街道を北へ指して行った。
「暑いな」
 ラムザは、小手で額に滲む汗を拭っていた。
 季節は、もうすっかり夏であった。
 南中にさしかかった太陽が、容赦なく大地を灼(や)いていた。西部の平野には木陰も少なく、それだけで、辛い行程だった。
 間もなく、フォングラード街道は二手に分岐し、一方は、サドランダ街道へ接続する枝道、もう一方は、そのまま北上し、レナリア台地を抜け、フォボハム領へと続いている。
 護送団は、ここで枝道の方に入り、西へ針路をとった。
 ラムザの計画では、今日中にこの枝道を抜け、夕方には、サドランダ街道沿いの宿場街に入ることになっていた。まともな寝床が得られそうなのはそこだけで、宿場を出てからは、イグーロスまで、しばらく人家もろくにない道が続く。
 春の終わりに、父を見舞いにイグーロスへ帰った時は二日もかからなかった道も、護送車を牽いてゆく此度の旅路は、遅々として進まなかった。
 そのうえ、この暑さである。
 ラムザは、護送車に押し込まれた捕虜の体調を気遣って、ちょくちょく足を止めた。
「イグーロスに着くまでに、全員ミイラになられたら困るからな」
 ラムザは、水筒を捕虜に手渡しながら、そんな冗談を言った。捕虜はたちは、たった一つの水筒を廻して、各々に口を濡らした。
 ただ一人、例の男だけは、水筒に口をつけようとすらしなかった。
「大丈夫なのか?」
 と、ラムザが訊いても、男は何も答えず、別の捕虜が、
「北天騎士団の牢屋にいるときから、あの調子だ。言うだけ無駄さ」
 と、言ってきた。
「…………」
 男は目を閉じて、眠っているのか、じっとして動かない。ラムザはひとつ溜息をついて、再び出発の合図を発した。
 やがて、辺りがどっぷりと暮れた頃。
 ラムザは目前に、宿場街のわずかな灯りを見出していた。
 少し進むと、やがて、見張り小屋付のこじんまりした門が現れた。
「僕が行ってこよう」
 といって、ディリータが見張り小屋に走っていった。
 小屋の中には、この宿場の自警団の者らしき中年の男がいて、屈強そうな体躯をもてあましていた。
「我らは、イグーロスのザルバッグ・ベオルブ将軍の命により、骸旅団の捕虜を護送中の部隊である。開門を求める!」
 というと、見張りの男は、ディリータの顔を見てから、小屋の窓から身を乗り出し、外の様子を伺った。
「あの車に、捕虜が乗ってんのかい?」
 護送車のほうを見ながら、見張りの男が訊いた。
「そうだ」
「へえ、そいつはいい」
 男は再びディリータのほうへ視線を戻すと、不敵な笑みを口元に浮かべた。
「ずいぶん若い騎士さんだな」
「騎士ではない。ガリランド王立士官学校の士官候補生だ」
「ほう、貴族のお坊ちゃま方が、また、どうしてこんな所に」
「北天騎士団は骸旅団の殲滅作戦中で、どこも人手が足りてないんだ」
「へえ、そうかい。前に、この宿場が骸旅団に襲われた時は、北天騎士団の方々は、いらっしゃらなかったがねえ……まあ、人手不足なら致し方あるめえか?」
 男はそういって奥へ引っ込むと、やがて、ギシギシと音を立てながら、門が開き始めた。
「すまない」
 戻ってきた男に、ディリータは礼を言った。
「"蛇の口"へようこそ。酒と女は上等だが……どっちもほとんど残ってねえな。盗賊の連中はいい見せモノになるぜ」
「…………」
 ディリータは何も言わずに小屋の前を離れると、護送団の後に続いて、門をくぐった。
 見る限り、宿場街としては大きい方である。が、閑として活気がない。 
 ここでいったん、捕虜たちは護送車から降ろされ、手頃な空家にまとめて収容された。
 ラムザは、数名を見張りに立たせ、残りの者には休息をとるよう言い渡した。
 で、彼自身はというと、空になった護送車の荷台に腰掛け、何やら思案に暮れていた。
 ──間もなく、夜は更けて。
 そこには、空家の内に入っていくラムザの姿があった。
 見張り役の者は、彼の行動を訝しんだが、ラムザは気にも留めず、照明用の蝋燭の弱い光を頼りに、人いきれのする、暗い室内を見回していた。
 捕虜たちは、手枷をつけられたまま、深い寝息を立てている。その中に、あの男が、部屋の隅っこで、じっと頭(こうべ)を垂れている。
 ラムザが、その男の傍に腰を下ろすと、その気配に気づいたのか、男は僅かに面を上げた。
「あなたは……レッド?」
「…………」
 男は目を伏せ、何も答えない。が、この男は、マンダリアの古砦で出会った、あの、ミルウーダという女騎士とともにいた者には、違いなかった。
「あの女騎士──ミルウーダは、どこへ?」
 マンダリアでの一件以来、ラムザは心のどこかで、かの女騎士の行く末を気にかけていた。
 本来ならば、敵となすべき相手と結び交わした、あの手のことを、彼は忘れてはいなかった。
「君には……感謝している」
「え……?」
 途切れ途切れに、ようやくレッドの口から洩れた声は、しかし、ラムザにとっては意外な言葉であった。
「あの時……我らは……かけがえのないお人を……失うところだった」
「…………」
「彼女もきっと……君に……感謝していることと……思う」
 ──感謝?
 その言葉は、奇妙な響きをもって、ラムザの頭蓋にこだました。
 ミルウーダも、自分に感謝しているだろうと、レッドはいう。しかし、今のラムザは、骸旅団に仇なすものとして、その責務を果たさんとしている。
 それでも、彼らは自分に感謝するというのか──
「あの時はただ、彼女を無駄死にさせてはならないと……そう思ったまでです」
 ラムザは、本心から、そう述べた。
「そうか」
「彼女は、ミルウーダは無事なのですか?」
「そうだと信じている」
「…………」
 ミルウーダという女性は、この、レッドという騎士にとっても、特別な人なのだろう。
 彼の口ぶりから、ラムザはそんなことを感じていた。
「君は……真(まこと)の骸と化していた……我らに……希望を……与えてくれた」
「希望?」
 ここで、レッドは、初めてラムザの眸を見た。
「そう……われわれは……話し合える……」
 その言葉を聞いて、ラムザは、はっと表情を変えた。
 ──われわれは、話し合える
 それは、亡き父の理想であり、ラムザの理想であった。
 そして、ミルウーダと手を握り交わしたあの時、確かに、その希望の片鱗みたいなものを、ラムザは感じ取っていた。
 レッドは苦笑いを浮かべ、再び面(おもて)を伏せた。
「なぜ食事を口にしないのです」
 レッドの足元に、捕虜全員に支給されたパンが手付かずで転がっているのを見て、ラムザが訊いた。
 レッドは、静かに首を振った。
「無駄なことだ……本意ではないにせよ……身内のしでかしたこと」
「…………」
 ──都督誘拐未遂。
 骸旅団によるガリランド襲撃の本当の目的は、都督の誘拐と、その身代金の要求であった──その事実は、ラムザの耳にも届いていた。
 未遂に終わったとはいえ、その凶悪犯罪の実行犯たる骸旅団の者たちには、おそらく極刑が下されることとなる。
「今さら……生にしがみついたとて……何になる」
「しかし……」
 ラムザは、苦い顔をして、顔を背けた。
 必然、その法の裁きを下すのは、イグーロス執政官ダイスダーグ・ベオルブということになる。そして、ラムザの良く知るダイスダーグという人間が、情に流されて、処断に迷うなどということは、ありそうもないことであった。
 そうとは分かりきっていても、このまま死の道を歩む人間を見捨てることができないのが、これまた、ラムザという人間の優しさというべきか、甘さというべきか。
「まだあきらめるのには、早いですよ」
 ラムザは、最後にそれだけ言って立ち上がると、空家から出て行った。
 夜風は涼しく、満天に星は瞬いている。
 ふと、背後に気配を感じて、振り返ると、そこにはディリータがの姿があった。
「休まなくていいのか?」
 と、ディリータが言う。
「そうだな。少し眠るよ」
「そうしたほうがいい」
「君は?」
「僕は見張り番の交代に来たんだ」
「そうか」
「ラムザ」
「なんだ?」
「あまり気負いしすぎるなよ」
「そんなふうに見えるか?」
「昔からな」
「…………」
「君はベオルブの子だが……それ以前にラムザなんだからな」
「え?」
「いや、なんでもないさ」
「…………」
「おやすみ」
「ああ、おやすみ」
 片手を挙げて、ラムザは宿の方へ歩いていった。
 その友の背を見送ってから、
「あまり気負うなよ」
 ディリータが、もう一度つぶやいたその声は、誰に言った言葉か、夜風に乗せられて、何処へともなく運ばれていった。


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