DQD 5話
~ 2日目 ~
徹が朝起きた時、意外と身体が楽に感じた。
身体がバキバキ鳴るほどの筋肉痛になっても可笑しくないはずなのに、何の異常も感じなかった。
ルイーダに聞いたところ、これは冒険者宿屋の効果だそうだ。リホイミ(徐々に回復していく魔法)の効果がある結界があり、宿屋で寝ればその効果が現れるようにしているとの事だ。
ここは冒険者酒場だが、一応宿屋として休むこともできるためその結界を施してあるとのことだ。
体力回復は勿論、多少の怪我も治る。ただ毒には対応していない。
ゲームのようにどんな状態でも一晩で回復と言うわけにはいかないが、それに近い効果がある。
そのため初日なかなか目を覚まさない徹を病気か毒にでもかかっているのかと思いルイーダは心配したそうだ。夜までに目を覚まさなければ教会に任せるつもりだったらしい。
とにかく宿屋で休む限り筋肉痛にはならないだろう
これで思い切り戦う事に不安はなくなった。
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今日も戦い方に変わりはない。
階段の周辺からあまり離れないように捜索する。同じような光景の迷宮内を迷わずに歩き回れる自信はなかった。
リレミトやおもいでのすずが使えればいいのだが、両方とも今の徹には無理だ。ならば迷わない範囲内で行動するしかない。
基本的に一対一の形で不意打ちすることによって一方的に相手をボコボコにする。その相手は勿論スライムだ。
臆病かもしれないが命が掛かっているのだ。慎重になりすぎるくらいでいい。
昨日一つレベルが上がったが、まだその効果は分からない。
多少楽になったような気もするが気のせいかもしれない。このあたりは今後レベルが上がっていくにつれて分かる事だろう。
結局この日は午前にスライム6匹、午後に8匹倒す事が出来た。
得た金額は28G、宿代2G引いて、昨日の分とあわせると、38Gとなる。
明らかにペースは悪い。このままでは後5日で合計300Gまで稼ぐのは無理だろう。
だが無理をすればそこにあるのは死だ。そう考えるとこれ以上の行動は躊躇してしまう。
とりあえず今日はここまでだ。明日のためにも身体を休めなければならない。
ちなみに今日もレベルは上がった。
本日の収支
貯蓄:12G
収入:28G
宿代:―2G
収支決算:38G
~ 3日目 ~
今日もやる事は変わらない。スライムを倒してGをゲットするだけだ。
ただ今日は昨日と少し違っていた。午前に7匹スライムを倒したが、その内2匹を一撃で倒す事が出来た。
初日何度も叩いてようやく倒せたスライムを、だ。
もっとも不安から必要以上に叩いていたため、実際の回数は分からない。
だが、今日倒したスライムの中で、一撃入れた瞬間に消えてGになってしまったスライムが確かにいた。
強くなっている。その証拠が目に見えて分かった。
ひのきのぼうを振ってみれば、その風切り音も鋭くなったような気がする。
たった三日でこれだ。レベルアップの奇跡の凄さが分かる。
もし鍛える事によってここまで強くなるとしたら、どれ程の鍛錬をしなくてはいけないだろう。何だかズルをしたような気がするが、この世界ではこれが常識なのだ。というよりレベルアップで強くなって初めてモンスターに対抗できる強さを手に入れる事が出来るのだろう。
ただ基礎能力が上がるだけで、ひのきのぼうの振り方、基本的な体捌きなどは素人同然だ。そちらは地味に修行するしかないだろうが、元の能力が上がっていればやはり違いもでてくるだろう。
もっともそれに頭を悩ますのは、今の状況から抜け出た後だ。今はレベルアップの恩恵に感謝すればいい。
レベルアップ効果が分かったため午後は、少しだけ無理をする事にした。
相手がスライムなのは変わりないが、待ち伏せではなくこちらから探し始めた。
一匹の場合はそのまま一気に近づき叩き潰す。一撃で仕留められなくても、この時点でスライムに反撃できる余裕はない。続いてもう一撃叩き込んでお仕舞いだ。
二匹の時までは戦ようになっていた。この場合は流石に無傷で、とはいかない。一匹を一撃で倒せても、その間にもう一匹が攻撃してくる。
その攻撃とは勿論体当たりか噛み付きだが、初日に見たような強烈な体当たりは使ってこない。
あの攻撃方法は隙がありすぎるのだろう。どうやら特別な攻撃方法のようだ。通常は地面を這うようにしながら近づきそのまま攻撃をしてくる。重い衝撃を感じるが耐える事が出来る。これもレベルアップの恩恵だろう。
ただこれ以上敵が増えるとこちらの反撃をする暇なく、攻め込まれてしまいそうな気がする。
今のレベルでは、二匹までが何とか安全に対応できる数だろう。
結局午後は12匹倒す事が出来た。
引きあげる時間は昨日より早い。肉体的、精神的な疲労が昨日以上に感じられたからだ。
ホイミが使えたり、薬草が買えれば体力や傷が回復できてまだ戦えるのだろうが、ホイミは使えないし、10Gする薬草は今の財政では買う事は躊躇してしまう。
明日以降、薬草を使ったほうが効率的に良いのなら考えなくてはいけないだろう。
この日は午前にスライム7匹、午後に12匹倒す事が出来た。
今日もレベルは上がった。
本日の収支
貯蓄:38G
収入:38G
宿代:―2G
収支決算:74G
~ 4日目 ~
レベルアップの効果なのかスライムなら一撃で倒せれるようになった。こうなると倒すペースも上がってくる。
だがモンスターも次々と沸いて出てくるわけでもないため、倒す数が極端に増えるわけでもない。
それにやはり3匹以上になると梃子摺る。
所詮は戦い始めてまだ四日目、ズブがつく素人なのだ。
囲まれて焦りがでればミスもする。そこ付け込まれ周囲から連続で攻撃を食らうが、レベルアップの恩恵はここでもあり、何とか耐えられる。
ただ怪我や疲労は蓄積する。
ゲームのようにHP1でも変わらず動けるわけではない。
午前中でスライム12匹を倒す事が出来たが、身体の調子が良くない。一度教会で回復をしてもらうか、薬草で回復しなくてはいけないだろう。
もちろん両者とも只ではない。教会での回復には、どんな怪我でも一律20Gでベホマをかけてもらえる。
一方薬草は10Gだが、回復量は少ない。
レベルの低い今の状態なら薬草で十分のはずだ。
一度迷宮を出て、薬草を2個買う。
内一個を飲んでみるとその効果は驚くべきものだった。打ち身、切傷などが治っていき、疲労も軽くなる。
元の世界の薬と比べると、ある意味万能薬に近い。
これなら午後からも戦う事が出来る。
徹はドラキーと戦う決意を固めた。見かけるたびに逃げるのは効率も悪いし、なにより時間の無駄に思えてきたからだ。レベルの上がっている事だし試す価値はあるだろう。
それにいくらスライムとはいえ集団を一人で相手にするのは、今の段階では早い事に気づいたからだ。
某地上最強の生物は一度に四方向の敵と戦える事が出来れば何人とでも戦える、というような事を言っていたと記憶しているが、徹には一度にニ方向までしか相手に出来ない。
仲間がいれば良いのだが、それはないもの強請りだ。
とりあえずスライムを倒しながら、一対一で戦えるドラキーを捜していく。
そしてついに見つけた。
空中にふわふわと浮いているモンスター、ドラキーを。
小さな翼をパタパタと羽ばたかせているが、どう考えてもあの翼の大きさで浮かべるとは思えない。
ゲームで見ていた時は何とも思わなかったが、実際に見てみると突っ込みどころ満載だ。
まあ、魔法とかの不可思議な力が働いていると思うしかない。
徹自身が恩恵を受けているレベルアップもその不可思議な力の一つなのだから、文句を言っても始まらない。
真っ直ぐな通路で遭遇だ。ドラキーのほうもこちらに気づいているだろう。不意を付く事は出来ない。
盾でもあれば様子見をしても良いかもしれないが、手元にない今そんな事を言ってもしょうがない。
ならば先手必勝だ。
ひのきのぼうをギュッと握り締め、振り上げると同時に大きく踏み込みドラキーに肉薄する。そして一気に叩きつける。
スカッ。
本来手に感じるべき衝撃がなかった。
勢いで身体が前方に流れる。視界の端でドラキーが天井付近の高さまで浮かんでいるのが見えた。
飛んで避けられたのだ。
(不味い)
一瞬の判断で身を丸める。
ドゴッ!
背に衝撃が走り、前方に押される。
そのまま倒され地面を転がりながらも何とか距離をとる。
立ち上がり振り向けば、ドラキーが頭をこちらに向け突っ込んでこようとしているところだった。
体勢はくずれている。何とか避ける事はできるかもしれないが、このままではジリ貧になるだろう。
判断は一瞬だった。
斜め前に倒れこむようにしながら、ドラキーを迎え撃つようにひのきのぼうを振る。
ガツッ!
カウンター気味の一撃になった。
手に感じる衝撃はいつもと違う。振り抜けた、そんな感じがした。
だがその事に気を取られる暇はない。
すぐさま振り向きドラキーと対峙しようとしたが、そこには何もいなかった。
代わりに床に金貨が5枚落ちていた。
つまりは先ほどの一撃でドラキーを仕留めたと言う事だろう。
今の自分の一撃でドラキーが倒せるとは思っていない。
では何故倒せたのか。
考えるにあの一撃は、『会心の一撃』と言うものになるのではなかろうか。無我夢中の一撃ではあったが運が良かったのだろう。
スライム以外と始めて戦ったが、一言で言えば手強かった。
まともに戦って勝ったわけではないから、はっきりとは言えないがドラキーを相手にする事は何とか出来ると感じる。
ただし一対一に限るならだ。
今回は意気込んでしまったため失敗もしたが、落ち着けばもう少し何とかなる。
ドラキーの攻撃は、真正面からなら受けきることも出来るだろうと思うからだ。
後はあのフワフワ浮いているドラキーにうまく攻撃を当てられるかどうかだ。
ただ今までように見た瞬間に逃げるような事はしなくて済む。
背中に攻撃を食らったが、動きに支障はない。まだ時間もある。狩りはまだ続く。
その後分かった事はドラキーを倒すには3撃は必要だと言う事だ。ドラキーから得られるGはスライムの2.5倍だが、倒す苦労を考えるとスライムを重点的に相手をした方がいいのかもしれない。
ただ、これからレベルが上がっていけばそれも変わるのだろう。
結局午後はドラキー3匹、スライム10匹を倒した。
今日もレベルは上がった。
本日の収支
貯蓄:74G
収入:59G
薬草:―20G
宿代:―2G
収支決算:111G
~ 5日目 ~
今日もひたすらモンスターを倒し続ける。
その途中で他の冒険者と会った。三人組の冒険者だ。迷宮で他の冒険者と出会うのは初めてのことだった。
胸元に剣の形をしたペンダントを着けているところを見ると、徹と同じ仮登録中の冒険者なのだろう。
武器に皮の鎧や皮の盾などを装備しており、正しく冒険者と言える格好をしている。
未だにひのきのぼうと布の服を着ている徹とは違う。ひのきのぼうを持っていなければ、一般人が迷い込んだと思われても仕方がないだろう。
事実会った時に三人組みは驚いたような顔をしていた。
特に何かを話したわけではない。
ペンダントをしている以上、お互いの状況は分かっている。
軽く挨拶をしてその場を別れた。
今のところ話す事など特になかった事もある。又時間も惜しかったが、それ以上に警戒していた事もある。
この世界での初日に騙され、有り金を取られた事が徹を疑い深くしていた。
もしこの三人が襲ってきたら、という考えが頭の中から離れなかったのだ。
結局は勘繰りすぎただけなのだが、注意深くなったのは確かだ。
三人組の姿が見えなくなるまで、警戒を解く事が出来なかった。
モンスターより人間相手の方が警戒しなくてはいけないのはおかしな感じだ。ただ倒せば良いだけのモンスターの方が気が楽なのは皮肉な事だと思う。
人は見た目だけでは何を考えているか分からない。
だが徹が仲間で戦う彼らを羨ましく感じたのも事実だった。
たった一人で誰としゃべる事もなく、気を張り詰めているのは思った以上に疲れる。
まだ決定的なミスはないが、何時かミスをした時どうなるだろうか。仲間がいれば助けを期待することもできるだろう。
『渡り人』である自分にも何時か仲間が出来る日が来るのだろうかと徹は思うが、仮冒険者である今の状況で考えるのはまだ気が早い事も分かっていた。
これは冒険者になってからよく考えれば良いことなのだから。
この日はスライム24匹、ドラキー5匹を倒した。
今日もレベルは上がった。
本日の収支
貯蓄:111G
収入:73G
薬草:―10G
宿代:―2G
収支決算:172G
~ 6日目 ~
ドラキー相手に2撃で倒せるようになった。スライム相手なら確実に一撃で倒せる。
こうなると、スライム相手なら囲まれても対処出来るようになる。
いわゆる無双状態が出来る。
貯蓄のペースは良い。このまま行けば目標金額達する事は出来るだろう。
だが油断しているととんでもない事が起きるかもしれない。
なるべく多く稼いでおくべきだろう。
この日はスライム24匹、ドラキー10匹を倒した。
貯蓄:172G
収入:92G
薬草:―10G
宿代:―2G
収支決算:252 G