DQD 47話
競技会は盛況の内に幕を閉じた。
決勝では対戦相手であるピサロが逃げるというハプニングがあったものの、観客からすればトールの技から逃れるために逃げたとしか見られず、冒険者の判断としては有りだとしか思われなかった。
闘技場からでた事により失格とはなったが、ルール上のこととして当然と受け止めた者が多かった。
第一に多くの観客から見えた光景は、ピサロの槍を受けながらもトールが何かをし、その結果ピサロが顔を抑えて動きが止まると、その一瞬で『ギガスラッシュ』が放たれ、続いて止めとばかりに『トールブレード』だ。
ピサロの容姿の変化については顔を手で押さえ続けていた事も有り、観客席からではピサロの顔が変わった事をしっかりと確認できた者はほとんどおらず、又いたとしても気のせいだと思いこんでしまった。
故に大きな混乱はなく、ピサロの事で混乱するトールを余所に表彰式は滞りなく行なわれ、優勝者はトールとなった。
トールにはトルネコ商会からの最大限のバックアップと、他のトーナメント上位出場者にも可能な限りのバックアップが約束された。
優勝賞品については、後で屋敷において手渡される事だけ伝えられ、その場での閉幕の発言はされた。
多くの者にとって満足の逝く結果を残し競技会は終わった。
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「すっっっっごかったよなあ」
「ああっ、そうだな」
祭りで賑わう街の中、なじみのカフェで興奮するディーノにポップは相槌をうった。いつもより賑わう街中ではディーノの大声もたいしたものではなかった。
競技会の観戦にはいつものように、ディーノ、ポップ、メルルの三人で来ていたのだが、観戦後メルルは占い師の仕事があったため、今は二人だけだった。
優勝したトールの事を我が事のように喜ぶディーノにポップは多少苦笑する思いだったが、気持ちが分からないでもない。
ポップにとっても顔なじみが活躍した事は嬉しいし、ディーノにとっては同門の兄弟子の事だ。尚更だろう。
ただポップ自身は単純に喜ぶだけではいかなかった。
今回の競技会を見て、やはり魔術師タイプは一対一では不利であり、『勇者』といわれる存在にはなりえない事が何となくだが実感できたからだ。
ポップは今魔術師の訓練を学園で受けている。その方面に才能があったということもあったが、戦士としての才能が乏しかったという事もあった。
実家の武器屋で武器を扱う傍ら振るったりもしていたが、その時も父親からはあまりその手の才能がない事は言われていた。
ただ冒険者になるなら、やはり目指すのは『勇者』であり、『英雄』である。
物語の『勇者』や『英雄』は、そのほとんどが前線で剣などの武器を使い戦っていた。少年たちが憧れるのはそういう姿だ。ポップにしてももちろんそうだった。
だが実際に学園に習い始めてみると、その父親の言葉が真実である事が身にしみて分かってきた。
身近にディーノという才能の塊のような存在がいるため、尚更そう思った。
もちろんポップ自身努力もした。
だがある時、ディーノとヒュンケルの修練の場に立ち合う事が出来、その修練の凄まじさを目にしたとき、改めて才能というものがはっきりと分かった。
もちろんヒュンケルの修練は特に厳しいものではあっのたが、ポップは自分では出来ないし、またやろうとも思わない。思えない事がもう自分に『勇者』や『英雄』には向いていないのだとしか思えなかった。
これは若さからの思い込みなのだが、この時のポップにはそうとしか思えなかった。
ただディーノとヒュンケルの修練の場に立ち会えたことが、ポップにとっては大きな転機にもなった。
たまたまその日来ていたエイミの目に留まり、師事する事が出来た。もちろん只ではない。受講料は取られる。
そもそもエイミは正式に講座を開いているわけではないため講師をしているわけではなく、いわゆる個人的に師事、つまり家庭教師になるのだが、賢者に教えを受ける事自体がそもそも滅多にない事だった。
流石にポップ個人で払う事はできず親に頼る事になったが、普段は厳しい両親もこれを聞いた時はすぐさま受講料を払ってくれた。
ヒュンケルと同じようにエイミも塔へ到った冒険者として有名だからだ。
その修行の厳しさで弟子が来なくなったヒュンケルとは違い、そもそもエイミは弟子を取らない人だった。だが何の因果かそのエイミが偶然だろうが気の迷いだろうが、教えを授けてくれるというのだ。
親なら期待してお金も出すというものだ。
結果今ポップは魔法使いとしての修練を励んでいる。
はっきり言えばエイミの修行はスパルタ方式、つまりヒュンケルと一緒だ。夫の修行風景を見ている間に、それが普通と思い込んでしまったのだろう。又エイミ自身も彼女の師からは厳しく教えられてきたからでもあった。
座学もあったが、基本的には実戦形式での修練だった。
精神集中から、同じ呪文での打消しから、メラとヒャドの反対属性魔法での打消しなど、少しでも失敗すれば、即怪我をするものだが、『回復呪文』で回復させられては何度もやり直された。
後、普通に武器を使っての訓練もさせられた。
いくら魔法使いといえ武器の一つも使えないようでは一人前の冒険者足り得ないというのが、エイミの持論だった。
実際エイミ自身、短剣のスキルをマスターしており、その辺りの冒険者相手にしてもたたきのめせるだけの腕前があった。
思い描いた『勇者』や『英雄』としての冒険者とは随分と違っているが、それでも随分と恵まれた道を進んでいると思う。
最近、勇者は無理でも勇者のパーティーの一員にならなれるのではないかと思える。
もちろん勇者候補は自分の友人になるだろう。
それも悪くないかなと、ポップはディーノを見て思うのだった。
****
何故こんな事になったのか、とミネアは頭を抱えたくなった。
目の前ではマーニャ、ビアンカ、アリーナ、ソフィア、そしてゼシカとバーバラのにらみ合い。
当初は賑やかなものだったはずなのに、いつの間にかこうなってしまった。
ことに始まりはトールの競技会での優勝後だ。
競技会はマーニャ、ミネアの姉妹だけでなくビアンカ、アリーナ、ソフィアたちといったトールを介しての知人たちと見物をし、トールの優勝で決まった時は皆、我が事のように喜んだ。
特にマーニャは喜んできた。好きな男の勝利という事もあるだろうが、競技会の賭けの大勝利もあるのだろう。
もちろんミネアも随分と儲けさせてもらった。
皆上機嫌で、マーニャが儲けたお金でお祝いをしようとしていたとき、二人に出会った。ゼシカとバーバラに。
二人とも競技会のトーナメントに出ただけあり、誰かという事は知っていた。その後、トールとの知り合いという事も分かり、一緒にお祝いをする事になったのも、自然の流れと言えなくもないだろう。
始めは皆で和気藹々としていた。
皆が女冒険者であり、『自動レベルアップ』もち。レベルも普通よりも高い。何かと共通点もあり話も弾んでいた。
その雰囲気が変わったのはトールの話題になってからだ。
競技会の優勝者であり、ここにいる全員の知り合い、そこに話題がいくのはある意味当然といえば当然だが、すこしずつ雰囲気がおかしくなっていった。
まずは「この後、わたしたち、パーティーを組むつもりだわ」といったゼシカたちの言葉が引き金となった。
この言葉はビアンカ達には聞き捨てならない言葉だった。
パーティーを組むという約束自体、ビアンカたちもしており、それを目標に日々努力をしていた。と言ってもその差はなかなか縮まらず、むしろ広くなっているのだが。
まあ、それはゼシカたちにも言える。レベル差があるという点ではトールと差があるのはビアンカたちと変わりがない。
マーニャにしても四六時中他の女とトールがいるなど認められるものではなかった。
まあ傍から見ているミネアからしてみると、多分トールは誰ともパーティーを組まない、組む気がないというのが正解なのだろうとしか思えなかった。
そもそも『魔物使い』としての一面を持っているトールには、わざわざ他者とパーティーを組む意味がない。率いる魔物で十分なのだ。
少しの間だがパーティーを組んだ事のあるミネアが感じた事は、組んでいる間は非常にこちらに気を使っていたということだ。女性という事で気を使っていたという事もあるのかもしれないが、従来どおりに迷宮探索しているとは思えなかった。
迷宮攻略を第一とするトールにとって他者とパーティーを組むなら、それなりの利点がないといけないだろう。少なくとも今ここにいるメンバーで、その利点が勝る者がいるとは思えなかった。
ゼシカにしろ、バーバラにしろ、トーナメントに出るだけあり、強さだけならこの中でも強いのだろうが、それでもトールとは比べられない。
はっきり言えば邪魔者以外の何者でもないだろう。
それでも組むとすれば、よほど心境に変化があったとしか思えない。
まあそんなことはここにいる全員が分かっているのではないかと思う。だからこそ牽制の意味でもトールとの関係を強調するのだろう。
特にこだわっているのは、マーニャ、ビアンカ、アリーナ、ゼシカといったところだろう。ソフィアとバーバラは気にはなっているが、というところだろう。
では自分はどうかといえば、悩みどころだ。美男子とはいえないが愛嬌のある容姿。強さを言えば申し分ない。ただその運命は類まれなる波乱万丈の相だ。
嫌いではないが……。
ミネアは横目で姉たちを見ながらもそっとため息をつくのだった。
****
閉会式の後、連れ去られるように馬車でトルネコの屋敷に向かう事になった。
半ば無理やりに近い形ではあったが、優勝したため、今後の事などを考えれば仕方のないことだとも思えた。
老執事に促されて馬車に乗る。広めの馬車の中で一人になり少し落ち着いてきた。
自分でも思いのよらぬうちに随分と興奮していたようだった。
決勝では特に思うところがあった。
対戦相手を仕留める、つまり殺しても構わないと思ってしまった事は、トールにとって驚くべき事だった。
確かに今までモンスターを殺してきた。それに間違いはないし否定をする気もない。
喧嘩をして相手を半殺しの目に合わせた事だってある。まあそれも回復呪文で治しはしたが、それでもそれはあくまで結果的にであって、トールから進んでではなかった。だが今回トールは自分から、自己の意思によって殺害を決意した。明確な殺意を持ったのだ。
今までの人生で抱いた事のない感情。
どうしようもない戸惑いがあった。
この世界に染まってきたといえばそれまでなのだろうが、嬉しくない染まり方ともいえた。
試合には勝った。だがあまり喜ぶことが出来ないのが事実だった。
そんな考え事をしている間にも馬車は進み、トルネコの屋敷に着いた。
相変わらず大きい、城と言っても差し支えない大きさの屋敷だった。
老執事に連れられ、屋敷の奥へと進んでいく。はぐれると迷ってしまうと言われたが、それも納得できてしまう広さだった。
そしてある一室に連れてこられた
見るからに高価そうな家具調度品が並べてある。だがその中でも一際目を引くのは壁にかけられている絵だろう。
ある家族が描かれている絵のようだった。
恰幅がよく口ひげを蓄えた中年男性を中心にして、隣には優しそうな女性、その間に元気そうな少年、そしてその反対隣には黒髪の青年が立っていた。前の三人は誰だかはなんとなく検討がついた。トルネコ、その妻のネネ、そして二人の間の子であるポポロだろう。だがあと一人の青年が誰だが分からなかった。
「その絵に興味がありますか」
突然トールに声がかけられる。振り向けばそこには独特の髪形をした一人の男、ルドマンがいた。
突然のことで驚いたが、すぐに気を取り直してもう一度絵のほうを見た。
「そうですね。気になります」
「そうですか。その絵は初代のこの商会の祖となるトルネコ一家の肖像画です。中心にいるのが商聖といわれたトルネコ。そして隣にいる女性がその妻ネネ、そして二人の間にいるのが二人の間の子であり、商会の二代目となったポポロです。さて、後の一人ですが、血のつながりこそありませんが家族同然であったとしてこの絵に一緒に描かれました。彼こそは勇者『ロト』の称号を持つ者、そして塔を制覇した者、そしてあなたと同じ『渡り人』であった者でですよ」
「えっ」
驚いて振り向くトールにルドマンは満面の笑みを浮かべる。
「驚きましたかな。わたしたちトルネコ商会が冒険者を支援しているのは、これゆえにです。もう一人の息子であり友人でもあった彼を手助けするためにトルネコが組織したのが、この商会なのですよ」
トールは驚くしかなかった。今まで『渡り人』の話は聞いた事があったが、『勇者』までもがその『渡り人』であったとは思わなかった。『渡り人』に才能があるといわれるのも分かる気がした。
「まあ昔話はこれくらいにして、トール殿ようこそ我が屋敷へいらっしゃいました。改めて自己紹介をさせていただこう。わたしはルドマン。このトルネコ商会の会長をしています。まずはこのたびの競技会優勝おめでとう。ささやかながら祝賀会を用意しているので楽しんでいってほしい。そしてその後に賞品のことでお話しようと思うがどうかね」
トールとしては頷くしかなかった。
祝賀会の参加者は極少ない人数となった。
主役はもちろんトールになるのだが、他にはルドマンとその妻たち3人、娘であるデボラとフローラ、そして息子のレオンと現トルネコ商会、会長家族だけであった。
周りには執事やメイドもいるにはいた彼らは奉仕者であり、後は楽士隊もおり音楽を奏でたりもしていたが、彼らは背景のようなものだ。この際参加者にいれるべきではないだろう。
その背景の中にも見知った、というより見た顔があった。アンディだが、トールにしてみれば知り合いでもない。大会前に文句を言われただけの相手であったため、どういう反応もしなかった。
祝賀会自体は穏やかに進んで言った。
歓談の内容としては、やはり冒険談となる。パトロンのなるからにはそれもまた当然の事だろう。
トールは今までの冒険を語って見せた。
初めての迷宮、そして剣の師についての修練、慢心による大怪我、それからの復活などルドマンは興味深そうに耳を傾け、時にはルドマン自身が冒険者時代の冒険談も語って見せた。またトールが興味があると思ったか『勇者』の話や『勇者』の遺品の一つも見せてもらう事が出来た
「なかなか楽しい話だったよ」
「いえ僕も興味深い話を聞けました」
「そうかね。それはよかったよ。だがまあ、話の途中だが賞品の件で話をするとしよう」
ルドマンの言葉にフローラとデボラがビクリとするが、ルドマンはそんなことを知ってか知らず話を続ける。
「まずは装備を用意させてもらった。君が今使っている物もそれなりの物だが、中々の品を用意させてもらったつもりだよ」
それだけ言うと扉の奥から執事たちが布に包まれた幾品かの物を持ってきた。
「きせきの剣、ちからの盾、神秘の鎧、神秘の膝あて、マタドールグラブ、星のサークレット、あんぜんくつ、女神のゆびわだ」
「ほう」
その言葉を聞いたとき、トールの口から感嘆の声が漏れた。装備の一式、そのほとんどがどれもトールがほしいと思っていたものだからだ。
『きせきの剣』は攻撃を加えることによって自身の傷を癒す。
『神秘の鎧』、『神秘の膝あて』は着ていることで自動的にHPを回復する。ただ『神秘の鎧』、『神秘の膝あて』の二つは同時に装備しなくては自動回復の効果がないものという点に注意しなくてはいけないが、大して問題ないだろう。
『女神のゆびわ』はMPの自動回復だ。これは特にほしかったものだ。
『ちからの盾』は使えば、HPを回復する。
他のものも十分に一級品だ。更に錬金釜で錬金も出来るものもある。
基本一人で迷宮探索を主とするトールにとって、これらの自動回復という付加要素はどうしてもほしかった。
賞品:
武器:きせきの剣(攻+77、HP吸収)
盾:ちからの盾(守+27)
身体上:神秘の鎧(守+46、自動回復小)
身体下:神秘の膝あて(守+18、自動回復小)
手:マタドールグラブ(守+11、器+85)
足:あんぜん靴 (守+9、みかわし率2%)
頭:星のサークレット(守+13、攻魔+14、回魔+12)
アクセサリー:女神のゆびわ(守+2、回魔+15、MP自動回復小)
「どうかね、魔物使いとはいえ、一人で旅する事の多い君だ。ぴったりの装備だと思ったのだがね」
どうやらどのようなスタイルで迷宮探索をしているかは調べられているらしい。
だが良く考えれば納得もいく。トルネコ商会が求めているのは、迷宮探索に真剣に取り組む冒険者であり、彼らがそれを調べるのは当然だろう。
又賞品についても、使いもしない装備を貰っても倉庫の肥やしにしかならない。送る方にしても貰う方にしても有効活用できた方がよいに決まっている。
貰いすぎだとも思えた。
「後、それと屋敷を一棟用意させてある。君ほどのレベルの冒険者ならば拠点のひとつでもあったほうが良いと思ったのでな」
確かにパーティーを組んでいるならば、この考えも納得できる。
日々の宿代も馬鹿にはならないのだ。だがトールにはあまりこの考えは当てはまらない。
基本今の宿暮らしに不満はない。いや独り身のトールにとって一軒家は広すぎてかえって不便になる。それに管理にもお金がかかり大変だろう。
今のところ金に困ってはいないし、多少の無駄遣いもいいだろうが、一軒家を持ちそれの維持管理で金を使うのはあまりにも無駄に思えた。
「ふむ、あまり必要ないかね」
「あっ、いえそんなことは」
「無理に言う必要はない。だが、この屋敷はもう一つの賞品ともセットのようなものなのだ。受け取ってもらわねば困る」
「えっ?」
「君は知っているだろう、この賞品のことを。いや、知ったからこそ態々この競技会に出た」
始めは何を言われたか分からなかったが、すぐに言っている意味に気がついた。。
「いや、それは」
「責めているわけじゃない。むしろ良くぞ乗ってくれた。君の事はグランマーズ様から聞いてはいたよ。だがこうもおっしゃっていた。余程の理由がなくては競技会になどでないとね。君にはわざわざトルネコ商会とコネを作る必要などないと」
「……」
「なるほどそうだろうね。世界最高峰の占い師であるグランマーズさまでさえ君の願いをかなえる方法は一つしか示す事はできなかった。このトルネコ商会でできる事なら、そう言われただろう。君は冒険者としてすでに独り立ちをしている。様々なしがらみを造る事の方がマイナスだと思ったのだろう」
「…そうですね。否定はしません」
「確かに援助はすると言っても、無償ではない。頼みごとを聞いてもらう事もある。それほど無理なものではないがね。だが援助としてはそれ以上のことをしているつもりだよ。そのあたりも君は分かっているのだろう。まあ、こちらが最大限に望む事は迷宮探索なのだがね。それについては君には言う必要もなうだろう。それでも娘のために競技会に出場しようと思ってくれた事は親として感謝している。だがこれは決めていたことだ。もう一つの賞品について話をしよう。デボラ、フローラとの婚姻だ。どちらか片方でも良いし、君が良ければ二人ともでも構わない」
「いや、それは」
「すぐに答えを聞こうとは思っていない。一晩よく考えてみるといい。確かに断わる事もできるだろうが、その結果どうなるかも含めてね」
トールは口をつぐむしかなかった。
****
祝賀会が終わった後通された寝室で、トールは広い豪華なベッドに横たわりながらため息をついた。
結局話は終始ルドマンにペースを握られたままだった。まあ相手は世界一の商人と言っても差し支えない存在だ。雰囲気に飲まれてしまうのもしょうがないだろう。
仄かなランプの明かりと窓からの月明かりで、薄暗いながらも部屋の中を見渡す事が出来る。飾られた様々な調度品はさぞ高価なのだろうが、今のトールはそれらに興味がいかない。
先ほどのルドマンとの話が頭の中で渦巻いていた。
一つは勇者ロトのこと。トールもまさか自分と同じ『渡り人』だとは思っていなかった。
証拠の一つとして、彼が持っていたという持ち物を見せてもらった。最も数百年経っているため、来た当時持っていた物はもう数少ないそうだ。その中の一つとして見せてもらえたのが硬貨だった。
それはトール自身がよく知っている、いや使った事さえある硬貨だった。500円玉硬貨がそれだった。
ルドマンがトールの事を『渡り人』だと確信し興味を持ったのも、友人のメダル館長から、珍しいコインを手に入れたとしてトールから手に入れた硬貨を見せてもらったからだった。
この500円玉硬貨こそがトールを悩ませていた。
この500円玉の発行年は、トールがこの世界に来る11年前のものだ。すなわち『勇者ロト』とよばれた『渡り人』が、この世界に来たのは、トールの世界で早くても11年前という事になる。だがこの世界ではすでに400年程前の事となっている。
この時間の差はなんなのか。
トールの元いた世界とこの世界では時間の流れが違うのだろうか。そうだとすればこちらで一年半ほどたっていても向こうではまだ数日だという場合もある。
いや、そもそも彼が自分より前の時代から来たという証拠もない。もしかしたらトールよりも後の時代からという可能性もある。その可能性から言えば、同じ世界ですらないのかもしれない。よく似た別世界の可能性もある。
それを考えると、本当に帰れるのかとも思ってしまった。又、例え帰れたとして本当にあの世界に帰れるのかと。
悩んで答えが出るものではないが、どうしても気になってしまった。
もう一つは今回の結婚の事だ。
ルドマンはトールがフローラの頼みでこの競技会に出ることを決めた事は知っていた。トールも最終的に決めたのは自分だとは言え、切っ掛けがそうであったこと、そしてその切っ掛けさえなければ競技会に出場しようと思わなかった事も事実ではあった。
今更その事について何か言おうとも思っていないし、予定通り勝利したのだから、後は結婚を断ってそれで終わりだと思っていた。
だが改めて今考えると、自分が意味のないことをしたのではないかと思えてきた。
そもそもトールが結婚を断ったからといって、フローラの結婚自体がなくなるのか、自由に結婚相手が選べるようになるのかという事だ。それは流石にないだろう。
もしすぐさま別の婚約者を連れてこられるとしたら、いったい自分は何がしたかったのか。ということになる。
そこまで考えて、トールはこれ以上この事について考えるのとやめた。この先はもうトールではどうしようないことだ。
この先トールが出来る事は、結婚するか、しないかを決めるだけだ。
それにしても一晩というのは少なすぎる。DQⅤの結婚イベントでもあるまいし、こんな事を一晩で決められるはずがないのだ。
なんとか少し考える時間を貰うか、婚約という形ことにして場を濁せないだろうか。
二つの悩み事は一晩ごときで解決できるものとは思えなかった。自分で決めた事とはいえ、いささか面倒だとも思い始めていた。
それでも競技会には出たかいがあったと思っている。すくなくとも自分の腕前が冒険者としてトップクラスであると自覚する事が出来た。
それに何よりも優勝それ自体は喜ばしい事だった。
元の世界では普通の学生だったトールにとって、何かの大会で優勝したという経験はなかったのだ。
カチャッ
不意にドアが開かれる音を耳にした。
ノックもなしでの開錠である。執事やメイドたちではありえないと思えた。
『誰だ?』
そう思いながら扉のほうを向けば、開かれた扉の前には人影が一つ。薄暗いが夜目になれていたトールには、それが誰だか分かった。
デボラがそこにはいた。
――― ステータス ―――
トール おとこ
レベル:40
職:戦士
HP:374+40=414(+10%)
MP:130
ちから:123+20+5=148(+10%)
すばやさ:100+70=170
みのまもり:56+5=61
きようさ:113+70+85=268
みりょく:69+10=79
こうげき魔力:50+20+14=74
かいふく魔力:64+20+27=111
うん:134+40=174
・装備
頭:星のサークレット(守+13、攻魔+14、回魔+12)
身体上:神秘の鎧(守+46、HP自動回復小)
身体下:神秘の膝あて(守+18、HP自動回復小)
手:マタドールグラブ(守+11、器+85)
足:あんぜん靴 (守+9、みかわし率2%)
アクセサリー:女神のゆびわ(守+2、回魔+15、MP自動回復小)
武器:きせきの剣(攻+77、HP吸収)
盾: ちからの盾(守+27)
こうげき力:260
しゅび力:187
言語スキル:4(会話2、読解2、筆記)【熟練度:61】
戦士スキル:3(かばう、ちから+10、HP+10)【熟練度:3】
盗賊スキル:☆(索敵能力UP、すばやさ+10、ぬすむ、器用さ+20、リレミト、ピオリム、しのびあし、盗人斬り、ボミオス、すばやさ+50、とうぞくのはな、器用さ+50、かぎあけ、常時索敵)【熟練度:0】
武闘家スキル:3(おたけび、すばやさ+10、ちから+10)【熟練度:0】
魔法使いスキル:3(魔結界、こうげき魔力+20、ぶきみなひかり)【熟練度:0】
僧侶スキル:3(かみのおつげ、かいふく魔力+20、おはらい)【熟練度:0】
芸人スキル:3(ボケ、身かわし率UP、ツッコミ)【熟練度:0】
商人スキル:7(うん+10、アイテム入手率UP、HP+10、あなほり、インパス、HP+20、うん+30)【熟練度:0】
魔物ハンタースキル:3(まものならし、みりょく+10、あまいいき)【熟練度:0】
剣スキル:☆(剣装備時攻撃力+5、ドラゴン斬り、メタル斬り、剣装備時攻撃力+10、ミラクルソード、はやぶさ斬り、剣装備時攻撃力+20、会心率UP、魔神斬り、ギガスラッシュ、得意武器になった)【熟練度:56】
素手スキル:5(未装備時攻撃力+10、あしばらい、しっぷうきゃく、会心率UP、急所突き)【熟練度:57】
盾スキル:5(ガードアタック、盾ガード率+2%、大ぼうぎょ、盾ガード率+2%、ビッグガード)【熟練度:86】
ゆうきスキル:8(自動レベルアップ、ホイミ、デイン、トヘロス、べホイミ、ライデイン、いなづま斬り、マホステ、消費MP4分の3、ザオラル、べホマ、ギガデイン、ベホマズン)【熟練度:18】
特殊技能:闘気法(オーラブレード、ためる)、スカウト、アバン流刀殺法(大地斬、海波斬、空裂斬、アバンストラッシュ(偽)、常時ちから+5、常時身の守り+5)、トールブレード
経験値:596977
持ち物:モンスター袋、いのりのゆびわ(1個)、けんじゃのせいすい(5個)、特やくそう(5個)、いのちのいし(2個)、ばんのうくすり(3個)、頭:かげのターバン(守+13)、身体上:げんまのよろい(守+47、攻魔+10、回魔+10)、身体下:たまはがねのひざあて(守+16)、手:くらやみミトン(守+10、器+80)、足:ちんもくのブーツ(守+9、素+5)、アクセサリー: いやしのうでわ(守+4、HP自動回復大)、武器:光の剣(攻+70)
――― 仲間のステータス ―――
前回と変わらず
所持金:93210G (預かり所:900000G)
Gコイン:26430
・持ち物『大きな小袋』
道具:やくそう(15個)、上やくそう(28個)、いやしそう(4個)、特やくそう(27個)、毒けし草(30個)、上毒けし草(5個)、特毒けし草(10個)、まんげつそう(4個)、きつけそう(11個)、おもいでのすず(5個)、せいすい(14個)、まほうのせいすい(113個)、けんじゃのせいすい(2個)、ゆめみの花(5個)、天使のすず(4個)、めざめのはな(4個)、キメラの翼(1個)、毒針(攻+1)、プラチナソード(攻+51)、ちからのルビー(攻+9)1個、銀のむねあて(守+25)、しっぷうのバンダナ(守+11、速+20、回魔+8)、聖竜のうろこ(守+8、状態異常耐性有)、ドラゴンシールド(守+25)、げんまのたて(守+23、攻魔+12、回魔+12)
大事な道具:モンスター袋、リリルーラの粉、オクルーラの秘石、自動地図、魔法の筒4本、従魔の輪2個、スカウトリング
小さなメダル:8枚
・預かり所
前回と変わらず
――― あとがき ―――
お久しぶりです。
なかなか話が進みません。神託祭が終わるまでにはまだあと少し話がかかります。
ところでこの話が出来るまでにDQⅩなどが発売されましたが、皆さんプレイしているでしょうか。
自分もソロプレイ用のサーバーでちょっとずつやっております。
毎日やるわけでもないので、課金が一週間単位でできればいいなあ、などと思っています。週300円ほどで。
次回は早めに話が出来るといいなあ。
それでは、また会いましょう。