DQD 38話
競技会の参加者、それはつまりライバル、蹴落とす相手ということになるだろう。
他の参加者と出会う可能性を考えなかったわけではないが、実際に顔を合わせた今ではどういう反応をすればいいのか分からなくなる。
それが共闘した後なら尚更だ。
自分の行動に何か間違いがあったかのといえば、そんなものはない。
相手が誰であれ、モンスターに囲まれているところを見れば助けただろう。事は生死にかかわる事なのだ。
助ける力を持ちながら、それを見捨てる事など出来ない。
後悔はしていないが、それでもやはり今の状況には戸惑いを感じてしまう。
だが何時までもここで突っ立っているわけにはいかない。あれだけの戦闘を起こした後だ。それが何かを引き寄せないとも限らない。
するべきことをして、さっさとここから離れるべきだろう。
ならば、まずは行動だ。
そうと決めると、気分を変えるためにもトールは一度大きく深呼吸をした。
「えーっと、お互い無事で何よりだよね」
「え、ええ、そうね」
トールの言葉にゼシカはぎこちなく返すが、これはしょうがない事だろう。バーバラにしても複雑そうな表情をしている。
今の状況はゼシカたちにも予想外のものだ。
何も知らなければ助けた者と助けられた者でたわいない会話も出来ただろうが、競うべきライバルだと知ってしまえばそうもいかない。
ただ恩人でもあるため無碍な態度も出来ない。それゆえのぎこちなさであった。
「「……」」
奇妙な沈黙が辺りを包んだ。
何か悪い事をしているわけでもないのに、居心地の悪さだけがあった。
「あー、もう駄目、耐えられない」
そんな中、突然堰を切ったかのようにバーバラが口を開く。
「別にあなたも私たちも悪い事したわけじゃないのに、何でこんな風になってるの。私たちは助けてもらってありがとう。あなたはどういたしましてで、何にも問題ないでしょ。確かにライバル同士なのかもしれないけど、今は関係ないでしょ」
バーバラが一気にまくし立てる。
トールもゼシカも一瞬ポカンとしてしまうが、バーバラの言葉は微妙な雰囲気を吹き飛ばす良い切っ掛けになった。
多少混乱していたため鈍っていた思考が働き始める切っ掛けにもなった。
よく考えれば確かにこの場で争わなければいけない理由はない。
「確かにそうよね」
「ああ、その通り」
自然と微笑みあっていた。
「それじゃあ、気を取り直す意味も込めて、改めてお礼を言わせて貰うわ。助けてくれてありがとう」
「それじゃあ、私も。ありがとうございます」
「いや、どういたしまして」
何とか雰囲気は持ち直した。それならば後はするべきことをさっさとするだけだ。
「とりあえずだけど、まずはあの狼を埋めないか。時間も時間で場所が場所だしさ」
トールの言葉に二人は頷く事で答える。元々その予定だったため問題はない。
トールは狼のいるほうへ歩いていく。
はじめは直ぐ側に穴を掘って埋めようと思ったが、戦闘の跡地のため周りの地面も荒れており埋めるのに適しているとは思えなかった。
それではどうしようかと周りを見渡した時、他の木々より大きめの木が見つかったため、それを墓標に見立ててその木の根元近くに穴を掘る事した。
スコップなどの掘る専用道具はないため、トールは剣(予備で持ってきたプラチナの剣)で、ゼシカたちはナイフを使って穴を掘リ始める。トールは『闘気法』で強化しながら掘るため、ゼシカたちよりも良く掘れるが、やはり専用道具でもないため掘りにくいのはどうしようもなかった。
しかも親狼は結構な大きさだ。埋められる穴となると結構な広さと深さが必要になってくる。
(結構な作業になりそうだなあ)
そんなことを考えていると、バーバラが穴を掘る手を止め、何か考え込んだかと思うと「ちょっといい」と呼び止めた。
「少し思いついた事があるんだけど、もしかしたらもっと簡単に穴がほれるかもしれないわ。ちょっと試してみてもいい?」
バーバラの言葉を否定する答えはない。
このままでは埒があかないことは分かりきっているからだ。
トールにはこの方法以外で穴を掘る方法は思い浮かばなかったが、他にも方法があり、その方が簡単で早く済むならそれを選ばない理由がなかった。
「じゃあ、お願いするよ」
「ええ、それじゃあ少し離れてね」
そう言うとバーバラは目を閉じて集中し始めた。時間にして一分ほど経った時、バーバラは目をカッと見開くと同時に力の篭った言葉を吐き出した。
「イオ」
ドゴンッ!
爆音が森に響き渡り、それとともに極小範囲、もっとはっきり言えば穴を掘っていた辺りだけで爆発が起こった。
本来広範囲で起こるはずの爆発呪文である『イオ』を、何らかの形で制御したのだろう。巻き起こった煙が晴れた後には、狼が入れるほどの穴が開いていた。
周りには何の被害もないのだから驚くほかない。
ただ呪文を使うだけではなく、特殊な技術を使った結果だろう。『闘気法』の魔法バージョンのようなものなのかもしれない。
「うん、何とか成功したわね」
満足そうにバーバラは頷くが、ゼシカは大きくため息をついた。
「バーバラ、あなた何しているの?」
「何って、なかなかいい考えだったでしょ」
「いい考えって、あなたのそれは……まあそれはいいわよ。でも穴を掘るだけならまだしも、あの馬鹿でかい音はないでしょ」
「あっ」
言われてやっとバーバラは気づいたようでバツの悪そうな顔をした。
「まあ、掘っている時間のこととかも考えればどっちもどっちね。こうなったらさっさと済ませましょう」
「そうよね。となると後はあの狼をここまで持ってくればいいのね」
「それは僕がやるよ」
女の身であの親狼を担ぎ上げるのは大変だろうと思ったのだ。だがよく考えればレベルのこともあり、彼女たちでも担ぎ上げることは出来るのかもしれない。ただ何となく力仕事は男の仕事のように思えたので、これでいいのだろう。
トールは狼の亡骸のほうへ歩いていった。
狼の亡骸の側には今も子狼がいて、親狼から離れようとしなかった。それどころか時折威嚇するように歯をむき出しにして唸っている。
親狼を守っているつもりなのかもしれない。
本気になれば直ぐに子狼を離す事はできるだろうが、やはり可哀相という思いの方が強い。
かといってこのままの状態で放っておくわけにもいかない。人と違い説得など出来るはずもないため、少々強引にでも引き離すしかないだろう。
そんな事を考えていると、モンスター袋からスラきちがひょこりと出てきた。
「トール、イイカ」
「何?」
「少シ話シテミタイ」
「あの狼とか?」
「ソウ。説得シテスル」
それを聞いて『話せるのか?』とも思ったが、スラきちがドランとも話している事を思い出すと、子狼と話す事も出来るのではないかと思えた。
「分かった。任せるよ」
「オウ」
スラきちはそのまま子狼の方へ進んでいった。「ピキィ、ピキィ」「ガウ、ガウ」と何やら会話をしているようだが、トールには何を言っているのか分からない。『言語スキル』が上がっていけば分かるようになるのだろうか。
無理やり引き離すよりは、納得して別れた方がいい。相手が動物だから諦めていたが、スラきちが何とか出来るなら助かる。
トールがスラきちを見守っていると声がかかる。
「魔物使い、だったんだ」
驚いた表情のゼシカの言葉にトールは初め何を言っているか分からなかったが、少ししてそれを理解した。
「違うよ。少しだけ似たような能力のあるアイテムを持ってるんだ。だから仲間になってくれた」
モリーやスカウトリングのことを知らない人から見れば、モンスターを仲間にしているトールが『魔物使い』に見えてもしょうがない事だろう。
とりあえず自分が『魔物使い』の真似事が出来る訳、モリーからスカウトリングを貰った経緯を話す。スカウトリングのことをついて他人に話すなという口止めはされていない。
「そうなんだ」
トールの言葉に納得したのは、ゼシカもモリーと言う人物を知っていたからだ。モリー自身が一流の冒険者であり、カジノのオーナーの一人でもあり、不可思議なアイテムなどの収集家でもある。
冒険者としてある程度のレベルに達してゴッドサイドにいるなら、モリーの存在は当然のように知る事になるからだ。
モリーならそんな不思議なアイテムを持っていてもおかしいとは思えなかった。
その内に話が終わったのかスラきちがこちらに向かって来ると、その後を追うように子狼も走って来た。
子狼も一緒に来ると言う事は説得が成功したのだろう。
「トール、終ワッタゾ」
「ご苦労様」
「コイツモ一緒ニ来ル」
「そうか、一緒にか……って一緒!それって仲間になるって事か」
「ソウ、仲間、一緒ニイル。一緒ニ冒険スル」
スラきちはトールを見上げ、子狼もその横でちょこんと座ってトールを見上げていた。
何か予定と違う展開にトールは少し戸惑ってしまった。
元々親狼の亡骸から子狼を引き離すためだったのだが、いつの間にか子狼の面倒を見ることになっていた。
確かに子狼については考えなくてはいけないことだった。親を失い一匹になってしまった子狼をこの場で放っておく事など出来ない。となればトールかゼシカたちのどちらかが面倒を見ることになるだろう。
群れが近くにいればいいのだが、夜の森の中を探すのは危険極まるし、そもそも見つけた群れに襲われるかもしれない。
結局のところ自分が面倒を見ることになるだろうとトールは思えた。今でもスラきちとドランがいるのだ。ここで子狼が一匹増えたところで、それを養っていけるだけの財産はある。
「分かった。これからよろしくな」
「ガウ」
トールの言葉が分かったかのように子狼は吼えた。
「あまり口出しする事じゃないかもしれないけど本当にいいの。あなたはどちらかと言えば巻き込まれたほうだし……」
心配そうに声をかけたのは、様子を見ていたゼシカだった。
「こういうのも何かの縁だしね。スラきちたちもいるし、僕のほうはかまわないよ。どちらかといえば、君たちの方が先に助けようとしていたし、いいのかなあと思うんだけど」
「わたし達しかいないなら面倒見ていたと思うけど、それだって見捨てるって言う選択肢が選べないからだけだから、引き取って面倒見てくれるならありがたいくらいよ」
「なら、何も問題はないね。この子はこっちで引き取るよ」
「あなたがそう言うならこっちは文句ないんだけど……」
納得したが、まだ先ほど言ったとおり巻き込んだ事を気にしているのだろう。少し歯切れが悪かった。
その気持ちが分からない訳でもなかったが、今はするべきことを終える事が先決だと思えた。
「じゃあ、早くあの親狼を埋葬しようか」
「分かったわ」
トールは親狼の亡骸を抱えると、出来た穴まで持っていくとそこに横たえた。そしてゆっくりと土をかけていく。
子狼はそれを悲しそうに見つめながら「クーン」と鳴いていた。
場違いかもしれないが動物にしては随分と賢い。もしかしたら普通の狼ではないのかもしれないと思えた。
埋め終わった場所を前に子狼は大きく遠吠えをした。それは別れの言葉のような気がした。
****
事が終われば後は別れるだけ、そのため別れ言葉をかけようとした時だった。
何かが近づいてくる気配がした。
索敵能力ではなく、今までに鍛えられた感覚がそれを知らせてきた。
剣の鞘に手をかける。
明確な敵意、いうなれば殺気は感じない。戦闘音か、『イオ』の爆発音か、子狼の遠吠えか、おそらくどれかによってここまで来たのではないだろうか。
トールの目は闇の中でこちらに近づく何かを捕らえた。
ぼんやりとだが見る事の出来るその造形は二足歩行、おそらく人間だ。人数は二人組み。
ゆっくりと慎重にこちらに向かっていた。
敵ではない……とトールは感じているが油断はしない。
夜の森を明かりもなく歩いているというのは、どう見ても怪しいからだ。
そして戦闘行為の跡地にいる自分たちも、傍から見れば怪しいであろう事は想像出来る。
なんと言ってもトールは相手に気づいているが、相手がこちらに気づいているかは分からない。
この闇の中で出会ったとき、相手がパニックにならないとは言えない。
とりあえず近くの枯れ木に『まどうしの杖』を取り出して火をつける。
これで向こうからはこちらの姿が見えるだろう。人相手の場合、火は奇襲の目標にもなるが、こちらが警戒している限りこの心配はしなくてもいいだろう。
突然のトールの行動にゼシカたちは驚いたようだが、トールの視線の先を見ることでその理由も想像できた。
ゼシカたちにも緊張が走るが、それは長くは続かなかった。闇の中を近づいてきたのが誰なのか、彼女たちには分かったからだ。
「あっ、ちょっと待って、大丈夫よ。こっちに来ているの仲間だから」
鞘を握る手に力を込めるトールにゼシカが言う。
トールは一応鞘を握る手を緩めるが、離すまではしない。万が一という事があるからだ。
「エイト、ミーティア」
「二人とも、そこにいるのか」
バーバラが闇の向こうに向かって声をかけると、答えるように男の声が返ってきた。
「うん。いるわよ」
「分かった。そっちに行く」
闇の中の二人がこちらへ向かってくる。先に歩く一人が後ろの者を気遣いながら来るのが分かった。
来たのは男女の二人組、黒髪で戦士風の男と男に守られるようしてにいる黒髪の少女だった。
名前と見た目だけでもこの二人が誰なのかトールには分かった。DQⅧの主人公とヒロインで別名馬姫のミーティアだろう。
ゼシカとバーバラは戦っているところを見て疑問に思っていた事があったのだ。二人とも魔法使いと思えるのに、二人だけで冒険をしているのはおかしいのではないかと。
だが、他に仲間がいたのなら納得も出来た。
「二人ともこんなところにいたのか、ってそちらの人は……」
「困っていたところを助けてくれた人よ」
「トールです」
トールは名乗り会釈をする。
「そうですか。助かりました。あっ、僕はエイトです。そして彼女は……」
「ミーティアです」
人の良さそうな笑顔をしながら二人は名乗った。
「まあ、偶然近くにいただけですから気にしないでください。じゃあ僕はここで」
迎えが来た以上、別れるのに丁度いいと思ったのだ。
挨拶もそうそうに立ち去ろうとしたが、それを引き止めるように声がかけられた。
「こうして会ったの何かの縁ですし、少し話をしませんか。向こうで僕らの夜営地もありますから」
その言葉にトールは少し考える。
ライバルだからと言ってすぐさま敵対するわけではないが、かといって馴れ合うのが良いとは思わない。
それなら直ぐに断ればいいのだろうが、トールがこの競技会に参加した目的を考えると、多少の馴れ合いをしてもいいのではないかとも思えてきた。
トールの参加の目的として、フローラの婚約を破棄させるというものがある。
トールが勝ち抜く事が出来れば一番いいのだが、それでも保険はかけておきたい。その保険が他の参加者も巻き込むことだ。この巻き込む相手としては女の参加者が望ましい。女ならば婚約相手になりえないからだ。
それを考えるとゼシカ、バーバラ、ミーティアは望む相手となる。
エイトにしてもミーティアの側にいる以上、他の女性と関係することはないのではないかと思う。もっともエイトに関してはDQⅧのイメージがあるため、相手がミーティアだトールが思っているだけで、実際どういう関係なのかは分からない。
ゼシカ、バーバラとパーティーを組んでいる以上、どちらかと恋人同士ということも考えられるし、また誰とも友人以上の関係ではないのかもしれない。
このあたりについては、一度でもいいから話をしてみない事には分からない。
そして女性陣とも話はしてみたかった。実際に頼みごとが出来る人柄なのかどうかを知りたかった。
トールは基本的にゲームで感じた人柄、善人である事を前提として考えているし、幸いにも今まであった人たちとは良好な関係を築けているとは思う。
だが、彼女たちがどうなのかは分からない。ゲームにしても表しているのは性格の一面でしかないだろう。
今回は人一人の今後に人生にかかわることでもある。トールが勝手に持っているイメージではなく、実際にどういう人間なのかが知りたいと思った。
ほんの少しの会話で相手の性格が分かるはずがない。トールはそれほど人生経験豊富ではないのだから。
それでもほんの少しぐらいなら感じ取れるかもしれないし、実際に彼女たちに頼まなければいけない時に、その判断をする切っ掛けの一つにはなるだろう。
それに頼まれる方にしても、一度でもちゃんと会話をした相手の方が頼み事をするのに通じるのではないかと思えた。
ここで話をすることは十分メリットのあることだし、それを抜きにしても4人とは話してみたいと思い、トールは頷いた。
****
その後自転車を回収してから、彼らの野営地へと向かった。場所は出会ったところから10分ほど歩いたところだった。
立派な白馬と幌付きの馬車があり、馬車自体に魔よけの効果があるらしかった。
バーバラ、ゼシカ、トール、エイト、ミーティアと焚き火を囲んで座る。スラきちと子狼はトールの足元にいる。
話をする前にミーティアがお茶の用意をしてくれるとのことだった。
その間にトールは子狼を仲間にするための用意をする。スラきちとドランで二度行なっているため、やり方は分かっていた。
そのトールをエイトたちは興味深そうに見つめていた。モンスターを仲間にするところなど見た事がなかったからだ。
まずはスカウトリングを身につけていることを確かめる。これが前提条件だ。
そして子狼の名を思い浮かべながら冒険者カードに触れさせれば、仲間になる事は成立する。ただ動物と思える子狼でも出来る事なのか分からない。
とりあえずはやってみるしかないだろう。
そうと決まればまず考えなくてはいけないのが、子狼の名前だ。
白毛で金の瞳をした狼。改めてじっくり見ると何となく神聖な感じがする。
今はトールが与えた干し肉に噛り付いている。スラきちから腹が減っていることを聞いて与えたのだ。
DQで狼と言えば思い出すのはDQⅦの『ガボ』だ。もっともゲームでは『ガボ』は魔法で人間の姿に変えられてしまっていた。
「まさか『ガボ』って名前じゃないよな」
「ガウ」
ぼそりと呟いたトールの言葉に返事をするかのように吼えると、子狼は干し肉をかじるのを止めてトールの方に振り向いた。
「えっ、まじで『ガボ』って名前」
「ガウ」
又の返事をするように吼える。
「……『ガボ』」
「ガウ」
名前として認識しているのかどうかは分からないが、『ガボ』という言葉に反応しているのは間違いなかった。
「スラきちはこいつの名前を知っているのか」
もしこの子狼が親狼から貰った名前があるならその名前でもいいと思ったのだ。子狼と話せるスラきちなら知っているかもしれないと思えた。
「知ッテル。デモ発音ムズカシイ。ソレニトールガ名前付ケタ方ガイイ。オレモドランモソレデ仲間ニナッタ」
確かにそうなのかも知れない。名前をつけると言うのは仲間にするときの大切な儀式の一つなのだから。
「そうだね。そうするよ」
そうなると思いつく名前は今となっては『ガボ』のみだ。
「君の名前は『ガボ』だ」
子狼を見てトールは言う。
「ガウ」
それに答えるように子狼は吼えた。
トールは冒険者カードを持つと、子狼の名前である『ガボ』を思い浮かべながら、冒険者カードを子狼に触れさせた。一瞬だけか冒険者カードが光った。これは子狼、『ガボ』がトールの仲間になった証だった。そして仲間になった事が分かる証として、『従魔の輪』を『ガボ』にはめた。
モンじいのところで登録をしていないため、完璧とは言いがたいが仲間になったことだけは確かだった。
その証拠にトールの冒険者カードからガボのステータスを見る事が出来た。
――― ステータス ―――
ガボ オス
レベル:1
種族:聖白狼
HP:47
MP:0
ちから:20
すばやさ:35
みのまもり:10
かしこさ:3
うん:2
こうげき魔力:2
かいふく魔力:1
装備:なし
こうげき力:20
しゅび力:10
言語スキル:0
聖白狼スキル:0(自動レベルアップ、ほえろ)
種族が聖白狼ということは、普通の狼とは違うと言う事だろうか。
そんなことを思っていると、横から見ていたエイトが話しかけてきた。エイトが言うには、聖獣と言われる特殊な分類に属する種族であり、神に仕える精霊や妖精などに近い存在らしい。非常に珍しい種族だった。
そもそもバーバラが狼に着いていったのは、子狼だったという事もあるが、それと同じぐらい白狼を珍しく感じて興味を持った事も大きく影響していた。
「それにしても結構簡単に仲間になるのね」
見ていたゼシカが言う。やり方に関してはトールも確かにそうだと思う。
そもそも仲間に出来るモンスターを探す事が難しいのだ。この時点で『魔物使い』かスカウトリングを持っていなければ、探す事すら出来ない。そのモンスターさえ見つける事が出来れば契約自体はそれほど難しくはないのだ。
そのことを話すと、ゼシカは納得したように頷いた。
こうしている間にお茶の用意が出来て皆に手渡された。
話す事と言えばやはり何故この森にいるのか、だろう。
トールは正直に競技会の『クエスト』としてこの森に来た事を話せば、ゼシカとバーバラも自分たちも同じだと同意をした。
先ほどまでお互いに競技者同士だと理解していたが、はっきりと口に出したのは今が始めてだった。
ただ予想外だったのが、エイトとミーティアは競技会に参加しておらず、あくまでゼシカとバーバラの手伝いだと言う事だった。
今でこそ4人は基本的にパーティーを組んでいるが、元々ゼシカとバーバラの組と、エイトとミーティアの組で別々のパーティーだった。
だが偶然知り合って、その時にお互いに不利な能力があり、それが補い合えると分かったため同じパーティーを組み始めたらしい。
ちなみに職種はゼシカとバーバラが魔法使い、エイトが戦士、ミーティアが僧侶とのことだ。
トールは職種が盗賊でスラきちやドランと言ったモンスターを仲間に探索をしていると言う事を話した。
何故、エイトとミーティアの二人が競技会に参加していないのかといえば、する必要がないからだ。二人は既にトルネコ商会から支援を受けている身なのだ。
ミーティアはトロデーン王国の王族として、エイトはその護衛の騎士として、王家の試練の一つとしてゴッドサイドに来ているのだが、世界中の王国ともつながりのあるトルネコ商会は、このゴッドサイドの迷宮に赴く王族に対してある程度の支援をしていた。
もちろん王族としての身分を隠してゴッドサイドまで来て、そして腕試しを兼ねて競技会に出る者を止める手立てはないが、そうではない者には参加自体が認められていなかった。
「なるほどなあ」
エイトたちの話を聞いて頷きながら、この二人には頼めない事だと思った。そしてふとエイトとミーティアの方を見ると、何か不思議そうな表情でトールを見ていた。
「……何かした?」
「いや、驚かないんだなあと思って」
「身分の話をしますと、それ以後身構えてしまう方もいますから」
確かにそれはそうだろう。
ただトールとしては事前にゲームとして知識があり、ゲームとは違うはずのこの世界も似ている所が多々ある事が分かってきたため、二人にしても王侯貴族に連なる身分であろう事が想像できていた。
それにその他にも理由はある。
「まあ、それもそうかもしれないけど、他の知り合いにも王族の人っていますしね」
リュカやドリスもそうだし、王位継承権はなくなったとしてもアリーナもそうだ。それにトルネコ商会の直系であるフローラもある意味お姫様と言ってもおかしくないだろう。
「そうなのですか」
「うん、そう」
ミーティアの言葉に簡潔に答えた。
「それにしても王様になるには、ここの迷宮に潜らないといけない決まりでもあるのか?」
不意に思った疑問が口から出た。
「どういうことだい?」
「さっき言った知り合いの王族でね、彼が言うには王様になるための武者修行の一つとしてこのゴッドサイドに来たって言ってたんだ。だから王族にはそういう決まりでもあるのかと思ったんだ」
「そういう決まりがあるわけではありませんわ。ただ王族は民を国の領土を守る責務があります。そもそも王とはその地域で一番強かった者が周囲の者を束ねているうちに出来上がったものといっても過言ではありません。王自身が強くなる必要はないかもしれませんが、それでも有事の際に先頭に王族が立つのと立たないのでは兵士の士気が違います。万が一の時、己の身を守るためにもある程度の強さを身につけるのが、王族としての責任の一つと言われてきました。わが国としてはそれが指針となっていますし、そのための鍛える場としてゴッドサイドの迷宮は最適のものとして利用しています。この辺りのことは他国でもあまり変わりはないと思いますよ。ですからトールさんのご友人の方もここに来ていると思います」
ミーティアの言葉に何となく納得した。DQでもⅡ、Ⅴ、Ⅵ、Ⅷで主人公が王族に血を引いていることを考えれば、その地位に着くものは強くなる可能性を秘めているのも分かるというものだ。
「ところでトールさんのご友人は何処の国の方ですか。出来ればご挨拶をしたいのですが」
「挨拶?」
「ええ。迷宮で身を鍛えるのもこの街に来る目的の一つですが、先ほど言ったようにこの街には様々な人が訪れます。中にはわたしたちのような王侯貴族もいます。その方々と何かしらの縁を結ぶのも目的の一つなのです」
「それなら構わないと思うけど」
「どこの方か分かりますか」
「グランパニアですよ」
「あの城塞国家の、ですか」
「多分、そうだと思いますよ。王子のリュカとその許婚のドリスが来てます。今は競技会の事があるから直ぐにとは言えないけど、後でよければ紹介しますよ」
「お願いしますわ」
後は迷宮探索についてたわいないことを話して夜はふけていった。
トールはそのままエイトたちと共にその野営地で一夜を過ごした。
****
翌日になると、再び『ルラムーン草』の探索となる。
行き先は同じなのだが、一応はライバル同士だ。
縁も出来て目的は果たせたため別れて行こうとしたのだが、目的地が同じなら一緒に行こうと、エイトに誘われた。
実質的なライバル関係になるはずのゼシカとバーバラからも反対の声は無く、それどころか賛成するほどだった。
昨夜、助けられた時や、夜営時の迷宮探索の話で、トールの強さに興味を持ったようだった。
確かに『ルラムーン草』は群生しているため、余程の事がなければ奪い合いなどにはならないが、ここまで馴れ合ってしまっていいのかと、今更ながら思ってしまった。
だが森の中がどうなっているのか分からない以上、周りに気を配りながらの進行は精神的疲労が著しい事になるだろうし、新しく仲間になったガボにも気を配らなくてはいけないだろう。その苦労は昨日よりも確実にあるだろう事を考えると、エイトの誘いは渡りに船だった。
結局トールはエイトたちに同行させてもらう事にした。
馬車に揺られて目的地の向かう。
乗る前は揺れ等が酷いのではないかと思ったが、流石は王族が使用するために作ったものだ。良いクッションが使ってあるのか揺れを気にすることなく進んでいった。
それにしてもやはり多人数での冒険は心強いものだった。
もちろんトールとしても世話になりっぱなしではない。
聖水、トヘロス、馬車の魔よけの刻印などがあっても、モンスターに襲われる事はある。そういう時は進んで戦う事にしていた。
モンスターを倒した後だが、トールだけなら直ぐに拾えるアイテムだけを手に入れて、後は放っておくのだが、ゼシカやバーバラは倒したモンスターを見事に解体して有効活用していた。
世界中を冒険するつもりなら、やはり獲物を解体する技術を身につけていた方が食料関係にも役立つだろう。ただこれまでどおり、ゴッドサイドで迷宮の攻略を目指すだけならば、身につける必要もない。
ただこうやって街の外に出て冒険をしていると、この世界にも興味が出てくる。
今まで元の世界に戻ることを第一として、ゴッドサイドから出ることなく迷宮を探索していたが、外の世界に目を向けるのも悪くないのではないかと思えた。
何度かモンスターに襲われることになったが、その全てを跳ね除け、トールたちは『ルラムーン草』の群生地に着いた。
手に入れた宝 : 石のやり(攻+8)1個、かぜきりはね(1個)、やわらかウール(2個)、ちょうのはね(2個)
森の中でぽっかりと開いた場所が『ルラムーン草』の群生地だ。
だが昼間ではただの草原に見える。どれが『ルラムーン草』なのかはまるで分からない。やはり夜になるのを待つしかなかった。
『ルラムーン草』の特性はゼシカたちも知っていたため、日が落ちるまでここで待つ事になった。
日が暮れていくと、草原のあちらこちらで仄かに光るものが見え始めた。
『ルラムーン草』だ。
日が照っている間は見る事の出来ない花が咲いていた。青白く光る花は辺りを幻想的な雰囲気に変えていた。
その花の一つをトールは手折った。少しの間は光を放っていたが、ゆっくりと消えていった。
トールは『ルラムーン草』を手に入れた。
――― ステータス ―――
トール おとこ
レベル:31
職:盗賊
HP:293
MP:95
ちから:98+5=103
すばやさ:78+60+25=163(+10%)
みのまもり:41+5=46
きようさ:88+20+40=148(+10%)
みりょく:50
こうげき魔力:38
かいふく魔力:49+8
うん:81
・装備
頭:しっぷうのバンダナ(守+11、速+20、回魔+8)
身体上:銀のむねあて(守+25)
身体下:ブルージーンズ(守+11)
手:あおのグローブ(守+5、器+40)
足:ちんもくのブーツ(守+9、素+5)
アクセサリー: スカウトリング
武器:光の剣(攻+70)【錬金】
盾:ライトシールド(守+10)
こうげき力:211
しゅび力:122
言語スキル:4(会話2、読解2、筆記)【熟練度:31】
盗賊スキル:8(索敵能力UP、すばやさ+10、ぬすむ、器用さ+20、リレミト、ピオリム、しのびあし、盗人斬り、ボミオス、すばやさ+50、とうぞくのはな)【熟練度:80】
剣スキル:9(剣装備時攻撃力+5、ドラゴン斬り、メタル斬り、剣装備時攻撃力+10、ミラクルソード、はやぶさ斬り、剣装備時攻撃力+20、会心率UP、魔神斬り)【熟練度:85】
素手スキル:2(未装備時攻撃力+10、あしばらい)【熟練度:85】
ゆうきスキル:6(自動レベルアップ、ホイミ、デイン、トヘロス、べホイミ、ライデイン、いなづま斬り、マホステ、消費MP4分の3)【熟練度:34】
特殊技能:闘気法(オーラブレード、ためる)、スカウト、アバン流刀殺法(大地斬、海波斬、空裂斬、アバンストラッシュ(偽)、常時ちから+5、常時身の守り+5)
経験値:185355
――― 仲間のステータス ―――
スラきち ?
レベル:24
種族:スライム
HP:27
MP:36+15
ちから:13
すばやさ:39
みのまもり:25
かしこさ:49
うん:51
こうげき魔力:9+15
かいふく魔力:9
装備: モンスター袋の中にいるためアクセサリーのみ:ソーサリーリング(攻魔+15、MP+15)
こうげき力:12
しゅび力:24
言語スキル:1(会話1)
スライムスキル:4(自動レベルアップ、ホイミ、スクルト、ルカナン、リレミト、メラミ)
ドラン ?
レベル:16
種族:ドラゴンキッズ
HP:126
MP:0
ちから:87
すばやさ:71
みのまもり:53
かしこさ:36
うん:59
こうげき魔力:4
かいふく魔力:4
装備:
武器:魔よけのツメ(攻+43)【4000G】
防具:けがわのマント(守+15)
アクセサリー:命の指輪(守+6、自動回復)
こうげき力:130
しゅび力:74
言語スキル:0
ドラゴンキッズスキル:5(自動レベルアップ、ひのいき、つめたいいき、あまいいき、おたけび、かえんのいき、こごえるいき、やけつくいき)
――― ステータス ―――
ガボ オス
レベル:4
種族:聖白狼
HP:63
MP:0
ちから:29
すばやさ:40
みのまもり:14
かしこさ:7
うん:8
こうげき魔力:3
かいふく魔力:2
装備:アクセサリー:まよけの聖印(守+6、即死無効)
こうげき力:29
しゅび力:20
言語スキル:0
聖白狼スキル:0(自動レベルアップ、ほえろ)
所持金:21725G (預かり所:280000G)
Gコイン:26570
・持ち物『大きな小袋』
道具:やくそう(20個)、上やくそう(11個)、特やくそう(17個)、毒けし草(31個)、上毒けし草(5個)、特毒けし草10個、まんげつそう(2個)、きつけそう(11個)、おもいでのすず(5個)、せいすい(16個)、いのちのいし(6個)、まほうのせいすい(35個)、けんじゃのせいすい(2個)ばんのうくすり(3個)、ゆめみの花(5個)、キメラの翼(1個)いのりのゆびわ(3個)、ドラゴンシールド(守+25)1個、毒針(攻+1)、プラチナソード(攻+51)、かくれみのふく(守+20、避+5%)1個、ちからのルビー(攻+9)1個、命の指輪(守+6、自動回復)
石のやり(攻+8)10個、かぜきりはね(4個)、やわらかウール(5個)、ちょうのはね(2個)
大事な道具:モンスター袋、リリルーラの粉、オクルーラの秘石、自動地図、鍵1個
所持金:18052G (預かり所:280000G)
Gコイン:26770
・預かり所:変わらず
――― あとがき ―――
上手く文がまとまりません。何か思ったより時間がかかってしまいました。
さて、DQキャラで最初にパーティーに入ったのはガボ(狼バージョン)です。
『ルラムーン草』を手に入れましたが、第二試練の終了までは行きませんでした。
次回は、第三試練の開始までになると思います。
それでは、また会いましょう。