DQD 22話
『グランマーズの占い館』を出た後、トールは一度宿屋に戻った。
トラウマは治ったと思うが、確認をする事も必要だと考え、万が一を考えて倒れても大丈夫な宿屋まで戻ったのだ。
トールは銅の剣を『大きな小袋』から取り出して、鞘から抜く。
やはりフラッシュバックもなければ、気分が悪くなる事もなかった。
剣を持つ事はこれで大丈夫だと確認できた。後はモンスターと戦う事が出来るかどうかだが、これは実際に迷宮に行ってみるしかないだろう。
そのためにはまず装備を整えなければいけない。
あの日失った装備はそのままで買い替えもすんでいないからだ。
まだ日が暮れてしまうには時間がある。トールは街に出る事にした。
とりあえずは剣と体の防具だ。
コインを換金すればGは十分すぎるほど手にする事が出来るが、レベルや階層の規制で最上級の装備をすぐに買う事は出来ない。
ただカジノの賞品はそれに含まれないため手に入れる事も可能だ。カジノの賞品はGに変えると割高になるが、それでも一品物や数点物が商品として並べられル事がある。
つまりゲームのカジノのようにいくらコインを儲けられたからといって『はぐれメタルの剣』を何本も入手できない。あれほどの剣になると世界に1本、多くても片手の指の数ほどしかないだろう。
ちなみに今交換所にあるアイテムは以下の通りだ。
まほうのせいすい:50枚
いのちのいし:300枚
エルフののみぐすり:500枚
いのりのゆびわ:700枚
ミスリル鉱石:1000枚
オリハルコン鉱石:1800枚
スパンコールドレス:1300枚
かくれみの服:1500枚
ドラゴンシールド:3000枚
プラチナヘッド:3000枚
グラコスのやり:8000枚
とりあえずは『いのちのいし』を5つほどと、『まほうのせいすい』を10個ほど、もしもの時を考えて手に入れておく。
これでザキ・メガンテなどの即死の呪文をくらっても身代わりになってくれるし、MPの回復手段も手に入れた。
防具として『かくれみの服』と『ドラゴンシールド』を入手した。
『かくれみの服』はともかく、『ドラゴンシールド』は常時使う気はない。あまりに大きく重いため、トールの戦闘スタイルには合わないからだ。ただ炎や吹雪からの攻撃に対する耐性があるため、もしもの時を考えて手に入れておいた。
プラチナヘッドは顔全体を覆うフルフェイス型であるため、視界が見えにくくなるため使いづらく感じるし、グラコスのやりは使う予定がない以上無駄になるだろう。
後は、10000G分だけコインを換金しておいた。
これでまずカジノへの用は終わった。
(所持金:3258G → 13258G 、 Gコイン:42340 → 33840)
次はどんな剣を入手するか、だ。少なくとも今入手できる剣では最強の品を手に入れたい。
主だった武器屋を回りながら剣を探すが、やはりどの武器屋も似たような品揃えだった。今の時点で手に入れられる剣として最上の物は『破邪の剣』だった。使うと『ギラ』の効果がある優れものだった。
買ったのはバンダナを巻いた少年が店番をしていた店だ。エルシオン学園に通っており、トールがヒュンケルの元に修練に行くのを見かけたらしく、少年の方から声をかけてきた。
魔法使い志望で何処にでもいるような普通に少年に見えた。
久しぶりに同年代ぐらいの少年といろいろ話しこんだ。そしていざ自己紹介をしたときには驚いた。少年の名はポップといったからだ。
よく見れば確かにあの『ダイの大冒険』のポップに見える。ただし連載初期の一般人といって差し支えないころのポップだ。
トールの印象としては『大魔導士』を名乗っているポップの方が強かったため、まったく思い至らなかった。
よく思い出してみればポップの実家は武器屋だったはずだ。比較的平和なこの世界ならこうして店番をしているのも当たり前といえるかもしれない。
そんな縁もあってトールはここで剣を買う事に決めた。
店番のときに品物を売れると小遣いが増えるらしくポップはえらく喜んでいた。
そうして『破邪の剣』を手に入れたのだが、この剣に関してポップが少しだけ面白い話を聞かせてくれた。
曰く、今売りに出ている『破邪の剣』はばったものである、という事だ。
そもそも破邪などと大層な名前がついている割には、この剣はさほど強くもないし、数もたくさん存在する。それが何故かといえば、今の世で『破邪の剣』といわれているものは全てレプリカだというのだ。
実際の『破邪の剣』はもっと強力な魔法剣らしい。それこそ伝説レベルの剣だという。というのも、ポップ自身が一度父親の知り合いの鍛冶屋で、その『破邪の剣』を見たらしい。装飾などの造りは似ているが、一目見るだけでその違いが分かるだけの迫力があったそうだ。
事の真贋については父親に確かめたから、父親が嘘をついていない限りは正しいだろう。
それを言われると確かに『破邪の剣』は名前負けしているところがあるため、話にも納得出来た。
とはいっても、この『破邪の剣』でも十分に役に立つレベルのものだし、その話が本当だとしても、真の『破邪の剣』を手に入れられる事などないだろう。
だがちょっとした雑学としては面白かったと思えた。
後、他の防具で買い換えが出来る物も、この店で換えておいた。
・装備品
頭:おしゃれなバンダナ(守+7、回魔+5)
身体上:なし → かくれみの服(守+20、避率UP)
身体下:けいこぎズボン(守+5) → ブルージーンズ(守+11)【1300G】
手:なし → たびびとのてぶくろ(守+4、器+30)【660G】
足:皮のブーツ(守+2) → エンジニアブーツ(守+6)【150G 】
武器:なし → 破邪の剣(攻+40)【3500G】
盾:なし → ライトシールド(守+10)【1200G 】
アクセサリー:竜のうろこ(守+5)
何はともあれ一応、装備は整った。これで明日から迷宮探索に戻る事も出来るだろう。
ただ迷宮は変化期を迎えており、6階からの迷宮探索も最初からとなるが、すぐに6階に向かう気にはなれなかった。というのも、剣は持てたがモンスターを戦えるかどうかは別だからだ。
多分大丈夫だとは思っているが、万が一という事もある。
ここはやはりもう一度1階を探索してみて、弱いモンスターと戦うところから始めてみるべきだろう。
臆病かもしれないが、安心を得るためにもその方がいい。
トールはまず一階に向かう事に決めた。
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やはり心配しすぎだったのだろう。一階のモンスター相手には問題なく戦う事が出来た。元々レベル差がありすぎて敵ではないが、それでも剣を使って戦う事が出来たというのはトールに安堵を感じさせた。
とりあえず無理はしない。久しぶりであることもあって迷宮に慣れる意味もあり、1・2階といった低階層のみを探索する事にした。
一応スカウトリングに身に着けておく。もしもスカウト出来るモンスターがいることを考えての事だ。
(アクセサリー:竜のうろこ(守+5) → スカウトリング)
ブレスレットのように腕に装着するが、スカウトリングのアクセサリーとしての効果を発揮させるためには他のアクセサリーは外さなければならない。
アクセサリーは身につけるだけなら幾つでも身につけられるが、アクセサリーの効果を発揮させるためには一つしか身につけられない。そうしないとアクセサリー同士でその効果を打ち消しあってしまうからだ。
アクセサリーの中には特別な効果を発揮するものも多々ある。
今のトールはそんなアクセサリーを持っていないが、そのようなアクセサリーを手に入れる事が出来たなら、スカウトリングもスカウト出来るモンスターを見つけたときに付け替えるようにしなければならないだろう。
面倒な事かもしれないがしょうがない事だろう。
1階、2階にいるモンスターと出会っても、相手の方から逃げるようにもなってきた。
その時わざわざ追いかけるのも面倒だったため放っておく事が多いが、その煩わしさを多少なりとも解消する方法もあった。
それが今回買った『破邪の剣』を使う事だ。
『破邪の剣』は剣であると同時に魔法具でもある。
剣を頭上に掲げて剣の名を叫ぶ。この場合『破邪の剣』と叫べば呪文の『ギラ』と同じ効果が発揮され、剣の刀身から閃光が放たれる。
1,2階のモンスターならこれでお仕舞いだ。しかもMPを消費しないのだから、何度でも使えるのが良いところだ。
もっともそれよりもすばやく逃げるモンスターの方が多いため、結局は逃げてしまうし、そもそも近づいてくるモンスターが少なくなった。
とりあえずは深く考えずに迷宮を歩き回った。
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戦える事が確認できたため、トールは一度迷宮を出るとモリーのところへ訪ねることにする。
聞きたい事があった。
訪ねたところで直ぐに会ってもらえるとは思っていなかったが、この時はすぐさま会ってくれた。今日は会うための予約が出来れば良いと思っていたが、会う事ができるのは僥倖だった。
話をするのは以前にも招かれたオーナー室だ。
トールがまず聞いた事は、なぜバトルロワイアルでの賞金を貰えたのか、だ。
確かにトールは何一つルールを破っていないとはいえ、参加モンスターである『スラリン』から話を聞いている。
荒唐無稽な話だが、オーナーであるモリーがそれを知っている以上、反故にする事も出来るだろう。それにより得られるコインは30000枚なのだ。そのままGに換金してしまえば15万Gという大金になる。
当初は気にしていなかったが日にちが経つにつれて、不気味な不安を感じてしまう。実質ただで貰えた様なものだ。
そして一旦気になるともう無視する事が出来なくなった。何か裏があるのではないかと勘繰ってしまうのだ。
だがそれに対するモリーの答えはシンプルだった。
「わたしの趣味につき合わせようというのだ。その位安いものだよ」
モリーの言う趣味とはモンスターの保護だった。とはいっても全てのモンスターというわけではない。
モリー自身も『魔物使い』で様々なモンスターを仲間にしており、そうしている内にモンスターの中には元々邪悪な心がないモンスターもいることを知った。だがそんなモンスターも普通の冒険者から見れば、邪悪なモンスターを何一つ変わらない。
そんなモンスターを何とか助けようとして考えたのが、スカウトリングだ。
モンスターとは邪神や魔王の巨大な力を切り離して造られたもので、そのため倒すと力の塊に戻り、それが経験値の元となる。それは邪悪な心があろうかなかろうが変わらない。
スカウトリングはモンスターを倒して力の塊になったとき時、そこに邪悪な因子があるかどうかを判別し、それがないなら経験値として取り込むのを阻害する効果を持っているのだ。
そうすることによって、力の塊はまた再びモンスターをしての形を取り戻していく。
この時にモンスターは意識に少しの空白があり、その時に話しかける事により『魔物使い』のように仲間にする事が出来るのだ。
一種の刷り込みに近い。人が敵でない事を教えるのだ。
結論から言えば、スカウトリングさえあればモンスターの言語が分からなくても何とか仲間する事は出来る。
だがモリーとしてはモンスターと仲間としての絆を深めるのには意思の交換が出来た方が言いと思っており、そのためモンスターと話せることがスカウトリングを渡す条件の一つにした。
あとスカウトリングを作るにも手間がかかり、誰にでも渡せるほど数があるわけではないという理由もある。
元々がこの趣味からはじめた事のため、使うべき人を探すのに15万G 使ってもかまわないという思いもあるのだ。
第一その保護したモンスターを生活させるため、一つの無人島を丸々所有しモンスターに開放しているのだ。
金持ちの度合いからすれば、トルネコ商会に近いものがある。15万Gなど微々たる金額に過ぎないのだ。
ならばどうして闘技場などでモンスターたちを戦わせるのかといえば、それはモンスターたちの闘争本能を開放させるための場所だという事だ。
保護されたモンスターは、邪悪な心はなくともモンスターとしての本能がなくなったわけではない。そのため闘技場やバトルロードでその闘争本能を十分の発揮させる事にしたのだ。
金持ちの道楽といってしまえばそれまでの事だろう。だが一応の筋は通るためトールは納得する事にした。
次に実際にはどのぐらいでモンスターがスカウト出来るのかを聞くと、大体0.1%、つまり1000匹に1匹くらいいるらしい。
ただ多くの人はその存在に気づかずに倒してしまう。
基本的にスカウトできるモンスターは単独行動をしているため、モンスターが一匹でいる場合にはスカウトリングをつけて戦うぐらいしかやり方はないが、『盗賊』という職の場合は、少しだけ他の方法もあるとの事だ。
それは索敵能力を使った時に分かるモンスターの動きで明らかに奇妙や動きをした時や、周りのモンスターから追われているような、または逃げているような動きをしているなら、それはスカウトできるモンスターである確率が高い。ただあくまでも高いだけだ。
邪悪な心を持たないモンスターは他のモンスターにとっても敵になるらしい。
これは行動指針の一つにはなりえた。
最後にもっとも疑問に思っていたことをトールは尋ねた。
「ぼくがスカウトリングを使わないとは思わなかったんですか」
「わたしは自分の目を信じているよ。そしてそれは正しかった。ボーイがこうしてここに来ている事がそれの証にならないかね」
そう言われてはトールに言葉の返しようもなかった。
****
とにかく一度はスカウトがどういうものか体験しておきたかった。
モリーの話では、一番スカウトできるモンスターはやはりというか、予想どおりというべきか、『スライム』だった。
今までの統計的には変化期を向かえると、スカウトできる『スライム』が現われるらしい。そしてこの前の変化期以降に『スライム』がスカウトされていない。
他の冒険者に倒されていなければ、1階か、2階の何処かにいるのではないかと言われた。
もっとも入り口は幾つかあり、トールの使っている入り口から続く迷宮にいるとは限らないため、いくら探しても見つからない場合もある。
その場合は運がないと諦めるしかない。三日もあれば1、2階の探索も終えるだろうから、その間に出会わなければ6階以降の探索を再開しようと決めた。
二日目の事だ。索敵能力を使った時におかしな感じを受けた。明らかにモンスターが固まって集まっているのを感じた。
どう考えても不自然な感じを受ける。
部屋のような場所でモンスターが集まっている。もしかしたら、ここにもモンスターハウスのような場所があるのかもしれないがあまりにも固まりすぎているようにも感じる。
放っておくわけにもいかないだろう。
それにこの階層ならどれだけモンスターが集まってもトールの敵ではないし、面倒なら『破邪の剣』を使って薙ぎ払うのもいいだろう。
とりあえずその場所に向かう事にした。慌てては気づかれて逃げられるかもしれないため、音を立てないように注意しながら。
こっそりと覗き見るとおかしな事になっていた。十数匹のスライムが何かを取り囲むようにしている。そして小さい何かに向かって体当たりをしているのが見えた。
まるで円になってサッカーボールを蹴って回しているようにも見える。
何だろうか?
目を凝らして見てみると、それはスライムと同じような青色で玉葱方のゼリーのような物体、いやスライムそのものに見えた。ただその大きさが違う。普通のスライムは中型犬ほどの大きさがあるが、そのスライムは拳大ほどの大きさしかないように見える。
異端ゆえに苛めにあっているのだろうか。もしそうなら、人もモンスターもあまりかわらない。
それにトールにそのスライムに同情する資格などありはしない。モンスターを倒してここまで強くなった自分など、あのスライムにとっては苛めているスライム以上に恐怖の対象だろう。もっともモンスターにその意思があれば話だが。
とにかくいじめと思われる場面を見続けるのも気分がよくない。
ここで周りのスライムだけ倒す事も出来るが、そんなものは自己満足でしかないだろう。ならばここは自分の手で仕留めるべきだろう。
最低限の情けとして有無を言わさず一瞬で決める事にした。
「破邪の剣」
トールは剣を掲げ叫んだ。
不意をつかれたスライムたちは一瞬にして剣から放たれた閃光に焼かれて消えてしまった。あの小さなスライムを除いて。
倒れていたが消えることなくそこにいた。
「生き残った?!」
トールは驚くが、次の瞬間にはそのスライムが生き残った事に心当たりをつけた。つまりそのスライムこそがスカウトの出来るモンスターだったということだろう。そして先ほどの行為は虐めではなく、敵対行為だったのだ。
倒れた小さなスライムがムクリと起き上がる。
上目遣いで何かを語りかけるようなまなざしを向けている。
(スライムは仲間になりたそうにこちらを見つめている)
心の中にこんな言葉がよぎった。
「僕の仲間になるかい?」
先ほど倒そうとしておいて、今はこんなこと言っている自分に少し嫌悪を感じるが、そもそもスカウトするには一度は倒す必要があるのだから気にしない事にする。
「ピィー(ナル)」
仲間と言うにはあまりにも頼りないかもしれないが、トールにとっての初めての仲間がこの日出来た。
――― ステータス ―――
トール おとこ
レベル:17
職:盗賊
HP:115
MP:50
ちから:45
すばやさ:41+10(+10%)
みのまもり:20
きようさ:50+20+30(+10%)
みりょく:30
こうげき魔力:21
かいふく魔力:26+5
うん:31
こうげき力:100
しゅび力:83
言語スキル:3(会話2、読解、筆記)【熟練度:21】
盗賊スキル:3(索敵能力UP、常時すばやさ+10、ぬすむ、器用さ+20、リレミト)【熟練度:93】
剣スキル:5(剣装備時攻撃力+5、ドラゴン斬り、メタル斬り、剣装備時攻撃力+10、ミラクルソード)【熟練度:54】
ゆうきスキル:3(自動レベルアップ、ホイミ、デイン、トヘロス)【熟練度:43】
特殊技能:闘気法(オーラブレード、ためる)、スカウト
経験値:19842
所持金:6521G
Gコイン:33840
持ち物:やくそう(45個)、毒けし草(24個)、おもいでのすず(4個)、スライムゼリー(3個)、まんげつそう(2個)、せいすい(2個)、いのちのいし(5個)、まほうのせいすい(10個)、スカウトリング
――― あとがき ―――
このスライム、ポジション的にはトーポかゴメちゃんといったところでしょうか。
次回から本格的に迷宮探索の再開になる予定です。
それでは、また会いましょう