「いやー、探しましたよ。アヴィン王子。さあ、力を合わせ、共に戦いましょう!」
OK、マイル。
ロトの血を引く仲間が見つかって嬉しいのは分かる。それは俺も同じだ。
一つのテーブルを囲んで食事というのも悪くない。だが、それは俺のソーセージだ。
うん。確かに、このミートパイは絶品だ。だが、何故お前が当たり前のようにお代わりを三つも注文しているのだ?
そう言えば、お前と会うのは三年ぶりだが、そんなに大食漢だったか? まるで今まで何も食べてなかったかのような食欲じゃないか。
おい、急に黙るな。何とか言え。
「……マイル。久しぶりに会った親族にこんなことを言うのも何だが、勘定は別だからな」
「ええっ!! そ、そんなぁ」
もしやと思ったのだが、本当に文無しか。
「うう……。そんな冷たくしなくてもいいじゃないですか。これから一緒にハーゴン退治の旅をする仲なのに」
そんな雨に濡れた子犬のような縋る目で見るな。
「……まったく。分かったから、そんな顔をするんじゃない」
その一言で、パアッと顔を輝かせる。
「その代わり、説明だけはしてもらうぞ」
「それで何で、お前は金を持っていないんだ? 貰った餞別はどうした? それに、何でお前の装備は『棍棒』なんだ?」
「そう矢継ぎ早に質問しなくてもいいじゃないですか。まあ、一杯どうです?」
食事を終え、俺の泊まっている部屋にまで押し掛けたマイルは、女将に用意させたお茶をコップに注ぐ。
「……頂くよ」
大きく息を吐くと、俺もベッドに腰掛けた。
「最初の質問ですが、お金は持っていません。所持金ゼロです」
「……だろうな」
問題は、どうして金がないのか。
無一文なのに、この宿屋で何をしようとしていたのか。俺と出会わなければどうなっていたのかは、怖くてとても聞けない。
「次の質問です。サマルトリアを旅立つ時に、父より賜った軍資金ですが、とうの昔に使い果たしてしまいました」
「使い果たした?」
「ええ」
そう短く頷くと、事態を飲み込めない俺に説明を始めた。
「ムーンブルクが落城した以上、サマルトリア王家としても、ハーゴン討伐に行かざるをえないじゃないですか。その時に、大臣達の間で一つのことが持ち上がったんですよ」
「お前亡き後の後継者問題か?」
「いえ、それはシャノンで確定しているので大丈夫です」
バッサリと切り捨てやがる。
「僕、つまりロトの末裔が魔を討伐する旅に出るわけですから、『初代様』の偉業に倣うべきだと」
それって、もしかして……。
嫌な予感が止まらない。
「ええ、120Gと細々したものだけ渡されて、城を出されちゃいました」
「そ、装備はどうしたんだ?」
「もちろんそのお金の中から揃えました」
それで、『棍棒』と『革の鎧』か。俺より酷いな……。
「城の方で、装備は用意しなかったのか?」
「父はそうしようとしていたんですけどね。残念ながら、大臣達の反対にあったようで」
こいつ、もしかしてサマルトリアの宮廷で嫌われているのでは?
そんな考えが頭を過ぎる。
「何せ、相手は『伝統』ですから。こればっかりは王族であろうとも、どうしようもありません」
祖を同じくする三王国だが、それぞれ異なった家風を持っている。
家柄重視のローレシア。
実力主義のムーンブルク。
前例と慣例が第一のサマルトリア。
それぞれ長所と短所を有しているのだが、その短所がここに来て出てしまったようだ。
「時代遅れかもしれませんけれど、長老達は『温故知新』の一点張りなんですよ。困ったものです」
マイルはやれやれと肩をすくめる。
「わざわざ『勇者の泉』になんか行ったのも?」
「ええ、まずは『勇者の泉』で身を清めるのが慣わしですから。いやあ、本当に助かりました。ローレシアに行く前にアヴィン王子に出会うことができて」
笑い事じゃないだろ。
「……だけど、『勇者の泉』まで行ったんだろ? だったら、どうして金がないんだ?」
「と言いますと?」
俺の言っている意味が分からないのか、マイルはキョトンとした顔で首を傾げる。
「モンスターを倒して、金を稼がなかったのかと聞いているんだ」
「はい、全く」
キッパリと言い切りやがった。何を当たり前のことを聞いているのだと言わんばかりに。
「ちょ、ちょっと待て! お前、もしかして……」
「ええ。スライム相手なら一対一でも勝てる自信はありますけど。大勢のモンスター相手だと正直言って勝てる自信はありません」
つまり、ひたすら逃げの一手で、勇者の泉で身を清め、リリザまで辿り着いたのか。
「戦いはともかく、素早さには自信があるんですよ。僕」
もういい。分かったからそれ以上喋るな。
肉体的疲労に加え、精神的疲労が極限に達した俺は、そのまま仰向けに倒れ込んだ。
ああ、ご先祖様。これが俺に課せられた試練ですか?
本当に、魔物討伐なんて出来るのでしょうか?
【大丈夫大丈夫。俺等も最初の頃はそんな感じだったし】
【いや、最初から『銅の剣』を持っているなんて恵まれ過ぎでしょ】
【それもそうかも。やっぱり、基本は『棍棒』から始めないと】
【そうですよ。『銅の剣』は最初の憧れの武器ですから】
何だかご先祖様にも裏切られた気がする。
「そんなに心配しなくても大丈夫ですって」
だからお前は黙ってろ!
もういい。これからのことはまた明日考えよう。
……どうか明日はいい日でありますように。