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No.9968の一覧
[0] 「Ripple Circle」  14話(後編)更新。 本当にお久しぶりです。[taka](2013/05/12 23:27)
[1] 第1話   はじまる 未・来・に。 [taka](2010/08/14 17:06)
[2] 第2話   オペレーション・アクシデント(前編)[taka](2010/08/14 17:41)
[3] 第2話   オペレーション・アクシデント(後編)[taka](2010/08/15 09:11)
[4] 第3話   Sister&sisteR[taka](2010/08/15 12:21)
[5] 第4話   エンゼルコート[taka](2009/07/05 12:27)
[6] 第5話   初号機起動実験[taka](2009/07/06 14:02)
[7] 第6話   それぞれの朝[taka](2009/07/11 01:56)
[8] 第7話   エンジェル・アタック(前編)[taka](2009/07/19 18:19)
[9] 第7話   エンジェル・アタック(中編)[taka](2009/07/19 18:20)
[10] 第7話   エンジェル・アタック(後編)[taka](2009/08/12 19:15)
[11] 第8話   Angel Awakening      [taka](2009/08/12 23:28)
[12] 第9話   あの後…。[taka](2009/10/18 20:27)
[13] 第10話   三者三様 ‐痕‐[taka](2009/10/26 22:47)
[19] 第11話   新章[taka](2011/07/02 15:17)
[20] 第12話 変わりゆく…[taka](2011/07/09 09:45)
[21] 第13話   カムズ・ビフォア(前編)[taka](2010/08/13 15:57)
[22] 第13話   カムズ・ビフォア(後編) 加筆修正[taka](2010/12/19 17:39)
[23] 第14話 Angel Crying(前編)[taka](2010/12/29 20:53)
[24] 第14話 Angel Crying(中編)[taka](2011/05/04 13:20)
[25] 第14話 Angel Crying(後編)[taka](2013/05/04 23:01)
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[9968] 第14話 Angel Crying(中編)
Name: taka◆5e6b59bb ID:f80fbda5 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/05/04 13:20
第14話 Angel Crying(中編)





―――パァン。

 山林に木霊したソレが、発砲音だったのか、耳の中の破裂音か区別がつかなかった。


烈風が頬を突き抜け、鋭い痛みが走る。


バランスを失った私は、両手に構えた枝を落として倒れ込んだ。


充分に受け身を取れず、体を強く打ちつける。


「バカ野郎!その子は対象Rと一緒にいた生徒だぞ!」


「そんなこと言われても、後ろから…、いきなりだったんだ!狙いを逸らすのがやっとで」


くぐもった声が頭の中に反響して気持ち悪い。


左の二の腕は断続的にジクジクと焼かれるように痛んだ。


「きみ…、大丈夫か!?」


黒服の一人が、わたしの元に駆け寄って来る。


「いや!来ない、痛っ…!」


叫ぼうとして、新たな激通が走る。


「鼓膜が破れたのか?…しばらく痛みが引くまで、大人しくした方がいい」


動かせる右腕で、かろうじて左の耳を抑え、頷くのがやっと。


一歩間違えれば、わたしは死んでいた。


その現実を認識した体が、いまさら恐怖で震える。


「本当にすまない事をした。これ以上君に危害は加えない。本当だ、信じてくれ。


俺達はNERV保安部の人間だ。赤木ミクニの警護を担当している」


黒服が赤木先輩と同じ、NERVと刻印された赤いカードを差し出した。


「手を貸す、起きられるか?」


 しぶしぶ黒服の手を借りて立ちあがった私は、当初の目的を思い出す。


…そうだ!


赤木先輩は無事なの!?


赤木先輩のいる方向へと歩く。


わたし撃ったもう一人の黒服を見て、途中で足がすくんだけど、


「…本当にすまない。気休めにしかならないだろうが、銃はここに置いておく」


そう言って彼は、わたしと赤木先輩から距離を取った。



 私はやっと会えた先輩の姿を見て、思わず口元を抑えてしまう。


「なんて、…ひどい」


右の二ノ腕、右足のスネが折れ、紫色に腫れていた。


患部は木枝と布で出来た即席のギブスで固定されている。


巻かれた布は、黒服達のクタイやシャツの切れ端なのだと思う。


めくれたシャツから胸が露わになっているのを見て、


一瞬、セクハラかと思ったけど、そうじゃなかった。


左胸全体に大きな青痣が広がっている。


その上に何枚もの吸熱シートが貼られていた。


そして、素肌には、畑の農作業のときに見えた赤い筋が沢山残っている。


「彼女、…呼吸がとても弱いだろう?」


わたしを撃った黒服が、遠慮がちに話しかけてくる。


「おそらく、血胸だ。…胸部を強打して傷着いた肺に血が溜まる症状だよ。


 早く専門的な処置を施さないと手遅れになる」


そんなっ…!


「だったら、どうして早く救助を呼ばないんですか!」


先輩の惨状と撃たれたことへの恨みもあって、きつい口調で問い詰める。


黒服の男は、目を逸らして力なく答えた。


「…連絡手段がないんだ。あの落下物の爆風で、通信機材は全て破損した」


もう一人の黒服も、悔しそうに呟く。


「俺たちもケガで充分に動けない、徒歩で本部に向かっても、彼女の処置は間に合わないだろう」




 結局、何もできないまま10分近くが経過し、


先輩の顔色はどんどん青みを増していった。


これって保健の授業で聴いた覚えがある、確かチアノーゼ症状だ。


体内の酸素が足りていない状態。


このままじゃ、本当に赤木先輩が死んじゃう!


「赤木先輩、嫌ですよ、死んじゃ嫌ですよ。…ねぇ、先輩、赤木先輩」


「………ハァ……ハァ」


「お願いです。……目を開けてください。…先輩、赤木先輩!!」



 ピクッ。


「!?っ」


握りしめた左手に微かな反応。


先輩の瞼が、痙攣しながら、ゆっくりと開いた。


「……騒々、しいわね?」


「…、先輩?…先輩!!」


消えてしまいそうな、小さな声。


わたしを視界に捉えた先輩は、困惑の混じった表情になる。


「コダマちゃん?……どうして。……ついて」


先輩の左手が弱々しい動きで、わたしの左耳もとに辿り着く。


「……ケガ、……したのね、しょうのない子」


先輩の手は、ほんのり暖かかく、不思議と痛みが引いていった。


「これで…、大丈夫ですわね…」



 あれ?


先輩の声がはっきりと聞こえる。


頭の中で空気が震えるような不快感もなくなっている。


クイ、クイ。


軽く頬をつねられて、思考が現実に連れ戻される。


「コダマちゃん、あなた携帯…もっているかしら?」


「はい。…ここに、あります。…でも、壊れていて」


「…かまわないわ…貸して、…くれる?」


 
 赤木先輩は携帯を受け取ると、地面に置いて自分の掌をそっと上に重ねた。


『…物質構成、……解析、……再構築』


それは、日常ではありえない光景。


先輩が何か呟くと、その掌がほのかに光り、半径20cmの範囲の草花は白く変色して、崩れ落ちた。


「あの、……せん、ぱい?」


「…今見た事は、二人だけの秘密ですわよ?」


「え、…」


「…ヒミツです」


「…あの」


「…ヒミツ…!」


「……、わかり、ました」


射抜くように睨まれたわたしは、仕方なく頷いた。


すると、先輩は満足して微笑む。


「後の事は……、頼みますわね」


その言葉の後に、先輩は再び意識を失ってしまった。



 わたしは返された携帯電話を眺めまわす。


傷一つない液晶表示に電波が3本立ったていた。


それは、まさしく新品同然で。


…って、呆けている場合じゃない!


早く、これで助けを呼ばなくちゃ!!







NERV本部 第一発令所―――――


 「葛城一尉、要人警護第2班から入電です!」


迎撃を抜けた使徒のミサイルは、ミクちゃんと警護班の居るエリアのすぐ傍を加害範囲に収めた。


警護第2班との通信回復は、心の底からホッさせられた。


ケンちゃん、あなたに何かあると、技術部長が大変なことになるの。



 しかし、そんな私の安堵は、第一声に打ち消された。


『緊急事態だ。救援を至急現場によこしてくれ!』


警護班の“緊急事態”とは、警護対象に危害が及んだことを表す。


『スタッフが負傷した対象Mを発見した。右上腕・右脛部および左肋骨の骨折、血胸を併発している。


専門の治療が必要だ。応急処置に当たったスタッフ2名も、負傷して満足に彼女を搬送できない』


背後から、息をのむ音が聞こえた。


リツコの顔面は蒼白。


恋人と妹が常に死と隣り合わせの現場にいる彼女の境遇は、あまりに酷だった。



 その状況に、さらに追い打ちを掛ける報告が入る。


「再び使徒からの熱源体を多数確認、数は…20です!!……そんな、後続さらに30。合計50来ます!」


正に、最悪のタイミング。


『熱源体、第一波の初弾到着まで残り30分、第二波の初弾は45分と推定!』


親友の妹を、ましてや希少な資質を持つチルドレンを失う訳にはいかない。


「一般市民・非戦闘員の避難状況は?」


「非戦闘員の避難は完了。一般市民も間もなく完了します。熱源到達までには間に合うかと」


「そう、わかったわ。零号機をそちらへ向かわせます。剣崎主任、あなた方、警護班は直ちに退避してください!」


私はリツコに向き直る。


「赤木技術本部長、本件は今回限りの特例とします。


 今後、このような事態が生じた場合、作戦司令部は使徒殲滅を最優先に行動します。


 あなたは赤木ミクニ少尉の保護監督者として、彼女によく言い聞かせなさい。いいですね?」


本来、作戦行動中にあってはならないエヴァの目的外の運用。


救助対象がチルドレンであっても、悪しき例外はこれ以上作れない。


「はい、私から本人に、厳しく伝えます。葛城作戦部長、格別の配慮、心から感謝いたします」


そう言って、リツコは深く頭を下げた。


彼女の肩が震えていたのは気のせいじゃないだろう。


その直後、通信は私への専用回線に切り替わる。


『リツコにすまない、と伝えてくれ』


「甘えないで。そのくらい、後で自分から言いなさい」


『……わかった』






エヴァ零号機、プラグ内部―――――

 使徒のミサイルは、あたしとコダマちゃんの努力を一瞬で消し飛ばした。


「…そんな、メロン畑が」


黒煙を上げ続ける落下地点の光景が、外部通信でクローズアップされる。


何事かと、慌てて気持ちを切り替えたあたしに下されたのは、ミク姉ぇの負傷だった。



 『レイ、落ち着いて聞いてちょうだい……』


警護班の報告を受けて愕然となる。


チルドレンの暴露騒ぎで、放課後の裏山に行けなくなったあたしの代わりに、ミク姉ぇはコダマちゃんを手伝った。


そして、メロンの苗を安全な場所に移そうとしてミサイルの落下に巻き込まれたのだ。


『要救助者は4名、ミクちゃんと保安部スタッフ2名および、第一中学の一般生徒1名よ』


一般生徒が、1名。


ああ、なんてことだろう。


あたしには、その生徒が誰なのかハッキリと判ってしまう。


どうして……、本当に、どうして、こうなっちゃったの!!


あれだけの熱源体、エヴァ2体でも防ぎ切れる訳がないのに。


シンジ君一人に対応を押しつけていい状況じゃないのに!


なんでよ!!


 
 「行ってきなよ、綾波」


……、


……えっ?


「人命救助って、繊細な操縦が必要なんだろう?未熟な僕にはとても対応できない」


「でも、こんな数のミサイル」


「大丈夫、いざとなったら、僕にはハーモニクス反転の切り札がある。ここは僕を、仲間を信じて欲しいんだ」


「レイ、ここはシンジ君に任せなさい。この程度の攻撃で第三新東京市は落ちたりしないわよ」


……、


……ゴメンね、シンジ君、ミサトさん。


後押しをしてくれて、ありがとう。


今度という今度は、ミク姉ぇのお節介にきっちり文句を言ってやらなきゃ。


みんなにこれだけ迷惑を掛けたんだから!


情状酌量は無いんだからね!


「1stチルドレン、これより4thの救出に向かいます!」







エヴァ初号機、プラグ内部―――――


 仲間を信じて、……か。


僕は本当に綾波やミクさんの仲間になる資格があるのか?


「シンジ君、済まないわね。あなたに厳しい役目を押し付けてしまって」


全弾まともに命中すれば、都市が壊滅しかねない数のミサイル。


ハーモニクス反転を実施せざる得ない状況。


「いいえ、こんなときの為に訓練を積んで来たんですから。問題ありません」


僕はソレを心のどこかで期待していたんだ。


力を思う存分振るって、アイツに僕の存在を知らしめる機会を。


僕の存在を無視できなくするチャンスを待っていたんだ。


初の使徒侵攻で、命を救ってくれたミクさんへの恩返しより、


この街で暮らして、ここで暮らす人達を守りたいという気持ちより、


マナの安全を守りたい気持ちより、


僕は、アイツに僕を捨てた事を後悔させてやりたい気持ちで一杯だった。


今もその気持ちに支配されている僕は、“仲間”と名乗る資格があるのかと考えてしまう。



 『シンジ君、いいかしら?』


「はい、ミサトさん」


『シュミレーションで見せた、ATフィールドの特殊形状パターンは、あれで全部?』


「いいえ、まだ、一つあります」


『説明、してくれる?』


「はい、加速型といいますか…、ピッチングマシンの原理で弾丸を遠くに飛ばすパターンです」


 
 現存するエヴァの武装に、遠距離攻撃用のモノは無い。


訓練後、たまたま疑問を口にしたとき、


『第三新東京市での迎撃戦が主要コンセプトだから、中近距離での武器開発が優先されたのよ』


そう、リツコさんが教えてくれた。


だから、備えが必要だと思ったんだ。


「そう、なかなか面白いわね。どこで思いついたのかしら?」


「クラスメートに、詳しい人がいるんです。その…、ロボットの必殺技とかいろいろ。


 それを少し参考にさせてもらいました」


暇を見つけては、野球部にお邪魔したり、バッティングセンターにも出かけた。


けれど、ピッチングマシンの構造は、フィールドでイメージするには複雑すぎたんだ。


「だから、イメージが不安定で実戦には向かないなと」


……思ったんです。




 『シンジ君、それ基本イメージは“はじき出すこと”よね?』


それまで沈黙を守っていたリツコさんが、僕とミサトさんの会話に割り込んで来た。


『それなら、良いイメージ方法があるわ。これを見て』


『ちょっ、リツコ?』


リツコさんは、素早い手タイプさばきでデータを入力していく。


発令所から送られた画像は電気コイルだった。


『物理の授業で見たことあるでしょう?コイルに働く磁力線は外で回転して、


筒の内側で一直線の強い力になる。これならどうかしら?』


「はい、分かりやすいと思います。これなら僕にも……でも、いいんですか?…いきなり実戦で」


普段は涼しげなリツコさんの声が、今日はやけに熱がこもっている。


『こんな便利な形状、利用しない手は無くってよ?海の上で胡坐をかいている使徒に、キツイ一撃をお見舞いしてやりなさい」


『そ、そんな勝手に……』


『葛城作戦部長、全責任は私が負います。もちろん、任せていただけますね?』



 そうか、僕にも分かった。


リツコさん、使徒に本気で怒っているんだ。


ミクさんを傷つけた使徒をとても憎んでいる。


…そういう事なら、僕に異存はない。


「ミサトさん、僕からもお願いします!」


発令所からの命令なら、『力』を使う大義名分ができる。


『仕方ないわね…。わかりました。許可します。ただし、熱源群を全て破壊してからよ。いいわね?』


「はい!」







NERV本部 第一発令所―――――

 落ち込んでいた反動か、リツコはすごい勢いでプログラムの組直しに取組んでいる。


珍しく感情的なリツコに押し切られたけど、彼女の能力を疑う気は無い。


でも私には、別の懸念事項があった。



 先の反転試験で起きた、シンジ君の“初めて”の命令無視。


あくまでそれは、シュミレーターでの出来事。


経験を重ねた自信から、状況を判断したというなら、歓迎すべき事なのかもしれない。


訓練や実験で私の指示に忠実に従ってきたのは、


彼自身パイロット初心者であることを、強く自覚してのことだろう。


それでも、不安が消えないのは、シンジ君の強い焦りを感じたからだった。



 実験後に、私はリツコに疑問をぶつけてみた。


「ねぇ、リツコ。実験中のシンジくん、いつもと様子が違っていたわよね?


 ミクちゃんの時ほど顕著ではないけれど、原因は何なのかしら?」


あくまで仮説の域を出ないわよ?と前置きして彼女は答えた。


「ハーモニクス反転によって、精神がエヴァ側に引き寄せられる防衛策として、


 パイロットの脳神経が、自我を支える強い衝動を表層に押出すのだと思うわ。


 その辺りはミサトの方が、心当たりあるでしょう?」


「“父親に自分を認めさせること”でしょうね。50年分の慰謝料請求も、親子の縁を切るなんて無茶な契約も、


 つまるところ、全ては自分の事を構って欲しいのよ。本人は必死に否定するだろうけど」


思い返せば、兆候は大分まえから出ていた。


シュミレート訓練の初期は、成果が上がらず、マヤちゃんに愚痴をこぼしていたし。


ハーモニクス反転の話を持ち出した時は、二つ返事で参加を希望したしね。


「使徒に勝てなければ意味がないと思い込んでいる。それが焦りに拍車を掛けているわね。


エヴァに乗ってくれるだけで、こちらとしては有りがたいのに」


「……珍しいわね、リツコが素直に感謝を口にするなんて。」


「……ミサト、あなた私をどういう人間だと思っているのよ?


 とにかく、本人の抱えている悩みが表面化すると言い換えてもいいわ。


 その点、ミクニは分かりやすかったでしょう?」


 
 ミクちゃんの“本当の笑顔”が消えた原因となった出来事。


NERV病院で起きた知人患者の自殺事件。


彼女が見せる虚ろな目は、それが心に暗い影を落とし続けている証拠。


だから、私は不安で仕方がない。


シンジ君の抱える悩みが、彼自身を危険に陥れるのではないかと。







仙石原中腹部、第一中学裏山付近――――――


 裏山の景色が、跡形も無い。


ミサイル落下の爆風で、山肌がところどころ露出している。


この状態で4人が生存できたのは、むしろ奇跡と言っていいのかもしれなかった。


「零号機、目標地点付近に到着。操縦をオール・シンクロからサブマニュアルモードに切り替えます」


あたしはバックカメラで背面の地形を確認しながら、プラグの排出位置を地面と同じになるよう調整する。


バランスを崩せば地滑りを発生しかねない。


確かにこの状況を、シンジ君に任せるのは不安だ。


でも、あたしはあたしで精神的に一杯一杯だった。


ミク姉ぇとあの子の所へ、飛び出したい気持ちを抑えるのに必死だったから。




 『ミクちゃんと生徒1名はプラグに乗せて、スタッフ2名は最寄りのシェルター入口へ運んで頂戴』


「了解しました。ミサトさん」


救出後の手順を確認したとき、カメラ映像の隅に負傷者抱える複数の人影が映る。


その中に見覚えのある制服、華奢な体格……、間違いない、コダマちゃん!


姿勢固定を確認して、あたしは零号機の背部ハッチを解放する。


L.C.Lを吐出し、むせるのもかまわず外へ飛び出した。




 あたしの姿を見つけて、彼女はこちらに駆けだす。


「コダマちゃん!」


よかった。


本当に無事で、よかった。


プラグスーツ姿を見られても気にならない。


この目で無事を確認して、両腕で彼女の体を抱きしめる。


「…痛いですよ、綾波先輩」


そう言いながら、コダマちゃんもあたしを抱きしめ返した。


ふと彼女の腕に目を落とすと、左腕は乾いた血がベットリと付いていた。


えぐれた筋状の傷は、ただのすり傷ではない。


「この腕の怪我はどうしたの!?」


余裕の無いあたしは、キツイ口調で咎めてしまう。


そんなあたしを、警護班の一人がなだめた。


「彼女のこと、責めないでやって欲しい。本部へ連絡が取れたのも


彼女が危険を顧みず携帯電話を持って来てくれたからだ」


コダマちゃんは、彼女をフォローした黒服を驚いた表情で見ていた。


「それと、彼女の腕の傷は……俺が撃った銃で出来たものだ」


ッ! ――パァンッ!!


「先輩!?」


「おいっ、君」


もう一人の警護班が、あたしを戒める。


頭で理解するより、先に体が動いていた。


「あたし、……謝りませんから」


「…かまわない、当然の仕打ちだ。……その子の事、宜しく頼むよ」


しびれた掌の痛みが、幾分あたしを冷静にする。


「4thチルドレンをプラグ内に搬送します。皆さん、手伝ってください」


ミク姉ぇの体を慎重にプラグの中に運ぶ。


非常用の担架を展開して、彼女の体を動かないようテープで強く固定した。



 「要救助者4名、無事保護しました。これより本部に移動を開始します」


『了解、L.C.L再注入の準備完了しました』


『レイ、聞いてくれるかしら?』


「…はい、リツコさん」


『ミクニの体は、ハーモニクス実験の影響で、特殊な状態にあります。


 シンクロに問題はありませんが、本部に着くまで、不快な思いをさせるかも知れないわ』


「どういうことですか?」


『先に言っておくわね、ごめんなさい』


ろくに説明の無いまま通信は終わってしまう。


あたしは釈然としないまま、再起動シークエンスに入った。


でも、その理由はすぐにわかることになる。


それは、とても口では説明できるものではなかったのだから。








NERV本部 第一発令所―――――

 『初号機、ショルダーバッテリー装着完了しました』


「了解、シンジ君、作戦を簡単に説明するわ。日向君、モニター表示をお願い」


スクリーンに芦ノ湖を中心として、半径40キロの地形図が現れ、3区画の防衛線が色分けて表示される。


「シンジ君、初号機はまず仮称ATブースターで湯河原防衛ラインまで移動、ここで熱源体第一陣と接触。


 初号機のATフィールドで熱源体の足止め及びフィールドの中和にあたってくれ。


熱源体の迎撃は防衛ラインの兵装が担当する」


「はい」


初号機のマーカーは、湯河原から南芦ノ湖、強羅へと移動する。


「その後、初号機は防衛ラインを後退、次の防衛ラインで同様にATフィールドを展開。


移動のタイミングはこちらで指示するから。出来そうかな?」


日向君は、初の単独作戦でシンジ君の身を案じたのだろう。


でも、シンジ君は初心者扱いされ不本意だったようだ。


「そのくらい、僕だってきちんとやれます」


そう言って拗ねてしまった。


日向君は私と目配せして苦笑いする。


「青葉君、UN軍への連携要請の返事はどう?」


「依然、こちらの打診への返答ありません。いずれにせよ、これ以上待てる時間の余裕もありません」


「そう残念ね。人類を守る戦いに縄張り意識が邪魔するなんて。


……シンジ君、湯河原のラインは破棄します。初号機の初期配置は南芦ノ湖に変更よ。」


「どうしてですか?ミサトさん」


「協力要請が拒否されたの。現地に行っても作戦行動の邪魔としか思われないわ。


3分後にカウントスタートよ。準備なさい」


私は意識して、シンジ君から視線を逸らす。


使徒のATフィールドに通常兵器は通じない。


いたずらに犠牲を増やすだけなのは判っている。


それでも、個人の感情で組織を動かす責任は計り知れないのだ。


シンジ君にはまだ分からないだろう。納得もしてもらえないだろう。


それだけに、余計辛かった。









初号機プラグ内――――


 使徒ミサイルが、湯河原防衛ラインに到達するまで5分を切った。


ハーモニクス反転のシークエンスはこれから始まる。


もう、今からATブーストを使っても、現地には間に合わないだろう。


僕は操縦桿を握って、息を整える。


もう余計なことは考えるな、僕は自分に出来る事を遂行するだけだ。



 『ハーモニクス反転シークエンス開始』


『シンクロ解除、ハーモニクス補正反転、再起動、プラグ深度-1・5mに固定』


『シンクロ再開、シナプス再構成。シンクロ率66.6%』


『全神経回路を開放、チルドレンとの接続を開始します』


全身の神経に異物が割り込むような不快感と、痛いとも痒いとも区別のつかない刺激が同時に襲ってくる。


その感触を裏付けるように、プラグスーツの表面に無数の筋が浮かび上がった。


「ぐぅっ。……思った以上に、……きついな」


自分の掌を交互に反して呟く。


「気持ち、悪いな」


視界は徐々に暗くなって、感覚がグニャグニャにされていく。


そして、静寂な闇に包まれる。


…、


光りが走った。


一つ、二つ、三つ。


やがて、幾つもの光の筋が闇を突き抜け始めた。


「これは、何の光りだ?」


光の筋に触れると、子供の頃の記憶の断片が鮮明に蘇った。


試しに別の光りにも触れてみる。


第三新東京市が仙石原と呼ばれていた頃、家族三人で暮らした記憶。


第二新東京市に移って、大和先生夫妻のもとでお世話になった記憶。


楓学園に入学して、交響楽部でコンクールを目指して練習に明け暮れた記憶。


そして、第三新東京市に戻って、ミサトさんや、綾波、ミクさん、……マナに出会った記憶。



 光りの正体は、僕の人生の思い出そのものだった。


『うん?……なんだろう?』


無数の光が闇を駆けるなか、一つだけ目の前にとどまり続ける光りがあった。


それはひどく懐かしい輝きで、誘うように小さく八の字を描いて漂っていた。


僕は誘われる様に触れる。


そして、思い、出した。


ずっと忘れていた、幼馴染の名前を。


マナと良く似た、E-チャイルドの少女の名を。


●▼※、……●トミ、……モトミ。


彼女の名前は、そう、二ノ宮=モトミ。




 五感と意識を取り戻した瞬間は、文字通り生まれ変わった気分。


漠然としか感じないエヴァの感触が皮膚に生々しく伝わる。


手足に伝わる重みと、エヴァがまとう装甲板の位置とがピッタリ合う。


シンクロとは異なる、エヴァそのものになったような感覚だった。



『シンジ君、いけるかしら?』


「ええ、まったく問題ありません。力がみなぎって来ますよ」


『それは結構ね』


今の僕は、モニターの位置解析に頼らなくても、使徒の熱源を“感じ”とれる。


感覚共有がエヴァにより近付いたおかげで、視覚情報も頭に直接流れてくる。


「エヴァ初号機、これより南芦ノ湖防衛線に移動します」


初号機の背中と、足の裏に押出すイメージを集中する。


イメージした部位が次第に熱を帯びてくる。


初号機の背面に紅い光りが収束する。


「ATブースター、発動します!」


僕は、溢れる熱量を解き放つ。


眼下には日を浴びて煌く芦ノ湖面。


そこには宙を躍る初号機が映っていた。








NERV本部 第一発令所―――――


 無人偵察機は、使徒の監視からミサイルの追跡へと目的を変えた。


ミサイルが放つATフィールドはレーダー解析を阻害する。


そのためカメラ映像による光学座標計測が必要だったのだ。


『熱源体初弾、間もなく湯河原防衛ラインを通過します』



 第一波の20基は、UN軍の迎撃をかわして、ここ第三新東京市へ向かうと思われた。


しかし……、


『熱源体、10基進路を変更しました。初弾、第2弾、3弾、UN軍陣営に直撃!』


さらに後続の6基、合わせて16基のミサイルがUN軍2個連隊を攻撃した。


『熱海沿岸に展開したUN軍司令部と連絡が取れません』


『電波通信が錯綜しています!指揮系統が混乱している模様……司令部および通信拠点の壊滅の報告が!』


まるで、狙ったかのようにミサイルは司令部、管制部、通信部等の部隊の要を的確に破壊していく。


これはどういうことだろう?


先の戦闘でも感じた違和感。


使徒は戦術を思考しているというの?


『後続の熱源体4基、第3新東京市のコースから大幅に外れていきます』


もし、その仮定が本当だとして、第三新東京市を攻略するなら、


拠点制圧戦で効果的な戦法は、拠点の戦力を事前に可能な限り無力化すること。


「青葉君、コースを外れた熱源体の進路に何があるの?」


「はい、……おい、嘘だろ。……東の1基の先には小田原変電所、西の1基には三島変電所があります!!」


狙うのは防衛迎撃システムの電力供給施設!?


「シンジ君、初号機を第3新東京市まで撤退させて!大至急よ!!


市内の各避難設備のエネルギーは、畜電力でまかなって!72時間までは大丈夫の筈よ。


現存する自家発電力を市内迎撃システムへ移行。運転率を限界まで上げて!


マヤちゃん、日向君、方位225°から45°までの兵装ビルの送電をカット。余剰電力を南東部へ集中!!」


「葛城一尉、それではジオフロント直上の防御が丸裸になります」


「構わないわ!どの道ここで防がなくちゃ意味が無いのよ!」


『熱源体、まもなく小田原変電所へ着弾します。三島変電所にも1分後に着弾の可能性大』


アナウンスの直後、発令所の照明がオレンジ色の非常照明に切り替わった。


残る2基のコースを確認して日向君が愚痴をこぼす。


「御殿場変電所と秦野変電所への着弾も時間の問題ですね。……葛城一尉、どうして気付かれたんですか?」


「使徒の思考を読んだのよ?」


「使徒の…、ですか?」


これで確信が持てた。最悪の確信だけど。


「ええ、使徒には人類と同等の作戦立案能力があると思っていいわ。それも士官なみのね。


 ……マヤちゃん、迎撃システムの稼働状況を報告」


「はい、展開中のA―25からN-18のエリア、現状の電力供給で48%の稼働が可能です。」


「充分よ、良く持った方だわ。シンジ君、あなたは南東L―21エリアに移動。ATフィールドを最大展開して!」


『わかりました』


「各砲台は初号機がフィールドを中和した時点で迎撃開始。


おそらく熱源体は、市の北部に位置するエネルギー施設を標的に含めていると思われます。


電力の確保は、今後の戦局を左右する要です。一発残さず撃ち落とすわよ!!」


『了解!!』










第14話 Angel Crying(後編)へ続く。


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