エヴァちーと 第弐話 見知らぬ、天井 Bパート[改訂版]
照明が落とされたヒゲの司令室に6体の巨大なモノリスが浮かび上がる。
モノリスに刻まれた文字や紋章が次々に朱く鮮やかに光り輝いた。
『碇君、とりあえずはご苦労だったと言っておこう』
『しかし、もう少し上手く戦えないものかね?エヴァと都市の修繕費・・・国が傾くよ。それになにやらあのオモチャは君の息子に与えたそうではないか』
「・・・今回の戦いで初号機はほぼ無傷、都市への被害はありません・・・。都市を破壊したのは国連軍のN2のせいです。ネルフに落ち度はありません。追加予算は速やかに執行願います」
『私が言ったのは君が大事にしている『零号機』のことだよ。まあ、確かに都市への被害についてはそうかもしれんな。まったく無能な連中だ』
『しかしこれで日本の国連軍の幕僚長の首がすげ替えれる。かえって都合が良かったかもしれんぞ』
『そんな些事より、君の妻のことは一体どういうことだね?!』
『左様、これはあまりにもシナリオから逸脱している。この修正は容易ではないぞ』
「問題ありません。初号機には今も『彼女の精神の一部』が有り、サードチルドレンは高いシンクロ率を保持できています。使徒戦に関しては心配いらないでしょう」
『使徒戦のことなどどうでもよい。我々にとって重要なのは『人類補完計画』の遂行だ!碇ユイが存命ではサードチルドレンを依り代にできんではないか!!』
「まだ弐号機パイロットがいます」
『君は寝ぼけているのかね!弐号機パイロットの母親、惣流博士も生きている可能性があるのだよ!!おかげでこちらでは大騒ぎだ』
「まだユイも含めて本人との確認は取れていません・・・それに弐号機パイロットには徹底的に情報を隠せば良いだけです。日本に移送した後も本部から外に出さず、また職員には一切の接触を禁じて情報から遮断します。最終手段としては使徒戦にも出さず、精神を追い詰め続けて、儀式の際に依り代として使えばいいのです」
『・・・しかし・・・それでは死海文書の記述と矛盾してしまう』
『そうだ。第三の使徒が襲来しゼロチルドレンの指揮の元、初号機で倒した・・・。この事実だけは死海文書の記述通り・・・やはり可能な限り死海文書の記述には従うべきだ』
『うむ、第六の以降の使徒戦では弐号機も使って倒す・・・これは譲れんよ』
『何にせよシナリオの修正は我々が行う・・・碇君、君は使徒戦を粛々と行い給え』
『補完計画の遅延は許されん。追加予算については一考しよう・・・以上だ』
モノリスが消え司令室に再び照明が戻る。
話合いが終わるのを待っていたのだろう、副司令のろうじんが部屋に入って来た。
「どうだった?」
「随分と焦っているようだな、委員会ではなくゼーレのメンバーが出てきた」
「ふむ・・・やはりユイ君の事か・・・後、惣流博士もだな・・・」
「ああ」
「ドイツの惣流博士の墓地が何者かによって掘り返されていたらしい・・・ドイツ支部の連中が慌てて確かめに行ったら遺体はすでに持ち去られた後だったそうだ・・・しかし、ゼーレが焦るとは?・・・すっかりゼーレの策なのかと思ったが・・・」
「いや、ゼーレだろう・・・。ユイはともかく、惣流博士の件はゼーレの手の者以外は実行は不可能だ・・・」
「そうだな・・・それこそ魔法でも使わん限りはな」
「恐らく、精神が壊れていた惣流博士自体が『偽物』だったのだろう・・・もともと惣流博士の出自自体謎が多い。ゼーレがユイに対抗してドイツ支部に連れてきた人物だからな・・・ユイのように学生の時から優れた論文を発表し注目を受けていたのとは別に、惣流博士は全くの無名だ。それがいきなりドイツのエヴァの開発主任に抜擢された。当時も随分この人事は疑ったものだが・・・最初からすり替え目的で『替え玉』を用意していたとしても驚かん」
「ふむ・・・となると、ゼーレは起動実験が失敗することを予め知っていたということになるが・・・それにナオコ君がユイ君を隠したのもゼーレに唆されていたと見るべきだな・・・その後自殺したのは・・・。碇、しかしそれならば別にゼーレが焦ることはないのではないか?計画通りに進んでいるではないか??」
「『ゼーレも一枚岩では無い』・・・ということだろう。議長にとっては今日の会合は私のことよりもこの話題を出してメンバー内の反応を見ていたのだろうな」
「ん?議長が出し抜かれたとお前は考えるのか?」
「それはわからん。そもそも誰がこの件を主導したユダなのかが不明だ」
「しかし・・・どちらにしても『ゼーレの誰か』と『雪広』が繋がっていることはほぼ間違いないわけだ。うーむ、シンジ君の処遇についてはやりにくいな」
「シンジなどどうでもいい。問題はユイだ」
「いや・・・まあ、そうだが。碇、計画はどうするのだ?ユイ君の記憶が無いのではユイ君の計画を進めても仕方ないのではないか・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「記憶を完全に取り戻させる・・・ということは、ユイ君を再度初号機に乗せて取り込ませ一つにしサルベージするか、コアを破壊して自然と欠けたモノがユイ君に還るかに賭けるか・・・どちらにせよあまりにも分が悪い・・・。別段君のことは夫として理解しているようだし、私のことも思い出しているようだ。これで十分だと思うのだがね」
「補完計画はどうする」
「・・・さて、私にとっては計画自体はどうでもいいな。そもそもユイ君の志を継いだお前の行く末を見届けるというのが私の目的だ・・・さして興味は無い」
「・・・・・・・・・・・・」
「だいたい、碇、お前が心配するのは、これまでシンジ君を散々放置し辛い目に遭わせてきたことをユイ君が知ったらどうなるか?ということだろう。果たしてお前を今後も夫として扱ってくれるのかどうか・・・」
「それはズルイぞ冬月!シンジの境遇はシナリオ遂行のために必要なことではないか」
「今のユイ君はシナリオなんぞ知らんよ。全部説明するかね。したら離婚は確定だな」
「く・・・、とはいえ使徒は倒さねばならん。まだ使徒戦は始まったばかりなのだ。今ここでゼーレに反逆するわけにはいかん」
「・・・ふぅ・・・確かに・・・たとえユイ君に嫌われても使徒は倒さんとな・・・さすがに今ここでこの責任から逃れることは許されんか・・・」
「ああ、我々に逃げることは許されん。補完計画については使徒戦を続けながら経過を注視していくほかあるまい。どうなるか見極めて後、我らの行動を決めよう」
「ゼーレの『ユダ』が補完計画を失敗させようとしているのか、成功させようとしているかでユイ君達の扱いが決まるな。失敗ならいいが、成功させるためならばここぞという効果的なタイミングでユイ君達を殺すという蛮行をする可能性があるぞ」
「わかっている。最終的にシナリオを元に戻す手段なのだろう・・・セカンド、サードチルドレンの心を壊し儀式の依り代にするにはそれしか手が無い。だが、まだ私に使い道がある内は殺さんだろう。実行するにしても使徒戦が全て終わってからだな。・・・できれば、その前にこちらでユイを保護したいが・・・」
「それは難しいぞ・・・雪広のバックには麻帆良がついている。あそこはなぜかゼーレも手出しできん聖域だ・・・。我らにも一切関わるなと命令が来ている。つまりはただの学園都市では無い・・・詳しくはわからんがな・・・。第三の雪広ビルも市内のど真ん中、襲撃騒ぎなどもってのほかだ・・・。そもそもユイ君達が本当にあそこにいるのかもわからんのだからな。・・・早急に何か手を考える必要あるな」
「麻帆良か・・・」
『麻帆良か・・・』
『左様、我々の計画があの魔法使い共にいつからか知れていたのやも知れません』
『うむ、考えられる。というより『雪広』が出てきた以上それしか有り得ぬわ!』
『あやつら魔法使いは魔法を使えぬ我らを『マグル』と侮り、馬鹿にしているらしい。ふざけたやつらだ』
『しかし・・・あやつらとは不可侵協定を結んでいる。我らの事には関わらぬと』
『さすがに補完計画は見過ごせなかった・・・ということだろうよ』
『ESP部隊を麻帆良に送るか?ウェールズ、ジョンソン、イスタンブールにもだ!』
『待て、あやつらは少なくとも世界各地に800万はいるのだぞ、使徒戦、補完計画の前に魔法使い共と全面衝突になりかねん。それはさすがに金がかかりすぎる』
『補完計画の遅延は看過できん。残念だが全面戦争は避けるべきだな』
『それにあやつらは魔法世界にいつでも逃げ出せますからな・・・意味が無い』
『もう一つの学園都市を使っては?』
『アレイスターか・・・あやつもなかなか侮れんぞ・・・』
『藪を突いて蛇を出すという言葉がある。あやつはあそこに引きこもっているだけよ。外の世界に興味を持たない者をわざわざ出す必要は無い。セカンドインパクト時も結局己の都市を守ることしかしなかったのだからな・・・』
『しかし、極東の島国には我らの頭を悩ます輩が盛りだくさんですな』
『まだ川神院も海鳴もあるぞ。まったく化け物は使徒だけにして欲しいものだ』
『たしかにたしかに』
『管理局は手出しできまい。そもそもここは『管理外世界』だそうだからな』
『偉そうなことだ。だが我らの邪魔をしないのであればそれでいい』
『諸君・・・ともあれ死海文書の記述通り使徒は来た。まだまだシナリオも序章が終わったに過ぎぬ。今後も事態を注視しつつ修正を図っていこうと思う』
つまりは何も決まってないけど後は議長に委任(お任せ)ということである。
『『『異議無し』』』
『全てはゼーレのシナリオ通りに』
『『『全てはゼーレのシナリオ通りに』』』
「ありえないわ・・・」
リツコは自身の執務室で初号機のコアの解析結果を見てそう呟いた。
解析結果ではコアの内部に間違いなく碇ユイがおり、決して魂の一部が残っているなどという話ではないのである。人間まるまる一人分、確かにコアの中に存在している。
リツコがE計画の責任者に就任して以来、数多くの母親達をコアにインストールしてきた。それは全て予備のチルドレンを作るための行為であったわけだが、その長年のデータの蓄積は揺るぎの無いものでもあったのだ。
そのデータを元にすれば初号機のコアには確かにユイの魂がちゃんと存在しているのである。というより、そうでなければあれほど高いシンクロ率が出せるわけがない。
(サルベージの際に存在そのものがコピーされた??ある種レイのように??不可能だわ。あのユイさんには多少の記憶の欠落が見られるけど、個性も知性も感じられた。あれほどまでに完成度の高いコピーなど作りようが無い。そもそもユイさんはレイと違って『ただの人間』なのよ)
「ありえないわ・・・」
科学者としてほぼ敗北宣言ともとれる呟きを再度繰り返した。
ユイの件もそうだが惣流博士の件はもっとわけがわからなかった。
弐号機のコアの中の『精神だけの彼女』、精神が破壊された『肉体だけの彼女』、この二つはパターンを重ね合わせればピッタリと一人の人間で合致している。つまりはキョウコの存在はこの二つの他にはあり得ないのだ。中途半端にサルベージされている分、誤魔化し様がない。しかし、ユイと同じように元気な姿を見せていたキョウコ・・・。
(ありえないわ・・・ありえないのよ・・・この二人がこうして現実に存在していることが、いままでのどのデータで検証してもありえない。マギも全会一致で否定している。どのような条件付けをしても全て否定・・・。考えられるのは前提として入力してあるデータに間違いがあるということだけど??どこに間違いがあるの??今までのシュミレーションでは少なくともコアに関しては問題が出ていなかったのよ。だとしたらエヴァなんて危険なモノの運用なんて夢のまた夢じゃ無い。でも実際には初号機はちゃんとシンクロして問題なく動いている・・・)
リツコは再度データの洗い出しを始めた。昨日から一睡もしていないが、これを止めるわけにもいかない・・・。都合よく初号機はほぼ無傷であるし、零号機の修理についてはまだ予算が下りていない。しかし仕事はいくらでもある。今日の病院でのシンジの検査もマヤに押しつけているのだ。会食にも出なくてはならない。もうあと数時間しか余裕は無いだ。しかし、しかし止めるわけにはいかないのだ。
後日、結局科学者として屈辱の『原因不明・継続調査』という報告を愛する司令に上げることとなる。リツコにとってこのことは大いに凹むこととなり、暫く荒れるのだった。
(ふぇぇぇん、先輩ぃーーーこの人恐すぎですよーーー)
マヤは目の前に立つメイド服を着た狂犬にびびりまくっていた。
リツコに頼まれシンジの身体検査を任されたのは、美少年好きのマヤにとって嬉しいお仕事であった。(魅力が高まっている)シンジはマヤの目にはキラキラ輝いて見える、ドキがムネムネする理想の少年だったからである。それに頭だって良い(らしい)。最高だ。
このまま14年経つと男嫌いの百合三十路まっしぐらだったマヤにとって、シンジはまさに白馬に乗った王子様のように思えた。実際は紫の巨人に乗った鬼畜野郎だが。
ランランと鼻歌混じりで病院にやってきたマヤだったが、そこに恐ろしい狂犬が待ち構えていたのである。
最初は和やかな雰囲気だった。
シンジ君と同じ年の頃の女の子ひとりと自分と同い年くらいの女性とメイドの女性ふたり合わせて4人で病院にやってきたのだ。
雪広あやかに関しては昨日のシンジ君の迎えに来ていたので知っている。あとの二人は彼女の秘書さんとメイドさんなのだろうと思った。
軽く挨拶して、「じゃあ、シンジ君。中でお医者さんの診察を受けて下さいね」と彼を一人診察室に入れた瞬間に女性達の態度がガラッと変わったのである。
雪広あやかは診察室前の長いすに座り、眉をキュッと顰めて真剣な表情に変わると、携帯を取り出してどこぞへと電話をかけると、矢継ぎ早に誰かに指示を飛ばし始めたのだ。無論、ネルフ職員の前なので重要な指示では無いが、彼女が手配しなくてはならない仕事は一般的な事柄にしても山のようにあるのである。
同じように那波千鶴もアヤカの隣に長く綺麗な脚を優雅に組むと、アヤカと同じように電話を始めた。アヤカと違い顔つきは柔らかだが『私の邪魔をするなオーラ』はひしひしと伝わってくる。その変わり様にマヤは度肝を抜かれてしまった。
しかし、この二人はまだいい。別にマヤに被害があるわけではない。
問題なのは診察室の扉のすぐ横に佇むメイドさんである。
シンジ君が診察室に入った瞬間から、その愛らしい笑顔が豹変、目尻は釣り上がり、口元もひん曲がり、同一人物とは思えないような凶悪な顔つきに変わったのである。そしてなにより先ほどからその恐ろしい顔でマヤを睨みつけてきているのである。
(わ・・・私が一体何をしたと言うのよぅカタカタカタ(((;゚;Д;゚;)))カタカタカタ)
涙目のマヤであるが、別段あずみはマヤに含むものなど何も無い。
そもそもマヤごとき1秒もかからず首をへし折れるのだし、そのような女性にいちいち警戒することなどないのである。彼女はただたんに『メイドモード』から『通常モード』に切り替えただけである。
マヤだけではなく、アーティファクトでこの場に隠れている夏美もあずみの豹変にガタガタ震えているのはご愛敬である。
「おい、おめーさっきからなにこっち見てんだよ・・・剥ぐぞ」
「ひぃーーー見てません、見てません、ごめんなさい、ごめんなさい。剥がないで!」
「どうしたの?あずみさん」
「なにもございません、シンジ様(ニコリ)」
シンジが診察を終え、診察室から出てきた。もちろんあずみはコンマ0秒で『メイドモード』に切り替わっていた。先ほどまでの殺気は霧散している。
ちなみに、アヤカと千鶴も何事も無かったかのように椅子から立ち上がって彼の側に来て微笑んでいる。忙しく働いている様をわざわざシンジに見せるような下品な真似はしないのだ。
「どうしたんです伊吹さん??次の検査はどこで行うのですか??」
「は・・・はいっ、えーと、れれれっレントゲン、そうレントゲンです。その後は心電図を取りますね!では、こちらです」
マヤはなんとか立ち直りシンジの案内を続けることができた。
本当はもっといろいろシンジとお話がしたかったのであるが、結局この後も何一つまともに話すことは出来なかったのだった。
病院での検査を無事終え、一行はネルフ本部へと向かうこととなった。
マヤもシンジの好意で一緒にリムジンに乗っていけることになったのだが、シンジがマヤに笑いかける度に向かいに座るあずみが殺気をマヤに放つので、生きた心地がしなかった。
「えーと、ゲートからはネルフ関係者以外は入れないのですが・・・」
車は入門ゲートに到着したが、シンジ以外は当然ながらネルフよりIDカードなど発行されておらず、ここから先には入れない。
「問題ありませんわ。この雪広あやか、いついかなる時でも、誰とでも会うことができます。さあ、皆様参りましょう」
アヤカはそう言うと千鶴とあずみの手を取り、駅改札風のゲートに進んで行く。
するとなんとゲートは彼女たちを待っていたかのようにあっさりと開いた。
「嘘・・・」
マヤが茫然としていると、シンジもその後に続いた。もちろん彼はちゃんとIDカードをゲートに通して中に入った。
「ほら、伊吹さん早く行きましょう。僕お腹が空きましたよ」
「はっ・・・はい。そうですね」
再起動したマヤも慌ててIDカードを通して中に入っていく。
鈍くさくも一緒に入り損ねた夏美は、うんしょうんしょとゲートを乗り越えていった。
さて、いよいよ本日のメインイベント『会食&契約交渉』である。
シンジ達一行はネルフ本部最上階、司令室隣の空き部屋に急遽作られた会食会場に案内されていた。ガラス張りでジオフロントの様子がよく見ることができ、その眺めはなかなかのものだった。
ただ、昼食の準備はシンジの分しか用意していなかったので、とりあえずリツコとミサトの分をアヤカと千鶴に回すことになった。久しぶりにご馳走が食べれる!と喜んでいたミサトは急転直下、大変不機嫌なご様子であった。
ちなみに、なぜアヤカ以下女性陣がネルフ内に入れたのか、これは後ほどリツコが問題に気がつきちょっとした騒ぎになるのだが、現時点ではアヤカのアーティファクト『花盛りのブルジョワ』が効果を発揮しており、誰も不思議に思うようなことはない。
「雪広とまさか那波重工のお嬢さんまでご一緒とは・・・これは驚いたね」
引きつった笑みを浮かべた冬月が最初にそう切り出した。
「当然ですわ、シンジ様は私の婚約者(フィアンセ)、千鶴さんも同じ立場・・・未来の夫の一大事に妻である私たちが同行するのは当然のことですわ」
「ええ、その通りです」
「・・・婚約者・・・かね・・・」
「ええ、もちろんちゃんと私たちの両親とシンジ様のお母様、碇ユイさんとの間で合意したものです。どちらが正妻かは決まってませんが・・・。残念ながらシンジ様のお父様とはご連絡が取れなかったので事後承諾となりましたが、とはいえお父様がシンジ様を預けていた養父母である叔父夫婦様方にはお話は通してあります。お二人とも大変喜んでくれましたわ、今頃は海でダイビングでもして別世界を楽しんでいることでしょう」
「そ・・・そうかね」
実は冬月はリツコからの進言で、買収の疑いがある叔父夫婦や監視役の者達の調査を命じていたのだ。結果は叔父夫婦は今朝の時点で行方不明。監視役の者達は全員捕縛して自白剤を打ち尋問中だが、彼らも実は真面目にシンジの監視をやっていたわけではなかったようで、実のある情報は何も得られなかった。監視役の彼らも明日には海でダイビングを楽しむことになるだろう。
ピーンと張り詰めた雰囲気の中、会食は静かに進んで行く。
(うーん、空気が重いなぁ。なにか楽しい話題はないものだろうか・・・昨日第三新東京市に着いたときは父さんと何か話せれば・・・なんて考えてたんだけど・・・あっそうだ!)
「父さん」
「・・・なんだ・・・」
「そこの葛城ミサトさんは父さんの愛人なの??」
ブーっ!!
リツコとミサトが同時に水を吹いた。
「何の話だ(汗」
「父さんからの手紙に・・・よかった後ろのポケットにまだ入ってて・・・そうそう、この写真が同封されていたんだよ。ほら」
シンジはヒゲにミサトの『ここに注目』水着写真を渡した。
「・・・これは!・・・シンジ、ユイはこれを見てないだろうな・・・」
「え?母さん??・・・見てないよ」
「そうか・・・葛城一尉・・・」
「はっ」
「減棒30%だ」
「えっ・・・でも昨日遅刻で減棒20%3ヶ月って言われたんですが」
「なら合わせて50%にしよう。キリが良い」
「足しちゃった!!ローンが・・・えびちゅが・・・(泣」
「シンジ、それは間違いだ。ユイには絶対に変な事を言わないように」
「うっうん・・・わかったよ。じゃあさ、父さんには今お付き合いしている女性はいないんだね」
「・・・当然だ・・・」
バキっ!!
ミサトが音に驚いて横を向くと、親友の技術部長がコップにヒビをを入れていた。
彼女は何事も無かったかのようにクールに割れたコップを机の下に放り捨てた。
「そうなんだ・・・よかったね、母さん」
『ええ、もし浮気していたらヒゲも髪も剃ってもらおうかと思っていたわ』
突然アヤカの方からユイの声が聞こえてきた。
アヤカはポケットから自分の携帯を取り出し、机の上に置いた。
実はアヤカは会食前からユイに繋いで置いたのである。
「ユイ・・・」
『ユイ君、君は今どこにいるんだね?あのビルに残っているのかい?』
「いえ、冬月先生。今日は今までの仕事の引き継ぎでキョウコさんと一緒に別の場所で作業をしていますわ」
「そうかね・・・(まあ、そんな所だろうと思ったが)」
「さて、そろそろ食事も終わったようですし、交渉と参りましょうか」
アヤカがそう言うと、後ろに控えていたあずみは数枚の書類をアヤカの鞄から取り出し、ネルフのメンバーに配る。
「これは昨日ユイさんがお父様にお願いしたい条項が書かれているものです。内容はたいしたものではありません。ほとんどが当たり前のことばかりですわ」
1.碇シンジを中学校に通わせること。学業はできる限り優先させること。
2.訓練・テストは放課後行うこと、夜8時には帰宅させること。
3.日曜日は休日とすること。土曜日は必要を認められれば拘束できる。
4.使徒出現時は上記の項目には縛られないが、体調面の配慮をすること。
5.母親である碇ユイと一緒に暮らすこと。
6.住居は碇ユイが用意する。碇ユイの現住所である第三新東京市雪広ビルとする。
7.碇シンジがパイロットとしてエヴァンゲリオンに乗り込み、敵(呼称:使徒)と戦闘をネルフ指揮の元行った場合、その被害の一切を免責すること。
8.被害(人的・物損)が出た場合、ネルフが責任をもって謝罪・弁済すること。
9.ネルフの行う全ての作戦行動について、その費用はネルフが支払うこと。
10.碇シンジの地位は公的な地位を関係部局に申請すること。
11.給金を規定どおり支給すること。手当等も他のパイロットと同等にすること。
12.雪広・那波両企業グループの仕事が入った場合はこちらを優先すること。
「・・・最後の項目以外はこちらが用意している契約書ともほぼ変わりがないので飲んでも良いのだが・・・」
「技術部長として意見させてもらいますと、我々が行うテストは事前準備が必要なものが多く、例えばエヴァのシンクロテストで最低でも3日かかります。起動テストとなるとそれ以上。にもかかわらずもし当日シンジ君が来られないというのは困ります」
「では、何日前に通告すれば大丈夫なのですか?」
「・・・一週間前ならかまいません」
「・・・パーティなどは問題ありませんが、シンジ様の決済が必要な事案もありますから・・・そうですね、ではネルフ内にシンジ様の個室を要求します。そこに人を常駐させることを許可して下さい。その者を通じて連絡を取り指示を仰ぎますわ」
「子供が何を決済するって言うのよ、偉そうに」
「失礼ですが、シンジ様は正真正銘の私たちの婚約者です。それは将来両企業グループを率いる存在ということ。すでにシンジ様はいくつかの大きなプロジェクトで陣頭指揮を執って頂いております。早晩それはあなた方にもわかると思いますが、シンジ様はなにかと忙しい身の上なのですわ。昨日散々遅刻して迷惑をかけた、時間のありがたみを知らないどこぞのズボラなおひとにはわからないことでしょうが」
「なにおぅ!ってひいぃ!」
ミサトはアヤカの挑発にのって立ち上がり、何か文句を言ってやろうとしたところ、いきなりもの凄い殺気がミサトに放たれた。
慌ててその殺気の元を見ると、先ほどまで静かにしていたメイドが信じられないほどの凶悪な表情でミサトを睨んでいる。
なまじ格闘技をかじっている一応軍人のミサトである。野生の勘がこのメイドのヤバさ、とてもではないが自分とは桁が違う強さを感じ取ることができたのである。
というか、今までミサトが戦自で出向先のドイツで見てきた誰よりもこのメイドは大きく見えたのである。まさに化け物である。使徒なんかより強いんじゃないかとさえ思えた。
「いかがしましたか?」
「イエ・・・ナンデモゴザイマセン・・・」
「・・・うっうむ。もちろんパイロットの控え室は用意しよう・・・。しかしだね、ネルフも国連組織、やはり関係者以外を常駐させるというのは・・・」
「では・・・ネルフの関係者の方でもかまいません。パイロット専属の事務員を一人用意して下さい。その人に私たちからの連絡を取らせるようにしていただければ結構ですわ。ただし、ここにいるメイドのあずみさんはシンジ様直属のメイドです。この方だけは一緒にネルフについて行き奉仕させることは認めて頂きますわ。そうでなければこの話お受けできません。ですよねお母様」
『ええ、あずみさん(?)であれば安心ね(アヤカさんを信じるわ)』
アヤカの提案はかなりの譲歩のように思える。
(どういうことだ??別にそれならば外部のやりとりをそのメイドにさせればいいじゃないか・・・そうか!・・・わざわざシンジ君のネルフ内での外部接触を我々に開示することでこちらの動きを多少なりとも操ろうとしているのだな・・・しかし、我らの方も彼らの情報を得ることができる。彼女は我々に情報戦を仕掛けてきているのか・・・)
「どうする、碇」
「かまわん。問題ない」
「あの、一つだけいいですか?」
今までずっと黙っていたシンジが手を上げる。
「ああ・・・なんだね、シンジ君」
「パイロット専属の事務員さんですが、『若い女性』でお願いします。今日案内してくれた伊吹さんみたいな・・・『可愛い』人がいいな!目の保養になるし、やる気も出るし」
「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」
さて、アヤカ達が交渉をしている最中、隣の司令室には姿を隠した夏美がいた。
「よいしょっと、これで全部かな。あー疲れた」
夏美はアヤカがイザベラに頼まれていた盗聴器を司令室に仕掛けていたのである。
イザベラからすればもし可能であれば・・・というくらいであり、危ない場合は無理しなくて良いとも言われていたのだが、都合良く夏美がこの世界に召喚されたため、ならばと彼女に任せたのである。盗聴器は使い捨てで2~3ヶ月で切れる薄いカード型で両面テープで貼り付けるどこでも売っているものだ。別にすぐ発見されてもかまわない。
今のところ地下に下りるケーブルカーの座席の下、会食会場に昇って来る前に寄った女子トイレ、そしてこの司令室である。通常であれば司令室にはカードが無ければ入れないのだが、ヒゲが出てくる際、夏美しては奇跡的に素早く動き見事中に入れたのである。
「それにしても、こんなに広い部屋なのにデスクしかないとか・・・。応接セットくらい置けばいいのに・・・ってどうやってこの部屋からでようかなー。廊下には黒服着た恐い人がいっぱいいるし・・・まあ、あずみさんの方が数十倍恐かったけど・・・まっいいか♪」
夏美は特に気にしないことにしてさっさと部屋の外に出る。
部屋の外で警備していたSP達はいきなり誰もいないのに扉が開いたので驚いたが、中を調べても特に異常はなかったため、やれやれ扉の誤動作だろうと判断した。もちろんその報告はヒゲやろうじんにはしなかった。
「はー終わった!とりあえず、これで明日から正式にネルフのパイロットだね」
「ええ、階級も特務三尉でそうですし、国連の尉官であればいろいろと使えそうです」
ネルフとの契約交渉が終わり、シンジ達一行はネルフを出ることとなった。
早速、作戦課長であるミサトがミーティングをしようと言ってきたが、飽きて帰りたくなっていたあずみが死ぬほど(文字通り)睨んで黙らせた。彼女も今朝召喚されたばかり、病院とネルフ本部では一応真剣に護衛していたので少し、ほんの少し、疲れていたのだ。
「しかし・・・シンジ君。どうしてネルフの事務員さんを若い女性で頼んだの?目の保養って言っていたけど・・・実は目的は別にあるのでしょう?」
千鶴がシンジに問いかける。いやそう言われても、本当に若くて可愛い女性だったら『テンション上がるな』と思って言っただけなのである。しかし、なにかそのままそう答えるのは間違いなのだろう。それくらいはわかる。
「・・・・・・えっと、本当は伊吹さんに来てもらいたかったんだ。あの人ならなんだかわかりやすそうな人だし・・・僕にも興味を持っていたようだったから、後々なにかの役に立つかなーと・・・でも、リツコさんの副官ってことでダメになったけどね」
「・・・そうですね。あの人、あんな感じですけどかなり深いところまで足を突っ込んでいるみたいです・・・。確かチートシステムの召喚画面、別世界のリストに彼女の名前が入っていたと思います・・・。そう思って途中ユイさんにも聞いてみたのですが・・・。とにかくリストに名前が出ているということは、この世界においてもかなりの重要ポジションに彼女がいるということは間違いないでしょう。さすがシンジ様ですわ」
「いやーそれほどでも(よかったばれなかった)」
((ばればれだけど、そんなところも可愛い(わ)(ですわ)))
(へーさすがシンジ君!すごいなー)
(はいはい、あー腹減った。ちっ、煙草吸いてぇー)
「七乃!!このピタゴラスイッチを見てたもれ、すごいのじゃー。パッコンパッコン玉が落ちるぞ!おお、次は紙芝居が始まったのじゃ!!『おじゃるまる』じゃとーーこのものはどこの名家のものじゃー!!」
(ああ、美羽様・・・今日は一日中この『てれび』を見て遊んでばかり、このだめだめっぷりが本当に可愛いですーああ、また鼻血が・・・)
いや、あなたが一番ダメダメでしょと、一足早く仕事を終えてお茶を飲んでいたエリナがテレビ前のお馬鹿主従を見つめながらため息をついた。
第参話 鳴らない、電話 Aパートへ続く
<チートシステム補足『コンボ』について>
プロローグでなのは(19歳)を300万ポイントと書いてます。
前話のラウラ+ISが8000万ポイントなのになのは低すぎじゃね??
と思われたかと思います。これは作中では今後も書かないので補足しますと、
前話で出た『ヒロイン達の人間関係』、所謂『コンボ』システムが関係しています。
では実際になのは(19歳)を召喚するとします。
となると、わかると思いますが即座にフェイト(19歳)を召喚する必要があります。
フェイトが召喚された場合、ほどなくキャロも召喚することになるでしょう。
次になのは・フェイト二人の友人であるはやても近いうちに召喚することををせがまれることになります・・・。
はやてを召喚するとヴォルケンリッターのシグナム、シャマル、ヴィータそしてリインフォースIIも同時に召喚することとなります。
なのはは自立しているので高町桃子、高町美由希は呼ばなくてもギリOKとしても、アリサ・バニングス、月村すずかは早晩呼ぶ必要がでてくるでしょう・・・。
つまり、シンジ君がなのはを呼んだ場合、リリカルなのはの主要な人物をほとんど呼ばなくてはならないという仕組みになっているのです。
ざて、今あげた人物だけで計算すると『3800万ポイント』です。
序盤ではポイントが足りませんし、今後もなかなか容易には出せないポイント量です。
(わざわざプロローグで出したのは当時友人を引っかける罠のつもりでした)
??あれ、こんだけ呼んでもラウラの方が高いじゃねーかコラ!と思われるでしょう。
彼女の場合は『IS』が高いのです。というかこのISって設定では地球上のどの兵器より強いんですよ(汗
ISだけでもしかしたらゼーレに勝ててしまうかも(震え声)
(ISを纏った戦士より生身の織斑千冬の方が強いかもとか・・・千冬ぇ)
なので彼女達の出番はもう少し後となります。ゆっくりお待ち下さい・・・。
『コンボ例』
ネギ魔 明日菜、このか、刹那コンボ
恋姫 華琳、柱花、春蘭、秋蘭コンボ
真剣 桃代、一子コンボ・クリス、マルさんコンボ
バカテス 瑞希、美波コンボ
などです。ISは一夏ハーレムで女性陣通しの繋がりが弱いので必要なし?
ゼロ魔のヒロイン、ルイズはキュルケ・・・だが必要ないような気もする。
とある科学では美琴単独であれば不要、黒子を先に呼んだ場合は美琴が必要です。