エヴァちーと 第伍話 レイ、心のむこうに Bパート[改訂版]
「「おじゃまします!!」」
「どうぞー!遠慮せず入って入ってー!」
トウジとケンスケ、そしてリツコの3人はミサトに夕食へと誘われた。
リツコは絶対に行きたくない!と拒否したのであるが、ふと、あの時のペンギンはどうなっただろう?という疑問と少年達2人がミサトの料理を食べてどういう反応をするのか見たくなり、その好奇心を抑えられずやって来ていた。
「うわ・・・なかなかに豪快なお部屋で・・・」
トウジはゴミが散乱した腐海に絶句した。
憧れのお姉さんの残念すぎる有様に現実を思い知らされガックリしてしまった。
ケンスケはそれでもめげずに何かお宝(ミリタリー物や下着類)をゴミの中から探しているようであったが。
「ちょっち散らかってるけど、気にしないで」
「これを気にしない人類はあなただけよミサト!」
「なら、私は夕食のカレーを作るからさ、部屋が気になる人は片付けてよ。それでみんな幸せでしょ」
「わいらが一方的に不幸なような・・・いえ、なんでもないです・・・おい、ケンスケ!ちゃっちゃと掃除をはじめようやないか」
「ああ」
こうして、ミサトがカレーを作り、トウジとケンスケはゴミ拾い、リツコは最初の目的であるペンギンを確認するため先日見かけた風呂場へと向かった。
しかし、風呂場にはあの死にかけていたペンギンの姿が無く、何処かへと消え去ってしまっていた。
リツコは訝しんでミサトに「ここで死にかけてたペンギンはどこへ行ったの?」と聞くと「え?ペンギン?・・・そういえばペンペンの姿をしばらく見てないような(汗」という素晴らしい返事が返ってきた。
リツコはペンギンを求めて捜索を再開する。
(どこへ行ったのかしら・・・あの様子じゃそう動けるとは思えないけど・・・)
リツコが脱衣場をキョロキョロと見回すと、部屋の隅になにやら黒い物体があった。
リツコはそれをおそるおそる掴み広げて見ると、それは何かの抜け殻のようであった。
「まさか・・・まさか・・・ペンギンが『脱皮』したの!!」
マジマジと見てみればそれはやはりペンギンの皮(?)だった。そして背中の部分が縦に真っ二つに裂けている。
「・・・・・・脱皮して、ここから逃げ出した?・・・まさかこの過酷な環境で進化が促進されたのかしら・・・興味深いわ・・・」
リツコはそのペンギンの抜け殻を持ってリビングに戻る。
「リツコ、カレーが出来たわよって何それ?!」
「ペンギンの抜け殻」
「ペンペン!!」
ミサトはリツコから抜け殻をひったくるとそれを抱きしめた。
「ああ、ペンペン・・・こんな姿になっちゃって・・・一体誰がこんな酷いことを」
「あんたでしょ、あんた」
「ミサトさん、一応ゴミは拾い終わりましたけんど」
「ああ、ありがとう。ゴミン!ついでにコレも捨てといて」
ミサトはトウジにペンペンの抜け殻を投げ渡した。
トウジは不気味そうにそれを受け取ると、さっさとゴミ袋の中に捨てた。
リツコは抜け殻を少しサンプルとして欲しかったが、まあ、いいかととくに何も言わなかった。
「辛いけど私たちは悲しみを乗り越えて生きていかなくちゃならないの。さあ、夕食にしましょう!」
ミサトはそう言うとニコニコしながらキッチンからカレーの入った鍋を持ってきた。
「おお、美味しそうでんな!」
「当然。極上よ!!」
ちょうどそこになにやらホクホク顔のケンスケが戻ってきた。
ケンスケはミサトの家中を探し回り、果てはミサトのノートパソコンを起動させてネルフの極秘資料や様々なデータをカメラのメモリーカードにダウンロードしていた。
ほぼ丸々データをゲットすると、散らかっていた書類、ミサトが以前付けていた階級章、戦自時代の軍服、モノホンの拳銃などなどをケンスケはゴミ袋に捨てるフリをしてパクったのである。
どうせ押し入れでぐちゃぐちゃになっていたのだ、ミサトの過去の遺物に全く執着しない性格を見抜いて「捨てるのなら全部頂こう」というわけである。
まあ、後にこれによって大騒動となるわけなのだが。
「なんだ、まだ僕が掃除してたのに・・・もう食べ始めちゃってたの?」
「おうケンスケ、お疲れさん。なに今カレーが来たところや!じゃあミサトさん早速頂かせてもらいます」
「どうぞどうぞ、あまりの美味しさにひっくり返るわよ」
トウジとケンスケは「いただきます」と言って、一口ミサトのカレーを口に運んだ。
そのカレーは口に入れるまで気がつかなかったが、クサヤのように臭く、味は酷く苦かった・・・。そう、それはまさに『う○こ』味のカレーであったのだ。
トウジとケンスケは瞬く間に顔を真っ青にするとトイレへと駆けだしていった。
リツコは冷静に持ってきていた試験管にそのカレーを一匙サンプルとして取ると、厳重に封をした後バックに仕舞った。市販のルーでう○こを作るその成分に興味があった。
ミサトは周りの様子など我関せずであり、カップラーメンにドバドバとう○こカレーをかけるとそれを美味しそうに食べていた。
リツコはミサトの食いっぷりに少し気分が悪くなったので、ベランダへ行き夜風に当たって気持ちを落ち着けた。
結局、その後もミサト以外はそのカレーを食べることは無く、夕食は終了した。
ケンスケは未だ吐き気が収まらずトイレの主になっていたが、トウジはなんとか持ち直してリビングに戻ってきた。
「ああ、そうだトウジ君。すまないけど明日、学校でレイに新しく更新されたIDカードを渡しておいてくれないかしら。今日つい渡しそびれちゃったのよね」
「はぁ・・・なんでワシなんです?こういうのは碇の奴に頼みそうなものですけんど」
「彼、明日から第二東京に母親の付き添いで出張するから不在なのよ。明日はレイの零号機の再起動実験なのにね・・・。まあ、仕事なら仕方が無いけど」
「あいつも忙しいことでええこっちゃです。わかりました、コレ渡しときます」
「ええ、頼むわね」
「ふーん。まあ、レイもあのガキにいつもベッタリだし、作戦(一)課長としては良くないことだと思ってるのよね。トウジ君、せっかくオヒシャルの用件でレイと話せるんだから仲良くなるチャンスじゃないの。頑張りなさいね!」
「はあ」
トウジはリツコから渡されたIDカードをしげしげと見る。そこには、いつもの無表情では無く満面の笑みでダブルピースしている『誰コレ?』顔写真が使われていた。
これは撮影の際にそばにいたシンジ達に指導(ちょっかい)を受けて無理やり撮らされたものである。ちょっとだけ胸キュンしたトウジであった。
ミサトの家を辞したトウジとケンスケはミサトから「ついでにゴミ袋を下のゴミ捨て場に捨てといて」と頼まれ、ゴミ袋を両手に何個も持ってエレベーターに乗った。
「ケンスケ・・・気分大丈夫か?」
「・・・ああ・・・うっぷ、だめだ・・・また吐きそう・・・」
2人はゴミ袋をゴミ捨て場に捨てると、ケンスケはトウジに肩を貸りて家路へとついた。
ケンスケはう○こカレーのあまりの衝撃に、ミサトの部屋から集めたお宝の入ったゴミ袋も一緒に間違えてゴミ捨て場に捨ててしまったのだった。
そんな様子を隠れ見ていた一つの影・・・。影は素早く動くとゴミ捨て場に捨てられたゴミ袋を素早く回収していく。
先ほど餓死寸前の少女を助け保護したり、このゴミ袋を持ち去ったりしている怪しい人影こそ、雪広セキュリティサービス諜報部の人たちである。
現在ミサトは保安部と冷戦状態であり、通常であれば行われる要人警備も全く行われていなかった。彼女が現在作戦課長としての実権を失っていたということもあったが。
家に帰ったケンスケはお宝を捨ててしまったことに気がつき、慌ててミサトのマンションへ取りに戻ったのであるが、その時にはなぜか自分が集めたお宝のゴミ袋だけが無く、途方にくれたのである。
もちろん、その捨ててあるゴミ袋は諜報部の人たちが中身を検めて、不要な袋を怪しまれないよう再びゴミ捨て場に捨てたのである。
ケンスケはミサトの部屋に袋を忘れてきたのかとガッカリした。それでもノートパソコンからダウンロードしたデータはポケットに入れてあったため「とりあえずはこれで今日のところは満足しよう。貴重なデータもあるだろうし」と自分を慰めた。
そんな呟きが聞かれているとも知らず、ケンスケは尾行されているのも気付かぬまま家に戻ると、早速自分のパソコンに盗んだデータを移しはじめた。
「うへーあるある。マギのセキュリティレベル2までの情報がごろごろ♪僕たちはネルフの端末に触れることすら許されてないからなぁ。それしてもミサトさんって士官としてはこれ以上無いくらいダメな人だよねぇ。パソコンにロックすらかけてないし・・・。だいたい自分のパソコンにデータを入れて家に持って帰ってきてる時点で規則違反だし・・・。ま、そのおかげで僕はこうして機密に触れれるんだけどね」
もちろんネルフもミサトに情報を渡すのは危険で有り、彼女には高いセキュリティ権限は与えていない。
それでも一般職員よりは高いレベルであるし、それこそスパイにとっては垂涎物の情報を得ることが出来たのである。
ちなみに最高レベルの7がヒゲとろうじんであり、6がリツコ、4がマヤ、3が部長クラス、2が課長クラス、1が一般職員である。
ケンスケは喜々としてデータを閲覧していく、彼の家の下では諜報員達が彼の無線LANに密かにハッッキングを仕掛け侵入し、彼と同じようにそのデータを見ていた。
まさか、子供を通してこのような重要な機密を得ることができるとは・・・。さすがに諜報員達もこの杜撰さに呆れ果てたのであるが、それはそれとしてケンスケが得たデータを丸々彼らも頂いていったのだった。
この日以降、ケンスケは自分が知り得た情報を次々に己のパソコンに入力していくのだが、諜報員達はときどきここを訪れては情報を盗っていった。
彼らはケンスケのことを『leak boy(リーク・ボーイ)』『ダダ漏れ少年』と異名を付けとても感謝していたと言う。
翌日、トウジとケンスケはいつものように学校へと向かった。一時のあのおかしな雰囲気は影を潜め、あの巨大横断幕も今はない。
ただ、未だにシンジを讃えるポスターはあちこちに貼ってあるし、彼の親衛隊(旧ファンクラブ)もとうとう学校の女子全員が所属し、『碇シンジ親衛隊(SS)』という腕章を付けていた。
トウジには認めたくない現実だったが、いいんちょこと洞木ヒカリはこの親衛隊の副隊長であり、隊長である操祈は学校を洗脳の仕事で休むことも多かったので、事実上親衛隊の指導者として日夜活躍していたのである。
元々彼女には人望もあったのだが、皆の前で胸を揉まれたり、スカートをめくられたりとシンジにとても愛されているのもわかるため、その威光は留まるところを知らない。
ちなみに男子は『碇シンジ突撃隊(SA)』を結成しており、隊長はシンジ本人である。
これには男子の半分あまりが参加している。なぜ全員では無いかというと、シンジが「そんなに男子がいっぱいいても正直ムサいだけだ」と嫌がったためである。
なので受験のある3年生とクラブ活動で頑張っている男子は忙しいだろうからと参加を辞退してもらっていたのだ。
女子に関してはシンジは何も言わなかったのはまさに鬼畜の所業であろう。
ただ、生来の真面目者であるヒカリは親衛隊の活動のせいで皆の学力が落ちては大変だと、放課後全員参加の補習を行うようにしていた。
もっぱらシンジがネルフに行く日(行かない日はみんなで遊ぶ)に行われ、やるからには徹底的にと成績順にクラス分けし、落ちこぼれは人並みに、出来るものはより出来るように・・・と厳しい授業を先生達に行ってもらった。
それはもし彼女たちが洗脳を受けていなかったら、ほとんどの女の子はノイローゼになったか、その前に逃げ出したか、果てはリストカットしたか、首を吊ったかという厳しさであった。
シンジに怒られるので肌に傷をつける体罰などは無かったが、成績の悪い者は『シンジに近づくことを禁ず、操祈様の茶会に出席禁止、最悪腕章を取り上げ』という彼女達に取っては親が死ぬよりもつらい罰があったのである。
そのため全員が必死に勉強した。若干ヒカリもやり過ぎたか・・・と引いてしまったのだが、もう止められないと結局開き直り、今日も親衛隊(女子)達は血反吐を吐きながらドリルをこなすのである。
ちなみにこのおかげで、先日の大手予備校の全国模試で第壱中学の女子がトップ10に7人入るという快挙を達成し、全国の学校や塾から注目を受けることになる。
彼女達、親衛隊メンバーは後に『最初の大隊』と呼ばれ、シンジの手足として帝国の至る所でその実力を発揮することとなる。
余談だが、女子の面々はシンジに好かれようとヒカリの指導のもと健康的な生活、適度な運動、野菜中心の食生活をしており、朝の登校もホームルーム開始の1時間前に校庭に集合し、それぞれおもいおもいの朝の運動を日課としていた。
これにはレイも参加しておりヒカリと共にストレッチとランニングを行っている。
そのおかげか、第壱中学の女子達は皆それなりにキレイになり、シンジも大満足であった。
やはり健康的で闊達な女の子達とキャッキャと遊べるというのは喜ばしいことらしい。
トウジとケンスケはそんな校庭で朝の運動をしている女子達を尻目に教室へと向かっていった。
教室には男子達が2人に挨拶してくる。彼らも一時2人を総シカトしていたのだが、徐々に以前のように接してくれるようになった。
とはいえ、先日ヒカリに無体な事を働いたシンジにトウジが殴りかかった際は、あずみに返り討ちにされた彼をさらに追い打ちをかけてボコボコにしたのは彼らである。
「・・・ああ、おはようさん」
トウジはそんな彼らをまったく信用していなかったので、返事もおざなりである。
さて、ホームルームが始まり、授業が始まるとあっという間に昼休みになった。
トウジはレイになんとか近づきIDカードを渡そうと思っていたのだが、今日はシンジがいないこともあり、操祈やヒカリさらにはレイを守るため親衛隊の女子達が代わる代わる教室に来ては彼女達を取り囲んでいた。
さらにその周りを突撃隊の男子が警備しており、周りに睨みを効かしている。
無論3-A組でもアヤカ達の周りは同じようになっていた。一般庶民の夏美はあまりに彼女彼ら達がうっとうしいのでアーティファクトを使って存在を消していたのだが。
そういったわけで、なかなかトウジはレイに近づけなかった。
別に普通に「綾波!リツコさんから新しいIDカード渡してくれって頼まれてとるんや」と本人に聞こえるように言えば、他の面々もそれを渡すのを妨げたりなどしない。
しかし、ミサトからレイと仲良くしろという命令が出ているし、せっかく女の子に話しかける機会を得ているのに、なんかそれではもったいないという欲もあった。
とはいえ、やはり彼女に近づく機会は無くとうとう放課後になってしまった。
トウジとケンスケはさっさと教室を出て行くレイを慌てて追っかけた。
ヒカリ達は今日は補習を行うので、誰もレイに着いてはいかない。
もちろん、校舎を出ればネルフ保安部がつかず離れずでチルドレンをガードしているので、レイの安全に問題は無かったのだ。
2人はどうやらネルフ本部へ直接向かうレイの後ろをストーカーの如く着いていく。
そんな輩のことなど知らぬレイはネルフへと向かいながら昨日のことを思い出していた。
最近ハーレムも人が増えてきたので暫定的な秘書室があった29階を全面改装し、ハーレムメンバー達の部屋(風呂・トイレ付)を作ったのである。
ワンフロアに50室。一部屋一部屋かなり広めに作られている。
正直、この部屋数でもシンジの今の召喚ペースでは足りない恐れがあったため、28階も同じように改装する予定である。
27階に秘書室、会長室が移動し、事務所や会議室や応接室など今後必要となるであろう施設も作った。
またエステやサウナ、カラオケ、トレーニングジム等も希望が出たため併設した。
26階は葉加瀬聡美の『ガイノイド』を製造している研究所になっており、現在すでに5体のガイノイドがビル内で稼働している。
25階は受付が置かれている他は、倉庫等として使用されている。
屋敷で働いているメイドさん達の休憩所(ロッカールーム)や仮眠室、食堂もこの階に置かれていた。
諜報部の事務所も入り口は隠されているがこの階に存在している。
24階から6階までは雪広財閥各社の第三新東京市支社が入っている。
1階から5階までは雪広財閥系のデパートが開店した。
警備の面で問題もあるが、買い物に便利だし・・・ということでシンジが望んだのである。
1階には規模は小さいが雪広東京ISB銀行の支店も入っており、24時間いつでもお金を引き出すことができるのである。
ちなみにこのISBであるが『碇シンジ万歳』の略である。
第三新東京市駅の至近にできたこのデパートは、市民達にとって最新のスポットであり、週末となるとたくさんのお客さんが押しかけていた。
そのため警備部の職員たちは日々大変なお仕事をしているわけである。
だが、最近は先述の『ガイノイド』の警備員が導入され、不審な人物は即座に探知できるようになったので随分と楽になった。
メイド服を着たロボット(?)が警備をしているなんて、さすがは雪広!と大評判である。
そんなわけで、レイもあの廃墟の部屋から雪広ビルに与えられた自分の部屋(ユイの部屋の隣)に引っ越してきたのである。
といっても自分の部屋には寝るのに戻るくらいで、ほとんどの時間を上の階でシンジ達と過ごしていた。
昨日はシンジが「レイと一緒にお風呂に入りたい」と言いだし、一緒に入ることになったのだ。明日からシンジはユイ達と第二東京へ出張に行かなくてはならず、予定では暫く会えなくなる。
レイもそれを寂しく思っていたので、いつもならいい顔をしないユイも「シンジが変なことをしないなら」と認めてあげたのだった。
二人で洗いっこし、二人で浴槽に入って抱きしめ合い、そして口づけを交わす。
レイの心はポカポカし、暖かくなり、それはこの上ない『幸せ』を感じた。
そして、最終的に頭に血が上り、のぼせ、鼻血を出して失神してしまったのだった。
レイが目を覚ますと彼女はユイに膝枕をしてもらい、オデコに冷ピタを貼られ、団扇で扇がれていた。
ユイに「ごめんなさいね」と謝られたが、レイにはユイが一体何について謝っているのか理解できなかった。
その後シンジにも謝られたが、レイはそれをすぐに許した。
後で操祈から「シンジ君にお詫びに一緒に寝てもらえば良かったのに♪」と言われると、なるほどそういうのもありなのかとレイはまた一つ賢くなったのである。
それと以前よりもシンジの周りにはたくさんの女の子達がいる。
しかし、どういうわけかそのほとんどの人たちが『レイにも』優しくしてくれるのだ。
レイには最初どうして自分に優しくしてくれるのか理解できなかったのだが、ユイに聞くと「家族だから当たり前、レイも家族の一員ならば、同じようにレイも他の人たちに優しくしてあげてね」と言われ深く、深く納得したのである。
それ以降はレイもシンジだけでは無く、ヒカリと一緒に勉強したり、美羽と遊んだり、ユイと一緒に料理を作ったりと順調に心を成長させていっていた。
レイがそんなことを考えつつ歩いていると、あっという間にネルフのゲートに到着した。
いつものようにIDカードをスライドさせるがなぜかゲートは開かなかった。
レイがカードを見つめ不思議に思っていると、いきなり後ろから顔は知っているが名前がわからないジャージ男が彼女に声をかけた。
「ほい、綾波の新しいIDカードや。昨日リツコさんに渡すよう頼まれてん」
レイはジャージ男に差し出されたIDカードを受け取ると、先ほどと同じようにゲートに通すと今度は無事ゲートは開いた。
「ありがとう」
レイはジャージ男にお礼を言う。ユイの教育の賜である。
「おお」
「じゃあ、私行くから」
レイはジャージ男ともう一人の知らない人を残し、さっさと中へ進んでしまった。
「あっ・・・おい・・・ケンスケはよう追いかけるぞ!」
「へ?ああ、わかったよ」
二人は慌てて自分のIDカードをゲートに通してレイの後ろを追いかける。
程なくして、レイに追いついた二人だが、なかなか声をかけるきっかけがつかめず黙ってレイの後ろをついていった。
エントランスに着くと、次にとてつもない長さのエスカレーターに乗る。
ケーブルカーを待つよりもこちらのほうが早く本部に着くのである。なので大きな荷物を持たない職員はもっぱらエスカレーターを利用していた。
そこでようやくトウジが意を決してレイに話しかけた。
「なあ、今日これから再起動の実験やな。今度はうまくいくとええな」
「・・・・・・・・・・・・」
「綾波は怖くないんか?またあのけったいなロボットに乗るのが」
「・・・どうして?」
「前の実験で大怪我したって聞いたさかい平気なんかと思ってな」
「あなた碇君の友達でしょ」
「は?全然ちゃうで」
「信じられないの?シンジ君の仕事が」
「当たり前やろ!誰があないなヤツなんか!!」
レイはトウジの方を振り向き、拳を構えると上半身を振り、自分の体が戻ってくる反動を利用して左右の連打をトウジの顔面に容赦なく叩き込んだ。
へぶっ!!
クリーンヒットしたトウジは鼻血をまき散らしながら倒れた。
そしてエスカレータの階段の角に後頭部を打ち付けると悲鳴をあげて悶絶した。
レイは、軽く両手を振ると彼ら二人を無視してさっさとエスカレーターを走って下り降りてしまった。
「あれは伝説のヘビー級ボクサー『ジャック・デンプシー』の『デンプシー・ロール』・・・。まさかあの技の使い手が第三新東京市にいたとは・・・。さすがファーストチルドレン綾波レイ・・・ネルフのチルドレンは化け物か・・・」
「ふがふが」
トウジはようやく頭を抱えて起き上がる。まだ頭はクラクラしており、ケンスケの姿が2重に見えた。
二人は長い長いエスカレータが下に到着すると、昨日とは反対にケンスケがトウジに肩を貸して治療室に向かうのであった。
「これより零号機の再起動実験を行います。第一次接続開始」
リツコの声により零号機の再起動実験がスタートした。
前回はヒゲ司令もとある目的のためこの場にいたのだが、彼はすでにレイに興味を失っているため、この場にいない。
彼は司令室でろうじんと将棋をしながらいかに次またユイに会うかを相談していたのである。昨日は痛恨にも次の約束を取り付けることが彼には出来なかったのである。
「戦術機の発表会か?」「しかしアレの招待状は技術者であるリツコくん宛てだぞ!相手に呼ばれてもいないお前が行ったら怪しまれる」「問題ない」「大ありだ馬鹿者」「なら二人で行こう」「お前・・・まだリツコくんと関係を解消してないのだろう・・・いつか彼女に刺されるぞ」「問題ない」「大ありだ馬鹿者」「問題ない」「大ありだ・・・と不毛な議論を繰り返していたのだった。
『主電源コンタクト』
『稼動電圧臨界点を突破』
「了解、フォーマットフェーズ2に以降!」
『パイロット零号機と接続開始』
『回線を開きます』
『パルス及びハーモニクス全て正常値』
『シンクロ問題無し』
『オールナーブリンク終了。中枢神経素子に異常なし』
『再計算、誤差修正なし』
『チェック2590までリストクリア』
『絶対境界線まで後、1.0、0.8、0.6、0.5、0.4、0.3・・・』
『0.2、0.1、突破。ボーダーラインクリア!』
『零号機起動しました!』
リツコはふぅと安堵のため息をついた。
今回の再起動実験はリツコ、マヤ、そしてシンジの3名で準備してきたのである。
『レイ大事』のシンジがマヤの太ももをFSSしながら再起動に必要なプログラミングを手伝ったのである。
チートシステムでプログラミングスキルを一気にレベル10(キラ・ヤマトレベル)にしたため、二人が驚くほどのタイピングテクを見せることができたのである。
これは一応シンジが『戦術機』のOSの開発責任者となっているので、その設定の肉付けのためスキルを取得しておいたのである。
一から苦労して猛勉強したユイやキョウコと比べると酷いチートであるが、まあ、それがチートシステムなのだがら仕方が無い。
そのテクのおかげでマヤのシンジに対する思いは揺るぎないものとなり、リツコの執務室で3人だけで作業するときは自発的に下着姿になったくらいである。
別にシンジはあまりストリップには興味がなかったのだが、そのマヤの好意の行動については深く感謝の意を示し、万札を彼女のパンツの中に入れてあげたものである。
その様子を見ていたリツコも「万札くれるのなら私も脱ごうかしら」と呟いていた。
さて、無事零号機は起動したので次の連動実験に移ろうとした時、緊急のアラートが実験場に鳴り響いた。
『現在、未確認飛行物体が接近中!総員第一種警戒態勢!!』
「もう!こんなときに・・・レイ、あなたはそのまま待機してなさい。シンジ君がこの場に間に合わなかったら零号機で出るわよ!大丈夫、実験はできてないけど、零号機の調整はシンジ君の自動調整プログラム(AAP・Automatic adjustment program)を作動させておくわ。これはあなたがこのまま乗っているだけで、自動で零号機の調整をしてくれるのよ。ぶっつけ本番になるけど、シミュレーションでは問題なかったわ」
「はい。私は大丈夫です。シンジ君・・・碇一尉を信じます」
「結構。では私は発令所に行くわ。マヤ!着いてきて!」
リツコとマヤは急いで発令所に向かった。
発令所ではミサトが正面モニターに映る使徒を仁王立ちで睨んでいた。
「遅いわよリツコ!」
「え?そうかしら・・・。まだ発令から数分しか経ってないと思うけど・・・」
「私は発令前から待機していたわ」
「それただあんたに仕事が無いだけでしょ!」
「もういいわ、それよりもアレが第五の使徒。あの形・・・もうなんでもありね」
「・・・そうね。正八面体の形状・・・どういう攻撃手段があるのか・・・」
「日向君!初号機を発進させるわ!急いで!!」
「ミサト??シンジ君はもう本部に帰って来ていたの??」
「いいえ、サードチルドレンはここにはいません。零号機もまだ実戦は無理でしょう・・・。ならば今こそチルドレン候補生の彼らを出す時です。あの二人をエントリープラグへ入れて準備させてちょうだい!!」
「ちょ・・・ちょっとミサト!あなた何を言っているの!いきなり彼らを乗せて動かせるわけがないでしょう!!」
「あのガキ・・・サードチルドレンは何の訓練も無しにちゃんと動かしていたじゃないの!彼に出来て彼らにできない道理は無し、人類を守るため私たちは戦うしか無いのよ!!」
「だから、動かないって言ってるでしょ!少なくともコアのパターンを書き換えないと!これじゃただの案山子だわ。零号機はまもなく大丈夫だから・・・」
「チルドレン候補生搭乗完了しました!プラグエントリー完了。発信準備OKです!」
「よし、日向君。初号機発信!!」
ミサトは焦っていた。実は彼女が直接命令ができるチルドレンはトウジとケンスケの候補生二人だけなのである。
そして、ミサトが作戦を指揮できるのもこの二人だけだったのだ。
都合の良いことに今日シンジは出張で不在、つまりは作戦二課長がいないため、指揮が一課長であるミサトに権限があったのである。。
そして零号機はまだ動かせないと(勝手に)判断していたため、ならば一か八か初号機にこの二人を放り込んで、どちらかにシンクロしてくれれば!という賭けに出たのである。
リツコの制止を聞かぬフリをし、ミサトは拳を握りしめ彼らの健闘を心から祈った。
トウジとケンスケはジャージと学生服のままプラグに入れられ、まさに緊張の最中にいた。
「よーし!僕はやるぞ!!いよいよ僕の出番だ!!」
「うう、LCLが傷に染みるわ・・・」
ハイテンションのケンスケにレイに殴られた傷が痛むトウジ、二人はこれから何が起こるのか知らず、初陣に鼓動を高めていた。
初号機は日向の操作により、三度使徒の真正面の射出口へ発進していった。
『初号機シンクロ率0%』
『初号機起動出来ません』
「あきらめないで!あきらめたらそこで試合終了よ!!」
「そんなこと言われても・・・先輩・・・」
「マヤ、とりあえずやれることはやりましょう・・・酷いことになりそうだけど」
「目標内部に高エネルギー反応!」
青葉が顔を引きつらせてミサトに報告する。
「なんですって!」
「円周部を加速、収束していきます!!ああ、これは!!」
「ダメ、避けて!!!!」
「「へ??」」
トウジとケンスケがミサトの声に反応し、間抜けな返事をした瞬間、使徒より極太のビームが発射された。ビームは初号機を正確に撃ち抜いた。
『『うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!』』
発令所に二人の叫び声が響き渡る。
「頑張って二人とも!男の子でしょ!根性見せなさい!!」
「ミサト!バカ言ってないで早く下げなさい!!」
「まだ慌てるような時間じゃ無いわ!!そうよ!ATフィールドよ!!早く展開して防がないとあんたたち死ぬわよ!!」
「シンクロ率0%でできるわけないでしょうが!!日向君早く降ろしなさい!!」
「はっはいーーっ!」
初号機が漸くゆっくりと降ろされる。
ミサトは悔しそうに歯ぎしりすると、「日向君、作戦を立て直すわよ!」と言って、日向を伴い発令所から出て行ってしまった。
沈黙する発令所。
「プラグ内の様子は?」
リツコの声に漸く動き始めた発令所内、マヤが慌てて二人の候補生の状態をチェックする。
「二人とも心音停止・・・。えーと彼らはプラグスーツを着ていないので電気ショックも与えられませんので、ここまま死亡するかと・・・」
「ミサトじゃないけどあきらめちゃだめよ。LCLに直接電気を流しなさい、そのショックで動き出すかもしれないわ」
「はい、わかりました。LCLに電気を流します」
プラグ内のモニターには無残な姿でプカプカ浮かんでいる二人の少年の遺体があった。
マヤが電気を流すとその体がビクンと震えた。それを何度か繰り返すと奇跡的に二人の心音が復活した。
「先輩!!」
「LCLを急速冷却。救護班をケージに待機させなさい!病院に手術の準備を・・・。まあ、ネルフの施設があれば生きてさえいればなんとかなるわよ・・・多分」
「はい、了解しました」
モニターには全身大火傷、電気ショックのせいで頭髪が爆発、さらには白目を剥いてだらしなく口を開いている・・・とても生きているようには見えない少年達の姿が映し出されていた。
「まあ、レイがこうならなくて逆に良かったわ・・・。レイが酷い目にあっていたらシンジ君に私達殺されていたかもしれないし・・・ミサトの暴走も結果オーライね・・・」
「そうですね・・・可愛そうですけど」
「マナ、潔癖症は辛いわよ・・・。人間って所詮汚い生き物なんだから」
「へ?コレとソレとは関係なくないですか?確かにコレ汚いですけど・・・」
マヤは小首を傾げて唸っている。
ともあれネルフは緒戦で初号機を大破させ、最大のピンチを迎えたのであった。
第六話 決戦、第3新東京市 Aパートに続く