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No.3151の一覧
[0] 神様なんていない[神無](2008/05/31 00:47)
[1] 神様なんていない 第一話[神無](2008/06/02 23:41)
[2] 神様なんていない 第二話 前編[神無](2008/06/02 23:18)
[3] 神様なんていない 第二話 後編[神無](2008/06/04 23:31)
[4] 神様なんていない 第三話 前編[神無](2008/06/13 00:38)
[5] 神様なんていない 第三話 後編[神無](2008/06/13 21:35)
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[3151] 神様なんていない 第三話 後編
Name: 神無◆39aaf7d2 ID:a935cf71 前を表示する
Date: 2008/06/13 21:35


場所はアメリカ、例え一国の軍が攻めてきても対応できるような異常とも言えるセキュリティで周囲を固められた、ある建物にある広大な会議室……その場所で少なくとも五十人は超えるかという多くの年若い男女が何かを話し合っていた。

それは三ヶ月周期で開かれる、エヴァという兵器を用い人類を守護する役目を与えられた選ばれし子供達、チルドレン……そんなチルドレン達の中でも、各国支部でシンクロ率トップの者のみが参加する事を許されたChirdrenn’sTeaParty と呼ばれる集まり。


しかし全員に伝わるよう英語を用い交わされる彼らの会話は、名前通りのそんな微笑ましいものではなく、実に真剣なもので。

この集会は、元々チルドレン達の交流会という名目で始まったのだが、忙しい時間の合間を縫って参加する経験豊富なオリジナル達によるシンクロ率上昇のノウハウや、対使徒戦用のフォーメーションの編成方法等の高度な会話は有用性が高く、それぞれの支部がチルドレン達の持ち帰ってきた情報に驚き、取り入れていった事で、現在では当初の目的を超え、子供達のお茶会が社会全体を左右されるほど重要なものとなっていた。


成人してもいない子供達が世界の命運を握るような会話を繰り広げる異常な集会、一部ではMad Tea Partyと呼ばれ始めたお茶会の中心で、凛とした表情の赤髪の美女―アスカは手元の資料に目を落としながら、会議を進行する。



「……この資料を見る限り、世界全体としてはまだ安心できるってレベルじゃないけど、前回に比べればまあまあ体勢は整ってきてるようね」


ただ……と顔を上げ、


「やっぱり気になるのはファーストの所か……確かにこれだけの人数を一人でさばくのがきついのは確かだし、これについては比較的余裕があるウチとフィフスの所から優秀なの何人か見繕って、送るって事で良いわね。ファースト、フィフス?」

「なるほど、アスカちゃんはそう来たか……ああ、ごめん。今言った人材派遣の件については、僕は一パイロットでしかないからね。イタリアに戻ってトップに相談してみなければ何とも言えないけど、まぁ何とかその方向で話を進めてみるよ」

「……分かったわ」


何かを感心したように頷き、苦笑気味に応じるカヲルと、渋々と何処か納得いかない表情で頷くレイ。

そんな二人の反応に気づきつつも、そ知らぬ顔でアスカは会議を進める。


「ヨーロッパはこんな所で大体問題なさそうね……まっ、オリジナルが三人も配属されているから、当然といえば当然だけど。でもこの資料で確認した限り、アフリカの方がきつそうだから、ヨーロッパからも援助体制は整えておくって事で良い?」


この女性にこう問いかけられ、否と答えられ者などこの会場にもほぼいない。

そしてヨーロッパ組代表とアフリカ組代表の少年少女達から返ってきた答えは当然肯定。


「潔い協力感謝するわ。さて、南アメリカと北アメリカなんだけど、距離の問題もあるし、アフリカの面倒まで手を伸ばすとなれば、当然ヨーロッパからのフォローは無理……ここは前世紀から続く、軍事大国の力に頼らせてもらおうかしら?」

「それは問題が起こった際は全てウチで面倒を見ろと言う事か?」


その発言にピクリと片眉を上げるのは、アメリカ代表として出席した隻眼の女性。


「出来ないの?」

「……いや、了解した。その件については、支部に戻り次第検討させよう」


挑むような視線にも全く怯まず、女はしっかりとした答えを返す。

アスカはその応えに満足したように笑みを浮かべ、


「後は中東を含めたアジアだけど、悪いけどアメリカと同じ理由で、ヨーロッパからの援護は無理ね。まぁ、ここは割と安定してるし、これは今回参加して無い日本の本部も含めてそっちの方で話し合っておいて貰うとして……問題は」


ちらりときつい視線を向けられたのは、この真剣な話し合いの最中にも関わらず、暢気に欠伸なんぞをしている黒髪の青年。


「何や?」


その視線に気づき、怪しい関西弁で、暢気に問い返す彼に対し、こいつ英語分かってんでしょうねと、アスカは鋭い視線をより厳しいものに変え、きつく言いつける。


「何やじゃないわよ、鈴原。あんたん所は他からのサポートが不可能なんだから、そっちで何とかしてもらうしかないんだからね?」

「何やそんな事か……わぁっとる。どんなにデカかろうが一国は一国、いざとなりゃワイ一人でも何とかしたるわ」


そう強気に言い返し、にたりと口角を上げるトウジ。

一人だけ日本語。しかも関西弁という独特の言い回しを持つその言葉は、その場にいるほとんどの者が理解できなかったが、それでも彼の顔に浮かんだ荒々しい獣のような笑みに戦慄し、息を呑んだ。


「バッカな返答。まぁ、アンタの戦闘能力だけは評価してるし、私も深刻に心配してるわけじゃないけどね」

「……だけってなんやねん。褒めるんなら素直に褒めりゃええやん」

「あら? 何か文句でも?」

「な~んも」


同じオリジナルとして同格の余裕とも言うべきか、トウジの威圧感を感じた様子もなく、逆に笑顔で威圧するアスカ。

話はそれで終わりだとばかりにひらひらと手を振る彼に、彼女はため息を吐きつつも、こっちは英語だったけど会話は繋がってるし、少なくともヒアリングは大丈夫そうねと冷静に判断して、取りあえず場を占める事にした。


「今回参加していない支部には今回の資料を送るとして、取りあえず今日の話し合いはこんな所で良いと思うけど……何か質問はある?」


一応聞いてみたものの自分が、責任を持って進行した話し合いに不備などあろうはずがない。

そう確信するアスカの想像通り、出席したチルドレン達からは質問の声など一つも上がらず、綺麗にお茶会は締められる……はずだったのだが。


「はい」

「……どうぞフランス代表さん」


ところが予想外に上がった手を見て、嫌そうに顔をしかめるアスカ。

成長し、少なくともある人物に関係しない状況である限り、公私の判断がつく位には自制というものを覚えた彼女が、こんな微妙な表情を取らざるを得ない理由。

それは自分の思い通りに行かなかった事ではなく、手を上げたのがこの少女-実際はオリジナルチルドレン達と同年齢らしいが、その風貌が女性と言うには幼いので、この場では少女としておこう―だという事自体がはっきり言って問題だった。

流れるような金髪に精錬された服装と、一目で貴族のご令嬢と分かるリアル版フランス人形とでも言うべき小柄な少女は、流れるような所作ですっと立ち上がり優雅に首を傾げて問う。


「わたくし、前々から疑問に思っていたのですけれど……誰が決めたわけでもないのに何故アスカさんが進行役を勤めているのでしょうか?」

「あんたバカァ? 世界中のチルドレンで、シンクロ率トップなのが私だからに決まってるじゃない」


天下のセカンドチルドレンにこんな風に凄まれれば大抵の者は引くのだが、少女は平然と言い返す事の出来るその大抵の範囲外の人間だった。


「トップはシンジ様ですわ。まぁ、あの方がこの場にいないので、そこは置いておくにしても、オリジナルであるあなた方の誰かが仕切るというのは少し問題がありません事?」

「……何が問題なのかその理由を聞いてもいい?」

「ええ、勿論。この場に参加したチルドレンのほとんどがオリジナルチルドレンの活躍を目にし、チルドレンを目指しました……ですから我々チルドレンは当然、あなた方オリジナルを尊敬し、ともすれば神仏の如く崇拝している者もいますわ」


ここまでお分かりになって? とその内容に反して、オリジナルに対する敬いなど一切見せず、小馬鹿にしたような態度を取るフランス代表に、アスカは内心はともかくとして、「それで?」と表面上は平静に先を促す。


「人間とは単純なもので、あなた方がオリジナルであるという先入観から、その意見が正しいと信じ切り、間違っていても気づかず流されるのは必然……例え気づいたとしてもあなた方相手ではなかなか口に出来ませんわ」


アンタ、バカァ? この場にいるチルドレン達は各国のネルフでトップのシンクロ率を誇る人間だし、曲がりなりにも一分野でトップを張る人間がそんなやわなタマなわけないじゃない。

アスカとしてはそう反論したい所であったが、彼女の言い分にもなるほど一理あると認め、嫌な予感をひしひしと感じつつも「じゃあ、あんたは誰が進行役を勤めれば良いと思う?」と問いかけ、


「わたくしですわ」


半ば予想していた答えに、内心やっぱりねとげんなりしつつ「その理由は?」と一応尋ねてみた。


「先ほどの理由でオリジナルの方々は却下。しかし現在のシンクロ率トップである人間が勤めるというのは分かりやすくてもめ辛く良い案ですし、そこは採用するべきですわね……となればオリジナルを除いた際のトップであるわたくしこそ、この場の取締役として相応しく、更に言えばシンジ様に相応しいのもまたわたくしというのは自明の理ですわ」


進行役について話していたはずなのに、何処をどう繋げたらそんな結論が出るんだ?

トンデモ理論を展開し、夢見るように胸の前で手を組み、トリップし始めた少女に当然、そのツッコミが入った。


「オリジナルを除いた時に、あんたがシンクロ率トップなのは認めるけどねぇ……でもそれってあんたがシンと出会うのが早かっただけじゃないの? それにシンクロ率だけで、恋人期間が実質一週間も無いお嬢ちゃんがシンの相手に相応しいって言われてもねぇ」


少女を馬鹿にするような調子で指摘したのはインド代表として参加しているはずが、話し合いには全く興味を見せず、平然と爪の手入れをしていた見事な肢体と褐色の肌を持つ、信心深き聖職者さえ容易く堕落させられるであろう魅惑の女。

キッと睨み付ける少女の威圧など全く威に返した様子も見せず、気だるげに髪をかきあげながら女は、はんっと鼻で笑う。


「その点、配属されたエヴァが二機という厳しい状況での戦いを二ヶ月間もシンと一緒に乗り越えたのは私なのよねぇ。それに普通だったら、一ヶ月しかいないはずのシンの特例となってるのも私の所だけみたいだし? 私がパートナーに相応しいって事で決まりじゃない?」


大人の余裕も色香もたっぷりな女の言葉は、少女には反論しづらいらしく、この言い争いはそのまま女の勝利で終わるかと思われたのだが……


「……それは違うわ」


その勝利に待ったを掛けたのはファーストチルドレン、綾波レイ。


「その頃は実用的な量産機が開発されていて、はっきり言ってその当時の碇君の実力なら一人でも余裕だったし、最悪では無い……運用できる機体が旧型、それも常に何処かが故障していた二号機と零号機だけという本当に最悪な状況で、第三東京市での一番辛い時期を共に過ごした者の絆には勝てないわ」

「偶には良いこと言うじゃないファースト! 新参者のあいつらに私達オリジナルチルドレンの絆の深さを教えてやりなさい!」


この二人がシンジと付き合っていた事があると知っている所為で、何となく自分のだとは主張しづらく、歯痒い思いで黙していたアスカは、オリジナルチルドレンと呼ばれる自分達の絆を主張するレイに、ここぞとばかりに声援を送ったのだが……


「……私は始まりである第三使徒の時から碇君と一緒で、セカンドは第六使徒から。しかもサードインパクトの後もセカンドはほとんどの期間入院していた役立たず。つまり共に戦った期間が一番長い私が碇君には相応しく、セカンドは問題外」

「いきなり裏切ってんじゃないわよ。この人形女!」


あっさり掌を返したレイの頭を容赦なくはたく。

所詮、人間の敵は人間。頼る者は自分しかないのだと悟ったアスカは、「……私人形じゃないもの」とぶつぶつ呟いている彼女を無視し、ここは勢いで攻めるしかないと確信して、バンと机を力強く叩いて立ち上がる。


「と・に・か・く! バカシンジは誰が何と言おうと私のもので、一生を私に捧げる奴隷なのは決定事項なのよ!」


そう高らかに宣言し、言ってしまえばこっちのものだとばかりに、偉そうに胸を張るアスカ。


「すみませんが質問してもよろしいですか?」


が別方向から介入の声が入った。

生意気にも自分に逆らおうとするその反逆者を探り、その声が聞こえてきた方向に視線を向ければ、そこにいたのは丁寧に一本に編みこまれたアッシュブロンドの長い髪と、神秘的な赤い瞳を持つ女性。

こんな奴いたかしら? と見覚えのない人物に一瞬考え、その女性が今回初参加のロシア代表である事を即座に思い出し、「何よ!?」とキレ気味に指差した。

その剣幕にも慌てず騒がず女はすっくと立ち上がり、


「あなたが言うバカシンジという人物は、皆様がお知りであるほどの著名人であるという点と、会話の流れから推測するに、サードチルドレンの碇シンジ氏を指していると思われるのですが、これは合っていますか?」

「そ、そうよ。それがどうしたってのよ!?」


アスカは初対面時のレイばりな無表情と淡々とした口調に気圧されながら、何とか取り繕い虚勢を返す。


「あなたは今、ものとおっしゃいましたが、彼は人であり、自分のものとするのはおかしいですし、あなたがおっしゃった下僕。つまり奴隷売買は現在、世界中の何処の地域でも、法律上禁止されているものと私は認識しているのですが……碇シンジ氏があなたのものであり、あなたの下僕という事実はどなたが認知し、どなたが決定したのでしょうか?」

「そ、それは……」


淡々と語る女は、無表情ながらその赤い瞳の奥に確かな怒りを湛えていて……

確実に碇シンジの関係者である事を悟り、バカシンジの癖にまた女増やしてんじゃないわよ! と心の中で節操なしな彼に怒りをぶつけつつ、今は取りあえずこの状況を何とかする為にアスカはその明晰な頭脳をフル回転させ、解決策を即座に導き出した。


「ふぁ、ファースト!」

「何か用? セカンド」

「私、ああいう何考えてんだか分からない無表情女って苦手なのよ。見た目も何となくあんたに似てるし、あいつの相手は任せたわ!」

「……命令ならそうす「そうよ! 命令だから早く!」……ふぅ」


やれやれとばかりに首を振り、立ち上がったレイは己に似た女性の瞳を真正面から見据える。


「……」

「……」


二人の女が言葉無く対峙し、空中で視線を交差させる二対の赤い瞳。

殺気も狂気も無く、ただそこにあるだけの沈黙に誰もが何も口に出来ず、ただ延々と時は流れ……


「……ウッ」

「ふぁ、ファースト!?」


突然苦しそうに胸を押さえ、倒れたレイに動揺するアスカ。


「……私はもう無理かもしれないわ」

「な、何馬鹿な事言ってんのよ!」


細めた赤い瞳にアスカの姿を映し、レイは薄っすらと笑みを浮かべる。


「私を励ましてくれているのねアスカ。ありがとう、それは感謝の言葉……でも無理なの。自分の事は自分が一番良く分かっているから……」

「れ、レイ……」


この二人はそりが合わずぶつかり合う事も多いが、決して仲が悪いと言うわけではない……いや、それ所か厳しい状況を共に戦い抜いた戦友であり、無二の親友と言って良い仲で。

アスカはらしくもない弱音を吐く親友の体を抱き抱えながら瞳を潤ませ……


「最後のお願い……碇君に一つだけ伝えて……例え私の体が朽ち果て、魂が消滅しても……それでも私は一生あなたを愛していると……っ」

「レイィーーーーーー!」


声よ枯れよとばかりの叫びにも閉じられた赤い瞳が開く事はなく……レイの身を床に下ろし、ゆっくりと立ち上がったアスカは、親友の命を奪った人物を睨みつけ、吼えた。


「あんたレイに何したのよ!」

「あの……私は何もしていないのですが」


が女にそうあっさり返された事で、一瞬動きを止めた。

無表情なその顔に、確かな困惑の色を浮かべられ、気勢を削がれながらも、こちらには動かぬ証拠があるのだと己に言い聞かせて反論し、


「と、とぼけてんじゃないわよ。現にレイは死んで「……勝手に殺さないで」へっ?」


その動かぬ証拠に言葉を返され、今度は完全に固まった。

何事も無かったかのように普通に立ち上がったレイに、何が起こっているのか分からず震える指先を向けながら、アスカは問う。


「だ、だってあんた無理ってさっき言ってたわよね?」

「ええ、言ったわ。あれ以上の睨みあいを続けるのは無理だから無理と言ったの……あれに意味なんて無いし、飽きたから」

「あ、飽きたって……じゃあ、あんた何で思わせぶりに胸なんか押さえて倒れたのよ!?」


その当然の問いかけに、レイは無表情のまま首を傾げ、


「……雰囲気?」

「アホかぁー!」


大ボケをかましてくれた女の頭に、アスカはスパーンと何処から取り出したのかスリッパを叩きつけた。

突如として繰り広げられたオリジナルチルドレンによる漫才に何とも表現しづらい微妙な空気が漂い……再び場が動き出したときに始まるのは、当然真面目な会議などではなく、女達による騒がしい言い争い。


「……くだらん」


ポツリと漏らされた重く低い呟きが場を引き締めた。


「高尚な意見の交換が出来、己を高められる場だと聞いて、初めて参加したが、実際はこんなくだらないものだったとはな……はっきり言って失望だ」


その呟きに反応し、視線を向ける女達に苛烈な視線を向け、そう吐き捨てるように言い放ったのは先ほどの隻眼の女。


「世界の守護者という重大な責務を担うチルドレンともあろうものが、自分の立場を弁えず、一人の男の所有権を主張しあい醜く言い争うとは……本当に相手を想い欲するならば、まずどうすればその男に相応しい人間になれるのかを考えるべきだと私は思うがな」


ギラギラとした一つ目で睨みつけ、そう淡々と言葉を紡ぐ彼女の持つ迫力も去る事ながら、その内容も全くの正論。


「こんなくだらない争いをする時間があるなら、その無駄な時間を使って自分自身を磨けば自ずと相手も……な、何だ。その目は!」


しかし言い争っていた女達は己を恥じ、反省する所か、説教を続ける女に対し、何故か白けたように冷めた視線を送っていた。

それは何故かと言えば……


「くだらない噂を信じて、脅迫してまでシンジ様に関係を迫った考え無しにそんな事言われたくありませんわ」


まぁ、彼女達の総意としてはそういう事だった。(一人だけその話を初めて知ったらしく、「あんのバカシンジ!」と何故か脅迫された青年の方に憤りを向けている女性もいたが、ここは端折らせていただく)

隻眼の女は、その話がまさか自分達の事が、彼女らに知られているとは思っていなかったらしく、明らかに動揺し、焦りながら言い訳を始めた。


「あ、あの時は煮詰まっていた所為で精神的におかしくなっていただけだ……そ、それに後の謝罪で、シンジは許してくれた」


その時の事を思い出したらしく、身を小さく縮め、恥ずかしそうに胸の前で指を突き合わせる。

歴戦の勇士のような容姿に似合わぬその仕草は妙に可愛らしかったが、そんな趣味も無ければ、既に想う相手がいる者に通じるはずも無く、気性の激しいフランス代表の少女が冷ややかな視線と共に、毒を吐いた。


「それはシンジ様がお優しいだけですわ。でなければあなたみたいな可愛くない軍事女なんかと一時とはいえ、交際するわけがありません。お情けで付き合っていただいた女が、あの方と釣り合うと少しでも思っている時点で思い上がりも甚だしいわ」

「……身の回りの世話は全部使用人任せな世間知らずの箱入りお嬢様よりはマシだと思うがな」


しかし隻眼の女がしっかりと嫌味を返した事で、先ほどのメンバーに加え、彼女まで加わった言い争いが再び始まり、場は混沌へと回帰した。




彼女達の激しい言い争いを暢気な苦笑いで見守り、頬杖をついたまま独り呟くトウジ。


「うひゃ~、ものごっついなぁ。別にさっきの惣流の締めで会議の目的は果たしとるし、もう何しても結構やけど……しっかしこの会議も世界の支部との連携を深めるいうクソ真面目な趣旨だったはずが、回を重ねる毎に何や段々シンジの正妻争いみたいになってきたのぉ」

「まぁ、彼女達がいくら騒いだところで僕こそがシンジ君の運命の相手である事に代わりは無いけどね」


いつの間にか隣に座り、いつも通りのアルカイックスマイルでふざけた事をのたまっているカヲルにトウジは、はぁとため息をつき。


「……別に自分のもんやて主張するんは結構やけどな。あいつらの前でそれ言えるか?」

「そ、それは勘弁してもらいたいな」


口喧嘩では収まりきらなかったしく、ついには乱闘騒ぎの様を呈し始めた場に笑顔を引きつらせ、冷や汗を流すカヲル。

ほぉ、この変態も流石にあの場に混ざるのは躊躇するんか。

何を考えているのか丸分かりな、にやり笑いを浮かべたトウジに焦り、誤魔化すようにカヲルは話題を繋ぐ。


「で鈴原君の疑問に戻るけど、シンジ君の正妻争いみたいになるのも仕方ないんじゃないかな? 調べた訳じゃないから正確な所は分からないけど、今回会議に出席した50名のうちの10名、つまり五分の一が彼と面識が合って、その内の半分程が過去彼と付き合った事のある者みたいだからね」


回を重ねる毎にシンジ争奪戦とも言えるこの騒動は参加人数を増し、会議の最後をこれでしめるのもお決まりとなり始めている。(Mad TeaPartyの由来はこれの所為だとも言われている)

初めこそ皆戸惑ったものの、参加者達も次第に慣れたようで、巻き込まれたくない者達は、フランス代表が手を上げた時点で逃げ出し、初参加で戸惑っていた者達も巻き込まれまいと部屋の隅に避難しており、平然と席に着いたまま会話を交わす事の出来る猛者など、この二人位のものだった。


「しっかしよくもまぁ、シンジの元カノがこれだけトップに集まったもんやな」

「シンジ君と関係を持つことがシンクロ率上昇の鍵だなんてまことしやかに囁かれている位だからねぇ」


話に食いつき身を乗り出すトウジ。


「それやそれ、その噂は実際のとこどないやねん?」

「どないやねん、か……君が聞いているのが噂の真偽についてならば、噂は噂としか言えないね……ただ量産期は初期のそれと違って努力次第で伸びるようになってるからねぇ。使徒戦においてトップパイロットの地位を走り続けているシンジ君と共に歩んでいきたいという気持ちが、関係を持つことによって大きくなり、その分努力するとなれば、あながち間違った噂でもないのかな?」

「センセが寄ってった支部には、ここにいてもおかしない連中がゴロゴロいるらしいからのぉ」

「彼は人に物を教えるのが上手だからね」


教えるのが上手とは、渚にしてはまた控えめな表現やなと意外に思うトウジ。

その複雑さゆえに教科書など作れるはずも無く、パイロット各々が感覚のみを頼りに努力し、こつこつと積み上げるしかないシンクロ率。

そんな一筋の光さえ射さぬ、闇の中を手探り状態で進むしかない人間に懐中電灯でも渡すように、口伝えであっさりとコツと感覚を覚えさせ、努力の方向性を掴ませる事が出来るのは、あの青年位である。


「実際に本人を知っとる人間にすればアホな話やけど、世間的には誰にでも手を出す節操無しや思われとるし、そいつらとの関係も疑われて、そんで噂に拍車が掛かると……シンクロ率アップの為に女に言い寄られるちゅうんは、男として羨んで良いのか、哀れんで良いのか、よう分からんのぉ」

「羨んでも良いんじゃないかな? 元々それが目的でも、彼女のように結局は彼の側に行きたいと願ってしまうみたいだからね」


先ほどの高尚な説教は何処へいったのか、非難していたはずの女達と見事に渡り合っているアメリカ代表の女性を見やり、トウジは「まっ、そこは度量の問題っちゅうこっちゃな」と纏めた。

そりゃ、戸惑い無くこんな場所で銃を抜く女に惚れられとるシンジは、かなりの度量持ちやろなぁ、等と思いながら、呆れ顔で話を繋ぐ。


「しっかしようやるのぉ」

「そうだね。威嚇だけかと思いきや、まさか人に向けて発砲するとは……流石の僕も彼女達のアグレッシブさには冷や汗が止まらないよ。とても怖いって事さ」

「せやな。撃たれた方もあっさり避けた上に、怯みもせず即反撃とはようやる……ってそれはそうなんやけど、ワイが言いたいのはそこやないねん」


こいつのボケはノリツッコミしづらいと割とどうでも良い事を考えながら、ちゃうちゃうと手を振り、


「ワイも今まで何人かのおなごと付きおうてそれなりに経験もあるし、綺麗な別れ方出来ずに、その場では別れたくないとか泣きつかれた事も何べんもある。でも流石に相手も時間さえ経てば、結局なんやかんやで折り合いつけるし、あないにはならんで……ってあー、言うとくけど、これはセンセに対する負け惜しみでも、嫉妬でも無いで? ってあかん。こんな風に言い訳かましとったら、そうとしか聞こえへんやん」

「ふふっ、大丈夫だよ。言われなくても君がそんな卑小な人間でない事は分かってるさ。シンジ君の親友である君は僕にとっても親友だからね」

「……ワイは認めへんで。っとそれは置いといて話を戻すがな。センセがええ奴で、ワイなんか足元にも及ばん位凄いってのは重々承知やけど……ありゃ流石に異常やで」


激しさを増すばかりの騒動を横目に、真面目な顔でそう漏らすトウジ。


人の愛に永遠などなく、たいていの場合、始まりはどんなに激しく愛し合ってもいつか冷めるものだし、時や距離が離れれば尚更、その熱情は早く薄れ行くのが世の常。

あまりに相手を愛しすぎて、別れても忘れられないという事まではあるのだろうが、その相手と一年近くも顔を会わせていない人間の激しい熱情が冷める事無く、同じような熱情を持つ人間を新たに増やす事で、騒動が落ち着く事無く、逆に拡大していくという今のこの状況は、彼の言う通り異常であった。

彼のそんな疑問を正確に理解したカヲルは、ふむとあごに手を当て、しばし考え……答えらしきものを見つけ、ポツリと呟いた。


「もしかしたら彼女達は不安を覚えているのかもしれないね」

「何に?」

「自分が持つシンジ君への想いに……さ」


首を捻るトウジにも分かりやすいように、補足を始める。


「自分は確かに精一杯努力している。でも果たしてその努力は充分なのだろうか? 自分はライバル達よりも劣っているんじゃないだろうか? そんな風に自分に自信が無いからああやって争う事で、己とライバル達との実力を比べ、それを確認しているんじゃないかな?」

「なるほどなぁ……と言いたいとこやけど、比べるにしてもあれは方向性間違ってんのとちゃうか?」

「まぁ、男同士が拳で会話するのと似たようなものさ」


そんなものかと一応の納得を見せたトウジに対し、カヲルはもしくはと言葉を続け、


「薄情なシンジ君が連絡のひとつもしてくれない事が原因かな」

「……ストレスの発散ちゅう事か?」

「それもあるかもしれないけどね……僕が思うに彼女達はシンジ君が確かにこの世に存在するという証明が欲しいんじゃないかな?」


理由としてはこちらの方が大きいかもしれないねと思いながら、考えをそのまま口にする。


「彼は先を行き過ぎているんだ……どんなに僕らが急いで追いかけてもその背中さえ見えない位置にね。だから僕らは世界から彼の姿が突然ふっと消えても気づく事さえ出来ない……これは抽象的すぎて分かりづらいかな?」

「いや……何となく分かる」

「そうかい? じゃあ、話を続けさせてもらうけど……もしかしたら彼は既にいないのかもしれない。それどころか全ては幻で彼は初めからいなかったのかもしれない。そうなる事が怖くて、彼と関わった人間と言葉を交わし、体でぶつかり合う事で、彼の残り香を互いに感じ、彼は確かに今もこの世にいるのだと安心する……そう考えると、この争いは不器用な彼女達が選んだ、同じ想いを持つ同士への拙い愛情表現なのかもしれないね」


微笑みながらカヲルはそう話をしめ……しかしトウジは途中から別の事が気になり、彼の話をほとんど聞いていなかった。

彼は考えていた……自分とシンジの距離はいつの間にこんなに離れてしまったのだろう? と。


最初に出会った時から彼はエヴァのパイロットであったのだから、確かにスタートラインの時点で違ったのだろう……だがそれでも彼と自分とケンスケの三人で馬鹿をやっていた頃は、確かにすぐ近くにいたはずなのだ。

その内に自分はフォースチルドレンに選ばれ、エヴァのパイロットになる事を決めた。

自分がその当時、何を思い、何を感じたのか、その感情はよく覚えていない。

覚えているのは自分がただの一度も出撃する事無く、機動実験中に使徒に乗っ取られ、自分は左足を失い、生まれ育った第三新東京市を離れたという事実だけ……シンジにその後何があったのかはよく知らない。


しかしサードインパクトの後、何故か失ったはずの足が再生していて、喜びも驚愕もする間もなく、世界の危機だと告げられ、再びパイロットとして招集された。

それからはただ生き残る事に必死で、シンジと自分の差など考えている余裕も暇も無く……気づけば彼は、先ほどカヲルが言っていたように、その背中さえ見えないほど遥か遠くにいた。

しかし彼がいる遥か遠くとは、その背中さえ見えないほどの位置とは一体何処なのだろう?

人類の頂点である英雄とまではいかないまでも、その端っこ位には引っ掛かっているであろう自分でさえ、確認する事さえ出来ないとなれば、彼がいる位置はもしかすると……


「……なわけないわなぁ」


そこまで考えた所で、トウジは思いついてしまった考えを、アホらしと頭を振って霧散させて、顔を上げ、


「……何しとんねん?」


隣で立ったり座ったりを繰り返しているカヲルに気づき、怪訝そうに眉をしかめた。

奇行を止めた彼は、その問いかけに引きつった笑顔を返し。


「いや、やはり僕もシンジ君の運命の相手を自称するからには彼女達と同じ土俵に上がるべきかと思ったんだけど……やっぱり止めて置こうかなと」

「何で?」

「今の僕にとって生と死は等価値じゃないって事さ」


爽やかに髪をかき上げるカヲルと、そんな彼を冷めた目で見つめるトウジ。


「つまりおのれはあれに巻き込まれて、死ぬのが怖いっちゅうこっちゃな?」

「……まぁ有体に言えばそういう事だね」


視線を逸らす色男に、こいつは……とトウジはため息をつきながら立ち上がり、


「おなごがあれだけ体張ってるっちゅうに大の男がなに尻込みしとんねん。愛の為にお前も逝って来い!」

「な、何となくだけど、トウジ君の逝くの字が違うような、ってのわぁ~~~~!」


そう怒鳴りつけると嫌がるカヲルを騒動の中心へと蹴り飛ばした。

果たして彼が言う所の拙い愛情表現に巻き込まれて、人へと身を堕とした天使が無事生還できるのかどうか……まぁ、それは神のみぞ知るっちゅうとこやなぁと、心底どうでもよさげに心の中で呟いたトウジは、大欠伸をして机に突っ伏し、惰眠をむさぼる事にした。




後書き


今回は本編と関係ないといえば関係ない。しかし本編より重要であるとも言える微妙なお話でしたが、いかがでしたでしょうか?

背景の分からぬオリキャラばかりの話で、皆様の不満も残るかもしれませんが、まぁそれも追々という事で……

それではまた次回


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