<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

エヴァSS投稿掲示板


[広告]


No.3151の一覧
[0] 神様なんていない[神無](2008/05/31 00:47)
[1] 神様なんていない 第一話[神無](2008/06/02 23:41)
[2] 神様なんていない 第二話 前編[神無](2008/06/02 23:18)
[3] 神様なんていない 第二話 後編[神無](2008/06/04 23:31)
[4] 神様なんていない 第三話 前編[神無](2008/06/13 00:38)
[5] 神様なんていない 第三話 後編[神無](2008/06/13 21:35)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[3151] 神様なんていない 第三話 前編
Name: 神無◆39aaf7d2 ID:a935cf71 前を表示する / 次を表示する
Date: 2008/06/13 00:38

伝説のサードチルドレンが日本へと帰国し、本部ネルフと一ヶ月契約を結んでから、一週間が経過したその日の朝。

ここ第三新東京市にあるマンションの一室、如月ミキ宅では、家主である如月ミキと青年碇シンジの二人は流し台で朝食の用意をしていた。

二人並んだその姿は仲の良い兄妹のような微笑ましいものであったが、青年の方はともかく、少女の表情は何故か暗く……彼女は普段話しなれていない為か途切れ途切れに、それでも真剣に傍らの青年へと話しかけていた。


「……というわけなんです」

「なるほど、マキナちゃんにお弁当について聞かれて、それで同居する予定だって事を話さず終えなくなって、その後も僕の事についてあれこれ話していると」

「すみません、碇さん……」

「いや、別にそれは謝る事じゃないと思うよ? 僕は自分の事隠してるわけじゃないから」


しかし少女の真剣さに対して青年の返答は軽く、実際に目の前の焼き魚の方が気になるらしく、焼け具合を確認してひっくり返し、うんと満足そうに頷いている。

ここ数日罪悪感を持ち続け、ようやく出来た罪の告白。

卑屈な少女は、全く気にしていない彼の様子にほっとするよりも、この人は意味が分かっていないでは無いのだろうかと焦り、更に言い募る。


「で、でも私は自分がマキナちゃんと友だちになりたいからって、碇さんに迷惑を掛けているんですよ?」

「全然迷惑なんかじゃないよ。自分が役に立って、ミキちゃんに友達が出来るなら、嬉しいし……まぁ、勿論、僕は逃げ出したとはいえ、パイロット登録自体は抹消されていないみたいだから、守秘義務とかあるわけだけど、同じパイロットのマキナちゃんには問題ないだろうしね」


そんな彼女を安心させるように一つ微笑み掛けると、シンジは良い色に焼きあがった魚に視線を戻してよしと頷き、一匹づつ皿に上げ、横にあったなべの中の味噌汁をかき混ぜながら、少しだけ首を捻った。


「ただ、それって逆じゃないかな?」

「逆……ですか?」

「そう、逆。その話を聞いた限りじゃ、僕はマキナちゃんが僕の事をダシにしてミキちゃんと友達になりたかったんだと思うんだけど」


お玉で小皿に移した味噌汁を味見し「うん、良いダシ取れてる」とやはり満足そうに頷くシンジ。

駄洒落ですか? と一瞬突っ込みかけたものの、今はそんな場合じゃないとミキは思い直し、その言葉を否定する。


「そ、そんなはずありません! 碇さんの事は口実で、本当は私と友達になりたかったなんて……そんなはずが……」

「そうかなぁ。だっていつもはパンなのにその日がお弁当だったから、同居の事がばれたんでしょ? マキナちゃんが、いつもパンだって知っていたって事は随分と前からミキちゃんの事を見てて、声を掛けるタイミングを探して、偶々僕が来たからそれをキッカケに話しかけたって考えた方が、しっくり来ると思うんだ」

「あっ」


言われてみればその通り。

確かに状況を冷静に判断すれば、そう考えた方がしっくり来る様な気がするが……しかし未だ信じられない様子で、で、でも……とどもる少女にシンジは苦笑し、尋ねる。


「じゃあ、ミキちゃんは、マキナちゃんが僕の事を聞きたいが為に、表面上だけ仲良くするような嫌な子だって思ってるのかな?」

「そ、そんな事ありません! マキナちゃんは良い人です!」


自分にはそんな価値は無いと否定するという事は、自分があの明るい少女を疑っている事へと繋がる。

自分の言葉の意味に気づき、青ざめる少女の肩にぽんと優しく手が置かれた。


「この聞き方は卑怯だったね。まぁ、超能力者でもない僕らが、人の考えを読めるはずもないから、本当の事なんて分かりっこ無いけど……でも最初から諦めるよりはプラス思考で考えた方が得だよ」

「得……ですか?」

「そう、得なんだ。それが錯覚だったとしても、プラスに考えられれば、人を信じられるようになるし、そうすると自分の事も好きになれるから」


人を疑って生きる事は辛い……他人を信じて、明るく生きられたらどんなに良いか。

心ではそう分かっていても、弱い自分には出来そうも無いと少女は初めから諦めて俯き、


「って言ってる僕もまだまだマイナス思考が抜けないから、人の事は言えないんだけどね」

「えっ、碇さんがですか!?」


我が耳を疑うような信じられない告白に驚き、顔を上げた。

少女の目に映る青年がその顔に浮かべていたのは寂しそうな笑顔。


「僕がミキちゃんと同い年だった頃の話だけどね。あの頃の僕について、今考えると口では何と言っても、人を信じたかったんだ……でも信じた人に裏切られるのはそれ以上に怖かった。人に触れたい、愛されたいと愛情を求めて……でも臆病者の僕は裏切られて、傷つくのが怖くて、誰からも距離を取って……今じゃ大分マシになったけど、かなり酷かったよ」


現在の彼しか知らない人間にとって、そんな話は到底信じられないものだろう。

ただ見る者の胸を締め付けるようなその寂しい笑顔が、事実なのだと確かに語っていて……沈黙に気づき、はっと顔を上げたシンジは、寂しい笑顔を消して、照れくさそうに頬を掻いた。


「っとあー、ごめんね、ミキちゃん。朝からこんな暗い話聞かせて」

「い、いえ! その気持ちよく分かりますから……辛い事なのに、話してくれてありがとうございます」


似ていても自分と彼は違う人間だから、どんなに憧れても必ずそうなれるとは限らない。

それでも実際になれた人間がいるのだから、自分にも人を信じ、好きになれるかもしれないと少しだけ前向きに考える事が出来た少女は、青年に礼を返し……


「僕も色んな人に助けられて、ようやく少しだけ前向きになれたけど、まだまだだからさ……一緒に成長しよう? 難しい事だけど、これを一緒に乗り越えられれば、きっと僕らは本物の家族に負けない位の絆を得られるからね」

「……はい、碇さん」


彼の言葉に頷き、おずおずと、しかししっかり笑顔を返す事が出来た。

そんな少女におどけた笑みを返すシンジ。


「さて、僕らが家族になる為に一つだけ注意なんだけど……同居するときにお願いしたよね? 碇じゃなくてシンジって名前で呼んでって。昨日は大丈夫だったのにまた戻ってるよ?」

「あっ、そうでしたね! いか、じゃなくてし、シンジさん」


素直に従う少女に嬉しそうに笑みを深くした青年は、よろしいとでも言うようにその頭を撫でた後、「こっちはもう良いから、テーブルをお願いね」と少女に布巾を渡す。


「はい、分かりました」とこちらも嬉しそうな笑顔を返す少女は正に幸せの絶頂にあった。


同居する青年はいつも笑顔の優しい人で、側にいるだけで安心できるし、どんな悩みもあっという間に解決してくれる頼れる人で……しかし気弱な少女が、この青年との同居に初めから不安が無かったかと言えばそうでもない。


出会ったその日に家に泊める事になり、翌朝に僕がこっちにいる間、同居しても良いかな? と相談された時は心底驚き、とても焦った。

とても内気な少女は、何も分からなかった小さな頃はともかく、男の子を異性として認識するようになってからは、父親以外の男性には触れる事所か話すことさえまともに出来なかったのだ。

男の人と同居なんかしたらそれこそ緊張で死んでしまうと本気で思い……それでも心の何処かで、初めて出会った時から優しくしてくれるこの人と一緒にいたいという思いのために、勇気を振り絞って、同居を受け入れた。

少し前まで面識も無かった人間を家族と割り切る事は流石に出来ず、未だに緊張をする時もあるが、それでも本当の家族といた時でさえ、得られなかった安らぎを得る事が出来た少女は、同居を決めて良かったと本当に心の底から思っていたのだが……


「シンちゃ~ん、私はご飯は大盛りでお願いねん」

「はいはい。分かってますよ……しかし朝から良く食べますねぇ」

「だってシンちゃんのご飯美味しいからぁ。ねぇ~ペンペン?」

「クワッ!」

「はぁ~……」


ミキはテーブルを拭きながら、ビール缶を片手に、ペンギンと会話する暢気な笑顔を浮かべた女性を見やり、ため息をつく。


「どうしたの~ミキちゃん? ため息なんか吐いてると幸せが逃げちゃうわよん。何か悩みがあるなら、ミサトお姉さんが相談に乗ってあげましょうか?」

「いえ、悩みがあるわけじゃなくて、何で朝食時に葛城さんがいるのかなと思って……しかもここの所毎日来てますよね?」


軽いノリで話しかけてくる女性に返すのは、気弱な少女らしからぬ、冷たい言葉ときつい眼差し……青年と同居してからの唯一といっていい少女の不満は、この女性がやたらとこの家に入り浸るようになった事だった。

別に気さくなこの女性が嫌いなわけではないが、明らかな自分目的で無い来訪は、あまり面白いものではない。


「い、良いじゃないお隣さんなんだし……それにいざという時、意思疎通を円滑にするため、パイロットと作戦部長は日頃から交流を深めておくべきなのよ」

「私だけの時は数えるほどしか来たことないのにですか? まぁ、葛城さんはそれで納得しても良いんですけど……赤木さん?」

「な、何かしら?」

「いえ、何故赤木さんまでいるのかな、と」


どもりながら言い訳がましく弁明する女性から、ターゲットを変えた彼女の視線の先にいるのは金髪に黒眉毛の女性。

普段は気弱な少女が不機嫌さを隠そうともせず、こんなに強く出た理由は、今朝はミサトに加え、何故かリツコまで来ていた事だった。


「そうよ、そうよ! お邪魔虫はさっさと帰りなさい!」


少女の冷たい視線に良心が痛むのか、表情を引きつらせ、わずかに怯んでいたリツコだが、ここぞとばかりに責めるミサトには逆切れした。


「私は酔いつぶれたあなたを家まで運んであげて、そのまま介抱してあげる為に泊まったのよ! 朝ごはんぐらいご馳走になったって良いじゃない!」

「良くないわよ、下心バレバレの行き遅れ女が家族の団欒を邪魔しようなんて厚かましいにも程があるわよ!」

「……葛城さんも同じ様なものだと思いますけどね」


思わぬ人物からの鋭い口撃にうっと胸を抑えるミサト。

明らかに頬を引きつらせながら何とか言い返す。


「み、ミキちゃんも意外と言うわね。愛しのシンちゃんとの朝食を邪魔されたからって。ちょっちそれは酷いんじゃないかなぁ?」

「そ、そんなんじゃないですよ!」

「……ふっ、無様ね」

「リツコも関係ないって面してんじゃないわよっ! 元はと言えばあんたが来るから!」


女三人寄れば姦しいとはよく言ったものだが、醜い言い争いは途切れる事無く続く。

ネルフに勤め、神の使いと戦い日本の平和を守るほどに元気の有り余った女性達の口論は永遠に続くかと思われたのだが……


「騒がしいですけど、何かありました?」

「「「何でも無いわ(です)」」」


リビングが騒がしい事に気づいたシンジが訝り、ひょっこり顔を出した事で、あっさり止まった。

見事な猫を被り、綺麗な笑顔を浮かべた三人に、何かがおかしいとシンジは首を捻りながらも一応の納得を示し。


「うーん、何か引っ掛かるけど……取りあえずご飯出来ましたから食べましょうか?」

「「「はーい」」」

「クワッ!」


その言葉に、女性陣三人と、口論に巻き込まれまいと隠れていた聡明なペンギンは良い返事を返すのだった。





そして料理の皿がテーブルに並べられ、四人と一匹の朝食が始まったのだが、その朝の食事はいつものものに比べ、妙に静かだった。

他人との会話が苦手で、話しかけられてようやく言葉を返すミキはともかく、いつもはマシンガンの如く、わざわざ話す必要も無いようなどうでも良い事から、食事時に話すべき事ではない重大な事まで話すミサトでさえ、言葉少なく……

如月家の食卓が妙に静かなその原因は二人の視線の先にあった。


「シンジ君」
「あっ、お醤油が切れてますね。取ってきます」
「シンジ君ー」
「コーヒーですか? あー、すみません。今日はリツコさんがいたので、張り切って豆から引いたら思った以上に時間が掛かっちゃって、もう少し待ってくださいね」
「シンジ君?」
「うーん、どうでしょう……まぁ、正確なことは言えませんけど、皆調子良さそうですから、今日のシンクロテストはまずまずの結果が出ると思いますよ」


二人の視線の先にいるのは、自然な会話を交わすシンジとリツコ。

そんな二人を観察しつつ朝食に箸を進めながらも、何かを考えるように黙っていた二人だったが、先にミサトが動いた。


「シンちゃ~ん?」
「えっ、ミサトさん。何ですか?」
「え~っと、あの出来ればビールのお代わりを……」
「あっ、ビールですか。はい、どうぞ。でもこれからお仕事なんですからそれで止めておいてくださいね」
「あっ、うん。分かったわ」


シンジから手渡されたビールの缶をありがとうと受け取りながらも、ひくりと頬を引きつらせるミサト。

そんな女性の様子を見やり、少女は逡巡するように顔を上げたり下げたりしていたが、やがて決心したように顔を上げ、


「し、シンジさん?」
「えっミキちゃんどうしたの?」
「えっ、あの……な、何かお手伝いする事はないかと」
「ああ、お手伝いはもう良いよ。ミキちゃんはこれから学校だし、放課後はシンクロテストと大忙しだからね。もう充分手伝ってもらったから、学校に行く時間まで位はゆっくりしてて」
「は、はい……」


優しい言葉と笑顔を向けてくれたシンジに、何故か落ち込むように視線を伏せる。


リツコはそんな二人に気づかず、せわしなく動くシンジに叱るような視線を向ける。


「シンジ君」
「ははっ、二人を甘やかしてるわけじゃありませんよ。慣れない外国暮らしが忙しかった所為か、逆に何かしていないと落ち着かなくなっちゃって」
「……まぁ、あなたが良いならば良いんだけどね」


複雑な言語の組み合わせなど必要ない……ただ名前を呼ぶだけで、会話が繋がるその姿は正に以心伝心を体現した熟練夫婦の如く。

青年の返答に苦笑を浮かべていたリツコだったが、食事を終え、彼から渡されたコーヒーを一口含み、ほぅと幸せそうに息を吐き……ふと視線を上げ、何故かミキとミサトの二人が自分の事を睨みつけるようにきつい視線を向けている事に気づき、「うっ」と呻いた。


「な、何よ?」
「べっつにぃ」
「……何でもありません」


何かずるい……何か言いたげに、しかしそれ以上何も言わず、元同居人と現同居人は視線を逸らすと不服そうに口を尖らせ、


「ミキちゃん、リツコには気をつけてね」

「……はい」


主語を用いず、注意を促すミサトの言葉に、ミキも何にとは聞かず、しっかりと頷くのであった。






数時間後、リツコの研究室に葛城ミサトと赤木リツコはいた。


「……凄いわね」

「ええ……噂には聞いていたけど、まさかここまでとは思わなかったわね」


感嘆するというよりも、何処か呆れるような響きを持った会話を交わす二人が見ていたのは、先ほど行われたパイロット達のシンクロ結果が記されたグラフ。

ミサトはもう一枚の用紙……シンジが来る以前に行ったシンクロ結果が書かれた記録用紙と見比べ、ため息をついた。


「こうやって前の記録と見比べてみると効果は歴然……平均で10%近く伸びてるわけだからねぇ」

「その割にはあまり嬉しく無さそうね」


ダメージフィードバックというものがある以上、パイロットに掛かる負担を考えれば、シンクロ率の上昇は手放しに喜ぶべき事ではないのは確かだが、それでも作戦部長であるミサトにとって、指示伝達から行動へ移すまでの速度が格段に上がるし、また子供達を思う一人の人間としても、シンクロ率が上がればATフィールドはより強固になり、安全性もまた格段に上がるのだから喜ぶべき事のはずだ。

はずなのだが、やはりミサトは何処か物憂げにため息をつき、頭を掻いた。


「いやー、何か個人的にはあんまりこう言いたくはないけど、シンジ君一年前に日本から出てくれて正解だったと思ってね」

「あら? 姉を自称するわりに弟に対してひどい事言うのね」


私の言いたい事位判ってる癖にこいつ……やっぱり性格悪いわね。

からかうように言う親友に対し、ミサトは眉間にしわを寄せ言葉を返す。


「だから個人的には言いたくないって言ったでしょ? 流石にずっとこの伸びが続くとは思えないけど、それでも一年も彼が教え続けたらここにいる五人全員がオリジナル並になると思うわ。下手に囲ってたら、世界中から日本に非難が集中してたわよ」


聞けば、シンジがこのネルフ本部から消え、そして再び戻ってくるまでの一年の旅費は、世界中にあるネルフ支部に立ち寄り、その間パイロットだけではなく、エヴァについて己の経験則から得たものをチルドレン達に教え、その対価として得るいくらかの給料で賄っていたという。

そんな旅の中で経験を重ねていった結果、教えるという能力が精錬されたのだろうが、それでもこの才能ともいえる能力は異常で、あまり一箇所に留まっているべきものではない。


強大な力はそこにあるだけで要らぬ不安を掻き立てるのが世の常であり、そう考えると、一ヶ月という期間は短いようで絶妙な時間だ。

彼がもしもそれ以上の期間一箇所にいたとしたら……いや、それ所か生涯留まる事を決めたとしたら、本人自身の力もさることながら、その能力によって別格とされているオリジナル並のチルドレンが五人も育てられた場合、その国は世界征服を企てているなどという馬鹿みたいな、しかし実際、実現可能な噂が流れる事になるだろう。


「そんな事になったら本当大変だろうけど……でもまぁ、シンちゃんが残りたいって言うなら、どんな手を使ってでもそんな噂跳ね返してやるけどねん」


しかしミサトはそれが分かっていても、そう言い放ち、勝気に笑った。

冗談の様に口にしてはいるものの、それが本気だという事は力強い意思を込めた瞳が語っていて……この一年で変わったのはシンジ君だけではなかった様ねとリツコは思う。

子供を戦場に出したくないと口にしながら、最後はそれしかないと戦場に叩き落した偽善の女……しかし今、女はあの頃のように口だけではなく、本当に弟を思いやる本物の姉に変わった。

リツコはそんな親友に対し、好ましげな笑みを向け、


「良い覚悟ね……でもそこまで覚悟させておいて悪いけど、彼はこことの契約が終わっても、もう少し旅を続けるみたいよ」

「えっ? そうなの?」

「ええ、間違いないわ。だって本人から直接聞いたもの」


拍子抜けしたように呆けるミサトにクスリと笑うリツコ。

そんな彼女に対し、ミサトは、むすっとしたように不満げに口を尖らせてふてくされ。


「私が知らないような事まで知って、心で通じ合ってる感じ? 流石、初めての人は違うわねぇ」

「な、何言ってんのよ。シンジ君は私が聞いたから答えてくれただけよ。ネルフに勤める者としてそれは知っておくのは当然のことで……」

「いやいや、別に気にしなくても良いですよ~。男の子にとっては姉なんかより自分の女が大事なのは当然だもんねぇ」

「……何か棘があるわね」

「べっつにぃ~」


ミサトは朝の事をまだひきずっていたのであった。





そんな風に子供達が喜ばしい結果を出した割には、二人の女傑が妙にとげとげしい会話をしていたその頃のパイロット控え室。


「お~、シンクロ率35パーセントなんて凄いじゃないミキっぺ!」

「う、うん」

「流石は我がライバルと言った所だけど……でも私だってまだまだ負けてないわよ!」

「あっ、42パーセント。凄いねマキナちゃん!」


少女パイロットの二人は、今回のシンクロテストの結果を互いに見せあい楽しそうにはしゃいでいた。


「へへ~ん。ちょっと伸び率では負けてるけど、まだまだ差はあるし……同居っていうアドバンテージは取られてるけど、パイロットとしても恋のライバルとしても負けないよ」

「わ、私そんなんじゃ……」

「またまた~、照れない照れない。そうやって油断させようたってそうはいかないわよ~」


うりうりと頬をつつく、マキナに顔を真っ赤にして俯くミキ。

昨日までの彼女ならこんなやり取りでさえ、何かしらに負い目を感じ、落ち込んでいただろうが、今朝のシンジとの会話のお陰で、マキナが純粋に自分と友だちになりたいのだと思う事が出来、これも彼女なりの冗談なのだと、ただ恥ずかしがる事が出来た。

二人の少女が騒がしくも微笑ましい空間を形成していたその時。


「……うるさいぞお前ら」


冷めた声にはっと顔を上げた少女が見たのは冷めた表情でこちらを見る一人の少年とその後ろに立つ二人の男子。

彼らの明らかな苛立った様子に気弱な少女はさっと顔を青ざめ、慌てて頭を下げる。


「す、すみません!」

「あら~騒がしくてごめんなさいね。現トップのソウシさんとその金魚の糞二人組さん」

「ま、マキナちゃん!」


しかしもう一人の少女は、刺々しい言葉を返した。

何を言い出すのかと慌てるミキを安心させるようにマキナは笑い。


「良いのよミキっぺ。こいつら今まで散々シンクロ率低い私を見下してきたんだから、相手にするだけ損損。まっ、この調子なら私達、現トップのソウシなんてすぐに抜いちゃうんだろうしねぇ」


確かに伸びてはいるものの自分達に比べれば、伸びの悪い彼らのシンクロ率をつき、挑発的な言葉を吐いた。

これだけの言葉を吐けば言い返してくるだろうし、もしかしたら力づくで来るかもしれない。

ならば返り討ちよと相手が当然自分よりも力の強い男子であるにも関わらず、強気に拳を握り締め、


「そうそう、別に構わないぞ。英雄様がいる間に、確かに俺は負けるだろうしな」

「へっ?」


予想外にあっさり引いたことでぽかーんと呆気に取られた。

マキナは呆然とする頭で、もしかして心境の変化でもあったのだろうかとも考えたが、その考えは甘かった。


「良いよなぁ。女は楽で」


ぽつりとした呟きに顔を上げたミキが見たのは、少年の笑顔。

笑みを浮かべた少年は、そんな少女につかつかと歩み寄り、尋ねる。


「聞かせてくれよ。英雄様とのアレはどうだった?」

「何の……事、ですか?」


嫌だ……聞きたくない。

口に出た言葉に反し、ミキはそう願うが、願い叶わず、少年の口は止まらない。


「とぼけなくなたっていいぞ。あの噂が本当だったって分かったしな」


なぁ? と同意を求めるように振り返った少年に、二人の男子もにやにやと嫌な笑みを浮かべ、それに満足したように頷くと視線を少女に戻した。


「俺も半信半疑だったんだけどな……あの英雄様とヤルとシンクロ率があがるそうだ。俺もまさかと思ってたが、目の前に実例があるんじゃ信じるしかないよな」


世間では秀麗とされるであろうその顔を醜く歪め、震える少女に蔑みの目を向ける少年。

その間に一人の少女が割り込んできた。


「ミキっぺと私が碇さんに抱いて貰ったからシンクロ率が上がったって? ……あんたバッカじゃないの?」


震えるミキをその背に庇うように立ちふさがったマキナは、冷めた視線を少年に向け、冷たく言う。


「何処から聞いてきたんだか分からないけど、そんなくだらない噂まで持ち出して……碇さんがあなたの尊敬するトウジさんより凄いのを認めるのがそんなに嫌?」

「あ、あんな奴なんかより、トウジさんの方が凄いに決まってる!」

「……て」


酷く冷ややかな視線と共に厳しい言葉を浴びせるマキナに、苛立ち言い返すソウシ。


「はぁ、認めないんだ……まぁ、どっちにしたって私達にすれば、あの人達は雲の上の人達だし比べられるものでもないけどさ。少なくとも私達とこの結果を見れば、教え方が上手いのは碇さんよねぇ?」

「その言葉を取り消せ! あいつは逃げたんだぞ!?」

「だからそれには理由があったって言ってたじゃない? その理由さえ知らないのに女々しく愚痴愚痴言ってんじゃないわよ!」

「……めて」


生意気な相手を言い負かそうと頭に血が上った二人は気づかない……気弱な少女が体を震わせ、それでも何かを言おうと必死に震える唇を動かしていた事を。


「そんな話はどうせあいつの出任せに」

「決まってるって? はぁ~、やだやだ。碇さんもだけど、トウジさんもあんたのくっだらないプライドを満たす為に引き合いに出されて、良い迷惑よね!」

「二人とも止めてよ!」


絞り出した様な悲痛な叫びにようやく気づき、振り返った二人が見た少女は涙を流し、震えていた。


「喧嘩……なんて止めて……あの人を……シンジさんをそんな風に言うのは止めてよぉ」


それだけを口にすると何度も啜り上げ、嗚咽を繰り返す少女にマキナは俯き、頭を下げた。


「……ごめん」

「……ちっ、だから女は嫌なんだ。何でも泣けば済むと思って」


彼にした所で、苛立ちをぶつけたかっただけで、泣かせるつもりは無かったのだろう……しかしどうして良いかわからず、決まり悪そうに、それでもそうきつく吐き捨てた少年に、マキナは怒りを再燃させ、「あんたは」と再び口論が始まろうとしたその時。


「やぁやぁ、皆。今回のシンクロテストも順調に伸びてたね。優秀な後輩を持って僕も鼻高々……って何かあったの?」


プシュッと空気が抜ける音と共に入ってきたのは笑顔のシンジ。

場違いに明るい声で入ってきたのが彼だと気づき、誰もが罪の意識を感じ、視線を逸らした所為で彼らは気づかなかった……青年が重い空気を感じて、辺りを見回し、しゃくりあげる少女を目にした瞬間、すっと眼を細めた事を。


「いえね。女子連中が羨ましいなって話をしてただけですよ」


だからだろう。

青年に敵意を持つ少年は、妙に明るい口調で青年にそう返した。


「あんたまだ「僕には分からないんだけど……何が羨ましいのかな、ソウシ君?」い、碇さん?」


そんな少年に怒り、攻めようとしたマキナだったが、その前にすっと自分の前に立った青年を見上げ、言葉を失った。

その位置から少しだけ見えるその顔が、別人のように見えたからだ。

戸惑う少女に気づかず少年は、嫌な笑みを浮かべて己の言葉を補足する。


「女は媚を売れば目を掛けてもらえるからですよ。男が媚を売っても気持ち悪いだけですからね」


少年のその目は明らかな敵意を持っていたのだが、青年は気づかないように平然と答えを返す。


「うーん、女の子が好きなのは否定しないけど、かといって二人に媚を売られた覚えもなければ、特別贔屓して教えたつもりはないし、この結果は単に努力の差だと思うけど?」

「……つまり碇さんは俺の努力が足らないって言いたいわけですか?」

「うん、その通り」


あっさり言い切られ、少年が怒声を上げようとしたその瞬間を計ったかのように青年は尋ねる。


「ソウシ君に聞くけどさ。僕の事嫌いでしょ?」

「……はっ?」

「いや、だから君は僕の事を嫌いでしょって?」


にこやかに笑う青年の問いかけに、少年はそれが今までの話とどう繋がるのだろうと考え、ある答えに辿り着いた。

この答えが正解なのだろうか? ……いやそうに決まっている。自分の出した答えが正しいと思い込み、もう既に感情を抑える事さえ出来ずに真っ赤な顔で怒声を上げる。


「俺があなたを嫌いだから、あなたは俺の指導を怠ったって言うんですか!?」

「あー、違う違う……ごめん。僕の言い方が悪かったよ。別に嫌いなら嫌いで良いんだけど、それを仕事に持ち込むのはどうかなって言いたかっただけだから」

「だからあんたが!」

「物分りが悪いね……僕は君がそうだって言ってるんだよ?」


意味を図りかね、戸惑う少年にシンジは穏やかな声でその意味を説明する。


「まぁ、普段僕はフラフラと色々見て回るのが好きだから、結構色々な所に行ってたりはするんだけど……ただ請け負った仕事はちゃんとやるように心がけているから、少なくとも君達がネルフにいる間はちゃんと視界に入る範囲にいたと思うんだ。何か疑問があったら、いつでも質問できるようにね」


そう、確かに彼は常に少年の知る限り、自分達は見える範囲にいた。


「僕は最初の講義の終わりに言ったよね? 一般的な概要は教えられるけど、エヴァは感覚的な所が多くて、個人個人で問題が違うから、何か疑問があったらすぐに聞きに来て下さいって……で今回10パーセント以上伸びたミキちゃんとマキナちゃんは、僕によく聞きに来てくれたよ。細かい違和感や、その時こんな事を考えていたんだけど駄目なのかとか、詳しく話してくれて、どうすれば良いのかをそれこそ何十回以上ね」


それもまた確かな事で、シンクロテストが行われた際には少女達が彼の周囲に纏わりつく姿は良く見かけていた。

その時はくだらないお喋りでもしているのだろうと決め付け、忌々しげに思っていたのだが、それがシンクロ率向上を意図した会話だったとしたら……導き出された答えに、青ざめた少年にやはり青年は穏やかに話し続ける。


「ようやく分かってくれたみたいだね……そう、君は僕の所へ一回も来ていないんだ。一人で頑張るのも偉いとは思うけど、それで結果が出ていないのに僕が嫌いなんてくだらない理由で、怠るのはただの怠慢だと僕は思うなぁ」


少年が青ざめるを通り越して、その顔から血の気を失ったのは、彼の頭が決して悪くは無く、むしろ良い方だった所為で……青年の言葉が全くの正論であると理解してしまったのだ。

しかしプライドの高い少年は、これだけの証拠を突きつけられ理解しても尚己の失態を認める事が出来ず、しどろもどろに言い訳を探し、そして言葉を返した。


「べ、別にそんな感情で聞きにいかなかったわけじゃありません。俺にはあなたに聞くような疑問がなかったからで……」

「へぇー、自分は全力を尽くしてそれで何も無いって言えるんだ? でもその結果としてシンクロ率が他の仲間より上がらないのは何故? ほらもう疑問が出来た。こんなに簡単に出てくる疑問も見つからないなんて、探す事さえ放棄しているって事じゃないか」

「し、しかしそれ……は……」


尚言い募ろうと顔を上げた少年はようやく気づいた……青年は確かに笑っているが、その目が決して笑みなど浮かべていない事を。

それは笑みであって笑みではない、見るものを凍らせる冷笑とでも言うべきその笑みを浮かべた青年は、唇の端を更に吊り上げ、穏やかに語る。


「これ以上ごちゃごちゃ言うようなら相手してあげるから掛かってきなよ。くだらない事考えられなくなるくらいボコボコにしてあげるから」


生身での殴り合いを意識させる挑戦的な言葉を吐く青年に、そんな貧弱ななりで何を、等とはその場にいる誰も思えなかった。


彼はやると言ったらやる。彼が出来ると言ったら出来る。


殺気やプレッシャーなんてものではない……ただ青年の持つ空気が全てを圧倒し、この場にいる全員にそう知らしめた。

使徒と名づけられた化け物達にさえ、果敢に挑みかかる勇気ある少年少女が、たった一人の青年に支配され、身動き一つ取る事さえ出来ずに時だけが流れ……実際は数秒にも満たない短い時間だろうが、しかし彼らには永遠とも思える間の後、やはり動き出したのはその青年だった。

彼はゆっくりと少年の元へ向かう。

ただ呆然と棒立ちするしかなく、近づいてくる恐怖に顔を引きつらせる少年に、冷笑を見惚れるような妖艶な笑みに変えると顔を寄せ、その耳元で何かをぼそりと呟いた。


「!?」


その瞬間、何故か青ざめていた少年の顔が真っ赤に染まった。

何を言われたのかを理解出来ないかのように明らかな動揺を示したまま、彼は妖艶な笑みを浮かべたままの青年を見やり、そして……


「そ、ソウシさん。待ってください!」


その場から逃げ出した。

少年の訳の分からぬ行動に二人の男子も後を追って、その場から離れ……控え室には、呆然としたままの少女二人と、疲れたようにふぅと大きく息を吐き出す青年のみが残された。



ようやく時が動き出したその場で、マキナは感動したように瞳を輝かせ、シンジへと興奮気味に詰め寄った。


「あのソウシを言葉だけで言いくるめるなんて碇さん凄い! 超格好よかったです!」

「そうかな? でも勢いとはいえボコボコにするとかあんなハッタリ言っちゃって、本当に向かってきたらどうしようかと内心かなりびびってたんだよね」

「は、ハッタリだったんですか?」


先ほどまで泣いていた事も忘れ、おずおずと話しかけてきた少女に、シンジはいつもの笑顔でうんと頷く。


「あんな偉そうな事言ったけど僕喧嘩弱いから……現役で訓練を受けているパイロット相手じゃ、逆にぼこぼこだったよ」

「またまたぁご謙遜を旦那ぁ。昼行灯気取っても旦那の溢れる力は隠し切れやせん、あんな三下雑魚とはオーラが違いますぜ」

「お、オーラねぇ……まぁ、そこまで買ってくれてるのに、格好悪い姿見られなくて助かったかな?」


演技過多なマキナに、この子は変な漫画の読みすぎじゃないだろうかとわずかに頬を引きつらせながら、照れくさそうに頭を掻くシンジ。

そんな様子に、シンジさんらしいなぁ、と笑みを浮かべていたミキだったが、ある疑問が浮かび、おずおずと尋ねた。


「あの……最後にシンジさん。ソウシさんに何て言ったんですか?」

「あっ、それ私も気になった! あいつがあんなになるなんて何て言ったんですか?」

「あ、あれが聞きたいの? うーん、でもこれ言うと二人とも絶対引くからあんまり言いたくないなぁ」


少女二人のお願いに明らかに言いづらそうにシンジは言葉を濁す。

しかしその程度で年頃少女の好奇心は止める事は出来ず、マキナは何事かを思いついたようににやりと笑うと、ぴしりと敬礼を決め、やたらと硬い口調で問う。


「しかし教官。話していただかなければ気になって夜も眠れません! パイロットの健康管理の為、迅速な説明をお願いいたします!」

「……そう来たか」


そんな訳が無いと分かっていても、先ほど仕事はきっちりこなすと明言してしまった以上、パイロットの健康管理の為とされれば、真面目な青年が答えないわけには行かない。

恥ずかしいからと何故か少女二人を近くに呼び寄せたシンジは、先ほどのように妖艶な笑みを浮かべ、


「効果は保障しないけど、そんなに僕に抱かれたいなら、今夜10時に僕の部屋においで。優しく抱いてあげるよ」


甘く囁くようなその言葉に呆け、言葉を失った二人の少女。

二人はそのまま、自分に言われた訳では無いのにこれはやばい……と顔を真っ赤にしていたが、先ほどこれを言われた当人が誰だったかを同時に思い至り、顔を青ざめさせ同時に身を引いた。

この反応は予想していたのか、参ったなと苦笑いを浮かべるだけのシンジだったが、


「あ、あの噂本当だったんですね」

「えっ? あの噂って?」

「オリジナルの渚さんは碇さんのお手つきだって話です!」


続けられたマキナの言葉に落ち込み、がくっと肩を落とした。

渚カヲルが下手な、いや大多数の女性よりも美しい美青年であり、本人が隠す事無くシンジ命を明言している為に起こり、度々発生する誤解。

当然そんな関係はなく、あの言葉にしてもカヲル君はちょっと変わってるから、あれは彼なりの冗談なのだ。と本気で信じているシンジは、困り顔で否定する。


「カヲル君とはそんなんじゃないって……っていうか真剣に取らないでよ。ちょっと脅しすぎたし、あれで怯えられて訓練に支障を来たすような問題になったら不味いから、どうにかしようっていう苦肉の策だったんだから」


青年のはっきりとした否定の言葉に引いていた少女達も完全な平静を取り戻す事が出来……とまではいかなかったが、それでも頬を引きつらせる程度で済む位には回復する事が出来た。


「そ、そうですよね。でもソウシの奴がマジに着たらどうするつもりですか?」

「彼普通の子でしょ? いくらあんな噂を信じてても僕のところへ来ないと思うけど」

「そうかもしれませんけど……でもあいつ無駄にプライド高いですし、冷静になった時にからかわれたと分かったら、ぶちきれてやけになっていくかもしれませんよ?」

「う、うーんプライドとぶち切れか。確かにその場合を考えてなかった……参ったなぁ」


本当に困った様子で、腕を組み考え込み始めたシンジを見やり、少女達は顔を見合わせて微笑んだ。

別に彼が同性を抱いたからと言ってどうという事は無いとまでは言えないが、それでもそれ以上に先ほどの自分達を圧倒した彼の姿が心に残り、何処か自分達とは遠い世界の人間のように思ってしまった事が気になったのだ。

しかしこうやって自分達と同じように失敗し、思い悩む姿を見れば、彼だって自分達と同じ普通の人なのだと安心し、


「……まぁ、いっか。言っちゃったものは仕方ないから本当に来たら抱こう。何事も経験って言うしね」


お、大物だ……

しかし彼が悩んだ末に導き出したらしき冗談とも本気ともつかぬ言葉に戦慄し、やっぱりこの人は自分達とは違うと理解した。


そんな風に二人の少女が碇シンジという青年を普通では無いと判断するの時同じくして、シンジが今いる日本を遠く離れた地でも、彼が普通ではないと知らしめる騒動が巻き起こっていたのであった。




後書き

今回は『神様なんていない第三話前編、副題すごいよシンジさん日本編』をお送りいたしましたが、いかがでしたでしょうか?
また長くなり、前後編に分けてしまいましたが、後編では、すごいよシンジさん世界編(本人不在)をお送りする予定ですのでお楽しみに。

それではまた次回。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.032480001449585