結論から言えばサードインパクトはネルフの活躍によって未然に防がれた。
戦時侵攻が行われ、量産型エヴァ世界中の人々が何か大きな力の本流に飲み込まれ、他人と自分が溶け合い一つになるのを確かに感じた。
確かにそれは誰もが感じた瞬間だが、それも一瞬の夢のようなもので、気がつけば世界は変わらず存在していたからだ。
しかし結果良ければ全て良し等といっていられないのは世の常。
サードインパクトを起こそうとしたのが本当はネルフ自身であり、全ては彼らの自作自演なのではないか?
そんな憶測がされ、責任追及の声が上がったが、その声は大きなうねりを作る前に鎮火された。
それは何故か?
答えは単純。そんな事など言っていられないほどの新たな脅威、もう姿を現すはずのない使徒が姿を現したからだ……それも世界各地に不定期に。
この使徒達は現れる際、空間に起こる振幅が起こる事が分かった為、その計測方法によってある程度の出現場所と時期は予め分かるようになったが、使徒に対抗する唯一の手段であるエヴァも残っているのは壊れた零号機と二号機のみであり、搭乗者であるチルドレンと呼ばれる子供達は肉体的にも精神的にも病み、普通に生活する事さえ危うい状況。
その最悪な条件化で何度も窮地に立たされながらも、辛勝を重ねていく内に月日が経ち……各国政府協力の元に、世界各地のネルフ支部で、今までのエヴァ達を元にネルフを襲った物とは別の量産型と呼ばれるエヴァが建造され、シンクロできるパイロット達を選出していく事で、ようやく迎撃耐性は整い始め、わずかながら余裕も出来始めていた。
ところがここに来て問題となったのは使徒対抗のプロ集団。エヴァの操縦技術、シンクロ率共に他の追随を許さないオリジナルと呼ばれる五人のチルドレン達や多くの使徒戦を経験した本部に所属している人間達を世界中が欲した事だった。
協議に協議を重ね、交渉の結果、本部の人間達が次々と世界中に振り分けられる事が決定していく中、またもや問題が起きた……サードチルドレンがその姿を消したのだ。
幾度と無く世界の窮地を救った英雄。エヴァを駆るために生れ落ちた天才。
世間ではそう評され、事実最も多くの使徒を倒し、厳しい戦いを生き延びた彼は、世界中で欲せられていた為に、消えた後の混乱も大きかった。
大体、何故姿を消したのかその理由が分からないのだ。
使徒戦の恐怖に耐え切れず、逃げ出した……常に命を掛け、人々の命をその背に背負うエヴァのパイロットだ。
まだ成人してもいない少年が苦に思い逃げ出しても仕方が無いことだとは推測できるが、ほぼ一人で戦い抜いたと言っても過言では無いほどの一番厳しい時期には逃げなかった。
にも関わらずまだまだ安心出来ないとはいえ、迎撃体制が整い始め、パイロット一人一人の負担が格段に減った今、何故逃げる必要があるのかが分からないのだから、最強の矛を奪われるのを恐れた本部がその姿を隠したと疑われたのは当然の事だろう。
だが消えたと報告された後は一度も本部から出撃することもなく、彼を知る誰もが行方を知らないの一点張りでは、どんなに求めても諦めるしかない。
神が使徒を使い、人類へと試練を課すと同時に、人類に与えた唯一の希望、天から使わされた英雄は世界を救い、表舞台からその姿を消した……そう結論付けられた結果、サードチルドレンは神話によって語り継がれる英雄達の様に、人々の記憶にのみ残る偶像となったのだった。
……表向きの話は、だが。