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No.29857の一覧
[0] 初号機の初号機による初号機のための補完【完結済】[dragonfly](2023/05/31 23:39)
[1] 初号機の初号機による初号機のための補完 第壱話[dragonfly](2011/09/21 10:21)
[2] 初号機の初号機による初号機のための補完 第壱話+[dragonfly](2011/09/21 10:21)
[3] 初号機の初号機による初号機のための補完 第弐話[dragonfly](2011/09/21 10:22)
[4] 初号機の初号機による初号機のための補完 第弐話+[dragonfly](2011/09/21 10:22)
[5] 初号機の初号機による初号機のための補完 第参話[dragonfly](2011/09/21 10:22)
[6] 初号機の初号機による初号機のための補完 第四話[dragonfly](2011/09/21 10:23)
[7] 初号機の初号機による初号機のための補完 第四話+[dragonfly](2011/09/21 10:23)
[8] 初号機の初号機による初号機のための補完 第伍話[dragonfly](2011/09/21 10:23)
[9] 初号機の初号機による初号機のための補完 第伍話+[dragonfly](2013/02/20 13:55)
[10] 初号機の初号機による初号機のための補完 第六話[dragonfly](2011/09/21 10:24)
[11] 初号機の初号機による初号機のための補完 第六話+[dragonfly](2011/09/21 10:24)
[12] 初号機の初号機による初号機のための補完 第七話[dragonfly](2011/09/21 10:24)
[13] 初号機の初号機による初号機のための補完 第七話+[dragonfly](2011/09/21 10:24)
[14] 初号機の初号機による初号機のための補完 第八話[dragonfly](2011/09/21 10:25)
[15] 初号機の初号機による初号機のための補完 第八話+[dragonfly](2011/09/21 10:25)
[16] 初号機の初号機による初号機のための補完 第九話[dragonfly](2011/09/21 10:25)
[17] 初号機の初号機による初号機のための補完 第九話+[dragonfly](2011/09/21 10:26)
[18] 初号機の初号機による初号機のための補完 第拾話[dragonfly](2011/09/21 10:26)
[19] 初号機の初号機による初号機のための補完 第拾話+[dragonfly](2011/09/21 10:26)
[20] 初号機の初号機による初号機のための補完 第拾壱話[dragonfly](2011/09/21 10:26)
[21] 初号機の初号機による初号機のための補完 第拾壱話+[dragonfly](2011/09/21 10:27)
[22] 初号機の初号機による初号機のための補完 第拾弐話[dragonfly](2011/09/21 10:27)
[23] 初号機の初号機による初号機のための補完 第拾弐話+[dragonfly](2011/09/21 10:27)
[24] 初号機の初号機による初号機のための補完 第拾参話[dragonfly](2011/09/21 10:27)
[25] 初号機の初号機による初号機のための補完 第拾参話+[dragonfly](2011/09/21 10:27)
[26] 初号機の初号機による初号機のための補完 第拾四話[dragonfly](2011/09/21 10:28)
[27] 初号機の初号機による初号機のための補完 第拾四話+[dragonfly](2011/09/21 10:28)
[28] 初号機の初号機による初号機のための補完 第拾伍話[dragonfly](2011/09/21 10:28)
[29] 初号機の初号機による初号機のための補完 第拾伍話+[dragonfly](2011/09/21 10:28)
[30] 初号機の初号機による初号機のための補完 最終話[dragonfly](2011/09/21 10:29)
[31] 初号機の初号機による初号機のための補完 カーテンコール[dragonfly](2011/09/21 10:29)
[32] 初号機の初号機による初号機のための 保管 ライナーノーツ [dragonfly](2011/09/21 10:30)
[33] おまけ[dragonfly](2011/09/28 10:07)
[34] 初号機の初号機による初号機のための補完 第壱話++[dragonfly](2011/09/28 10:07)
[35] 初号機の初号機による初号機のための補間 Next_Calyx EX1[dragonfly](2021/03/08 01:45)
[36] 初号機の初号機による初号機のための補間 Next_Calyx EX2[dragonfly](2021/12/13 17:54)
[37] おまけ2[dragonfly](2022/11/14 13:07)
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[29857] 初号機の初号機による初号機のための補完 第拾四話
Name: dragonfly◆23bee39b ID:7b9a7441 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/09/21 10:28


「聞こえる? アスカ。シンクロ率7も低下よ。いつも通り、余計な事は考えずに」
 
『やってるわよ!』
 
シミュレーションプラグによる、シンクロおよびハーモニクステスト。モニターには惣流アスカラングレィの他に、碇君と鈴原トウジの姿。もっとも量産型のコアがここにあるわけではなく、2人がシンクロしているのはMAGIが構築した仮想コアなのだとか。
 
初号機を直接制御している私には関係なくて、こうしてコントロールルームから見ている。
 
「最近のアスカのシンクロ率、下がる一方ですね」
 
「困ったわね、せっかく弐号機のチェックが終わったのに」
 
ゼルエルの腕を奪い取って再構成してしまった弐号機は、そのことの危険性を理由に凍結されている。それでも使徒が来れば使わざるを得ないから、その機体検査は許可されていた。
 
しかし、同じように凍結されている初号機での直接制御のデータ取りは却下されて、赤木博士は少し不機嫌だ。
 
 
****
 
 
今日は食後にデザートがあるわよん♪と帰宅するなり言い放った葛城三佐の小脇に、緑色の球体があった。
 
レリエルを思わせるその果実がスイカと呼ばれることは知っている。食べたことはないし、食べたいとも思えなかったけれど……
 
 
ごちそうさま。と惣流アスカラングレィが席を立った途端、電話機のベルが鳴った。
 
「アスカ」
 
「イヤよ、どうせ加持さんからミサト宛てのTELでしょ? ミサトが出なさいよ」
 
「ん~、それはそれでねぇ…」
 
飲料缶で隠れた口元が、少し緩んでいるように見える。あれから加持一尉がどうしたのかは知らないけれど、葛城三佐は一度だけすれ違いざまに「ありがと」と言ってくれたから、悪い結果にはならなかったのだと思う。
 
 
立ち上がろうとした私を身振りで止めて、碇君が電話を取りに云ってくれた。
 
「まあ、テストデータ取りくらいしか仕事がないんだから、これくらいはしてもらわないとね~」
 
「はい、もしもし?」
 
何よ。と視線をそむけた惣流アスカラングレィが続けて何と呟いたのか、聞き取れない。
 
保留ボタンを押したらしい碇君が、子機を持ってダイニングを縦断する。
 
「ドイツから国際電話。アスカに。お母さんから」
 
お母さん? ドイツから? 惣流アスカラングレィの母親は、惣流キョウコツェッペリンは、弐号機の中に居るのに?
 
「ワタシに? ママから? …貸しなさいよ!」
 
乱暴に子機を奪い取った惣流アスカラングレィは、その勢いのまま背を向けた。
 
 「ハロー、ムッター? アハッ♪」
 
声の音程が、ずいぶんと高い。
 
 「ヴィア ハーベン ラウスゲニッヒ、ゲーヘン」
 
これほど機嫌よさそうに話す惣流アスカラングレィの姿を、私は初めて見た。
 
 「ダンケシェーン。 ヴィルクリッヒ?」
 
楽しげに、いったい何を話しているのだろうか?
 
 「ゾルイッヒト ベカント マッヘン?」
 
私がかつて弐号機であったことは、ドイツ語を理解することの役に立たない。
 
思考言語は主にはオペレーティングシステムのため、そして間接制御の補助的に必要なだけで、エヴァンゲリオンそのものとの意思疎通に用いられているわけではないから。
 
 「アッハ ニーマルス。エア イスト アイン ザウバーメンシュ」
 
電話の相手は、きっと惣流アスカラングレィにとって大切なヒトなのだろう。でなければ、声を立てて笑ったりはしないと思う。
 
 「ヤー。 ヤー。 ヴィルクリッヒ? アッハ ゾー」
 
その様子を見ているだけで、口元がほころんでしまいそうになる。
 
 「ダス イスト アーヴァ トル、ファンタジイ」
 
「母さんか…」
 
目の前でなければ、碇君の呟きに気づかなかっただろう。
 
気付いても、その表情が示すものを読み取ることができないけれど。
 
碇君が惣流アスカラングレィの背中に見ているものを、私は見ることができない。
 
葛城三佐なら見えているかもしれないと振り返ったけれど、じかに見て判らないものを人伝てに判るはずがなかった。
 
 
 「ハウフイスト イッシ ギッツ カイネ レーニエ」
 
語調が変わったのに気付いて、視線を戻す。
 
 「イッフイツ バルト ツー ビッツ ゲーヘン」
 
それにしても、惣流アスカラングレィの電話の相手は何者だろう?
 
そのぐらいは葛城三佐に訊ねてもよかっただろうと、今さらながらに気付く。
 
 「アウフ ビーターヘレン。グーテ ナハト」
 

 
短い操作音が示すのは、通話が切れた事実だけだろうか? それだけではなかったように、感じたのだけれど。
 
「ずいぶん長電話だったじゃない」
 
「ま、いつものコミュニケーションってヤツ」
 
碇君の方から話しかけるのは珍しいと思う。
 
だからだろう、振り返った惣流アスカラングレィに、碇君に対するココロの壁を感じなかったのは。惣流アスカラングレィのココロの裡を、その感情を、今まで話していた相手に対する想いを、この私でも読み取れてしまったのは。
 
「いいなぁ、家族の会話」
 
なにより、判ってしまったのだ。あの上機嫌そうな惣流アスカラングレィの態度こそ、相手を拒むココロの壁であったことを。
 
ヒトのココロの壁の多様さたるや、なんたることか。
 
単純に何かを拒むか、包み込むことしかできないATフィールドなど、足元にも及ばない。
 
「まぁ上っ面はね。表層的なものよ。本当の母親じゃないし…って、アンタ。こないだママに面会できたんでしょ?」
 
うん。と頷いた碇君は、そのまま俯いてしまった。
 
「でも…、10年も会わなかったのにいきなりお母さんだって言われたって、実感湧かないよ
 それは向こうも一緒みたいで…そりゃそうだよね、自分の子供は3歳だったはずなのに、いきなり中学生じゃさ」
 
そりゃそうか。という呟きは溜息混じりで、まるで惣流アスカラングレィの肩から抜けた力そのもののようだ。
 
「父さんもその場に居たんだけど、あのヒ…」
 
口篭もった碇君がそのまま呑み下した言葉は、しかし容易に想像できて、唐突に足元が消失したかのような落下感を与えてくる。
 
「か…母さんは、父さんとも少し距離を置いていたように思えた」
 
押し出すように口にした単語は、本来備わっているはずの暖かさとか優しさを削ぎ落としたかのように寒々しい。
 
「結局誰もほとんど口をきかなくてさ。…変だよね、血のつながった家族のはずなのに」
 
私は、あのヒトに抱かれて安らかに眠る、赤子の姿を見たことがある。惣流アスカラングレィに連れられてケィジに来た、碇シンジの願いを憶えている。接触実験を無事終わらせた碇ユイを迎えた、幼子の笑顔を忘れない。
 
碇ユイが居るだけですべてが上手く行くなどと、思っていたわけではないけれど……
 
「だから、ゴメン。なんだか羨ましくなっちゃって。無神経だったよね」
 
ココロがきしむ。軋むけれど、泣いてはダメ。
 
泣きたいのは碇君だもの。そして、惣流アスカラングレィだもの。私にそんな権利、ないもの。
 
「謝んじゃナイわよ。アンタの気持ちも解かるような気がするし、お互いさまってコトでいいじゃない」
 
うん、ありがと。と微笑んだ碇君がとても寂しそうで、見ているのがつらかった。
 
 
****
 
 
 ≪ 目標、未だ射程距離外です ≫
 
エントリープラグ内のスクリーンに映るのは、光り輝く鳥のような姿。このヒト知ってる。アラエル。第15使徒。
 
『もぉ、さっさとこっちに来なさいよ!じれったいわねぇ!』
 
傍らの通信ウィンドウに、惣流アスカラングレィの姿。バイザースコープを下ろしていて、その表情は見えない。
 
 
第一種戦闘配置の発令とほぼ同時に、弐号機だけ凍結が解除された。501病室から内線で指示があったという。
 
今は、ただ一機。ポジトロン20Xライフルを携えて第3新東京市に立っている。雨の降りしきる街角に独りきりで、なんだか弐号機が寂しそうに見えた。
 
 
まさか、だから照らしてやろうと思ったわけではないだろうけれど、弐号機に降りそそがれる光。その必要は無いだろうに可視波長で発光して、それがアラエルの思し召しであるかのように思わせる。
 
息を呑む音が、通電していないLCLの中なのに良く聴こえた。
 
≪敵の指向性兵器なの?≫
 
 ≪いえ、熱エネルギー反応無し≫
 
 ≪心理グラフが乱れています、精神汚染が始まります!≫
 
≪使徒が心理攻撃…まさか、使徒に人の心が理解できるの?≫
 
…そう。私のココロには、興味ないのね。
 
『こんっちくしょーっ!』
 
放たれた陽電子の塊が2発。初弾はエネルギーを使い果たして消滅、次弾は大気圏こそ突破したもののアラエルには届かなかったようだ。
 
 ≪ 陽電子、消滅 ≫
 
≪ダメです、射程距離外です!≫
 
『あっ!くっ。ああああぁぁぁぁ!』
 
両手で顔を覆って、惣流アスカラングレィは何から目を逸らそうとしているのだろう?
 
 ≪弐号機、ライフル残弾ゼロ!≫
 
≪光線の分析は?≫
 
 ≪可視波長のエネルギー波です!ATフィールドに近いものですが、詳細は不明です!≫
 
≪アスカは?≫
 
 ≪危険です。精神汚染、Yに突入しました!≫
 
 
惣流アスカラングレィと違って、弐号機は頭を抱えている。間接制御だから、惣流アスカラングレィでもなく、惣流キョウコツェッペリンでもなく、弐号機として苦しんでいるのだ。
 
『イヤぁあああああ!』
 
気付いたときには、ロックボルトを弾き飛ばしてた。直接制御だから、しっかり意識していないと、思考がはっきりと形になる前に行動してしまう。でも、今はそれでいい。惣流アスカラングレィを救けにいきたい、この気持ちが大切だから。
 
『ワタシの、ワタシの中に入ってこないで!』
 
振り向きざまに拘束台を薙ぎ払い、K52スロープを駆け上がる。
 
 ≪ 第7ケィジ、ロックボルト破損! ≫
 
  ≪ 初号機が起動しています!第1射出ハブターミナルに向け、移動中 ≫
 
『レイっ!?』
 
開いた通信ウインドウに、葛城三佐。
 
『待ちなさいっ!』
 
今の私なら判る。命令違反を怒っているのではないのだと。
 
「…ごめんなさい」
 
葛城三佐が心配してくれるのは嬉しい。そして、それ以上にココロ苦しい。けれど、惣流アスカラングレィを、痛いと泣き叫ぶ惣流アスカラングレィを放っておけなかった。
 
『ワタシの心まで覗かないで!お願いだから、これ以上ココロをオカさないで!』
 
『アスカっ!』
 
 ≪心理グラフ限界!≫
 
≪精神回路がズタズタにされている…これ以上の過負荷は危険過ぎるわ≫
 
第1射出ハブターミナルに取り付いて、見上げるのはリニアカタパルトの隔壁。ATフィールドで吹き飛ばすのは簡単だけど、せめて葛城三佐に……
 
『アスカ戻って!』
 
『イヤよ!』
 
通信ウィンドウ同士で、お互いにそっぽを向いて。こちらからのアングルだからそう見えるのだと判っていても、それが2人のココロの距離に思えて、かなしい。
 
『命令よ。アスカ、撤退しなさい!』
 
『イヤ、絶対に嫌!第一、ワタシの他に誰が戦うって言うのよ!』
 
一瞬、こちらに向けられた葛城三佐の視線が、ひどくつらそうに逸らされた。
 
「…惣流さん」
 
『ナニよ!』
 
私を睨みつけたその眼差しに、力があったから。惣流アスカラングレィが、まだ戦う意思を失くしてないから。
 
「…ATフィールドを」
 『やってるわよ!!!』
 
「…中和して」
 
 …
 
呆気に取られた。と、呼ぶのだろう。すべての苦しみを一時忘れて、惣流アスカラングレィが表情を無くした。
 
『中和って…』
 
「…その光はATフィールドだと、日向二尉が言っていたわ。だから、」
 
中和できるってワケね。と空に向き直った惣流アスカラングレィは、まだ中和してないだろうに、もう苦しんでなかった。
 
『フィールド、全開』
 
同じように天を睨む弐号機。その周囲から、ほどけるように光が消失していく。アラエルが降ろした梯子を、駆け登るように。
 
「…葛城三佐」
 
『スナイパーポジトロンライフルを出して!』
 
惣流アスカラングレィと同じように呆気に取られていた葛城三佐が、弾けるように命令する。
 
 
ほどなくして弐号機の傍らにリフトアップされたのは、ラミエルに使ったポジトロンライフル。その改良型らしい。
 
『なによ。こんなモンがあんなら最初から出しなさいよ』
 
文句の声が小さいのは、ATフィールドの中和に専念しているからだろう。スナイパーポジトロンライフルを設える手つきも、とても慎重。
 
『組み上げるのに時間が必要だったの。すまないわね』
 
葛城三佐越しに見える、赤木博士。その謝罪に、惣流アスカラングレィは応えない。きっと耳に入らなかったのだと思う。そのことは赤木博士も判っているのだろう、作業に戻した視線がやわらかく縁取られている。
 
 ≪ 加速器、同調スタート ≫
 
 ≪ 電圧上昇中、加圧域へ ≫
 
『人の心を散々踏み荒らしてくれちゃって……』
 
降りてきたバイザースコープを掴み取って、微調整している。ゆっくりと落ち着いて位置を合わせ、納得したのか頷いた。
 
 ≪ 強制収束器、作動 ≫
 
 ≪ 地球自転および重力誤差修正0.03 ≫
 
『じゅ~っ倍にして返してやりたいトコだけれど、この一撃で勘弁してあげるわ』
 
口元を引き締めるような、穏やかな笑み。惣流アスカラングレィはもう大丈夫だと、何も心配要らないと思わせる。
 
 ≪ 超伝導誘導システム稼動中 ≫
 
 ≪ 薬室内、圧力最大 ≫
 
≪最終安全装置、解除。すべて、発射位置≫
 
ATフィールドの中和がアラエルまで届いたその瞬間、弐号機がトリガーを絞った。
 
 
****
 
 
ドアを開けると、雨上がりの第3新東京市に陽光がまぶしい。
 
弐号機を回収ラインに載せた惣流アスカラングレィは、エントリープラグを降りてしまったのだそうだ。
 
ビルの屋上には、回収班が張っただろう立入禁止のテープ。その向こうに、膝を抱えて座る惣流アスカラングレィの姿があった。
 
「…惣流さん」
 
「来ると、思ってたわ」
 
振り返りもしないけれど、その声はやさしい。
 
「まあこっち来て、ココ座んなさい」
 
黄色いテープを踏み越えて、惣流アスカラングレィが叩いた場所に腰を下ろす。同じように、膝を抱いて。
 
 
「空が青いわねぇ」
 
膝に顎を載せたまま、雨雲ひとつ残さず晴れた空を見上げている。あれほど垂れ籠めていた雨雲は、陽電子の一撃に吹き飛ばされた同胞の命運を恐れたかのように寄り付かない。
 
「見てると、心まで晴れ渡りそうじゃない?」
 
「…そう? よく判らない」
 
木の葉がこすれるような音は、惣流アスカラングレィが笑ったのだと思う。
 
「相変わらずねぇ」
 
頭部を寝かせるようにこちらを見た目線が柔らかかったから、謝罪の必要はないと判断する。
 
顔ごと、再び空に向けられた視線。それが、アラエルの居た方向であったと気付く。
 
惣流アスカラングレィの、まるで空の色を映したような青い虹彩は、世界にどんな彩りを加えるのだろう。同じように見上げるけれど、この赤い瞳孔で同じものが見えているのだろうか。
 
「さっきは、アドバイス……アリガト。おかげで勝てたわ」
 
「…どう、いたしまして」
 
視線を感じたけれど、空を、アラエルが居た空を、見続ける。惣流アスカラングレィを見るよりも、惣流アスカラングレィが見るものを見たほうが、惣流アスカラングレィを理解できるような気がした。たとえそれが、違う色に見えていたとしても。
 
なにもかも、吐き出しつくすような吐息。
 
「使徒の光に照らされていたときに、はっきりと感じたわ」
 
そちらを向く必要はなかった。惣流アスカラングレィがもう、こちらを見ていないと判ったから。
 
「ママとは違う存在が感じてる怒りを、弐号機の憤りを。そう、エヴァには心がある。アンタの言うとおりにね」
 
今は、そのことを後悔している。
 
「そう感じながらフィールドの中和をしたとき、今まで以上の手応えがあった。あきらかにワタシは、弐号機そのものに近づいてた。力を…貸してくれた」
 
惣流アスカラングレィの言葉を求めるあまり、聴覚以外のあらゆる感覚が抜け落ちてしまったから。
 
惣流アスカラングレィがどんな顔をしてそう言っているのか、見られなかったから。
 
「レイ、もう一度約束するわ。二度とエヴァのこと、人ぎ……あんな呼び方しないって。心があるもの、ワタシに応えてくれたもの、ヒト……なのよね」
 
ただ、頷くことしかできない私の耳に、少し深い惣流アスカラングレィの呼吸。
 

 
「ヒトが作ったモノに心が宿るんなら、ヒトから作ったモノにだって心は宿るに違いないわ」
 
ね、レイ。と呼びかけられて反射的に向いた視界の中で、小さな青空が私を見つめていた。口の端は引き結ばれてそれ以上何も言わないけれど、なにか伝わってくるような、そんな気がする。
 
 
にじむ視界の中で、空の青色が嬉しい。と、思えた。
 
 
                                          つづく


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