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No.29636の一覧
[0] シンジのシンジによるシンジのための補完 Next_Calyx【完結済】[dragonfly](2023/05/31 23:36)
[1] シンジのシンジによるシンジのための補完 NC 第壱話[dragonfly](2011/09/07 08:30)
[2] シンジのシンジによるシンジのための補完 NC 第弐話[dragonfly](2011/09/07 08:32)
[3] シンジのシンジによるシンジのための補完 NC 第参話[dragonfly](2011/09/07 08:31)
[4] シンジのシンジによるシンジのための補完 NC 第四話[dragonfly](2011/09/07 08:32)
[5] シンジのシンジによるシンジのための補完 NC 第伍話[dragonfly](2011/09/07 08:32)
[6] シンジのシンジによるシンジのための補完 NC 第六話[dragonfly](2020/06/12 09:17)
[7] シンジのシンジによるシンジのための補完 NC 第七話[dragonfly](2011/09/07 08:33)
[8] シンジのシンジによるシンジのための補完 NC 第八話[dragonfly](2011/09/07 08:33)
[9] [IF]シンジのシンジによるシンジのための 破譚 NC #EX2[dragonfly](2011/09/07 08:33)
[10] シンジのシンジによるシンジのための補完 NC 第九話[dragonfly](2011/09/07 08:34)
[11] シンジのシンジによるシンジのための補完 NC 第拾話[dragonfly](2011/09/07 08:34)
[12] シンジのシンジによるシンジのための補完 NC 第拾壱話[dragonfly](2011/09/07 08:34)
[13] シンジのシンジによるシンジのための補完 NC 第拾弐話[dragonfly](2011/09/07 08:35)
[14] シンジのシンジによるシンジのための補完 NC 第拾参話[dragonfly](2011/09/07 08:35)
[15] シンジのシンジによるシンジのための補完 NC 第拾四話[dragonfly](2011/09/07 08:35)
[16] シンジのシンジによるシンジのための補完 NC 第拾伍話[dragonfly](2011/09/07 08:36)
[17] シンジのシンジによるシンジのための補完 NC 第拾六話[dragonfly](2011/09/07 08:36)
[18] シンジのシンジによるシンジのための補完 NC 第拾七話[dragonfly](2011/09/07 08:36)
[19] シンジのシンジによるシンジのための補完 NC 第拾八話[dragonfly](2011/09/07 08:36)
[20] [IF]シンジのシンジによるシンジのための 破譚 NC #EX3[dragonfly](2011/09/07 08:37)
[21] シンジのシンジによるシンジのための補完 NC 第拾九話[dragonfly](2011/09/07 08:37)
[22] シンジのシンジによるシンジのための補完 NC 第廿話[dragonfly](2011/09/07 08:38)
[23] [IF]シンジのシンジによるシンジのための 破譚 NC #EX4[dragonfly](2011/09/07 08:38)
[24] シンジのシンジによるシンジのための補完 NC 第廿壱話[dragonfly](2011/09/07 08:39)
[25] シンジのシンジによるシンジのための補完 NC 第廿弐話[dragonfly](2011/09/07 08:39)
[26] [IF]シンジのシンジによるシンジのための 破譚 NC #EX5[dragonfly](2011/09/07 08:39)
[27] シンジのシンジによるシンジのための補完 NC 第廿参話[dragonfly](2011/09/07 08:40)
[28] [IF]シンジのシンジによるシンジのための 破譚 NC #EX6[dragonfly](2011/09/07 08:40)
[29] シンジのシンジによるシンジのための補完 NC 第廿四話[dragonfly](2011/09/07 08:40)
[30] シンジのシンジによるシンジのための補完 NC 第廿伍話[dragonfly](2011/09/07 08:40)
[31] シンジのシンジによるシンジのための補完 NC 第廿六話[dragonfly](2011/09/07 08:41)
[32] [IF]シンジのシンジによるシンジのための 破譚 NC #EX7[dragonfly](2011/09/07 08:41)
[33] シンジのシンジによるシンジのための補完 NC 第廿七話[dragonfly](2011/09/07 08:42)
[34] シンジのシンジによるシンジのための補完 NC 第廿八話[dragonfly](2011/09/07 08:42)
[35] シンジのシンジによるシンジのための補完 NC 第廿九話[dragonfly](2011/09/07 08:43)
[36] シンジのシンジによるシンジのための補完 NC 第丗話[dragonfly](2011/09/07 08:43)
[37] シンジのシンジによるシンジのための補完 NC 第丗壱話[dragonfly](2011/09/07 08:43)
[38] シンジのシンジによるシンジのための補完 NC 第丗弐話[dragonfly](2011/09/07 08:44)
[39] シンジのシンジによるシンジのための補完 NC 第丗参話[dragonfly](2011/09/07 08:44)
[40] シンジのシンジによるシンジのための補完 NC 第丗四話[dragonfly](2011/09/07 08:44)
[41] シンジのシンジによるシンジのための補完 NC 第丗伍話[dragonfly](2011/09/07 08:44)
[42] シンジのシンジによるシンジのための補完 NC 第丗六話[dragonfly](2011/09/07 08:45)
[43] シンジのシンジによるシンジのための補完 NC 第丗七話[dragonfly](2011/09/07 08:45)
[44] シンジのシンジによるシンジのための補完 NC 第丗八話[dragonfly](2011/09/07 08:45)
[45] シンジのシンジによるシンジのための補完 NC 第丗九話[dragonfly](2011/09/07 08:45)
[46] シンジのシンジによるシンジのための補完 NC 第世話[dragonfly](2011/09/07 08:46)
[47] シンジのシンジによるシンジのための補完 NC 第世壱話[dragonfly](2011/09/07 08:46)
[48] シンジのシンジによるシンジのための補完 NC 第世弐話[dragonfly](2011/09/07 08:46)
[49] シンジのシンジによるシンジのための補完 NC 第世参話[dragonfly](2011/09/07 08:47)
[50] シンジのシンジによるシンジのための補完 NC 第世四話[dragonfly](2011/09/07 08:47)
[51] シンジのシンジによるシンジのための補完 NC 第世伍話[dragonfly](2011/09/07 08:47)
[52] シンジのシンジによるシンジのための補完 NC 最終話[dragonfly](2011/09/07 08:47)
[53] シンジのシンジによるシンジのための補完 NC カーテンコール[dragonfly](2011/09/07 08:48)
[54] シンジのシンジによるシンジのための保管 NC ライナーノーツ[dragonfly](2011/09/07 08:48)
[55] シンジのシンジによるシンジのための補完NC 外伝 ex9[dragonfly](2011/09/07 08:48)
[56] [IF]シンジのシンジによるシンジのための 破譚 NC #1[dragonfly](2011/09/28 10:09)
[57] [IF]シンジのシンジによるシンジのための破譚 NC 第拾壱話+[dragonfly](2011/09/28 10:10)
[58] シンジのシンジによるシンジのための補完 NC #EX10[dragonfly](2020/10/16 17:13)
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[29636] シンジのシンジによるシンジのための補完 NC 第丗八話
Name: dragonfly◆23bee39b ID:8f9dece3 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/09/07 08:45


S2機関を長時間に渡って全力稼動させた私は、案の定、倒れた。
 
どうやら、3日間も昏睡していたらしい。
 
また、肩甲骨のあたりに重度の火傷を負っていたそうで、10日間の絶対安静を言い渡されてしまった。
 
背中に大判のジェルパッドを貼られ、点滴やらカテーテルやらで半ばベッドに括りつけられている。…それにしても、ムートンのシートやエアーマットなんて、医療部の備品にあったんだ。
 
しばらくは面会謝絶です。と、リツコさんの仰せだったのだが…
 
 
「目、覚めた?」
 
「…アスカちゃん」
 
本部棟内の宿舎を拠点に、気紛れにホテルを泊まり歩いているというアスカは、この3日間、頻繁に様子を見にきていたらしい。チャイルドは、身分・報酬ともに保証されているので、そういった真似も可能なのだ。
 
学校は、…サボっているのだろう。学歴としては大学まで卒業しているアスカに、強要はできない。
 
 
ベッドのリモコンを探し当て、リクライニングを起こす。
 
パイプ椅子を引き寄せて座ったアスカは、何か言おうとして目を合わせた途端に押し黙った。
 

 
 ……
 
逸らした視線をたっぷりとさまよわせ、再び見つめてくる。
 
酸素の足りない鯉みたいに口を開け閉めしたアスカが、顔を伏せた。
 
「…救けに来てくれて、ありがと」
 
ぼそりと、しかし聞き間違えようのない口調で言い切ったアスカは、どんな顔をしているのか見せてくれない。
 
「どういたしまして」
 
小さくかぶりを振ったアスカが、向けた視線を、開けた口を、
 

 
やはり逸らした、やはり閉ざした。
 
 …
 
今にも泣きそうな顔で、何を訴えかけようとしたのだろう。
 
そっと右手を伸ばして、手のひらをアスカに差し出す。
 
ちらり。と視線を寄越し、伝い登るように顔色を窺ったアスカが、おずおずと左手を載せてきた。
 
その上に左手を重ねてやって、頷く。
 
アスカがその裡に秘めた思いを、解かるつもりだ。その芯が純粋だと、知っているから。
 
殻を破れずに啼く雛のように、心の奥底の一番繊細な部分が苦しんでいるのだろう。
 
だけど、無理しなくていい。急がなくて、いいんだ。
 
憑き物が落ちたように肩を落としたアスカが、こくんと頷いた。
 

 
なのに、すぐさま思い詰めた様子で表情を硬くして。
 
「…エヴァってなんなの?」
 
それは、先ほどまでとは違う葛藤だろう。
 
どうやら、アスカを過小評価していたらしい。殻が破れないのなら、別の場所を試す。アスカは、予想以上に毅くなっていた。
 
 …
 
だが、それを聞いたアスカがどうなるか、正直予想がつかない。
 
最悪、全てを失ってあの時のように壊れるだろう。
 
しかし、睨みつけるようなアスカの眼差しは真剣で、とても誤魔化せるような雰囲気ではなかった。
 

 
「…毒を以って、毒を制す」
 
それだけでアスカは察してくれたらしい。いや、予想の範疇だったのかも。
 
「弐号機も、ああなるの?」
 
深淵使徒戦で見せた、暴走まがいの初号機の姿のことだろう。
 
ゆっくりと、かぶりを振る。
 
「先行量産型の弐号機は、より制御しやすい形で開発されているから…」
 
実際、弐号機の暴走というものを自分は見たことがない。
 
そう。と呟いたアスカが、ゆらり。と立ち上がった。
 
夢遊病患者のような足取りで出て行こうとして、振り向く。
 
「教えてくれて、ありがと」
 
あるべき自分を見失ってか、その顔に表情がなかった。渦巻く感情が出口を見失い、取り繕っていたことすら忘れているのだろう。
 
立ち去るその背中に、かける言葉がなかった。
 
 
 
「教えてしまって、よろしいんですか?」
 
入れ替わるように、加持さん。
 
どうやら、感傷に浸る時間ももらえないらしい。
 
「それでエヴァに乗れなくなるというのなら、願ってもありません」
 
加持さんに続いて入室してきたミサトさんの、視線が揺れた。
 
面会謝絶のはずなのに、千客万来だ。 
 
 
 
 
「…シンジが失恋、ですか?」
 
ええ。と頷くのは、ミサトさん。隣りに座る加持さんも、意外なことに神妙そうだ。
 
「どういうことです?」
 
どこから話したもんでしょうかね…。と語尾を濁す加持さんに、ミサトさんの肘鉄。
 
「最初から話しゃ、いいのよ」
 
…そりゃそうなんだが。と加持さんの歯切れが悪い。
 
「まっ、出し惜しみしても仕方ない」
 
太腿をぱんっと叩いた加持さんが、にやけ面に戻る。
 
「陸上軽巡洋艦トライデントを、ご存知ですか?」
 
 

 
 
加持さんの話を要約すると、戦略自衛隊はずいぶんと前から二足歩行の巨大ロボットを開発していたらしい。
 
もちろん重大な軍事機密だったのが、単なる巨大な戦車だと思われていたことと、海外出兵という純粋な軍事利用が目的だったためにネルフの諜報網からは外されていたのだそうだ。
 
戦自内でも白眼視されていたらしく、そのままでは完成しなかったでしょう。と加持さんは言う。
 
「転機は2008年に訪れました」
 
エヴァに対抗しようとした愚かな計画が潰れたのだ。原子炉を積んで使徒に格闘戦を挑もうとした、ジェットアローンの開発計画が。
 
問題は、それに注ぎ込まれるはずだった資金や技術や人材の、流入先だった。
 
「その予算は難民の支援や孤児の育成に回されたと、思っていましたが…」
 
加持さんが、かぶりを振る。
 
「戦自の少年兵部隊はご存知ですね?」
 
頷いた。戦略自衛隊は、自衛とは名ばかりの普通の軍隊だ。なので旧陸軍と同様に、幼少時から幹部候補生を育成するための教育機関を持つ。
 
たしか、戦自奨学育英会だったか。
 
子供に軍事教練を施すことの是非を、親権者の判断ということで有耶無耶にするために奨学生制度を採っているが、幼年学校そのものだった。
 
セカンドインパクト以降、子供を養育しきれない親が増えたため、その受け皿が必要だったということもある。
 
「その存在に、目をつけた人がいたんでしょうね」
 
孤児の救済策として、早々に入隊基準の引き下げを行っていたらしい。もちろん、孤児の育成という美名の下に、戦自に資金を引き込むために。
 
最初は微々たる金額だったのだろうが、この世界は実績が物を言う。JA計画の頓挫によって宙に浮いた予算を、まんまとせしめることができたのだそうだ。
 
付随して、それらに関わった人脈とのパイプが構築されたことで陽の目を見たのが、陸上軽巡洋艦トライデントということらしい。
 

 
JA計画を潰したことが、こんな反動を生むなんて…
 
…自分独りで何でも出来るなどとは思っていないが、自分の出来る範囲で打った手が裏目に出ると、正直つらい。
 
 
「偶然のいたずら。と言うしかありません」
 
何に思いを馳せたのか、めまいでも振り払うような仕種で。意外なことに、加持さんは本気でこの事態を嘆いているように見える。
 
 
擱座したトライデント2番艦から救出された少年兵。
 
ネルフの内偵に送り込まれた少女。
 
その2人が戦自少年兵の同期生でなければ、この第3新東京市が事件の舞台となることはなかっただろうと言う。
 
 
差し出された調書に、目を通す。
 
 
霧島マナというその少女は、任務を放棄して同僚を救うために奔走。シンジは彼女に協力しようとしていたらしい。
 
「シンちゃんの力になってあげたかったのに…、アタシ何も出来なくて」
 
ミサトさんがうなだれた。
 
戦略自衛隊病院からのカーチェイスの挙句、霧島マナという少女はゲンドウさんの手によって国連軍に引き渡されたそうだ。
 
なぜそこでいきなり国連軍が出てくるかというと、第3新東京市周辺がネルフ直轄のために治外法権だからである。
 
その割に演習場から近いという理由だけで市内に病院を設立していたりするのは、日本政府とネルフの仲の良さを喧伝するための政治的パフォーマンスだそうだが。
 
ともかく、ネルフの縄張りに虎の子の秘密兵器が逃げ込んでしまって困った戦自が頼ったのが、国連軍だったわけだ。
 
そもそも戦略自衛隊は、国連軍に編入された自衛隊を再構築するように作られた組織で、交流も少なくなかった上に、JA→トライデントの下りで太いパイプが出来たらしい。
 
治安維持の名目で国連軍が出動するのは、他愛のないことだっただろう。
 
 
少女を手に入れた国連軍は、このあと、どう動くだろうか?
 
調書によると、どうやらトライデント1番艦のパイロットも彼女の同期らしい。
 
…とすれば、まずは潜伏中のトライデント1番艦の居所を聞き出そうとしての尋問だろう。
 
その後で、トライデントをおびき出す餌にされるかも。 
 
 
このまま手をこまねいていて良いはずがない。彼女たちも、私の被害者だ。
 

 
なにか、なにか良い案はないか。
 
手懸りを求めて、手にした調書をめくる。
 
第壱中学への転入時に受けた健康診断の結果はいいとして、どこをどうして手に入れたのか戦自病院のカルテまで取り揃えられていた。これが加持さんが積極的に動いた成果であるならば、日本政府にもさまざまな思惑が渦巻いているということだろう。
 
それにしてもこの娘、ずいぶんと体を壊してるようだ。…ああ、もともとはパイロット候補だったのか。訓練過程で自律神経を損なってリタイア、投薬のみのおざなりな治療が祟って内臓まで悪くしているらしい。リツコさんの所見は短いが、ヤブ。と言わずもがなな悪態で締めくくられているところに憤りが感じられた。
 
戦自は、使い捨てるつもりだったのではないだろうか? 彼女を。
 
 
それに2番艦のパイロットの方は、たかだか擱座したくらいで意識不明とは、あまりにも重篤すぎる。
 
…このトライデントとか言うロボット。操縦者に過酷すぎるのでは?
 
 …
 
「第壱中学の校医とカウンセラーの連名で、国連に提訴させましょう。
 この娘が転校以前に受けた扱いは、子どもの権利条約に抵触する恐れがあるわ」
 
戦自と正面きって事を構えるつもりはないから、搦手で行くしかない。
 
「国連が動きますかね?」
 
この件がJAの流れを汲んでいるのなら、それはゼーレの派閥争いの結果。ということになる。ならば、口実さえ与えてやれば、それを利用しようとするだろう。それに、
 
「汚名を返上したくてうずうずしている司令官が一人、居るでしょ?」
 
苦渋の決断だったに違いないのだ。私情と使命を秤にかけて、断腸の思いでシンジの願いをはねのけたことだろう。この時点で戦自と事を構えるわけにはいかないのだから、当然の判断ではある。今のゲンドウさんならその理由をしっかりシンジに説明しただろうし、今のシンジならそれを呑み込んで見せただろう。だが、ロジックじゃないのが人間だ。
 
ゲンドウさんはほとんど帰宅しないから顔を会わすことはないだろうが、それでわだかまりを感じないというものでもあるまい。
 
多少強引な手段だが、ゲンドウさんは、きっと出来るだけのことをしてくれるだろう。
 
 
****
 
 
トライデントをおびき出す餌として少女が晒し者にされようとした、まさにそのとき。戦自奨学育英会にユニセフの査察が入ったそうだ。
 
あまりに早い対応は、アメリカとドイツの肝煎りなのだとか。国連本部の第2新東京市への移転に最後まで反対したこの2ヶ国は、日本政府に嫌がらせができるこの機会を最大限に活用するつもりらしい。
 
子どもの権利条約を締約していないアメリカが、急先鋒の一角だというのが実に不条理だが。
 
 
それに、国連の権限の強いこのご時世にあって、ユニセフもまた強権化している。セカンドインパクトから復興しきってない国々ならともかく、日本のような先進国での児童虐待を見過ごすつもりはないのだろう。
 
また、この件で国連軍内の旧自衛隊派と、戦略自衛隊との癒着が取り沙汰された。今回の在日国連軍の行動は明らかに独断専行であるし、何らかの是正が行われるものと期待している。
 
 
 
「あなたが、霧島マナちゃんね」
 
「はっはい、はじめましてっ」
 
思わず敬礼しそうになったのだろう。慌てた娘が、全身を使ってお辞儀した。
 
実に快活そうで、見ているこちらまで元気がでてきそうだ。ただ、体を壊してることは間違いないようで、皮膚にうっすらと黄疸が認められる。そうと知らなければ見逃して…いや、手足に較べて顔の黄疸が薄く見えるのは、ファンデーションで隠しているからだ。ただでさえ肌荒れが酷いだろうに、追い討ちをかけるように化粧?…諜報活動への従事にあたってそう指導されたのだとすれば、戦自は本気でこの娘を使い捨てにするつもりだったのだろう。
 
 
戦自奨学育英会は、一時的にユニセフの監督下に置かれるらしい。おなじ国連麾下の組織のよしみで、この娘の身柄はネルフが預かることになった。ゲンドウさんの働きかけだろう。
 
「そして、ムサシ・リー・ストラスバーグ君」
 
色黒の少年兵はちらりとこちらに視線をやると、またすぐに逸らしてしまった。仏頂面を隠そうともしていない。おそらく、ネルフをまだ信用してないのだろう。
 
その態度が気にくわなかったらしいマナちゃんに肘鉄を喰らって、ムサシ君が不承不承に頭を下げる。
 
彼女の証言から芦ノ湖の湖底で見つかったトライデント1番艦は、そのまま戦自に引き渡された。そのパイロットであるムサシ君は第3新東京市に潜伏していたところを加持さんによって発見され、こちらは秘密裏にネルフで保護することになったのだ。
 
 
「ネルフ、使徒対策室長の碇ユイです。
 療養中なので、こんな格好でごめんなさいね」
 
「いえ、戦傷とお聞きしてます。お気になさらないで下さい」
 
マナちゃんの応答に、ムサシ君が一瞥をくれる。
 
 
パイロットを確保できたのだから、ついでにトライデントを接収しようとする意見もあったようだ。幸い、ゲンドウさんが保留にしてくれていたから、あとで改めて却下すればいいだろう。
 
純粋に軍事目的で作られたトライデントは、ジェットアローンと違ってエヴァと競合しない。ここで余計な色気を出しては、ヤブヘビになりかねなかった。
 
もしネルフがトライデントを召し上げれば、その実用性に国連がお墨付きを与えたことになる。JAの時と違って、トライデントはまだその有用性が否定されてないのだ。
 
それだけならまだしも、量産が効きパイロットも選ばないトライデントに脅威を覚えたと勘繰られては、何かとまずい。通常兵器で代替が効くと侮られては、エヴァ、ひいてはネルフがないがしろにされてしまう。それで使徒戦に支障でも生じたら、本末転倒も甚だしい。
 
熱核型原子炉を推進器化してしまった熱核タービンエンジンは、水中での稼動も可能というから興味はある。だが、トライデントが使徒戦で役に立たないことに変わりはないのだ。
 
 
「あなたたちの身柄は、ネルフが預かることになりました」
 
預かることになったのはいいが、彼女らを監督できる部署がない。諜報部が名乗りを上げていたが、このうえ捕虜扱いさせるわけには行かなかった。私がでしゃばったことで、軋轢が生まれなければいいのだが。
 
「しばらくは不自由な思いをさせると思うけれど、理解していただけると嬉しいわ」
 
いえ、とんでもありません。と、かぶりを振ったマナちゃんが、しかし心配げにまなじりを下げた。
 
「私たち、これからどうなるんでしょう? やっぱり戦自に連れ戻されるんでしょうか?」
 
「それは、これからの成り行きによります。
 2番艦のパイロット、浅利ケイタ君はユニセフに保護されて加療中ですから、彼の快復を待って少年兵部隊そのものの是非が問われるでしょう」
 
どうやら、友人の安否を聞いていなかったようだ。喜色を隠そうともしないマナちゃんの隣りで、ムサシ君まで雰囲気をやわらげている。
 
聞いた話では、第2東京大学付属病院での主治医はリツコさんの先輩だそうで、有能かつ信頼できる人物らしい。
 
「それによって少年兵部隊が良くなるなら復隊もよし、ここに残って普通の中学生として暮らすもよし。…ああ、マナちゃんはご両親のもとに帰るという選択肢もあるわね。
 いずれにしても、なるべく希望に添えるよう努力します」
 
よろしくお願いします。と頭を下げたマナちゃんが、ムサシ君の頭を掴んでむりやり下げさせていた。
 
「マナちゃんは、このままここに入院してもらうことになるわ」
 
 
残り1週間近くあった療養生活は、マナちゃんのお陰で退屈とは無縁だった。
 
 
****
 
 
そうして退院の時を迎えたその日、アメリカ第二支部が消滅したと報告があった。
 
ゼーレにS2機関のサンプルが渡らないよう努力してきたが、無駄だったようだ。
 
 
                                         つづく
2007.08.10 PUBLISHED
2007.08.20 REVISED


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